思った以上に好評で、ありがたい限り。なのでちょっと調子に乗って、
>>771の要望に応えてみた。
老人は、死に瀕していた。
自身も優秀な医師であるため、余命はもはや尽きていることは自分でよくわかっていた。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
心残りはある。後悔もあるし、償いきれない罪もある。
しかしそれでも老人の心には、「やれるだけやった」と言う充足と、彼が遣り残したことを受け継いでくれるモノのいる安心感があった。
そんな彼の元には、ひっきりなしに人々が訪れる。
今まで、老人が行なってきた贖罪を、恩として感じた人々だ。
正直もはや、しゃべるのもつらい。
それでも老人は、訪れた人々一人一人に精一杯に笑いかけ、まだ治療の十分でないものには信頼できる後進の者を紹介し、彼の年若い同僚達には丁寧なアドバイスを送った。
そんな人の波が途絶えた時、ふっと体が軽くなるのを感じた。
その時がきたのだな、とごく冷静に思った。
静かに目を閉じる。
走馬灯が回る。
まぶたに浮かぶのは、悠然と立つ雄々しい巨漢の背中。
そして、彼は肩越しにこちらを振り返り、笑いかける。
晴れやかに。
爽やかに。
太陽のように輝かしく。
その男の名は……
クレオパトラ・ダンディ。
「待て。なぜ貴様が出てくる」
「あらん、ご挨拶ねぇん。かつてのお仲間が天に召されようとしてるから、迎えに来たって言うのに」
「無用だ。というか空気読め空気を。ここは快男児が出てくる場面だろうが」
「あら、快男児もダンディも似たようなものじゃない」
「本編で使用済みの二度ネタを使うでない。貴様、ちょっと人気の名物キャラだからといって調子に乗っておらんか?」
「そんなことないわよ。あえて言うなら……そうね、『ダンディは永遠にフ・メ・ツ☆』ってとこかしら」
「意味がわからん。帰れ」
「もおん、つれないシ・ト。ま、そういうのもいいんだけど」
「ウィンクするな。身を寄せるな。つつくな。顎をなでるな」
「もお、初心な人。研究一筋でこういうことに不慣れなのね?」
「男色に慣れてたまるか?! 貴様もっと論理的な会話は出来んのか?!」
「仕方ないわねぇ。じゃあ、論理的に言うわよ?」
「言ってみろ」
「そう、言うなれば……『美しさは罪』?」
「ピラミッドに埋葬されてしまえ。
――第一だ、このワシが天国になど行けるわけなかろう」
「あらん、そうなの?」
「無論だ。ワシの罪は、ワシ1人では償いきれんものだ。ましてやその尻拭いを、後進の者達に押し付けてきた体たらくだ。どうあがいても地獄行きは免れまいて」
「そうでもないと思うけど?」
「……随分とあっさり言うでないか」
「だって、ずっと見てたもの。ナチ時代のことは置いておくとして、そのあとはずっと頑張ってたじゃない。とってもダンディだったわよ?」
「……単なる贖罪だ。自らの罪滅ぼしのために、丁度いいものがあったから利用したに過ぎん」
「それだけだったら、あんなにお見舞いは来ないわよ?」
「…………」
「判ってくれた? じゃあ、行きましょう、心休まる天の国へ―――」
「断る。大体、貴様の導きで向かう天など、通常の意味での天ではない、もっと別の何かとしか思えん」
「この世界の創造主のお膝元よ? ホラ、間違いないじゃない?」
「ますます不安になるではないか」
「いいじゃない、とってもダンディで素敵な場所よ?」
「それが激しくダウトだと言っている」
「もう、ああ言えばこう言う……そんな分からず屋さんには、実力行使よ!
そーれー、超美麗ダ・ン・デ・ィ、スペぇぇぇぇース!」
「く、《ワーディング》か?! だがこれしきで我が知性は屈したりなどぉぉぉぉぉぉ――っ!」
――容態の急変の知らせを受けた主治医が見舞い客を掻き分けるようにしてベッドに駆けつけたとき、もはや手の施し様ななかった。
だがそれでも彼は、尊敬するこの献身的な偉大なる名医師の命を一分一秒でも繋ぐべく、全力を尽くした。
「ドクトル! しっかりしてください、ドクトル!
僕はまだ、ドクトルに教えていただきたいことがたくさんあるんです!
ドクトルには、まだ感謝の言葉だって言い足りない!
だから、だから!」
「………………ぁ………………」
「え? なんですかドクトル!?」
「………………ぁ…………ディ……」
「聞こえません! ドクトル! 何を言おうとしているのですか?! ドクトル? ドクトル!」
「………………先生、患者はもう……」
「………………………そうか……」
主治医は、ずっと握っていたドクトルの手を、胸の前で組ませた。
そしてしばし瞑目。
「おやすみなさい、ドクトル………いままで、本当にお疲れ様でした」
そして主治医は、天を仰ぐ。その目じりには、光るものがあった。
「……僕は無力だ、身を託してくれた大恩人に対し、何も出来なかった……」
「そんなことありませんわ、きっとドクトルも、先生には感謝しています」
「……そうだといいんだけどね」
「きっとそうですよ。先生、見てください、患者のこの穏やかなお顔を………」
「………ああ、そうだね。まるで待ち焦がれた人に再会できたかのような、満ち足りた顔だね………」
「はい………」
以上。これにて本当に打ち止め。
私の好きな物語上のキーワードが三つあって。
一つ目は「誠実な行動が、正しく報われる」、
二つ目は「誰かと判り合い、絆が生まれる」。
で、最後の一つが「全部台無し」だったりするのです。
うん、まぁ、あれだ。
クレオパトラ・ダンディはリプレイ史上に残る名キャラだねってお話。
>>771の要望に応えてみた。
老人は、死に瀕していた。
自身も優秀な医師であるため、余命はもはや尽きていることは自分でよくわかっていた。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
心残りはある。後悔もあるし、償いきれない罪もある。
しかしそれでも老人の心には、「やれるだけやった」と言う充足と、彼が遣り残したことを受け継いでくれるモノのいる安心感があった。
そんな彼の元には、ひっきりなしに人々が訪れる。
今まで、老人が行なってきた贖罪を、恩として感じた人々だ。
正直もはや、しゃべるのもつらい。
それでも老人は、訪れた人々一人一人に精一杯に笑いかけ、まだ治療の十分でないものには信頼できる後進の者を紹介し、彼の年若い同僚達には丁寧なアドバイスを送った。
そんな人の波が途絶えた時、ふっと体が軽くなるのを感じた。
その時がきたのだな、とごく冷静に思った。
静かに目を閉じる。
走馬灯が回る。
まぶたに浮かぶのは、悠然と立つ雄々しい巨漢の背中。
そして、彼は肩越しにこちらを振り返り、笑いかける。
晴れやかに。
爽やかに。
太陽のように輝かしく。
その男の名は……
クレオパトラ・ダンディ。
「待て。なぜ貴様が出てくる」
「あらん、ご挨拶ねぇん。かつてのお仲間が天に召されようとしてるから、迎えに来たって言うのに」
「無用だ。というか空気読め空気を。ここは快男児が出てくる場面だろうが」
「あら、快男児もダンディも似たようなものじゃない」
「本編で使用済みの二度ネタを使うでない。貴様、ちょっと人気の名物キャラだからといって調子に乗っておらんか?」
「そんなことないわよ。あえて言うなら……そうね、『ダンディは永遠にフ・メ・ツ☆』ってとこかしら」
「意味がわからん。帰れ」
「もおん、つれないシ・ト。ま、そういうのもいいんだけど」
「ウィンクするな。身を寄せるな。つつくな。顎をなでるな」
「もお、初心な人。研究一筋でこういうことに不慣れなのね?」
「男色に慣れてたまるか?! 貴様もっと論理的な会話は出来んのか?!」
「仕方ないわねぇ。じゃあ、論理的に言うわよ?」
「言ってみろ」
「そう、言うなれば……『美しさは罪』?」
「ピラミッドに埋葬されてしまえ。
――第一だ、このワシが天国になど行けるわけなかろう」
「あらん、そうなの?」
「無論だ。ワシの罪は、ワシ1人では償いきれんものだ。ましてやその尻拭いを、後進の者達に押し付けてきた体たらくだ。どうあがいても地獄行きは免れまいて」
「そうでもないと思うけど?」
「……随分とあっさり言うでないか」
「だって、ずっと見てたもの。ナチ時代のことは置いておくとして、そのあとはずっと頑張ってたじゃない。とってもダンディだったわよ?」
「……単なる贖罪だ。自らの罪滅ぼしのために、丁度いいものがあったから利用したに過ぎん」
「それだけだったら、あんなにお見舞いは来ないわよ?」
「…………」
「判ってくれた? じゃあ、行きましょう、心休まる天の国へ―――」
「断る。大体、貴様の導きで向かう天など、通常の意味での天ではない、もっと別の何かとしか思えん」
「この世界の創造主のお膝元よ? ホラ、間違いないじゃない?」
「ますます不安になるではないか」
「いいじゃない、とってもダンディで素敵な場所よ?」
「それが激しくダウトだと言っている」
「もう、ああ言えばこう言う……そんな分からず屋さんには、実力行使よ!
そーれー、超美麗ダ・ン・デ・ィ、スペぇぇぇぇース!」
「く、《ワーディング》か?! だがこれしきで我が知性は屈したりなどぉぉぉぉぉぉ――っ!」
――容態の急変の知らせを受けた主治医が見舞い客を掻き分けるようにしてベッドに駆けつけたとき、もはや手の施し様ななかった。
だがそれでも彼は、尊敬するこの献身的な偉大なる名医師の命を一分一秒でも繋ぐべく、全力を尽くした。
「ドクトル! しっかりしてください、ドクトル!
僕はまだ、ドクトルに教えていただきたいことがたくさんあるんです!
ドクトルには、まだ感謝の言葉だって言い足りない!
だから、だから!」
「………………ぁ………………」
「え? なんですかドクトル!?」
「………………ぁ…………ディ……」
「聞こえません! ドクトル! 何を言おうとしているのですか?! ドクトル? ドクトル!」
「………………先生、患者はもう……」
「………………………そうか……」
主治医は、ずっと握っていたドクトルの手を、胸の前で組ませた。
そしてしばし瞑目。
「おやすみなさい、ドクトル………いままで、本当にお疲れ様でした」
そして主治医は、天を仰ぐ。その目じりには、光るものがあった。
「……僕は無力だ、身を託してくれた大恩人に対し、何も出来なかった……」
「そんなことありませんわ、きっとドクトルも、先生には感謝しています」
「……そうだといいんだけどね」
「きっとそうですよ。先生、見てください、患者のこの穏やかなお顔を………」
「………ああ、そうだね。まるで待ち焦がれた人に再会できたかのような、満ち足りた顔だね………」
「はい………」
以上。これにて本当に打ち止め。
私の好きな物語上のキーワードが三つあって。
一つ目は「誠実な行動が、正しく報われる」、
二つ目は「誰かと判り合い、絆が生まれる」。
で、最後の一つが「全部台無し」だったりするのです。
うん、まぁ、あれだ。
クレオパトラ・ダンディはリプレイ史上に残る名キャラだねってお話。