卓上ゲーム板作品スレ 保管庫

第04話

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<no tear, give smile>


 夜が明けて、数日がたった。
 リィンは、年が近いこともあってなのか姉がいなくなった日からずっと柊に付きまとっていた。
 それはまるで本当の兄弟のようで、シュトラウスの部隊員達を大いに和ませた。
 リィンが無邪気にひよこのように柊の後ろをついていくのも、それをたまに困ったような笑みを浮かべながら見ている柊も。
 夜に寝付けないのをため息交じりに一緒にいてやったり、悪夢を見て泣いていれば黙って頭を撫でてやっているのも。
 あれだけの戦いを見せた柊が年下のリィンに引きずられたりしているのを、年上の隊員達に揶揄られてやや彼が不機嫌な様子になるのも含め、である。
 けれど、別れの時は来る。リィンは魔法災害を生き延びたが身寄りはない。孤児として孤児院に預けられることになる。
 その日は、すぐにやってきた。シュトラウスの手配した迎えの人間が来たのだ。

「……リィン」

 柊は、困ったように自分の服のすそを掴んで離さない年下の少年を見た。リィンはいやいやと言うように必死に首を横に振る。
 彼もわかっているのだろう、この別れは、もう二度と取り返すことのできない別れであることを。
 困ったような表情は変えず、柊はぽん、とその頭に手を置く。

「リィン、これ。お前の姉ぇちゃんからの預かりもんだ」

 そう言って、彼は鎖だけ新しくなったオモチャのペンダントを渡す。
 柊が放ち、また巻き込まれた爆発の中、彼は見覚えのあるものを見つけた。
 それは、『リアラ』が持っていたペンダントだ。手の届くところにあったそれを掴み―――そして、そこで柊は意識を手放した。
 次に起きたのは、医療キャンプのベッドの上だ。手が届くから、手を伸ばしただけの話。
 リアラの墓に備えてやろうかとも思ったが、彼女のいる場所は彼女自身に聞いた。だから、持ち主のいるところに返すべきだと思った。

「あいつは、ずっとお前と一緒にいるってさ。だから、忘れてやるなよ」

 俺はお前の姉ぇちゃんにはなれねぇからさ、と言いながら、困ったように笑って。新しくなった鎖をリィンの首にかけてやる。
 うつむいてぼろぼろと泣きながら、リィンは何度も何度も頷いた。
 だから心配はしない。そして、彼らの道は再び分かれた。



<Re:air>


「あーあ、行っちゃった」

 ミリカは、キャンプに降り立ち、柊を回収していったヘリを見てそう呟いた。ラルフが揶揄するように問う。

「なんだ、お前年下趣味だったのか?」
「そんなわけないでしょうっ!?」

 拳を振り上げながらツッコミをいれるミリカに、両手を挙げて冗談だ、と答えるラルフ。
 もう、とため息をついた彼女を見ながら、部隊長は空を見上げて呟く。

「まぁ、確かにあの才能はかなり得がたいしな。シュトラウスの娘として惜しくなるのもわかるさ」
「確かにその通りですけど。
 けど、れんじ君は私達のところにいちゃいけない気がするんです」
「あいつがダメになるってのか? それはねぇだろ。あの手のガキはしぶといぜ」
「えぇ。もちろんそういうことじゃなくてですね」

 彼女は、自分の予測を笑いとばすように言った。

「あの子、世界を救うような気がするんです。だから、ここにいるとそれができなくなっちゃうでしょ?」
「世界、だぁ? またそりゃでかく出たな。
 そもそも世界なんつーもんは人間一人に背負えるようなモンじゃねぇだろ」

 傭兵として至極正しい発言をするラルフに、苦笑いでミリカも返す。

「だから、単なる予感ですってば。ラルフさんもしつこいですよっ!
 それに、会おうと思えばまた会えますしね」

 この仕事をしてる限り、と彼女は呟く。彼女の長いポニーテールが、青い空に吸い込まれるように風に巻き上げられた。



<Home>


「おはよっ、ひーらぎっ!」
「……お、おう」

 幼馴染の視線が怖い。
 学校に登校復帰したその日のことだ。笑顔ではある。あるのだが―――

「それで、この連休中はどこに行ってたの?」

 来ると思った。
 しかも、なんだかちょっとこっちをうかがうような表情だ。
 もともと言葉に表すのが苦手な彼としては非常に困る。しかも、彼女が気づくその時までは隠しておきたいそのことを聞かれるのは非常に困る。
 えーと、としばらく悩んでから、答える。

「……プチ家出、とか?」
「そんなことであたしと遊ぶ約束すっぽかしたんだ、へー」

 視線が痛い。
 いや確かにすっぽかしたけども。
 仕事がいきなり入ったんだから仕方ないっつーか。
 仕事の電話を姉貴がとりかけてエラいことになりかけたっつーか。
 むしろ帰った弟にいきなり飛びつき腕ひしぎとかどうなんだ姉貴とか。
 いい加減上司に姉貴と連絡とったりくれはに連絡取ったり翻訳機ついてたりする0-Phoneよこせって言っとくかなぁとか。
 色々と言いたいことはあるが、彼女に言えることではなかったため、心にとどめておく。最後のは願望だし。
 様々な葛藤を飲み込んだ後、彼にできることはたった一つしかなかった。
 すなわち、平謝り。

「……悪ぃ」
「―――よし、許す。ただし、今日はちゃんとウチに来なさいよ」

 りょーかい、と力なく答えるしか出来ない柊。
 まぁ、もともとくれはの家には呼び出されるとは思っていたし、そこはいい。
 どうせだし、くれはのご機嫌を一日とることに集中しよう。ヒマがあったら青葉にグチでも聞いてもらいつつ。

 ため息。
 けれど、それはなんだか心地いいため息のような気がした。
 またなんとか。日常に戻ってこれた、という実感の欠片のようなものが彼の心に落ちてくる。
 少なくとも、あの時闇に屈していれば得られなかったまぶしさ。
 それは、ひどく暖かくて。悪くない、と思えた。

 だから彼は戦える。またここに戻ってくるために。この場所を守るために。
 そして―――また風は、世界を巡る。





fin.


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