楽園の人間、博麗霊夢 ◆Wi98RZGLq
心が痛い。まるで何かナイフにえぐり取られたこのような喪失感と鋭い痛み。
はっきりいって、今まで人や知人の死を見たことは何度もある。
今回が、この殺し合いが初めてではない。
ただ、自分で命を奪ったのは初めてだというだけだ。
妖怪などの魑魅魍魎を退治し、時にはその存在を消し去ることは何度もやった。
しかし、最近ではスペルカード
ルールの導入でそこまでやることはなくなっていた。
そのブランクと親しい存在を殺した。その二つの要因により、私は我を失ったのだろう。
彼女はそう自分を分析し・・・・目を開いた。
目を通して入ってきた映像は見慣れない天井を映している。
「ここはどこなのかしら?」
ここに来た記憶はない。彼を刺してから我を失っていたから当然だろう。
ただやみくもに走っていた記憶がある。
そこから先の記憶は・・・・・・・ない。
今自分は寝具に横たわっているようだけれども、本当に自分で横たわったのだろうか。
疑問は尽きないがとりあえず、
「放送はまだみたいね」
まだ窓からは太陽の光が差し込んでいる。
そこまで確認して、博麗霊夢は体を起こし、「んっ」小さく伸びをした。
自身が入っていた寝具から抜け出ると、見たことのある人形たちが博麗霊夢を出迎えた。
「そう、ここはアリスの家なのね」
霊夢はつい数刻前に自身が殺した存在に思いをはせる。
その様子を人形たちが静かに見守る。
主人のいなくなったことに気づかずに、ただひたすら帰りを待つ人形たち。
このような光景はこれからいたるところで起きてゆくのだろう。
霊夢の脳裏に見慣れた古道具屋の道具達と店の店主の姿が浮かぶ。
霊夢の普通の人間の部分が少し揺らいだ。
霊夢は強引に思考を別のことに向ける。
そういえば・・・
この一日愛用してきた楼観剣を森に置き忘れてきてしまった。
白玉楼の庭師――そういえば彼女も既に完全な故人となっている。が使うその剣は、霊力
も籠り、切れ味も鋭く、使いやすかった。
いや、そうはいっても剣を回収することはできなかったはず。
「だって、あれはりんのすけさんの胸に・・・ささって・・・・」
あの剣は森近霖之助の胸に刺さっていた。
ああ、彼はもう死んでいるだろう。
いくら妖怪の血が混じっていようがあそこまで深く胸に刺されば死んでしまう。
Flashback
霊夢は自身がりんのすけを刺したその瞬間をまじまじと思いだした。
霊夢は自身の顔についた乾いた血の本来の持ち主を思い出す。
霊夢の心は揺れる。
霊夢は・・・・。
霊夢は・・。
「もう、もういいわ。どうでもいいのよ。他人なんて!私は異変を解決するの!」
霊夢は思考を放棄した。そして、違うことに頭を向ける。
頭に浮かんだのはアリスの弾幕、そして楼観剣を失くしたこと。それから・・・・
魔法の森の一軒家からは騒々しい音。
「何としてでも」
霊夢は棚から人形を引きずり落とし、ナイフでその首を落とす。
「強い武器を手に入れないと」
中から出てきた不思議な色の火薬を掻きだし、集め、
「紫の馬鹿!役立たず!」
手近な袋に詰める。
「なんであんな吸血鬼をかばうの」
また首をはねて、
「りんのすけさんの馬鹿!」
火薬を集める。
すぐに霊夢の手元には大量の火薬の袋が集まり、床には人形たちの無残なパーツがばらまかれた。
死んだアリスが見たらなんというだろうか?
しかし、あいにく故人の姿はそこにない。
この火薬が楼観剣に変わる武器になるのか不安はあったが、霊夢は達成感を感じていた。
今までの鬱の反動なのだろうか。
西洋風にいうなら、彼女はハイになっていた。
大声をあげて作業をしていたせいか、いつの間にか心のもやもやはなくなっていた。
あるのは異変解決。ただそれだけ。
近くの棚からマッチも回収し、霊夢は荷物をまとめる。
気分は良かった。
意味もなく、相手もなく、自分に言い聞かせるように言葉が口からこぼれる。
「もう私は引き返せないのよ」
もう私はたくさんの存在を殺した。
これからもたくさん殺してゆく。
ソシテ、異変ヲ解決スル。
決意を新たに、外への扉を開けた霊夢の前には・・・
「やっと起きたのかい?まだ昼間なのに、ずいぶんとのんびり寝ていたねえ」
沈みゆく太陽と
「それにしてもお前さん、随分と重たいんだねえ。流石のあたいも運び疲れちゃったよ」
夕日を背にした死神がいた。
まず口を開いたのは霊夢のほうだった。
「なんであんたがここに?」
ナイフの刃を向け、霊夢が詰問する。
距離を縮めようとする霊夢を能力であしらい、さらにトンプソンを構え、牽制。
霊夢の動きが止まったところで、小町が言う。
「お前さんは森の中で倒れていたんだよ。放っておけばどうなっていたことか。」
「ようは私をここに運んできたのはあんたなのね」
当たり前のことを確認され、小町はうんざりしたように言う。
「さっき運び疲れたって言ったのに、聞いていなかったのかい」
死神の苦笑い。そこで会話が途切れる。
―――こいつは殺し合いに積極的に参加しているの?私を助けた理由は?
―――博麗の巫女のスタンスはなんなんだ?
それぞれの視線が交差する。
二人の向きあう光景は、とても友好的なものには見えない。
腹の探り合い。傍から見れば殺し合っているようにも見えるだろう。
沈黙が世界を支配した。
【F-4 魔法の森 一日目・夕方】
【博麗霊夢】
[状態]霊力消費(小)、腹部、胸部の僅かな切り傷
[装備]果物ナイフ、ナズーリンペンデュラム、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障)
不明アイテム(1~5)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.とりあえず目の前の死神を何とかする。
2.とにかく異変を解決する
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない
【小野塚小町】
[状態]身体疲労(中) 能力使用による精神疲労(小) 寝起き
[装備]トンプソンM1A1(50/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×3
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1. 博麗の巫女は何を目的に動いているんだ?
2.生き残るべきでない人妖を排除する
- 森をさまよっていた霊夢をアリスの家に運んできたのは小町です。
- 火薬の威力・量は後の書き手さんに任せます。
最終更新:2015年02月22日 19:39