バトルロワイアルというゲームは『初めの状況』が参加者の運命を左右する。
たとえば建物。
主催者が特殊能力を持つ今回のゲームでは参加者の初期位置はランダムだ。
すぐ近くにあるのが武器庫なら、その人間は運が良いと言えるだろう。
たとえば人。
最初に会った人物が正義感あふれ力も強い紳士なら、それは心強い。
逆に悪逆非道を極める暴漢なら、生き延びるのは至難だ。
たとえば支給品。
毒か、銃か、刀か……はたまたクマのぬいぐるみか。
技術の有無も関わるだろうが、やはり武器が強ければ強いほど有利に事態を運べる。
残念なことに、参加者が多いこのゲームでは運の悪い人間がでてしまう。
そんな最悪の条件、つまりジョーカーを引いたのは
鑢七実。
細い体、白い肌、病弱な体。まるで殺し合いに相応しくない外見の女性である。
「ん……」
七実が飛ばされたのは静かで暗い部屋の、薄汚れた床の上だった。
月明かりが僅かに入ってくるこの古い建物は体育館。
羽生田村の小学校だ。
強力な武器はおろかまともな飲料水があるかすら分からないこの村は、
初期位置としては最悪の部類に入るといえよう。
「ここ、どこかしら」
七実は着物を衣擦れさせながら立ち上がると、ひとまず辺りをぐるりと見渡した。
床があり、床があり、壁があり……
壁、床、床……
……そして人。
七実は反対側の壁に人の気配を察した。
いや――人ではない、と七実は認識を改める。
まして草でもない。
それは明らかに、人為らざる、異形――。
「!」
両者の視線が交錯した次の瞬間には二人は肉迫していた。
遅れてきた思考で、七実は自分が柄にもなく攻めに出たことを知覚する。
待てば死ぬ、と本能で感じたのかもしれない。
そして七実は、もしかすると相手もまた同じ考えに至ったのかもしれない、と推察した。
同じ考えに至るほど強い、と。
驚くべきは七実が外見にそぐわない素早さで動いたことだろうが、何のことはない。
彼女は病弱でありながら『見る』だけでどんな技術も会得する天才。
なおかつ剣を用いない剣技、虚刀流を扱う父と弟を持つ者だ。
つまり――彼女もまた虚刀流を完全に使いこなすことが出来るのだ。
一方、七実の目が捉えた一寸先にいるのは2mを優に超えそうな大柄な体躯の男。
金色の髪、屈強な肉体を持つその男はディオ・ブランドー、吸血鬼である。
七実の動きは人間と思えない速度だったが、彼の動きはまさに人間ではなかった。
亜音速で奔る体から、振り抜かれる右腕。
七実はあらゆる業を諦め、てのひらで受け流す。
風船が割れたかのような破裂音とともに血が撥ねたが、七実はそれ以上の傷を負わなかった。
「ほう」
DIOの嘆息が七実に届く前に、DIOの顔面へと七実の踵が叩き込まれる。
再び破裂音。
人間なら首の骨が折れてもおかしくないが、DIOは強靱な筋肉で持ちこたえた。
DIOは七実の脚を掴んでそのまま後ろへと投げ飛ばす。
七実は表情一つ変えず床に足をつくと、飛び込んできたDIOにカウンターの手刀を返す。
だがDIOも予想していたようで、指先を軽々と躱してみせるが、
「虚刀流、雛罌粟(ひなげし)」
「ぬッ……」
DIOの長い腕をかいくぐって斬り上げられた七実の手刀はDIOの首を切り裂いた。
刀となったのは指ではなく、異様に伸びた爪。
かつて七実が真庭忍軍という忍者と戦った時に"見て"覚えたものだ。
速度が速度だったために、DIOの首からは赤い鮮血が舞った。
だがDIOもまた、傷が抉られるのを構わず七実のあごに膝蹴りを食らわせる。
「無駄ァッ!」
「んぐッ!?」
急所を深く斬りつければ怯むと思ったか、気を抜いた七実はまともに受ける。
七実は狂った三半規管にバランスを崩され、床をバウンドしながら吹っ飛んだ。
これもまた首の骨が折れてもおかしくない破壊力。
DIOと違って筋肉で耐えるなど不可能だが、七実の体と頭は未だ繋がっているようだった。
初見の相手に様々な可能性を考慮できる思考回路と、それを支える技術の合わせ技。
DIOは倒れた七実を眺め、心なしか楽しそうな笑みを浮かべた。
強い相手に対する高揚と見て取れるが、それは言い換えれば余裕の表れ。
明らかにDIOの方が傷が深いが、そもそも人でない者に人の常識は通用しないのだろう。
DIOは動かない。
武人としての礼儀、戦闘狂としてのリスク、帝王としての気まぐれ……
どうとでも取れるが、確かなのは『DIOは追撃をしなかった』という事実だけだ。
地面に伏した七実は視界が揺らぐ中でもDIOを捉え、すぐさま体勢を整えようとした。
だが、七実は動けない。
彼女の唯一の弱点が戦闘続行を妨げたのだ。
DIOはしばらく七実が立ち上がるのを待っていたが、飽きたのか首の血を払って歩き出した。
そして床に片膝を立てた七実を見下ろす。
「このDIOの首に傷をつけるとは。褒めてやるぞ」
「……それは光栄です」
「しかし呆気ないな。先ほどの速度、力、感性、技。
どう考えても今の蹴り一発でくたばるようには思えん」
「申し訳ないことですが、わたしは不治の病に罹っていますので」
「不治?」
七実の言葉を聞いたDIOは数秒硬直し、そして吹き出した。
「フフフ、いやすまない。このDIOに不治などという言葉は縁がないのでな」
「はあ……それで、いつ殺すのですか」
七実はDIOの言葉を追求することもなく、時折咳をしながらDIOを見上げる。
その目は――元からだが――生への欲がまるでないようだった。
DIOはそれを見て再び含み笑うと、
「殺すつもりならとっくに殺している。お前が役に立つ人間かどうか見定めていただけだ」
と言い放った。
七実はそれに驚く素振りを見せない。
「それは良かった……いえ、悪いのかしら」
「フン、そんな些細なことはどうでも良かろう」
「そうでしょうか……」
「むしろ問題はここからだ。殺さずにどうする? 持っている情報を全て絞り出して消すか。
それとも肉の芽を植え付けて従えるか。これは難しい問題じゃあないか?」
「はあ」
体力的に反抗も出来ないため七実は適当に返事を返すしかない。
それを知ってか知らずか、DIOは一人で話を進めていく。
「そこでだ。しばらくの間、手を組もうではないか」
「手を、組む?」
「ああ。配下でも良いが、この首に傷を与えた功績を称えてそれは無しにして……
おっと、もうおおよそ治ってしまったようだが」
DIOは撫でた首の傷口が小さくなっていることに気付き、不敵な笑みを浮かべた。
七実は驚きに目を見開いたが、"真似できない"芸当だと分かって目を伏せる。
「この通り私は普通に攻撃を食らおうが死なない。が、少しばかり日光に弱くてな」
「そこで、まっとうな人であるわたしと行動……ですか」
「その通り。私もまだ指針が定まっていないのでな、しばらくは様子見したい」
「そう、ですか」
七実は逡巡した。
DIOの余裕がハッタリでないことは確かだろう。
体術だけならば同程度の実力だが、まだ隠し球を残しているようにも見えるからだ。
だが、状況がまだ理解できていないこの状況、弾除けとして使うのは一つの手かもしれない。
同じく指針が定まっていない七実としても、同盟を組む利益はある。
七実は一人うなずくと、言葉を返した。
「いいでしょう。ただし条件があります」
「言ってみろ」
七実はDIOの言葉を聞くと立ち上がり、歩いてDIOの元から離れる。
DIOが怪訝な顔をしていると、七実は壁に立てかけられたデイパックを担いで戻ってきた。
そして無言で開き、中から一枚の紙を取り出す。
「やっぱり」
「何だ?」
七実が見ていたのは参加者の名簿。その中にある、『
鑢七花』の名前であった。
「弟がこの殺し合いに参加しているようです」
「ほう?」
「したがって、例の男が話していた12本の刀を探します」
「……ふん」
DIOは一瞬眉を顰めたが、会得したように口の端を吊り上げた。
「弟を捜すのが非効率だから共通知識のあるもので捜索しようと、そんなところか。
そいつが刀とやらを捜す確証はあるのか?」
「はい」
「好きにしろ。それよりその鞄、何が入っているか確認したか?」
「いえ、まだ何も」
「このDIOに武器など必要ないが……暇をつぶすだけの何かがあるかもしれん。
確認しておけ」
「扱いが既に配下なのだけれど……」
七実はそう呟くと、優美な仕草で一つ一つの支給品を取り出していく。
DIOもまた、自分のデイパックを下ろし支給品を確認した。
そして並べられた支給品が、
「紙、大きな箱、鳥のお面……これ、まにわにのお面かしら」
「金、レコード、これはなんだ? 菓子の詰め合わせか?」
どれも外れ武器。
唯一使い物になりそうなのが
須田恭也の学生証というひどい有様だった。
しかし元々支給品に頼るつもりもなかった二人のため、特に表情に変化はない。
むしろ面白みのない武器よりはまし、というような反応である。
「このコインは丁度良さそうじゃあないか」
「こいん?」
七実が支給品のブレー面を眺めていると、DIOが唐突にそう呟いた。
「ずっと考えていた……あの男がゲームの解説をしていたとき。
私は雑魚を抹殺し優勝するべきか、それともあれを殺してゲームを脱するべきか」
「げえむ?」
「このDIOに忌々しい拘束具をつけるなど許せん、と言いたいところだが……
予兆も余韻もなく私をここへ運び入れたあの男に抗うのは得策ではない。
原理の分からないスタンドの能力を解明するのは私の本分ではないがな」
「すたんど」
七実は唐突な横文字に首を傾げるが、DIOは応えずにやにやと笑みを浮かべるのみ。
性格の悪い男、と七実は心中で毒づき、急かすように言った。
「それで、どうするのですか」
「簡単に言えば、情報が集まるまでは運に身を任せて行動しようということだ。
殺し回って参加者の数を減らすも良し、役に立ちそうな人間を集めるも良し。
そこで、このコインの出番というわけだ」
「……」
「このコインを投げて、表が出たら次に会った参加者を懐柔する」
DIOは百円硬貨を月明かりに照らしながら、まるで何でもないことのように言い放った。
「裏が出たら、次に会った人間を殺す」
七実は肯定も否定もせず、無言でDIOを見つめる。
勝手にしろ、ということだと認識したDIOは口角を吊り上げ、コインを指で弾いた。
月光で輝きながら宙を舞ったコインはそのままDIOの手の甲に吸い込まれ、押さえつけられる。
そしてDIOがそれを開くと、一枚のコインが死刑宣告へと変わった。
「裏だ」
七実は最悪の初期位置、最悪の遭遇で最悪の支給品を手に入れた。
それでも彼女の表情は揺るがない。それが彼女の良いところなのだろう。
「……いえ、悪いのかしら」
【羽生蛇村小学校体育館 4-E/1日目/深夜】
【鑢七実@刀語】
[状態]:てのひらとあごに軽傷、体力切れ
[装備]:無し
[道具]:須田恭也の生徒手帳@SIREN、上条恭介のヴァイオリン@
魔法少女まどか☆マギカ、
ブレー面@
ゼルダの伝説ムジュラの仮面、基本支給品一式、刀の在りかを書いた紙(不明、不明)
[思考・状況]基本行動方針:鑢七花と会うために12本の完成形変体刀を集める
1:とりあえずDIOと手を組む
2:七花と会った後は……
3:敗北による僅かな心の乱れ
4:こいん……すたんど……?
※不承島で真庭忍軍虫組と戦闘したあとからの参戦です。詳しい時期は他の書き手さんにお任せします
【DIO@
ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:首の切り傷
[装備]:無し
[道具]:金@現実、レコード@SIREN、菓子セット@魔法少女まどかマギカ、基本支給品一式、刀の在りかを書いた紙(不明、不明)
[思考・状況]基本行動方針:殺戮か脱出かの方針を見定めるまで気まぐれに行動
1:とりあえず七実と手を組む
2:七実が裏切ったなら……
3:七実への僅かな敬意と興味
4:次に会った人間を殺す
※参戦時期未定です。他の書き手さんにお任せします
※DIOの再生速度や能力制限は未定です。
※羽生田村小学校体育館の床に血が飛び散っています。
最終更新:2014年05月06日 23:14