あかいおもいで<lunatic-dream>
月光を、鋼の塊がはねかえす。
光をはねかえす鋼の塊―――人の手によって鍛えられ、戦うための道具として研ぎ上げられた剣は、今まさに担い手の敵を突き貫いていた。
貫かれた相手は、目を最大まで見開きこの結果を理解できないような表情で、自身を貫く刃と担い手を見ている。
ここに勝敗は完全に決していた。
けれどその光景を端から見ることができるものがいたのなら、どちらが勝っているのか迷ったかもしれない。
貫かれた敗者は、担い手の握る剣以外の傷を負っていない。
逆に、剣を握る勝者はあちこちに傷を負っていた。
それだけではない。豪奢な白いローブを羽織る敗者は人間の大人の姿をしているのに、その相手は二桁になるかならないかほどの年頃に見える。
そしてそれ以上に、身の丈に合わぬ長い剣を握る少年の表情は、酷く憔悴しきったものだった。
敗者は問う。
「なぜだ。なぜ―――貴様のような子供一人の手で、私の計画が潰えるのだ」
その言葉は、信じられないという感情のままに。
少年はその年頃に似合わぬ戦意と、ほんの少しの苦味を抱えた表情で答える。
「……これは俺一人の力じゃない。
この剣には、みんなの思いが乗せられてる。だったら俺が外すわけにはいかねぇだろ。
お前は俺に、子供に負けるんじゃない―――俺たち全員に、負けるんだ」
それが相手に聞こえたかどうか。
少年の言葉が終わるのと時を同じくして、白い光の粒となって敵は虚空に溶け消えていく。
その色はこの世界にあってとても目立つ光だった。
その世界は単色に染め上げられていたからだ。
空も、大地も、月光すらもそして―――少年から少し離れたところに倒れている3つの躯も。
すべてが、紅に染め上げられていた。
一人その赤い空間に取り残された少年は、白い光の粒子が消えてなくなるまでじっとそれを睨みつけていた。
光の粒子はちらちらときらめき、ゆらめいて舞いながらやがてすべてが虚空に消えた。
同時。
世界がもとの色を取り戻す。
大地は大地の色に。空は夜の闇に。月は欠け、白く優しい光を世界中にふりかける。
戦いは終わり、異常はなかったことのように消えうせる。それがこの世界の理だ。
けれど、全てが『もとに戻る』わけではない。
世界はそれほど優しくはない。あった出来事を、ただ法則の許すかたちに整えるだけ。
終わったものが、失われたものが元に戻ることはない。それはやはり理に反することだからだ。
それを理解していながら、ぐ、と歯をかみ締めて。
―――夜色の闇に、少年のあらん限りの叫び声が響いた。
月光を、鋼の塊がはねかえす。
光をはねかえす鋼の塊―――人の手によって鍛えられ、戦うための道具として研ぎ上げられた剣は、今まさに担い手の敵を突き貫いていた。
貫かれた相手は、目を最大まで見開きこの結果を理解できないような表情で、自身を貫く刃と担い手を見ている。
ここに勝敗は完全に決していた。
けれどその光景を端から見ることができるものがいたのなら、どちらが勝っているのか迷ったかもしれない。
貫かれた敗者は、担い手の握る剣以外の傷を負っていない。
逆に、剣を握る勝者はあちこちに傷を負っていた。
それだけではない。豪奢な白いローブを羽織る敗者は人間の大人の姿をしているのに、その相手は二桁になるかならないかほどの年頃に見える。
そしてそれ以上に、身の丈に合わぬ長い剣を握る少年の表情は、酷く憔悴しきったものだった。
敗者は問う。
「なぜだ。なぜ―――貴様のような子供一人の手で、私の計画が潰えるのだ」
その言葉は、信じられないという感情のままに。
少年はその年頃に似合わぬ戦意と、ほんの少しの苦味を抱えた表情で答える。
「……これは俺一人の力じゃない。
この剣には、みんなの思いが乗せられてる。だったら俺が外すわけにはいかねぇだろ。
お前は俺に、子供に負けるんじゃない―――俺たち全員に、負けるんだ」
それが相手に聞こえたかどうか。
少年の言葉が終わるのと時を同じくして、白い光の粒となって敵は虚空に溶け消えていく。
その色はこの世界にあってとても目立つ光だった。
その世界は単色に染め上げられていたからだ。
空も、大地も、月光すらもそして―――少年から少し離れたところに倒れている3つの躯も。
すべてが、紅に染め上げられていた。
一人その赤い空間に取り残された少年は、白い光の粒子が消えてなくなるまでじっとそれを睨みつけていた。
光の粒子はちらちらときらめき、ゆらめいて舞いながらやがてすべてが虚空に消えた。
同時。
世界がもとの色を取り戻す。
大地は大地の色に。空は夜の闇に。月は欠け、白く優しい光を世界中にふりかける。
戦いは終わり、異常はなかったことのように消えうせる。それがこの世界の理だ。
けれど、全てが『もとに戻る』わけではない。
世界はそれほど優しくはない。あった出来事を、ただ法則の許すかたちに整えるだけ。
終わったものが、失われたものが元に戻ることはない。それはやはり理に反することだからだ。
それを理解していながら、ぐ、と歯をかみ締めて。
―――夜色の闇に、少年のあらん限りの叫び声が響いた。