アットウィキロゴ

Hero Restored



 黄金の竜との決戦から週が一巡りしたが、ユージローは気を失ったままだった。エネルギーを引き出す媒介とはいえ、世界樹から削り出されし巨人を使役したのだ、その消耗は筆舌しがたい。体力的に特段すぐれているわけでもないユージローにとってそれは何日分もの活動に匹敵したのだった。
 何日も目を覚まさないユージローを気遣い、ノア、シア、そして一足早く回復した朱音はずっと彼の眼ざめを待ち望み、付き添っていた……が、危篤状態というわけではないため、ここ一日、二日は暇を持て余し気味である。
「へー、ヨガって極めると手足を延ばすだけじゃなくて、テレポートしたり、アグニの力を借りて炎を吹けるようになるのね」
「おー、そこだ、やっちゃえーキャップ!」
「ノアー、フカマルの厳選が終わったら、それ私にも読ませて―」
 三人が思い思いの方法で暇をつぶしている間……

「ここは、どこだ……?」
 ユージローは夢を見ていた。彼はまどろむ意識の中、見慣れぬ景色の果てに巨大な"何か"を見た。
「あれは、なんだ……?」
 じっと目を凝らす。視界が次第にクリアになっていく。先端に爪のついた大きな翼、長い首と長い尻尾、そして全身を覆う硬質な鱗と鋭利な爪や牙、それは紛れもなく。

「ドラゴンッ!?」
 自分が戦ったものと形状に差異があるものの、数日前に死闘を繰り広げた"ドラゴン"という概念にユージローは大きな反応を取らざるをえなかった。
「あっ、ユージロー、やっと目が覚めたのね!」
 夢でドラゴンを見た反動により、彼は一週間ぶりにその目から本物の光を取り入れた。自分に世話を焼いてくれている愛しい人の像と共に。
「もー、一週間も英雄が眠ってたら、戦勝祝いも始められないじゃない」
「でも、目が覚めてよかった」
 朱音に続いてノア、シアも彼に駆け寄る。
「あまり良い目覚めではなかったけどね。最悪のアラームだったし。まあ、毎朝あれが掛かったらスヌーズ機能要らずで逆に捗るかもしれないけど」
 朱音の前では彼はやはり無意識におどけてしまい、どうも素直になれないようだ。
「夢で黄金の竜が出てきたの?」
「いや、この間闘ったやつじゃなかったけど、あんなことがあった後だと、ドラゴンの容姿を見ただけで、反応しちゃうよ。まあ、あんまり続くようだったら医者に診てもらうさ」
 そう、これで彼は当分、ポケモンでドラゴンタイプを使えないだろうし、ドラゴンタイプを繰り出せば、心臓発作を起こし、泣いて謝るだろう。
「そう、それならいいけど……」
 朱音は眉をハの字に潜ませ、やや上目使いで言の葉を放った。今回の事が彼にとってトラウマにならないか心配しているようだ。
「えー、ごほん。お二人さん、そういうのは部外者がいないときにしてくれない?」
「そうそう。それにユージローさんが目覚めたら全員で431号室に来るようにはかせさんに言われてたし、行きましょう。はかせさん待たせるのも悪いし」
 ノアとシアの指摘を受け、朱音はややばつが悪そうに答える。
「そ、それもそうね。じゃあ、ユージロー、起きたばっかで悪いけどはかせさんのところまでいいかしら?」
「ああ、大丈夫だよ。あの後どうなったかも知りたいし行こう」
 四人はユージローが寝ていた部屋を後にし431へ向かった。

 431の前についた一行はドアをノックする。
「失礼します。ユージローの目が覚めたので連れてきました」
「おお、はいりたまえ」
 はかせの許可の後、部屋に入った一行の目に入ってきた光景は、緑色の爬虫類らしきものと戯れるはかせの姿であった。
「それは、カメレオンですか?」
 ドラゴンではない。ユージローは安堵する。
「ん、ああそうだ。先ほど校庭に出たらこいつがいてな。大方、先日の事件で飼っていた檻が壊れ、ここらを彷徨っていたのだろう。かわいそうなので保護しておいたんだ」
「は、はあ」
 四人が戸惑っているうちにはかせはカメレオンを檻に入れ、話を始めた。
「さて、まずはユージロー君、朱音君、よくやってくれた。君たちの活躍によって黄金の竜は倒された」
「私は義務を果たしただけです」
「俺は、最初ビビッてなかなか闘う決意が出来なかったですし、あまり褒められるようなものじゃ……それに、どちらかというとガル・バスティーユのおかげですよ」
 ガル・バスティーユの名を出してユージローはあることに気付いた。ここに来る途中に窓から何回か外を見る機会があったのだが、先日死闘を繰り広げたあの場所に、付き合いの短い愛機の姿が無かったのだ。あれを動かせるのは自分だけであるし、あの巨体である、運び出すのも一苦労のはずだと。
「そういえば、ガル・バスティーユの姿が見えないのですが、一体どこに?」
「おお、それをこれから話そうと思っていたのだ」
 はかせの顔が急に引き締まる。
「簡潔に言おう。ガル・バスティーユは君と同化した。」
「な、なんだってー」
 ユージローの心の中は一人MMR状態になった。他の三人は事前に知っていたのか、ユージローとは対照的なリアクションを取った。
「これは我々も予測していなかったのだが、覚醒したガル・バスティーユと君の相性が良すぎたのだろう。君が気絶した後、ガル・バスティーユが君ごと溶け出し、凝縮され君の姿を形成した。」
「つ、つまりどういうことなんです?」
 ユージローは混乱した。あの巨体が自分の体の中にあると思うと、何とも言えぬ恐怖感のようなものがこみ上げる。
「寝ている間に検査した結果、変身のプロセスを踏めば、君は自由にガル・バスティーユになれることが分かった」
「変身のプロセス?」
「そうだ、君が思い描くものなら何でもいい、その動作をキーにして、君が変身したいと思うならガル・バスティーユはそれに応える。なんなら今ここで試してみるといい」
「あっ、見たい見たーい」
 変身と聞いてヒーロー好きなノアが反応する。
「ここで、変身するんですか!?」
 20メートル近いものに今ここで、変身しろと言われても、到底この部屋に収まりきるとは思えない。部屋を擬人化したらあのセリフを言わせることになるだろう。
「大丈夫だ。ガル・バスティーユの方もやや、性質が変化したらしく、ほぼ等身大の2メートルから本来のサイズである18メートルまで、君の意志で自由にサイズを変化させることが出来る。」
「そんな、ご都合主義的な展開があるわけ……」
 ないと思ったユージローだが、はかせの意思のこもった眼差しに押され、変身を決意する。
「それじゃあ、やってみますよ」
 ユージローは幼少のころ憧れていたヒーローの変身デバイスを思い浮かべた。するとそれが実体化したのである。このことにより、ユージローははかせの言葉に確信を持った。そして。
「変身!!」
 一通りのポーズを取った後、この掛け声とともに、変身デバイスのボタンを押した。すると、ガル・バスティーユがユージローの中から文字通りドロッと"湧き出した"。
「うーん、かっこいいような、悪いような……」
 ノアの評価はイマイチのようである。

「さて、ユージロー君とガル・バスティーユの現状を理解してもらったところで、次は朱音君を除く君たち三人の今後についてだ。ユージロー君は先日、決意を固めてもらったので今後ともこのUCAの一員として戦ってもらうとして、ノア君、シア君もここまで関わってしまったのだ、UCAと赤の他人というわけにはいくまい。そこで、もしよかったら我々の活動を手伝ってほしいのだが、どうかな?」
「俺、こういう世界と関わることをやってみたかったんです。やらせてください」
「私もです、よろしくお願いします」
 二人は内に秘める外の世界への渇望からはかせとの契約を結ぶ。
「それでは三人とも、あらためてよろしく頼む。しかし、あれほどの出来事が起こった後だ、そうそう大きな事件は起きないだろう」
「あら、そうかしら。ずいぶんおめでたい頭をしてるのね」
 聞きなれない声が部屋中に響く。そして、声の主に全員の視線が集まる。そこには鮮やかに彩色されたヴィーナスの彫刻のような美しい女性が佇んでいた。ユージローはこの存在に既視感を感じた。
「いったい、どこから入ったの!?」
 朱音は剣を抜き、構えを取る。気配もなく部屋に侵入したこの女性を警戒しているようだ。
「あら、乱暴なのね。でもまあ、そんな鈍じゃ私に傷一つつけられないわ」
「なんですって!?」
「待て、朱音君。あなたの言うおめでたい頭とはいったいどういうことか、お聞かせ願いたいのだが」
 はかせは沸騰寸前の朱音を制止させ、発言の真意を問いただした。
「ふふ、それは先の事件が災厄の始まりであり、今も着々とそれが進行中というとても簡単な話よ。つまり、このままだとこの世界は滅亡する!」
「「「「「な、なんだってー」」」」」
 今度はユージローが一人MMRをせずに済んだ。
「って、具体的には何もわからないじゃない!」
 80°位まで頭が冷えた朱音が噛み付く。
「まあまあ、順を追って説明してあげるから落ち着きなさい、お嬢さん。あなた達は英雄ガル=バスティーユの伝説を知っているかしら?」
 はかせ以外の四人は顔を見合わせ、首を傾げる。ユージローと同化したガル・バスティーユのことなら、これから伝説になる可能性はあっても、現物が存在している現在において伝説というのはおかしな話である。
「それは、一般レベルではもう伝承されていないものだ、私から説明しよう。ガル=バスティーユははるか昔、この世界に黄金の竜が現れこの国の世界樹を枯らした時に活躍した英雄だ。彼の英雄は仲間と共に黄金の竜を打ち破り、この国の世界樹を回復させたという。あのMSの名もこの英雄にあやかったものだ」
「そ、そんな伝説があったなんて知らなかった」
 勉強熱心で知識への欲が強いシアが、まだ見ぬ伝説の話に心躍り、耳を傾ける。
「そう、伝承されている部分はそこまでね。でもこの時もまた黄金の竜の出現は災厄の始まりでしかなかった。世界樹が枯れたことにより、均衡をかろうじて保っていた世界のパワーバランスが崩れ、戦争が起きたの。その戦争でフランツという者が率いた大ゲルムヒルト帝国は闇のものと手を組み、天下統一を目指し破竹の勢いで支配領域を増やしていった。当然、時の英雄である彼はこれを阻止するために奮闘したわ。でも帝国の力は強大すぎた。ついに彼とその仲間は、帝国を滅ぼすことをあきらめ、この世界の全ての世界樹を鍵として、帝国を"裏の世界"に閉じ込めたの」
 ここまで聞いて、その意味を理解したはかせの顔が青ざめる。
「まさか、我々が世界樹から対黄金の竜用の兵器を生み出したことによって……!?」
「ふふ、皮肉なことね。あなたたちは黄金の竜の再臨を予測してそれに対抗できる力を作った。でもその力の源は、かつて世界を脅かした者どもを封印する鍵だった。そして、その鍵はあなたたち自身の手で解かれた。ずいぶん意地悪な仕組みよね」
「私たちはどうすればいいんだ?」
「それこそ簡単なことね。戦って打ち破る。交渉が通じるような相手だったら、とっくの昔にやってるわ」
「それなら、やるしかないじゃないか」
 ユージローが静かに口を開く。冷静な口調の中に熱い思いを込めて。
「ええ、そうね。そんな輩、蹴散らしてやるわ」
「お、俺も、やるだけやるぜ」
「私も、何が出来るかはわからないけど……」
「そうだ、このような時のためのUCAだ……!!」
 ユージローにつられ朱音、ノア、シア、はかせが決意を述べる。
「頼もしいわね。そんな世界を救おうと意気込む小さな英雄たちに二つプレゼントがあるわ」
「プレゼント?」
 5人は期待交じりの眼差しを女性に贈る。
「一つ目は私よ。私も奴らと戦うわ。友人たちとの思い出が詰まったこの世界をあいつらの好きにはさせない。そのために私は再びこの世界に来たのだもの」
 やや含みを持ったその言い草に5人は疑問を抱くが、女性は構わず言葉を紡ぐ。
「そして二つ目は伝説の英雄、ガル=バスティーユよ。」
「伝承では普通の獣人である彼はまだ生きているのか!?」
「ええ、普通なら寿命で死んでるけど、彼に頼まれてね、有事に備えるために時間停止の魔法を応用したコールドスリープ処理をかけたのよ。それをこれから起こしに行こうというわけ」
 こう言うと、彼女の背中に円状の揺らぎがいくつも生じ、床には複雑な青色の魔法陣が描き出された。どうやらテレポートの魔法の準備をしているようだ。
「そ、そんなことが……あなたはいったい?」
 彼の英雄にコールドスリープ処理をかけたということは彼の生きたはるか昔、伝説や神話の時代を生きていなければならない。彼女にかかる霧は一層深くなった。
「まあ、それは後のお楽しみということで」
 悪戯っぽく笑いながら―初めて人間のような表情を浮かべ―彼女はこの部屋にいる全員を連れ、跳んだ。伝説の英雄が眠る地へ。


追記

黒歴史ノートの全員を登場させるといったな。すまんありゃ嘘だ。でも名出しだけで良いなら達成している可能性が微粒子レベルで存在している?
あと黒歴史ノートのキャラを一通り見てから読んだ方が良いかも。


→ #06
→ #04


  • 拙いなさすが久々に書いただけのことはある拙い -- 荒廃者 (2012-07-06 03:38:51)
  • あと、過去話は外伝でやろう(提案) -- 荒廃者 (2012-07-06 03:45:29)
  • おい、普通に面白いじゃねえかよ -- 朱音さん (2012-07-06 03:46:25)
  • おい、普通に面白いじゃねえかよ -- 兎角 (2012-07-06 10:33:03)
  • つまりUCA対フランツの構図…?過去編は外伝でやろう(同意) -- 兎角 (2012-07-06 11:36:00)
  • 物語は動き、大きく歴史がうねり出す。 -- りん (2012-07-06 12:00:52)
  • 六話はよ -- 朱音さん (2012-07-06 14:56:47)
  • 世界樹植林するかー -- さいたま (2012-07-06 15:44:42)
  • もこずきっちん…? -- 朱音さん (2012-07-06 16:52:27)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年07月07日 16:27