寝・逃・げでリセット! ~ 2nd reincarnation

寝・逃・げでリセット! ~ 2nd reincarnation ◆30RBj585Is



皆は嫌な出来事があったら何をして気分を紛らわす?
内容にもよるが、多くは
食べる、呑む、遊ぶ、休む、と様々な手段があると考えられる。いわゆる気分転換だ。
そうやって自分を休ませ精神的に落ち着いたら、嫌な出来事をありのまま受け入れる。人は皆、そうやって生きているはずだ。
嫌な出来事を忘れろとなると無理があるだろうが、だからといってそれをいつまでも引きずっていると、その先に待つのは絶望のみ。
特にこの殺し合いでは嫌な出来事など無数のように起こる。それら全てを頭に抱えることなど誰であろうが出来やしない。

例えば、殺し合いにおける『嫌な出来事』の筆頭であるだろう、『死』。
ここで、ある女性について注目しよう。
名は西行寺幽々子。白玉楼の姫であり、冥界に住む幽霊の管理者でもある。
故に、彼女は多数の人の死に出会っている。死に至るまでの過程は?心境は?そういったものなどは当たり前のように見てきている。
生物が死を迎えるのは当たり前のことだ。ゆえに誰が死のうが、悲しみの感情が湧くことはない。湧く理由がない。そういうのはいつも見ているのだから。
…しかし、そんな彼女もまた例外ではなかった。



―――時間は12時直前。場所は香霖堂

幽々子はこの場所で、まるで死んでいるかのように静かに眠っていた。
そして、その傍らには2人の死体がある。
片方は星の妖精、スターサファイア。そしてもう片方は・・・白玉楼の庭師、魂魄妖夢。
何故、このようなことになっているのか?
それは今から2~3時間ほど前の事。この場所である惨劇が繰り広げられたからだ。



『幽々子様、ご壮健で何よりです』
『貴方もね、藍。その様子だと紫はまだ見つかっていないのかしら』
殺し合いに反発する者達が合流を果たした。その数は6人という大人数で、その大部分が幻想郷では名の知れている実力者たちだった。
傍から見れば誰もが思う。この団体は、ゲームが始まってから今までの軍団の中では最も強力なものとなる、と。
…そう、そうなるはずだった。

『魔理沙や霊夢はいいわよ。異変解決の為に沢山の幻想郷の住人と関わってきたんですものね。
 皆と力を合わせるって、参加者のほとんどと顔見知りだからこそ言える台詞だって自覚しているの?』
だが、その中の一人である妖夢は、ある人物がどうしても信用できなかった。
その名はフランドール・スカーレット。あの悪名高い紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹にあたる。
妖夢にとっては、あの紅魔館の住民というだけで悪印象しか持てなかったのだろう。その考えゆえに
『うおおおおおおぉっ!!』
『……ぇ?』
フランと再会し周の者たちからの執り成しで休戦したにも関わらず、妖夢は再度奇襲を仕掛けたのだ。
『―――シネエエエェェェッ!!』
『―――おおおおおぉぉッッ!!』
だが、実行は失敗に終わった。それどころか、何の罪もない妖精を殺害してしまい、それがフランの怒りに触れてしまった。
突然の仲間同士による殺し合いに、誰もが困惑しただろう。とにかく戦いを止めねば、誰もがそう思っていた。
そんな中、幽々子は言った。
『お願い。……お願いだから……―――誰かとめてえええぇぇぇっ!!』

結論から言うと、幽々子の願いどおり二人の戦いは止まることができた。
…だが、その過程は最悪なものだった。
戦いを止めたいと願う幽々子が無意識に発動した死蝶・・・それが妖夢に命中してしまった。
当然、それを受けた妖夢は死亡。そしてなお暴走を続ける死蝶を前に、フランはもとより、仲裁に入った魔理沙や藍も恐怖した。あのような悲惨なことを突然目の当たりにするとは思わなかっただろう。

だが、幽々子はそれ以上に悲惨なことだということも忘れてはならない。
幽々子にとって、妖夢は娘同然だった。その妖夢をよりによって自分の手で死に追いやってしまった。
妖夢を失った悲しみはもとより、それ以上に妖夢を殺したという事実に罪悪感や後悔念で襲われることだろう。
幽々子のことをよく知っている藍でさえ思っている、悲しみや嘆きによる精神の崩壊。それはもはや時間の問題となるはずだ。



さて。ここで、簡単そうでとても難しい質問をする。
嫌な出来事を前にしたら、どのように振舞う?



□ □ □



「う・・・」
眠りからようやく覚めた幽々子がうめき声を上げた。
「ここは・・・。どうして?私は・・・?」
だが寝起き直後だからだろうか、やや錯乱気味のようだ。今の状況をすぐに呑み込むには時間がかかるだろう。

「私は・・・森の中で妖夢と会えて、それで・・・」
ここで幽々子はハッとする。
「そうだわ!妖夢!妖夢は何処!?」
いつもなら目覚めと共に妖夢が声をかけてくれるはずなのに、それが無い。
妖夢は自分のそばにいたはずなのに・・・。そう思い幽々子は辺りを見渡そうとしたが、目的の彼女はすぐに見つかった。

「妖夢!私よ、幽々子よ!起きてちょうだい!」
だが、彼女は床に横たわってぴくりとも動かない。呼吸音も聞こえないし、体内の鼓動も感じ取れない。
そして、何より半人半霊の象徴である半霊が無い。半霊が無いということはすなわち、その体に魂が宿っていないということ。
ということは・・・
「嘘・・・嘘よね、妖夢・・・?
お願い、返事をして・・・。ねぇ、妖夢ったら」
妖夢は死んだ。死という概念に詳しい幽々子ならば、すぐにでも分かることだった。
その事実を知った途端、幽々子の顔が死人のように青ざめる。それと同時にわなわなと体を震わせ、あふれ出る涙を抑えることが出来ずに妖夢の死を悼み嘆いた。
「妖夢――――――――っ!!」
藍の言うとおり、このまま幽々子の精神は崩壊してしまうのだろうか?



「誰が・・・誰がこんなことをしたの・・・!」
幽々子は唇を噛み締めながら怒りを露にした。それは、普段の温厚な雰囲気が微塵も感じられないほどだった。
…だが、『誰が殺した』とは?妖夢を殺したのは結果はどうであれ幽々子自身のはずだ。
それなのに、何故彼女はこんなことを言う?

「確か、私は妖怪に襲われた妖夢を助けた後・・・」
幽々子は、自分たちに何があったのか。それを懸命に思い出そうとする。
だが・・・
「・・・どうも記憶に無いわ。私たちに何が起こったのか・・・」
全く頭から出てこない。何故妖夢は死んでしまったのか。そんな状況で何故自分は呑気に眠っていたのか。それが全く分からない。
「ねぇ、妖夢。教えてちょうだい。私たちに何が起きたのか、あなたに何が起きて死んでしまったのか、答えてちょうだい」
妖夢の死体に聞いてみても全く意味が無い。死人に口なしというか、制限による死体との会話の阻害によるものか、亡骸となった妖夢が教えてくれることは無かった。

傍から見れば、死体相手に教えて教えてとせがむ幽々子が精神的に狂っているように見える。
だが、当の彼女は正気でいるつもりだった。だって、本当に彼女は何も知らないのだ。
…妖夢と出会ってから、それ以降の経緯を全てをだ。まるで、痴呆を起こした老婆のように、記憶が無いのだから。




そう、幽々子は妖夢に会った後の記憶を全て無くしたのだ。
解離性障害という症状がある。何らかの原因で受けた心的外傷への自己防衛として、自己同一性を失う神経症の一種である。これにより、その心的外傷と関係のある記憶が一部または全てが失われるのだ。まさに今の幽々子はその状態である。
妖夢の死、そしてそれを起こしたのが自分自身という理不尽且つどうしても受け入れることの出来ない事実を、全て無かったことにしたかのようにリセットしてしまったのだ。

そんなことをしても、妖夢の生死は変えることはできない。だが、少なくとも『自分が殺した』という耐え難い真実を無かったことにはできる。
これにより藍が恐れていた精神崩壊は、解離による自己防衛によって免れたということだろう。

だが、自己防衛とはいえ、解離は一種の記憶障害だということを念に入れておかねばならない。
記憶の阻害は後に様々な支障をきたす。普通では考えられないようなことが当たり前のように起こるだろう。

となると、幽々子の場合はどうなってしまうのだろうか?


□ □ □



「妖夢・・・」
この妖夢の状態・・・
応急処置はしてあるとはいえ、肩や胸に酷い外傷があり見ているだけでも痛々しい。
それでも、急所は幸いにも外れている。この程度では命に関わるようなものではないはずだ。
それなのに何故?何故死んでいる?まるで、魂が抜けたかのような状態になって・・・まるで、死を操る能力を持つ自分に殺されたかのように・・・。

まさかと思い幽々子は手に霊力を集中させ、死蝶を出そうとする。
だが・・・
「死蝶が・・・出ない?」
出る様子は無い。やはりというか、そんな感じはした。
触れるだけで死ぬような危険な弾幕を主催者が許すはずが無い。そう考えると、死蝶が出ないのは当然といえよう。
「そうよね。簡単に死に追いやるような力をここで使えるなんて、反則以外の何物でも無い」
ということは、妖夢は死蝶で死んだわけではない。そう思うと、心底でホッとした。
となると、妖夢の死因は何なのか。外傷を加えずに殺す方法なんて、死蝶以外に何がある?


「あら。これは・・・?」
ふと、妖夢のそばに落ちていたメモ帳に目が行った。それはただのメモ帳ではなく、何者かの筆跡が加えられている。
つい手にとって、そのメモを読み始める。すると、それが誰の手によって書かれたものなのか、幽々子はすぐに分かった。
「・・・藍の字だわ」
幽々子は、メモの内容よりもまず先に筆跡のことで驚いた。
これがここにあるということは、藍がこの場所に立ち寄ったことがあるということだ。

「そう、確かに藍とも会えたはず・・・」
そういえば、確かに自分たちはこの場所で藍を見かけたような覚えがある。そのときは壮大に喜んだはずだ。
だが、その藍はこのメモ帳を残して去っていった。何故かは分からないが、それはメモの内容を読めば分かるはず。
そう思い、幽々子はメモ帳に記された字を読み始めた。




結論から言うと、藍が書いただろうメモ帳を読んだところで幽々子の記憶は戻ることはなく、彼女はただメモ帳に書かれてある内容をそのまま受け入れているだけだった。
主催者や霊夢に関する情報を頭に入れ、首輪や小町といった何故自分たちの情報がこのメモに記されたのかを疑問に思う。それだけだった。

…いや、その中でどうしても腑に落ちないことがあった。
「フランドール・スカーレット。何故、藍と一緒に・・・?」
確か、妖夢が深夜のときに襲った相手が彼女だったはず。
更にメモを読む限りでは、その彼女がいろいろあって藍たちと行動することになっているようだ。
そして、メモの内容・・・。それは藍たちの情報だけでなく、自分や妖夢に関する情報まで丁寧に書かれていた。こんなことが書けるなんて、直接自分たちが情報を提供しない限りはありえないことだ。
ということは・・・
「そして、私たちも藍と会ったということになるでしょうね。こうなると、妖夢はフランドールと再会したということになるのかしら」

妖夢が襲ったフランが藍といる。そんな状況で自分たちが藍と会ったらどうなるか。
藍や一緒にいただろう魔理沙は問題無いだろうが、フランは妖夢に対して何らかの遺恨があってもおかしくない。
レミリア・スカーレットを代表とする、紅魔館の悪魔は基本的に気まぐれな性格だ。もしかしたら、襲われた恨みを込めて、何かを仕掛けてくる可能性だってある。
何より、フランは破壊の能力を持っているはずだ。この能力ならば、むき出しになっている妖夢の半霊を破壊する事だって出来る。
妖夢の半人部分に異変が無いのに死んでいるということは、半霊部分に何かがあったということ。
もしフランの能力で半霊部分を破壊されたとなれば、妖夢は・・・


「・・・そう、そういうこと。よく分かったわ」
簡単なことだった。
半人半霊を傷つけずに殺すならば、半霊部分を攻撃すればいい。
もちろん半霊部分に物理攻撃は通じないが、それそのものを破壊されるとなるとどうしようもない。そう、妖夢をあの状態にして殺せるのはフランだけだ。そう考えると、彼女が犯人の可能性が高い。
恐らく、フランは何かがきっかけで暴れ出してその拍子に妖夢が殺され自分は気絶した。そのフランがここにいないのは、藍が何とかしてこちらから引き離してくれたからだろう。そう考えると辻褄が合う。


―――あの悪魔が妖夢を―――

ふと、無意識に右手に霊力がこもった。その右手は出ない死蝶を出さんとばかりにうずいている。
「・・・もう、何を考えているのかしら」
ハッとした幽々子は右手を振り払う。
もしかして、自分は何やら邪な念に囚われているのではと思った。そう思った幽々子はその考えを無理にでも否定する。こんなこと、何の特にもならないことくらい分かっているのだから。
「・・・敵討ちなんてらしくないわ。そんなことをしたところで妖夢が帰ってくるわけではないのだから」

幽々子はここで一呼吸おく。そして目をつむり、悟りを開くかのように黙り込んだ。
すると、しばらくして彼女は目を開け、自分に言い聞かせるように言う。
「そう、これは皆を助けるため・・・。これ以上の被害を防ぐため、可能性のある危険を取り除くことなのよ」
妖夢の敵をとるため?
断じて違う。そう思いたかった。



そう、最初から目的は変わらない。
誰が犠牲になろうが、自分に何が起ころうが変わる事はない。

全てはこの殺し合いを止めるために、理不尽な死の運命を断つために・・・



【F-4 一日目 香霖堂 昼】
【西行寺幽々子】
[状態]健康、親指に切り傷、妖夢殺害による精神的ショックにより記憶喪失状態
[装備]64式小銃狙撃仕様(15/20)
[道具]支給品一式、藍のメモ(内容はお任せします)、不明支給品(0~2)
[思考・状況]妖夢の死による怒りと悲しみ。妖夢殺害はフランによるものだと考えている。
[行動方針]フランを探す。態度次第ではただでは済まさない
[備考]小町の嘘情報(首輪の盗聴機能)を信じきっています
※幽々子の能力制限について
1.心身ともに健やかな者には通用しない。ある程度、身体や心が傷ついて初めて効果が現れる。
2.狙った箇所へ正確に放てない。蝶は本能によって、常に死に近い者から手招きを始める。
制御不能。
3.普通では自分の意思で出すことができない。感情が高ぶっていると出せる可能性はある。
それ以外の詳細は、次の書き手にお任せします。

※F-4(香霖堂居間)に、妖夢とスターの死体、妖夢のスキマ袋が放置されています。ようむのスキマ袋は拾うと思います。
※幽々子は妖夢に会ってから以降の記憶を失っています。そう簡単には治らないと思います。
 藍たちを見つける頃まではかすかに頭に入っているかもしれませんが、それ以降は(特に妖夢殺害の件)全く覚えていません。
※藍と一緒にいただろう魔理沙は今のところは保留です。





解離(かいり)とは起きた出来事が自らの認知の枠組みの囚われに合致しない場合にそれにまつわる観念や感情を無意識的に切り離すために起こる現象である。
性的虐待など激しい心的外傷の結果防衛機制として働く機能である。
参考資料:ウィキペディア フリー百科事典


簡単に要約すれば、受け入れ難い出来事に囚われないために記憶を閉ざすということだ。
つまり、事実から逃げているだけである。
今の幽々子の場合、『自分が妖夢を殺した』という事実から逃げているということだ。

実は、このようなことは初めてではない。幽々子は亡霊になったときに生前の記憶を無くしているという過去があるのだ。
記憶を無くした理由は分からないが、この記憶喪失を今回の件と同じようなものと考えてみるとどうだろうか?

生前に幽々子は死を操る能力を持ってしまい、彼女はその能力を疎い自尽した。だが、彼女はそれで消えることなく亡霊として留まってしまった。
せっかく死の能力を持つ自分が消えたと思ったのに。自分で自身の命を断つという大罪を犯してまで行ったことなのに。
結局はどう足掻いても自分は消えないということになる。もちろん、幽々子はそんなことは認めないだろう。
そこで幽々子が本能で行ったのが記憶を閉ざすこと。そうそれば、生前の自分は記憶という形が消えることになり、結果的に生前の死の能力を疎む自分は消えたということになる。

こうして、幽々子は生前の嫌な出来事から逃げることが出来た。と、このような考察が成り立つ。
もちろん間違っている可能性が高いだろうが、不自然な点はあるまい。
だが、記憶を失うからには、大抵はそれなりの大きな理由があるということを失念しないようにしよう。



それともう一つ。
どんな事柄であろうが『逃げる』という行動は別に悪いことではない。
特にこのような殺し合いにおいては、生き残るためにひたすら逃げるという手も有効なのだから。

だが、逃げるという行為に走る場合は『追い詰められて逃げ場を失う』ということを念頭におかねばならない。
例えば、月の兎の鈴仙・優曇華院・イナバは月で起こる戦争から逃げ出して幻想郷に来たのだが、その彼女も今はこの殺し合いに巻き込まれている。
死の隣り合わせな戦争から逃げ出しておいて、今の殺し合いという戦争よりも危険な世界に追い詰められて逃げ場を失ったのだ。哀れなものである。

もちろん、幽々子も人事ではない。
今は無事に『妖夢殺し』の事実から逃げているものの、何らかのきっかけでそこから逃げられなくなり追い詰められることがあるかもしれない。
もし、そうなった場合は・・・そのときが彼女の精神が崩壊する時だろう。

逃げ場を失ったとき
ヘビに睨まれて動けなくなるカエルになるか。ネコを噛んで乗り越えるネズミになるか。
幽々子はどちら側になるのだろうか。


97:哀之極 時系列順 99:夢よりも儚い砕月
97:哀之極 投下順 99:夢よりも儚い砕月
84:うたかたのゆめ(後編) 西行寺幽々子 107:幽霊がいるとして人生を操作しているとしたら

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最終更新:2009年10月12日 20:54
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