労働時間の見直しと適正な仕事量 ― 同じ時間でも仕事の量は違う。それを誰も数えていない(解説+試算)
時間を伸ばすことには値段がついている。量を増やすことには、ついていない
このページは、労働基準法の見直しがいまどこまで決まっているかを一次情報で確かめたうえで、「同じ時間で2倍こなしたら、賃金も2倍が妥当ではないか」という素朴な問いを、条文と数字で追いかけたものです。後半の試算はすべて前提を置いた思考実験であり、実測でも予測でもありません。労務相談・法律解釈の代わりにはなりません(→ 免責・運営方針 )。数値は出典つきで、確認できなかったことは末尾に並べています。
このページは、労働基準法の見直しがいまどこまで決まっているかを一次情報で確かめたうえで、「同じ時間で2倍こなしたら、賃金も2倍が妥当ではないか」という素朴な問いを、条文と数字で追いかけたものです。後半の試算はすべて前提を置いた思考実験であり、実測でも予測でもありません。労務相談・法律解釈の代わりにはなりません(→ 免責・運営方針 )。数値は出典つきで、確認できなかったことは末尾に並べています。
このページは何か
「働きすぎ」を測る物差しを、3つ並べてみるページです。
①法律の物差し=いま何が決まっていて、何が決まっていないか。
②密度の物差し=同じ時間に詰まっている仕事の量を、制度はどう扱っているか。
③AIの物差し=処理できる量と、使った量で課金するという考え方を、人間の仕事に当てはめたらどうなるか。
②密度の物差し=同じ時間に詰まっている仕事の量を、制度はどう扱っているか。
③AIの物差し=処理できる量と、使った量で課金するという考え方を、人間の仕事に当てはめたらどうなるか。
※この3つを見たあとで、16章に「推し活の側から見ると何が変わるか」を置きました。お金・時間・同時性・参加・予定・年数・作り手・雇う側の8つの筋道を並べています。続く17章では、同じことを経済全体の流れの側から見ています——16章と違い、こちらは公的統計の実数がある部分が多くあります。末尾には付録として、製造・農業・小売・介護に加えてVTuber・ストリーマー・eスポーツ選手まで、21の業種・職種について1日の作業量を試算した表を置きました(19章)——★職業に順位をつけるためのものではありません。そして13章では、押し込められた量を平準化したら賃金はいくらになるかを、公的統計の実数を当てはめて計算しています。
★このページのいちばん言いたいことは、②です。労働時間の規制は「何時間そこにいたか」を測る仕組みで、「その時間に何をどれだけこなしたか」を測る仕組みは、法律のどこにもありません。①はその確認、③はその穴を数字にするための道具です。
※このサイトが労働の話を扱うのは、働く時間と手取りが、推し活の元手そのものだからです。前提は「お金と時間の余白をつくる」にあります。
1. まず前提 ― 「改正労働基準法の施行」は、まだ起きていない
いちばん大事な確認から。2026年8月時点で、いわゆる「40年ぶりの大改正」は施行されていません。法案も国会に出ていません。
| 段階 | 何が起きたか | 日付 |
|---|---|---|
| ①報告書が出た | 厚生労働省の労働基準関係法制研究会が報告書を公表。 2024年1月から16回の議論をまとめたもの |
2025年1月 |
| ②審議会へ移った | 議論の場が労働政策審議会 労働条件分科会へ移り、継続中 | 2025年〜 |
| ③法案提出は見送られた | 2026年の通常国会への法案提出は見送り | 2025年12月 |
| ④いま | 分科会は継続。 直近(第210回・2026年7月14日)の議題は賃金のデジタル払いや 骨太方針などで、改正の中身そのものは議題に上がっていない |
2026年7月 |
★「2026年に改正される」と書いた解説記事が大量にありますが、それは研究会報告書が出た直後に書かれたものです。このサイトが いま動いている減税と負担増 や「株主総会Q&Aから読む経済の流れ」で使ってきた「決まり具合の4段階」で言えば、いまの労基法改正は③検討・意向の段階にとどまります。
※つまりこの先に書くのは「こう変わる」ではなく「こう変えるべきだと報告書が書いた」です。会社の就業規則を今すぐ変える必要はありません。
2. 何が議論されているのか ― 報告書が書いたこと
報告書が扱った項目のうち、働く人に直接効くものを並べます。左が現行、右が報告書の提案です。
| 項目 | いまの法律 | 報告書が「すべき」と書いたこと |
|---|---|---|
| 連続勤務 | 上限の定めが無い。 法定休日は「4週4休」でよく、 休日を偏らせても違反にならない |
「13日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の規定を 労働基準法上に設けるべき。 4週4休の特例を2週2休にする案も |
| 勤務間インターバル | 努力義務(労働時間等設定改善法第2条)。 時間数も対象者も法令に書かれていない |
義務化の度合いは複数案が並んだまま。 「様々な手段を考慮した検討が必要」 |
| つながらない権利 | 規定なし | 法制化ではなくガイドライン策定等の方策を検討 |
| 年次有給休暇 | 使用者に年5日の時季指定義務。 時間単位で取れるのは年5日まで |
時季指定義務の日数や 時間単位の上限の見直しを議論 |
| 副業・兼業 | 割増賃金は事業場が違っても通算 | 賃金計算の労働時間管理と健康確保の労働時間管理は分けるべき。 割増の通算は不要とする案(健康確保の通算は残す) |
| 労働時間の情報開示 | 義務なし | 自主的な開示の基盤整備と、義務的な開示の検討 |
★この一覧に「仕事の量」は一度も出てきません。議論されているのはすべて時間の話です。あとで見るとおり、これは報告書の手落ちというより、労働基準法そのものが時間しか扱えない作りになっていることの反映です。
報告書が明かした、いちばん驚く数字
現行法の穴として、報告書はこう書いています。
「理論上、休日労働の扱いをせずに最大48連勤が可能」(脚注)
「割増賃金を支払えば、協定の範囲内で理論上無制限に連続勤務させることが可能である」
★連続勤務日数には、いま上限がありません。労災保険の精神障害の認定基準では2週間以上の休日なし連続勤務が心理的負荷の具体的出来事とされているのに、労基法の側には対応する規定が無い——これが「13日」という提案の根拠です。
3. いま効いている数字(現行法)
改正がまだでも、すでに効いている規制はあります。試算の土台になるので並べておきます。
| 何 | 数字 |
|---|---|
| 法定労働時間 | 1日8時間・週40時間 |
| 時間外の原則の上限 | 月45時間・年360時間 |
| 特別条項を結んだ場合 | 年720時間/複数月平均80時間以内/ 単月100時間未満(休日労働を含む)/ 月45時間を超えられるのは年6回まで |
| 割増賃金 | 時間外25%以上。 月60時間を超えた分は50%以上 |
| 労災の認定基準 | 発症前1か月おおむね100時間、または 2〜6か月平均で月80時間を超える時間外労働があれば 「業務と発症との関連性が強い」と評価 |
★ずれているのは「価格」だけです
| 制度 | 線を引いている位置 |
|---|---|
| 労働基準法(36協定の原則) | 月45時間 |
| 労災の認定基準(関連性が徐々に強まりはじめる) | 月45時間 |
| 割増賃金(率が上がる位置) | 月60時間 |
| 労災の認定基準(関連性が強い) | 月80時間(または単月100時間) |
注目すべきは1行目と2行目です。法律が「原則の上限」とした45時間と、労災の認定基準が「業務と発症との関連性が徐々に強まる」とする起点は、同じ45時間です(原文は11章に引用しました)。つまり原則と健康は、45という数字で一致しています。
★ずれているのは、価格だけです。割増率が上がるのは60時間から——原則より15時間、遅い。「働きすぎに値段をつける」仕組みが、働きすぎの入口ではなく、その15時間先に置かれているわけです。この「ずれ」が、後半の試算の出発点になります。
4. ★法律は「量」を、どこでも測っていない
ここがこのページの中心です。「同じ時間で2倍こなしたら賃金も2倍では」という問いに、現行法がどう答えているかを、条文と判例で確かめます。
① 労働時間の定義そのものが「量」ではない
労働時間とは何かは、最高裁が定義しています(三菱重工長崎造船所事件・最高裁 平成12年3月9日判決)。
労働基準法32条の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる
★「指揮命令下に置かれた」=状態です。働いた量でも、成果でも、集中の度合いでもありません。何もしていなくても、指示を待っている時間は労働時間であり、息つく間もなく処理し続けた1時間も、同じ1時間です。法律が測っているのは、拘束されているかどうかだけです。
② 唯一「量」に触れる条文も、時間に引き戻している
労働基準法で出来高(=こなした量)に触れる数少ない条文が、第27条です。
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない
量で払う仕組みを採っている職場ですら、法律は「時間に応じた保障給」を義務づけます。完全出来高払(保障給なし)は禁止です。★つまり法が量に介入する唯一の場面でも、守っているのは「量が少なかったとき」の下限だけで、量が多かったときに賃金を引き上げる規定は、どこにもありません。
③ 記録に残す義務があるのも「時間」だけ
| 何を | 誰が | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働時間の状況 | 使用者に把握義務。 タイムカード等客観的な方法で。 記録を作成し3年間保存 |
労働安全衛生法 第66条の8の3 (2019年4月1日施行・全企業) |
| こなした仕事の量 | 誰にも義務が無い | 該当する規定なし |
★記録が残るのは時間だけです。量は、誰も数えていません。数えていないものは、増えても減っても議論の材料になりません。
④ まとめ ― 制度が見ている場所
| 制度 | 何を測っているか | 量を見ているか |
|---|---|---|
| 労働時間規制(32条) | 拘束された時間 | 見ていない |
| 割増賃金(37条) | 拘束された時間の長さ | 見ていない |
| 最低賃金 | 1時間あたりの金額 | 見ていない |
| 出来高払の保障給(27条) | 時間に応じた下限 | 下限だけ見ている |
| 労働時間の状況の把握(安衛法) | 時間の記録 | 見ていない |
★「時間を伸ばすこと」には25%以上の値段がついています。「密度を上げること」には、値段がついていません。
5. だから「詰め込む」ほうが安くなる ― 数字で見る
前章を、雇う側から見た金額に置き換えます。人を責める話ではなく、価格の向きの話です。
前提:時給2,000円・月160時間。人件費は月320,000円で、この額は密度に関係なく一定。
| 1人の仕事の密度 | 月にこなす量 | 月の人件費 | 成果1単位あたりの人件費 |
|---|---|---|---|
| 1.0(標準) | 100 | 320,000円 | 3,200円 |
| 1.3 | 130 | 320,000円 | 2,462円 |
| 1.5 | 150 | 320,000円 | 2,133円 |
| 2.0 | 200 | 320,000円 | 1,600円 |
密度を上げても人件費は1円も増えないので、成果あたりの単価はそのぶんまるごと下がります。では、同じ量を人を増やして作ったらどうなるか。
| 量200を作る方法 | 人数 | 月の人件費 | 成果1単位あたり |
|---|---|---|---|
| 1人の密度を2倍にする | 1人 | 320,000円 | 1,600円 |
| 人を増やす(各自は標準の密度) | 2人 | 640,000円 | 3,200円 |
★同じ量を作るのに、人件費は2倍違います。時間を伸ばせば割増賃金という価格が働きますが、密度を上げるぶんには価格が発生しないからです。制度が量に値段をつけていない以上、「詰める」ほうが安いという向きは、個々の会社の善悪とは無関係に成立します。
※この向きは無限には続きません。試算④で見るとおり、疲れて生産性が落ちれば密度はそもそも上がらないからです。ただし「上がらない」ことに気づく仕組みも、量を数えていない以上は存在しません。
参考 ― 時間の記録すら、まだ守り切れていない
量を数える前に、時間の側の実態も見ておきます。厚生労働省が公表している、賃金不払が疑われる事業場への監督指導の結果です。
| 令和7年(2025年)の実績 | 数字 |
|---|---|
| 労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案 | 22,605件(前年比 251件増) |
| 対象労働者数 | 173,016人(同 12,181人減) |
| 金額 | 128億5,782万円(同 43億5,331万円減) |
| うち同年中に支払われ解決したもの | 21,731件(96.1%)/ 109億9,703万円(85.5%) |
これは「監督署が立ち入った事業場」に限った数字です。法律がはっきり測っている「時間」の側ですら、年間128億円が指導されるまで払われていません。測っていない「量」の側がどうなっているかは、そもそも数字が存在しません。
6. 思考実験 ― AIの物差しを、人間に当ててみる
※ここからは前提を置いた思考実験です。実測ではありません。数字は「こう仮定すればこうなる」という計算にすぎず、誰かの働き方を評価するものではありません。
量を数える物差しが法律に無いなら、外から借りてくる——という発想です。AIの利用には、人間の労働と似た2つの量があります。一度に扱える量(コンテキスト)と、実際に使った量(トークン)です。
| AI側 | 人間に当てるなら |
|---|---|
| コンテキストの大きさ=一度に保持できる量 | 1日に使える注意の総量(=定格の8時間) |
| トークン消費=処理した量 | こなした仕事の量 |
| 入力より出力のほうが単価が高い | 「読む・聞く」より「書く・決める・折衝する」ほうが重い |
| コンテキストが埋まるほど品質が落ちる | 疲れるほどミスが増える |
| 使い切ったら圧縮するか、 セッションを作り直す |
休憩・退勤・睡眠(=勤務間インターバル) |
| 課金は「使った量」 | 賃金は「拘束された時間」 |
★最後の行が、この思考実験の核心です。AIは使った量で値段が決まり、人間は拘束された時間で賃金が決まります。同じ8時間でも中身の重さが違うのに、値段は同じ——4章で条文から確かめたことが、そのまま値段の形で現れています。
※AIの課金がそうなっているのは、量が自動的に数えられるからです。人間の側で同じことが起きていないのは、量を数える仕組みが無いからであって、量に意味が無いからではありません。
7. 試算① ― 定格に対する「使用率」で見る
1日8時間×月20日=月160時間を定格100%とします。時間外を足すと、こうなります。
| 状態 | 月の労働時間 | 定格に対する使用率 |
|---|---|---|
| 定格のみ | 160時間 | 100% |
| 時間外 月45時間(原則の上限) | 205時間 | 128% |
| 時間外 月60時間(割増率が上がる位置) | 220時間 | 138% |
| 時間外 月80時間(労災で関連性が強い水準) | 240時間 | 150% |
| 時間外 月100時間(特別条項の上限直下) | 260時間 | 163% |
AIで言えば、コンテキスト上限の1.6倍を詰め込んで走らせている状態が、法律上は合法です。品質が落ちるのを前提にしないと成り立たない働き方が、制度の中に用意されている、と読めます。
★そしてこの表は、まだ「時間」しか見ていません。同じ240時間でも、密度が1.5倍なら定格の225%に相当します——その数字を出す方法が、いまは無いというだけです。
8. 試算② ― 密度を賃金に翻訳したら、いくらになるか
いちばん単純な形から始めます。同じ職場・同じ月160時間・同じ時給2,000円で、こなした量だけが違う2人です。
| 働いた時間 | こなした量 | 支給される賃金 | 量1単位あたりの賃金 | |
|---|---|---|---|---|
| Aさん | 160時間 | 200 | 320,000円 | 1,600円 |
| Bさん | 160時間 | 100 | 320,000円 | 3,200円 |
★量で揃えるなら、Aさんの賃金は640,000円が「本来」です。差は320,000円——1か月ぶんの給与がまるごと、値段のついていない量にあたります。
もう少し現実に寄せる ― 「読む1時間」と「書く1時間」を分ける
実際には、仕事はきれいに2倍にはなりません。中身の重さが違うので、そこに重みをつけます。
★前提(当サイトが置いた仮定):出力の負担を、入力の5倍とします。これはAIの価格体系が「出力は入力の数倍」であることに着想を得た仮の係数で、人間で測った値ではありません。
| 例 | 出力の割合 | 負担の合計(負担単位) |
|---|---|---|
| Aさん(判断・作成が多い) | 30% | 48h×5 + 112h×1 = 352 |
| Bさん(読む・聞く・待機が多い) | 10% | 16h×5 + 144h×1 = 224 |
どちらも月160時間で、時給が同じなら賃金も同じです。しかし負担は1.57倍違います。負担あたりの賃金でみると、Aさんは Bさんの 0.64倍——同じ働き方をしても36%割を食っている計算になります。
負担あたりで揃えるなら、Aさんの賃金は1.57倍が「本来」ということになります。※係数5を変えれば答えも変わります。3倍なら1.33倍、10倍なら1.95倍。この試算が示すのは「どれだけ違うか」ではなく「時間だけで測ると必ず取りこぼす」という向きです。
★重要な留保 ― 「2倍働いたから2倍払え」は、いまの法律では言えない
ここは誤解されると困るので、はっきり書きます。上の計算は「こうあるべきではないか」という考察であって、請求できる権利の説明ではありません。
| 現行法が賃金について保障しているもの | 何に紐づくか |
|---|---|
| 最低賃金 | 1時間あたり |
| 割増賃金(時間外・深夜・休日) | 時間の長さ |
| 出来高払制の保障給(27条) | 時間に応じた下限 |
| 密度に対する上乗せ | 規定が存在しない |
密度を理由に賃金の増額を請求できる条文はありません。賃金の決め方は労働契約と就業規則の問題であり、そこを動かすのは交渉・人事評価・転職といった別の経路です。このページが示せるのは「時間だけで測ると何が抜け落ちるか」までで、それ以上ではありません。
9. 試算③ ― 割増賃金を「使用率」に連動させたら
では、価格で解決できるでしょうか。割増率を使用率に合わせて逓増させたら、いくら増えるかを計算します。
前提:時給2,000円、時間外は月80時間。
| 方式 | 計算 | 割増を含む時間外の支給額 |
|---|---|---|
| 現行 | 60hまで25%増+20hは50%増 (60×2,000×1.25)+(20×2,000×1.5) |
210,000円 |
| 逓増案(当サイトの試算) | 〜45h:25%増/45〜60h:50%増/ 60〜80h:75%増 |
227,500円 |
差は17,500円、率にして +8.3% しかありません。割増率を25%から75%へ3倍にしても、支給額はこれだけしか動きません。最後の20時間にしか高い率がかからないからです。
★「高くつくようにすれば残業は減る」は、金額で見るとあまり効きません。効くのは価格ではなく量そのものを止める規制——上限時間・勤務間インターバル・連続勤務日数の制限のほうです。報告書が議論しているのが、まさにその「量」の側だという点は、理屈が合っています。
※この構図は eスポーツ大会とVTuber や「善意だのみが続かない理由」で扱った「書くだけでは足りない・条件にして初めて効く」という話と同じ形です。お金の条件は効く梃子のひとつですが、効かせ方を間違えると動きません。
10. 試算④ ― 疲れて生産性が落ちるとしたら
★前提(当サイトが置いた仮定):時間外の時間帯は、定格の時間帯より生産性が落ちるとします。実測値ではありません。落ち方を3通り置いて、「産み出した成果1単位あたり、いくら払っているか」を出します。
定格160時間の産出を160単位、賃金を160単位として、時間外80時間ぶんを足します(賃金は上の現行方式=105単位ぶん)。
| 時間外の生産性 | 産出の合計 | 賃金の合計 | 成果1単位あたりの賃金 |
|---|---|---|---|
| 定格と同じ(100%) | 240 | 265 | 1.10 |
| 80% | 224 | 265 | 1.18 |
| 70% | 216 | 265 | 1.23 |
| 60% | 208 | 265 | 1.27 |
定格だけで働けば 160÷160 = 1.00 です。時間外を80時間積むと、生産性が落ちなくても1.10、2割落ちれば1.18、4割落ちれば1.27。
つまり長時間労働は、会社から見ても「成果あたりでは割高」になります。働く側は疲れ、雇う側は割高に払う——どちらも得をしていないのに続いてしまう、という形です。
※この試算は「残業させないほうが安い」と言い切るものではありません。人を増やす費用・採用の難しさ・繁閑の差を計算に入れていないからです(→ 末尾の「確定できなかったこと」)。
11. 試算⑤ ― 密度を「時間」に換算し直す
※ここも前提を置いた思考実験です。実測ではありません。
試算②では、密度を「賃金」に換算しました。ここでは「時間」に換算します。健康を守る線が、すべて時間で引かれているからです。
まず ― 月45時間は、行政の都合で決めた数字ではありません
3章では月45時間を「36協定の原則」として置きました。しかしこの数字は、健康の側から見ても起点です。労災の認定基準(脳・心臓疾患)にこう書かれています。
発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
そして同じ基準は、労働時間をこう位置づけています。
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増す
★ここが要点です。制度が本当に測りたいのは「疲労の蓄積」で、測っているのが「時間」です。時間は、疲労の代理として使われているにすぎません。代理である以上、代理が拾いきれないぶんが必ず残ります——それが密度です。
試算⑤-A ― 同じ45時間でも、中身が違えば重さが違う
★前提(当サイトが置いた仮定):標準的な業務量でこなせる量を1.0とし、その何倍をこなしているかを「密度」とします。密度に実測値はありません。下の表は「もしその密度なら、標準の業務量で言うと何時間ぶんか」という換算であって、誰かがその密度だという主張ではありません。
| 密度 | 月45時間の残業を標準業務量に換算すると |
|---|---|
| 1.0(標準) | 45時間(=原則の上限そのもの) |
| 1.2 | 54時間 |
| 1.5 | 67.5時間 |
| 1.8 | 81時間(★労災が「関連性が強い」とする80時間を超える) |
| 2.0 | 90時間 |
★密度1.8倍の人は、月45時間しか残業していません。原則の上限のうちで、完全に合法です。それでも標準換算では81時間——労災が「業務と発症との関連性が強い」とする水準に届いています。
試算⑤-B ― 残業ゼロでも「見えない残業」が積み上がる
ここが筆者の最も伝えたいことのひとつです。残業をしていなくても、密度が1.0を超えていれば、標準の業務量で言えばその分は余分な時間にあたります。定格を月160時間として計算します。
| 密度 | 標準業務量に換算した労働 | 「見えない残業」 |
|---|---|---|
| 1.0 | 160時間 | 0時間 |
| 1.1 | 176時間 | 16時間 |
| 1.3 | 208時間 | 48時間(★原則の上限45時間を超える) |
| 1.5 | 240時間 | 80時間(★労災の「関連性が強い」水準) |
| 2.0 | 320時間 | 160時間 |
★密度が1.28倍を超えると、定時で帰っていても「見えない残業」は月45時間を超えます。1.5倍なら80時間です。
そして時間外労働は0時間なので、この人は次のどれにも引っかかりません。
| 制度 | 密度1.5・残業0時間の人はどうなるか |
|---|---|
| 36協定の上限規制 | 対象外(時間外0時間) |
| 割増賃金(37条) | 1円も発生しない |
| 労災の労働時間の評価 | 「関連性が弱い」に分類される |
| 長時間労働者への面接指導 | 対象外 |
| 代替休暇(37条3項) | 付与ゼロ |
★「残業していないのに、本来なら残業が要る量を割り当てられている」というのは、この姿です。時間で見れば健全、量で見れば過重——そして制度が見ているのは、時間のほうだけです。
★ただし、健康の側だけは、この理屈を半分すでに認めています
公平のために書いておきます。労災の認定基準は、労働時間だけを見ているわけではありません。
労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合がある
★これはまさに「短い時間+重い中身」を認める、という言い方です。賃金の側には、これに対応する規定がひとつもありません。
★★さらに驚いたことに、認定基準の本文には「労働密度」という言葉が実際に入っています。
拘束時間の長い勤務については、拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、休憩・仮眠時間数及び回数…の観点から検討し、評価すること
ただし、定義をよく見てください。「実作業時間と手待時間との割合」——つまり「待っている時間がどれだけ少ないか」です。これは時間の内訳であって、こなした量ではありません。★言葉はもう法令の世界にありますが、中身はやはり時間です。
※ストレスチェック(労働安全衛生法第66条の10)も、負担を拾う仕組みのひとつです。高ストレス者の判定は労働時間ではなく、職業性ストレス簡易調査票(57項目)の得点で行われます=負担を本人の自覚として拾う、数少ない公的な仕組みです。ただし高ストレスと判定されても、賃金は1円も動きません。
★まとめ ― 見えない負担と対価の非対称
| 制度 | 密度を見るか | 見方 | 密度が高いと何が起きるか |
|---|---|---|---|
| 労災の認定基準 | 見る | 負荷要因として総合評価。 「労働密度」の語もあるが定義は時間の内訳 |
認定されうる |
| ストレスチェック | 見る | 調査票(本人の自覚) | 高ストレスと判定されうる |
| 労働基準法37条(賃金) | 見ない | 拘束された時間の長さだけ | 何も起きない |
★同じ人の同じ働き方について、健康の側は「重い」と認めうるのに、賃金の側は1円も動きません。負担は健康の制度で数えられ、対価は賃金の制度で決まる——そしてこの2つは繋がっていません。これが、見えない負担と対価のあいだにある非対称の正体だと、このサイトは考えます。
★そして順番も逆です。健康の側が密度を見るのは、たいてい壊れたあと——労災は発症してから、ストレスチェックは不調が出てからです。対価は本来、壊れる前に払われるもののはずですが、その対価の側だけが密度を見ていません。
※繰り返しますが、密度の実測値はありません。この章が示せるのは「密度がNなら標準換算でM時間にあたる」という換算だけで、誰かの負担が実際にどれだけかを述べたものではありません。だからこそ15章の「数える」が要る、というのがこのページの筋道です。
12. 試算⑥ ― 業務をトークン数に換算したら、どれが重いか
※この章の数字には根拠がありません。AIの課金の考え方を人間の仕事に当てはめたらどうなるかという思考実験で、実測でも調査結果でもありません。特定の職種の負担を評価するものでもありません。
試算⑤では密度を数字として与えました。では、その密度はどこから来るのか——業務の中身に分解してみます。
作り方(=どこまでが仮定か)
| 決めたこと | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 基準 | 「資料を読む」1時間 = 100トークン | 当サイトが置いた基準(根拠なし) |
| 出力の係数 | 出力だけの1時間は入力の5倍=500 | 8章の試算②と同じ係数。 AIの価格体系に着想を得た仮定 |
| 上乗せの軸 | 中断/対人/心理的負荷/ 身体的負荷/作業環境/移動 |
★軸だけは労災の認定基準が挙げる 「労働時間以外の負荷要因」から採った |
| 上乗せの数値 | 0.8〜2.2倍 | 当サイトが置いた値(根拠なし) |
★軸を自分で発明しなかったのは、そこだけは一次情報があるからです。認定基準は労働時間以外の負荷要因として、(イ)勤務時間の不規則性 (ウ)事業場外における移動を伴う業務 (エ)心理的負荷を伴う業務 (オ)身体的負荷を伴う業務 (カ)作業環境の5つを挙げています。値は仮ですが、「何を重さとみなすか」は勝手に決めていません。
★換算表 ― 1時間あたりの消費
軽い順に並べます。計算は 100 ×(1+4×出力の比率)× 上乗せ。
| 業務 | 出力の比率 | 上乗せ | 1時間あたり | 重さの理由 |
|---|---|---|---|---|
| 移動・待機 | 0% | 0.8 | 80 | 手が空く(回復もしうる) |
| 資料を読む・情報収集 | 0% | 1.0 | 100 | ★基準 |
| 会議に出る(発言しない) | 0% | 1.2 | 120 | 抜けられない(拘束) |
| 定型のデータ入力 | 10% | 1.2 | 170 | 反復・軽い身体負荷 |
| 打ち合わせで発言する | 50% | 1.2 | 360 | 相手の反応が読めない |
| メール・チャットの返信 | 50% | 1.3 | 390 | 中断が多い |
| 重量物の運搬・立ち仕事 | 30% | 2.0 | 440 | 身体的負荷 |
| 暑熱・騒音のある場所での作業 | 30% | 2.2 | 480 | 作業環境 |
| 資料・企画を書く | 100% | 1.0 | 500 | 出力のみ=係数5そのもの |
| 見積・検算・照合 | 90% | 1.2 | 550 | やり直しがきかない |
| 電話・窓口の対応 | 70% | 1.5 | 570 | 中断+対人+予測不能 |
| クレーム・苦情の対応 | 80% | 1.8 | 760 | 心理的負荷が大きい |
| 社内のIT・PCトラブル対応(担当外) | 90% | 1.8 | 830 | 割り込み+専門判断+毎回内容が違う |
| 事故・トラブルの一次対応 | 100% | 1.7 | 850 | 責任+時間圧+不規則 |
★いちばん軽い「移動」といちばん重い「事故対応」で、10.6倍の開きがあります。どちらも、タイムカードの上ではまったく同じ1時間です。
※上から2番目に重い「社内のIT・PCトラブル対応」については、この表だけでは足りません。この仕事には、表に載らない2つ目の重さがあるからです——次の節で分けて扱います。
※この順番も倍率も、当サイトが係数を置いた結果にすぎません。示せるのは「業務の中身によって数字が大きく変わる」という向きだけで、「クレーム対応は読書の7.6倍つらい」と主張するものではありません。
1日ぶんを足してみる
定格(標準的な1日)を1,600トークンとします。※1時間あたり平均200。内訳の例=読む4h+書く1h+会議1h+定型入力1h+メール1h = 1,580。
| 1日の内訳(いずれも8時間) | 合計 | 定格に対して |
|---|---|---|
| A 事務・確認が中心 読む2h+定型入力4h+会議1h+メール1h |
1,390 | 0.87 |
| B 企画・作成が中心 書く4h+打ち合わせ2h+メール1h+読む1h |
3,210 | 2.01 |
| C 窓口・対人が中心 電話4h+クレーム1h+定型入力2h+メール1h |
3,770 | 2.36 |
★3人とも、同じ8時間です。同じ時給なら、賃金も同じです。それでも数字は2.7倍違います。
★表に出ない重さ ― 「自分の仕事が止まる」ぶん
社内のパソコンやシステムの不具合を、担当ではないのに直せてしまう人がいます。この役回りには、上の表では拾いきれない性質が3つあります。
| 性質 | 何が起きるか |
|---|---|
| ①割り込みで来る | 自分の作業を中断して対応する。 予定に入っていないので、その日の計画から丸ごとはみ出す |
| ②代わりがいない | 専門的な知識が要るので、断ると誰も解決しない。 知識があること自体が「頼みやすさ」に化けている |
| ③評価に乗らない | 自分の担当業務は進んでいないので、 成果で見ると「その日は仕事をしていない」ことになる |
★①と③が同時に起きるのが、この役回りの特徴です。負担は増えるのに、評価に乗る数字は減ります。増えるものと減るものが、逆を向いています。
1回あたりの本当のコスト
★前提(当サイトが置いた仮定):中断された作業に戻るには、立て直しの時間が要るものとします。ここでは30分と置きます。この30分は、産出はゼロですが消費はします(読み直し・思い出し・段取りの組み直し)。実測値ではありません。
| 1時間の対応で起きること | 消費 | 産出 |
|---|---|---|
| 対応そのもの(1時間) | 830 | 0(自分の担当ではない) |
| 戻ってからの立て直し(30分) | 250 | 0 |
| 合計 | 1,080 | 0 |
★1時間の依頼が、実際には1.5時間・1,080トークンを食います。表の830より3割重い——差の250は、中断そのものの代金です。
※AIで言えば、別のセッションに切り替えて戻ってきたときに、元のコンテキストを読み直すコストにあたります。切り替えは、切り替えた先の作業とは別に課金されるという話です。
1日で比べると、増えるものと減るものが逆を向く
自分の担当業務が「資料・企画を書く」(500)で評価される人を例にします。
| 手伝わなかった日 | 1時間手伝った日 | |
|---|---|---|
| 自分の作業に使えた時間 | 8.0時間 | 6.5時間 |
| 評価に乗る産出 | 4,000 | 3,250 |
| 本人の負担(消費) | 4,000 | 4,330 |
★負担は 8.3% 増えて、評価に乗る数字は 18.8% 減ります。1時間しか手伝っていないのに、成果は2割近く落ちる——立て直しの30分が効いているからです。
※立て直しの時間を変えると答えも変わります。0分なら −12.5%、15分なら −15.6%、1時間なら −25.0%。どの置き方でも「負担は増え、評価は減る」向きは変わりません——変わるのは大きさだけです。
月で見ると、記録に残らない時間が積み上がる
週に3回、1回1時間の依頼があるとします(月12回)。
| 月の合計 | |
|---|---|
| 自分の仕事から引かれた時間 | 18時間(12回 × 1.5時間) |
| 評価に乗る産出の減少 | 9,000(月の産出 80,000 に対して 11.2%) |
| この18時間が記録される場所 | どこにもない |
★そして、引かれた18時間ぶんの自分の仕事は、消えたわけではありません。この章の最後の表の「入りきらない量の行き先」へ回ります——残業になるか、品質が落ちるか、持ち越すか、こぼれるかです。そのうち記録に残るのは、残業だけです。
★これは「無料奉仕」ではなく「持ち出し」です
賃金が出ていないわけではありません。拘束時間の中なので、時間ぶんの賃金は支払われています。無料なのは、位置づけと評価のほうです。
| この役回りはどう扱われるか | |
|---|---|
| 賃金 | 時間ぶんは出る(拘束時間だから) |
| 難しさに対する上乗せ | 無い(4章のとおり、法にも制度にも量を見る仕組みが無い) |
| 担当業務としての位置づけ | 無い(誰の分担表にも載っていない) |
| 評価 | マイナスに働く(自分の成果が減るため) |
★手伝うほど自分の評価が下がるなら、それは無料奉仕ではなく持ち出しに近いものです。そして持ち出しである以上、続けられるかどうかは本人の余力次第になります——組織の側から見れば、いつ止まってもおかしくない仕組みに依存していることになります。
※この形は、eスポーツ大会とVTuber で扱った「帳簿に載らない負担」や、「善意だのみが続かない理由」で扱った「呼びかけだけでは続かない」と同じ構造です。「困ったら聞いてね」と書くのは、4つの梃子のうち「書く」だけにあたります。条件にする(役割として定義する・時間を確保する・評価に載せる)まで進めないと、善意のある人の余力が尽きた時点で終わります。
どうすれば見えるようになるか
この役回りがやっかいなのは、本人ですら「今月どれだけやったか」を言えないことです。割り込みで来るので、記憶に残らないからです。
| 数えるもの | 数え方 |
|---|---|
| ①件数 | 1日の終わりに「今日は何件」だけ書く |
| ②かかった時間 | 15分単位のざっくりでよい |
| ③中断された回数 | 件数と同じでよい(1件=1回の中断) |
★内容や依頼者は書きません。15章と同じで、続けるためと、職場の情報を持ち出さないためです。必要なのは「何を直したか」ではなく「何回・何時間」だけ——それが揃えば、分担表に載っていない仕事が月に何時間あるかを、はじめて数字で言えます。
★この表がいちばん役に立つのは、モデルが壊れるところです
BさんとCさんの数字(2.01・2.36)を、11章の試算⑤-Bに入れてみてください。「見えない残業」は月160時間を超えます。常識的に考えて、そんなことは起きません。
★起きないからこそ、意味があります。定格の2倍の量は、8時間には入りません。入らないものは、必ずどこかへ出ます。
| 入りきらない量は、どこへ行くか | 表に出るか |
|---|---|
| 残業になる | 出る(時間として記録される) |
| 品質が落ちる | 出ない(試算④のとおり成果あたりは割高になるが、誰も数えていない) |
| 翌日に持ち越す | 出ない |
| こぼれる(やらない・忘れる) | 出ない |
| 本人の余力から出る | 出ない(→ 16章の④、参加が先に消える) |
★「残業が45時間で済んでいる」ことは、量が45時間ぶんだったことを意味しません。入りきらなかったぶんが、記録に残らない形で処理されているだけかもしれない——これが、この表から言える唯一のことです。
使い方 ― 自分の数字を作る
上の係数は、そのまま使う必要はありません。むしろ職場ごとに違って当然です。15章の「数える」を始めるとき、単位をどう決めるかの下敷きとして使ってください。
| 手順 | やること |
|---|---|
| ① | 自分の1日を、上の表の業務に当てはめて時間を割り振る |
| ② | 係数は自分で決め直す(納得できない値は変える) |
| ③ | 数か月ぶん並べて、合計の推移を見る |
★絶対値には意味がありません。意味があるのは、同じ係数で測り続けたときの増減です。「時間は変わっていないのに合計が2割増えた」は、係数が仮であっても言えます——比べているのが同じ物差しどうしだからです。
13. 試算⑦ ― 押し込められた量を平準化したら、賃金はいくらになるか
※ここも前提を置いた思考実験です。ただしこの章だけは、賃金と労働時間に公的統計の実数を当てはめます。
試算②では密度を「賃金」に、試算⑤では「時間」に換算しました。この章では、その2つを合わせます——押し込められた量をいったん定格の速さにほどいて、その時間に現行の割増賃金を当てたら、いくらになるか。
まず「平準化」とは何か
平準化=同じ量を、定格の密度でやったら何時間かかるかに置き直すことです。
平準化した時間 = その日の作業量 ÷ 200(定格の1時間あたり・12章)
※12章の定格は1日1,600=1時間あたり200です。月20日で換算すると月160時間になります。
★この章の土台は、仮定ではありません ― 実際の賃金と労働時間
平準化した時間を賃金に直すには、時給が要ります。★そこだけは仮定を使わずに済みます——公的統計に実数があるからです。
| 何の数字か | 値 | 出典(すべて印字されている値) |
|---|---|---|
| 一般労働者の月間総実労働時間 | 160.5時間 | 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分速報 調査産業計・事業所規模5人以上 |
| 一般労働者の所定内給与(月) | 340,657円 | 同じ |
| 一般労働者の所定内労働時間(月) | 147.3時間 | 同じ |
| パートタイム労働者の時給 | 1,394円 | 同じ (時間額として公表されている) |
| 最低賃金の全国加重平均 | 1,121円 | 令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧(厚生労働省) |
★ここで、この記事がこれまで置いてきた2つの仮定を検算できます。
| 記事が置いた仮定 | 実際の統計 | どうだったか |
|---|---|---|
| 定格は月160時間(7章) | 一般労働者の総実労働時間は160.5時間 | ★ほぼ一致していた |
| 時給2,000円(8章・9章) | 一般労働者は約2,313円 | ★記事の仮定のほうが低い= 試算は控えめに出ていた |
※一般労働者の1時間あたり2,313円は、厚生労働省がパートタイム労働者の時給を公表するときと同じ方法(所定内給与÷所定内労働時間)を、一般労働者に当てはめて当サイトが計算したものです。同じ計算をパートタイム労働者にすると107,038円÷76.8時間=1,394円で、公表値と一致します=方法は再現できています。ただし公表されているのはあくまでパートの時間額のほうで、一般労働者の時間額は公表値ではありません。
※最低賃金は令和8年度の改定手続きが進んでいます。令和8年7月28日に目安(Aランク54円・Bランク56円・Cランク56円)が答申され、厚生労働省の資料には「仮に目安どおりに各都道府県で引上げが行われた場合の全国加重平均は1,176円となります」と書かれています。これは目安どおりに改定された場合の数字であって、確定額ではありません=上の表には、現に効いている令和7年度の額を使いました。
★本題 ― 「本来いくら」には、答えが4つあります
「押し込められた量を平準化したら、本来いくら払われるべきか」——この問いには、実は答えが1つに決まりません。★何を動かすかで、額が変わるからです。
例として、量が定格の1.5倍・時給2,000円・月160時間の人で並べます。
| 考え方 | 何を動かすか | 月の人件費 |
|---|---|---|
| ①いまのやり方 | 何も動かさない= 量はそのまま、賃金もそのまま |
320,000円 |
| ②単価で払う | 同じ8時間のまま、 時給を量に比例して上げる |
480,000円 |
| ③時間で払う | 平準化した時間に、 現行の割増賃金をそのまま当てる |
530,000円 |
| ④人を増やす | 賃金は変えず、 量が8時間に収まるまで人を足す |
480,000円 |
★②と④は、雇う側から見ると同じ額です。一人に1.5倍払うのと、1.5人で分けて一人あたりは変えないのとでは、人件費は変わりません。★違うのは、働く人の体に何が起きるかです。
★★そして、いちばん安いのは①です。5章で「詰め込むほうが安い」と書いたことが、金額でそのまま出ています。
③が②より高いのは、割増のぶんです
③と②の差は50,000円。これはぴったり、見えない時間外にかかる割増分です。
③ − ② = 時給 ×(60時間までの見えない時間外×0.25 + 60時間を超えた分×0.5)
この例では 60時間×0.25 + 20時間×0.5 = 25時間ぶん、時給2,000円をかけて 50,000円。
★つまり、詰め込んで8時間で終わらせると、この割増も一緒に消えます。
定格に対する量ごとに並べると
| 定格に対する量 | 月の 「見えない時間外」 |
①いまのやり方 | ②単価で払う | ③時間で払う | ③は①の何倍か |
|---|---|---|---|---|---|
| 1.00 | 0時間 | 320,000円 | 320,000円 | 320,000円 | 1.00倍 |
| 1.10 | 16時間 | 320,000円 | 352,000円 | 360,000円 | 1.13倍 |
| 1.25 | 40時間 | 320,000円 | 400,000円 | 420,000円 | 1.31倍 |
| 1.50 | 80時間 | 320,000円 | 480,000円 | 530,000円 | 1.66倍 |
| 2.00 | 160時間 | 320,000円 | 640,000円 | 770,000円 | 2.41倍 |
★量が1.5倍でも、賃金は1.66倍です。量の倍率より、賃金の倍率のほうが大きく出ます——割増賃金という仕組みが、そもそも「長くなるほど単価を上げる」形だからです。
※深夜(22時〜5時)と休日の割増は入れていません。時間帯の話であって、量の話ではないからです。
実際の賃金水準を当てはめると
量が定格の1.5倍だったとして、時給を変えて並べます。
| 時給 | 何の数字か | ①いまのやり方 | ③時間で払う | 差 | ③を拘束160時間で 割り戻した「本来の時給」 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1,121円 | 最低賃金の全国加重平均(令和7年度) | 179,360円 | 297,065円 | +117,705円 | 1,857円 |
| 1,394円 | パートタイム労働者の時給(2025年) | 223,040円 | 369,410円 | +146,370円 | 2,309円 |
| 2,000円 | この記事がこれまで置いてきた仮の時給 | 320,000円 | 530,000円 | +210,000円 | 3,313円 |
| 2,313円 | 一般労働者(当サイトが同じ方法で計算) | 370,080円 | 612,945円 | +242,865円 | 3,831円 |
★これが、問いへのいちばん直接的な答えです。量が定格の1.5倍なら、本来の時給は1.66倍——最低賃金の水準なら1,121円ではなく約1,857円、一般労働者の水準なら2,313円ではなく約3,831円にあたります。
※最低賃金の行は「もし月160時間フルタイムで働いて時給が最低賃金だったら」という置き方です。最低賃金に近い時給で働く人は短時間勤務であることが多く、実際の姿とは限りません。
★月収・年収に直すと
ここまでは月の額で書いてきました。年でいくらになるかも並べます。
※ この試算の額は「賞与を含まない」=月の労働に対する対価を12倍しただけです。実際の年収は賞与のぶんが上に乗ります。またいずれも額面(税・社会保険料を引く前)で、手取りではありません。
※ この試算の額は「賞与を含まない」=月の労働に対する対価を12倍しただけです。実際の年収は賞与のぶんが上に乗ります。またいずれも額面(税・社会保険料を引く前)で、手取りではありません。
''① 4つの答えを、年で見ると''
量が定格の1.5倍・時給2,000円・月160時間の人。
量が定格の1.5倍・時給2,000円・月160時間の人。
| 考え方 | 月 | 年(月×12) | ①との差(年) |
|---|---|---|---|
| ①いまのやり方 | 320,000円 | 3,840,000円(約384万円) | ― |
| ②単価で払う | 480,000円 | 5,760,000円(約576万円) | +1,920,000円(約192万円) |
| ③時間で払う | 530,000円 | 6,360,000円(約636万円) | +2,520,000円(約252万円) |
| ④人を増やす | 480,000円 | 5,760,000円(約576万円) | +1,920,000円(約192万円) |
★年で見ると、①と③の差は約252万円です。月の5万円は小さく見えても、年では60万円、量が1.5倍のときは252万円になります。
''② 定格に対する量ごとに、年で''
| 定格に対する量 | ①いまのやり方(年) | ③時間で払う(年) | 年の差 |
|---|---|---|---|
| 1.00 | 3,840,000円 | 3,840,000円 | ― |
| 1.10 | 3,840,000円 | 4,320,000円 | +480,000円(約48万円) |
| 1.25 | 3,840,000円 | 5,040,000円 | +1,200,000円(約120万円) |
| 1.50 | 3,840,000円 | 6,360,000円 | +2,520,000円(約252万円) |
| 2.00 | 3,840,000円 | 9,240,000円 | +5,400,000円(約540万円) |
★定格の2倍こなしている人は、年収にして約540万円ぶんの差になります。これが「値段のつかないまま消えている」ぶんの大きさです。
''③ 実際の賃金水準で、年収に直すと''
量が定格の1.5倍・月160時間(年1,920時間)。
量が定格の1.5倍・月160時間(年1,920時間)。
| 時給 | いまの年収 | ③時間で払うときの年収 | 年の差 |
|---|---|---|---|
| 1,121円 | 2,152,320円(約215.2万円) | 3,564,780円(約356.5万円) | +1,412,460円(約141.2万円) |
| 1,394円 | 2,676,480円(約267.6万円) | 4,432,920円(約443.3万円) | +1,756,440円(約175.6万円) |
| 2,000円 | 3,840,000円(約384万円) | 6,360,000円(約636万円) | +2,520,000円(約252万円) |
| 2,313円 | 4,440,960円(約444.1万円) | 7,355,340円(約735.5万円) | +2,914,380円(約291.4万円) |
※ 月160時間で12か月ぶんという置き方です。賞与・深夜・休日の割増は入れていません。手取りで考えたいときは → お金と時間の余白をつくる 。
★ところが現行法では、この差は1円も発生しません
理由は単純です。★その人は8時間で帰っているからです。
| 同じ量(定格の1.5倍)をこなした2人 | 拘束された時間 | 支払い(時給2,000円) |
|---|---|---|
| 定格の速さでやった人 | 1日12時間・月240時間 | 530,000円 |
| 8時間に詰め込んだ人 | 1日8時間・月160時間 | 320,000円 |
★こなした量は同じです。差は210,000円。★しかも詰め込んだ人のほうが、拘束時間は80時間短い——場所も光熱費も、その分だけ安く済みます。
★★速く終わらせるほど、支払いは減ります。速く終わらせたぶんの取り分は、どこにも記録されないまま消えています——5章で見た「詰め込むほうが安い」の、働く人から見た姿がこれです。
★付録(19章)には、21の業種・職種について「平準化すると1日は何時間分になるか」を並べました。
※月240時間(時間外80時間)は、特別条項が無ければそもそも組めません。この比較自体が、合法の縁にあります。
★では「本来いくら」なのか ― このページの答え
★金額を確定することはできません。理由を3つ書きます。
| なぜ確定できないか | 中身 |
|---|---|
| ②③を請求できる条文が無い | 密度に値段をつける規定は存在しない(8章の留保のとおり) |
| ④は、この計算より高くつく | 採用の費用・教育の時間・社会保険料を入れていない。 実際には②と同額では済まない |
| そもそも密度の実測値が無い | 定格に対する量が本当にいくつなのかを、誰も数えていない |
★だからこのページの答えは、金額ではありません。
できるのは、いくら分が値段のつかないまま消えているかを、自分で数えることだけです。(→15章)
★そのうえで、②と④が同じ費用だという事実は、それ自体が材料になります。「同じ人件費で、一人の賃金を上げるか、人を増やして量を戻すか」——どちらを選ぶかという形にすると、話が「感想」から「配分」に移ります。
※9章で見たとおり、割増率を上げても支給額はあまり動きませんでした。この章で③が②を上回るのも、上回り方は限られています=価格で解決しようとすると、いつも同じ壁に当たります。効き方として直接的なのは、④の側(量そのものを戻す)です。
14. 試算⑧ ― 物価に対して、賃金はどこまで届いていないか(業界別)
ここまでは、1人の中で「同じ8時間の中身が違う」ことを見てきました。この章では外から実数を2つ持ってきます=物価と、業界ごとの賃金です。
※ この章も試算です。ただし土台に使う数字はすべて公表されている実数で、仮定を置いた箇所はその都度書きます。特定の業界・企業を評価するものではありません。
※ この章も試算です。ただし土台に使う数字はすべて公表されている実数で、仮定を置いた箇所はその都度書きます。特定の業界・企業を評価するものではありません。
まず実数 ― この4年、賃金は物価に届いていません
「物価が上がったぶん、賃金が上がればいい」——それはそのとおりです。では実際にどうだったのかを、指数で並べます(いずれも2020年=100の年平均)。
| 年 | 名目賃金指数 | 消費者物価指数 | 実質賃金指数 | 実質の前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年 | 100.3 | 99.7 | 100.6 | +0.6% |
| 2022年 | 102.3 | 102.7 | 99.6 | △1.0% |
| 2023年 | 103.5 | 106.6 | 97.1 | △2.5% |
| 2024年 | 109.2 | 110.0 | 99.3 | △0.3% |
| 2025年 | 111.7 | 114.0 | 98.0 | △1.3% |
※ 実質賃金は名目賃金指数を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で除して算出されています。上の表でも名目 ÷ 物価 × 100 が実質と一致します(例:2025年 111.7 ÷ 114.0 × 100 = 98.0)。2025年は速報値、また2024年の前年比は指数から計算した値と一致しません(基準の更新のため、と資料に注記があります)。
この4年(2021年→2025年)を通してみると、こうなります。
この4年(2021年→2025年)を通してみると、こうなります。
- 名目賃金は +11.4%。賃金が上がっていないわけではありません。
- 物価は +14.3%。上がった以上に、値段が上がりました。
- その差が、実質賃金 △2.6%です。2020年の水準(100.0)を下回ったまま(2025年は98.0)。
★ただし、いまも下がり続けているとは書けません。2026年に入って実質賃金は前年同月比プラスに転じており、6月分速報では+1.6%でした。戻ったのは向きだけで、水準はまだ戻っていません。
では「本来いくら」を業界ごとに出せるか ― 密度の実測値は、やはりありません
13章の答えは4つありました。この章で使うのは②単価で払う(賃金 × 密度)だけです。ところが密度の実測値は、どこにもありません(20章)。そこで、上下から挟みます。
| 何を使うか | 性質 | |
|---|---|---|
| 下限 | 欠員率(厚生労働省「雇用動向調査」) | 公表されている実数。 ただし、小さすぎる側に外れます(理由は次の節)。 |
| 上限 | 付録の定格比(19章) | このページが置いた仮定。 大きすぎる側に外れます。 |
★どちらも「正しい額」ではありません。答えが1つに決まらないことは13章で確かめたとおりで、この章がやるのは幅を出すことだけです。
★下限 ― 「募集したのに埋まっていない人数」だけを乗せる
欠員率は、調査の定義そのものがこうなっています。
欠員率 = 未充足求人数 ÷ 6月末日現在の常用労働者数 × 100(%)
つまり「いま募集していて、まだ埋まっていない人数」の割合です。その人たちの仕事はいる人がやっています。だから、
密度の下限 = 1 + 欠員率 / ②単価で払うときの差額 = 所定内給与 × 欠員率
★なぜこれが「下限」なのか=求人を出していない不足は、1件も入らないからです。「人を増やさずに、いる人に足す」と決めた時点で、その不足は求人になりません。★このページの主題そのものが、人手不足の統計にも映っていない、ということです。
| 産業 | 所定内給与(月) | 欠員率 | 密度の下限 | ②単価で払うと | 差額(月) | 差額(年) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 宿泊業,飲食サービス業 | 289,543円 | 4.8% | 1.048 | 303,441円 | +13,898円 | 166,777円 |
| 運輸業,郵便業 | 311,770円 | 4.1% | 1.041 | 324,553円 | +12,783円 | 153,391円 |
| 建設業 | 352,268円 | 3.5% | 1.035 | 364,597円 | +12,329円 | 147,953円 |
| 不動産・物品賃貸業 | 364,856円 | 3.3% | 1.033 | 376,896円 | +12,040円 | 144,483円 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 309,160円 | 3.0% | 1.030 | 318,435円 | +9,275円 | 111,298円 |
| 医療,福祉 | 316,183円 | 2.9% | 1.029 | 325,352円 | +9,169円 | 110,032円 |
| 学術研究等 | 408,391円 | 2.1% | 1.021 | 416,967円 | +8,576円 | 102,915円 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 282,349円 | 3.0% | 1.030 | 290,819円 | +8,470円 | 101,646円 |
| 情報通信業 | 401,434円 | 1.8% | 1.018 | 408,660円 | +7,226円 | 86,710円 |
| 卸売業,小売業 | 349,951円 | 2.0% | 1.020 | 356,950円 | +6,999円 | 83,988円 |
| 製造業 | 330,027円 | 2.0% | 1.020 | 336,628円 | +6,601円 | 79,206円 |
| 複合サービス事業 | 323,041円 | 2.0% | 1.020 | 329,502円 | +6,461円 | 77,530円 |
| 教育,学習支援業 | 399,148円 | 1.0% | 1.010 | 403,139円 | +3,991円 | 47,898円 |
| 鉱業,採石業等 | 348,403円 | 1.1% | 1.011 | 352,235円 | +3,832円 | 45,989円 |
| 金融業,保険業 | 418,862円 | 0.4% | 1.004 | 420,537円 | +1,675円 | 20,105円 |
| 電気・ガス業 | 437,402円 | 0.3% | 1.003 | 438,714円 | +1,312円 | 15,746円 |
| 調査産業計 | 340,657円 | 2.6% | 1.026 | 349,514円 | +8,857円 | 106,285円 |
※ 賃金は毎月勤労統計調査の一般労働者・所定内給与(2025年平均・速報)、欠員率は雇用動向調査(2025年6月末日現在)。どちらも事業所規模5人以上ですが、別々の調査なので、産業の区分は完全には一致しません。所定内給与を使ったのは、賞与や残業代が入らないためです(賞与月は金額が跳ねます)。
読みどころを3つ。
読みどころを3つ。
- 差額が大きいのは 宿泊業,飲食サービス業(月+13,898円)・運輸業,郵便業(月+12,783円)・建設業(月+12,329円)。
- 小さいのは 電気・ガス業(月+1,312円)・金融業,保険業(月+1,675円)。同じ「人手不足」でも、業界によって10倍の開きがあります。
- ★向きが一致しています=所定内給与が全体平均(340,657円)を下回る7業種の欠員率は平均3.11%、上回る9業種は平均1.72%。賃金が低い業界ほど、人が足りていません。ただし言えるのは向きが一致しているところまでで、どちらが原因かは、この数字からは分かりません。
★月収・年収に直すと
上の表は所定内給与(賞与も残業代も入らない部分)で並べました。ふだん使う「月収」「年収」に近い形にも直しておきます。
※ ここでの月収は「現金給与総額」=賞与を含む1か月あたりの平均(毎月勤労統計・一般労働者・2025年平均)で、年収はその12倍です。いずれも額面で、手取りではありません。★パートタイム労働者を含まない一般労働者の平均なので、パートを含めて集計した「平均年収」の統計とは母集団が違います。
※ ここでの月収は「現金給与総額」=賞与を含む1か月あたりの平均(毎月勤労統計・一般労働者・2025年平均)で、年収はその12倍です。いずれも額面で、手取りではありません。★パートタイム労働者を含まない一般労働者の平均なので、パートを含めて集計した「平均年収」の統計とは母集団が違います。
| 産業 | いまの月収 | いまの年収 | 下限を足した年収 | 年収の差 |
|---|---|---|---|---|
| 宿泊業,飲食サービス業 | 361,620円 | 4,339,440円(約433.9万円) | 4,506,217円 | +166,777円 |
| 運輸業,郵便業 | 436,277円 | 5,235,324円(約523.5万円) | 5,388,715円 | +153,391円 |
| 建設業 | 481,545円 | 5,778,540円(約577.9万円) | 5,926,493円 | +147,953円 |
| 不動産・物品賃貸業 | 513,927円 | 6,167,124円(約616.7万円) | 6,311,607円 | +144,483円 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 378,533円 | 4,542,396円(約454.2万円) | 4,653,694円 | +111,298円 |
| 医療,福祉 | 405,700円 | 4,868,400円(約486.8万円) | 4,978,432円 | +110,032円 |
| 学術研究等 | 571,155円 | 6,853,860円(約685.4万円) | 6,956,775円 | +102,915円 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 362,518円 | 4,350,216円(約435万円) | 4,451,862円 | +101,646円 |
| 情報通信業 | 570,241円 | 6,842,892円(約684.3万円) | 6,929,602円 | +86,710円 |
| 卸売業,小売業 | 475,607円 | 5,707,284円(約570.7万円) | 5,791,272円 | +83,988円 |
| 製造業 | 473,239円 | 5,678,868円(約567.9万円) | 5,758,074円 | +79,206円 |
| 複合サービス事業 | 442,526円 | 5,310,312円(約531万円) | 5,387,842円 | +77,530円 |
| 教育,学習支援業 | 557,385円 | 6,688,620円(約668.9万円) | 6,736,518円 | +47,898円 |
| 鉱業,採石業等 | 496,949円 | 5,963,388円(約596.3万円) | 6,009,377円 | +45,989円 |
| 金融業,保険業 | 602,885円 | 7,234,620円(約723.5万円) | 7,254,725円 | +20,105円 |
| 電気・ガス業 | 653,923円 | 7,847,076円(約784.7万円) | 7,862,822円 | +15,746円 |
| 調査産業計 | 465,895円 | 5,590,740円(約559.1万円) | 5,697,025円 | +106,285円 |
★差額のほうは、所定内給与にだけ欠員率を掛けています(賞与にも残業代にも掛けていません)=賞与が基本給に連動する職場なら、実際の年収の差はこれより大きく出ます。ここでも控えめな側です。
★年収でいうと、いちばん大きい宿泊業,飲食サービス業でも約17万円。「これで暮らしが変わる」という額ではありません。それでもこの4年の物価の目減りと同じ大きさで、しかもこれは「募集して埋まっていない人数」ぶんだけを数えた下限です。
※ 上限側(付録の定格比)で同じことをすると、年の差は約106.9万円〜約881.5万円になります。ただし前の節のとおり、この幅では「賃金」の意味を失っています。
★年収でいうと、いちばん大きい宿泊業,飲食サービス業でも約17万円。「これで暮らしが変わる」という額ではありません。それでもこの4年の物価の目減りと同じ大きさで、しかもこれは「募集して埋まっていない人数」ぶんだけを数えた下限です。
※ 上限側(付録の定格比)で同じことをすると、年の差は約106.9万円〜約881.5万円になります。ただし前の節のとおり、この幅では「賃金」の意味を失っています。
★全体では、いくらぶんになるか
同じ調査は、未充足求人数そのものも公表しています。2025年6月末日現在で1,359.5千人、うちパートタイム労働者が465.6千人です。その人たちがやるはずだった仕事は、いまいる人がやっています。賃金に換算すると、こうなります。
| 人数 | 1人あたりの所定内給与(月) | 月 | 年 | |
|---|---|---|---|---|
| 一般労働者ぶん | 893.9千人 | 340,657円 | 約3,045億円 | 約3兆6,542億円 |
| パートタイム労働者ぶん | 465.6千人 | 107,038円 | 約498億円 | 約5,980億円 |
| 合計 | 1,359.5千人 | ― | 約3,544億円 | 約4兆2,522億円 |
※ パートの所定内給与は毎月勤労統計調査の107,038円(2025年平均・調査産業計)。産業ごとの賃金差は反映していません(全国平均を当てた概算です)。全員を一般労働者の賃金で置くと年 約5兆5,575億円になりますが、未充足求人の3分の1はパートなので、この額は大きすぎます。
★この額は「企業が払っていない賃金」ではありません。求人が埋まらないまま続いている状態を、賃金で測るとこの大きさになる、というだけです。★そして、埋まらないぶんの仕事が全部いまいる人に回っているとも限りません(受けない・縮める・遅らせる、という調整もあります=17章⑥)。それでも、片側の目安としては使えます。
★この額は「企業が払っていない賃金」ではありません。求人が埋まらないまま続いている状態を、賃金で測るとこの大きさになる、というだけです。★そして、埋まらないぶんの仕事が全部いまいる人に回っているとも限りません(受けない・縮める・遅らせる、という調整もあります=17章⑥)。それでも、片側の目安としては使えます。
★上限 ― 付録の定格比を当てはめると、金額のほうが壊れます
19章の付録は、業種・職種ごとに定格に対する比を置きました。★あれは実測ではなく、このページが置いた仮定です。そのまま賃金に掛けると、こうなります。
| 業種・職種(19章) | 当てはめた産業 | 所定内給与(月) | 定格比 | ②単価で払うと | 差額(月) |
|---|---|---|---|---|---|
| 事務・総務 | 調査産業計 | 340,657円 | 0.99倍 | 337,250円 | △3,407円 |
| 製造 ― ライン作業 | 製造業 | 330,027円 | 1.27倍 | 419,134円 | +89,107円 |
| 配送ドライバー | 運輸業,郵便業 | 311,770円 | 1.50倍 | 467,655円 | +155,885円 |
| 警備・受付 | サービス業(他に分類されないもの) | 282,349円 | 1.74倍 | 491,287円 | +208,938円 |
| 保育 | 医療,福祉 | 316,183円 | 2.21倍 | 698,764円 | +382,581円 |
| スーパー ― レジが中心 | 卸売業,小売業 | 349,951円 | 2.38倍 | 832,883円 | +482,932円 |
| 飲食店(ホール・厨房) | 宿泊業,飲食サービス業 | 289,543円 | 2.39倍 | 692,008円 | +402,465円 |
| 介護 | 医療,福祉 | 316,183円 | 2.42倍 | 765,163円 | +448,980円 |
| 建設・現場作業 | 建設業 | 352,268円 | 2.45倍 | 863,057円 | +510,789円 |
| コールセンター | サービス業(他に分類されないもの) | 282,349円 | 2.47倍 | 697,402円 | +415,053円 |
| 情報システム担当 | 情報通信業 | 401,434円 | 2.83倍 | 1,136,058円 | +734,624円 |
★ここで起きているのは、13章の終わりで見たのと同じことです。比が大きいところでは、この換算は「賃金」の意味を失います=月+73万円は本来の賃金ではなく、「8時間に収まっていない量」の言い換えです。そこで問うべきなのは「いくら払うか」ではなく「なぜ8時間に入っていないか」になります。
★もう1つ。「事務・総務」だけは、上限のほうが下限を下回ります(定格比0.99=差額はマイナス)。上限と下限が逆転するのは、2つがそもそも別のものを測っているからです=欠員率は「人が足りているか」、定格比は「量が詰まっているか」。同じ「本来いくら」という問いに、交わらない2本の物差しが当たっている、ということです。
★もう1つ。「事務・総務」だけは、上限のほうが下限を下回ります(定格比0.99=差額はマイナス)。上限と下限が逆転するのは、2つがそもそも別のものを測っているからです=欠員率は「人が足りているか」、定格比は「量が詰まっているか」。同じ「本来いくら」という問いに、交わらない2本の物差しが当たっている、ということです。
★業種・職種ごとに、現状の年収と換算した年収を並べる
19章の付録で置いた21の業種・職種について、いまの年収と、量に見合う額に換算した年収を並べます。換算は、この章で使った下限と上限の2通りです。
換算年収(下限)= 現状の年収 + 所定内給与 × 欠員率 × 12 換算年収(上限)= 現状の年収 + 所定内給与 ×(定格比 − 1)× 12
※ 定格比は19章が置いた仮定で、実測ではありません。★職種と産業は1対1ではないので、産業の当てはめも当サイトの割り当てです(同じ産業に当てはめた職種は、現状の年収も同じ値になります)。差額は所定内給与にだけ掛けています(賞与・残業代には掛けていません)。いずれも額面で、手取りではありません。
| 業種・職種 (当てはめた産業) |
定格比 | 現状の年収 | 換算年収 (下限) |
換算年収 (上限) |
上限での差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 事務・総務 (調査産業計) |
0.99倍 | 559.1万円 | 569.7万円 | 555万円 | △4.1万円 |
| 営業(外回り) (調査産業計) |
1.22倍 | 559.1万円 | 569.7万円 | 649万円 | +89.9万円 |
| 製造 ― ライン作業 (製造業) |
1.27倍 | 567.9万円 | 575.8万円 | 674.8万円 | +106.9万円 |
| スーパー ― 品出し・発注が中心 (卸売業,小売業) |
1.49倍 | 570.7万円 | 579.1万円 | 776.5万円 | +205.8万円 |
| 配送ドライバー (運輸業,郵便業) |
1.50倍 | 523.5万円 | 538.9万円 | 710.6万円 | +187.1万円 |
| 警備・受付 (サービス業(他に分類されないもの)) |
1.74倍 | 435万円 | 445.2万円 | 685.7万円 | +250.7万円 |
| 経理(決算期) (調査産業計) |
1.89倍 | 559.1万円 | 569.7万円 | 922.9万円 | +363.8万円 |
| 企画・制作 (調査産業計) |
2.01倍 | 559.1万円 | 569.7万円 | 972万円 | +412.9万円 |
| 製造 ― 設備保全・トラブル対応 (製造業) |
2.11倍 | 567.9万円 | 575.8万円 | 1,007.5万円 | +439.6万円 |
| 保育 (医療,福祉) |
2.21倍 | 486.8万円 | 497.8万円 | 945.9万円 | +459.1万円 |
| スーパー ― レジが中心 (卸売業,小売業) |
2.38倍 | 570.7万円 | 579.1万円 | 1,150.2万円 | +579.5万円 |
| 飲食店(ホール・厨房) (宿泊業,飲食サービス業) |
2.39倍 | 433.9万円 | 450.6万円 | 916.9万円 | +483万円 |
| 介護 (医療,福祉) |
2.42倍 | 486.8万円 | 497.8万円 | 1,025.6万円 | +538.8万円 |
| 建設・現場作業 (建設業) |
2.45倍 | 577.9万円 | 592.6万円 | 1,190.8万円 | +612.9万円 |
| コールセンター (サービス業(他に分類されないもの)) |
2.47倍 | 435万円 | 445.2万円 | 933.1万円 | +498.1万円 |
| 情報システム担当 (情報通信業) |
2.83倍 | 684.3万円 | 693万円 | 1,565.8万円 | +881.5万円 |
※ 次の5つは、毎月勤労統計に当てはめる産業がありません=この表には出せません。
・農業(露地・繁忙期)(定格比 2.24倍)… 毎月勤労統計の調査産業に農業が含まれていません(19章)
・ストリーマー(生身・立ち絵/配信が中心)(定格比 2.82倍)… 雇われて働く形とは限りません(16章⑦)
・eスポーツ選手(練習と配信)(定格比 2.92倍)… 同上
・VTuber(配信が中心)(定格比 3.05倍)… 同上
・VTuber(企画・編集まで一人でやる)(定格比 3.08倍)… 同上
・農業(露地・繁忙期)(定格比 2.24倍)… 毎月勤労統計の調査産業に農業が含まれていません(19章)
・ストリーマー(生身・立ち絵/配信が中心)(定格比 2.82倍)… 雇われて働く形とは限りません(16章⑦)
・eスポーツ選手(練習と配信)(定格比 2.92倍)… 同上
・VTuber(配信が中心)(定格比 3.05倍)… 同上
・VTuber(企画・編集まで一人でやる)(定格比 3.08倍)… 同上
読みどころを3つ。
- ★量が重い職種ほど、いまの年収が高いわけではありません。定格比2.42の「介護」は年486.8万円で、定格比0.99の「事務・総務」の年559.1万円より72.2万円低い。定格比2.39の「飲食店(ホール・厨房)」は年433.9万円で、125.1万円低い。★このページが置いた定格比で見るかぎり、量と年収は逆を向いています(★定格比は仮定なので、これは「そう置くとそう見える」以上のことは言えません)。
- 下限で見ると、換算の幅は年7.9万円〜16.7万円。年収がひとつ上の段に行く額ではありません。それでも、この4年の物価の目減り(△2.6%)と同じ大きさです。
- 上限で見ると、年+89.9万円〜881.5万円。1,000万円を超える換算年収がいくつも出ますが、そこではもう「賃金」の話になっていません=「その量が8時間に入っていない」ことの言い換えです(前の節のとおり)。★「事務・総務」だけは上限が現状を下回ります(定格比0.99)。
★下限だけで、この4年の目減りとほぼ同じ大きさになります
ここがこの章でいちばん言いたいところです。2つの数字を並べます。
| 何の大きさか | 率 | 調査産業計の所定内給与(340,657円)にあてると |
|---|---|---|
| 実質賃金を2021年の水準へ戻すのに要る名目の上乗せ | +2.7%(100.6 ÷ 98.0 − 1) | 月 約9,038円 |
| 欠員率で測った上乗せ(下限) | +2.6% | 月 約8,857円 |
★ほとんど同じ大きさです。いちばん控えめに見積もった「本来の上乗せ」だけで、この4年の物価の目減りとほぼ釣り合います。
※ 厳密には同じ土俵ではありません=率は現金給与総額ベースの指数から、金額は所定内給与に当てています。ただしどちらの率も同じ賃金に掛けるので、2つを比べた比(0.98)は、元にする賃金を変えても動きません。
★これは「これだけ払えば解決する」という意味ではありません。言えるのは、控えめな見積りでも物価の目減りと同じ桁だ、というところまでです。そして13章のとおり、密度を理由に賃金の増額を請求できる条文はありません(→ 8章)。
※ 厳密には同じ土俵ではありません=率は現金給与総額ベースの指数から、金額は所定内給与に当てています。ただしどちらの率も同じ賃金に掛けるので、2つを比べた比(0.98)は、元にする賃金を変えても動きません。
★これは「これだけ払えば解決する」という意味ではありません。言えるのは、控えめな見積りでも物価の目減りと同じ桁だ、というところまでです。そして13章のとおり、密度を理由に賃金の増額を請求できる条文はありません(→ 8章)。
もし払われたら、何が変わるか
※ ここからはこのサイトの提案です。実施例や効果を確認したものではありません。統計の説明部分だけは出典があります。
''① 物価との差は、埋まります''
上の節のとおりです。下限ぶんだけで、この4年の目減りとほぼ同じ大きさになります。そして差額が大きいのは、賃金の低い業界のほうでした=同じ率の賃上げより、届き方の偏りが小さくなります。
''① 物価との差は、埋まります''
上の節のとおりです。下限ぶんだけで、この4年の目減りとほぼ同じ大きさになります。そして差額が大きいのは、賃金の低い業界のほうでした=同じ率の賃上げより、届き方の偏りが小さくなります。
''② 需要は増えるか ― 増える方向ですが、いくらかは分かりません''
家計調査(2025年平均・二人以上の世帯のうち勤労者世帯)の平均消費性向は65.0%(前年から2.8ポイントの上昇)です。=いま、使えるお金の65.0%が消費に回っています。
★ただし、これを「1万円増えたら6,500円使う」と読んではいけません。平均消費性向は「いまの水準」であって、「増えたぶんをどれだけ使うか」ではありません。後者(限界消費性向)は家計調査に載っていません=増えたぶんの何割が消費に回るかは、このページでは出せません。
家計調査(2025年平均・二人以上の世帯のうち勤労者世帯)の平均消費性向は65.0%(前年から2.8ポイントの上昇)です。=いま、使えるお金の65.0%が消費に回っています。
★ただし、これを「1万円増えたら6,500円使う」と読んではいけません。平均消費性向は「いまの水準」であって、「増えたぶんをどれだけ使うか」ではありません。後者(限界消費性向)は家計調査に載っていません=増えたぶんの何割が消費に回るかは、このページでは出せません。
''③ 食品ロスは減るか ― ★この数字からは、言えません''
食品ロスの推計(農林水産省・環境省)は、こう動いています。
食品ロスの推計(農林水産省・環境省)は、こう動いています。
| 推計年度 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 |
|---|---|---|---|---|
| 食品ロス量(万トン) | 522 | 523 | 472 | 464 |
| うち家庭系 | 247 | 244 | 236 | 233 |
| うち事業系 | 275 | 279 | 236 | 231 |
| 重なる暦年の実質賃金の前年比 | △1.2% | +0.6% | △1.0% | △2.5% |
※ 食品ロスは「年度」、実質賃金は「暦年」の集計なので、期間は完全には重なりません(令和2年度 ≒ 2020年)。
★食品ロスが大きく減ったのは、実質賃金がマイナスだった年です。「賃金が上がればロスが減る」は、この数字からは言えません。家庭系にいたっては平成24年度の312万トンから12年かけて233万トンまで、賃金の上下と関係なく減り続けています(△25%)。
★むしろ注意したいのは逆向きの可能性です。2025年の家計調査では食料の支出が名目+5.5%なのに実質△1.2%(単身世帯は△4.2%)=買う量そのものが減っています。ロスが減った理由の一部がこれなら、ロスの減少は良い知らせとは限りません(→ 食品の値上げと家計の余白 )。
★言えるかもしれないのは事業系の側です。231万トンの中身は資料に「規格外品、返品、売れ残り、食べ残し」と書かれており、「売れ残り」は需要の読み違いから出ます。需要が安定すれば減りうる——ただし、これは当サイトで確かめたものではありません。
★食品ロスが大きく減ったのは、実質賃金がマイナスだった年です。「賃金が上がればロスが減る」は、この数字からは言えません。家庭系にいたっては平成24年度の312万トンから12年かけて233万トンまで、賃金の上下と関係なく減り続けています(△25%)。
★むしろ注意したいのは逆向きの可能性です。2025年の家計調査では食料の支出が名目+5.5%なのに実質△1.2%(単身世帯は△4.2%)=買う量そのものが減っています。ロスが減った理由の一部がこれなら、ロスの減少は良い知らせとは限りません(→ 食品の値上げと家計の余白 )。
★言えるかもしれないのは事業系の側です。231万トンの中身は資料に「規格外品、返品、売れ残り、食べ残し」と書かれており、「売れ残り」は需要の読み違いから出ます。需要が安定すれば減りうる——ただし、これは当サイトで確かめたものではありません。
''④ 経済の流れとしては、行き先が変わります''
賃金として払われたお金は家計を通って戻ってきますが、利益として残ったお金は、投資・内部留保・配当のどれかへ向かいます=同じ売上でも、どちらに振り分けるかで次に何が起きるかが変わります。この筋道は17章③で扱っています。どちらが「経済にとって良いか」は、当サイトでは決めません。
賃金として払われたお金は家計を通って戻ってきますが、利益として残ったお金は、投資・内部留保・配当のどれかへ向かいます=同じ売上でも、どちらに振り分けるかで次に何が起きるかが変わります。この筋道は17章③で扱っています。どちらが「経済にとって良いか」は、当サイトでは決めません。
★そして、この章は請求の根拠にはなりません。密度を理由に賃金の増額を請求できる条文は、いまの法律にありません(→ 8章の留保)。この章が出せるのは、「いくら分が値段のつかないまま消えているか」を業界ごとに数えた、その数字だけです。
15. ★では、どうするか ― 自分の仕事量を数える
制度が数えていないなら、自分で数えるしかありません。これは告発の準備ではなく、事実の記録です。
なぜ「感覚」では足りないか
「最近きつい」は反証できます。「気のせいだ」「みんな同じだ」「慣れの問題だ」と返されたら、そこで終わります。「先月480件、今月620件。残業時間は同じ」は反証できません。数字の役割は、相手を負かすことではなく、話を感想から事実に移すことです。
持つべき3つの数字
| 数字 | いま誰が持っているか |
|---|---|
| ①拘束された時間 | 会社に記録義務がある(安衛法66条の8の3・客観的な方法・3年保存) |
| ②こなした量 | 誰も持っていない。 自分で数えるしかない |
| ③ ①÷② = 1件あたりにかけられた時間 | ②が無いので存在しない |
★いちばん効くのは③です。①が横ばいで③が下がっていれば、密度は確実に上がっています——「残業は増えていないのだから負担も増えていない」という説明を、数字で否定できる唯一の形がこれです。
数え方は、3つだけ
| やること | 理由 | |
|---|---|---|
| ①単位をひとつ決める | 件・本・通・体・行など。 増減が意味を持つものを1種類だけ |
複数の単位を混ぜると比較できなくなる |
| ②終業時に数字だけ書く | 所要1分。 内容は書かない |
中身まで書こうとすると必ず続かない。 続かない記録は無いのと同じ |
| ③月ごとに合計する | 時間・量・1件あたりの3つ | 比較できるのは月単位から |
※業務の中身は書かないのは、続けるためだけでなく、会社の情報を職場の外へ持ち出さないためでもあります(就業規則や秘密保持の定めに関わります)。自分の手帳に「件数と時間」だけを書けば、その問題は起きません。
「もらう」か「帰る」か ― 法律にある装置は、どれも「時間」しか動かさない
「働いた分をもらう。もらえないなら、そのぶん早く帰る」——この考え方に近い仕組みは、労働基準法の中にもあります。代替休暇(第37条第3項)です。ただし、そのまま当てにはできません。
1か月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、労使協定を締結すれば、引き上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 計算式 | (1か月の法定時間外労働時間数 − 60)× 換算率 |
| 換算率 | 取得しなかった場合の割増率 − 取得した場合の割増率 |
| 厚生労働省の計算例 | 1.50 − 1.30 = 0.20。 (80 − 60)× 0.20 = 4時間 |
| 法定の下限で計算すると | 1.50 − 1.25 = 0.25。 (80 − 60)× 0.25 = 5時間 |
| 取るかどうか | 労働者の意思で決める。 労使協定は制度を置けるようにするだけで、 取得を義務づけるものではない |
★ここに、制度どうしのねじれがあります
厚生労働省のポータル「こころの耳」は、過重労働対策のページでこう書いています。
時間外労働の上限は、月45時間、年360時間を原則とする
一方、代替休暇の1分目が発生するのは「月60時間を超えてから」です。式に入れると、こうなります。
| 1か月の法定時間外労働 | 発生する代替休暇(換算率0.25) |
|---|---|
| 0時間(定時のみ) | 0時間 |
| 30時間 | 0時間 |
| 45時間(原則の上限ちょうど) | 0時間 |
| 60時間 | 0時間 |
| 80時間 | 5時間 |
| 100時間 | 10時間 |
★原則の上限いっぱいまで働いても、代替休暇は1分も発生しません。使えるようになるのは、原則を15時間超えてからです。
つまり「働いた分を休みで返す」という装置は、制度が原則としては認めていない働き方をした人にだけ開く、という形になっています。順番が逆です——本来やるべきなのは45時間を超えさせないことで、60時間を超えた人に休みを配ることではありません。
※3章の「ずれているのは価格だけ」を思い出してください(原則45=労災の起点45/割増だけ60/労災の「強い」80)。代替休暇は、そのうち唯一ずれている「割増60」の側にぶら下がっています=原則の線でも健康の線でもなく、価格が変わる線にだけ紐づいているわけです。
★そして、密度には1分も効きません
ここが決定的です。同じ8時間で2倍こなしても、時間外労働は0時間です。式に入れると (0 − 60)——付与はゼロ。
★濃く働いた人ほど、この装置から遠くなります。定時で帰れるほど密度を上げた人は、法律の側から見ると「何もしていない人」と同じだからです。試算②で「Aさんは36%割を食っている」と計算した、そのAさんに対して、代替休暇は何も返しません。
ほかの装置も見てみる
「働いた分を時間で返す」に近い仕組みは、ほかにもあります。並べると、共通点が見えます。
| 装置 | 何を動かすか | 密度に効くか |
|---|---|---|
| 代替休暇(37条3項) | 月60時間超の 割増の上乗せ分を休暇に替える |
効かない(時間外が出ない) |
| フレックスタイム制(32条の3) | 清算期間(2019年4月から最長3か月) の中で日々の長短を調整する |
効かない(総労働時間は変わらない) |
| 時間外労働の上限規制(36条) | 働く時間の量そのものを止める | 効かない(見ているのは時間だけ) |
★共通しているのは、どれも「時間」を動かしていることです。長さを短くする・後ろにずらす・上限で止める——いずれも時間の操作で、中身の量を評価して何かを返す装置は、ひとつもありません。
だから、「法律にもう入っている」では終われません
発想としては入っています。しかし入っているのは時間の装置だけで、しかも代替休暇は、原則の上限を超えた後にしか開きません。この2つを足すと、「もらうか、帰るか」を制度に任せて解決することは、いまはできないという結論になります。
できるのは、この章の前半に書いた「数える」ほうです。量の記録は誰も作ってくれないので自分で作る——制度が追いつくまでのあいだ、事実を持っておくことにしか意味がない、というのがこのページの立場です。
※労働時間や割増賃金についての相談先としては、労働基準監督署の「労働時間相談・支援コーナー」や働き方改革推進支援センターが案内されています(厚生労働省リーフレット)。このページは一般的な情報の整理であり、個別の事案についての助言ではありません。
16. 推し活の側から見ると、何が変わるか
※ここからはこのサイトの読みです。効果を実測したものではなく、「こういう筋道が考えられる」という整理です。
このサイトが労働の話を扱うのは、働く時間と手取りが推し活の元手そのものだからです。ここまでの話——量に値段がついていない——が、推し活の側にどう跳ね返るかを並べます。
① お金 ― 払われた対価は、まるごと「余り」になって効く
推し活の支出は、家賃や食費のあとに残ったところから出ます。だから手取りが少し増えると、残る額はそれよりずっと大きく増えます。
| 手取り25万円・生活費20万円のとき | 手取り | 残る額 |
|---|---|---|
| いま | 250,000円 | 50,000円 |
| 手取りが5%増えたら | 262,500円 | 62,500円(+25%) |
| 手取りが10%増えたら | 275,000円 | 75,000円(+50%) |
| 手取りが20%増えたら | 300,000円 | 100,000円(+100%) |
★残る額は、手取りの5倍の勢いで動きます(この例では 25万÷5万=5倍。生活費に対して手取りが薄い人ほど、この倍率は大きくなります)。試算②の「密度で揃えるなら1.57倍」がもし少しでも実現すれば、推し活に回せる額はそれ以上の勢いで動く——というのが、このサイトが労働の話をする第一の理由です。
★ただし、これは「分配が変わる」話であって「生産が増える」話ではありません。人件費が上がれば、その一部はグッズやチケットの値段に乗ります(→ 原料高とグッズの値段 )。増えた手取りの全部が推し活の増加になるわけではないという点は、正直に書いておきます。
※そもそも「推し活にいくら使ったか」を測った公的統計はありません。家計調査の10大費目に近いのは「教養娯楽」(2025年平均・二人以上の世帯で月32,125円)ですが、この中のどこからが推し活かは分けられません。参考までに同じ調査の消費支出は月314,001円、食料費の割合(エンゲル係数)は28.6%です。測っていないものは議論の材料にならない——このページの主題が、そのまま推し活の側にも当てはまります。
② 時間 ― 効くのは総量よりも「どの時間帯が空くか」
残業で消えるのは、1日のどこかの2時間ではありません。消えるのは必ず「夜の側」です。そして夜は、配信がいちばん動く時間帯でもあります。
| 終業時刻 | 就寝(23時)までに残る時間 |
|---|---|
| 18時(定時) | 4.5時間 |
| 20時(残業2時間) | 2.5時間(44%減) |
| 22時(残業4時間) | 0.5時間(89%減) |
※帰宅30分と仮定した単純計算です。
★残業2時間で労働時間は1.25倍ですが、夜の自由時間は半分近く消えます。割合が一致しないのは、自由時間が「残り」だからです。①のお金の話とまったく同じ構造で、残りは、元より大きく動きます。
そして勤務間インターバルは、ここに直接効きます。11時間のインターバルなら、22時に終業すると翌日は9時より前に始業できません——つまり「始業9時の職場では、そもそも22時まで働けない」という形で、終業時刻そのものに歯止めがかかります。時間外の上限は「月の合計」を縛りますが、インターバルは「今日の夜」を守ります。
③ 同時に集まれること自体に、値打ちがある
配信は、同じ時間に人が集まるほど場が動きます。コメントの流れる速さ、拾ってもらえる確率、盛り上がりがアーカイブに残ること——これらは視聴時間の合計では測れません。
★1人が10時間見るのと、10人が同じ1時間に集まるのは、同じ10時間でも別のものです。残業は、多くの人の空き時間を同じ方向へ後ろにずらすので、総量が減るだけでなく、重なりも薄くします。労働時間の規制が「みんなに同時に効く」ことには、こういう副次的な意味もあります。
④ 先に消えるのは「見る」ではなく「参加する」
疲れているとき、人はまず能動的なほうをやめます。流し見はできても、コメントを打つ・切り抜きを作る・絵を描く・遠征の計画を立てるには、余力が要ります。
| 疲労が増えたときに | どうなるか |
|---|---|
| 受け身の視聴 | わりと残る |
| コメント・参加 | 先に消える |
| 創作・遠征・企画 | いちばん先に消える |
★だから密度が上がっても、再生数にはあまり出ません。出るのはコミュニティの手触りのほう——人はいるのに静か、という形です。これは eスポーツ大会とVTuber で扱った「帳簿に載らない負担」と同じ形で、数字に出ないから対策も打たれません。
⑤ 予定が立つこと自体が、需要になる
ライブもイベントも、日程が先に決まります。残業が読めない人は、行けるかどうか分からないのでチケットを取れません。そして「行けるか分からない人」の需要は、席が埋まらなかったという形でしか表に出ません。
連続勤務の上限やインターバルは、労働時間の合計を減らすだけでなく「予定の確実性」を上げます。報告書の13日ルールは休息のための提案ですが、副産物として「先の予定を入れられる」という効果を持ちます——これは金額でも時間でもない、第三の効き方です。
⑥ 何年続けられるか
推し活は長い付き合いです。月にいくら使えるかより、何年続けられるかのほうが、合計では大きく効きます。燃え尽きて離れるのは、推される側だけの話ではありません。働き方が続く形なら、応援も続く形になります。
⑦ ★作っている側は、そもそも労働時間の規制の外にいる
ここは見落とされやすいところです。VTuber・イラストレーター・動画編集・翻訳など、この業界の作り手の多くは個人事業主で、労働基準法の労働時間規制はそもそも適用されません(雇用ではなく業務委託のため)。
2024年11月1日にフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行され、発注する側に義務が課されました。
| フリーランス法が義務づけたこと | 労働時間の規制か |
|---|---|
| 取引条件を書面・電磁的方法で明示 | 違う |
| 報酬支払期日の設定と期日内の支払 | 違う |
| 7つの禁止行為(1か月以上の委託時) | 違う |
| 募集情報の的確表示 | 違う |
| 妊娠・出産・育児・介護と業務の両立への配慮 | 違う |
| ハラスメント対策の体制整備 | 違う |
| 中途解除等の事前予告・理由開示 | 違う |
★7つのどれも、働く時間の長さや休息を定めるものではありません。取引の適正化は進みましたが、量の規制は入っていません。
つまりこのページの主題である「量に値段がついていない」は、フリーランスではさらに徹底しています——時間にすら上限が無いからです。推す側の働き方と、推される側・作る側の働き方は、同じ問題の違う面に立っています。★「どこまで規制が届いているか」を並べた表を、付録(19章)に置きました——フリーランスと同じ列に、農業・畜産・養蚕・水産と管理監督者が並びます。★そこでは、労災保険には「特別加入」という入口があること(令和6年11月から業種・職種を問わない)も併せて書いています。片方だけが良くなっても、この業界の全体は楽になりません。
⑧ 雇う側にとっても、割高をやめる話になる
試算④のとおり、長時間労働は成果1単位あたりで見ると割高でした。これは事務所・制作・運営の側にもそのまま当てはまります——詰め込まれた制作からは、詰め込まれた品質しか出てきません。そして品質は、最後にファンのところへ返ってきます。
※以上の①〜⑧は、いずれも効果を測ったものではありません。「こう考えると筋が通る」という整理であって、金額や時間の予測ではありません。
17. 経済の流れとして見ると、何が変わるか
※この章は16章と違い、公的統計の実数がある部分が多くあります。実数のところと、当サイトの読みのところを分けて書きます。
このサイトが扱っているのは「お金がどこからどこへ流れるか」です。ここまでの話——量に値段がついていない——は、その流れのどこに効くのかを並べます。
① 「測っていないものは帳簿に乗らない」は、国も同じ問題を抱えている
内閣府は「無償労働の貨幣評価」という推計を出しています。家事・介護・看護・ボランティアのように、市場を介さずに行われる労働の話です。
例えば無償の家事活動は市場を介さずに行われるため、SNA中枢体系の生産の境界(「統計上の生産の境界」)内の活動とは定義されず、その中枢体系を構成する勘定には記録されない
★ここで大事なのは、国が「測れない」とは言っていないことです。実際に測って、金額を出しています——中枢体系とは別の勘定(サテライト勘定)としてです。
| 2021年の無償労働の貨幣評価額 | 対名目GDP比 |
|---|---|
| OC法 | 26.6% |
| RC-S法 | 22.1% |
| RC-G法 | 19.2% |
※3つは評価方法の違いです。いずれも内閣府の報告書に印字された値で、当サイトが計算したものではありません。
そして、無償労働が「生産」として扱われうる基準は、こう書かれています。
第三者による代替(ある経済主体から他の経済主体へ無料ないしは有料で提供すること)が可能であり
★12章の「社内のPC・ITトラブル対応」は、この基準をそのまま満たします。外部の業者に頼めるからです。頼めば市場取引になり、GDPにも会社の帳簿にも乗ります。同じ作業を社内の人が手弁当でやると、どこにも乗りません。
★つまり「誰がやるか」だけで、同じ作業が経済に現れたり消えたりします。国は家庭の無償労働について、これを別勘定で測ることにしました。職場の中の持ち出しについては、それに当たるものがありません。
② 生産性の分母に「量」が入っていない
ここは定義の話なので、はっきり確認できます。労働生産性の式は、2つの資料で次のように定義されています。
| 出している主体 | 労働生産性の定義 |
|---|---|
| 日本生産性本部 | 労働生産性 = output(付加価値額 または 生産量など) ÷ 労働投入量〔労働者数 または 労働者数×労働時間〕 |
| 財務省 法人企業統計 | 労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数 |
★どちらも分母は「人の数」か「人の数×時間」です。こなした量は、入っていません。
※日本生産性本部の原文は分数の形で組まれています=上の表はそれを「÷」に書き直したものです(分子・分母の中身は原文のまま)。財務省の側は原文が「付加価値/従業員数」と一行で印字されています。
そのため、次の2つが統計の上では区別できません。
| 職場で起きたこと | 測られる労働生産性 | 実際に楽になったか |
|---|---|---|
| 人も時間も増やさず、量だけ増やした | 上がる | 楽になっていない |
| 同じ量を、少ない時間で終わらせた | 上がる | 楽になった |
★分母に量が入っていないので、「効率が良くなった」と「詰め込んだ」が同じ数字になります。
日本の数字はこうです。2024年の時間当たり労働生産性は60.1ドル(5,720円・購買力平価換算)でOECD加盟38カ国中28位、実質労働生産性上昇率は−0.6%(同33位)。
★留保。だからといって「日本の生産性統計は間違っている」とは言えません。密度が実際どれだけ上がったかを測った統計がそもそも存在しない(→19章)ので、どれだけ混ざっているのか分からない、というのが正確な言い方です。★そして「分からない」こと自体が、このページの問題意識です。政策も賃上げの議論も、この統計を見て動きます。
③ 生み出した価値のうち、人に回る割合
法人企業統計の第7表は、企業が生み出した付加価値の内訳を構成比で載せています(金融業・保険業を除く)。
| 付加価値の内訳(構成比) | 2020年度 | 2024年度 |
|---|---|---|
| 人件費 | 71.5% | 64.2% |
| 支払利息等 | 2.2% | 2.7% |
| 動産・不動産賃借料 | 9.6% | 8.7% |
| 租税公課 | 3.7% | 3.4% |
| 営業純益 | 13.0% | 21.0% |
※付加価値に占める人件費の割合は、一般に労働分配率と呼ばれるものです(原資料は「構成比」として印字しています)。5項目はどちらの年度も合計100.0%になります=当サイトが割り算をした値ではありません。
同じ期間に、1人あたりの付加価値(法人企業統計でいう労働生産性)はこう動いています。
| 年度 | 労働生産性(付加価値÷従業員数) |
|---|---|
| 2020(令和2) | 688万円 |
| 2021(令和3) | 722万円 |
| 2022(令和4) | 738万円 |
| 2023(令和5) | 773万円 |
| 2024(令和6) | 817万円 |
★生み出す額は増えています。そのうち人件費に回る割合は下がっています(71.5%→64.2%=7.3ポイントの低下)。営業純益の割合は逆に上がっています(13.0%→21.0%=8.0ポイントの上昇)。
★★これは「量に値段がついていないから」の証拠ではありません。原材料費・エネルギー・為替・産業構成など、ほかの要因がいくらでもあります。この表から言えるのは、向きが一致しているということだけです。因果を主張するには、密度を測った統計が要ります——それが無い、というのがこのページの出発点でした。
④ 分配が変わると、流れの行き先が変わる
同じ1万円でも、賃金として出るか、企業の側に残るかで、次にどこへ向かうかが違います。
| 付加価値がどこへ出るか | その先で何になるか |
|---|---|
| 人件費 | 家計の収入になる。 そこから税・社会保険料を引いた残りが可処分所得。 その65.0%が消費に出る(勤労者世帯・2025年平均・前年比2.8ポイント上昇) |
| 設備投資 | 設備・ソフトを供給する側の売上になる。 令和6年度は55兆5,159億円(前年度比+7.9%・比較できる24年分で最多) |
| それ以外(内部に留まる分) | 時期も用途も個社の判断による。 外からは行き先を追えない |
★「企業に残ったお金は流れない」という単純な話ではありません。設備投資は実際に過去最高です。言えるのは、出口によって「次の売上になるまでの経路の長さ」と「外から追えるかどうか」が違う、ということです。
★③と④をつなぐと、こうなります。生み出した額は増え、1人あたりの付加価値も増えているのに、そのうち家計へ出る割合は下がっている——家計に入った分は、税と社会保険料を引いた可処分所得の65.0%がその年の消費に出るので、割合が下がった分だけ「すぐ次の売上に戻る流れ」は細くなります。★65.0%は可処分所得に対する割合であって、人件費に対する割合ではありません(人件費から見れば、消費に戻るのはこれより小さくなります)。★ただし、細くなった分がどこへ行ったかまでは、この表からは分かりません。
⑤ 省力化投資の採算は、量を数えていないと計算できない
設備投資は過去最高でした。★だから問題は投資額ではなく、判断の材料のほうです。
「この作業を自動化したら、何がどれだけ減るのか」——これを計算するには、いま何をどれだけやっているかの数字が要ります。
| 量を数えていない職場 | 量を数えている職場 |
|---|---|
| 「なんとなく楽になった」までしか言えない | 「月480件が120件に減った」と言える |
| 効果を示せないので、次の投資が通りにくい | 効果を示せるので、次が通る |
| 人が我慢して吸収した分は見えない | 吸収した分も数字に出る |
★15章の「自分の仕事量を数える」は、賃金の交渉のためだけの作業ではありません。省力化がどれだけ効いたかを測る物差しでもあります——測っていないものは、改善したかどうかも分かりません。
※これは「投資すれば解決する」という話ではありません。投資の効果を確かめる材料が、いまは職場にも統計にも無いという話です。
⑥ 人手が足りないとき、量は「見えない調整弁」になる
日本生産性本部は2024年の状況をこう書いています。
人手不足を背景に就業者の増加が続いた
需要が増えたとき、企業が選べる手は3つあります。
| 選べる手 | コストは外から見えるか |
|---|---|
| ①人を増やす | 見える(人件費・採用費として計上される) |
| ②働く時間を延ばす | 見える(割増賃金・36協定・上限規制がかかる) |
| ③1人あたりの量を増やす | 見えない(数える仕組みが無い) |
★③だけ、値段がついていません。5章で「詰め込むほうが安くなる」と書いたことの、経済全体版がこれです。
★そして③を選ぶと、②で見たとおり、統計の上では生産性が上がったように見えます。安く済ませた結果が、良い数字として記録される——この向きがある限り、③は選ばれ続けます。
⑦ 需要の側から見ると、お金だけでは買えないものがある
ライブ・イベント・遠征・外食は、日時が決まっています。お金があっても、その時間に体が空いていないと買えません。
| 買うのに必要なもの | お金 | 決まった時間 |
|---|---|---|
| 通販でモノを買う | 要る | 要らない(深夜でも買える) |
| 配信を同時に見る | 少しでよい | 要る |
| ライブ・遠征 | 要る | 要る(かなり前から) |
★労働時間の規制は、モノよりも「コト」の側に効きやすい、ということになります。16章の②③⑤で書いた「夜が消える」「重なりが薄くなる」「予定が立たない」は、需要の側から見るとこの形です。そしてここは、VTuberの活動がまさに乗っている場所でもあります。
⑧ ★測ることは家計簿です ― つけても収入は増えませんが、つけないと何も分かりません
正直に書いておきます。仕事の量を数えても、それだけで何かが増えるわけではありません。家計簿をつけただけでは収入が増えないのと同じです。それでも家計簿が要るのは、つけなければ「何にいくら使ったのか」「先月より良くなったのか」が分からないからです。
| 量を測ると | どうなるか |
|---|---|
| 配り方を決める材料ができる | できる |
| 省力化投資の採算を出せる | 出せる |
| 統計の読み違いが減る | 減る |
| 仕事の量そのものが減る | 減らない |
| 会社が生み出す売上や成果が増える | 増えない |
もうひとつ、分けておきたいことがあります。「配り方が変わること」と「量そのものが増えること」は、別の話です。同じ売上を、賃金と利益にどう振り分けるかを変えても、売上そのものは1円も変わりません。そして人件費が上がれば、その一部は品物やサービスの値段に乗ります(→ 原料高とグッズの値段 )=賃金を受け取る側と、その値段を払う側は、同じ人です。
★このページは「測れば景気が良くなる」とは言いません。言えるのは、いまは測っていないので、配り方も・投資判断も・統計の読みも、材料が足りないままになっている、ということだけです。そして材料をつくる作業だけは、制度の改正を待たずに今日から始められます(→15章)。
| 測っていないせいで、どこが詰まっているか | 詰まっている場所 |
|---|---|
| 働いた量に対して払われているか分からない | 賃金の決め方 |
| どの作業が重いか分からない | 仕事の配り方 |
| 自動化の効果を確かめられない | 投資の判断 |
| 詰め込みと効率化が同じ数字になる | 統計と、それを見て決まる政策 |
| 人を助けた時間がどこにも乗らない | 評価と、GDPの外側 |
18. このサイトの読み(考察)
※ここからはこのサイトの見方です。実施例や効果を確認したものではありません。
① 「決まった」と「決まっていない」を混ぜない
いま出回っている「2026年に労基法が大改正」という説明の多くは、報告書の中身を改正内容として書いています。報告書は提案であって法律ではありません。就業規則の改定やシステム投資を、③検討・意向の段階の情報で動かすと、確定後にやり直しになります。
② 「測りやすさのための妥協」が、そのまま穴になっている
法律が時間で測るのは、時間なら客観的に測れるからであって、負担が時間に比例するからではありません。拘束されているかどうかは外から見えますが、頭の中で処理した量は外から見えない——この割り切りは、制度を作るうえでは合理的です。
★問題は、その妥協が「量には値段がつかない」という価格の向きを生んでいることです。妥協した部分をあとから埋める仕組み(量を数える・開示する・条件にする)が用意されていないので、穴が穴のまま残り続けます。報告書が「労働時間の情報開示」を検討課題に挙げたのは、この方向に半歩だけ踏み出したものと読めますが、開示の対象はやはり時間で、量ではありません。
そしてこれは、「働かせすぎる職場」を言い表す言葉が何十年ものあいだ入れ替わりながら使われ続けていることの、ひとつの説明になっていると思います。個々の職場の資質の問題としてだけ見ていると、なぜ世代が変わっても同じ言葉が要り続けるのかが説明できません。量に値段がつかないという価格の向きが制度の側にある限り、「詰める」は経済的に割に合う選択として残り続けます。このページが個別の会社ではなく制度の作りを見ているのは、そこが変わらないと同じことが繰り返される、という理由によります。
③ 価格ではなく量で止める、という設計
試算③のとおり、割増率を上げても支給額は思ったほど動きません。連続勤務13日の上限・勤務間インターバル・時間外の上限のような量の規制のほうが、効き方としては直接的です。そして量の規制は、余裕のない職場ほど痛みを伴います——だからこそ議論が進みにくい、という面もあります。
④ 「数える」は、いまの制度の中でも今日からできる
法律を変えるには時間がかかりますが、自分の量を数えるのに許可は要りません。数えた結果が使えるのは、賃金の交渉だけではありません。「これ以上は入らない」と自分で判断する材料になり、「気のせいかもしれない」という迷いを消せます。
★このサイトが繰り返し書いている「書くだけでは効かない・条件にして初めて効く」の順番でいえば、量を数えるのは「書く」の一歩手前——そもそも書く材料が無い状態を抜け出すための作業です。
19. 付録 ― 業種・職種別に、1日の作業量を試算してみる
※この付録の数字にも根拠はありません。12章と同じ仮定(AIの課金の考え方を人間の仕事に当てはめる思考実験)を、業種・職種に広げただけのものです。
★はじめに、この表が何ではないかを3つ書きます。
| この付録は | そうではありません |
|---|---|
| 職業の重さに順位をつけるもの | どの仕事が偉い・つらいを比べるためのものではありません。 係数を置いたのは当サイトで、実測ではありません |
| その職種の実態を表すもの | ここに置いたのは「ある1日の置き方」の1例です。 同じ職種でも、職場によってまったく変わります |
| 重い側を正しく測れているもの | ★このモデルは事務仕事から作ったので、拾えていないものがあります。 最後の節で、拾えていないものを並べます |
足した業務 ― 12章の表に無かったもの
12章の14業務では、工場・農地・売り場・現場の仕事を書けません。そこで10個を足しました——式も軸も12章とまったく同じです(100 ×(1+4×出力の比率)× 上乗せ)。
| 業務 | 出力の比率 | 上乗せ | 1時間あたり | 重さの理由 |
|---|---|---|---|---|
| 機械・設備の監視 | 10% | 1.3 | 180 | 拘束され続ける。 異常を見逃せない緊張がある |
| 車両の運転(配送・外回り) | 20% | 1.5 | 270 | 拘束+安全の責任 |
| ライン作業(速度が決まっている) | 20% | 1.6 | 290 | 反復。 速度を自分で選べない |
| 品出し・陳列・仕分け | 20% | 1.8 | 320 | 身体的負荷+反復 |
| 見守り・付き添い | 40% | 1.8 | 470 | 常時の注意。 相手の動きが予測できない |
| レジ・会計の対応 | 60% | 1.4 | 480 | 対人+正確さ+速さを同時に |
| 屋外での作業(天候に左右される) | 30% | 2.2 | 480 | 作業環境(暑熱・寒冷・雨) |
| 現場での組立・施工 | 40% | 2.0 | 520 | 身体+環境。 やり直しがきかない |
| 調理・盛り付け(時間内に) | 60% | 1.6 | 540 | 時間圧+熱源+同時並行 |
| 身体介助 | 50% | 2.0 | 600 | 身体的負荷+対人+事故の責任 |
| 動画・音声の編集 | 90% | 1.3 | 600 | 出力がほぼすべて。 細かいやり直しが続く |
| 競技の練習・反復 | 70% | 1.6 | 610 | 反復+身体。 到達点が自分で決まらない |
| 配信する(話し続ける・反応を拾う) | 80% | 1.5 | 630 | 出力しっぱなし+対人。 次に何が来るか読めない |
| SNS運用・ファン対応 | 70% | 1.7 | 650 | 中断が多い+相手が不特定多数。 反応が予測できない |
| アバター・配信機材の設定と不調対応 | 60% | 1.7 | 580 | 配信のたびに必ず要る。 不調だと配信そのものが成立しない |
※★軸(何を重さとみなすか)は、12章と同じく労災の認定基準が挙げる「労働時間以外の負荷要因」から採っています(対人・身体的負荷・作業環境・移動・心理的負荷)。数値のほうは当サイトが置いた仮のものです。
★業種・職種別の試算 ― いずれも1日8時間
定格(標準的な1日)は12章と同じ1,600トークン。軽い順に並べます。
| 業種・職種 | 1日の内訳(8時間) | 合計 | 定格に対して |
|---|---|---|---|
| 事務・総務 | 読む2h+定型入力3h+会議1h+メール1h+打合せ1h | 1,580 | 0.99 |
| 営業(外回り) | 移動3h+打合せ2h+メール1h+書く1h+読む1h | 1,950 | 1.22 |
| 製造 ― ライン作業 | ライン6h+定型入力1h+会議1h | 2,030 | 1.27 |
| スーパー ― 品出し・発注が中心 | 品出し5h+定型入力2h+運搬1h | 2,380 | 1.49 |
| 配送ドライバー | 運転5h+運搬2h+定型入力1h | 2,400 | 1.50 |
| 警備・受付 | 見守り4h+移動2h+電話・窓口1h+定型入力1h | 2,780 | 1.74 |
| 経理(決算期) | 検算4h+定型入力2h+読む1h+メール1h | 3,030 | 1.89 |
| 企画・制作 | 書く4h+打合せ2h+メール1h+読む1h | 3,210 | 2.01 |
| 製造 ― 設備保全・トラブル対応 | 監視3h+事故対応2h+検算1h+書く1h+移動1h | 3,370 | 2.11 |
| 保育 | 見守り5h+書く1h+打合せ1h+品出し1h | 3,530 | 2.21 |
| 農業(露地・繁忙期) | 屋外作業6h+運搬1h+運転1h | 3,590 | 2.24 |
| スーパー ― レジが中心 | レジ5h+品出し2h+クレーム1h | 3,800 | 2.38 |
| 飲食店(ホール・厨房) | 調理2h+レジ2h+品出し2h+電話・窓口2h | 3,820 | 2.39 |
| 介護 | 介助4h+見守り2h+定型入力1h+打合せ1h | 3,870 | 2.42 |
| 建設・現場作業 | 組立・施工6h+運搬1h+打合せ1h | 3,920 | 2.45 |
| コールセンター | 電話・窓口5h+クレーム1h+定型入力2h | 3,950 | 2.47 |
| ストリーマー(生身・立ち絵/配信が中心) | 配信5h+練習1h+SNS1h+読む1h | 4,510 | 2.82 |
| 情報システム担当 | IT対応3h+書く2h+検算1h+メール1h+読む1h | 4,530 | 2.83 |
| eスポーツ選手(練習と配信) | 練習5h+配信2h+打合せ1h | 4,670 | 2.92 |
| VTuber(配信が中心) | 配信5h+アバター1h+SNS1h+書く1h | 4,880 | 3.05 |
| VTuber(企画・編集まで一人でやる) | 配信3h+編集3h+アバター1h+SNS1h | 4,920 | 3.08 |
★いちばん軽い「事務・総務」と、いちばん重い「VTuber(企画・編集まで一人でやる)」で、3.11倍の開きがあります。どれも同じ8時間で、同じ時給なら賃金も同じです。
★内訳を業種ごとに見る
上の表の「合計」が、どの業務の積み上げでできているかです。見出しの「+」を押すと開きます——1時間あたりの単価は、ひとつ前の表と12章の表から取っています。
| + | 事務・総務 ― 定格の0.99倍 / 内訳を開く |
| + | 営業(外回り) ― 定格の1.22倍 / 内訳を開く |
| + | 製造 ― ライン作業 ― 定格の1.27倍 / 内訳を開く |
| + | スーパー ― 品出し・発注が中心 ― 定格の1.49倍 / 内訳を開く |
| + | 配送ドライバー ― 定格の1.50倍 / 内訳を開く |
| + | 警備・受付 ― 定格の1.74倍 / 内訳を開く |
| + | 経理(決算期) ― 定格の1.89倍 / 内訳を開く |
| + | 企画・制作 ― 定格の2.01倍 / 内訳を開く |
| + | 製造 ― 設備保全・トラブル対応 ― 定格の2.11倍 / 内訳を開く |
| + | 保育 ― 定格の2.21倍 / 内訳を開く |
| + | 農業(露地・繁忙期) ― 定格の2.24倍 / 内訳を開く |
| + | スーパー ― レジが中心 ― 定格の2.38倍 / 内訳を開く |
| + | 飲食店(ホール・厨房) ― 定格の2.39倍 / 内訳を開く |
| + | 介護 ― 定格の2.42倍 / 内訳を開く |
| + | 建設・現場作業 ― 定格の2.45倍 / 内訳を開く |
| + | コールセンター ― 定格の2.47倍 / 内訳を開く |
| + | ストリーマー(生身・立ち絵/配信が中心) ― 定格の2.82倍 / 内訳を開く |
| + | 情報システム担当 ― 定格の2.83倍 / 内訳を開く |
| + | eスポーツ選手(練習と配信) ― 定格の2.92倍 / 内訳を開く |
| + | VTuber(配信が中心) ― 定格の3.05倍 / 内訳を開く |
| + | VTuber(企画・編集まで一人でやる) ― 定格の3.08倍 / 内訳を開く |
★開いてみると、合計を押し上げているのはたいてい1つか2つの業務です。そして重い側の業務は、どれも「相手がいる」「体を使う」「次が読めない」のどれかを含みます。★15章で数える単位を1つ選ぶときは、この「いちばん重い行」に当たるものを選ぶと、増減が見えやすくなります。
★平準化すると、1日は何時間分になるか
試算⑦の考え方を、この表の21件にそのまま当てはめます。定格の速さでやったら1日は何時間か、そして月に直すといくつの「見えない時間外」になるかです。
平準化した1日 = 8時間 × 定格に対する量/月の見えない時間外 = 160時間 ×(定格に対する量 − 1)
| 業種・職種 | 定格に対して | 平準化した1日 | 月の 「見えない時間外」 |
現行法の線でいうと |
|---|---|---|---|---|
| 事務・総務 | 0.99 | 7.9時間 | ― | ― |
| 営業(外回り) | 1.22 | 9.8時間 | 35時間 | ― |
| 製造 ― ライン作業 | 1.27 | 10.2時間 | 43時間 | ― |
| スーパー ― 品出し・発注が中心 | 1.49 | 11.9時間 | 78時間 | ★36協定の原則(月45時間)を超える |
| 配送ドライバー | 1.50 | 12.0時間 | 80時間 | ★労災「関連性が強い」の80時間に届く |
| 警備・受付 | 1.74 | 13.9時間 | 118時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 経理(決算期) | 1.89 | 15.2時間 | 143時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 企画・制作 | 2.01 | 16.1時間 | 161時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 製造 ― 設備保全・トラブル対応 | 2.11 | 16.9時間 | 177時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 保育 | 2.21 | 17.7時間 | 193時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 農業(露地・繁忙期) | 2.24 | 18.0時間 | 199時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| スーパー ― レジが中心 | 2.38 | 19.0時間 | 220時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 飲食店(ホール・厨房) | 2.39 | 19.1時間 | 222時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 介護 | 2.42 | 19.4時間 | 227時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 建設・現場作業 | 2.45 | 19.6時間 | 232時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| コールセンター | 2.47 | 19.8時間 | 235時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| ストリーマー(生身・立ち絵/配信が中心) | 2.82 | 22.6時間 | 291時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| 情報システム担当 | 2.83 | 22.7時間 | 293時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| eスポーツ選手(練習と配信) | 2.92 | 23.4時間 | 307時間 | ★単月100時間の上限を超える |
| VTuber(配信が中心) | 3.05 | 24.4時間 | 328時間 | ★★平準化した1日が24時間を超える |
| VTuber(企画・編集まで一人でやる) | 3.08 | 24.6時間 | 332時間 | ★★平準化した1日が24時間を超える |
★21件のうち18件が、平準化すると月45時間(36協定の原則の上限)を超えます。17件が80時間、16件が100時間を超えます。そのどれも、実際には残業をしていない前提の数字です。
★★そして2件は、平準化した1日が24時間を超えました。ここでこのモデルは破綻しています——10章の試算④で置いたとおり、疲れれば密度は落ちるので、そもそもその速さを8時間続けることはできません。
※破綻していること自体は、意味を持ちます。重い側では「賃金をいくら上げるか」より先に、量が8時間に収まっていないほうが問題になる=試算⑦の④(人を増やす・量を戻す)の側です。★上乗せの係数を置いたのは当サイトなので、重い側ほど大きく出ている可能性もあります。
★この表がいちばん言いたいこと ― 決めているのは業界ではありません
業界どうしを比べるより、同じ業界の中を比べたほうが、この表の意味は分かります。
| 同じ業界の中で | 合計 | 定格に対して | 差 |
|---|---|---|---|
| スーパー ― 品出し・発注が中心 | 2,380 | 1.49 | ― |
| スーパー ― レジが中心 | 3,800 | 2.38 | 1.60倍 |
| 製造 ― ライン作業 | 2,030 | 1.27 | ― |
| 製造 ― 設備保全・トラブル対応 | 3,370 | 2.11 | 1.66倍 |
★同じ売り場・同じ工場の中でも、1.6倍の開きが出ます。これは業界どうしの開き(2.87倍)と比べても、決して小さくありません。★つまり、重さを決めているのは「どの業界か」ではなく「その日、何をどれだけやったか」です。だから15章の「自分の量を数える」は、業種に関係なく成り立ちます。
※重い側に並んだ仕事に共通するのは、「相手がいる」「体を使う」「次に何が来るか読めない」が重なっていることです。ただしこれも、当サイトが上乗せの係数をそう置いたから、そう出ているだけです。
★このモデルが拾えていないもの
業種に広げてみて、はっきりしたことがあります。★この式は事務仕事から作ったので、重い側を過小評価している可能性が高い。
| 拾えていないもの | なぜ落ちるか |
|---|---|
| 積み重なる消耗 | 1日で切ると出ません。 週・月・季節で効いてくるものを見ていない |
| 繁忙期の偏り | 農業の収穫期、小売の年末、製造の期末など。 平均的な1日を置いた時点で、山が消えている |
| 拘束時間の長さと、休憩の取りにくさ | 8時間で固定しているので、そもそも入っていません |
| 自分で速度を決められないこと | 天候・生き物・客足・ラインの速度。 上乗せの係数では、この「選べなさ」を表しきれない |
| ★夜勤・交替制 | 12章の軸には「勤務時間の不規則性」があるのに、 この試算は日勤8時間で固定しているので1つも拾えていない |
★足りないところを隠さずに書いておくのは、この表を「順位表」として読まれないためです。拾えていないものは、どれも重い側の仕事に多く出てきます。
★配信・競技の側 ― 上位に並ぶのは、いずれも「時間の上限が無い」働き方
この付録で上位5つに入ったうち4つが、配信・競技の側でした(VTuber2種・eスポーツ選手・ストリーマー)。そして16章⑦で見たとおり、この分野の作り手の多くは個人事業主(業務委託)です。★つまり、いちばん重く出た側が、労働基準法の労働時間規制の外にいます。
※契約の形は個々に違います。「この職種は全員が個人事業主だ」と言えるものではありません=雇用されている人もいます。ここで言えるのは、雇用でない場合には次の話がそのまま当てはまる、ということです。
★VTuber と ストリーマーは、分けて置きました
同じ「配信」でも、画面に出るものが違えば、配信の前後に必要な作業も変わります。★ひとまとめにすると、その差が消えます。この付録で別の行にしたのは、そのためです。
| VTuber | ストリーマー | |
|---|---|---|
| 画面に出るもの | Live2D・3Dのモデル | 生身、または立ち絵 |
| 配信のたびに要る準備 | ★モデルとトラッキング機材の設定 | 撮影環境の準備(顔出しなら 身だしなみ・照明) |
| 機材が不調なとき | ★モデルが動かない= 配信そのものが成立しない |
画質や音質は落ちるが、 配信は続けられることが多い |
| 維持にかかるもの | ★モデル・衣装の改修は外部への発注= 費用と、監修に使う時間 |
主に機材の更新 |
| 何を一貫させるか | 設定・世界観・キャラクターの口調 | 素のリアクションそのもの |
| 事務所ごとの方針 | ブランディングの方針で、守るべき設定や 出せる情報の範囲が変わる |
同じく方針はあるが、 維持する設定は相対的に少ない |
★試算では、VTuber の側にだけ行が1本増えます=「アバター・配信機材の設定と不調対応」(1時間あたり580)です。配信のたびに必ず要り、不調だと配信自体が成立しないので、軽い準備とは分けて置きました。
★ただし、合計はほとんど変わりません。VTuber(配信が中心)4,880 に対して、ストリーマー 4,510。★言いたいのは「どちらが重いか」ではありません——同じ「配信1時間」の中身が違うのに、時間では区別がつかない、ということです。このページの主題が、そのまま当てはまる場所になっています。
※どちらの枠にも、事務所に所属している人と、個人で活動している人がいます。そして事務所ごとに方針が違うので、「VTuberならこう」と一括りにできるものではありません。ここで並べたのは、画面に出るものが違うと作業の中身がどう変わるか、という構造だけです。
★8時間に揃えたこと自体が、この4つでは仮定になります
上の表は、他の業種と比べるために全部を8時間に揃えました。しかし雇用でなければ、そもそも1日8時間・週40時間という区切りがありません。区切りが無いので、伸びた分がどこにも記録されません。
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を月に直すと約173時間です。1日の長さと週の日数を変えると、こうなります。
| 1日の長さ × 週の日数 | 1か月の総時間 | 法定(月173時間)を 超える分 |
労災の認定基準では |
|---|---|---|---|
| 8時間 × 週5日 | 174時間 | 0時間 | ― |
| 10時間 × 週5日 | 217時間 | 43時間 | 「おおむね45時間を超えて…徐々に強まる」の側に入る |
| 10時間 × 週6日 | 261時間 | 87時間 | 「2〜6か月で1か月あたりおおむね80時間超」に相当する水準 |
| 12時間 × 週6日 | 313時間 | 139時間 | 「1か月におおむね100時間超」を上回る水準 |
| 14時間 × 週6日 | 365時間 | 191時間 | 「1か月におおむね100時間超」を上回る水準 |
★これは「労働者ならこう評価される」という換算です。個人事業主には、この基準がそもそも適用されません。——つまり、基準の数字を超えていても、その数字を当てはめる制度の側にいない、ということになります。
※月の週数は365÷7÷12=約4.35週として計算しています。認定基準の文言は6章・11章で引用したものと同じ(おおむね45時間/おおむね80時間/おおむね100時間)。★そして、ここでもまだ「時間」しか見ていません=密度を掛ければさらに増えます(→11章)。
★制度は「時間」で書かれていて、その時間の規制が届いていない
農業の行に、配信・競技の側を並べると、こうなります。
| 働き方 | 労働時間の上限 | 割増賃金 | 量の評価 | 労災保険 |
|---|---|---|---|---|
| 一般の雇用 | ある(36協定・上限規制) | ある(37条) | 無い | 対象 |
| 農業・畜産・養蚕・水産 | ★無い(41条で適用除外) | 深夜のぶんはある | 無い | 対象 |
| 管理監督者 | ★無い(41条で適用除外) | 深夜のぶんはある | 無い | 対象 |
| 個人事業主(業務委託) VTuber・ストリーマー・ eスポーツ選手を含む |
★無い(労働基準法の対象外) | 無い | 無い | ★特別加入すれば対象 |
★最後の列だけは、自分で入りに行けば届きます。労災保険には特別加入という仕組みがあり、対象が広がってきました。
| いつから | 誰が入れるようになったか |
|---|---|
| 令和3年4月1日 | 芸能関係作業従事者=「放送番組(広告放送を含む。)、映画、寄席、劇場等における 音楽、演芸その他の芸能の提供の作業又はその演出若しくは企画の作業」を行う人 |
| 令和6年11月1日 | ★企業等から業務委託を受けているフリーランス。 業種・職種を問わず入れるようになった |
令和6年11月から、フリーランス(特定受託事業者)も、労災保険に特別加入できるようになります。労災保険に特別加入することにより、仕事中や通勤中のケガや病気、死亡に対して、補償を受けられます
★保険料は、給付基礎日額(3,500円〜25,000円の16段階から選ぶ)の365日分の0.3%です。厚生労働省のリーフレットに載っている例では、日額10,000円を選んだ場合の年間保険料は10,950円と計算されています。
※「消費者のみからの委託は対象外」と書かれています。自分が対象になるかどうかは契約の形によります=個別の判断は都道府県労働局または労働基準監督署へ。このページでは個別の該当可否は扱いません。
★整理すると、こうなります。働く時間の長さを止める仕組みは無く、量に値段もつかない。しかし、体を壊したあとの補償だけは、自分で手続きをすれば用意されている——★止める側は空いていて、起きたあとの側だけがある、という形です。
★量を測る相手が、いるかどうか
法律が量を測らないなら、測るのは当事者しかいません。実際にそうしていると読める記述が、公開された一次資料にあります。ある事務所の株主総会で、タレントの健康管理について出た質問への回答です。
稼働負荷が過剰とならないよう配信頻度や時間をモニタリングし、会社負担による健康診断の受診サポートなど心身の健康維持を最重要課題と位置づける
マネージャーによる日常的なコミュニケーションを通じた状態の把握、活動量の調整や休養期間の確保、そしてマネージャーを介さない相談窓口の設置などに取り組んでおります
★注目したいのは「配信頻度や時間をモニタリング」「活動量の調整」という言葉です。労働基準法の適用が無い相手に対して、法律が測っていない「量」を、契約の外側で自主的に見ている、と読めます。15章で書いた「自分の量を数える」の、会社側からの版です。
※これは1社が公開した回答の引用であって、業界全体がそうだという話ではありません。このサイトは特定の企業を評価も批判もしません=ここで示したいのは「制度が空けた穴を、誰かが自主的に埋めている形がある」という構造です。
★そして、ここから抜け落ちる人がいます。個人で活動している場合、配信頻度や時間をモニタリングしてくれる相手が、そもそもいません。事務所に所属していれば見てもらえる可能性がありますが、一人でやっているなら、見る人は自分しかいない。★15章の「数える」が、この場合は代わりの制度ではなく、唯一の手段になります。
※配信は開始・終了の時刻が自動で残る仕事です=15章で「量の記録は誰も作ってくれない」と書きましたが、配信時間についてはプラットフォーム側に痕跡が残ります。★足りないのは「配信の外」の時間(編集・企画・SNS・練習)のほうで、そこは自分で数えるしかありません。
★そして農業は、法律の側でも外側にいます
ここは仮定ではなく、条文の話です。農業・畜産・養蚕・水産の事業に従事する労働者には、労働時間・休憩・休日の規定が適用されません(労働基準法41条)。
農業、畜産、養蚕又は水産の事業に従事する労働者については、天候などの自然条件に左右される業務であるため、労働時間の規制を適用することは適当でないことから、労働時間等の規制は適用除外とされています
ただし、これらの労働者についても、深夜労働に対する割増賃金、年次有給休暇に関する規定は適用除外になりません
★理由として書かれているのが「天候などの自然条件に左右される業務であるため」です。これは、ひとつ前の節で「このモデルが拾えていない」と書いたもの、そのものです——自分で速度を決められない仕事だから規制になじまない、という整理になっています。
★このページの主題は「量に値段がついていない」ことでした。しかし農業では、その手前の「時間の上限」からして無い、ということになります。
※この4つを並べた表は、ひとつ前の節「制度は『時間』で書かれていて、その時間の規制が届いていない」に置きました。
※管理監督者にあたるかどうかは「名称にとらわれず、実態により判断する」とされています(厚生労働省 労働条件ハンドブック)。役職名がついていることは、それ自体では適用除外の理由になりません。個別の判断についてはこのページでは扱いません。
フリーランスの行は17章⑦で見たとおりです。★こうして並べると、この記事が追いかけてきた「量に値段がつかない」という穴は、いちばん内側の層でした——その外側に「時間の上限も無い」層があります——この記事がここまで積み上げてきた「割増賃金」も「上限規制」も、そこには最初から届いていません。
20. このページで確定できなかったこと
| 項目 | なぜ確定できないか |
|---|---|
| 改正がいつ施行されるか | 法案がまだ国会に出ていない。 「2027年以降」とする解説はあるが、一次情報で確認できる日程は無い |
| 勤務間インターバルの 義務化の形と時間数 |
報告書は複数案を併記し「様々な手段を考慮した検討が必要」と 書くにとどまっている |
| 日本の職場の「密度」が 実際どれだけ上がったか |
個人単位で仕事量を継続測定した公的統計を見つけられなかった。 そもそも記録する義務が無いため、データが存在しない |
| 出力と入力の負担比(係数5) | 人間で測った値ではない。 AIの価格体系に着想を得た当サイトの仮定 |
| 時間外の生産性の低下率 | 実測値を見つけられなかった。 80%/70%/60%は仮に置いた3通り |
| 長時間労働と人員増の どちらが安いか |
採用費・教育費・繁閑差を計算に入れていないため比較できない |
| 「本来貰うべき賃金」の 正しい額 |
存在しない。 試算②が出したのは金額ではなく「時間だけで測ると取りこぼす」という向きだけ |
| 職種を産業に当てはめたこと | 1対1ではない。 「事務・総務」「営業」「経理」「企画・制作」は どの産業にもいるので調査産業計を当てた。 当てはめを変えれば、年収も差額も変わる |
| 月収・年収に直した額 | 賞与の扱いが2つの表で違う。 13章の年は月額×12(賞与を含まない)、 14章の年収は現金給与総額×12(賞与を含む)。 どちらも額面で、手取りではない |
| 業界ごとの密度 | 実測値が無い。 14章の下限は欠員率(=募集して埋まっていない人数)で代用したもので、 求人を出していない不足は入っていない。 上限は付録(19章)の仮定をそのまま当てたもの |
| 賃金が低い業界ほど 人が足りない、その理由 |
分からない。 向きが一致していることまでは数字で確かめたが、 どちらが原因かは、この統計からは言えない |
| 賃上げのうち いくらが消費に回るか |
限界消費性向は家計調査に載っていない。 分かるのは平均消費性向65.0%(2025年)= 「いまの水準」であって「増えたぶんの使い方」ではない |
| 賃金が上がると 食品ロスが減るか |
言えない。 食品ロスが大きく減ったのは実質賃金がマイナスの年で、 家庭系は12年間ずっと減り続けている(312→233万トン) |
| 密度を理由に賃金を 請求できるか |
できない。 根拠となる条文が無い(→ 8章の留保) |
| 推し活にいくら使われているか | 公的統計に「推し活」の費目が無い。 家計調査の「教養娯楽」(月32,125円)に 含まれうるが切り分けられない |
| 16章の①〜⑧の効き方 | どれも実測していない。 「こう考えると筋が通る」という整理で、 金額や時間の予測ではない |
| 代替休暇が 実際どれだけ使われているか |
取得実績の統計を見つけられなかった。 労使協定が要る・取得は本人の意思のため、 制度があっても使われているとは限らない |
| 実際の職場の密度が いくつなのか |
測った統計が存在しない。 11章の1.3や1.5は換算のために置いた値で、 実在を主張するものではない |
| 12章の業務別の係数 | すべて当サイトが置いた値で、根拠が無い。 軸(何を重さとみなすか)だけは認定基準の負荷要因から採ったが、 0.8〜2.2という数値は仮のもの |
| 中断から戻るのに かかる時間 |
実測値を採用しなかった。 よく引用される数字はあるが、測っている対象が 「集中の回復」とは限らないため、30分は仮に置いた値 |
| 業務ごとの負担を 測った公的な指標 |
見つけられなかった。 ストレスチェックは本人の自覚を拾うが、業務の種類別ではない |
| 「見えない残業」が 健康にどう効くか |
密度と健康被害を結んだ研究を確認できなかった。 認定基準が「労働時間以外の負荷要因」を見るのは事実だが、 そこでの「労働密度」は手待ち時間の割合であって量ではない |
| 労働時間が短くなると 推し活の支出が増えるか |
確かめた調査を見つけられなかった。 分配が変わる話であって生産が増える話ではなく、 人件費の一部は価格に転嫁されうる |
| 付加価値に占める 人件費の割合が 下がった理由 |
法人企業統計は内訳の構成比を示すだけで、理由を説明していない。 原材料費・エネルギー・為替・産業構成など ほかの要因を切り分けられない= 17章③で言えるのは「向きが一致している」ことだけ |
| 密度の上昇が 生産性統計にどれだけ 混ざっているか |
分離できない。 労働生産性の分母は「人数」か「人数×時間」で 量が入っておらず、密度を測った統計も無いため |
| 賃金と、企業に留まる分とで 循環の速さがどれだけ違うか |
比べられなかった。 平均消費性向(65.0%)は家計側の指標であって、 企業に残った資金の行き先と時期を追った統計を確認できなかった |
| 量を測ると 省力化投資が増えるか |
確かめた調査を見つけられなかった。 17章⑤は「材料が無ければ採算は出せない」という筋道の整理で、 投資が増えるという予測ではない |
| 無償労働の3つの推計方法の どれが妥当か |
当サイトは判断していない。 OC法26.6%/RC-S法22.1%/RC-G法19.2%は 内閣府の報告書に印字された値をそのまま転記したもの |
| 付録の「1日の内訳」が 実際の職場と合っているか |
合っているとは言えない。 17件はいずれも当サイトが置いた「ある1日の例」で、 実在の職場を調べたものではない |
| 付録で足した10業務の係数 | 12章と同じく根拠が無い。 軸は労災の認定基準の負荷要因から採ったが、 0.8〜2.2という数値は仮のもの |
| 業種ごとの実際の作業量 | 測った統計が存在しない。 個人単位で仕事量を継続測定する義務がそもそも無いため、 付録の数字と突き合わせる相手がいない |
| ★夜勤・交替制の負荷 | 付録の試算に1つも入っていない。 12章の軸には「勤務時間の不規則性」があるのに、 日勤8時間で固定したため落ちている |
| 積み重なる消耗・繁忙期の偏り | 同じく入っていない。 1日で切ると、週・月・季節で効くものが消える= 付録は重い側を過小評価している可能性がある |
| VTuber・ストリーマー・ eスポーツ選手の実際の稼働時間 |
測った統計を見つけられなかった。 付録の「10時間×週6日」などは、 比較のために置いた仮の長さで、実態の調査ではない |
| この4職種が どれだけ個人事業主なのか |
割合を示す統計を確認できなかった。 契約の形は個々に違い、雇用の場合もある= 「全員がそうだ」とは書けない |
| VTuber と ストリーマーの 違いの表 |
当サイトの整理で、調査したものではない。 どちらの枠にも事務所所属と個人がいて、方針も事務所ごとに違う= 「VTuberならこう」と一括りにはできない |
| アバターの維持にかかる 実際の費用と時間 |
調べられなかった。 試算では1日1時間・580として置いただけで、 モデルや衣装の改修にかかる費用は計算に入れていない |
| 「本来の賃金」の 4つの答えのうち、どれが正しいか |
決められない。 ②単価・③時間・④人を増やす、のどれを選ぶかは 法律ではなく契約と交渉の問題= このページは選び方を示していない |
| ④(人を増やす)の 実際の費用 |
計算に入れていない。 採用の費用・教育の時間・社会保険料・繁閑の差 を落としているので、②と同額にはならない |
| 一般労働者の 1時間あたりの賃金 |
公表値ではない。 厚生労働省がパートの時給を出すのと同じ方法を 当サイトが当てはめて計算した値 |
| ★過重労働と、脳・心臓疾患以外の 不調との関係 |
時間の目安を示した基準を確認できなかった。 このページが引用した認定基準は脳・心臓疾患についてのもので、 ほかの不調に同じ「45/80/100時間」の目安があるかは確かめられていない |
| 活動休止や体調不良の 個別の原因 |
このページでは扱わない。 原因は個別の事情によるもので、外から判断できない= 特定の個人・企業について述べるものではない |
| 個人事業主が労災保険の 特別加入の対象になるか |
このページでは判断できない。 リーフレットには「消費者のみからの委託は対象外」とある= 契約の形による。 判断は労働局・労働基準監督署へ |
21. 主な出典
- 労働基準関係法制研究会 報告書(厚生労働省 2025年1月)(取得 2026-08-28)
- 労働政策審議会(労働条件分科会)(厚生労働省)(取得 2026-08-28)
- 第210回 労働政策審議会労働条件分科会 資料(2026年7月14日)(取得 2026-08-28)
- 脳・心臓疾患の労災認定基準の改正に関する4つのポイント(厚生労働省)(取得 2026-08-28)
- 脳・心臓疾患の労災補償について(厚生労働省)(取得 2026-08-28)
- 血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号・令和3年9月14日/改正 基発1018第1号・令和5年10月18日)(取得 2026-08-28)
- 数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法(厚生労働省)(取得 2026-08-28)
- 時間外労働の上限規制(厚生労働省 スタートアップ労働条件)(取得 2026-08-28)
- 賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)(厚生労働省)(取得 2026-08-28)
- 労働条件ハンドブック 割増賃金・代替休暇の項(厚生労働省 長野労働局 2026年2月)(取得 2026-08-28)
- 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報 第1表 月間現金給与額(厚生労働省)(産業別・一般労働者の所定内給与。取得 2026-08-31)
- 毎月勤労統計調査 年平均結果の推移(2025(令和7)年分結果速報)(厚生労働省)(実質・名目賃金指数と消費者物価指数の年推移。取得 2026-08-31)
- 毎月勤労統計調査 2026(令和8)年6月分結果速報(厚生労働省)(実質賃金指数 前年同月比+1.6%。取得 2026-08-31)
- 令和7年上半期雇用動向調査結果の概況(厚生労働省)(欠員率の定義と産業別の値。取得 2026-08-31)
- 家計調査報告(家計収支編)2025(令和7)年平均(総務省統計局)(平均消費性向65.0%・食料の名目と実質。取得 2026-08-31)
- 食品ロス削減関係参考資料(令和7年6月27日版)(消費者庁)(食品ロス量の推移と内訳。取得 2026-08-31)
- 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます(厚生労働省リーフレット)(取得 2026-08-28)
- 時間外・休日・深夜の割増賃金(法第37条・第138条)の解説(厚生労働省 福岡労働局)(取得 2026-08-28)
- 家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要(総務省統計局)(取得 2026-08-28)
- フリーランス法 特設サイト(公正取引委員会)(取得 2026-08-28)
- 過重労働対策について(厚生労働省 こころの耳)(取得 2026-08-28)
- フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き(厚生労働省 滋賀労働局)(取得 2026-08-28)
- 無償労働の貨幣評価(内閣府経済社会総合研究所 令和5年7月)(取得 2026-08-29)
- 年次別法人企業統計調査(令和6年度)(財務省 令和7年9月1日)(取得 2026-08-29)
- 労働生産性の国際比較2025 概要(公益財団法人 日本生産性本部)(取得 2026-08-29)
- 労働条件ハンドブック「9 労働時間、休憩、休日の適用除外」(厚生労働省 長野労働局 2026年2月)(取得 2026-08-29)
- 労働時間の基本的ルールを教えて下さい(厚生労働省 確かめよう労働条件)(取得 2026-08-29)
- 令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました(厚生労働省)(取得 2026-08-29)
- フリーランスの皆さまも、特別加入により労災保険の補償を受けられます(厚生労働省リーフレット)(取得 2026-08-29)
- 令和3年4月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がりました(厚生労働省)(芸能関係作業従事者。取得 2026-08-29)
- 第10期定時株主総会 質問への回答について(カバー株式会社 2026-08-12)(健康管理に関する回答。取得 2026-08-29)
- 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報 統計表(厚生労働省 2026年2月9日公表)(賃金・労働時間の実数。取得 2026-08-30)
- 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報 報道発表資料(厚生労働省)(取得 2026-08-30)
- 毎月勤労統計調査 年平均結果の推移(2025(令和7)年分結果速報)(厚生労働省)(パートの時給の算出方法。取得 2026-08-30)
- 令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧(厚生労働省)(取得 2026-08-30)
- 令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について(厚生労働省 令和8年7月28日)(取得 2026-08-30)
- 最低賃金(全国加重平均)の引上げ額と引上げ率の推移(厚生労働省)(取得 2026-08-30)
※労働時間の定義は三菱重工長崎造船所事件(最高裁 平成12年3月9日 第一小法廷判決)、出来高払制の保障給は労働基準法第27条、農業・畜産・養蚕・水産および管理監督者への労働時間・休憩・休日の規定の適用除外は労働基準法第41条、労働時間の状況の把握は労働安全衛生法第66条の8の3および労働安全衛生規則第52条の7の3によります。
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※本ページは公開情報(行政機関の公表資料・判例)の整理と、それをもとにした一般的な考察・試算(筆者の見解)であり、特定の企業・団体・個人を評価・批判するものではありません。後半の試算は前提を明示した思考実験であり、実測値でも予測でもありません。仕事の密度を理由に賃金の増額を請求できる法的根拠はありません(8章の留保を参照)。労務相談・法律解釈・投資助言ではありません。掲載内容の正確性・完全性・最新性は保証しません。詳細は 免責・運営方針 。