……and they lived happily ever after.(後編)

……and they lived happily ever after. ◆TDCMnlpzcc








 妹紅を撃ち、スキマ袋を奪った博麗霊夢は、後を振り返りもせずに、飛び上がった。
 ふわり、と浮かんで、霊夢は難なく屋根の上に着地する。
 最初に戦っていた場所の逆側一角が完全に倒壊しており、寺小屋の屋根は大きく傾いていた。
 上まで登りきると、煙の向こうで、小町とお空が向き合っているのが、見えた。

 双方に張りつめた、緊張が、お空の一言で消失するのが、遠くからでもわかった。
 戦意を失くした小町の姿を見て、自分がやらなければならないと覚悟を決め、霊夢は銃を持ち上げる。
 カチャ、引き金に指をかけ、お空の頭に銃口を向け、意識を研ぎ澄ませた。

 一瞬、空気が揺れた気がした。
 悪寒が体を突き抜け、身の危険を訴えた。
 意識が乱れ、視界の端に、こちらに銃を向ける小町の姿が映る。
 あの馬鹿!!
 頭の中で叫び、足を上げて、わざとバランスを崩して、屋根に倒れこむ。
 焦げ臭い、嫌なにおいが鼻に充満し、苦いものが口に飛び込んだ。

ダダダダダッ!!

 頭の上を、横を、弾が通り抜ける。
 何発かが腕をかすめ、血が飛び散った。
 痛い、だが、動かすのには支障がなく、跳ね起きて、腰を沈めて、銃を構える。
 狙う先には、小町の頭。邪魔者は、排除する。

 ふわり、と空気が揺らぎ、風が流れた。
 微妙にゆがんだ空間。小町が距離を縮めたのだと、霊夢にはすぐに分かった。
 お空がレーザーを放つのを見て、銃を引く。
 強力な熱線が小銃の先端を裁断した。その威力に、顔をしかめつつ、小町の指の動きを追う。

 おそらく、今度こそ外さないために、小町は距離を限界まで縮めてきているはずだ。
 もう、避けることはできない。
 だが、本当に距離が縮まっているのならば、それを利用できるのは相手だけではない。
 右手で、吹き飛んだ銃の先をつかみ、左手を、小町の方向に伸ばす。
 伸ばした腕に、肉の感触が、確かに伝わった。そのまま、引き金にかけた指に絡ませ、動きを止める。
 そのまま霊夢は足を伸ばし、跳躍して、限界まで振り上げた右手を直感に従って振り下ろした。

「ア゛ア゛ア゛アアアァァァ!!」

 近くで悲鳴が響いたかと思うと、引き伸ばされ、遠くから改めて飛んでくる。
 空間が揺らぎ、蜃気楼のように、ぶれた。
 屋根の下で、肩から血を流しながら、叫ぶ小町を眺めながら、霊夢は屋根から飛び降り、駆け出す。
 お空のレーザーをかわしながら、数秒で小町の所まではたどり着く。
 躊躇せずに、先端の切れた小銃を小町に押し付け、引き金を引いた。

 タタタタタタタタッ!!

 今までよりも大きい反動にのけぞりながらも、全弾撃ち尽くし、霊夢はようやく小町と目を合わせた。
 その眼は乾いていた。感情が抜け落ちた、さびしい眼。
 しかし、霊夢の後ろに目を向けて、少しだけ暖かくなり、何回か瞬いた。
 射線に小町が入ったからか、後ろのお空が手を出してくる様子はない。

「なあ・・・霊夢。」

 思ったよりも、傷は浅かったらしい。小町が、苦痛に顔をゆがませながらも、口を開いた。
 霊夢はとっさに銃剣に手を当てるが、口から流れ出る血を見て、その手を止めた。
 もう、致命傷は負っている。ただ、気力だけで話しているだけの状態だ。

「あたいたちの先に、未来はないよ」

 死人の戯言。最後の一言に霊夢は眉をひそめた。それだけ言って、小町は目を閉じて、逝った。
 目の前で死ぬ者たちを、この一日で何回見てきたものか、すでに霊夢は数えることをやめていた。
 だが、それも、あと数回で終わる。

 小町の一言。それは、ただの弱音だろう。霊夢はそう断じる。
 未来はない。そのことについて、霊夢は全く異論がない。
 むしろ、最後に至ってようやく小町がそれを認識しただけで、最初から霊夢には未来などなかったのだから。
 魔理沙たちも、それをもっと前に理解してしかるべきだった。
 だが、霊夢には、魔理沙が達観して、あきらめている姿など、想像できないのも確かだった。

 今の小町のように、未来がないことを理解して、霊夢を受け入れてくれる。
 そんな奇跡は、もうないのだ。

 崩れ落ちる、小町を見捨て、霊夢は後ろを振り返る。
 重い音を立てて、背後で小町が倒れ伏すのが、音からわかった。
 鈍い音に混じって、血の羽散る音。目の前で、お空が瞬きもせずに、眼を見開いている。


 霊夢は、一つ勘違いをしている。
 小町と、自分が、いまだに、ここに至って相容れない考えを抱いていること。
 小町の言う未来と、自身の考える未来との相違に、気が付いていない。

 他人の言葉を、自分に都合よく解釈しはじめた時点で、博麗霊夢は、狂い始めていたのかもしれない。


「あんた。いったい何を・・・」

 宝塔を胸に抱きながら、お空が言葉を漏らす。
 状況を理解していないことはないはずだ。ただ、目の前で信じられないことが起こったような、顔をしていた。
 朝霧があたりを覆い始め、白い靄がお空と霊夢の間を流れた。

「あいつは、あんたの仲間じゃなかったの?」
「武器を向けた時点で敵よ」

 お空の疑問に、霊夢はなにを聞くのだと、少し馬鹿にした口調で返した。
 実際、いったい何を思い、お空が自分を責めるのか、霊夢にはわかっていない。
 少なくとも、この殺し合いが始まってから、分かるだけの感情は、失くしてしまった。

「元仲間だったのに、躊躇せずに―――」
「そう、元仲間だったの。もう仲間でも味方でもない、ただの敵よ。
 御託はもういいでしょう。今動けるのはもうあなただけ。さっさと死んでちょうだい」

 そこで、思い出したかのように、腰に下げていたスキマ袋から、一本の腕を取り出し、地面に投げた。
 拳銃をいまだ握りしめたまま離さない腕。
 藤原妹紅の右腕が、血を流しながら、地面を転がった。
 挑発すれば、隙が生まれる。その可能性を考えて、妹紅の死体のそばからわざわざ持ってきたのだ。

「―――ッ!!」

 お空が、無言で怒り、辺りの霧が散った。
 羽が大きく開き、周囲の水分が、蒸発している。
 すとん、突然肩を落とし、お空は手元の宝塔を見つめた。
 一秒待って、その眼が、霊夢の顔に視線を向けた。

「絶対に許さないッ!!」

 お空の立てた咆哮が、最後の戦いの開幕を告げた。

 光が白い霧の中を突き進み、霊夢の後ろの民家を焼き払った。
 さらに、何度かレーザーが放たれ、背後で家屋が倒壊する。
 だが、当たらない。霧で視界が悪くなったうえ、怒りで照準が定まらない。
 霊夢は挑発的に動きながら、手元に魔力を込めた札を取り出し、隙を見てお空に投げつける。

 躱す、撃つ、躱す、撃つ。
 何度も繰り返し、霧をかき分けながら、応酬を続ける。
 霊夢の投げつけたアミュレットを、羽で空を飛びつつ、躱し、お空はレーザーで狙いをつける。
 一秒後、霊夢の背後を熱線が貫く。
 威力こそ高いものの、軌道が読みやすいレーザーは、霊夢にとってかわしやすい弾幕であった。

「当たれッ!!」

 お空が叫び、右手を振り上げた。
 轟音が響き、白色の大玉が霧を消し飛ばす。
 続いて、レーザーが弾を切り裂き、霊夢の首を狙ってきた。

「少しは考えられるようになってきたのね」

 だが、目視せずに放たれたレーザーが当たることなど、まずはない。
 できる限り距離をとり、霊夢は弾幕の隙間を縫って、お札を投擲する。
 命中したらしく、遠くで、お空が悲鳴を上げるのが聞こえた。

 ドドドドド!!
 地面を抉りながら、大玉が霊夢の横をすり抜けた。
 威力は充分。あたりすれば、骨折は免れないだろう。だが、当たらなければ意味はない。
 レーザーが見当違いの方向を焼き払うのを横目で見て、霊夢はふわりと浮きあがった。
 一気に勝負を決める。

 屋根よりも高く浮かび、お空の方を向く。
 いったいどこにそれだけの妖力が眠っていたのか、常に放たれる熱弾で、お空の姿は見えない。
 だが、それはお空からも霊夢が見えないことを意味している。
 決して大きくはない弾幕の隙間。
 そこを縫うように飛び、迂回するように、ホーミング機能を付けたアミュレットで攻撃する。
 変則的な軌道の攻撃で、位置を誤認させる。
 冷静ではない身で、霊夢の位置を正確に認識することは不可能だ。

 止まない攻撃にしびれを切らせたのか、レーザーが今まで以上に激しく動き回り、霊夢をかすめる。
 空気を、霧をかき分けるように弾幕と、霊夢が飛び回る。
 お空に近づくにつれて、弾幕の密度は上がり、回避は難しくなる。
 それでも、一瞬にすべてを賭けて、霊夢は近づく。
 そこにあったのは絶対的な自信。

 まるで炎天下のような暑さに、霊夢の額から汗が滴る。
 あと、五メートル、四メートル、三メートル。
 ゆっくり慎重に、距離を詰めていく。目を見張り、弾幕の向こうのお空の姿を想像し、見定める。
 レーザーが、再び放たれ、霊夢の服を焦がした。
 その瞬間、大玉の弾幕が途切れ、お空の顔が、体が姿を現した。

 霊夢の姿を視認して、お空はとっさに、胸と頭を持ち上げた腕で保護をする。
 とっさの防衛反応を、無視して、霊夢は飛びかかり、ただひたすら、宝塔を狙う。
 左足で制御棒を蹴り飛ばし、右手で宝塔を払い落とす。
 驚愕の表情で固まるお空の足を追撃し、体を傾け、宝塔を両手で捕えた。
 主人を変えた宝塔が、霊夢の胸の中で光り輝く。
 尻を突いたお空の目の前で、霊夢が宝塔を掲げ挙げる。



「ちょっと待った!!」

 形勢逆転。そこで掛かった、もう何度目かもわからない妨害。



 倒壊した家屋から飛び出してきた東風谷早苗を見て、霊夢は目を細め、ため息をついた。
 白い霧の中、仁王立ちした早苗がこちらを睨みつける。

「霊夢ッ!!」

 さらに続く、フランドールの声。おかしいな、もう起き上がれないまでに潰したはずだったのに。
 目の前のお空、離れたところにフランドールと早苗がそれぞれ立ちつつ、武器を構えている。
 狙いをつけようにも、使い慣れていない宝塔で、どこまで、何ができるのか分からない。

「あら、あなた」

 相手を観察して、早苗の首の傷が消えていることに気が付いた。
 フランドールの調子は、あまりよくないようだが、早苗の元気はなお余りある。
 いったい何があったのか?その答えを、自分で探り当て、声に出した。

「吸血鬼になったのね」

 目をこちらから離さず、早苗が答える。

「ええ、人間をやめてしまいました。やむをえませんでしたので。とはいえ、完全な吸血鬼と言うわけでもないらしいです」
「そう」

 片手で、銃を構える早苗を見て、次に手元の宝塔を見つめる。
 威力ではこちらが勝るが、タイムラグがある分、早さでは拳銃に分がある。
 近くに転がっているだろうトンプソンには、手が届かない。
 さらに、先ほどとは違い、地面をただよう霧が、太陽の援護を拒んでいた。
 流水も、近くにはない。

 一対多数の状態では、出来る限り相対する敵を減らすことが重要だ。
 その鉄則に従って、霊夢はお空を挟んで早苗と反対側に、飛び込んだ。
 滑り込み、お空を盾に、銃撃を拒む。

 もちろん、それで何かが変わるわけでもない。
 人質に取られた形になったお空が制御棒を振り上げようとするのを、けん制しつつ、霊夢は押し黙る。
 積んだか?
 いや、博麗の巫女が、この程度で、抑えられはしない。

「本当に、しつこいわね」

 どこまでも、あがき続ける早苗に、フランドールに、お空にあきれて、霊夢はつぶやいた。
 思ったより、皆しぶとい。想定外の事態に、行き詰ったのは今が最初ではないのだが、
 それでも、ここまで苦労させられたのは初めてだろう。

 この“異変”は、今までの異変と比べて、難易度が、桁違いに大きかった。
 一対多数、不意打ち上等。命の取り合いに情けは無用。弾幕ごっことは違う、無情な戦い。

 結局、多数が勝つのだろうか?
 仲間?いや、味方を多く作った方が、信頼を築けた方が勝つのだろうか?
 それも、また違う気がする。霊夢は、自分の今までの行動を思い返し、空を仰ぎ見る。
 少し、油断しすぎた行動だが、最低限に周囲は警戒していた。

 ざくっ、ざくっ、地面を踏みしめ、よろよろと誰かがこちらに歩いてくる。
 倒壊した家屋を避け、頭を押さえながら、現れた影。

「魔理沙!!」
「もう一度話せるとは思わなかったよ。霊夢」

 フランドールの歓声に答えて、魔理沙が、五体満足で現れた。
 皮肉なものだ、もし、小町が話しかけなければ、お空たちの到着が遅れていれば、死んでいたはずなのに、
 自分が殺していたはずの命であるはずなのに―――

 霊夢は魔理沙が生きていたことが、不思議と、うれしかった。
 それを、元人間の感傷だと、霊夢は認識して、笑う。

「私は絶対に生き残る」

 魔理沙を前にして、なぜか、自分の中の闘気が湧き上がってくるのを感じて、霊夢は顔を前に向けた。
 もしかしたら、それはただの意地であったのかもしれない。
 魔理沙の目の前で、情けない姿は見せたくなかった。

「私は、皆を倒し、この異変を解決する」
「“倒し”じゃない、“殺し”だ」

 魔理沙が、否定して、銃を向ける。
 泥だらけ、血で汚れた顔を上げ、それでもまだ、魔理沙はためらっていた。
 馬鹿馬鹿しい、この期に及んで、まだ自分を殺すのをためらっているのか。

「ねえ、魔理沙」
「・・・・・・」

 覚悟はできているのだろう。ただ、魔理沙は何かを待っている。自分の言葉か、答えか?
 四人に囲まれて、霊夢は勝機を探る。
 涼しい風が、傷口を冷やす。

「ああ、そうだ。お空」

 思い出したかのように、魔理沙がお空に声をかける。

「うにゅ。何?」
「紫が、色々と情報を残してくれている。あとで読むといい」

 魔理沙はポケットから紙を取り出し、お空に見せた。
 そのまま、こちらを見て、反応を待った。

「私は、逃がす気なんて、ないわよ」
「まだ、戦う気でいるのですか?」

 宝塔を胸に、四人を睨みつける霊夢に、早苗があきれ声を上げる。
 油断、数の利があるが故の油断に、霊夢は舌なめずりした。
 勝機は、まだあった。

「覚悟はできているわ。わたしとあなた達、どちらの考えも相容れない。だったら、この場のルールに従えばいい。
 弾幕ごっこなんて遊びじゃなく、殺し合いで肩をつけましょう。勝った方が正義を気取ればいい」

 少しでも、会話を楽しもうとする自分がそこにいた。
 覚悟はできていた。魔理沙を殺すことに、忌諱の感情はもう存在しない。
 それでも、友達“だった”から、もっと何か最後に話したかった。
 博麗霊夢も、所詮、人間なのだから。
 この一戦を超えて、その先に、霊夢を人間としてみてくれる相手はいない。

 感傷を、ただの感傷として認め、自分の人間らしさとも向き合い直し、そのうえで理解したことがある。
 博麗霊夢は、何処まで行っても人間で、霧雨魔理沙はその友人なのだと。
 そして、その事実と、自分の博麗の巫女としての務めは両立できるのだと。

「単純明快だが・・・こんなことはしたくなかったな。最後に一つ聞いていいか、霊夢?」
「何、一つだけなら、答えるわ」

 博麗霊夢は、周りのすべてを、友人を、それと認めたうえで殺しきる。
 修羅の道だが、遠慮はいらない。
 それが、博麗の巫女の正道なのだから。

「■■■、■■■■■■■■■■■■■?」

 人生最後の、人間としての会話。
 異変の先、そのまた先へと行く前の別れの言葉。それを、霊夢は胸に抱き、答えた。

「■■■■■、■■■■■■!!」


 霊力を流すと、宝塔はすぐに反応した。
 魔理沙が、散弾銃の引き金に指を掛け、引く。
 お空の肩の向こう、早苗がふわりと跳ね、屋根で射線を確保するのが、片目に映る。
 今までの早苗にはできなかった芸当だ。吸血鬼ゆえの力強い動き、警戒しつつ、霊夢は身をかがめた。

ドン!!

 威嚇射撃も兼ねた魔理沙の一撃がお空の背に隠れた霊夢をかすめる。
 光を纏って、お空の胸を二回連続で突き、三発目で地面に突き倒す。
 周囲に現れた陰陽玉に、次々と光がともる。

ダッ!!

 射線が開けて、早苗の拳銃が火を噴く。
 だが、開けた空間で、空を飛べる霊夢には当たらない。
 剣を手に斬りかかってくるフランドールをしゃがんでやり過ごし、すり抜けざまに蹴りを入れて、屋根に駆けあがる。

ダッ!
ドン!

 銃声が同時に二つ、響き、霊夢の左肩に衝撃が走る。散弾の一片が突き刺さったのだ。
 だが、それを無視して、屋根の上、目と鼻の先の早苗の足を蹴り、ラリアットで地面に叩き落とす。
 そして、そのまま、自身も重力に身を任せて、落下する。
 落ちた先には、魔理沙がいた。

 自分の周りには、七つの陰陽玉。そのうち六つは、神々しく輝いている。
 魔理沙は、このスペルカードを良く知っている。
 七つの攻撃を奉納して、行う、博麗霊夢、博麗の巫女の神髄。
 慌てて迎撃しようと、魔理沙は無理をして片手で散弾銃を持ち上げ、構える。
 だが、女子の身で、それは流石に無理があった。
 一瞬遅れた、その隙をついて、足で魔理沙の利き手を払い、銃を蹴りあげた。

 思ったよりも軽い音がして、霊夢は背後で早苗が、地面に着地したのを理解した。
 周りの四人との距離は、さほどない。魔理沙に至っては、目と鼻の先にいる。
 攻撃さえできれば、外しはしない。
 霊夢の周りには、輝く七つの陰陽玉。息を突きながら、姿勢を整える。

 疲れた体に、アドレナリンが溢れ、胸が熱くなり、耳も、眼もほとんど機能していない。
 連戦の疲れが、だいぶ響いていた。
 そんな中、武器を失くした魔理沙を前に、乾いた舌で、宣言する。

「夢想天生」

 スペルカードルールなど、もう意味はないのに、宣言したのは戯れか。
 命名者を前にした、多少の礼儀もあったのかもしれない。
 手を差し上げ、眼を閉じようとする霊夢の前で、魔理沙が手を前に伸ばし、悲しげに、眼を閉じた。

「ごめん」

 雑音が、耳を、脳をかき回す。音が、まんぞくに聞こえない中、その声だけはなぜか良く通った。
 なぜか過敏になった鼻を、火薬のにおいが突く。
 目を閉じて、術が起動すればもう決着がつくはずなのに、体が動かない。

「な゛・・・でぇ・・・?」

 何が起こったのか確認したくても、眼が動かない。
 声を出すと、音と一緒に、致命的な量の血が溢れてきた。
 魔理沙が伸ばした手の先、拳銃が、ゼロ距離に押し込まれ、煙を上げていた。
 心臓が破れ、もう、脳もほとんど機能していない。
 チャリン、と甲高い音を立て、薬きょうが地面を打つ。

 え?
 ・・・これで、もう終わり?

 ぐちゃり、体が崩れ、遠くの地面に転がる血まみれの右手に目のピントが合い、何が起きたのか理解した瞬間、
 体に衝撃が走り、何かを考えるまでもなく、博麗の巫女は死んだ。







     *     *     *







 霊夢に、魔理沙は左手で隠し持っていた拳銃を押し当てる。
 すべては賭けだった。
 地面に転がっていた手が握りしめていた拳銃、戦いの余波で、駆け付けた時、足元に転がっていたそれを拾ったのは偶然だった。
 何発の弾が入っているかなど、知りもしない。もしかしたら、撃ち尽くされて弾倉は空かもしれない。
 それでも、死んでもなお拳銃を握りしめるその手が、まだ闘志を燃やし続けるその切り落とされた腕が、
 まだ弾が入っている、まだ戦えると訴えかけていた、そんな気がした。

「夢想天生」

 肩から血を流し、スペルカードを宣言する霊夢は、眼下の拳銃に気が付かない。
 その顔をちらりと見て、血走った目を見て、魔理沙は、悲しい気持ちになった。
 体で、左腕を押さえて、霊夢の心臓に押し付け、引き金に掛けた人差し指に力を込める。

ドンッ!!

 思ったよりも鈍い音を立て、反動が体に伝わる。

「ごめん」

 胸から血しぶきを上げる霊夢に、思わず、声を掛けた。
 一瞬でも遅ければ、夢想天生の餌食になり、殺されていたのは自分や早苗たちだった。
 だから、ためらいなく殺したことに後悔はない。

「な゛・・・でぇ・・・?」

 でも、何が起こったのか理解できず、崩れ落ちる霊夢を前に、何もしないわけにはいかなかった。
 二発目は、必要ない。霊夢はすでに、死に体だ。拳銃を横に放り捨て、霊夢に手を伸ばす。
 重い、想像していたよりも重い衝撃が腕に走る中、必死に、その体を受け止めた。
 抱きかかえた体は、力を失い、魔理沙の体を押しつぶす。
 だらり、と力なく垂れて腕から、血が流れ出て、地面を朱に染めた。

「終わったの?」
「終わりましたね」

 力ない、死体となった霊夢の向こうで、早苗とフランが、放心して腰を落とすのが、見えた。

「死んだ?」

 お空が、冷たく、誰ともなしにつぶやいた。
 その顔には、複雑な表情が浮かんでいる。

「ああ」

 首に指を当て、いつもの鼓動が無くなっているのを確認して、本当に、霊夢が死んだことを実感した。
 思わず、息が止まった。
 正しいことを、したはずなのに。いや、正しいことをしたからこそ、苦しいのかもしれない。
 理性では自分の判断は正しいと分かっていて、感情は悲しさを訴える、その相反した想いが、頭を締め付ける。

 後悔は、後ですればいい。
 今は、生き残った者達の未来を、何とかしなければならない。

「霊夢」

 その体を、ゆっくりと地面に横たえ、名前を呼ぶ。

 もちろん、返事はない。
 その傍らに落ちた、自分の帽子を拾い上げ、被る。
 一日ぶりの再会。硝煙と、血で汚れた帽子のつばを払い、魔理沙は頭になじませた。




「■■■、■■■■■■■■■■■■■?」

「■■■■■、■■■■■■!!」

 最後にかわした、会話。

「お前は、幻想郷の皆が嫌いだったのか?」

「そんなわけ、ないじゃない!!」


 霊夢と交わした、短い会話。霊夢が今までの幻想郷を嫌っていたわけではなく、
 厭々、幻想郷の皆と暮らしていたわけではなかったことを知って、魔理沙は少し安心していた。
 たぶん、あの会話が、霊夢の本心。
 本当は皆と、昔のように楽しく、生きていきたかったはずなのだ。
 何かが、その霊夢を変えてしまった。変わらなくてはいけないように追い込んでしまった。
 その答えは、たぶん、主催者が握っている。




 白い霧の中、魔理沙のにじんだ視界の奥で、半壊した寺小屋が、ぶすぶすと黒い煙を上げていた。
 その不完全燃焼の様子は、まるで、この戦いのむなしい結果を見せつけているようで、魔理沙は思わず、目を背け、空を仰ぎ見た。
 霧に阻まれた空は白く、何も見えない。

 ポケットに入っている紙が、足を圧迫して、存在をアピールする。
 紫が今後の計画を記した紙、それが、切り札となる。
 物語の最後を、【めでたしめでたし】で終えられるか、それは魔理沙の手にかかっていた。
 責任の重さに、思わず、すべてを放り出して、逃げたくなる。
 だが、そんなことはしない。わたしがやらないで、だれが最後まで抗うのか。

「キィ――」

 ハウリング音が響き、放送が始まった。





【八雲紫 死亡】
【藤原妹紅 死亡】
【小野塚小町 死亡】
【博麗霊夢 死亡】
【残り5人】


【D-4 人里 二日目・早朝(放送直前)】

【東風谷早苗】
[状態]:銃弾による打撲、それなりの疲労(ふらつく程度) 、首と足に切り傷(治癒済み)、吸血鬼化?
[装備]:防弾チョッキ、ブローニング改(8/13)、短槍、博麗霊夢の衣服、包丁
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙、紫の考察を記した紙

[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.小町さんに、紫さん・・・
2.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる
3.紫さんの考察が気になります

※吸血鬼についての考えは、のちの書き手さんにおまかせします

【霧雨魔理沙】
[状態]蓬莱人、全身に打撲痕
[装備]魔理沙の帽子、ミニ八卦炉、上海人形、銀のナイフ(3)、SPAS12改(3/8) 、ウェルロッド(0/5)
[道具]支給品一式、ダーツボード、文々。新聞、輝夜宛の濡れた手紙(内容は御自由に)
    八雲藍の帽子、森近霖之助の眼鏡、紫の書いた今後の計画書、生成した火薬
    紫の考察を記した紙、バードショット(6発)バックショット(5発)ゴム弾(12発)、ダーツ(3本)
    紫のスキマ袋 {毒薬、霊夢の手記、銀のナイフ、紫の考察を記した紙
    支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0~2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記、バードショット×1
    ミニミ用5.56mmNATO弾(20発)、.357マグナム(18発) 、mp3プレイヤー、信管 }

[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.殺してしまった……
2.紫の遺志を継ぐ
3.紫の考察を確かめるために、霊夢の文書を読んでみる……後で。


フランドール・スカーレット
[状態]スターサファイアの能力取得、腹に二発分の銃創(治癒中)
[装備]てゐの首飾り、機動隊の盾、白楼剣、破片手榴弾(2)
[道具]支給品一式 レミリアの日傘、大きな木の実 、紫の考察を記した紙
    ブローニング・ハイパワーマガジン(1個)
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.スターと魔理沙と共にありたい。
2.反逆する事を決意。レミリアのことを止めようと思う。
3.スキマ妖怪の考察はあっているのかな?

【霊烏路空】
[状態] 全身に火傷。深い傷ではない 、胸に打撲痕
[装備]左腕にチルノ・メディスン・お燐のリボン 
[道具] 支給品一式(水残り1/4)、チルノの支給品一式(水残り1と3/4)、洩矢の鉄の輪×1、
     ワルサーP38型ガスライター(ガス残量99%)、燐のすきま袋、支給品一式*4 不明支給品*4
[思考・状況]基本方針:『最強』になる。悪意を振りまく連中は許さない
1.これで良かったのかな
2.必ず帰る。
3.チルノの意志を継ぐ

※チルノの能力を身につけています。『弾幕を凍らせる程度の能力』くらいになります。
※第四放送を聞き逃しました(放送内容に関しては把握)
※髪のリボンを文に移譲


※寺小屋や周辺の家屋で火災が発生しています
 寺小屋では魔理沙たちの作業スペースの反対に当たる一角が倒壊しています
 生成した火薬は魔理沙が回収しています



※以下の支給品が、寺小屋の庭に散乱しています。一部は損壊、消失している可能性もあります

支給品一式×5、マッチ、メルランのトランペット、賽3個
救急箱、解毒剤 、痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、天狗の団扇、ナズーリンペンデュラム 、文のカメラ(故障)
支給品一式*5、咲夜が出店で蒐集した物、霧雨の剣
NRSナイフ型消音拳銃予備弾薬13、ペンチ 白い携帯電話 5.56mm NATO弾(100発)
不明アイテム(1~4)、銀のナイフ(3)、壊れた霊夢のスキマ袋

MINIMI軽機関銃改(190/200)、コンバットマグナム(5/6)、クナイ(6本) 、死神の鎌



※以下の支給品が、霊夢の死体と小町の死体周辺に散乱しています。

宝塔
NRS ナイフ型消音拳銃(0/1)
トンプソンM1A1改(17/50)
64式小銃改(0/20)。両断され破損している

小町のスキマ袋{支給品一式、M1A1用ドラムマガジン×3、 銃器カスタムセット}

妹紅のスキマ袋{フランベルジェ、基本支給品×3、光学迷彩、萃香の瓢箪、ダーツ(24本)、
ノートパソコン(換えのバッテリーあり)、にとりの工具箱、気質発現装置、橙の首輪、
スキマ発生装置(二日目9時に再使用可) }



182:流星雨のU.N.オーエン 時系列順 184:Stage1.ラストリモート
182:流星雨のU.N.オーエン 投下順 184:Stage1.ラストリモート
182:流星雨のU.N.オーエン 霧雨魔理沙 :[[]]
182:流星雨のU.N.オーエン フランドール・スカーレット :[[]]
182:流星雨のU.N.オーエン 八雲紫 死亡
181:Spell card rule/命名決闘法 小野塚小町 死亡
181:Spell card rule/命名決闘法 東風谷早苗 :[[]]
179:眩しく光る四つの太陽(後編) 霊烏路空 :[[]]
179:眩しく光る四つの太陽(後編) 藤原妹紅 死亡
180:赤より紅い夢、紅より儚い永遠 博麗霊夢 死亡


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最終更新:2014年11月07日 20:30
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