土曜の昼過ぎ。
ファイト内容の通知を受けるために会場を訪れた衣玖と青年妖忌を待っていたのは、お空だった。
お空「やっと来たね。それじゃファイト内容を教えるよ。忘れないように、ちゃんとご主人様に書いてもらったんだ」
言いながらお空が開いた手紙の中身には、こう書かれていた。
『しきえいきと おのづかこまちが こうねつで ねこんだ どちらか えらんで かいふくさせろ』
お空「（かいふく……かいふくって確かお燐が、『腹を開いて臓物を引きずり出す事』だって言ってた！）
今日のファイトは、熱で寝込んだ閻魔と死神、どっちかを選んで開腹させる事だよ！」
衣玖「……なるほど、開腹ですか」
妖忌「病人になんたる……いや、否やは言うまい」
空気の読める女・衣玖と帯刀した朴念仁・青年妖忌は、『それ回復じゃないの？』という突っ込みを発する事もなく、
ファイトの規定ならば仕方が無いと、各々打ち合わせて受け持ちを決め、その場を後にした。
ファイト内容の通知を受けるために会場を訪れた衣玖と青年妖忌を待っていたのは、お空だった。
お空「やっと来たね。それじゃファイト内容を教えるよ。忘れないように、ちゃんとご主人様に書いてもらったんだ」
言いながらお空が開いた手紙の中身には、こう書かれていた。
『しきえいきと おのづかこまちが こうねつで ねこんだ どちらか えらんで かいふくさせろ』
お空「（かいふく……かいふくって確かお燐が、『腹を開いて臓物を引きずり出す事』だって言ってた！）
今日のファイトは、熱で寝込んだ閻魔と死神、どっちかを選んで開腹させる事だよ！」
衣玖「……なるほど、開腹ですか」
妖忌「病人になんたる……いや、否やは言うまい」
空気の読める女・衣玖と帯刀した朴念仁・青年妖忌は、『それ回復じゃないの？』という突っ込みを発する事もなく、
ファイトの規定ならば仕方が無いと、各々打ち合わせて受け持ちを決め、その場を後にした。
小町「うーん、熱で寝込んでる事にすると出来る事が少ないなぁ……やっぱり次はやめようかなぁ」
衣玖「失礼します」
小町「ひゃっ！？ごほんごほん、あー頭痛が腹痛で熱が出て大変だなー」
衣玖「……『光龍の吐息』（どーん）」
小町「きゃんっ！（ひょい）」
衣玖「その動き……やはり仮病でしたか」
小町「ちょっと、あたいが仮病でなかったらどうなってたのさ！」
衣玖「熱を出した病人の部屋の空気ではありませんでしたので。さあ、開腹して頂きます。お覚悟を！」
小町「開腹！？回復じゃなくて！？っていうか切腹なんてやらないよ！」
衣玖「では実力行使と参りましょう……今日は土曜日、逃げるなら日のある内ですよ」
衣玖「失礼します」
小町「ひゃっ！？ごほんごほん、あー頭痛が腹痛で熱が出て大変だなー」
衣玖「……『光龍の吐息』（どーん）」
小町「きゃんっ！（ひょい）」
衣玖「その動き……やはり仮病でしたか」
小町「ちょっと、あたいが仮病でなかったらどうなってたのさ！」
衣玖「熱を出した病人の部屋の空気ではありませんでしたので。さあ、開腹して頂きます。お覚悟を！」
小町「開腹！？回復じゃなくて！？っていうか切腹なんてやらないよ！」
衣玖「では実力行使と参りましょう……今日は土曜日、逃げるなら日のある内ですよ」
衣玖と小町が緋想天チックな殴り合いを開始した頃、青年妖忌は映姫の寝込んだ部屋の外に居た。
刀を傍らに置き、座禅を組み、室内の映姫へと事情を語る。
その映姫の傍には、求聞持法で実体化した妖忌の半霊が、ご丁寧に目隠しをして控えている。
映姫からすれば純真な青年の妖忌が女としての自分に気を使ってくれているのがよく解るのだが、
高熱で寝込んだ事に始まり、看病を受けるやら寝姿を見られている気がするやら、
とにかく妖忌のしてくれる事の一々がストレスになり、好意にストレスを感じる己にもストレスを受け、
容態は良くなるどころか悪くなる一方のスパイラル状態だ。
映姫「ごほっ……妖忌殿……半霊に席を外させて頂けませんか」
妖忌「はっ……それは構いませんが、看病の方が……」
映姫「私なら大丈夫で……ごほごほっ！……大丈夫ですから、半霊を……」
妖忌「……それでは、何かありましたらすぐにお呼び下さい」
病に臥せった女性に腹を切らせるほど非道になり切れず、とりあえずは回復に勤める妖忌だったが、
映姫が是非にと請えば、事情もあろうと半霊を部屋から呼び戻す。
映姫「妖忌殿……申し訳ありません。私が最初からこうしていれば……！」
妖忌「……いけません、閻魔様！（ばんっ）」
居た堪れなくなった映姫は気力を振り絞って上体を起こすと、枕の下から懐刀を取り出し、
妖忌の説明したファイトの指示に従い、腹を切ろうとした。
しかし外で気を張り詰めて待機していた妖忌は、映姫の懐刀が鞘走る微かな音に気付き、
障子を蹴破って飛び込むと、映姫を構えた懐刀ごと組み伏せる。
映姫「妖忌殿……かくなる上は、ご慈悲を……！」
妖忌「閻魔様、拙者が間違っておりました！
このようなファイトは無意味……即刻、辞退致します！ですから何卒、その刀をお納め下さい！」
映姫「妖忌殿……もう私は、恥ずかしいやら情けないやら……全くもって面目ない……（ぽろぽろ）」
妖忌「（どくんっ）……そ、そのような事は……誰か！閻魔様の看病を！」
映姫「ありがとう……ありがとう、妖忌殿。私などにこのような……（ぽろぽろ）」
妖忌「うっ……うぁぁぁっ！」
心身ともに限界にある映姫に比べ、元気の残っている妖忌は次第に状況を理解した。
改めて理解できた状況は、高熱に上気した頬の映姫を押し倒した形の己の姿。
そして映姫はそれを跳ね除ける力もなく、ただ泣き笑いの表情で涙を流している。
状況を冷静に理解するのと、それによる衝動が全身を駆け巡るのとが同時だった。
妖忌「剣の道は果てしなく、我が心に惑い有り！楼観剣よ、我が迷いを断てッ！（ざくっ）」
映姫「ぶっ！？よ、妖忌殿……誰か、誰か！妖忌殿が……げふげふっ！」
最後に残った一片の理性を刀に託し、妖忌は見事に腹を切って見せた。
それを見た映姫は、最後の気力と体力を振り絞り、悲痛な叫びを上げる。
悲鳴を聞いて駆けつけた是非曲直庁の職員が見たのは、
作法通りの切腹で果てかけた妖忌と、気力体力を使い尽くして突っ伏した映姫だったと言う……。
刀を傍らに置き、座禅を組み、室内の映姫へと事情を語る。
その映姫の傍には、求聞持法で実体化した妖忌の半霊が、ご丁寧に目隠しをして控えている。
映姫からすれば純真な青年の妖忌が女としての自分に気を使ってくれているのがよく解るのだが、
高熱で寝込んだ事に始まり、看病を受けるやら寝姿を見られている気がするやら、
とにかく妖忌のしてくれる事の一々がストレスになり、好意にストレスを感じる己にもストレスを受け、
容態は良くなるどころか悪くなる一方のスパイラル状態だ。
映姫「ごほっ……妖忌殿……半霊に席を外させて頂けませんか」
妖忌「はっ……それは構いませんが、看病の方が……」
映姫「私なら大丈夫で……ごほごほっ！……大丈夫ですから、半霊を……」
妖忌「……それでは、何かありましたらすぐにお呼び下さい」
病に臥せった女性に腹を切らせるほど非道になり切れず、とりあえずは回復に勤める妖忌だったが、
映姫が是非にと請えば、事情もあろうと半霊を部屋から呼び戻す。
映姫「妖忌殿……申し訳ありません。私が最初からこうしていれば……！」
妖忌「……いけません、閻魔様！（ばんっ）」
居た堪れなくなった映姫は気力を振り絞って上体を起こすと、枕の下から懐刀を取り出し、
妖忌の説明したファイトの指示に従い、腹を切ろうとした。
しかし外で気を張り詰めて待機していた妖忌は、映姫の懐刀が鞘走る微かな音に気付き、
障子を蹴破って飛び込むと、映姫を構えた懐刀ごと組み伏せる。
映姫「妖忌殿……かくなる上は、ご慈悲を……！」
妖忌「閻魔様、拙者が間違っておりました！
このようなファイトは無意味……即刻、辞退致します！ですから何卒、その刀をお納め下さい！」
映姫「妖忌殿……もう私は、恥ずかしいやら情けないやら……全くもって面目ない……（ぽろぽろ）」
妖忌「（どくんっ）……そ、そのような事は……誰か！閻魔様の看病を！」
映姫「ありがとう……ありがとう、妖忌殿。私などにこのような……（ぽろぽろ）」
妖忌「うっ……うぁぁぁっ！」
心身ともに限界にある映姫に比べ、元気の残っている妖忌は次第に状況を理解した。
改めて理解できた状況は、高熱に上気した頬の映姫を押し倒した形の己の姿。
そして映姫はそれを跳ね除ける力もなく、ただ泣き笑いの表情で涙を流している。
状況を冷静に理解するのと、それによる衝動が全身を駆け巡るのとが同時だった。
妖忌「剣の道は果てしなく、我が心に惑い有り！楼観剣よ、我が迷いを断てッ！（ざくっ）」
映姫「ぶっ！？よ、妖忌殿……誰か、誰か！妖忌殿が……げふげふっ！」
最後に残った一片の理性を刀に託し、妖忌は見事に腹を切って見せた。
それを見た映姫は、最後の気力と体力を振り絞り、悲痛な叫びを上げる。
悲鳴を聞いて駆けつけた是非曲直庁の職員が見たのは、
作法通りの切腹で果てかけた妖忌と、気力体力を使い尽くして突っ伏した映姫だったと言う……。
結果：妖忌の試合放棄により衣玖の勝ち
