最後の審判

最後の審判 ◆TDCMnlpzcc



おそろしいこえもすがたも、なにもかも、きづけばなくなっていました。
おびえて、ちぢこまっていたルーミアが、ゆっくりとめをあけますと、
そこには、ほら、いつものにちじょうがまっていました。

おべんとうをたべて、あたりをみわたし、あの“りんさん“もいないことをかくにんして、
ようやくかくれていたやみのなかから、ルーミアはすがたをあらわしました。

よる、ようかいのせかい、かりのじかん。
ルーミアにとってのにちじょうは、よるとともにはじまります。

えんまさまのことばをむねに、ゆびではをみがき、たちあがります。




ルーミアの知る“火焔描燐”は、彼女の心に何かを残すことはできました。
動物に近い、純粋な本能に基づいて動く、妖怪らしい妖怪ルーミアにとって、
一番の矯正方法は、罰を与えることであったのは確かだったからです。

ルーミアはあの悪夢から何かは感じ取りました。
でも、すべてを変えることは難しい。
“燐さん”の言っていることも難しい。

だから、彼女は普段のように、獲物を探し始めました。
それが一番頭を使わずに済むことだったから。
少しでも楽な方へ、これは人妖共通の傾向です。

ふと気がつくと、ルーミアは森を抜け、人工物に囲まれた場所に出てきていました。

「ここは人間がいっぱい居るところよね」

人里、普段は入ることは許されない場所。
でも、今日みたいな日なら、どうだろうか?
ルーミアはゆっくりと考える。

今日みたいな日なら、あの紅白も邪魔しないのではないだろうか?

それは、ルーミアの出した結論。

「善は急げ。食事は腐る前に食べましょう!ってことね」

好奇心に駆られ、普段は入らない人里に、暗闇の妖怪が静かに入り込んだ。




空から降り立ち、民家の塀に寄り掛かり、博麗霊夢はようやく一息をついた。

思惑通りに、八意永琳に攻撃されたチルノたちは、地面へと落ち、霊夢の視界から消えた。
少し離れた所から、戦闘の音が聞こえてくる。

空を見上げればまた、何かが蠅のように飛び回っているのが見える。
人間たる霊夢には、それが誰なのかは分からない。
だが、確実に戦闘が、殺し合いが加速していることだけは理解できた。


「これからどうしましょうかしら」

空のダンスを眺めながら、少し考える。

霊夢にはとる道がいくつもある。

このままチルノたちにとどめをさすのもいい。
空での戦いに割り込むのもいい。
小町を探して、合流してもいい。
もっとあげれば、体力温存のため休むのもいい。

こういうとき、彼女は深く考えることは得意ではない。
直観に従って動く。
これが彼女のポリシーだからだ。


「落ちた」

空での戦いは一段落したらしい。
二つの影は地上へと降りて行った。

気づけば、チルノたちのいるであろう所からの音も止んでいる。
決着がついたのか、一時休戦となっているのか。


人里に静けさが戻ると、いままで聞こえなかった音が聞こえてくる。

何かが、土を踏みしめる音。
衣擦れの、ささやかながら、耳に残る音。
誰かの息遣い。

――お休みはここまでね

誰かがこっちに向かっている。
近づいてきてはいても、まだ見えない。
相手は小道の曲がり角の向こうにいる。
相手もこちらに気づいたのだろうか、いったん立ち止まり、また歩き出した。

手に持っていた、天狗の団扇をしまい、ナイフに持ち変える。
そのうえで、左手には魔力を込めた針を構える。
狙いは、出てくるだろう相手の顔の位置。

当てて、ひるんだところを切り裂く。

簡単なコンボだ。
相手が飛び道具を持っていようが、構える前に倒せば、否、殺せば問題ない。
霊夢にはその自信はあった。
その時、

「霊夢」

誰かが声を出した。
人里の空気が揺れる。
足音が止まる。

「博麗霊夢」

聞き覚えのある、独特の声。

「もしかして、閻魔?」

振り返った霊夢の目の前に、一人の人影が現れる。
楽園の最高裁判長、四季映姫・ヤマザナドゥが立っていた。

「もしかしなくても、私です」

言って、言葉を探すように、口を動かす。

「先程はありがとうございました。早速ですがいくつか伝えたいことがあります」

「手短に頼むわ。今は取り込んでいるの」

右手に持ったナイフをひらひらと振りながら、言う。
映姫は臆することなく、その顔を見つめる。

「あなたは今の幻想郷の法に則り動いているように見える。そこは純粋に評価でき、苦言を言うべきところはない」

「あなたに評価される筋合いはないのだけれど、あまりうるさいと口をつぐませるわよ」

好戦的な霊夢に、映姫はため息をつく。
反抗的なうえ、さっきから彼女はこっちのほうを向いてさえいない。

「博麗の巫女、あなたは立場や慣習、儀礼を無視しすぎている。
 あなたはまだ若く、ただの巫女でしかない。
あなたはもう少し年長の者の意見に耳を傾けたほうがいい」

「あなたは変わらないのね。いや、変わりすぎたのかしらね」

「今の幻想郷は、殺すという行為こそが善行です。だから「あなたは何を言っているの?」」

積み上げていた言の葉を、巫女が打ち砕く。
その声には、わずかに戸惑いが混ざっていた。

「普段は殺すことが悪徳だと説いているくせに、どうかしちゃったのかしら」

そのような質問は映姫にとって想定済みだった。
彼女は静かに、相手の顔を見て、話し始める。

なぜ、殺すことが善行なのかを、
今の、今後の幻想郷の在り方を、
とうとうと、淀みなく・・・。




博麗霊夢は結局、映姫の方を見ることはなかった。
ただ、相槌を打って、聞いていただけだった。

「あなたも、閻魔として何か感じるところはあったのかしらね」

「何かいいましたか?」

長話に疲れた様子の、霊夢が何かをつぶやいたが、映姫には聞こえなかった。
大方、ただの愚痴だろうと判断して、話を続けることにする。

話し、諭すことは彼女の日常。
やる気になれば何日でも話し続けられる。
閻魔の能力というより、経験と技術がなせるものである。

「あなたは、普段通りに暮らしたかったのね。でも、もうかなわない話よ」

「何のことを言っているのですか?」

口を開いた、映姫を初めて見て、霊夢はつぶやいた。
今回のつぶやきは、映姫にもしっかり聞こえた。
彼女の問いに答えず、霊夢は言葉を続ける。

「あなたはもうすぐ、ここで死ぬの。遅かれ早かれね」

「私はこの幻想郷の法です。死にませんよ」

自信に充ち溢れた、閻魔の一言。
閻魔であるが故の説得力が、その言葉にこもっていた。

「“法だった“のよ。
あなたみたいに生きる意志がないのに生き延びている奴がいるなんて信じられないわ。
あなたはここで何を見てきたの?」

「生き延びているのではなく、生かされているのです。
 私はここで、さまざまなものを見ました。
 私はここで、さまざまなものを見ていくのでしょう。
 それらを確かめ、裁くのが私なのです」

「あなたの首についているのは一体何なの?
 あなたこそ死んでいったものに無礼なことを言っているのではないかしら。
 彼らはあなたに裁かれるために死んだっていうの?」

眼が合う。
霊夢は返ってくるのであろう答えを理解し、少し、ほんの少しだけ怒った。
だれのためか分からない怒り。
理不尽な、自分の行為を棚に上げた、しかし正当な怒り。

「あたりまえでしょう。
 私はこの幻想郷の閻魔なのですから」

四季映姫・ヤマザナドゥは幻想郷のすべての者の上に立つ存在だった。
人間だけではない、とてつもない力を持つ妖怪、神でさえ彼女の下となりうる。

裁きを行う絶対の存在。
幻想郷を外から見守る、善悪の最終決定者。

司法は、罰の執行権さえ持てば、絶対の存在となる。
どこの国の独裁者も、正当な司法権のもとでは、裁かれることとなる。

首輪をはめられ、どこのだれかもわからぬ存在に命令され、
いちばん戸惑っていたのは彼女だったのかもしれない。
だからこそ、日常に逃げ、自分の安全を妄信し続けた。

そして、今ここにいる。

映姫の心の奥の声は、本当はこんなはずではなかったとつぶやき続けている。
最初から、いや、一日前、救えなかった命が生まれてから。
その時から、この幻想郷は彼女の知るものではなくなっていった。
だから、彼女は新しい法を作り、執行した。

それは、閻魔でありながら、殺してしまった命の存在を、許すことから始まった。
裁いたのではない。
引き金を引いて、穴をあけた。血が流れて死んだ。
それは、のこされた自分の保身のためであり、遅すぎた攻撃でもあった。

後悔はできない。している余裕などなかった。
言い訳はできない。できる立場ではなかった。

だからこその、善悪の逆転。
何かに導かれるかのように出来上がった新しい法は映姫を許した。
そして、さらなる悲劇を巻き起こしていったであろうことは、想像に難くない。

殺人は善行だ。
一人の狂人が、道端で叫んでも気にも止められない一言は、閻魔によって真実へと変わる。
追い込まれた人妖は、それに惑わされていく。


説法を受けた彼女たちはどうなっただろうか。
殺しあいに乗ることに素直になってくれたのだろうか。
だとしたら、今の閻魔にとっては、うれしいことに他ならないと思っている。
自分のおかげで、殺し合い、善行に積極的になってくれることは、素晴らしいことだった。

その喜びに一切の迷いはなかった。
彼女には迷いなどもとより存在しないから、当然のことでもあった。

そして、今ここにいる。

「もういいわ」

「私の話は終わっていないのですが」

手を振って、話を続けさせないようにした霊夢に、映姫は詰め寄る。

「・・・ッ!」

その首筋に、ナイフが突きつけられた。

「小町には、あんたを守れって言われていた気がしなくもないけれど、
本当はもはやあなたなんかには価値なんてないのよ。
彼女が言うように、幻想郷の有力者達をかばう必要などないの。
ま、彼女と喧嘩したいわけじゃないから、あんたを殺すことはないけれど、
手が滑るってことはありえるわよ」

「小町はそんなことを言っていたのですか・・・。
あの子にしては考えたものです。
ですが、有力者など守る必要はありません。
幻想郷はもうすぐ新しく作り変えられるのですから」

「勝手にしなさい。死ぬのも生きるのもあなたの自由よ。
殺しを勧めつつ自らは動かないあなたは、私にとって薬にも害にもならないもの」

脅しに屈せず、ひるむことなくものを言う。
帽子を失い、長い戦いで服も体も汚れても、まだなお残る威厳。
どこか今の場とずれた、笑みを浮かべる四季映姫・ヤマザナドゥを尻目に、
博麗霊夢は空へと飛び立った。


「逃げましたか。今回の分も追加して、次の機会にはもっと長く諭さなくては」

つぶやくと、映姫もその場を去るために歩き出した。


【D‐4 一日目・真夜中】

【博麗霊夢】
[状態]万全
[装備]果物ナイフ、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障) 、ナズーリンペンデュラム
不明アイテム(1~4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.小町、(いるなら)合流する
2.とにかく異変を解決する
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない
4.映姫のことはどうでもいい




「閻魔さまだ。また会っちゃったわね」

彼女は空に消えていく、紅白の影に向かって、無言で拳銃の引き金を引く。
拳銃は、大した音も立てずに、沈黙を保った。

「外れかー」

「こんな遠くからでは、届かないでしょうに」

映姫は目の前のルーミアにあきれながら、ため息をつく。

「当たらなくてもいいの。弾が出たら食べていいってことなのよ」

「さきほど、私に向けて引き金を引いたのもそれが理由でしたか」

「そうよ」

その眼は、遊びにふける子供のようで、無邪気そのものだった。
無邪気、無知、それが一番危険なものであることを、映姫は知っていた。

「ロシアン・ルーレットなど、人が考えたくだらない遊びのひとつです」

「ロシアン・ルーレット?でも楽しいよ」

言って、ルーミアは拳銃を掲げる。
その銃口の先には、閻魔の胸があった。

「それで私をもう一回撃ってみませんか?」

ふと、映姫の口から、そんな言葉が漏れる。

「撃っていいの?撃っていいなら遠慮しないで撃つわよ」

疑問の表情で見つめるルーミアを見ながら、映姫もまた、自分の発言に驚いていた。

なぜ、私はこんなことを言うのだろうか?
精査せず放たれた言葉に後悔のような感情を抱きつつ・・・
いや、後悔する必要はない、私は閻魔、こんな簡単に撃ち殺されるわけがない。

それは、ちょっとした心の疑問に、納得したかったが故の発言なのかもしれない。
本当に私は殺されることがないのか?
閻魔が本来は抱かない、抱いてはいけない、自身の判断への疑問。

「当たりはその拳銃に何発入っているのですか?」

「たしか、一発だったと思うけど」

六分の一、いや、直前に一発撃ったから、五分の一だ。
五分の一で私は撃たれる。
いや、私はここで撃たれるはずがない。

「もう一回試させてもらうね。あなたは食べられるのかしら?」


「私は食べられる存在ではありませんよ」

ルーミアは笑顔で、閻魔は無言で、見詰め合った。
小さな指に、力がこもる。

引き金は引かれた。



四季映姫・ヤマザナドゥが知らなかった事実がある。
残弾の確認をしてこなかったがゆえに、ルーミアでさえ知らなかった事実。
知っていたのは、すべてを見通してきた存在だけであった。

古明地さとりに銃口が向けられた時点で、弾丸は残り三発、ダミーが二発だった。
その後、二回、引き金は引かれたが、どちらも外れ、弾は出なかった。

安全圏へと逃避した、博麗霊夢へ向けられた弾丸は、最後のダミー弾だったのだ。
そして今、拳銃には一発の弾丸が込められている。
それがどんな弾丸なのか、もはや、述べるまでもない。

閻魔は賭けを退けなかった。
安全を信じていたから。
自身の安全を確信していたかったから。
あわてた姿を、目の前の妖怪に見られるわけにいかなかったから。

装填を怠ってこられた拳銃は、静かに、撃鉄を鳴らせた。



【D‐4 一日目・真夜中】

【ルーミア】
[状態]:懐中電灯に若干のトラウマあり、裂傷多数、肩に切り傷(応急手当て済み)、満腹
[装備]:鋸、リボルバー式拳銃【S&W コンバットマグナム】0/6
[道具]:基本支給品(懐中電灯を紛失)、357マグナム弾残り6発、フランドール・スカーレットの誕生日ケーキ(咲夜製)、
    妖夢の体のパーツ
[思考・状況]食べられる人類(場合によっては妖怪)を探す。
1.おいしいな
2.自分に向けられる怒りからの逃走
3.慧音と神様のところに行ってみよう
4.日傘など、日よけになる道具を探す

※古明地さとりの名前を火焔猫燐だと勘違い
※映姫の話を完全には理解していませんが、閻魔様の言った通りにしてゆこうと思っています
※第3放送を殆ど聞いてません




私は、撃たれたのですね。

胸が痛い。焼けるように痛い。
何かが、胸から零れ落ちてきている。

(暗い、ここはどこでしょう?)

視界がはっきりしない。
ルーミア、拳銃、殺し合い。
夢みたいな一日。
まだ、一日しかたっていないのは本当なのだろうか?

(私は間違っていましたか?)

誰ともなしに、つぶやく。
答える声などない。

(間違っていたのでしょうね)

心の奥では、自分が間違っていることが分かっていた。
間違えたことを認めるのは辛く、厳しかった。
誰よりも、自分に、他人に厳しい自分が、こんなバカげたことをしてしまったことは悔しかった。

「いただきます」

体は動かないのに、五感はどんどん研ぎ澄まされていく。
今のはルーミアの声。
食べる?誰を?

私をだ。

ようやく、白黒の視界が戻る。
モノクロの世界。
空にモノクロの月が浮かぶ。

そこで私は思いついた。
自分自身の罪悪を裁く方法。
普段は決して行わない、行う必要のないこと。
最初からこうすればよかったのに。

(自分に対して能力を使うことになるとは・・・)

笑顔で、何かをかみしめる、ルーミア。
彼女をこのような道に進ませたのも、また自分。

(許してくださいとは言いません)

もっとも、どうせもう声などでないのだから、許してくれとも“言えない”のであるが・・・。

(私は自分がやってきたことの善悪を問う)

残った力で、能力を使う。
白黒はっきりつける程度の能力。

「さあ、私のやってきたことは、白黒どっち?」



覆いかぶさるルーミアの下で、一つの命がまた潰えた。


【四季映姫・ヤマザナドゥ 死亡】

【残り17人】


※死体はルーミアによって損壊しています



163:消えた歴史(状態表) 時系列順 162:KIA pictures
160:行き止まりの絶望(後編) 投下順 162:KIA pictures
154:東方萃夢想/月ヲ砕ク 博麗霊夢 167:chain
151:これからの正義の話をしよう 四季映姫・ヤマザナドゥ 死亡
149:Moonlight Ray ルーミア 164:彼岸忌紅 ~Riverside Excruciating Crimson


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最終更新:2011年08月20日 23:51
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