微塵の夢
「…寝たか」
「ええ」
夜も深まりから何刻かたつ頃、マーテルの隣で金色の髪の少年、ミトスは樹に背を預けて眠りついていた。
その顔に初対面の時に感じた気迫や殺気が嘘の様だった。
この少年もかなりの力の持ち主なのは身をもって知っている。
しかしまだ十と幾ばくかの子供だ。
「足の傷…少し熱を持ってしまったみたいね。貴方はお休みにならないのですか?」
「ああ。いつ敵襲に遭うかも分からないからな。貴女こそ休んだ方がいい」
マーテルはにこり、とダオスに微笑んだ。ダオスは溜め息を吐く。
「貴女は不思議な女性だ。きっとミトスも貴女が側にいるからこそ安心して眠れるのだろう」
「いいえ」
マーテルは眼を伏せた。闇の中でもよく分かる程に長い睫が眼下に陰りを落とした。
ぎゅっと白い手が膝下で結ばれる。
「私…ミトスや貴方と違ってなにもできない。
シャーリィちゃんを止める事すらできなかった。情けないわ。」
木の葉の音を聴く様に空を仰ぐ。
「あれは仕方のない事だ。決して貴女のせいではない」
マーテルが首を振る。微かに潤んだ目が宙を流れる木の葉を映す。
「何故…こうなってしまったのでしょう。いつもそうだわ。絶えずどこかで誰かが誰かを傷つける。なんて辛い事だろうって。
色々ね、考えていたの」
ざわりと暗い木々が揺れる。まるでマーテルの心に同調するように。美しい浅葱の髪が揺れる。
今までに起きたこと――それは充分過ぎる程に清らかな彼女の心を傷つけていた。
「少女の事はもう気に病むな。過ぎてしまった事だ」
「それもあるわ。
このゲームの主催者の事もよ」
たなびく髪が闇に溶ける事なく静かに煌めく。
「ええ」
夜も深まりから何刻かたつ頃、マーテルの隣で金色の髪の少年、ミトスは樹に背を預けて眠りついていた。
その顔に初対面の時に感じた気迫や殺気が嘘の様だった。
この少年もかなりの力の持ち主なのは身をもって知っている。
しかしまだ十と幾ばくかの子供だ。
「足の傷…少し熱を持ってしまったみたいね。貴方はお休みにならないのですか?」
「ああ。いつ敵襲に遭うかも分からないからな。貴女こそ休んだ方がいい」
マーテルはにこり、とダオスに微笑んだ。ダオスは溜め息を吐く。
「貴女は不思議な女性だ。きっとミトスも貴女が側にいるからこそ安心して眠れるのだろう」
「いいえ」
マーテルは眼を伏せた。闇の中でもよく分かる程に長い睫が眼下に陰りを落とした。
ぎゅっと白い手が膝下で結ばれる。
「私…ミトスや貴方と違ってなにもできない。
シャーリィちゃんを止める事すらできなかった。情けないわ。」
木の葉の音を聴く様に空を仰ぐ。
「あれは仕方のない事だ。決して貴女のせいではない」
マーテルが首を振る。微かに潤んだ目が宙を流れる木の葉を映す。
「何故…こうなってしまったのでしょう。いつもそうだわ。絶えずどこかで誰かが誰かを傷つける。なんて辛い事だろうって。
色々ね、考えていたの」
ざわりと暗い木々が揺れる。まるでマーテルの心に同調するように。美しい浅葱の髪が揺れる。
今までに起きたこと――それは充分過ぎる程に清らかな彼女の心を傷つけていた。
「少女の事はもう気に病むな。過ぎてしまった事だ」
「それもあるわ。
このゲームの主催者の事もよ」
たなびく髪が闇に溶ける事なく静かに煌めく。
「彼も、可哀想だわ。こんな事をして喜びを得るなんて。
こんな悲劇がもたらすものなんて悲しみしかないのに」
「それも仕方のない事だ。
人を殺めて楽しむ人間なら私も幾人か知っている」
マーテルはそうね、と小さく返すと珍しくやや自嘲気味に笑った。
「だけど馬鹿でしょう、私ねまだ心の奥底では彼を説得できるかもしれないって思っているのよ。
いつだってそうだった。叶わない事の方が多かったけれど」
ダオスは一、二歩進み、顔を伏せた。そして言う。
「貴女は優しすぎる。
沢山の人間がいれば何処かで行き違い、崩れてゆくのは必然だ。
人間の中には邪悪な者も中にはいる。
……私も例外ではない」
厳しい顔とは裏腹に、その声は静かで独白の様でもあった。
「奴の様に掌で人の命を転がして喜ぶ趣味はないが…私も目的の為ならば大勢を手に掛けた。これからもそうだ。そしてここでも私や貴女に手を出す者がいれば容赦しない」
「………」
マーテルは再びうつむいた。
「だが」
ダオスはそのまま続ける。
「願わくば私も貴女の想う理想であってほしい。悩まなくともいい。
貴女は正しい」
硬い表情ではあるがそう言うダオスに、マーテルはその眼を見て再び微笑む。
「貴方は優しい人ね。」
「私に似つかわしくない言葉だな」
そう言うと、ダオスはふいに黙り、森の奥を横目で睨み付けた。
そのまま踵を返し、足を進めた。
「…どうしたの?」
「…いや、少し周りの様子を見てくる。ミトスを頼む」
振り返らずにダオスは森の奥へ進んだ。
こんな悲劇がもたらすものなんて悲しみしかないのに」
「それも仕方のない事だ。
人を殺めて楽しむ人間なら私も幾人か知っている」
マーテルはそうね、と小さく返すと珍しくやや自嘲気味に笑った。
「だけど馬鹿でしょう、私ねまだ心の奥底では彼を説得できるかもしれないって思っているのよ。
いつだってそうだった。叶わない事の方が多かったけれど」
ダオスは一、二歩進み、顔を伏せた。そして言う。
「貴女は優しすぎる。
沢山の人間がいれば何処かで行き違い、崩れてゆくのは必然だ。
人間の中には邪悪な者も中にはいる。
……私も例外ではない」
厳しい顔とは裏腹に、その声は静かで独白の様でもあった。
「奴の様に掌で人の命を転がして喜ぶ趣味はないが…私も目的の為ならば大勢を手に掛けた。これからもそうだ。そしてここでも私や貴女に手を出す者がいれば容赦しない」
「………」
マーテルは再びうつむいた。
「だが」
ダオスはそのまま続ける。
「願わくば私も貴女の想う理想であってほしい。悩まなくともいい。
貴女は正しい」
硬い表情ではあるがそう言うダオスに、マーテルはその眼を見て再び微笑む。
「貴方は優しい人ね。」
「私に似つかわしくない言葉だな」
そう言うと、ダオスはふいに黙り、森の奥を横目で睨み付けた。
そのまま踵を返し、足を進めた。
「…どうしたの?」
「…いや、少し周りの様子を見てくる。ミトスを頼む」
振り返らずにダオスは森の奥へ進んだ。
マーテルの姿が見えなくなる程にダオスがしばらく足を進めると、立ち止まった。
一見すると木々が無造作に並ぶだけの吸い込まれそうな何もない深淵。
その闇に一言呼びかける。
「…呆れる程に馬鹿正直な殺気だな。わざわざ出向いてやった。
出て来るがいい」
樹の陰よりそれは静かに姿を現した。
一束に纏められた長い銀の髪。
一人の若い青年だった。
表情は獣の様に険しく、眼は鋭く、剣を片手にしていた。
冷たい焔の様に青年から闘気が燃えている。
「……私を殺しに来たのか」
青年は無言で剣を構えた。
「やめておくのだな。私に剣を向けるのはお前の死と同意義だ」
一言も発する事なく、いきなり凄まじい剣圧がダオスを襲う。
草花を刻み、疾走してきたそれを易々とダオスは避けた。
背後の廃木にそれは命中し、真っ二つに裂けた。なかなかの手練だ。
「それでも俺は……」
青年が初めて口を開く。
「それでも俺はこのゲームで生き残らねばいけない。相手が誰でもな」
青年はそのまま突進し、ダオスに横薙に斬り掛かる。
髪を掠ることもなく、ダオスはまたもや軽々とかわし、次に襲い来る凄まじい突きには地面を蹴って横に跳んで刃は空を裂く。
ダオスの足が地に着いた直後に地面を踏みしめ、正拳を青年のみぞおちに叩き込む。
余りの速さに青年は眼を見開くが、バックステップしようにも追いつかなかった。
しかしその拳は寸止めだった。
しかし青年は拳の衝撃波で体が後ろに倒れてしまった。
「く……っ!!」
一見すると木々が無造作に並ぶだけの吸い込まれそうな何もない深淵。
その闇に一言呼びかける。
「…呆れる程に馬鹿正直な殺気だな。わざわざ出向いてやった。
出て来るがいい」
樹の陰よりそれは静かに姿を現した。
一束に纏められた長い銀の髪。
一人の若い青年だった。
表情は獣の様に険しく、眼は鋭く、剣を片手にしていた。
冷たい焔の様に青年から闘気が燃えている。
「……私を殺しに来たのか」
青年は無言で剣を構えた。
「やめておくのだな。私に剣を向けるのはお前の死と同意義だ」
一言も発する事なく、いきなり凄まじい剣圧がダオスを襲う。
草花を刻み、疾走してきたそれを易々とダオスは避けた。
背後の廃木にそれは命中し、真っ二つに裂けた。なかなかの手練だ。
「それでも俺は……」
青年が初めて口を開く。
「それでも俺はこのゲームで生き残らねばいけない。相手が誰でもな」
青年はそのまま突進し、ダオスに横薙に斬り掛かる。
髪を掠ることもなく、ダオスはまたもや軽々とかわし、次に襲い来る凄まじい突きには地面を蹴って横に跳んで刃は空を裂く。
ダオスの足が地に着いた直後に地面を踏みしめ、正拳を青年のみぞおちに叩き込む。
余りの速さに青年は眼を見開くが、バックステップしようにも追いつかなかった。
しかしその拳は寸止めだった。
しかし青年は拳の衝撃波で体が後ろに倒れてしまった。
「く……っ!!」
青年が起き上がろうとしたその直後―――
「ぐあッ!!!?」
剣を持つ右腕がダオスの足にしたたかに踏みつけられる。
それは青年が短時間休んで回復アイテムを用い、少しだけ癒えたの肩の裂傷に響いた。
閉じ掛けた筈の裂傷から再び血が流れる。
ダオスは冷たい表情で青年を見下げる。
凄まじい威圧感。その姿はまさに覇王のそれだった。
「…やめるのだな。お前では、しかも手負いでは私は倒せない」
圧倒的な実力の差――――
しかしそれを見せつけられても青年の眼光は弱まるどころかますます強くなる。
ミトスもそうだったが、ダオスはその眼に見覚えがある。この青年と同じ程の歳の剣士の眼だ。
その様な眼の者が、このゲームの上では無差別に人を殺すマーダーとなってしまう。
「相当の覚悟の様だな」
青年―――ヴェイグは歯を食いしばった。
「…ゆっくりしている、場合ではないんだ、俺は、俺はこのゲームに一刻も早くけりを付ける!!」
ヴェイグの眼が見開かれる。すると何処からか表れた鋭い氷の刃の群がヴェイグの体からダオスめがけて疾る。
ダオスは後ろに跳びつつ、マントを勢いよく翻し、氷を叩き落とした。
ダオスはマントに付いた氷を払いながら言う。
「はやる気持ちも分からないでもないが、相手が悪いな」
ダオスにはこの青年を殺すには少々ためらいがあった。
愚かな程真っ直ぐな眼
この青年はこの傷から察するに相当の戦いをしたのだろう。
「ぐあッ!!!?」
剣を持つ右腕がダオスの足にしたたかに踏みつけられる。
それは青年が短時間休んで回復アイテムを用い、少しだけ癒えたの肩の裂傷に響いた。
閉じ掛けた筈の裂傷から再び血が流れる。
ダオスは冷たい表情で青年を見下げる。
凄まじい威圧感。その姿はまさに覇王のそれだった。
「…やめるのだな。お前では、しかも手負いでは私は倒せない」
圧倒的な実力の差――――
しかしそれを見せつけられても青年の眼光は弱まるどころかますます強くなる。
ミトスもそうだったが、ダオスはその眼に見覚えがある。この青年と同じ程の歳の剣士の眼だ。
その様な眼の者が、このゲームの上では無差別に人を殺すマーダーとなってしまう。
「相当の覚悟の様だな」
青年―――ヴェイグは歯を食いしばった。
「…ゆっくりしている、場合ではないんだ、俺は、俺はこのゲームに一刻も早くけりを付ける!!」
ヴェイグの眼が見開かれる。すると何処からか表れた鋭い氷の刃の群がヴェイグの体からダオスめがけて疾る。
ダオスは後ろに跳びつつ、マントを勢いよく翻し、氷を叩き落とした。
ダオスはマントに付いた氷を払いながら言う。
「はやる気持ちも分からないでもないが、相手が悪いな」
ダオスにはこの青年を殺すには少々ためらいがあった。
愚かな程真っ直ぐな眼
この青年はこの傷から察するに相当の戦いをしたのだろう。
殺気からもマーダーなのは一目瞭然だ。しかし、その殺気が邪悪な、例えばあの主催者に召集された時にいた男の首を折った赤髪の男の持つような邪悪なものとは明らかに違うのだ。
情を掛けているのだろうか、いや、違う。
このバトルロワイアルという茶番の中で己と出会った事で簡単にこの青年が死ぬのは惜しいと思ったのだ。
尤も、自分と戦わずともミクトランが本気でこのゲームを実施している上ではこの青年が生き残る可能性は低いのだが。
情を掛けているのだろうか、いや、違う。
このバトルロワイアルという茶番の中で己と出会った事で簡単にこの青年が死ぬのは惜しいと思ったのだ。
尤も、自分と戦わずともミクトランが本気でこのゲームを実施している上ではこの青年が生き残る可能性は低いのだが。
ダオスは口を開く。
「それでも、これ以上剣を向け、ここから立ち去らぬのならば私は全力でお前を殺す。
私も生き残らねばならない。それに本当に覚悟を決めたのならば、手を抜くのは失礼だからな」
「それでも、これ以上剣を向け、ここから立ち去らぬのならば私は全力でお前を殺す。
私も生き残らねばならない。それに本当に覚悟を決めたのならば、手を抜くのは失礼だからな」
荒い息をし、血の滴る肩を押さえながらヴェイグはダオスを更に強く睨み付けた。
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
現在位置:B7の森林地帯
状態:多少TP消費、冷静
第一行動方針:返答次第ではヴェイグを殺す
第二行動方針:マーテルを守る
第三行動方針:マーテルと行動
第四行動方針:打開策を考える
第五行動方針:敵は殺す
所持品:エメラルドリング
現在位置:B7の森林地帯
状態:多少TP消費、冷静
第一行動方針:返答次第ではヴェイグを殺す
第二行動方針:マーテルを守る
第三行動方針:マーテルと行動
第四行動方針:打開策を考える
第五行動方針:敵は殺す
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード ????
現在位置:B7の森林地帯
状態:擦り傷、足に軽裂傷、浅い眠り
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:クラトスとの合流
備考:ダオスを信用しない(マーテルが彼を信用し、相手も危害を加えてこない間は協力する)
所持品:ロングソード ????
現在位置:B7の森林地帯
状態:擦り傷、足に軽裂傷、浅い眠り
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:クラトスとの合流
備考:ダオスを信用しない(マーテルが彼を信用し、相手も危害を加えてこない間は協力する)
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 邪剣ファフニール アクアマント
現在位置:B7の森林地帯
状態:無傷。哀しみは残るもののいたって落ち着いている。
第一行動方針:ダオス達と行動
第二行動方針:ユアン、クラトスとの合流
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:戦いをやめさせる
所持品:双眼鏡 邪剣ファフニール アクアマント
現在位置:B7の森林地帯
状態:無傷。哀しみは残るもののいたって落ち着いている。
第一行動方針:ダオス達と行動
第二行動方針:ユアン、クラトスとの合流
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:戦いをやめさせる
【ヴェイグ 生存確認】
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(アップル、パイン、ミラクル)
状態:右肩に裂傷、背中に刀傷(治りかけ) 。興奮状態
第一行動方針:ダオスを倒す
第二行動方針:ゲームに乗る
第三行動方針:生き残る
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(アップル、パイン、ミラクル)
状態:右肩に裂傷、背中に刀傷(治りかけ) 。興奮状態
第一行動方針:ダオスを倒す
第二行動方針:ゲームに乗る
第三行動方針:生き残る