KIA pictures

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まいど、森の中から射命丸文がお送りします。
どうやら、我々を追う者たちは追跡をやめた模様。
現在我々は湖から離れた森林を横断中。
私、射命丸文は死にかけております。
怪我は重く、足取りも重い、というよりびっこを引いています。
そんなかんなで、逃げるのも難しい有様。
そんな中、我々はレミリア嬢の追跡を警戒して、紅魔館からひたすら離れています。

にとりの死体を放置して・・・

悔しいとは思います。
ただ、ひたすら辛い。
でも、ここで死ぬわけにはいかないのです。
にとりたちの死を無駄にするわけにいきません。

「天狗、もういいと思うよ。いざとなったら私が能力を使うから」

右後ろから声がかかりました。
私以外の唯一の生き残り、サニーミルク、妖精です。
彼女もさすがに疲れ切った顔をしています。

そうでしょう、今日ここで起きたことは妖精の頭で処理できることではありませんから。
私でさえ処理しきれない。
現実を理解できない。

「休みましょうか」

後ろの妖精に無理に微笑んだ私は、そのまま地面へ座り込みました。
乙女がやっていいことではありませんが、今は緊急事態です。
まあ、いまさら服の汚れようもないことです。
許されるでしょう。

座ると同時に疲労と痛みが吹き出し、私はそのまま倒れこみました。
いくら妖怪といえども、限度というものもあります。
怪我をすれば痛い、悲しいことがあれば泣きたくなる。
先ほどから怪我の痛みのせいで、気分もおかしくなっています。
お酒に酔った感じのハイテンション。
とりあえず、休んだほうがいいことは自分でもよくわかります。
このままだと体が壊れてしまいそう。

私はそのまま痛みで意識を失いました。





そしてしばらくして、目を覚ました私と妖精は、ゆっくりと話を始めました。

「そう、ですか」

「うん、レティがどうなったかはわからないのよ」

私がいなかった間の出来事を報告がてら、少し期待を込めて、妖精はこちらを見ます。
サニーミルク曰く、あの冬の妖怪は、敵を引き付けて二人を逃がしたのだといいます。
生きているとは思えませんが・・・
死んでいると確証が持てるまで、妖精も彼女の死を認めたくないのでしょう。

腕を組んで、考えます。
悲しんでばかりもいられない。
私にはやることが多すぎます。

本当は悲しみたいのですけれどね。
泣いていても何も変わらない、それは千年近く生きた私の知恵。
行動あるのみ。
やるべきは悲嘆にくれることではなく、弔い合戦。
泣くのは終わった後でいい。

先ほど、妖精の前で泣いてしまったのは、一生の恥。
とはいえ、泣けたことで、自分の何かが変わったのも確かです。

「もっと仲間を増やさないと、あの吸血鬼は倒せないわ」

サニーミルクが、私を真似て腕を組み、妖精にしては頭を使った考えを述べました。
彼女も彼女なりに、必死に行動しているのでしょう。

「そうですね、仲間は必要です」

「えっと、チルノとか白黒とか、鬼さんとか、まだ生きているわよね」

「ええ、彼女たちに頼るのがよさそうです」

後は、蓬莱人間や山の上の巫女などが仲間にはなりそうです。
生きていればの話にはなりますが。
そう、生きていれば。
今のペースでは、次の放送で、また十人に近い名前が読み上げられることになります。
その中の一人に、探し人が含まれる可能性はそれなりにあるのでしょう。
とにかく、誰が今生きているかは把握しなければならないようです。

やるべきことはなさなければならないようです。
出来る限り後回しにしたかったのですが・・・そうにもいかないのですね。

「えっと、じゃあ、みんなを探さないと。まずは誰から探すの?」

「ちょっと、お花を摘みに行ってきますね」

用足しを理由に、私は会話を打ち切りました。
しかし、立ち上がって、貧血で一瞬倒れそうになります。
度重なる怪我で、血を失いすぎていたようです。情けない。

そんな私を見て、妖精は駆け寄りました。
立ち上がった私を支えて、座らせようとします。
妖精なりの心遣いなのでしょうか?

「花だったら私が摘んできてあげるから、休んでなさいよ」

「そういう意味の言葉ではないのですが・・・、少し一人にしてもらえますか?」

「あ・・、うん」

少し、さみしげな視線を投げかけてくる妖精。
彼女も心細いのだなと、私も理解しました。
だが、これを彼女に見せるわけにはいきません。

これは、私一人で見るべきものなのです。

「文がそういうなら、何かあったら呼びなさいね」

妖精を残し、私はその場を離れました。
森の夜は暗く、寒い。







サニーミルクから離れた木立の中。

射命丸文は静かにあたりの様子をうかがった。
人の気配もない、妖怪や妖精の気配さえ感じられない。

「では、勇気を振り絞って確認しますか」

独り言は勇気を奮い起こすただの手段。
受け手のいない言葉は、するりと木立に吸い込まれた。

文の目の前には一つの機械がある。
ボタンを押せば、目当ての物が手に入る。
情報、新鮮な情報だ。
誰が、どこで、どのように死んだのかがすぐにわかる、便利な道具。

「生きていてくださいよ。レティさん」

無駄と知りつつ、祈りをささげて、ボタンを押す。



念写機能/ON

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文の目の前に、死者の写真が展開されてゆく。
悪趣味な道具、ただ、今を生き抜くために欠かせない道具でもある。

「あなたは・・・」

まず出てきた写真は月兎、それから騒霊、どっちも屋内で死んでいる。
場所は・・・香霖堂?
恐怖や絶望で引きつった顔をしている。
決して穏やかでない死にざま。
さまざまな死を見てきた文も、少し顔を背けたくなった。

次は、伊吹萃香。
これから頼ろうと思っていた矢先での死の宣告。
鬼でさえあっけなく死ぬこの世界。
これで、頼れる相手がまた減った。

「あっ・・・・・」

次、レティ・ホワイトロック
傷だらけで死んでいる。
死んだのはにとりよりも前らしい、苦悶の表情で死んでいないことは救いである。
すくなくとも、その死に顔は安らかだった。
写真の順序から考えると、にとりよりも前に死んだのだと、文にも理解できた。


ボタンを押すとともに、次の写真が写り、そして、文は一瞬絶句した。

「・・・・・あの、吸血鬼がっ!!よくもこんなことを!!」

次の写真に写った河城にとりには胴体がなかった。
明らかに余計な死体損壊。
こちらが死体を見ることができることは誰もしらないのだろうに、
宙に浮かんだにとりの首は、誰かが画面の向こうの文に見せつけるかのように浮いていた。

宙に浮いた首、普通はそんなことは起こらないし、
にとりの無念さが彼女を怨霊の類にしたとも思えない。
この念写には参加者が写らない。
その説明が確かなら、これは誰かがにとりの首を持ち上げているのを写したことになる。

死んだばかりのにとりの首を持ち上げる者。
こんな残酷なことができる者。
思い当たるのは一人しかいない。

レミリア・スカーレット、絶対に殺す」

言葉とともに復讐を誓う。
相手の強さはよくわかっている。
だが、許せない。
それは、にとりが同じ山の河童だからというのもあるのだろう。
椛が死んでいるのを見たときと同じ気持ち、いやそれ以上の激情。
画面から除く視線を避けるため、文はまたボタンを押した。

次に現れたのは意外な人物だった。

「あやや、閻魔さまですか・・・」

幻想郷でトップクラスの実力者。
今までそういった者があまり亡くなっていないだけに、少し文もハッとさせられた。
ここでは、誰にでも死が与えられる。

パワーバランスを打ち砕く、銃という支給品。
能力の弱体化は、あの八雲紫ですら、神様ですら死に近づけさせる。

「仲間を集めなくとも、なにか決定的な支給品さえ手に入れば、いいのですがね」

もともと、天狗はプライドの高い妖怪である。
他種族の助けなどなきに越したことはない。
にとり達の話では、もう死んでいる蓬莱山輝夜はさらに強い銃を持っていたとのこと。
それさえ手に入れば、吸血鬼などおそれるに足らずかもしれない。

もっといえばそういう武器さえ手に入れば優勝だって狙え・・・・

そこまで考えて、さすがに文は雑念を振り払った。

「今は、吸血鬼退治にいそしまないといけませんからね
余計なことはそのあと考えればよいのです」

携帯の画面を閉じて、空を見上げる。

「少々長い花摘みです。あの子も心配しているでしょうし、帰らなくては」





「遅かったよー、心配していたのよ!!」

「ただいま戻りました」

私は抱きついてきた妖精を離し、その目を見つめました。

彼女にはさっき分かった情報は伝えないほうがいいのでしょう。
そのほうが悲しむ顔を見ずに済みます。

「何もありませんでしたよ。では、人里へと向かいましょう」

この嘘は自分のためではなく他人のためのもの。
こういうことをするのも少し久しぶりで、少し心も落ち着きます。

いつのまにか妖精とも仲良くなっています。
彼女も自分の姉妹を亡くして、さびしいのでしょう。
私もさびしいです。

「さあ、早く行きましょう!!」

妖精の無邪気さは、時に救いとなる、のでしょうか。
その天真爛漫さは、時に少々羨ましくもあります。

遠くに見える人里では、いったい何が待っているのでしょうか?

携帯のメモをいじりながら、私は妖精を追いかけ、歩き出しました。


【D‐3 平地 一日目 真夜中】

【射命丸文】
[状態]瀕死(骨折複数、内臓損傷) 、疲労中
[装備]胸ポケットに小銭をいくつか、はたてのカメラ、折れた短刀、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有)
[道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本
[思考・状況]基本方針:自分勝手なだけの妖怪にはならない
1.仲間を守れなかった……
2.私死なないかな?
3.皆が楽しくいられる幻想郷に帰る




161:最後の審判 時系列順 164:彼岸忌紅 ~Riverside Excruciating Crimson
161:最後の審判 投下順 163:消えた歴史
160:行き止まりの絶望(後編) 射命丸文 167:chain

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最終更新:2011年08月20日 23:49
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