東方ファイトスレ @まとめウィキ

17スレ第20戦

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集


エクストリーム・アイロニング。
これは、およそアイロン掛けには不向きな会場でアイロン掛けに精を出すという、
もはやアイロン掛ける意味あるの? と言いたくなる競技である。
さて、今回の勝負、本来なら妖忌VS映姫となっているはずなのだが、
なぜか当然のように、傍らには妖夢と小町も控えている。

「魂魄妖忌。聞くところによると貴方は、弟子のスパルタ教育において一家言あるらしいですね」
「はい、そしていいえ、だ四季映姫。儂が得意とするのは弟子の教育ではない、孫の教育よ」
「言いますね。しかし、その割りに貴方のお孫さん、まだまだ半人前のようですが?」
「当然だ、我ら魂魄の末裔たるもの、全てを斬りうる程度の‘解’を見出して始めて一人前よ。
 斬らねば解らぬようではまだまだ半人前。もっとも――閻魔殿の部下を斬る程度は、当然のごとくやってのけるが」
「ふむ、それもごもっともですね。ですが今回の勝負は彼女らではなく、私たちの一騎打ち。
 私の部下遣いと貴方の孫遣い、どちらが上かが勝負の分かれ目でしょう」
「上か下か、という論法はまことに閻魔殿らしい、だがそれが貴方の限界よ。
 見せてやろう。勝負とは、上手の者が勝つのではなく、先に勝利に至った者が勝者となるということを」

それっぽい前口上を挟みつつスタートラインにつく四人、いや三人と半霊×2?
当然ながら、弟子のほうと部下のほうは、双方ガクブル状態である。どちらも逆らうに逆らえずに付き従う。
勝負の舞台となるのは、急流の川。諏訪湖から未踏の渓谷まで、妖怪の山の川を下りながら、途中に現れる幾つものアイロン台のシャツをアイロン掛けする。
ちなみに各アイロン台のシャツはアイロン台にある程度固定されているので、とりあえず強風で飛ばされるようなことはない。
さらに、アイロン台は妖忌用、映姫用という風に色分けで分けられている。
自分用のアイロン掛けをして始めてポイントに加算される、逆側のシャツをアイロン掛けしても無効。
なお、川の途中では随所で妨害に出るので、それらを回避しつつ、アイロン掛けに勤しまねばならない。
そうやって川をゴールまで通過した時点で、より多くのシャツをアイロン掛けしたほうの勝ちとする。
なお、対戦相手への妨害行為は反則としてペナルティを与えられるが、
それが故意ではなく事故と見なされた場合は、不可抗力として許容される。
ちなみに判定は、時間を止めて各アイロン台をリアルタイムでチェックでき、
かつ家事にも抜きん出ている瀟洒なメイドこと十六夜咲夜によって執り行われる。

さて勝負開始。双方とも、小船でどんぶらこと急流を下っていく。
当然のように、映姫の船の舵取りを小町が、妖忌の船の舵取りを妖夢が務める。

「そう、その調子です小町。そのままスムーズに進めてください」
「それはいいんですけど、いいんですか四季様? 速く船が進めばそれだけ……」
「アイロン掛けが難しくなる、ですか? 心配は――」

早速現れるアイロン台。シャツが風にたなびいて、アイロンを上から当てるのが難しそうに見える。
が、四季映姫、これを身を乗り出してアイロンを接触させ、スムーズに滑らせる。

「――無用です。これでも一人暮らし長いんですから、アイロンの扱いはお手の物です」
「そういえばラスボス勢の中でも四季様は、一人だけ自宅じゃなくて職場勤めですもんね」
「それはあなたも一緒です。いいから前方に集中しなさい」

さて、一方の魂魄組。小町ほど船に慣れていないためか、舵取りに四苦八苦している妖夢。
それでも何とか、妖忌側のアイロン台へと船を近づけていく。

「遅い。未熟者め、だからお前は半人前だというのだ」
「は、はい、申し訳ありません! でもお師匠様こそ大丈夫で……」
「アイロンが、か? 確かに慣れぬ代物だが……それでも『得物』であることに変わりはない」

船のへりに足を踏み出し、居合い抜きのような挙動でアイロンを走らせる妖忌。
後には、きちんとアイロン掛けされたシャツが残される。

「わかるがいい、妖夢。道具を自らの身体の一部として扱う、これが剣術の基礎にして奥義であると」
「は、はい、心がけます!」
「わかったらお前も舵を己の物として扱うが良い。だからお前は半人前なのだ」
「し、精進します~」

さて、両者が幾つかのアイロン台を危なげなく通過したところで、第一の障害が待ち構える。

「くっくっく、ここ最近のファイトでは散々な目に遭ってますからね……
 その何分の一かでも、鬱憤を晴らさせてもらいますよ!」

空中で待ち構える射命丸文、その後ろに控えるのは幾百ものカラスたち。
まずは先行してくる映姫の船にめがけて、カラスたちが襲い掛かる……!

「行きなさい、私のカラスちゃんたち! その嘴で彼女らの服をひん剥いてくるのです!」
「聞こえてますよ……あの天狗は後で説教として……小町!」
「はいよぉ!」

迫り来るカラスに向けて、距離を操る程度の能力を発動。
船の前から襲いかかろうとしたカラスたちは、後方へといきなり飛ばされて空中でつんのめる。だが、

「カラスの翼と私の風! 小船を追いかけるくらいは訳は無い!」

後方から追い風を起こし、カラスを導く文。
後ろから襲い掛かろうとするカラスたち。そしてそれに向けて映姫が取り出したのは、鏡。

「『浄頗梨審判 ‐射命丸文‐』」
「あやや?」

鏡から現れる文の虚像。そして、その虚像が起こす、文と同じ強風。
追い風と向かい風、双方に煽られたカラスたちが切り揉みしながら方向を見失う。
その間に、映姫たちは無事にその場を過ぎ去り、次のアイロン台をきっちりアイロン掛け成功。

「しかし、映姫様……今のは、わざとでは?」
「わざとではありませんよ? わざとではないとさえ言えば、不可抗力で済むのでしょう?」

さて、その後方、妖忌たちの船。
眼前につむじ風ができていた。
先ほどの、強風のぶつかり合いによって起きたものだ。つむじ風の中では文のカラスたちが切り切り舞している。
そのまま船を進めれば風に巻かれた上にカラスにもぶつかってひどい目に遭う。

「笑止、この程度ではとても障害などとは言えんわ」

対する妖忌、左手の刀で、前方に向けて縦一文字の振り下ろし。
断ち切られる風。二つに割れた風の間を、船は悠々と通り過ぎる。
ぼちゃんぼちゃんと、後方でカラスが落ちる音が聞こえたが、それは妖忌の知ったことではない。
右手のアイロンでアイロン掛け、こちらも無事に成功する。

「あ、あややややややや! も、椛、後は頼みました! 私はカラスちゃんたちの救出に向かいます!」
「はいはい……まったく、部下使いが荒いのはどこも一緒ですね」

というわけで文は脱落、代わって第二の障害、椛が現れる。

「私じゃあの方たちと真っ向勝負しても敵いませんからね……哨戒天狗隊! 撃ち方始め!」

ゴゴゴゴゴゴゴ……
突如として、川の横合いから岩が転がり落ちてきた。それも、かなりいい勢いで。
椛の部下たちが投石器で放ったものだ。川を横断する幾つもの岩が、進路を妨害する。

「小町。幽霊弾幕と銭弾幕をばら撒きつつ、舟符『河の流れのように』発動」
「四季様、舟符は防御が堅くなるわけじゃないですよ!?」
「知ってます、速度を上げろと言っているんです。直撃さえ避ければ、後は私が何とかします」

弾幕で岩の軌道を逸らし、その隙間を舟符の速度で突き抜ける。
接触しそうな岩に限り、映姫の卒塔婆弾幕ゼロ距離射撃で無理やり弾き飛ばす。
そしてその片手間でアイロン掛け。だが――

「くっ、一つ逃した!」
「そりゃ、これだけ速度上げて弾幕撃ちながらアイロン掛けなんて流石に無理でしょ。というかミスが一つだけなのがびっくりですよ」

そして後方の妖忌はもっと大変なことに。なおも転がり落ちてくる岩に加え、小町や映姫が残した弾幕もそのまま放置されている。

「なるほど、先行して障害を乗り越えながら、こちらの妨害も行おうという心算か」
「感心してる場合じゃないですよお師匠様、どうするんですか!?」
「妖夢。幽明の苦輪は使えるな? 用意せよ。そして、私と同時に発動するのだ」
「は、はい?」

前方の弾幕を、刀の一振りで切り潰す。だが、横合いから流れてくる岩までは手が回らない。
ここで、妖忌、幽明の苦輪発動。妖夢も、遅れてスペカ宣言――を、しようとしたところで、
分身になった妖忌の半霊が妖夢の半霊をむんずとわしづかみ、

「危険に対する保険その一!」
「みょん!?」

岩のほうへと投げ飛ばした。
そして投げ飛ばされた先で分身に変化する妖夢の半霊、半霊めがけて迫り来る岩石。
慌てた妖夢、半霊に刀を振るわせる。ずんばらりと斬り砕かれる岩。

「よし、その調子じゃ妖夢。半霊を維持したまま、進路に来る岩を斬っていくがいい」
「ちょ、待、舟が早いんですけど!? 進路上に追いつけませんよ!」
「ならばスペルを解除せい。半霊を戻した後に再び幽明の苦輪を使え、その都度儂が半霊で投げてやるわ」
「ひど!?」
「何ならお主の人間側を保険その二にしてやっても良いのだぞ?」
「今すぐやります!」

というわけで、こちらは悠々とアイロン掛けクリア。

さて、こちらは映姫側。
今度は突如として、川の水中から現れた妖怪魚が物凄い勢いで飛びかかってきた。

「危な!?」
「くっ!」

咄嗟に映姫、アイロンで無理やり打ち払う。
今は上手くいったものの、こんな緊急避難が何度も続くわけが無い。

「どうしますか映姫様!?」
「……今度は、あなたはどうもしなくてよろしい」
「へ?」

映姫がそう言って以降、ぴたりと妖怪魚の強襲は止まる。
はて? と小町が恐る恐る川を覗いてみると、水の下では、がこんがこんと魚たちが水面に頭をぶつけていた。

「……何だいこりゃ?」
「水面上と水面下の白黒をはっきりつけました」

で、後方の妖忌側。こちらは、魚たちが襲ってくるよりも先に、妖怪魚の気配に気がついていた。
動じない妖忌、悠然と刀を振るう。
が、これが魚を斬ることができず、映姫が作った水面の境界を斬るに留まってしまった。

「む!?」

その直後、一斉に襲い掛かる魚の群れたち。

「妖夢!」
「はい! 人符『現世斬』!」

妖忌の前に躍り出た妖夢が、魚たちを一刀で切り伏せた。

「この馬鹿もんが!」
「あいた!?」

拳骨一つ。

「お主自身が出てきてどうする!? 見ろ、舵を失ってアイロン台から離れてしまったではないか!」
「そ、そんな!? じゃあどうすれば良かったと」
「さっきまで幽明の苦輪を使っていたのをもう忘れたのかたわけ!
 半霊だけ呼び寄せて一匹ずつ斬り捨てれば済むことだろうに、だからお前は半人前なのだ!」
「も、申し訳ありません!」


……さて、コースもそろそろ半ばを過ぎたかというところで、今回おそらく最大の難所が待ち構える。
映姫はもちろん、後方の妖忌からもそれがそろそろ見えてきた頃だろう。

「四季様、こりゃまともに行ったら本気でお陀仏ですよ。死神と閻魔が揃って死に仏だなんて洒落になりません」
「はいはい上手いこと言ったみたいな顔にならないの。しかし確かにこれは……」

目前。川が、すっきりと姿を消している。
否。川が、落ちているのだ。九天の滝――幻想郷最大の滝。落ちれば滝つぼに真っ逆さまだ。

「どうします四季様、やっぱり距離を操って通り抜けますか? それとも、速度を上げて飛び越えますか?」
「距離を操ります……ただし、操るのは滝つぼに落ちる直前です」
「……マジすか」
「マジです。タイミングが命です、しくじらないように」

そんなこんなで映姫、滝からダイブ。
さて、妖忌側はというと。

「良いな妖夢、打ち合わせ通りで行くぞ」
「はい、お師匠様……でも、本当に大丈夫なんですか?」
「問題無い。妨害さえ無ければ、舟の舵取りとアイロン掛け、この二つ程度なら儂だけでやれる。半霊も使えるしな」

何やら企みつつ、妖忌側もダイブ。
こちらは妖夢が幽明の苦輪で分身しつつ、二人がかりで舟を漕いで強引に飛び越えようというらしい。
さてはて、両者、共に何とか滝から下流の川へと着水。
後はゴールまで一直線……その前に、最後の障害、河城にとりが待っているもの、と予測される。
……のだが。

「来ませんね……」
「誤って自分が流されたとか?」
「まさか。姿を消して奇襲してくる気かも知れません、用心はしましょう」

それに、後方の妖忌たちの様子も気になる。速度が目に見えて遅くなっているのだ。
滝から落ちたときにダメージがあったのか? 映姫たちの舟が無事なのだから、あちらも無事なはずなのだが……
と、考えを巡らせたのが、一瞬の隙となったか。

「断迷剣『迷津慈航斬』」

斬撃。
突如。映姫たちの前方で、盛大な水しぶき。
そしてその水しぶきに――いや、そのしぶきをあげた原因、斬撃によって吹っ飛ばされる河城にとり。

「な」
「ふぇ?」

驚いている間など無かった。その斬撃は、舟のほとんど間近で起こったのだ。
しぶきに巻き込まれる舟――かと思えば、断ち割られた川に呑み込まれる。
慌てて舵を切り距離を操ろうとする小町、だがそこに、吹っ飛ばされた河城にとりが降ってくる。
どうしようも無く、もんどり打って舟が転覆する――
だが何故だ、と思ったのは小町。なんで後ろにいたはずの妖忌が、いつの間に前に回りこんで――
そうして見た。斬撃が飛んできた方向――横合いにいたのは、確かに妖忌。
船底から引っぺがした板をサーファーのように乗りこなしながら、脅威のバランス感覚で剣を振るった魂魄妖忌――剣を振るいながらも、半霊にアイロン掛けをさせている。
その一瞬で小町は悟った。滝を飛び降りた時点で、妖忌は前に先回りしていたのだ。おそらく、妖夢の斬撃と自分の斬撃を相殺させた勢いで――
妖忌は後ろにいる、と思い込んでいた小町たちはそれに気付かなかった、妖夢は囮だったのだ。
そしてひっくり返る映姫の舟、川に投げ出される小町とにとり。
だが、投げ出されたのはその二人だけ。
奇襲を受けた瞬間から、四季映姫は考えることを放棄し、反射のみで行動していた。
ひっくり返りそうな舟から上空に飛翔、そしてすぐさま、ひっくり返った舟の底の上に着地。
不安定なさかさまの舟の上、映姫はほとんど四つんばいになりながら、アイロンを離さない。
その状態から、アイロンを伸ばそうと考え――距離、わずかに届かない――ならば。
しがみついた舟に向けて、弾幕を直撃させる。
吹っ飛ぶ舟。同様に、舟の破片にしがみつく映姫も、同様に吹っ飛ばされる。
吹っ飛ばされながらも、アイロン台には近づいた。無理やり空中で姿勢を維持し、アイロン掛けに成功。
成功のち沈没。
沈没したところが、ゴールラインだった。

「むぅ、敵ながら天晴れ、とはこのことか」

こちらもゴールしてから、舟板から川岸に飛び移る妖忌。
後ろからのろのろと追いついてきた妖夢。沈みそうな舟を騙し騙し動かしつつ、ようやく到着。
映姫と小町は、にとりが川から引っ張り上げた。
そんなみんなの前に姿を現す瀟洒なメイド長。審判。

「49対48。1ポイント差で、閻魔様の勝利ですわ」

む、と唸る妖忌。自分が取り逃したアイロン台は、妖怪魚エリアの一台のみ。
なのにこの集計では、二つ落としていることになる……

「けほ、けほ……滝、ですよ、魂魄妖忌」

先ほど水を飲んだ息を整えつつ、映姫が告げた。

「貴方が飛び越えた滝――貴方は、ただ飛び越えただけだった。
 しかし私は、落ちながら、滝に備え付けてあったアイロン台のシャツにアイロン掛けをしたのです」
「な……馬鹿な、滝を落ちる前からそんなものが見えるわけが無い。閻魔殿は、コースを事前に知っていたのか?」
「いいえ、知りませんでした。知りませんでしたが……もし私がファイトを仕組むなら、きっと滝の途中にアイロン台を用意する、そう思ったのです」
「……そうか……ふふ、なるほど。‘解’に至ったのはそちらのほうだったか。いや、儂もまだまだ修行が足りん」
「腕では貴方のほうが上だったかも知れません。しかし、経験では――東方ファイトの経験においては、私のほうが上だった、それだけのことです」

妖忌と映姫は、互いの健闘を讃えあい、がっちり握手した。
その後ろでは、水を飲みすぎて伸びた小町を、咲夜が往復ビンタで介抱し、
妖夢は疲労のあまりに昏倒、にとりはアイロン台の回収のためにまた川に潜っていったのだった。







































+ タグ編集
  • タグ:
  • エクストリーム
  • 妖夢
  • 妖忌
  • 小町
  • 映姫
  • 乗り物
  • エクストリーム
  • にとり
  • コンビ戦
  • 魚介類
ウィキ募集バナー