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放課後の保健室

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放課後の保健室


作者:ぽぴゅら~




 どうも初めまして、こんにちは。
 ボク、この学園の初等部に通っている、セイカと申します。以後よろしくお願いいたします。
 部活動は特にしていませんが、保険委員をしています。
 今日は、放課後に保健室で先生のお手伝いをする当番です。初等部は上の方々よりも授業が終わるのが早いので、放課後に保健室でお手伝いをするという仕事があるのです。
 ちなみに、この学園の保健室は大体学園全体の、ちょうど真ん中くらいにあります。探しやすい場所です。
「失礼します、お手伝いに参りました」
 ボクがそう言って保健室に入ると、サングラスをかけて、白衣を着た金髪のコンドル先生がちょうど女の人と向き合っているところでした。その人が着ている制服は高等部のだったので、多分高等部の先輩なのでしょう。
「よう、今日の当番はセイカか」
「はい」
 ちらっとボクの方を見て、それからコンドル先生はあごで奥の方を示します。奥で準備をしてこい、ということです。
 ボクがそれに従って奥に行けば、ボクくらいの子にちょうどいい大きさの白衣がいくつかハンガーで下げられています。荷物をわきの籠に入れて、その中から一つを取って上から羽織ります。
「まあ、そういうわけだ。とりあえず、胃薬出しとくから」
「……はい……」
 当番がちゃんと来た事を示すための帳簿に名前を書き込んでいると、そんな会話が聞こえてきました。あの先輩は、そんなに身体の具合が優れないのでしょうか……。
「ありがとうございました」
「おー、帰りは気ーつけてな、諏訪」
 コンドル先生から諏訪、と呼ばれた先輩は、そうして帰っていきました。
「……今の方、大丈夫なのですか?」
 準備を整えたボクは、思わずコンドル先生に尋ねます。すると先生は、きれいな金髪の頭をかきながら、椅子を回転させてこちらに振り向いて、言いました。
「あー、入学以来、あいつはあんな感じだよ。常識人だから、仕方ないね」
 そして、どこか自嘲気味に笑いました。
 ボクは最初からここに通っているので、あまりそういうことに意識が向かないのですが、確かにこの学園は色々とおかしいところもあります。各部で制服が二種類ずつ用意されていたり、必修のはずの第一外国語が完全に無視されていたり、自分のやりたいところしか授業しない先生がいたり……。
 他の学校に通う人が見たら、多分おかしなことだらけなのかもしれませんが、それがこの学園の特色なので、こう、なんと言いますか、そこが気になって神経をすり減らしてしまう人は少なからずいるのかもしれません。
「先生ー! 先生大変だ!」
 不意に外が騒がしくなり、運動場に繋がっている扉が勢いよく開かれました。そこから、男の人たちが二人、現れます。
「どうした、何かあったのか?」
 ただならぬ雰囲気に、コンドル先生も表情を引き締めます。
「野球部のホームランボールが、ユージの頭に直撃した!」
「ところで、このこぶを見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……大きいです……って、何やらせるんだよ」
「サーセンwww」
 黒髪の男の人と金髪の男の人――あ、この人は見たことあります。よく初等部の校舎に遊びに来る、ハーゼ先輩です――が言いながら、ぐったりして頭から血を流している男の人を運び込みました。
「なんだ、『また』影山か。おいお前ら、その辺の空いてるベッドに転がしとけ、ほっときゃそのうちいつも通り治るだろ」
 その人の顔を見るや否や、コンドル先生は、「なーんだ」って顔をしてため息をつきながらそう言いました。
「よしきた!」
「がってんしょーちのすけ」
 コンドル先生の言葉を受けて、お二人は本当に、すぐ近場のベッドに気を失っている男性を転がしました。
「お前らも毎回大変だな。それじゃ、帰ってよし」
「ういーっす!」
 手をひらひらとさせてコンドル先生が言えば、お二人は返事もそこそこに、元来た扉から外に出て行きました。
「……あのー……応急処置の方は……」
 耐え切れなくなったので、ボクは思わず言いました。
「いや、大丈夫。こいつトムとジェリーのトムなみにトゥーン体質だから」
「え、その、たとえがよくわからないんですが……」
「要するに、問題なし」
 カルテにそう書き込んで、コンドル先生は机の引き出しにそれを放り込みました。
 ……いいのかなあ……。
「あのー……」
「んー?」
 からからと扉が開いて、また新しい人がやってきました。控えめな色彩のスーツをしっかりと着こなした男の人。みんなの担任、ヒロ先生でした。
 みんなの、というのは、個性派ぞろいの先生の中では群を抜いて真面目な先生なので、各クラスへの報告などを代理させられている事が多いから。多分、全学部通して全校生徒に知られている、数少ない先生の一人じゃないでしょうか。ちょっと、可哀想ですけど……。
「やー、ちょっと相談に乗っていただきたいことがありまして……」
「なんだ、なんか厄介ごとでも頼まれたのか?」
 コンドル先生の向かいの椅子に座るヒロ先生を迎えて、コンドル先生は足を組みました。
 保健室の先生の仕事は、けがや病気を診るだけではないのです。こうして時には、悩み事などの相談に乗る事も、立派な仕事の一つなのです。
「いや実は、学園長の気まぐれで出た今回のイベント強化月間についてなんですが……運動会をまず開いてはどうかということになりまして……」
「ふむふむ?」
 イベント強化月間……この間から気まぐれで始まったと言われる、謎の期間です。色んな学校行事をするとのことで、ボクは密かに楽しみにしていたのですが……まずは運動会が開かれるんでしょうか?
「徒競走の距離をどうすべきかと議題に上げたら、そこは任せたと言われてしまいましてね……どうしたらいいと思います? 規格外な生徒が多い中じゃ、百メートル走なんてコンマ数秒で終わりかねないんですよね」
「じゃあ一キロにしたらどうだ?」
「簡単に言いますけど、普通の生徒からしたらそれは長距離でしょう?」
「わかった、じゃあ間取って八百メートル」
「や、それも随分多くないですかね……」
 ……どうやら、徒競走の距離は大変な事になりそうです。聞いてはいけないことを聞いてしまった気がします。……うーん、徒競走に選ばれるのを避けるためには、どうすればいいのでしょう……。
 それからしばらくお二人は話し合っていましたが、結局、運動会はもう少し待とうという結論に達したようでした。棚に上げたようです。
 それがいいんじゃないかとボクも思ったので、遠足なんてどうですか、と提案してみました。そうしたら、上にかけあってみるよ、と言ってヒロ先生は微笑みました。認められるといいなあ。
 気づけば、陽も暮れかかる時間。ボクの仕事もそろそろ終わりです。コンドル先生からも、上がっていいと言われたので白衣を脱いで帰りの支度をしていると、ドアがノックされる音が。
「おう、誰だ?」
「は、失礼いたします」
 コンドル先生の声に応じて入ってきたのは、日曜日の朝にやっている特撮番組のヒーローみたいなマスクをかぶった男の人でした。……ええと、低い声ですから、男の人でいいんですよ、ね……? 制服も男子生徒の制服ですし。毎回、ちょっと悩みます。
 この人も見たことあるんです。よく、学園のあちこちで話題になっている人です。お名前は存じ上げませんが、よくジャスティスと叫んでいるので、正義先輩とみんなは呼んでいます。
「どうした正義、今日はテンション低いな」
「はあ……ちょっと悩みがありまして……」
 確かに、普段の正義先輩はもっと元気な方です。こう、ありあまる元気を放出するために悪と戦っている、とかなんとか。でも、正義を名乗るだけあって、服装に乱れはなく完璧です。……顔のマスク以外は。
「悩みィ? お前にもあったのか? とりあえず聞いてやるから、まあ座れ」
「失礼いたします」
 正義先輩は礼儀正しい方です。こういうときでも挨拶をかかしません。
「ああ、セイカ、親御さんが心配するだろうし、お前はもう上がっていいぞ」
「ええと……はい、そうさせていただきます」
 本当は正義先輩の人知れない悩みを少し聞きたかったですけれど、確かに家族も心配します。ボクは、家路につくことにしました。
「失礼しました」
「おー、ご苦労さん」
 扉が閉まって、ボクは保健室から切り離されました。でも、正義先輩のよく通る声は廊下まで聞こえてきます。
「実は……ここ数日いまいちジャスティスに過ごせなくて……」
「帰れ」
 正義先輩が言うのと同時に、コンドル先生のどこか怒ったような声が廊下にまで響きました。
 ……ええと。
 色々な事が毎日ありますが、ボクはこの学園での生活が大好きです。ホントですよ?



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