卓上ゲーム板作品スレ 保管庫

第03話

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匿名ユーザー

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予兆


☆月Δ日 午後6時
 今日は色々なことが起きる日だ。
 いつものように守護者の嫌がらせの混じった依頼によって、元星の巫女と共に主の学校にある月匣に突入。
 そこで一人の少女と出会った。

 ……いや、出会った時に主がまた無謀なことをしようとしていたのは叱るべきなのだろうが、正直あの状況では不覚をとるのも仕方がないとはいえるだろう。
 そこは許そう。わたしを一人にしないためにも、できるだけそんなことは控えてほしいが。
 ともあれ。その少女とは世界の行く末をどうこうできる能力を持っているらしい。きな臭い話になってきた。
 まぁ……今代の主になってから、日常茶飯事と言ってもいいような気がしなくもない。
 とはいえ、今回も気を抜いていられるような状況ではなさそうだ。くまの小娘の件もあることだ、せいぜい気をつけるとしよう。

☆月●日 午後7時
 久方ぶりに学校で生活できる主の姿を見るのは、わたしとしても少し嬉しい。
 ……剣であるわたしがそんなことを心配するのは正直どうなのかとも思うが、これも世が平和だということだろう。

 大切な人を残したまま最期をむかえることも、娘を目の前で殺されることも、兄弟で殺し合うこともない―――平和。それは尊いものだと、わたしは知っている。
 主はそれを守るものであると同時に、やはりその内側に身を置くべきものでもある。
 ウィザードであろうと、やはり主は人間だ。学生ならば学生らしいことの一つもすべきだろう。
 今は、冬だというのに、外に出て宝玉の娘と元星の巫女と共に星を眺めている。部活動、というらしい。

 星は変わらない。いつの時代であろうと、夜になればぽつぽつと光を投げかける。
 わたし達魔剣は、主に出会うまでは暗闇の中に閉ざされる。新たな主の覚醒が近づくと、その暗闇に一点の光明が射し、覚醒に向かう。
 一面の闇にそそぐその一筋の光は、まさにこの星明りのようだ。天の光は全て星である現実世界とは比べ物にならないほど、その光は希望であり夢の終わりでもある。
 今の主は、わたしの希望なのだ。これまでの因縁を全て解決してくれたこの主は、今までの誰よりも光り輝く星だと思っている。
 わたしは今、この星ともっと共にありたいと思っている。



午前1時


☆月▲日 午前1時
 うそだろう……?
 なぜだ、なぜここで終わらなければならない。
 わたしがいて、主がいて。なぜそれで主が死なねばならない?

 そんなのはイヤだ。ちがう、なんで、イヤだ、死ぬな、やめて、死なないでっ、消えないでくれお願いだからっ!
 わたしをっ、ひとりに―――

『……お兄ちゃんは死なないよ。あの子が、お兄ちゃんを助けるから』

 光。
 主を失ったことで暗く閉ざされていこうとしたわたしの世界に、一筋の光が射した。
 主と出会ったあの日のように、星の光のような輝きが世界を照らす。
 郷愁と歓喜で、意味もなく泣き出してしまいそうだった。
 理由なんて今はどうでもいい―――主が、戻ってくる。それだけで、わたしは十分すぎるほど報われる。

『本当の戦いはこれから起こるの』

 そんな不吉な予言を聞きながら、それでも主が戻ってくることをわたしは喜べる。
 今度は失わない。何があろうと主を失ったりはしない。敵がなんであろうと、わたしは主を守ってみせよう。絶対に。



未明


 蝿の女王に意趣返しをして数時間が立った。
 その間色々あったが―――またも厄介事に巻き込まれた主が、またも世界を敵に回すという状況になっていた。
 ……いや、もうある意味慣れたけども。
 ともあれ。今回は傍らにいる宝玉の娘を敵だらけのあの趣味の悪い宮殿から逃がすための逃避行だ。
 宝玉の娘はこんな状況になったことを申し訳ないと思っているようだが、主はやはり主だというべきか。
 共に戦った仲間を、学校に一緒にいった友を、死なせたくないというだけの理由で突発的な行動をとった。
 その根底は失いたくない、守りたいという主自身の強い願いだ。悪い言い方をするのなら個人的な欲望だと言ってもいい。主自身それを否定はしないだろう。
 つまり主自身はしたいからしていることであり、さらに守る相手にやめろと言われたくらいで引き下がりはしない程度に頑固者だ。
 大人しく守られていろとでもいうべきなのだろうか。主は、守ることをけして諦めたりはしないのだから。
 なにしろ、守りたいものを守るためにこれまで第三の選択を作り続けてきた大バカ者だ。もうその手の説得は諦めた方がいい。時間の無駄だ。

 そして―――わたしからも言わせてほしい、宝玉の娘よ。
 貴女のおかげで、主は再びの生を得ることができた。わたしは一人にならずにすんだのだ。
 主が貴女を守ると決めている以上、主は貴女の騎士となる。本人はガラじゃないだのなんだの言うかもしれないが、それは厳然たる事実だ。
 そしてわたしは主の剣だ。騎士の剣の意義は主を守り、主君を守ること。
 ゆえにわたしは一振りの剣として、貴女を守ろう。騎士によって主君を守るために振るわれる剣であろう。それが―――わたしなりの、貴女への恩返しだ。

 とはいえ。今回ばかりは正直大変そうだ。なにしろこれまでは主以外にも逃避行の仲間がいたわけであるが、今回は主一人。しかもほぼ力持たぬ守るべきものがいる。
 そもそもわたし達は多数を相手取ることは不得手なわけで……正直。早いところ、光明とやらが現れてくれると嬉しいのだが。



午前3時半


 主は今神の欠片とやらと話し中。主と魂のつながりを持つわたしにもその会話は流れて伝わってくる。
 宝玉の娘との逃避行は続く。今は元星の巫女の実家で主自身は眠っている……あれだけの戦いをしてのけた後であれば、当然といえるだろう。本当に、主は強くなった。
 しかしまさか魔王まで一緒になって襲ってくるとは思わなかった。認識を改めよう、これは本当に大事件だ。

 それで。神の欠片が言うには、主は世界の選択とやらをすることになったらしい。そのために宝玉の娘に力を使わせないこと、また世界を滅ぼそうとする者がいるとのこと。
 ……相変わらず、運命とやらを決める神は勝手なことをしているらしい。わたしの力はその運命を斬る、というものなのはご愛嬌だ。
 本人の知らないところでそんな得体のしれないことに主を巻き込むなと一度怒鳴ってやりたい。割と本気だ。
 ともあれ、さらに難しい条件が加わってしまった。これは本当に早く解決案を出すか協力者を見つけないとまずい。
 とはいえ。主の知人のウィザードは、協力するか否かによらず守護者に押さえられてしまっているだろう。そんな時だけ行動が早いのもあの守護者の困ったところだ。
 法王庁の神父は法王庁自体がこの事件に対処してくるだろうし、異世界連中には連絡をとる方法もない。赤き巫女・蒼き神子・星の巫女も当然守護者に押さえられ済み。
 宇宙に浮かんでいる宇宙船は……正直、出てくるな。冗談はともかく、宇宙空間に行ったらより大火力を持つウィザード側に一撃だ。

 どちらにしろ、主の疲労もピークだろう。
 休める場所を確保したとはいえ、この家の人間は明確に援助行動を起こせない立場にあり、きちんとした回復法をとれたわけではない。
 せめて再び逃げられるだけの体力を回復しないと、これから先行動しようにもできない。今は少しでも多く、きちんとした休息を。



午前5時


 この2時間ほどで、状況が激変している。
 元星の巫女が主を襲い、戦意を持たない主がほぼ無抵抗で殺されそうになったところで何者かに操られていることが判明。戦意を取り戻して呪縛を開放。
 正気に戻った元星の巫女を、世界に消滅を望むとほざく子供が殺害―――わたしでさえその瞬間まで察知することができなかった。あれは悔やんでも悔やみきれない。
 宝玉の娘が、使用してはならないと言われた力を解放し、星の巫女を蘇生する。……これに関しては、私は何も言えない。主が蘇るのは、わたしも嬉しかったから。
 戦意を喪失した主が、星の巫女の激励により再び宝玉の娘を救い出す決意をかため―――そして今に至る。主とわたしは、夜明け前の町を走っている。

 ……なんというか、色々と納得がいかないが。
 主とともにいた時間の長い星の巫女。主がその言葉に反応するのもまあ仕方ないということにしておこう。
 とにかく、主はまたわたしを執ってくれた。それでいい。そもそも、大バカ者が悩んだ程度でどう変わるというのか。
 その先に光があろうとなかろうと、これまで体当たりで壁をぶち抜いて先に進んできた人間が。この程度で本当に諦めきれるわけがない。
 ほんの少しの背を押す力、それが欲しかっただけの話だ。それを星の巫女が与えてくれたことを今は感謝しよう。おかげで今、夜を共に駆けられる。
 これまで幾度となくともに駆け抜けてきた夜を、今までと同じように駆け抜ける。これがわたしと主のあるべき姿だ。こうでなければ締まらない。

 さぁ―――はじめよう。救うと決めたものを取り返す戦いを。
 これまで物語を丸く終わらせてきたわたし達がいれば、できないことなど何もない。
 運命とやらをいじくって、自分の都合のために多数の悲劇を生み出す傲慢なる神に。人間の傲慢さをもってハッピーエンドを取り返す―――っ!



「―――」


 砕けた。

 痛みは痛覚がないのだからないのだが、それ以上に酷い喪失感が襲う。魂を削られる不快感。
 その中でわたしは崩壊に向かう。
 失うのはひどく怖かったが、それはわたしが滅びることを考えていなかったがゆえに。
 今いきなり自身の滅びを突きつけられ、その痛みに恐ろしさにおぞましさに叫びだしたくなるほど。

 相手の手のひらの上で踊った上でこちらの勝利条件を果たしたはずなのに、そこで盤をひっくり返すという暴挙に走った神。
 これまで幾度もそれに類するものを絶ってきたわたしが、何をすることも許されず砕かれた。
 怖い、恐い、こわい。今度闇に落ちれば、二度と光を見ることはないだろう。それは本当に恐い。
 閉ざされていく感覚。迫る闇。消滅への恐怖。それは際限なくわたしを闇の中に取り込もうとしてくる。
 「滅び」が、「死」がやってくる。


 誰か、この悪夢からわたしを―――


 ―――つかまれる、感触があった。
 熱が伝わる。まだ存在できているのだという、まだ終わっていないのだという心が、意思が流れ込むほどに。


 ……ひい、らぎ?


 瞬く星の光。
 強い思いのまま、砕かれ、盾にもならぬ役立たずの(わたし)を握ったまま。わたしの(きぼう)はまだ戦う意思を持って立っている。

 そうだ。
 守ると、決めたのだ。
 刃の体現のようなその『業物』と共に在ると。その身を守ってみせるのだと、決めたのだ。
 それが私だ。私の在る意義だ。最後までなどとは言わない、魂の一片まで消滅されつくすその時まで、私はこの主を、柊蓮司を守ると決めたのだった!

 なんというか、我ながら思考がひどく主に似てきているような気がしなくもない。
 けれど、今ではバカになるのも悪くないと感じられる。諦めきって、何もしないよりかはるかにマシ。
 守る。絶対に守りきってみせる。
 しかし、その意思だけでは不足。彼を守りきるには力が足りない。砕けた私では―――いや、結局私だけでは意味がない。
 すべきことは敵の打倒。そうしなければ世界どころか柊の生もここで終わる。
 どうするかと考えていると、柊に話しかけている傲慢な神の声が聞こえる。

 私の手を取れ、と。なんでも、そうすればこの世界から救い出してやろうとのことだ。

 あぁ―――愉快だ。
 もう私には、柊がなんと答えるかがわかる。理解できる。私の半身だ、わからぬはずもない。
 神よ。お前にはわからないのか。わからないのだろうな、私が、柊が答えることが。
 神だから人の心がわからぬわけでもあるまいに。
 私たちを理解できないということは、抗うことの本質を知らぬということ、抵抗の意味を考えぬということ。諦めないという概念を理解できぬということだ。
 それは神が停滞していることを意味する。停滞しているものが、これまでずっと走り続けてきた者の意思を止められると思うな。

『お断りだ!』

 そうだ。それでこそ私の認めた業物、最高峰に位置する刃!
 愚かな選択と笑うなら笑えばいい。しかしその道以外を走れぬ在り方を、私だけは認めよう。今この場にある誰よりも、彼自身と私はそれを認め、その道を貫き続ける!

 私の存在が夢でもいい。幻でもいい。それでも―――今ここにある気持ちは、この気持ちだけは確かに今ここに、この魂に確固として存在する!
 その気持ちを誇りに思う私は、確かにここに存在するのだから―――!

 滅びの『力』の具現が迫る。
 私はせめて柊を守ろうと、自身の力を無理矢理に起動させる準備を整えて―――
 不意に私たちと、神とを隔てる光の壁がそそりたったことに驚いた。

 同時に響くのは二つの声。
 宝玉の少女たちの声だった。


※   ※   ※


 作戦は至って単純。
 そもそも私と柊の二人でできることなど限られている。
 元星の巫女が宝玉の力を運び、宝玉の娘が私にそれを宿し、私はその力を利用して刀身を形作り、その私を柊がふるって神を斬る。
 とんでもなくシンプルでこれ以上なくわかりやすい。

 力が流れこむ。
 それは、神とまでされる者の力の渦。暴力にも近いその力に、自分が消し飛ばされそうになる。
 けれど。

 ―――つかまれている、感触があった。
 熱が伝わる。泣きたくなるほどの苦しみと痛みの中、それでも大嵐に耐えられるのは、ひとえにその手のひらの感触だけが私を支えているから。私を掴む手があるから。

 そのためなら。その手のためなら。その手を守るためであるのなら。
 どんな痛みであってもけして苦しくはない。
 私はここで倒れるわけにはいかない。私はあくまで中継点。中継点で途絶えては、最後にバトンを渡せない。

 私にできるのはものを斬ることのみ。何かを形作ることなど、ついぞやったことはない。
 そんな私が担い手のための剣を作らなければならないのだ。一から作ることなど、どのようにやればいいのか皆目見当もつかない。
 ならば。イメージするのはこれまでの私自身。
 私は剣だ。これまで数多の夜を駆け、闇を、魔を切り払ってきた剣だ。そんな私がイメージできる刃の形など、私以外には存在しない。
 刀身は今は存在しないが、自身の概念を、在り方を、形を、強く強くイメージする。
 自身を今まで握り、共に戦っていた者達によって与えられてきたすべての経験をそこに重ねる。概念と経験を合わせることで、それは完璧な記憶となる。
 あとはその記憶のカタチのままに力を形成し、刃と成すだけの話。
 全てを斬り払う思いを。目の前の悪夢を絶ち担い手を守り抜くという誓いを。神までの道を切り開くという意思を。神の力を分け隔てる力を。全てを合わせ、固く結び。
 今ここに―――『私』という人類の刃を完成させる。
 蒼く輝く刀身が、そこにある。もとの形はやはり私であるが、これ以上に柊が振るうべき剣は存在しない。私以外にあの神を打倒できる武器はない。
 これでようやく手が届くようになった。それだけのことであるはずなのに―――やはり、負ける気がしない。
 だって、希望が見えるのなら柊は絶対に諦めない。そして、柊を守れる力があるのなら私はどこまでだって共に行ける。
 何より私は神殺しとあだ名されし刃。最後に神の一つも殺せずして、どうしてその名を名乗れよう。
 柊との、最後の突貫が始まる。                   これまでの思い出が、郷愁に胸を焼く。
 神の力を斬り払う。                        ただ、主を失い続けた日々。
 放たれた津波のごとき神の力を貫く。                新たな主を得て、呆れながらも笑って過ごした日常。
 柊が啖呵をきる。                         これまで積み上げた因縁を、ともに斬り払ってきた夜。
 振り返らず、ただ前へ。                      傷つきながらも、勝ち取ってきた誰かの未来。
 最後の壁を打ち払う。                       そして、私に与えられてきた全ての笑顔を。

 泣き顔を笑顔に変えたいという、原初の願い。これまで忘れていた、私の守ったいくつもの笑顔を思い出して―――

 貫く。
 決着は、意外なほどあっけなくつき。
 すべてが白に染まった。

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