FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】① ◆0zvBiGoI0k
◆
───鏡は、異界と繋がる門である。
古来より、人は自分と一寸違わぬ像を映し出す鏡に神秘性を見出してきた。
古代邪馬台国の女王が持つとされる神獣鏡。日本の三種の神器の一つでもある八咫鏡。
当時にとっては高級品である事もそうだが、鏡とは王朝の栄光を象徴するシンボル、神と交信する祭具でもあった。
古代邪馬台国の女王が持つとされる神獣鏡。日本の三種の神器の一つでもある八咫鏡。
当時にとっては高級品である事もそうだが、鏡とは王朝の栄光を象徴するシンボル、神と交信する祭具でもあった。
そして、人は鏡の中に異世界を見た。
海外に目を向ければルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』が有名だ。
鏡に手を触れれば指が沈み込み、そのままこことは別の世界への入り口になっている物語は、誰しもが一度は思い浮かべる。
現実では目の前の風景をそっくり反射するだけでしかない鏡面に、人は想像力によって有り得ぬ『奥行き』を生み出したのだ。
海外に目を向ければルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』が有名だ。
鏡に手を触れれば指が沈み込み、そのままこことは別の世界への入り口になっている物語は、誰しもが一度は思い浮かべる。
現実では目の前の風景をそっくり反射するだけでしかない鏡面に、人は想像力によって有り得ぬ『奥行き』を生み出したのだ。
また別世界の入り口になるのは鏡に限らない。
古くは水面。竜宮城の逸話にあるように、海底は地上と法則の異なる世界が広がっていると信じられた。
見えない、という事は智慧をもたらす触媒となり、『物語』の基となる。
現代では鏡はどんな世帯にも普及し、テレビや窓ガラスと、街の至るところに『映すもの』が溢れ返るようになった。
古くは水面。竜宮城の逸話にあるように、海底は地上と法則の異なる世界が広がっていると信じられた。
見えない、という事は智慧をもたらす触媒となり、『物語』の基となる。
現代では鏡はどんな世帯にも普及し、テレビや窓ガラスと、街の至るところに『映すもの』が溢れ返るようになった。
神秘性が薄れるのと入れ替わりになって、鏡は『怪談』の題材として扱われるようになる。
深夜二時に合わせ鏡をすると、鏡の中から悪魔が出てきて、取り憑かれてしまう。
夜中の二時ちょうどに鏡を覗き込むと、鏡に死んだ人が出てくる。
十二時ぴったりに合わせ鏡をして自分の顔を映すと、将来の結婚相手の顔が映る。
数千回に一回鏡が割れる瞬間にだけ繋がる、失われた鏡の中の世界がある。
夜中の二時ちょうどに鏡を覗き込むと、鏡に死んだ人が出てくる。
十二時ぴったりに合わせ鏡をして自分の顔を映すと、将来の結婚相手の顔が映る。
数千回に一回鏡が割れる瞬間にだけ繋がる、失われた鏡の中の世界がある。
学校の怪談やおまじないで聞いた覚えのある人もいるだろう。
鏡の中の自分を見るという行為には、呪術的な意味合いも含まれている。
日用品として普及するにつれ鏡は人々の生活で身近となり、ゴシップや噂話に用いられる事が多くなった。
鏡の中の自分を見るという行為には、呪術的な意味合いも含まれている。
日用品として普及するにつれ鏡は人々の生活で身近となり、ゴシップや噂話に用いられる事が多くなった。
鏡と怪異の関連を示す一例として、ここにある記事が残っている。
ある時期に発生していた連続失踪事件について、モバイルネットニュース配信会社が書いた記事だ。
鏡に映る、動物を人型に当て嵌めたような造形をした異形の怪物。
この怪物は現実に存在せず、『鏡の中の世界』にのみ棲息している。
失踪事件は、この怪物が餌として人間を襲っていたのが真相なのだという。
ある時期に発生していた連続失踪事件について、モバイルネットニュース配信会社が書いた記事だ。
鏡に映る、動物を人型に当て嵌めたような造形をした異形の怪物。
この怪物は現実に存在せず、『鏡の中の世界』にのみ棲息している。
失踪事件は、この怪物が餌として人間を襲っていたのが真相なのだという。
当然信じる者は皆無だった。CGによるデタラメだと猛批判を受け会社は炎上。
それがきっかけで一時は事務所が差し押さえになるまで追い込まれている。
炎上の波も消え、事件についても、まるで『はじめから事件そのものが無かった』かのように誰も追求せず風化したという。
それがきっかけで一時は事務所が差し押さえになるまで追い込まれている。
炎上の波も消え、事件についても、まるで『はじめから事件そのものが無かった』かのように誰も追求せず風化したという。
これはあくまで一例にすぎない。
似たような話は、ネットを漁れば幾らでも出てくる程度の眉唾でしかない。
だが、仮に。埋もれたその中のどれかが『本物』であったとしたら。
それを嗅ぎ取れる者が、真実を追い求めた結果辿り着いたとしたら。
似たような話は、ネットを漁れば幾らでも出てくる程度の眉唾でしかない。
だが、仮に。埋もれたその中のどれかが『本物』であったとしたら。
それを嗅ぎ取れる者が、真実を追い求めた結果辿り着いたとしたら。
鏡は深淵に似ている。
覗き込んだ時、怪物もまたそこから覗き込み、己を見つける誰かを引きずり込むのを待ち続けているのかもしれない……。
覗き込んだ時、怪物もまたそこから覗き込み、己を見つける誰かを引きずり込むのを待ち続けているのかもしれない……。
◆
武蔵、騎馬武者と相まみえる。
種子島での鉄砲伝来以前、騎兵は合戦にて最強無敵を誇っていた。
徒歩 を圧倒する機動力。柵ごと人を蹂躙する突進力。
揃えた馬の数が勝敗を左右し、大名の強さを計るステイタスとして機能していたとなれば、武田の騎馬軍団の無敗神話が伝播するのも道理であろう。
揃えた馬の数が勝敗を左右し、大名の強さを計るステイタスとして機能していたとなれば、武田の騎馬軍団の無敗神話が伝播するのも道理であろう。
関ヶ原帰りの武蔵、当然騎兵の強さを知る。
鉄砲が戦場に出回るようになっても、次弾の弾込めの練度、数の不足しいた時期においては、未だ騎馬武者は脅威と強壮の象徴である。
銃弾は単発であれば躱せる目がある。点である銃線は、急所にさえ当たらなければ戦闘を続行できる。
列を並べられても、戦場に無数に横たわる屍を盾にすれば凌ぐ事も可能。
だが、騎馬にひと揉みされればそれだけで死に直結する。
質量がそのまま兵器と化し、触れただけでも全身の骨を折る大打撃だ。
鉄砲が戦場に出回るようになっても、次弾の弾込めの練度、数の不足しいた時期においては、未だ騎馬武者は脅威と強壮の象徴である。
銃弾は単発であれば躱せる目がある。点である銃線は、急所にさえ当たらなければ戦闘を続行できる。
列を並べられても、戦場に無数に横たわる屍を盾にすれば凌ぐ事も可能。
だが、騎馬にひと揉みされればそれだけで死に直結する。
質量がそのまま兵器と化し、触れただけでも全身の骨を折る大打撃だ。
然るに、騎兵の対処は走らせぬ事に尽きる。
平地では無類の馬も、機動力を奪えば単なる大きい的でしかない。
木々に指向性を任せられ、ちょっとした障害で止まり、高所で弓を射ればそれで確勝だ。
コンクリートに電柱、入り組んだ路地。武蔵の知らぬ知識であれど、武蔵にとってここはまさしく森である。
まして供回りもいない単騎での疾走。討つに不足はないと計算を了じていた。
平地では無類の馬も、機動力を奪えば単なる大きい的でしかない。
木々に指向性を任せられ、ちょっとした障害で止まり、高所で弓を射ればそれで確勝だ。
コンクリートに電柱、入り組んだ路地。武蔵の知らぬ知識であれど、武蔵にとってここはまさしく森である。
まして供回りもいない単騎での疾走。討つに不足はないと計算を了じていた。
「……っ!」
飛来する弾雨を、鞘に入れたままの刀で払う。
拡充具足という外骨格 無き身では、頭に一発もらっただけでも致命打。
大小様々な形状の礫の中で、大型、かつ正中線に当たるものに限定して防ぐ。
腿や肩口を打ちのめす痛みを堪え目前を睨む。
障害物をものともせず、邪魔だと言わんばかりに刀でポールを裂き、壁を砕き飛ばして猛進する騎兵の動きを注視する。
拡充具足という
大小様々な形状の礫の中で、大型、かつ正中線に当たるものに限定して防ぐ。
腿や肩口を打ちのめす痛みを堪え目前を睨む。
障害物をものともせず、邪魔だと言わんばかりに刀でポールを裂き、壁を砕き飛ばして猛進する騎兵の動きを注視する。
源頼光。あるいは英霊剣豪・黒縄地獄。
ライダーのクラスで召喚された事で得たクラススキル・騎乗は、凡そ『駆る物』全般についてなら初見であろうと熟練の手並みで操縦できる。
調教されてない馬であろうと、生きていた時代には存在しない未知の種族であろうと、生物ですらない機械であったとしてもだ。
物言わぬ絡繰の躯。四足ではない前後二輪、ハーレー・ダビッドソンも手に取った時点で、その全機能を把握している。
長年調教した愛馬も同然の綱使いでハンドルを駆使する姿は、疑いなく騎兵であった。
片手操縦で空いた手の絶刀を振り、進行の邪魔になる電柱や看板を蹴散らして進む。
異形の組み合わせは一切の不全を起こさず、しかして起こす事象は理不尽の極みだ。
ライダーのクラスで召喚された事で得たクラススキル・騎乗は、凡そ『駆る物』全般についてなら初見であろうと熟練の手並みで操縦できる。
調教されてない馬であろうと、生きていた時代には存在しない未知の種族であろうと、生物ですらない機械であったとしてもだ。
物言わぬ絡繰の躯。四足ではない前後二輪、ハーレー・ダビッドソンも手に取った時点で、その全機能を把握している。
長年調教した愛馬も同然の綱使いでハンドルを駆使する姿は、疑いなく騎兵であった。
片手操縦で空いた手の絶刀を振り、進行の邪魔になる電柱や看板を蹴散らして進む。
異形の組み合わせは一切の不全を起こさず、しかして起こす事象は理不尽の極みだ。
第二波の散弾。隙間なく武蔵の全身を砕きに迫る砲弾を、沸き起こる炎が包むようにいなす。
武蔵、この度は孤剣にあらず。武蔵では届かずでも、背を任せるに足る同士がいた。
炎の呼吸・肆ノ型【盛炎のうねり】。広範囲をカバーする煉獄の打ち手が武蔵を覆う。
武蔵、この度は孤剣にあらず。武蔵では届かずでも、背を任せるに足る同士がいた。
炎の呼吸・肆ノ型【盛炎のうねり】。広範囲をカバーする煉獄の打ち手が武蔵を覆う。
「武蔵、跳べ!」
数瞬で意図を理解した武蔵が煉獄の背を踏みつけにする。
翼がない人は燕にはなれぬ。だが鋼にまで鍛え上げた炎柱の背筋は射出台となって、武蔵を空に運ぶ!
【盛炎のうねり】で散弾は届かないと見るや、黒縄は狂いなく武器を弓に持ち替えた。
弓に矢を番え引き絞り、放つ。一定の動作を必要とする射を、僅か一息で終える。武蔵の跳躍が伸び切り落下し始める、僅か二秒の出来事である。
空中では盾になるものも方向転換する為に踏ん張る足場も存在しない。串刺しにする定めの矢はしかし、武蔵が投じた飛刀と衝突して逸らされた。
元は煉獄の支給品。雅との打ち合いで刃毀れが目立ち、両名共自前の刀が戻って無用だったもの。
跳ぶ寸前にすぐさま三の刃を取り出して腰に差し、隙を埋める為の補助にした。
デイパックが質量を無視して物が入る特性を、永井から聞いていたからこそ浮かんだ策だ。
翼がない人は燕にはなれぬ。だが鋼にまで鍛え上げた炎柱の背筋は射出台となって、武蔵を空に運ぶ!
【盛炎のうねり】で散弾は届かないと見るや、黒縄は狂いなく武器を弓に持ち替えた。
弓に矢を番え引き絞り、放つ。一定の動作を必要とする射を、僅か一息で終える。武蔵の跳躍が伸び切り落下し始める、僅か二秒の出来事である。
空中では盾になるものも方向転換する為に踏ん張る足場も存在しない。串刺しにする定めの矢はしかし、武蔵が投じた飛刀と衝突して逸らされた。
元は煉獄の支給品。雅との打ち合いで刃毀れが目立ち、両名共自前の刀が戻って無用だったもの。
跳ぶ寸前にすぐさま三の刃を取り出して腰に差し、隙を埋める為の補助にした。
デイパックが質量を無視して物が入る特性を、永井から聞いていたからこそ浮かんだ策だ。
「おおおォっっ!」
一射で終わらせず連射で撃ち落とさんとする黒縄の目が、正面に向き直る。
掃射が止み阻むものがなくなった煉獄が、型を切り替え裂帛の気合いと共に壱ノ型【不知火】で斬り込む。
上下同時連撃。ここまでが全ての狙いだった。
距離を詰め、二手に分かれ、狙いを散らし弓を封じる。
たとえ片方を射貫いても、その時には既に討ち漏らした方の刃が届いている。
三次元上での斬撃を組み込んだ手練は鮮やかなるばかりであり、だからこそその対処法に、武蔵も煉獄も目を剥いた。
掃射が止み阻むものがなくなった煉獄が、型を切り替え裂帛の気合いと共に壱ノ型【不知火】で斬り込む。
上下同時連撃。ここまでが全ての狙いだった。
距離を詰め、二手に分かれ、狙いを散らし弓を封じる。
たとえ片方を射貫いても、その時には既に討ち漏らした方の刃が届いている。
三次元上での斬撃を組み込んだ手練は鮮やかなるばかりであり、だからこそその対処法に、武蔵も煉獄も目を剥いた。
「なんと……っ!」
射をかける最中にも、黒縄はバイクのアクセルは緩めていなかった。
それを挟撃に際して更にアクセルを回し、前輪が跳ね上がりウィリー走行となって煉獄の顔面目掛けて突っ込む。
しかも衝突と同時に、武蔵の唐竹割りを絶刀で受けながらの対応である。武蔵の全体重と落下速を合算した斬撃を、だ。
女を逸した筋肉が隆起した腕といえど刀一本で、折れもせず、押し込まれもせず、武蔵の体は浮いていた。
不知火を咄嗟に解いて車輪を止めた煉獄にも、黄泉平坂の岩にも等しい圧がかかっていた。
攻めながらにして固まった二人に対して、黒縄を軽やかに車体から跳ぶ。ハンドルに置いた手を軸にして浮き上がり、双方向に蹴りを見舞う。
鳩尾と顔面、急所狙いをぎりぎりでかわしたのは流石の一言。被害を最小限で食い止め、離れた間合いを取り直す。
それを挟撃に際して更にアクセルを回し、前輪が跳ね上がりウィリー走行となって煉獄の顔面目掛けて突っ込む。
しかも衝突と同時に、武蔵の唐竹割りを絶刀で受けながらの対応である。武蔵の全体重と落下速を合算した斬撃を、だ。
女を逸した筋肉が隆起した腕といえど刀一本で、折れもせず、押し込まれもせず、武蔵の体は浮いていた。
不知火を咄嗟に解いて車輪を止めた煉獄にも、黄泉平坂の岩にも等しい圧がかかっていた。
攻めながらにして固まった二人に対して、黒縄を軽やかに車体から跳ぶ。ハンドルに置いた手を軸にして浮き上がり、双方向に蹴りを見舞う。
鳩尾と顔面、急所狙いをぎりぎりでかわしたのは流石の一言。被害を最小限で食い止め、離れた間合いを取り直す。
「上の上、その更に上……あれこそ、極みか」
「まったくだ! 至高の領域とはいったものだな!」
「まったくだ! 至高の領域とはいったものだな!」
煉獄と武蔵。言葉を交わさずとも胸中に懐く感慨は同じくしていた。
即ちは、極められた武練への感嘆と畏敬だ。
意思無き馬を手足の延長上で自在に操り、標的を過たず射を放つ馬術。
天性の膂力と柔軟性が融合した理想の玉体。そしてそれを余す事なく活用する技量。
武に生きる者であれば思わず見惚れるほどの、武者の体現がそこにはあった。
即ちは、極められた武練への感嘆と畏敬だ。
意思無き馬を手足の延長上で自在に操り、標的を過たず射を放つ馬術。
天性の膂力と柔軟性が融合した理想の玉体。そしてそれを余す事なく活用する技量。
武に生きる者であれば思わず見惚れるほどの、武者の体現がそこにはあった。
「だがしかし───」
だからこそ討たねばならぬと、武蔵は奮する。
なればこそ止めねばならぬと、煉獄は抱く。
この武は本来、武蔵達のように鬼相手に向けられるべき力だ。
泰平を築く為の力だ。
それが今、民草に向けられんとしている。それが激しく、我慢ならない。
なればこそ止めねばならぬと、煉獄は抱く。
この武は本来、武蔵達のように鬼相手に向けられるべき力だ。
泰平を築く為の力だ。
それが今、民草に向けられんとしている。それが激しく、我慢ならない。
「………………きゅうじゅうろく、きゅうじゅうなな、きゅうじゅうはち……」
縦横無尽の輪動を止めた黒縄地獄が、何事かを呟いてるかと耳を澄ます。
指で刀を弄くりながら、数を数えて唄っている。
楽しそうに。遊び時間が来るのを待ち望んでる子供のように。
そしてその時は、訪れた。
指で刀を弄くりながら、数を数えて唄っている。
楽しそうに。遊び時間が来るのを待ち望んでる子供のように。
そしてその時は、訪れた。
「きゅうじゅうく、ひゃく……。
おや、まだあんなところまでしか進んでないのですね。目で見える距離ではないですか。
ですが仕方ありません。きちんと百まで数えた事ですし、ね?」
おや、まだあんなところまでしか進んでないのですね。目で見える距離ではないですか。
ですが仕方ありません。きちんと百まで数えた事ですし、ね?」
おもむろに矢を上に掲げて放つ。
武蔵も煉獄も大きく外れた軌道が通過するのを怪訝に見送り───先にあるものを察知するに至った。
武蔵も煉獄も大きく外れた軌道が通過するのを怪訝に見送り───先にあるものを察知するに至った。
「───総員、上空!! 退避命令!!」
思わず命令口調にして声を飛ばす。街の一画にまで及ぶ大声は果たして届き、驚いた面々が振り返る。
放物線を描いて数秒の後、着地。次いで衝撃と悲鳴。
音から推測する感覚任せだが、恐らく当たってはいない。だが、安全からは程遠い。守るために遠ざけておきながら、いまだ射程内だった。
そして、背にいる者を守る戦いにおいては、騎乗物の差が如実に表れる。
放物線を描いて数秒の後、着地。次いで衝撃と悲鳴。
音から推測する感覚任せだが、恐らく当たってはいない。だが、安全からは程遠い。守るために遠ざけておきながら、いまだ射程内だった。
そして、背にいる者を守る戦いにおいては、騎乗物の差が如実に表れる。
「───鬼よ!」
武蔵は騎馬の脅威を正しく心得ている。歩兵と比して圧倒的な機動力を理解している。
故にこそ───遠ざかって他者に刃を向けるのを止める事の難しさも。
故にこそ───遠ざかって他者に刃を向けるのを止める事の難しさも。
武蔵にあった鬼への兵法者としての敬意が、只今を以て消し飛んだ。
それほどの怒りだった。
それだけの侮辱を今されたのだ。
それほどの怒りだった。
それだけの侮辱を今されたのだ。
人が知り得るあらゆる無礼、残虐が罷り通るのは合戦の習いではあるだろう。
逃げる弱卒、民草を戦利品と称して奪い、犯し、殺すのもまた道理だ。
だが鬼は、死合も終わらぬ最中に、殿を無視して逃げる善吉らへ矢を放った。
興にされた。武蔵を前にしておきながら、専心するに値しないと、支障ないと見做したのだ!
逃げる弱卒、民草を戦利品と称して奪い、犯し、殺すのもまた道理だ。
だが鬼は、死合も終わらぬ最中に、殿を無視して逃げる善吉らへ矢を放った。
興にされた。武蔵を前にしておきながら、専心するに値しないと、支障ないと見做したのだ!
「避けられたようですね。では、次は捕まえるといたしましょう。
ああ、あなた達も止めたくば……どうか頑張ってくださいね?」
ああ、あなた達も止めたくば……どうか頑張ってくださいね?」
ハンドルを取り直し、鉄馬の嘶きが再び唸りを上げた。
戦局の変化。迫る鬼を押し止めるのではなく、駆ける鬼に追い縋る展開に。
戦局の変化。迫る鬼を押し止めるのではなく、駆ける鬼に追い縋る展開に。
女は微笑んだ。
地獄の如き、狂へる笑いであった。
地獄の如き、狂へる笑いであった。
◆
「おいヤベエヤベエヤベエ、追って来てるぞあのキ○○○!」
事態が急変したのは、逃げていた工藤達にも伝わっていた。
殿を受け持って戦っていた煉獄がここまで届く大声を出したかと思えば、空から振ってきた矢が足元に突き刺さってきた。
ここにいる全員、多少なりとも荒事に慣れている。自分に向かう殺意、なにかしらの感情が向かう事には常人よりも鋭敏だった。
周りの地面が陥没し、迫撃砲でも撃たれてるかのような緊迫が心身を締め上げる。
元から足早で去ろうとしていたのが、今や全力疾走だ。
ここにいる全員、多少なりとも荒事に慣れている。自分に向かう殺意、なにかしらの感情が向かう事には常人よりも鋭敏だった。
周りの地面が陥没し、迫撃砲でも撃たれてるかのような緊迫が心身を締め上げる。
元から足早で去ろうとしていたのが、今や全力疾走だ。
「ああ撃ってきた!? また撃ってきたよ!? ああクソ、ふっざけんなぁあああああ!!」
普段から危険を冒すのに躊躇ない工藤だが、手に負えないと判断する嗅覚は鋭く、逃げる時は逃げる。
この威勢のよさと小心の微妙なバランスが、今日まで男を今まで生かしてきたのだった。
この威勢のよさと小心の微妙なバランスが、今日まで男を今まで生かしてきたのだった。
一行は背を向けて必死に走りながら、しかし誰も逃れられてるという気はしないでいた。
後ろを振り返らずとも自分達を追跡する鬼武者の姿が脳裏に映る。心臓を震わすエンジンの爆音は死神の足音そのものだ。
たまに起こる剣戟は煉獄達が足止めしている音だろうが、それも一旦バイクが遠ざかるだけで、すぐさま別ルートからまた接近してくる。
後ろを振り返らずとも自分達を追跡する鬼武者の姿が脳裏に映る。心臓を震わすエンジンの爆音は死神の足音そのものだ。
たまに起こる剣戟は煉獄達が足止めしている音だろうが、それも一旦バイクが遠ざかるだけで、すぐさま別ルートからまた接近してくる。
それもそうだろう。如何に煉獄達の腕が立つとはいえ、相手はバイクという軌道手段を持っている。
瞬発的な加速では上回るとしても、燃料が続く限り速度を常に維持していられるバイクでは持久力に明白な差が生まれる。攻めるも退くも、主導権はあちらにある。
瞬発的な加速では上回るとしても、燃料が続く限り速度を常に維持していられるバイクでは持久力に明白な差が生まれる。攻めるも退くも、主導権はあちらにある。
「ハァッ……ハァッ……どうすんだい、このままじゃジリ貧だよ……!」
息を切らし途切れ途切れに苦悶を漏らす姐切。限界があるのは煉獄達のみではない。
特にこの中で一番の年配の工藤はグロッキー寸前だ。遠からず足を止めてしまう。そうすれば後は相手の狙い放題だ。
特にこの中で一番の年配の工藤はグロッキー寸前だ。遠からず足を止めてしまう。そうすれば後は相手の狙い放題だ。
窮地に陥った一行に追い打ちをかけるように、振動と爆発が起こった。
だが後ろからではない。前に見える、塀で覆われた物々しい雰囲気の敷地の中からだ。
だが後ろからではない。前に見える、塀で覆われた物々しい雰囲気の敷地の中からだ。
「この方角……施設……くそ、まさか……!」
「永井もそう思ったか! 意見が一致してくれて嬉しいがそれどころじゃねえぜ! アイツらこんなとこにいやがったのか!」
「永井もそう思ったか! 意見が一致してくれて嬉しいがそれどころじゃねえぜ! アイツらこんなとこにいやがったのか!」
とにかく逃げてるうちに近づいていたらしい施設を目にして、圭と善吉は同じ想定をした。
陽光を苦手とすると仮定し、後で煉獄から確証を得た、鬼という種が身を潜めるに適した場所。
交戦した二体の鬼が逃げた先として候補に上げていた施設、入間自衛隊基地。
その入口の正門に、五人は差し掛かろうとしていた。
陽光を苦手とすると仮定し、後で煉獄から確証を得た、鬼という種が身を潜めるに適した場所。
交戦した二体の鬼が逃げた先として候補に上げていた施設、入間自衛隊基地。
その入口の正門に、五人は差し掛かろうとしていた。
「……っ」
最悪だ。悪い事というものは、こうも続いて重なるものらしい。
あれから数は増えてるが、剣士二人がいなければ凌ぐ事もできない。
この苦境をどう凌ぐかについて、圭は既に計算を終えている。
そも考えるまでもない。これはもう、以前に使った手段だ。
あれから数は増えてるが、剣士二人がいなければ凌ぐ事もできない。
この苦境をどう凌ぐかについて、圭は既に計算を終えている。
そも考えるまでもない。これはもう、以前に使った手段だ。
"全員で分散する─────それが一番全員に可能性がある。今回は数も多いし、戦える人もいる。前よりも目はある方だ"
『前回』では石上優と二手に別れて筋肉男を撒き、追われなかった圭は助かり、追われた石上は死んだ。
見捨てたくてやったわけじゃない。亜人であるのを加味してもお互いが生き残る為に最良の手段だった。
少なくとも二人捕まって死ぬという結果だけは避けられた。それは疑いようのない、文句の言う余地のない成果だ。
今回はその五分の一。さらに後ろには戦闘に長けた者も続いている。
援護するにもまず二人の邪魔にならないよう態勢を整えたいし、人質にでもされたら目も当てられない。
基地から離れれば住宅街が隣接してるし、隠れる所は豊富にある。間違いなくこれが最良の策だろう。
見捨てたくてやったわけじゃない。亜人であるのを加味してもお互いが生き残る為に最良の手段だった。
少なくとも二人捕まって死ぬという結果だけは避けられた。それは疑いようのない、文句の言う余地のない成果だ。
今回はその五分の一。さらに後ろには戦闘に長けた者も続いている。
援護するにもまず二人の邪魔にならないよう態勢を整えたいし、人質にでもされたら目も当てられない。
基地から離れれば住宅街が隣接してるし、隠れる所は豊富にある。間違いなくこれが最良の策だろう。
……真っ先に誰か一人が優先して狙われ、呆気なく一人死ぬとしても。
全員纏めて死ぬよりはマシだ。全滅よりは遥かに上等だ。
全員纏めて死ぬよりはマシだ。全滅よりは遥かに上等だ。
「永井君、もしや先程話していた鬼の……」
「はい。なので皆さん聞いてください。ここは……」
「なんだよ……じゃあ丁度いいじゃねえか! このまま自衛隊基地、そこに向かうぞ!」
「は?」
「はい。なので皆さん聞いてください。ここは……」
「なんだよ……じゃあ丁度いいじゃねえか! このまま自衛隊基地、そこに向かうぞ!」
「は?」
そうして献策しようとした圭だが、思ってもみない割り込みを受けた。
他に策が出てくるのも、それがぜいぜいと言葉を出すのも億劫そうな状態の工藤だったのも、圭は考えもしていなかった。
他に策が出てくるのも、それがぜいぜいと言葉を出すのも億劫そうな状態の工藤だったのも、圭は考えもしていなかった。
「おい工藤、アンタなにするつもりなんだい!」
「ああ!? バカヤロ姐切もう忘れたのか?
さっきも言ったろうが────バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」
『はあああああああああああ!?』
「ああ!? バカヤロ姐切もう忘れたのか?
さっきも言ったろうが────バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」
『はあああああああああああ!?』
声が上がった。
叫んだのは圭であり、善吉であり、姐切であり、前園である。
全員が、工藤の言葉に同じ『お前は何を言っているんだ』という意味の絶叫を上げた。
叫んだのは圭であり、善吉であり、姐切であり、前園である。
全員が、工藤の言葉に同じ『お前は何を言っているんだ』という意味の絶叫を上げた。
「こちとら元々そのつもりだったんだ! バイクに乗って辻斬りするバケモン女と鬼のバケモン男の対決! 相手は変わるが大筋は変わらねぇ!」
ひとり、発言者の工藤だけが会心の策と言わんばかりににやけ面をしていた。
酸素不足からの朦朧とした仕草も相まって、麻薬中毒者さながらの不気味な異様さを見せている。
酸素不足からの朦朧とした仕草も相まって、麻薬中毒者さながらの不気味な異様さを見せている。
「いい加減にしなよこんな時まで! アンタが道楽に命懸けんのは勝手だけどアタイらを巻き込むんじゃないよ!」
「じゃあどうするってんだ? いいか、逃げて解決する事なんてのはなぁ、この世のどこにもねぇんだよ!!
煉獄さん達がやられたらどのみち俺ら終わりなんだ。だったら進むしかねぇだろ!!
俺らは生き残って、バケモンは潰し合って、映像は撮れる! これで一石二鳥どころか三鳥だろうが文句あっか!」
「じゃあどうするってんだ? いいか、逃げて解決する事なんてのはなぁ、この世のどこにもねぇんだよ!!
煉獄さん達がやられたらどのみち俺ら終わりなんだ。だったら進むしかねぇだろ!!
俺らは生き残って、バケモンは潰し合って、映像は撮れる! これで一石二鳥どころか三鳥だろうが文句あっか!」
ドローンを指差して姐切に浴びせかける言葉には、意外なほどに論があった。
取らぬ狸の皮算用などではない、工藤なりに現状を打破する解決法だった。
ただ生存重視の圭と違って、工藤は敵を諸共撃滅するという、万事上手くいけば確かに大戦果だが、一手損なうだけで全滅に直結の大博打だった。
取らぬ狸の皮算用などではない、工藤なりに現状を打破する解決法だった。
ただ生存重視の圭と違って、工藤は敵を諸共撃滅するという、万事上手くいけば確かに大戦果だが、一手損なうだけで全滅に直結の大博打だった。
何を馬鹿なと、否定しにかかろうとする圭の気勢が削がれる。
さっきまで意識が混濁しかけていたと工藤の剣幕には、不思議と有無を言わさぬ迫力があった。
鬼、という単語を聞いた事で、男の内のなにかが覚醒したかのような。
信念、いやここまでくればもう執念妄念の域だ。
さっきまで意識が混濁しかけていたと工藤の剣幕には、不思議と有無を言わさぬ迫力があった。
鬼、という単語を聞いた事で、男の内のなにかが覚醒したかのような。
信念、いやここまでくればもう執念妄念の域だ。
その僅かな遅れの空白が、後にまで続く選択を決めるに至る。
背後から地面が削られる怪音に我に返った圭を尻目に、工藤が基地の敷地に突き進む。
他に手もないと同調したのか、あるいは諦めからか、工藤を止めようとしてか、いずれにせよ他の者も続いて追いかけていく。
背後から地面が削られる怪音に我に返った圭を尻目に、工藤が基地の敷地に突き進む。
他に手もないと同調したのか、あるいは諦めからか、工藤を止めようとしてか、いずれにせよ他の者も続いて追いかけていく。
「ばっ……嘘だろ……!?」
完全に遅きに失した。進展を余儀なくされ、ついに圭も走り出した。
自衛隊入間基地。彼が未だ知らぬ運命が待ち受ける地に、一足早く踏み入れた。
自衛隊入間基地。彼が未だ知らぬ運命が待ち受ける地に、一足早く踏み入れた。
◆
「────よぉ」
「災難だったよなお互い。いきなり意味のわからない事に巻き込まれてさ。
酒でも奢ってやれればいいけど、それはもうちょい待っててくれよな」
酒でも奢ってやれればいいけど、それはもうちょい待っててくれよな」
「俺もさ、何回か死にそうな目にあってよ。そん時ゃ色々な奴に助けてもらったりしてまあ、なんとか生きてるわ。
みんないい奴だったんだけど、水澤はともかく、冨岡がなぁ……。
いやいい奴なんだよ。いい奴なんだけど、すっげえ鉄面皮なの。返事が簡潔すぎんの。なに考えてんのかわっかんねえの。
そもそも名前だってさっき知ったばっかだし? ナイチンゲールさんにこってり絞られてようやくだよ。
人間じゃないっぽい水澤や禰豆子ちゃんよりとっつきづらいってどうなってんの? 広斗でもあんな無愛想じゃねえよ」
みんないい奴だったんだけど、水澤はともかく、冨岡がなぁ……。
いやいい奴なんだよ。いい奴なんだけど、すっげえ鉄面皮なの。返事が簡潔すぎんの。なに考えてんのかわっかんねえの。
そもそも名前だってさっき知ったばっかだし? ナイチンゲールさんにこってり絞られてようやくだよ。
人間じゃないっぽい水澤や禰豆子ちゃんよりとっつきづらいってどうなってんの? 広斗でもあんな無愛想じゃねえよ」
「ああそう、広斗だよ! あいつさ、これが始まってから何してたと思う?女連れて、バイク乗ってんの。すぐそこに俺がいたのに、気づかないで、素通りして!
あーあー今頃ふたりっきりでイチャコラしてんだろーなー……お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはありませんよまった──────」
あーあー今頃ふたりっきりでイチャコラしてんだろーなー……お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはありませんよまった──────」
誰に向けたわけでもなく、一人で延々と喋り続けていた男の声が、そこで止まった。
自分が何からしくない、みっともない真似をしているのに気づいたような、ばつの悪い表情をしていた。
自分が何からしくない、みっともない真似をしているのに気づいたような、ばつの悪い表情をしていた。
雅貴はいま一人だ。自衛隊基地の広い敷地の、ある一画の倉庫でしゃがんでいる。
要救護患者を運んでから、いやにチェックの厳しい診断をクリアしていち早く部屋を抜け出していた。
趣の違う美女三人とお近づきになれるチャンスだったが、重傷者と未成年、残る一人もなんか恐いという点でいまいち気分にはなれなかった。
連れ立った冨岡は今も詰問を受けている。部屋を出る際にちらと見た顔はあいも変わらずなに考えてるかわからない無愛想さだった。
これからどうなるか、どうするかと考えながらぶらつきながら、とりあえずと決めていた目的を済ませることにした。
要救護患者を運んでから、いやにチェックの厳しい診断をクリアしていち早く部屋を抜け出していた。
趣の違う美女三人とお近づきになれるチャンスだったが、重傷者と未成年、残る一人もなんか恐いという点でいまいち気分にはなれなかった。
連れ立った冨岡は今も詰問を受けている。部屋を出る際にちらと見た顔はあいも変わらずなに考えてるかわからない無愛想さだった。
これからどうなるか、どうするかと考えながらぶらつきながら、とりあえずと決めていた目的を済ませることにした。
雅貴以外、ここには誰もいない。
どれだけ声をかけようと、言葉を投げようと、答え返すものは誰もいない。
見知った顔がそこにいても、死んだ人間は何かを自分に返してくれたりはくれない。
それを、雅貴は知っている。
どれだけ声をかけようと、言葉を投げようと、答え返すものは誰もいない。
見知った顔がそこにいても、死んだ人間は何かを自分に返してくれたりはくれない。
それを、雅貴は知っている。
ムゲン時代でも山王連合会時代でも、コブラとは仲がいいわけではなかった。
というより、SWORD地区で仲がいい相手なんてのはまったくといっていいほどいない。
あの場所での記憶はいつだって拳の遣り取りばかりで、いい思い出なんてひとつもない。
なのに、いつの間にやら妙に長い付き合いになってしまっていた。言ってみれば腐れ縁だ。
というより、SWORD地区で仲がいい相手なんてのはまったくといっていいほどいない。
あの場所での記憶はいつだって拳の遣り取りばかりで、いい思い出なんてひとつもない。
なのに、いつの間にやら妙に長い付き合いになってしまっていた。言ってみれば腐れ縁だ。
「……琥珀達には、うまいこと伝えとくわ。俺に言われても迷惑かもだけど、何も知らないよりゃマシだろ」
悲しみなんて気取った名前を背負ったりはしない。
仇討ちなんて殊勝さは沸いてこない。
涙なぞ、どれだけ捻っても一滴たりとも出りゃしない。
薄情だとは思わない。好き好んで男の理解を深めたくはないが、拳を交え、共に戦っていけば、見えるものもある。
コブラが慕っていた琥珀という男は、下手な馴れ合いや気遣いをするのも無粋だというぐらいには理解している。
最期を教え、形見のひとつでも渡せばいい。せいぜいが、それくらいの軽い縁だ。
仇討ちなんて殊勝さは沸いてこない。
涙なぞ、どれだけ捻っても一滴たりとも出りゃしない。
薄情だとは思わない。好き好んで男の理解を深めたくはないが、拳を交え、共に戦っていけば、見えるものもある。
コブラが慕っていた琥珀という男は、下手な馴れ合いや気遣いをするのも無粋だというぐらいには理解している。
最期を教え、形見のひとつでも渡せばいい。せいぜいが、それくらいの軽い縁だ。
「あー……ごめんね。いまちょっと手が離せないんだわ。
用があるなら後にしてくんない? 女の子なら話は別なんだけど」
用があるなら後にしてくんない? 女の子なら話は別なんだけど」
ぼやいた口調は、今度は一人芝居ではなかった。
物言わぬ死体にではなく、基地内の日陰に潜んだ気配に向けてのものだった。
物言わぬ死体にではなく、基地内の日陰に潜んだ気配に向けてのものだった。
影が伸びて踊り出る。
二足で走り込んだソレは、四足獣じみた姿勢の低さと速度で駆け、その手の鋭利な爪を乱雑に振るった。
問答無用の殺意。頸動脈を狙った爪は、肘の内側に潜った蹴りで止められる。
動きを急停止されて、つんのめった体の真ん中に乗せられるブーツの底。
吹き飛ばされて地面を転がった男───鬼となった男は胸を押さえながら雅貴を赤い目で睨みつけた。
二足で走り込んだソレは、四足獣じみた姿勢の低さと速度で駆け、その手の鋭利な爪を乱雑に振るった。
問答無用の殺意。頸動脈を狙った爪は、肘の内側に潜った蹴りで止められる。
動きを急停止されて、つんのめった体の真ん中に乗せられるブーツの底。
吹き飛ばされて地面を転がった男───鬼となった男は胸を押さえながら雅貴を赤い目で睨みつけた。
「ま……、さすがに何度も見てたら慣れるわな」
見た目の細い少年が体格にそぐわぬ運動力を見せたのも、胴を思い切り蹴っても難なく立ち上がるのにも、雅貴はもう驚かない。
鬼やアマゾン、ここまでたいがい常識外の生物に出会って、その図抜けた生命力を見せつけられた。
蹴りのひとつぐらいで倒れたりしないものだととうに学習していた。
鬼やアマゾン、ここまでたいがい常識外の生物に出会って、その図抜けた生命力を見せつけられた。
蹴りのひとつぐらいで倒れたりしないものだととうに学習していた。
「───シャアアア………………!」
獣の威嚇らしい唸り声を上げる鬼。
胸の鈍痛が急速に消えていくのに、改めて生まれ変わった体の頑強さを確認する。やはり、太陽の光さえ浴びなければただの人間に圧倒される事はない。
この倉庫はシャッターが開けられているが、太陽の位置から日差しが深くは入りこまずにあるため気をつければ問題ない。
窓も閉められ、鏡が大量に置かれてある以外に貨物もない。戦うには適した場所だ。
胸の鈍痛が急速に消えていくのに、改めて生まれ変わった体の頑強さを確認する。やはり、太陽の光さえ浴びなければただの人間に圧倒される事はない。
この倉庫はシャッターが開けられているが、太陽の位置から日差しが深くは入りこまずにあるため気をつければ問題ない。
窓も閉められ、鏡が大量に置かれてある以外に貨物もない。戦うには適した場所だ。
雅貴は、起き上がった男の顔をここでようやく見た。
天井の照明が光源になって、血走った目と黒い制服とその容貌を見て、ふと頭の片隅に引っかかりを覚えた。
天井の照明が光源になって、血走った目と黒い制服とその容貌を見て、ふと頭の片隅に引っかかりを覚えた。
「ん? 髪に……身長……悪い目つき……。
なあ君、ちょっと名前────ぉあっぶねえ!?」
なあ君、ちょっと名前────ぉあっぶねえ!?」
尋ねようと前に寄ったところを爪で横薙ぎにされかかる。
咄嗟に退いて怯んだ様を隙と見たか、鬼が跳んだ。雅貴の上を跳び越えてその背後に降り立った。
しかしそのまま背を貫こうとはせず、雅貴に背を向けてさらに走り出そうとする。
遁走、ではなかった。ここを訪れた当初の目的。人の気配より先に嗅ぎ取った、濃密な臭いの根源を平らげようとしていた。
人間を喰らう事が鬼として強くなるのに直結する。本能として理解している鬼の生態。
落ちていた金髪の男の死体は死んでから時間が経っているが、選り好みはしてられない。
今は手っ取り早く腹を満たしてしまえればいい。
鼻をつく腐臭を嫌悪でなく歓喜を以て迎えようと顎を開け食いかかろうとした体が、死体と目と鼻の先で止まった。
咄嗟に退いて怯んだ様を隙と見たか、鬼が跳んだ。雅貴の上を跳び越えてその背後に降り立った。
しかしそのまま背を貫こうとはせず、雅貴に背を向けてさらに走り出そうとする。
遁走、ではなかった。ここを訪れた当初の目的。人の気配より先に嗅ぎ取った、濃密な臭いの根源を平らげようとしていた。
人間を喰らう事が鬼として強くなるのに直結する。本能として理解している鬼の生態。
落ちていた金髪の男の死体は死んでから時間が経っているが、選り好みはしてられない。
今は手っ取り早く腹を満たしてしまえればいい。
鼻をつく腐臭を嫌悪でなく歓喜を以て迎えようと顎を開け食いかかろうとした体が、死体と目と鼻の先で止まった。
「ったくさぁ─────」
制服の裾を掴み逆方向に思い切り引っ張る。多少引きずられたが、なんとか届く前に止められた。
巻き取るように裾を掴んだまま、膝の裏に蹴りを落とす。そうして足を崩してから横合いに体重を乗せた蹴りで上体を転がした。
巻き取るように裾を掴んだまま、膝の裏に蹴りを落とす。そうして足を崩してから横合いに体重を乗せた蹴りで上体を転がした。
悠や禰豆子と出会って、人を喰う存在がいるのを雅貴は知った。
だからこの男ももしやと思っていたが、案の定自分よりもコブラの死体に飛びついてきた。
知らなければ、気づくのが遅れ、止めるのも間に合わなかっただろう。
だからこの男ももしやと思っていたが、案の定自分よりもコブラの死体に飛びついてきた。
知らなければ、気づくのが遅れ、止めるのも間に合わなかっただろう。
ただの知り合いだ。
好きでもないし、仲が良くもなかった。
死んだところで、少しだけの感傷しか生まれない。
だが、しかし。だからこそ、その僅かな感傷こそが重要だった。
好きでもないし、仲が良くもなかった。
死んだところで、少しだけの感傷しか生まれない。
だが、しかし。だからこそ、その僅かな感傷こそが重要だった。
顔見知りの骸が、みすみす食われるのを見過ごす。
そこには男にとって、体を張るだけの感傷であり、理由があったのだ。
そこには男にとって、体を張るだけの感傷であり、理由があったのだ。
「生きてるやつが、死んだやつにちょっかいかけんじゃねえよ」
「────────────!」
「────────────!」
食事を邪魔された憤りで肉体が膨張する錯覚に陥る。
空想を現実に成さんと人体の限界を越えた鬼の肉が蠢動し出す。だがその間に、雅貴は侵掠を完了していた。
先に対敵した人吉善吉よりなお疾く無駄のない歩法。
怪物を前に只人が徒手で懐に入る。そんな誰もが身を竦ませるはずの恐怖を振り切って、身を畳み零距離 にまで接近し───────。
空想を現実に成さんと人体の限界を越えた鬼の肉が蠢動し出す。だがその間に、雅貴は侵掠を完了していた。
先に対敵した人吉善吉よりなお疾く無駄のない歩法。
怪物を前に只人が徒手で懐に入る。そんな誰もが身を竦ませるはずの恐怖を振り切って、身を畳み
肘が顎を掠めた。
拳骨が人中を打った。
脚が喉を叩き、膝が肋骨を割り、胃を蠕動させ、心臓を響かせ、脳を撹拌させる。
大気が爆発するが如く。一息で繰り出した連撃は、美麗なまでに全撃全霊に叩き込まれた。
拳骨が人中を打った。
脚が喉を叩き、膝が肋骨を割り、胃を蠕動させ、心臓を響かせ、脳を撹拌させる。
大気が爆発するが如く。一息で繰り出した連撃は、美麗なまでに全撃全霊に叩き込まれた。
「いい加減、ビックリ人間ショーに驚くのも飽きたんだわ。俺、そういうキャラじゃないし!」
鬼やアマゾンとの戦闘を経て、雅貴は彼らが構造が人体と大差ない事を把握していた。
確かに人間より圧倒的に強靭だ。しかも四肢を失っても瞬く間に再生するほど耐久性、継戦力が高い。
だがそれは人間の延長線上の強さだ。骨があれば脳も臓器もある。それへのダメージ自体は入る。すぐ回復するだけだ。
人が成ったものだからなのか、素を人にしているからなのか、それはわからない。それでも造りは雅貴が幾百千と打破してきた感触を残していた。
確かに人間より圧倒的に強靭だ。しかも四肢を失っても瞬く間に再生するほど耐久性、継戦力が高い。
だがそれは人間の延長線上の強さだ。骨があれば脳も臓器もある。それへのダメージ自体は入る。すぐ回復するだけだ。
人が成ったものだからなのか、素を人にしているからなのか、それはわからない。それでも造りは雅貴が幾百千と打破してきた感触を残していた。
なればこそ、雅貴の戦闘技術は通用する。打撃系を中心に、痛みより直接の損壊で動きを止めるよう狙いを合わせる。
相手が狙いを理解して顔を守ろうとする、あるいは無視してカウンターを狙いに突っ込んでくれば、瞬時に四肢の末端の払いに切り替え、態勢が崩れたところで全力の重い蹴りを見舞う。
禰豆子、クラゲアマゾンらに比べれば遥かに動きが劣るのが幸いした。戦いを通して雅貴の目は超常に慣れ、専用の組み立てを考案する時間があった。
相手が狙いを理解して顔を守ろうとする、あるいは無視してカウンターを狙いに突っ込んでくれば、瞬時に四肢の末端の払いに切り替え、態勢が崩れたところで全力の重い蹴りを見舞う。
禰豆子、クラゲアマゾンらに比べれば遥かに動きが劣るのが幸いした。戦いを通して雅貴の目は超常に慣れ、専用の組み立てを考案する時間があった。
だからといって、ここまで完璧に応用が叶うとは限らない。
敵は未知であり、未知の生態、未知の手段、未知の能力を備えている。
裏社会に身を置くとはいえあくまでも雅貴は現実の住人。神秘も知らなければ鬼にも会ってはいない。
それを、数度見ただけで自身の技術を調節し、実戦で適用させてみせるなど不可能にも等しい。
だが、それを可能にしてこその雨宮兄弟────────!
敵は未知であり、未知の生態、未知の手段、未知の能力を備えている。
裏社会に身を置くとはいえあくまでも雅貴は現実の住人。神秘も知らなければ鬼にも会ってはいない。
それを、数度見ただけで自身の技術を調節し、実戦で適用させてみせるなど不可能にも等しい。
だが、それを可能にしてこその雨宮兄弟────────!
鬼が堕ちる。連続的な損傷に一時的な行動不能に陥った。
泥と辛酸を舐め続けた顔は痛みよりも屈辱に染まりきっている。まさに鬼の形相だった。
手応えでいえば、肋骨四本、右鎖骨、右脚の大腿骨は折れている。その他全身細かな箇所にも罅を入れた。内蔵だって何個か潰した感覚がある。
見た目、少年に対しての仕打ちに流石に心が痛むが勘弁してねと心中で謝る。実際もう再生して立ち上がってきている。本当に効果がないらしい。
それでも徹底したのは、反撃されないのも勿論だが、考える時間を与えたかったからだ。
ここまでされれば頭も冷え、我武者羅に向かってこようとはしなくなる。その内に、こっちで確かめておきたい事があった。
今は医務室で休ませてあるお嬢様から聞いていた、探している知り合いについてを。
泥と辛酸を舐め続けた顔は痛みよりも屈辱に染まりきっている。まさに鬼の形相だった。
手応えでいえば、肋骨四本、右鎖骨、右脚の大腿骨は折れている。その他全身細かな箇所にも罅を入れた。内蔵だって何個か潰した感覚がある。
見た目、少年に対しての仕打ちに流石に心が痛むが勘弁してねと心中で謝る。実際もう再生して立ち上がってきている。本当に効果がないらしい。
それでも徹底したのは、反撃されないのも勿論だが、考える時間を与えたかったからだ。
ここまでされれば頭も冷え、我武者羅に向かってこようとはしなくなる。その内に、こっちで確かめておきたい事があった。
今は医務室で休ませてあるお嬢様から聞いていた、探している知り合いについてを。
「ちょっとは落ち着いたか? じゃあ今からお兄さんの言う事をよく聞けよ? 一回しか言わないからな?
君の名前って、ひょっとしてしろ────うぉまたかよぉ!?」
君の名前って、ひょっとしてしろ────うぉまたかよぉ!?」
またしても途中で遮られる。どこまでも格好がつかない雅貴であった。
轟音と共に壁が破れ、中からふたつの影が出てくる。
ひとつは突き破った勢いのまま積まれていた荷物の小山に突っ込んだ。硝子が砕け落ちる音が鳴る。
力強く地に降り立った方は、初見の雅貴でも一分の隙も見えない構えをしていて───。
轟音と共に壁が破れ、中からふたつの影が出てくる。
ひとつは突き破った勢いのまま積まれていた荷物の小山に突っ込んだ。硝子が砕け落ちる音が鳴る。
力強く地に降り立った方は、初見の雅貴でも一分の隙も見えない構えをしていて───。
「───! づ、ぐ……っ!」
長年の身についた経験と勘だけが強襲に対応できた。
目で追えたのは現れた男が振り向いて見せた鬼面の表情のみ。
気づいた時には雅貴は煤けた屋根を見上げていた。
両腕が、まるで電流を浴びたかのように痺れている。
起きた変化を受け止めて、そこで自分は吹き飛ばされて倒れてるのだと理解が追いついていた。
目で追えたのは現れた男が振り向いて見せた鬼面の表情のみ。
気づいた時には雅貴は煤けた屋根を見上げていた。
両腕が、まるで電流を浴びたかのように痺れている。
起きた変化を受け止めて、そこで自分は吹き飛ばされて倒れてるのだと理解が追いついていた。
「ぎりぎりで流したか。地力はあるようだな。だが、まだ鍛練が足りん」
全身に刺青が入った青年の姿。
乱入した鬼は開口一番、そんな風に雅貴に添削を下してきた。
乱入した鬼は開口一番、そんな風に雅貴に添削を下してきた。
「……効いてねぇよ、ぜんっぜん」
「強がりはよせ。俺の拳を受けて骨が折れてないのは大したものだが、軋みは聞こえているぞ。
呼吸も使えない人間ではそこが限界だ。武を修める者として実力差は理解できているだろう」
「強がりはよせ。俺の拳を受けて骨が折れてないのは大したものだが、軋みは聞こえているぞ。
呼吸も使えない人間ではそこが限界だ。武を修める者として実力差は理解できているだろう」
走る痛みと事実に、憮然と押し黙る。
たった一撃。測るには十分すぎた交わし合いだった。地を這う自身と見下ろす鬼がそのまま開いた明確な差だ。
たった一撃。測るには十分すぎた交わし合いだった。地を這う自身と見下ろす鬼がそのまま開いた明確な差だ。
「一撃受けた返礼に教えておこう。俺の名は猗窩座。お前の名は?」
「男に教える名前はねえ」
「そうか。ああ、実に残念だ。このような地でなければお前も素晴らしき鬼になれたろうに」
「男に教える名前はねえ」
「そうか。ああ、実に残念だ。このような地でなければお前も素晴らしき鬼になれたろうに」
上げられた拳が雅貴の頭に定められる。距離がそのまま断頭台の刃が落ちる時間だ。
最後まで生きる事を諦めない。ただでやられる気はないと、雅貴も応じて痺れた腕を構える。
最後まで生きる事を諦めない。ただでやられる気はないと、雅貴も応じて痺れた腕を構える。
覚悟を決めた雅貴と猗窩座との間に、パラパラと光の粒子が降り注ぎ、印象的な二枚模様が舞った。
愛用の半々羽織に、幾つもの鏡の破片が突き刺さったまま雅貴に背を見せて降り立った義勇だ。
愛用の半々羽織に、幾つもの鏡の破片が突き刺さったまま雅貴に背を見せて降り立った義勇だ。
「下がれ。奴は上弦だ。お前の手には負えない」
「いや、まずそのジョウゲンってのが知らねえんだけど」
「いや、まずそのジョウゲンってのが知らねえんだけど」
受け答えを無視して猗窩座に肉薄する。
猗窩座もまた、喜悦して白銀の刃を迎え撃つ。柱と上弦。繰り返されてきた鬼と鬼狩りの戦いが、何処とも知れぬ地で再演される。
猗窩座もまた、喜悦して白銀の刃を迎え撃つ。柱と上弦。繰り返されてきた鬼と鬼狩りの戦いが、何処とも知れぬ地で再演される。
刀と拳。二者の間で衝突する凶器が明滅を残す。四肢の末端が消失し、雅貴でも先の動きが読めない領域に突き進む。
禰豆子やクラゲアマゾンは衝動任せの猛獣か無機質的な殺意の塊だったが、猗窩座の動きは繰り出す手番を思考し、術を練り上げる技の手並みだ。
義勇の手を読み、義勇もその先を読み合う応酬。雅貴も知る戦いの構図が、規模だけを拡大させて展開されていた。
禰豆子やクラゲアマゾンは衝動任せの猛獣か無機質的な殺意の塊だったが、猗窩座の動きは繰り出す手番を思考し、術を練り上げる技の手並みだ。
義勇の手を読み、義勇もその先を読み合う応酬。雅貴も知る戦いの構図が、規模だけを拡大させて展開されていた。
「西洋の刀と打ち合うのは初めてだが、やはり硬いな! 本来の得物でないだろうによく扱う!」
息つく暇もない攻防の中で饒舌な猗窩座とは対称的に、義勇は無言で足を踊らせた。
変幻自在、満たす器によって姿形を変えられる、攻撃と回避を両立する水の呼吸の本領の技。
参ノ型【流流舞い】で広範囲に届く猗窩座の乱発をかわしながら、字義のまま流れるように距離を詰めていく。
乱撃の終わりと同時に側面からの横切りに、猗窩座は正確に対応し拳打を放つ。
流々舞から繋げた事で勢いが乗り、更に日輪刀を上回る硬度の無毀なる湖光の刃が猗窩座の拳を潰す。
だが気を乱さず猗窩座は逆手に取って、再生させた肉で剣を固定する。義勇に致命の隙を生み出し、絶命の技を構える。
義勇にもまた怯みはない。得物が絡め取られるこの構図には覚えがある。
死狂う侍、幻之介の如くに大木を割る芸当は義勇には叶わない。しかし参考にはなる。そして応用の型も。
粘ついたように鈍くなった刃渡りに加重を与える。腰を捻り、下半身と上半身の連動で必殺の型を生む。
変幻自在、満たす器によって姿形を変えられる、攻撃と回避を両立する水の呼吸の本領の技。
参ノ型【流流舞い】で広範囲に届く猗窩座の乱発をかわしながら、字義のまま流れるように距離を詰めていく。
乱撃の終わりと同時に側面からの横切りに、猗窩座は正確に対応し拳打を放つ。
流々舞から繋げた事で勢いが乗り、更に日輪刀を上回る硬度の無毀なる湖光の刃が猗窩座の拳を潰す。
だが気を乱さず猗窩座は逆手に取って、再生させた肉で剣を固定する。義勇に致命の隙を生み出し、絶命の技を構える。
義勇にもまた怯みはない。得物が絡め取られるこの構図には覚えがある。
死狂う侍、幻之介の如くに大木を割る芸当は義勇には叶わない。しかし参考にはなる。そして応用の型も。
粘ついたように鈍くなった刃渡りに加重を与える。腰を捻り、下半身と上半身の連動で必殺の型を生む。
「……………………ッ!!」
───水の呼吸・陸ノ型【ねじれ渦】。
───破壊殺・脚式【飛遊星千輪】。
「───────────!!」
竜巻の如き斬撃と、嵐の如き蹴撃が激烈なる轟音を撒き散らす。
地面が罅割れ、離れた鏡が割れ、最後に乱気流の中心から鮮やかな文様の背中が弾き出された。
打ち勝ち直立するのは───猗窩座。
地面が罅割れ、離れた鏡が割れ、最後に乱気流の中心から鮮やかな文様の背中が弾き出された。
打ち勝ち直立するのは───猗窩座。
「冨岡ァ!」
「そうか。あいつの名は冨岡というのか。さっきから名を聞いているのに答えてくれないものだから俺は困っていたぞ」
「そうか。あいつの名は冨岡というのか。さっきから名を聞いているのに答えてくれないものだから俺は困っていたぞ」
飛ばされた義勇に目立った外傷はないが、傷は徐々に増えていた。
圧倒的な開きではないが、その僅かな差がどうしても埋まらない。そして時が経つ毎に開きは広がっていく。
鬼は人に勝てない。その最大の要因。実力が伯仲なほどに響いてくる有限と無限だ。
圧倒的な開きではないが、その僅かな差がどうしても埋まらない。そして時が経つ毎に開きは広がっていく。
鬼は人に勝てない。その最大の要因。実力が伯仲なほどに響いてくる有限と無限だ。
このままでは勝敗は明白。ならばどうするか。
不可避の結末を変える為には、新たな要素を加える必要がある。雅貴は何をすればいいか。
ただ加勢するだけでは役に立たない。散らばっている鏡を見て、懐にしまい込んだカードデッキの存在を思い出した。
中のモンスターは死んでしまったが、いちおうまだ使えはするらしい。纏えばまだマシに戦えるのでは。
一縷の希望を抱きジャケットのポケットからデッキを取り出す。契約が切れて紋章のなくなった無地の表面を見つめた、その時。
不可避の結末を変える為には、新たな要素を加える必要がある。雅貴は何をすればいいか。
ただ加勢するだけでは役に立たない。散らばっている鏡を見て、懐にしまい込んだカードデッキの存在を思い出した。
中のモンスターは死んでしまったが、いちおうまだ使えはするらしい。纏えばまだマシに戦えるのでは。
一縷の希望を抱きジャケットのポケットからデッキを取り出す。契約が切れて紋章のなくなった無地の表面を見つめた、その時。
「────────……っ!?」
頭の中まで響くかのような、甲高い耳鳴り。
鼓膜に突き入って来るかのような不快音に顔を顰める。
戦いの破壊音を聴いた余韻が鼓膜の中で残っていたと考えていたが、時間が過ぎても止む気配もない。
むしろより強まって異常を際立たせてきていて、耳を押さえても突き破って聞こえてきていた。
鼓膜に突き入って来るかのような不快音に顔を顰める。
戦いの破壊音を聴いた余韻が鼓膜の中で残っていたと考えていたが、時間が過ぎても止む気配もない。
むしろより強まって異常を際立たせてきていて、耳を押さえても突き破って聞こえてきていた。
聞こえているのは雅貴だけではない。義勇も猗窩座も、その異変に足を止めた。
共に手練の戦人。敵から一瞬も目を離せない、命を削り合う死線の只中にあって些事と流せない『何か』の息を感じ取って。
共に手練の戦人。敵から一瞬も目を離せない、命を削り合う死線の只中にあって些事と流せない『何か』の息を感じ取って。
共鳴。あるいは呼び声か。
耳鳴りは収まらず、今までの戦いと全く別種の気配が周囲を覆う。
今やどの強者よりも場を支配した『ソレ』は、戦人に動くのを許さぬと縫い止め、時を徒に消費させる。
そして─────。
耳鳴りは収まらず、今までの戦いと全く別種の気配が周囲を覆う。
今やどの強者よりも場を支配した『ソレ』は、戦人に動くのを許さぬと縫い止め、時を徒に消費させる。
そして─────。
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| FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 | 工藤仁 | FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】② |
| 前園甲士 | ||
| 姐切ななせ | ||
| 永井圭 | ||
| 人吉善吉 | ||
| 宮本武蔵 | ||
| 煉獄杏寿郎 | ||
| 源頼光 | ||
| かぐや様は困らせられる~天然達の狂騒曲~ | 冨岡義勇 | |
| 雨宮雅貴 | ||
| 触れた指の先が運命を待ちわびている | 猗窩座 |