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3スレ第18戦

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「こりゃまた大きいねぇ」
 鈍い銀光を纏う大玉を眺め、小町は苦笑する。
「そもそもコレは何なんでしょう。転がすためにあるとも思えないのですが」
 もう一方の大玉の前で、文はその物体をスケッチしていた。ただの円だが。
 この奇妙な大玉の提供者は、八雲紫である。当然のようにスキマから排出され
たのだが、その事に一々突っ込むほど暇な奴はここには居ない。
 今やここは戦場だ。
 強大な妖怪共がシノギを削るバトルフィールドと化した山道には、大玉誤爆の
恐れを知らぬクレイジーでルナティックな連中が所狭しと溢れ返っていた。人も
妖怪も神も関係無い、そこにあるのは速さだけ。速さこそが己を表現するすべて
であり、風と音と光に喧嘩を売る度胸と酔狂を兼ね備えた阿呆のみに、栄光の
ゴールテープをぶち破る権利が与えられるのだ。

 大会は最終日。
 決勝に残ったのは、片や優勝候補筆頭、片やまさかのダークホース。
 二人の間に歩み出たミスティアが、自慢の美声を張り上げる。
「ゼッケンナンバー壱! 山の最速ダウンヒラー、射命丸文!」
 勢い良く右手を突き上げた文に、地から、空から、雄叫びのような歓声が
降り注ぐ。妖怪の山に程近いロケーションであるせいか、山のアイドルともされる
射命丸を応援する者は非常に多かった。ましてや彼女は自他共に認める"最速"。
陣営の『負ける要素無し』の声を反映するまでも無く、オッズは脅威の1.2倍を
付けていた。
 唯一の不安要素は、決勝にのみ用意された特製の大玉である。主催者発表で
『重くなる』とはされていたが、準決勝までのハリボテとは明らかに訳が違う。
「大丈夫ですか? 文さん」
 心配そうに見つめるセコンドの椛に、文は不敵に微笑んだ。
「平気。ふん、天狗の力も舐められたものね」
 絶対の実力に裏付けられた自信。そこに隙は無かった。

「ゼッケンナンバー弐! 三途の暴走カウボーイ、小野塚小町!」
 見様見真似で後ろ手に持っていた鎌を振り上げた小町だったが、ギャラリーの
反応はイマイチだった。だがそれも仕方ない事なのかもしれない。彼女は三途の
川の渡し、この世に来ている時に出会ってでも居ない限り、知り合うのは死んだ
後の事なのだから。
 これまでの勝ち上がりも、クジ運によるところが大きい。準決勝では、
ゴール目前で血反吐を噴いて倒れたパチュリーの脇を通り過ぎる瞬間、
ブーイングが起きたくらいであった。
「小町」
「四季様……来てくれたんですか」
 呆れた馬鹿騒ぎと切捨てていた上司がここに来て顔を見せた事に、小町は驚き
を隠せなかった。
「まったく……。里の人間と山の妖怪の友好をと開催された大会だからこそ
見逃していましたが、まさか1週間もかかるとは」
「いや、はい。すみません」
 映姫は神妙に頭を垂れる小町を見て、僅かに笑う。
「まあ、いいでしょう。明日から頑張ってもらいますからね」
「へえ」
「ですから」
 ちらりと天狗を見て、四季映姫は小声で囁いた。
「あの居丈高をへし折ってやりなさい」
 小町は、きょとんとした表情を――にんまりと崩し、
「任せといて下さいよ」
 大鎌を持つ手に、力をこめた。

「さて、解説の阿求さん。このレース、どのような展開になるでしょう」
「そうですねぇ。雨にでもなれば、パワーに不安のある射命丸さんに若干の不利
 も付くかと思ったんですが、今の様子では必勝体制と言えるでしょうか」
「では、一方の小野塚陣営は」
「準決勝まで使っていた、活性爆破で自在に大玉をコントロールする技ですが、
 この重さとなると無理がありますね。何か代替策でも無い限り、厳しい戦い
 になると思います」
「なるほど。それでは、まもなく発走です。
 この番組は、あなたの町のホットスポット、香霖堂がお送りしています」

 プリズムリバー三姉妹のファンファーレが鳴り響き、会場のボルテージは
最高潮に達していた。種族、強さ、すべての壁はその興奮の前に破壊され、
人々が唱えるそのカオスなビートは、普段長閑な山道の空気をぐつぐつと
沸き立たせていた。
 魔女の釜を掻き乱すのは、全財産を死神に賭けた青年であり、黄色い声を
張り上げる若い天狗であり、その他諸々分け隔てなくすべての参加者達だ。
 運命が何だ、死が何だ、今はそんな事はどうでもいい。ただここに求め
られるのは、あの歪に輝く凶悪な大玉を転がす事のできる、ただただ速く
転がす事のできる、そういう能力なのだ。
 そう。もしこの戦いに勝ったのなら、そいつには新しく与えられるであろう。
 "大玉を誰よりも速く転がす事のできる程度の能力"が――!

「位置についてー」
 文は、手持ちのスペルカードを確認しつつ、大玉の前に立つ。
 今日のコースはスタートから下り。これはおそらく大玉の重さを考慮して、
そのような場所を選んだのであろう。スピード感に溢れるレースを演出しつつ、
坂の終わりにはヘアピンカーブが待ち構えている。この重量を止められなければ、
奈落の底へ一直線だ。
 ふん、と文は鼻で笑う。
 馬鹿にするな。山の天狗は、そんな事ではうろたえない!

「よーい」
 小町は、このレースで活性爆破が役に立たない事を当然把握している。
 ではどうするのか。純粋なパワー、スピード、どちらも天狗には敵わない。
 しかし、彼女は見事にその打開策を探し当てた。その発想の飛躍こそ、
まさに"距離を操る程度の能力"の新しい形であり、小町の死神としての
飛躍であると言えよう。
 見てて下さい、四季様。
 あの生意気な鴉天狗に、一泡吹かせてみせましょう!

「どん!!!」

「順風「大玉転がしの道」! 魔獣「鎌鼬ベーリング」!」
 連符。スタートからの大技に観客がどよめく。既存スペカのみならず、
専用スペカまで用意しての連符。順風でスピードアップを図ると共に、
自身の体そのもので方向転換をしようという合わせ技である。

 一方、小町は――
 集中していた。スペカを手に持ち、その発動に全神経を研ぎ澄ませていた。
 スタートダッシュに成功した射命丸から視線を離し、その場に居た全員の
視線が彼女に集まる。
 そして、彼女はカードを叩きつけた。
「舟符「河の流れのように」!!」
 そのスペカを知る者は、ことごとく耳を疑った。発想は悪くない、この
スペカは若干ながらも水を呼び出すので、それによって摩擦抵抗を減らし、
転がしやすくする事はできるだろう。しかし、その程度であの悪魔の球体を
押す事ができるのか。実際、大玉はびくともしていない。
 しかし――次の瞬間、ギャラリーはその目を疑った!

「あ、あれは!!」
「知っているのか、阿求!?」
「……阿求?」
「いえ、阿求さん」
「あれはカタマラン型、2880CC、最高時速205km/hを誇ると言う世界最高の船――
 パワーボートのフォーミュラクラスF3000の機体ですよ!」

 肉食獣の王ライオンを思わせるエンジンの唸り。
 無駄の無い海の強者シャチのようなフォルム。
 そこには、世界の海を股に掛けて戦いを繰り広げ、つい先日幻想入りした
ばかりの真新しい機体が鎮座していた。
 側面にはSANZU-SHIP NITORI SPCIALの文字が煌き、ハンドルを握った小町の
姿はまさしく三途の川の暴走カウボーイの名に相応しいものであった。

えーき「失格」
こまち「えー!(がびーん)」

ということで文の勝ち。

後日談になるが、そもそも水が少なすぎて船符じゃダメでした。























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