黒い羊は何を見るのか ◆27ZYfcW1SM
「……ねぇ、魔理沙」
「……何だフラン?」
「これからどうするの?」
「それがわかれば私は諸葛亮孔明になれるかもな……」
「そうね……」
「……ねぇ、魔理沙。あいつはなにしてるの」
「フラン、それはお前に友達がもっともっと沢山出来れば分かることだよ」
「そう……」
「……ねぇ、魔理沙。さっきの男の人、なんて言ってたの?」
「それはなぁ……私は香霖の妹分で、自分を傷つけるな。女の子だから誰かに守ってもらえだと」
「……そっか」
「あと、紫への伝言で『契約を守れなくて済まなかった』」
「契約って何?」
「知らない」
「そう…だよね…………」
香霖、お前は何を考えて、どうやってこのゲームを壊す段取りを考えていたんだ?
香霖が死んで数十分が経った。
紫は藍と香霖の遺体の前に座っている。紫は何も言わなかったが、私は一方的に私たちに起こったことを聞かせた。
紫は幽々子と仲がいいなら知っておくべきことだろう。
そのことを言っても紫は眉一つ動かさなかったが……
霊夢は走っていったっきり音沙汰がない。
遠くへは行ってないだろうが、追う気力が湧いてこなかった。香霖を殺した相手だというのにだ……
霊夢が憎い。
憎い。それも日常的に抱く憎悪の比ではない、腐った沼の底のヘドロのようなドロリとした……そんな人間の汚い部分。が私にも湧く。
だって、私の大切な人が殺された。私はキリストなんかじゃない。親に勘当されるし、アリスには口を開けば文句を言われるし、パチュリーに至っては紅魔館に居るだけで追い出されるし、私は悪い人間だ。
霊夢…許さねえ……
霊夢に煮え湯を飲まされたことは今までにあった。それを全部流そう。
だけど、香霖を殺した罪……しっかり払ってもらうぞ。
私とお前、友達だから友達ならではの仕方で……
「よし……」
腹は括った。あとは動くだけだ。
「フラン、そこで少し待ってろ。私は紫と話をしてくる」
「わかったわ」
フランは目が見えない。
ただ日光を直視死ただけであるため、強力な吸血鬼の回復能力をもってすれば制限の度合いも考慮して数時間もすれば見えるようにはなるだろう。
それでも、目が見えない者を一人ぼっちにするのは誤りであるのは明確である。
魔理沙もそれはわかっていた。もちろんフランも。それでも魔理沙はフランを一人にする行動を取り、それをフランが許すには理由があった。
フランは名簿の一ページを手探りで探しだすと水で濡らして瞼の上にそっと乗せた。
自分で作った暗闇のスクリーンに先程の魔理沙の姿が映し出される。
『誰かのせいにするなっ! それでも私の友達か!?』
フランは魔理沙の心の形を考える。
魔理沙だって思ったはずだ。紫さえ来なければ霊夢を倒すことができたのではないか? 紫が森近霖之助って人を連れてこなければ彼は死ななかったのではないか? と……
それでも魔理沙は感情を露骨に出さず、耐え、そして、私を止めた。
あいつ…いいえ、お姉さまが「死ねばいいのに」と言っていた事を思い出す。
もうすぐ朝が来るそんな時間帯。お姉さまが紅魔館に帰ってきた。そのときちょっと不機嫌だったと記憶している。
私は問うた。「ならばお姉さまが殺せばいいじゃない」
お姉さまは言った。
「私なら簡単にあんなやつを殺せるでしょうね。でも、私が殺したら霊夢が黙っていないわ。
フラン、何か行動をするには必ずその行動の責任を持たないといけないの。
殺して、その責任をとらされれば、私にはあまりにも不利益でしょ?
だから他の人が殺してくれれば私は得ってわけよ。咲夜、って、もう紅茶入れてあるわね」
当時はなんのことかよくわからなかった。それは外を知らなかったから。
外はお姉さまの言うような難しい倫理で埋め尽くされている。
魔理沙は私が紫を「殺してくれれば」得だったはずだ。
それを脊髄反射のように止めに入った。
きっと魔理沙は何かでその行動をとったんだと思う。
それが私が持ってないもので魔理沙が持っているもの。
私が持ってなくてお姉さまが持ってたもの。
みんな私みたいに地下室に閉じ込められた事はない。私だけが持っていなかったもの。
私にも見つけられるかな……「それ」
一人なら私はそれを探しに行ける。自分の中へ……
〆
紫は霖之助の片手を両手で包み込むようにして握っていた。
「紫……香霖からの伝言を伝えに来たぜ」
私の声に反応してこちらに顔を向ける。だいぶ紫らしくない顔だ。
いつかの飄々とした雰囲気はなく、葬式会場のような空気だ。まだ葬式は始まっていないのにな。
「『契約を守れずに済まなかった』だとよ」
紫は口を抑えて顔を背けた。
「最初に契約を破ったのは私でしょう……! 貴方は謝らなくていいのに……」
「紫……私の仲間になってくれるよな。
霊夢を……霊夢を止める仲間になってくれるよな!」
「私は…………」
「……ねぇ、魔理沙」
「……何だフラン?」
「どうして行かせるの?」
「それはだな……私にもわからん」
魔理沙さんにはあの妖怪の考えなんてずっと前から読むことなんてできないさ。
紫は私の仲間になることを『保留』した。
紫は何処かへと風に流されるように歩いていった。それは紫が選んだ事だ。私は止めない。
「紫……私の仲間になってくれるよな。
霊夢を……霊夢を止める仲間になってくれるよな!」
私は半ば確信があった。
あれだけの事を起こしたのだ。霊夢を支持する立場なんて捨て去ると思っていた。
だが紫は……
「私は……あなた達と一緒に居られない」
ぎょっとした。
「お前!! まだそんなことを…!! 霊夢はお前の式を殺したんだぞ
確かに霊夢は大切さ。幻想郷と同じくらい大事だろうよ!
だけど、私は他の命だって大事だと思ってる。
お前も、霊夢も、香霖も、お前の式だって……そいつらみんな集まって私が愛した幻想郷だろ」
「お前が愛した幻想郷に私たちは居ないのかよ。そんなのって寂しすぎるだろ……」
「五月蝿いわ」
周りの音が消えた気がした。
「霊夢を止めて、それが何になると言うの?
霊夢を例え殺したってゲームの中の一つの事象でしかないわ。
全てゲーム盤の上で起こり得る予定調和。それはゲーム盤を壊したことにはならないわ。
私たちに求められることはゲーム盤では起こりえない動き。
歩が後ろに下がり、飛車が斜方に動くようなロジックから逸脱した動きをして、始めてゲーム盤の外に出ることができるのよ」
「例えお前が歩を後ろに下げ打も香車が前に居れば、いくら後ろに下がろうと刺されるぜ。
飛車が斜めに動ごかそうと、『角が二枚』じゃ飛車を持った相手には互角に戦えないだろ。
これがゲーム盤の上だって言うならゲームに勝てばいい
私はゲームの駒なんかじゃない。誰かに指すれる存在じゃない」
「駒はみんな決まってそう言うものよ。
貴方は所詮、釈迦如来の手の上で馬鹿騒ぎしている孫悟空ってところね」
「孫悟空だって最後は牛魔王を倒すんだぜ」
「……これが私が貴方の仲間にならない理由。
私と貴方では考え方が違いすぎる」
「ああ……そうだな。でもお前は私と同じことを考えてるぜ」
「ええ、それだけは一緒みたいね」
紫と魔理沙はお互いの顔を伺う。
一方は「相変わらず真っ直ぐな目ね」と思い。
もう片方は「いい目じゃないか。誰にも捕らえられない歪んだ目だが、それがいい」と思った。
「わかった。お前はお前のやりたいようにやってくれ。でも私は霊夢を止める行動方針は変えるつもりはないぜ」
「結構よ。私一人でもこのゲーム、必ず壊してみせるもの」
そういって紫は霖之助の肩からショットガンを下ろした。
「彼の銃よ。私が寝ている間にだいぶ整備してたみたい。
契約で私はこの銃は使えないから貴方が使いなさい」
「私は八卦炉もあるんだ。お前はそのクナイだけなんだろう?
お前が使えよ」
「言ったでしょ? 私は契約で使えない」
「契約って……こんなときにか?」
「こんなときだからこそよ。この契約は私の我侭なんだけどね……」
「そうか……なら有難く借りていくぜ。香霖……」
魔理沙はその肩にSPAS12を掛ける。
「弾よ、二種類あるらしいから状況にあわせて使いなさい」
そしてバードショットとバックショットの実包がそれぞれ入った2つの紙で出来た箱を受け取る。同時に説明書も受け取った。
「魔理沙、別れる前にお願いがあるわ」
そういいながら紫は一枚の紙を手渡した。
魔理沙はまた手紙か? と思ったが、見た内容は手紙とは言いがたいものであった。
【硝酸アンモニウム】(重要)
【ガソリン】【木炭】【硫黄】【アルミニウム粉末】
【硝酸カリウム】【硝酸ナトリウム】【マグネシウム粉末】
手紙というよりは、魔理沙の知っている化学物質からまったく知らない化学物質が羅列されているだけのメモであった。
そして下のほうに『これらのうちどれかひとつでも見つけることが出来たなら香霖堂に運び入れておいてほしい』とある。
「これがお前の戦い方なのか?」
紫は返事をしなかった。
ただひとつ言える事は、いつもの底が読めない顔でもなく、さきほどのひどく落ち込んだような表情でもないということだ。
「魔理沙、ショットガンの弾をひとつ持っていくわ。この音が聞こえたら音が聞こえた所に来て頂戴。それと……」
紫は隙間の中から包帯と目薬を取り出すと私に投げた。
「吸血鬼によろしく。悪かったわ」
紫はそう言い残すと、荷物をまとめ、最後に藍と香霖の死体に手を合わせた後、どこかへと歩いていった。
「仲間にならなかったね……」
フランがぼそりと呟いた。会話が聞こえていたようだ。
フランが私に尋ねる。
「……ねぇ、魔理沙」
〆
「どうしてなのかしらね?」
紫は空に向かって尋ねた。
「私がしようとしていることが次から次へと裏目にでるのは……どうしてなのかしらね?」
紫の表情は先程魔理沙に見せた表情から前の青ざめた表情へと戻っていた。
紫にだって失敗が全くない訳ではない。むしろ、失敗の方が多いほどだ。
紫は有能である。だが、考えが浅い。
もっとも、紫は一を聞いて十を知る妖怪ではある。一般人からしたら大したものだ。しかし、策士のなかの策士は一を聞いて千を知るのである。
その策士からすれば紫の策は詰めが甘いのだ。
その紫が策を仕掛け、失敗しても、大きな手傷を負わずに今まで生活出来ていたのは彼女の人脈にある。
彼女に式、『藍』や神社の巫女、霊夢が紫の『後片付け』をしてる姿は幻想郷で多々見かける出来事だ。
もともと本気で練った策ではないのかもしれない。ひょっとしたら失敗して後片付けをさせるだけの策だったのかもしれない。
でも、どんな理由であれ後片付けは他人であった。
そのツケか?
今回の失敗の後片付けも他人であった。
そのおかげでもう後はない。
真っ先に後片付け役になる藍は殺され、霊夢は敵となってしまった。
ものぐさながら裏で手助けしてくれた霖之助も死んでしまった。
魔理沙も一緒に行動することを拒否してしまった。
幽々子もヒドイ目に遭っているらしい。
あの妖夢を殺したと聞く。ヘタをしたら精神的に参ってしまうかもしれない。
もう助けてくれる人はいない。
そして問題もまた一つ増えた。友人の一人、幽々子。
幽々子は一度親しい人をなくした悲しみで自分を殺している。
それほど優しい子なのだ……
私は幽々子の親友であるが、私が側にいてもどうすることもできないかもしれない。
でも……
二兎追う者は一兎得ず。
すでに失敗ばかりの私が同時に処理をこなす事は限りなく無理に近い。
死ぬのはもう嫌だ。失敗するのも嫌だ。
唇から血がにじむ、悔しい。自分がこんなにもできない事が悔しい。
幽々子…死なないで。お願い。そしてどうか間に合って。
私がゲームを壊すまで……
【F-5 魔法の森 一日目・午後】
【八雲紫】
[状態]正常
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0~2)武器は無かったと思われる
空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記、バードショット
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
1.藍と霖之助の死がショック
2.八意永琳との接触
3.ゲームの破壊
4.幽々子の捜索
5.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問
[備考]主催者に何かを感じているようです
ゲーム破壊の手を考えついています
「フラン……あいつを悪く思わないでくれ」
魔理沙は紫が去った後、第一声がそれだった。
みんな必死なんだ。
必死こいて走り回って自分がどっちの方向を向いているか分からなくなってるだけなんだ。
魔理沙は私に目薬を差し、包帯を巻く。
霊夢もだ。みんなみんな……
でも、それに罪があることを忘れないでくれ。
フラン、みんなを許せ。だけど罪を許すな。
言い終わると魔理沙は黙り込んだ。
数十分沈黙が続く。
「出来た。フラン! 見てみろ。銃剣ってやつだ」
沈黙を破ったのはまたしても魔理沙だった。
「……私は目が見えないんだってば」
「そうか……」
魔理沙はSPAS12に楼観剣の刀身をくくりつけただけの銃剣を置くと、また黙り込んだ。
魔理沙、あなたはどこに向かって走っているの?
【F-5 魔法の森 一日目・午後】
【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、帽子無し
[装備]ミニ八卦炉、ダーツ(3本)、楼観剣(刀身半分)、SPAS12銃剣 装弾数(7/8)
[道具]支給品一式、ダーツボード、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)、紫の調合材料表、バードショット(7発)、バックショット(9発)
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.香霖……
2.真昼、G-5に、多少遅れてでも向かう。その後、仲間探しのために人間の里へ向かう。
3.幽々子を説得したいが……。
4.霊夢、輝夜を止める
5.リグル・パチュリー・妖夢・幽々子に対する強い罪悪感。このまま霊夢の殺人を半分許容していていいのか?
※主催者が永琳でない可能性がそれなりに高いと思っています。
【
フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷、視力喪失(回復中)、魔力全消耗、スターサファイアの能力取得
[装備]無し
[道具]支給品一式 機動隊の盾、レミリアの日傘
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.魔理沙についていく、庇われたくない。
2.殺し合いを強く意識。反逆する事を決意。レミリアが少し心配。
3.永琳に多少の違和感。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じてます
※視力喪失は徐々に回復します。スターサファイアの能力の程度は後に任せます。
最終更新:2010年06月03日 17:58