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正義の騒動 3

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「とりあえず……情報を集めようとしてたわよね私たち!?」
 諏訪は周囲の状況を見て思わず声を荒げる。
「なぁぁぁんで私たちは縁日にきてるのよぉぉぉっ!?」
 神社の境内に並ぶ出店。目の前を歩く人たちは皆浴衣を身に着け、カップルや家族連れで出店を見て回っている。
「いや、それはその格好で行っても説得力無いぞ、諏訪」
 真田がジト眼で諏訪を見ながら言う。
「え、だって縁日なんだから浴衣ぐらいにはならないと……」
「うわわ、皆さんちょっとどこですか、私はここですぅー」
 赤くなって俯く諏訪。人混みではぐれかけてしまったかかりが必死に手を挙げている。
「やれやれ……コスプレ娘はまったく」
 苦笑を浮かべて真田が人ごみの中必死に手を挙げているかかりのもとへと向かう。
「そもそもなんで縁日に来ようって言いだしたんだい、中留御さんよ?」
 大介が中留御に問いかけると、浴衣姿の中留御が胸を張る。
ジャスティスマンは騒がしいところが好きでしょう奴は正義の名のもとに動いてるのよ? 人が集まる今日みたいな日にはカツアゲなんかの悪行もあるわ! きっとあいつはそれを阻止するために!」
「でも、あいつ正義は死んだーとか言ってなかったっけ?」
 大介はレストランでのジャスティスマンの発言を思い出して言うと、中留御は今、気がつきましたというような表情を浮かべる。
「う、うるさい! 誰しも自分の心の声を無視することなんてできないわ! 自分の心に忠実な奴ならきっと!」
「素直に失念してたと認めようか?」
 笑いながら大介は答えると、周囲を見渡す。
「あれ、兄弟に諏訪ちゃん達とはぐれちまった」
「ちょっと、何やってんのよ!? このバッチ星人! あんたよく周り見てた!? あーもう! この人の多さだったら見つけられないわよ、ホント使えないわね!?」
「えぇ、なんでこんな理不尽に俺怒られてんの!? 周り見ていなかったのは中留御ちゃんも一緒だろ?」
「私悪くない! 第一こういう場所では男のほうが周囲に気を配るべきじゃないの!?」
 屁理屈もいいところだと大介は苦笑を浮かべ、ポケットから携帯を取り出すが、見計らったかのように圏外。
「おれの携帯は圏外。中留御ちゃんのはどーよ?」
 中留御はきんちゃくの中から携帯を取り出すが、首を横に振った。
「駄目、圏外。というか、この神社周辺ってここ圏外になること多いのよ。周辺とはいっても、この神社の中と、神社に来る所そばの交差点の一つだけど」
「なんだその局地的な圏外ゾーンは。携帯会社は何やってんだよ……」
「ま、ここで突っ立っていてもしょうがないわ。店を回るわよ!」
 中留御が縁日に行こうと言い出したのはジャスティスマン捜索などではなく、単に自分が楽しみたかっただけということは言わずともはっきりしていた。

「畜生、コスプレ娘のせいで皆とはぐれちまった」
 かかりを回収に向かった真田はかかりと合流、大介たちのいた方向を見るが、それらしい姿は見えない。
「まだコスプレ娘っていうんですかっ!?」
「だってそれしか言いようがねぇじゃん」
 はぐれたとわかった後も真田の対応は落ち着いており、そんな真田の姿を見てかかりも安心することができた。
「私の事は置いておいて、どうやって皆さんと合流します?」
 これ以上コスプレの事について話しても、かかりにはマイナスになる要素しかなく、慌てて話題を変える。
 真田は携帯を取り出すと顎に手を当てどうしたものかと悩み始める。
「携帯があるなら連絡入れればいいじゃないですか」
「そうしたいとこだが、この神社とこの近くの交差点は誰もが知る携帯電話繫がらないゾーンなんだよ。携帯で確認してみ?」
 真田にそう言われてかかりは携帯を取り出すと、携帯の電波表示は圏外。
「なんでこんな局地的に携帯が繋がらないんですか? 今のご時世山の中でも電波はいるとこありますよ? この神社街からそう離れてないですし、電波が入らないなんてことないんですけど……」
「ま、この神社と交差点にはいわれがあってな、その二か所で起こった時期は違うが、神隠しがあったんだ。その影響じゃないかと情報通達の中では囁かれてる。神社の神隠しはずいぶん昔のことだが、交差点は最近ってわけじゃないが、まぁ、そんなに時間はたっていない」
「えぇっ!? そんな話聞いたことないですよ!」
「知る人ぞ知る情報だからな」
 そう言って真田は口を閉ざす。
 携帯電話会社の説明では、何らかの磁場の乱れがその二か所にはあり、それが原因で電波が乱れてしまうそうだ。
 普通の人ならそれで納得するかもしれないが、真田はそんな理由なんかじゃないと理解している。
 電波が繋がらないとされる交差点の一か所は真田にとっては忘れる事のできない場所だからだ。
「非日常への扉が開いた場所だからな……」
「へ? なにか言いました?」
 真田の呟きがかすかに聞こえたかかりは首を傾げると、真田は笑いながら何でもないとごまかした。
「さて、これからの事だが、ここで問題です、かかり隊員どうしますか?」
「これからですか? そりゃぁもちろん皆さんを探さないと……」
 急にクイズを出されたかかりは戸惑いながらも答えると、真田は顔の前で両手をクロスさせ、大きな×を作る。
「ブッブー! はずれ! 答えは縁日を思いっきり楽しもう! です!」
 そう言うと真田はかかりの手をひいて出店へと向かう。
「ちょ、ちょっと、真田さん! 皆さんを探さなくていいんですか!?」
「携帯が繋がらない、何人いるか解らないぐらいの人ごみの中で人を探すのは無謀。あいつらだってそれぐらい解ってるさ。探すなら人が少なくなってからの方がいい。どうせ今から探したって皆が見つかるのは祭りが終わり間際だろうよ。それじゃまったく遊べないだろ? それに、出店を回っているとばったりなんてこともあるかもしれないからな」
 真田のいうことに一理ある、というか遊ぶモードに頭を切り換えた真田にこれ以上何を言っても無駄なんだろうなと思ったかかりは素直にその言葉に従うことにした。
「……軽ーく出店回ったが見かけなかったな。残念」
 真田は神社の境内に腰かけて焼きそばを口に運んだ。
「よくそんなに食べれますよね……それにそれだったらスーパーとかコンビニで買った方が断然安いのに……」
 一パック500円もするたこ焼きや、焼きそばを買う真田はかかりから見たら無駄遣いをしているとしか見えない。
「そう言っちまえばそうだけど、この雰囲気の中で食うものはそれだけでいいんだぜ。そりゃコンビニやスーパーでおんなじもん買えば200円とか300円ぐらいで来るだろうが、この雰囲気は来ないだろ? 差分の額はこの雰囲気を買ったと思えば損じゃないさ。っと、捨ててくるか。ちょっと待っててくれよ」
 真田は食べ終えた焼きそばのパックと割りばしをもって再び出店の方にダッシュ。
 かかりの答えも聞かずに飛び出した真田。かかりは必然的にその場に取り残される形となった。
「遅いですねー」
 境内に座って足をぶらぶらしながらかかりは携帯を見る。真田がゴミを捨てに行ってから20分は経とうとしている。
 境内とごみ箱があるまでどんなにゆっくり歩いても往復5分もかからないはずだとかかりは考える。そんなかかりの頭に一つの可能性が思い浮かばれる。
 ゴミを捨てに行った真田。その道中ではぐれていたメンバーと会ったのではないか。それで自分の存在は忘れられ、今頃皆で楽しく出店を回っているのではと。
 考え出すと止まらない。
 かかりはそもそも真田達と古くからの知り合いというわけではなく、昨日初めて会っただけなのだ。大介もその点は同じなのだが、昨日の時点でかかりと大介への周囲への対応の差がありありとあり、大介はすでにメンバーに溶け込んである。
 その点自分はどうだ。周囲からはコスプレ娘と言われ、諏訪や中留御なんかの自分を見る目のいたいたさときたらどうだ。
 置いていかれてもしょうがない。かかりはそう思ってため息をついた。
 だが、最初にはぐれかけた時、真田がわざわざ自分の事を迎えに来てくれたのはちょっとうれしかった。痛いとか思われつつも、自分の存在を受け入れてもらったような気がして。しかし、それはぬか喜びであったことを知ると余計に虚しさがつのる。
「私っていつもなんでこうなんだろ……」
 生来から持って生まれた不器用さがいつもここぞという時にいかんなく発揮されその度に自分の評価を自ら落としてきたのだ。
 先日のレストランの時も、妖魔を何とかしなければならないという気持ちばかりが先走り、順序を追った説明がうまくできず、結果痛い子になってしまったのだ。
 考えれば考えるほど気は落ちるばかりで、考えをやめようとしてもやめることができない状態にかかりは陥ってしまっていた。
「っと、わりぃ! 時間かかっちまった! 縁日の定番いったらやっぱこれだろ?」
 急に耳に入ってきた真田の言葉で、今までかかりの頭の中を占めていた後悔の念などがすべて吹き飛ぶ。
 かかりが顔をあげると両手にかき氷を持った真田が突っ立っていた。
「え? 皆さんと合流したんじゃ……」
 思わずかかりがそう口にすると、真田は目を丸くした。
「お、みんな居たのか? どこ行った? もしかして俺を探しに行っちまったか?」
 かかりはそう口にしてから顔を真っ赤に染め上げる。
「え、あ、いや、すいませんまだ、皆さんとは会ってないです」
 真田はそうかと呟くとかかりの隣に座った。
「ま、気にすることないさ。あと少しすればさらに人も少なくなって探しやすくなるだろ。つか、はよ受け取れ。溶けちまうだろ?」
 かかりは真田の差し出すかき氷を見て目を丸くした。
「え? これもらっていいんですか?」
 差し出されたかき氷を見て真田は頷く。
「おう、その為に買ってきたんだからな。ひとつ350円の無駄に高いかき氷だ。かき氷ならコンビニのアイス売場で150円もありゃ買えるけどさ、このいかにも身体に悪そうな着色料抜群のブルーハワイはこういった縁日でしか目にできねーぜ」
 確かにイチゴ味の氷菓ならコンビニでも買えるが、こんな外国の海みたいな青い色をしたかき氷はコンビニでは買えない。スーパーなどにはシロップは売っているのだが、それを買って、かき氷機で氷を砕いてブルーハワイのかき氷を作ろうなどとはなかなか考えれない。
 真田に促され、かかりはかき氷を受け取り、挿してあるスプーンでかき氷を口に含んだ。
「おいしい……」
 氷に市販のシロップをかけただけの誰にでも作れるものだったが、かかりは思わずそう呟いてしまった。
「な? こんなの誰にでも作れるんだけど、こういう縁日で食うのはちょっと気分が違うだろ?」
 予想していた通りの反応に満足しながら真田は笑う。
「ま、何事も他ではどうだ? なんて考えることも必要だけどさ、時には流れに身を任せるのも大事だぜ?」
 真田もかかりとおんなじようにかき氷を食べていたのだが、キーンとしたのかスプーンを口に運ぶ事を中断した。
「……そう言えばさ、俺は信じてるぞ」
「え……?」
 急にそんな事を口にする真田に驚いてかかりも思わずかき氷を食べる手を止める。
「ほかのやつらはさ、お前のことただのコスプレ娘で頭まで可哀そうなことになっているって思ってるかもしれねーけどさ、俺は信じるよ」
 真田はそう言うと、かき氷のスプーンをかかりに向けながら笑う。
「俺もさ、人に話したら頭疑われちまうような体験やってんだ。それを言うとかかりみたいに頭疑われるからいわねーけどさ。そんな中でいろんな人間の嘘とか見てきたからさ、何となくこれは本当のことだ、これは嘘っぽいっていう判別もある程度できるようになったと思う。そんな俺がさ、かかりの話聞いて、これは嘘じゃねーって思うんだ。だから、ほかの奴が信じなくても俺は信じるよ。誰も話を聞いてくれなくて、本当に困ったら俺を頼ってくれ。何か困ったことがあったなら、俺を頼ってくれ。すぐに力になるさ」
 真田は恥ずかしそうな表情を浮かべると一気にかき氷を口にかっこんだ。もちろん、数秒後にはきっちりと頭を襲う頭痛に身を悶える。
 かかりは真田の言葉を聞いて思わず泣きそうになった。
 自分の言うことを信じてくれているんだと。今まで散々コスプレ娘とからかわれてきたけど、その中でちゃんと信じてくれていた事が何よりも嬉しかった。
「もう、そんなに急いで食べたら頭痛くなるに決まってるじゃないですか」
 かかりがそう言って笑うと、真田はこれも醍醐味の一つなんだと胸を張った。
「真田さんもその人には言えない話、誰かに言いたくなった時は私に言ってください。信じますから絶対」
 気がついた時にはかかりの口からはそんな言葉が飛び出していた。自分でも何でこんな事を口にしたかわからず、かかりは慌てて口を押さえる。
「ふっふっふ、俺のこの話を聞いたら絶対本にして出したくなるぞ?」
 真田はそう言うと優しく笑いかけた。
「じゃ、私は魔法退魔士兼、人気作家ですね」
「印税は俺が9で、かかりが1な?」
「普通逆じゃないですか!?」
 どこまでも図々しい真田に思わず笑みを浮かべるかかり。
「さ、そろそろ人も少なくなったころだろうし、ほかの奴らを探すか」
 真田は膝を一度叩くとその場に立ち上がった。

「もの見事にはぐれちゃったわね……てっきり皆付いてきているものだと思っていたけど……」
「どうします?」
 きょろきょろと周囲を見渡す諏訪に春日が問いかける。
「この状態で四人を探すのは厳しいだろ?」
 やれやれと言った様子で夕日が携帯を取り出す。
「やっぱ電波はダメよね? なんていったって此処は電波繋がらないゾーンだからね」
 諏訪も携帯を取り出して確認するも、携帯には電波が入ってきていない。
「闇雲に探しても効率悪いですし、ちょっとお店とか回りながら皆さんを探しません?」
「それ賛成ね、ま、ゆっくりと探すとしますか」 
 諏訪と春日が嬉々として出店の方に向かっていく姿を見て夕日はため息をひとつ。そのまま二人を追った。
「うわ、このリンゴ飴超うまそう!」
「ほんと、これ見ると縁日ってきがしますね」
 諏訪と春日が財布を取り出して、テキヤのおじさんにお金を渡してリンゴ飴を受け取る。
「こんな甘ったるいのよく食べれるな……」
 感心した様子でリンゴ飴を舐める二人を見つめる夕日。そんな夕日の視線に気がついた諏訪は舐めかけのリンゴ飴を差し出す。
「どう? 少し貰う?」
「いや、間接……遠慮するよ」
 即座に否定する夕日に諏訪は予想外と言った表情を浮かべる。
「ふふ、諏訪さんこんなはずじゃなかったって顔してますよ?」
「あーいや、思いのほか華麗に拒否されたなーって」
「これが普通の対応だ。真田みたいな反応をする奴の方が珍しいぞ」
 きっと真田なれば何も考えず、よし、これは俺への愛の告白とみてもいいな、その意気やよし、俺が頂いてくれよう! などと言いながら差し出されたリンゴ飴に飛びつこうとするだろう。
「あはは、それもそうよね」
 恥ずかしそうにしてリンゴ飴を口に運ぶ諏訪。
「でも残念でしたね、真田さんと回れなくて」
「え、春日ちゃんそれって……」
 驚いたように目を丸くして諏訪が春日の顔を見る。
「諏訪さんが……ですよ?」
「いやいやいや、それはないわーつかむしろ、あんな騒がしい奴が居なくて心底安心しているところよ、今!」
 オーバーともいえる様子で否定する諏訪。
「え、でも諏訪さん」
 春日はいつもはあまり見せないような悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。
「何ともないなら、こんな騒動には首は突っ込みませんよねぇ?」
 日頃落ち着いた雰囲気を持つ春日もやはり女の子なのだ。人の恋話とかがやはり好きでたまらないのだ。自分の身が危険になるというのに、まだこうやってジャスティスマンの騒動に手を貸す理由は一つしかないと春日は思っていた。
「いやいや、なんかすごい勘違いしてるって春日ちゃん! 私はそんなんじゃないわよ!? 真田なんて関係ないんだから!」
 誰も真田のさの字も言っていないというのに、必死でその事について否定し始める諏訪。そんな諏訪の様子を見て春日は理解する。
 真田がいつも諏訪を弄ってからかっているのは、こんな諏訪の様子が面白くて堪らないからだ。本当に素直に春日がこんな反応してくれたら面白いと思う行動を諏訪は期待を裏切ることなく行ってくれる。
「誰も真田さんの事なんて言ってませんよー?」
 ニヤニヤと笑みを浮かべながら諏訪を問い詰める春日。諏訪はしまったと顔を赤くする。
「お、おのれ孔明、謀ったわね!?」
「真田さんそっくりの受け答えですねぇ」
「真田菌は恐ろしいな、近くにいる人間の性格にまで影響を与えるんだから」
 春日の諏訪弄りにまさか参加せず溜息をついて見守るだけと思っていた夕日まで参加してくる。予想外の相手方の援軍に諏訪は絶望的な表情を浮かべる。
「ゆ、夕日君まで!? 君は私を助けてくれると信じていたのに!?」
「それは期待を裏切ってしまって申し訳ないな。なら、俺はせめてもの償いとして全力をもって諏訪さんを弄りぬこうか」
「そんな償いいらないわ!? ノーサンキュー!?」
 そう突っ込みを入れると諏訪はため息をひとつ。
「確かに私がこの件に首を突っ込むのは真田が居るからだわ」
 先ほどとは打って変わった諏訪の対応に、春日と夕日は弄るのを中断させる。雰囲気から諏訪が真面目な話をするのだと感じ取った。
「この際真田に対する好きとかそういった感情は置いておくにしても、私は真田が居るからこんな危ない事にも首を突っ込むのよ」
 諏訪は自嘲するように短く笑うと再び口を開く。
「私にとって真田は憧れっていうか、目指すべき目標なのよ。真田は私たちと変わらない高校生だけど。きっと、私たちにはない経験をしているわ。どんなに危ない状況にだってあいつは首を突っ込んでいく。その時のあいつはなんだか私には輝いて見えるのよね」
「確かに、私たちと変わりませんけど、やはり何かが大きく違いますもんね。どこで知り合ったかわかりませんが、ルネイヴ軍の方とかなり仲がいいですし、真田さん」
「うん、それについては真田自身も多くを語ろうとしないし、私が無理に聞いていいことじゃないと思うの。どこでルネイヴ軍の人と知り合ったかなんてまぁ、私にとってはどうでもいい事だし。いくら仲の良い友人であっても、その友好関係をすべて知っている必要はないんだし」
「話の腰を折って悪いが、憧れって……」
 もしかして諏訪はあんなバカみたいな性格になりたいのかと言いたげな夕日の視線に気が付いて慌てて手を振る。
「いや、そんな目で見ないでよ。憧れてるって言うのはあいつの性格ではなく、どんな困難にも向かっていくあいつの姿よ。性別が違うとはいえ、女の私が見ても、困難に立ち向かうあいつの姿はカッコいいと思うわ。そんなあいつの姿見てたらさ、なんか私もこんな人間になりたいって思うのよ」
 人は自分に出来ないことが出来る人間に憧れる。諏訪もそうなのだ。私には無理と思うような事件にですら真正面から係わっていく真田に憧れを抱いている。
 そこで誰もはあいつは特別、自分には到底出来そうにないことだと諦めるのだが、諏訪は諦めることが出来ずに、何とか一歩でも近付こうとしている。
「あいつは本当に見ているこっちが羨ましいと思うほど、楽しそうに見えるわ。私もそんな風になりたいけど、私はあいつみたいにはなれない。けれど、一歩でも近付くことができたなら、今感じているよりももっと全てが良く思えるんじゃないかって思うのよ」
 そう、これが諏訪がレストランなどに来ている理由なのだ。
 諏訪の目から見て輝いて見える真田に一歩でも近付こうと、真田が見て感じている世界を少しでも感じようとし、自分に出来る一歩を必死に踏み出そうとしている。
「……そう言うわけか。ひとつ言わせてもらうとさ、俺から見たら諏訪さんも輝いてると思うけど」
「うん、たとえ無理だとしても、その無理へと一歩でも近付こうとする姿はカッコいいと思うよ」
 正直、夕日や春日の目からすれば、十分に諏訪もすごい人なのだ。自分には戦う力や変わった超能力がないと解りつつも、なんとかその力に追いつこうと一歩を踏み出し、力を持った人間たちの輪に入っている。夕日や春日たちには到底出来ないと思えることを諏訪はやっているのだ。
「……そっか。今までは何で私があの場所に居たのか説明しようとしても上手く出来なかったけど。今ならできる気がする」
「そうだな」
「はい、私にも」
 三人は頷き合う。
 なんで何の変哲もない人間が常識では考えられない力を持った人間たちが集まる場所にいるのか。そして、その者たちが起こす事件に関わろうとしているのかが。
 そう、少しでも変わりたいのだ。無力な自分から。
 一定の選ばれた人間にはどんなに努力しようともなれないが、同じ視線で物事を見ることは出来る。心は努力次第で強くなる。そう、諏訪や夕日達、力を持たない者たちは自分の心をより強くしたいがために、このような事件に関わるのだ。
 それを理解した三人の顔からは、何にも出来ない自分たちがこれ以上この事件に関わって良いのだろうかという迷いは断ち切れ、吹っ切れたような堂々とした表情を浮かべていた。
「あ、あれって真田さんじゃないですか?」
 ふと、春日が人ごみの一角を指さすと、其処には両手にかき氷を持った真田らしき人物が映り、すぐに人ごみの中に消えていった。
「あれ、真田だっけ? なんか似ている感じしたけど……」
「探そうにもすでに見失ってしまってるけどな」
 諏訪は手を叩くと、じゃ、再び屋台巡り……じゃなかった。はぐれた人たちと合流しよう! と出店に向かって歩き出した。

「何所にも居ないわねぇ」
「いや、探す気ないだろ!?」
 片手には綿菓子、もう一方の手には金魚の入ったビニールをぶら下げている中留御が周囲を見渡しながら言うと、大介はすかさず突っ込んだ。
「それ、あんたにも言えることなのよ?」
 片手にいか焼き、頭にはくじで当てたアソパンマソのお面を付けている。どこからどう見ても二人は人探しなどやっている様子はなく、純粋に縁日を楽しんでいるようだった。
「ふー、回るべき店は全部回ったし、なんか歩き疲れちゃったなぁ」
「これから人を探さなければならないというのに……」
「いや、私以上に疲れてる様子のあんたが言っても説得力無いわよ、このバッチ星人」
 近くにあったベンチに腰かけてもう一歩も動けませんといった様子の大介を見て中留御が言う。
「バッチ星人ってな……もう何度もいわれりゃ言い返す気にもなれないな」
「ったく、面白くないの」
 中留御はベンチに腰かけると大介の顔をじっと見つめた。
「なんだよ、顔に何か付いてる? ソースか?」
 口の周りを手の甲で拭う大介を見て、そうじゃないと中留御は言った。
「んーあんたってさ、どこからどーみても、頭の悪い高校生って顔してるけど、なんであんな事出来るのよ?」
 頭の悪いは余計だろと大介はつぶやくと、食べ終わったいか焼きの串をその場に捨てた。
「俺の一族は昔から退魔士の助手をやってきた家系なんだよ。俺一人が出来るわけじゃない。俺の親父もじーさんも。それに子々孫々、三条家の血をひく者は退魔士助手をやってくんだろうな」
「退魔士助手? あんた退魔士とか言ってたじゃない。ちょっと詐欺じゃない? 探偵と探偵助手は違うわよ?」
 中留御がジト眼で大介を見ると大介は靴のつま先で地面に文字を書き始めた。
「退魔士ってのはいっぱいいるけど、俺が使ってるのは十条退魔術っていう流派なんだ」
「十条退魔術?」
「剣術とかの流派と思ってくれ。世の中に居るすべての退魔士が十条退魔術を使ってるわけじゃない。昔の剣術みたいに色々と流派がある。んで、その十条退魔術についてだが、もとは開祖である一条家の名前を取って一条退魔術となっていたが、一条家が退魔士として成功すると一条家はさらに九条分家の退魔士を作っていって、結果本家合わせて九家の退魔術を持ったから、一条退魔術という流派の名前を十条退魔術と変えたんだ」
「ちょっと待って、全部で九しかないじゃない。なんで十条なのよ?」
 説明を聞いて中留御が首を傾げる。
「一条家と三条家の退魔術の方法や技は違う。というか、九条までの家すべての退魔術は違うんだ。みんな違う退魔術だけれど、大本の退魔術は一緒。だからその大本の退魔術も合わせての十条退魔術なんだよ」
 大介は地面に退魔術と書いて、その文字の下に九つの線を引いて、一条家退魔術、二条家退魔術などを書き込んだ。
「これで十個だろ? だから十条退魔術」
「なるほどね……ってまだあんたが助手って話を聞いてないんだけど!?」
「あぁ、助手ね。なんつーか説明が難しいな。俺は三条家の筆頭退魔士だけど、一条家から九条家までの退魔士の家の役職で言うと退魔士助手っつう役割なんだよ」
「話が難しいわね……他にたとえは?」
 大介は顎に手を当てて考える。
「えーっと大名で考えると、一条家の当主が殿様。で、二条家の当主が筆頭家老、三条家当主が小姓みたいな感じかな?」
「うわ、なんかその例え聞くと急にあんたがちっぽけな存在に思えてきたわ」
「例えだからな? 助手って言うのは、退魔において、本家である一条家の当主を守る役割だな。つか、その役職も今はほんと昔のもんになってきてるからな」
「昔のもんって、あんた達が下克上でもする気なの?」
「いや、そう言うわけじゃないって。この役職が決められたのはかなり前、江戸時代ぐらいからって言われてるからな。それから何年たった?  中には後継ぎがいなくて消えちまった家とかもあるし。それに元は家の当主は男って決まっていたが、今現在男の当主が居るのは七つの家の内二家だけだ。残りは全部女当主」
「少子化も問題よね……って実質十条退魔術が使える家は今七つなの?」
「おう、もう潰れちまった家もあるからな。実質十条退魔術の流派における各家の役割はないし、退魔の方だって家それぞれが勝手にやっている状態なんだし」
 そこで中留御は矛盾に気が付く。
 十条退魔術における各家の役割は今はもうないものに等しいと言い、退魔の方も各家がそれぞれやっている。十条退魔術の組織としての役割は皆無なはずである。退魔士をやるならば助手という肩書がない方が聞こえもいいので、大介がそれを名乗る必要もないはずだ。
「ちょっと待って、それなら退魔士助手なんて名乗る必要もないんじゃない?」
 大介がそれを聞いて苦笑を浮かべる。
「それがさ、一条家の当主様がよ、何かと三条家当主……つまり俺に絡んでくるのよ、これが。で、しまいにはその役割ひっぱり出してきて、助手の役割をさせられてんのよ」
「あんたが何かやったからじゃないの?」
「小さい頃に会っただけで、そん時は普通に遊んでたけどよ。小学校高学年ぐらいから係わりがなくなって、高校生になってから突然絡んできやがったんだよ。まぁ、一条の人間が俺に絡んでくる理由もはっきりしてるし」
 やれやれと言った様子で大介は首を振る。
「理由がはっきりしてるんならそれをどうにかすればいいじゃない?」
「俺に女になれとでもいうのか?」
 苦笑を浮かべて答える大介。
「へ? どういうこと?」
 いきなりそんな事を言われても中留御には理解が出来ない。
「三条家……つまり俺んちはおやじやじーさんと何代も前から男は皆婿入りなんだよ」
「婿?」
「そ、三条家の血を引く奴は何代も前から女しか生まれなくてな。当主である娘が嫁に行っちまったら三条家はなくなっちまうだろ? だから、婿もらって子供作るけど、その子供がまた女の子でっつうことで、俺は六世代ぶりぐらいの三条家に生まれた男児なんだよ」
 大介の答えを聞いてそれでもなんで女になるのかが理解できない中留御。
「だから、なんで?」
「今までは三条家直系の子供は皆女の子で、それを退魔のときに一条の盾にするのは……っていうのが一条家の考えだったらしいが、男の俺が生まれたから、今までお休みしてた助手の役割を果たせとお達しがね」
「ちょっと、なんかそれおかしくない?」
「かもしれねーけど、それはしょうがないもんなんだよ」
「あんたがそんなんだからなめられるんじゃないの」
 中留御のセリフを聞いて大介が声を上げて笑う。一体どうしたものかと中留御は目を丸くする。
「いや、すまん、そのセリフ違うシチュエーションで一条家当主にも言われたよ。つか、性格も中留御ちゃんに似てるんだよ。傍若無人でちょっと言葉にとげがあるとことかそっくり」
「そんなに私に似てるの?」
「いや、顔は全く違うが性格がね。んーそうだ。この事件終わったら連れてくるよ。くっく……」
 笑いを堪えながら大介が言う。
「なによ、その笑みは……って、あれはぐれたユーヒたちじゃない? おーい!」
 ちょうど諏訪、春日の姿を見かけて中留御は大きく手を振る。

「あれ、あれは氷雨と大介か」
 夕日がベンチに座って大きく手を振る中留御を見つけ、その元に歩いてゆく。
 これで諏訪、春日、夕日、中留御、大介が合流したことになる。残るは真田とかかりだけ。
「あとはあいつらだけよね……一番にはぐれて、最後まではぐれたまんまってどうなのよ?」
「つか、兄弟の相手があのコスプレ娘ってのが笑えるな」
「何か影響されて戻ってきたりして」
「やめてよ、ただでさえ馬鹿なのにこれ以上頭おかしくなられちゃこっちが困るわ」
 春日や大介の話を聞いて諏訪が身震いをする。かかりの影響で真田がもし魔法青年にでもなったら……だめだ、考えるだけでもおぞましいとその考えを頭を振ってかき消した。
 そんな五人の目に楽しげに話しながら歩いている真田とかかりの姿が目に入る。
「お、バッチ兄弟発見! おぉーーい!」
 遭難者が救助の船を発見した時のように両手を振って真田達を迎える。
 大介に気がついた真田はかかりと頷き合って五人の元に走ってくる。
「わっりー! 俺らが一番最後だな!」
「もう、皆さんどこ行ってたんですか、置いて行くなんてひどいじゃないですかーって、うわわ」
 走りながら近付いてきた真田とかかり。かかりは雪駄に慣れてないのか、足首を捻ってこけそうになるがすんでの処で真田がかかりの身体を支える。
「ここでこけたらひどい状態になるぞ。お前の事だからきっと大開脚で転んで俺を巻き込み顔面騎乗位……まぁ、俺としてはそれでもいいが、その後の諏訪ちゃんの右ストレートや中留御の口撃に耐える自信がない」
「そんなラブコメみたいな展開になるわけないじゃないですか!」
「いや、ないとは言い切れないし、それにお前穿いてないだろ?」
 かかりははっとして自分の下半身に触る。
「真田……あんたもしかして……」
 諏訪がにこやかに笑顔を浮かべながら真田の肩を叩く。
「いや、何か勘違いをしていないか、諏訪ちゃん。浴衣ってのは下着のラインがしゃがんだ時とかに出やすくてだな、諏訪ちゃん達にはラインが浮かんでいたが、かかりにはそれがなかった。つまりは馬鹿正直に浴衣にノーパンという素晴らしい恰好で……つか、パンツ穿いてる組はかかりを見習え。これこそ大和撫子の心意気だろ、なぁ、大介」
 冷静に説明をして大介に同意を求める。大介もその通りだと言わんばかりに二人で頷き合っている。
「確かに。ラインが見えるのも確かにいいものだが、ラインが浮かばないものこそバッチ正義。そんな美女たちが三人も四人も傍にいれば男としてはKAMIKAZE! KAMIKAZE! と浴衣の裾を捲る神の風を待ち望むよな」
「つーーか、あんたらは浴衣姿の女の子見てそんな事考えてたのねーーーッ! 似合ってるとか気の利いたセリフを言わないどころか、視姦してんじゃないわよーーー!」
 諏訪の右手が大きく振り上げられる。
「ふっ、諏訪ちゃん甘いよ。俺の脳内会議では……絶対回避不能!? ちょ、努力しようよ、せめて絶対ぐらいは外す努力しようよ!?」
「十条退魔術。三条家の特殊能力その一! 三条家当主にはほんの少しだけの未来が見える! 見えるぞ、俺が華麗に殴り飛ばされている未来が! って、避けよう、俺!? なんか滅茶苦茶痛そうな右が入ってたんだけど!?」
『うぎゃーーーーッ!』
 諏訪の右が真田と大介の頬を捉えた。もちろん四本の指を堅く固まるように巻かれた親指はお友達パンチなどではない。
「ちょっと、真田さん大丈夫ですか!?」
 おろおろと悶絶する真田の背中を擦るかかり。これは誰の目から見ても、何かあったとしか思えないかかりの反応だった。
「く、くそ……兄弟はペアであるかかりちゃんの介抱が……ならば俺は中留御ちゃんだな!」
 地面に突っ伏した状態で中留御に助けを求めようと顔をあげる大介の視界に飛び込んできたのは雪駄の靴底だった。

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