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正義の騒動 4

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 -正義の計画-

ジャスティスマン、発見できましたわ!」
 警備隊捜査本部が置かれている一室でエルフォースが勢いよくパソコンのエンター画面を叩いて宣言した。
「昨日発見した謎の爆発跡をジャスティスマンと関連付けたとき、次の出現場所が予測できましたわ。周囲を調べたところ、この場所には謎の熱源が次々に集まっているようです。このことからまず此処で間違いないですわ」
「お疲れさん! ようやく動き出せるな」
 ばしばしっとエルフォースの頭を叩きながらクラークが笑う。
「よし、エルシリーズ、レオロナ、ティナ! ルネイヴ軍と共に出動だ! 何か動きがあればこちらで指示を送る!」
 灰皿に煙草を押しつけながらシュレツが言うとレオロナ達は皆敬礼のポーズを取って了解と答えた。
「よーし、警備隊の奴らが動き出したな。じゃぁ俺たちも行くか」
 槍を手にアリシャが立ち上がる。
「うん……大丈夫」
 レイラも立ち上がり、それぞれが出動の準備を始めるが、シルフィーナとジーニアは動き出そうとしない。
「どうした二人とも?」
 疑問に思ったアリシャが二人を見つめる。
「私たちのうち何名かは何かあった時のために待機しているのが良いと思うのです」
「そうそう。ジャスティスマンが一か所だけで騒動を起こすって事は決まってないのだから」
「確かにそうですね。では、半分に別れましょうか。アリシャさん、ディレイラさん、カコウさんはこのまま警備隊と一緒に出動してください。私たちは待機、何か動きがあった場合に備えます」
 エリファがそう言うとアリシャ達は納得したかのように頷いた。

「あ、あの……何かとても嫌な感じがします」
 警備隊によるジャスティスマン捜索に進展がないまま数日が過ぎた。その間真田達は放課後公園などで集まりジャスティスマンの情報収集を行っている。
 当初は真田、大介、かかりと三人も警備隊と一緒に捜索を手伝おうとしたが、日中自由になる時間のない学生が手伝えることもなく、こうして放課後に地道にジャスティスマンの情報を集める事に専念していた。
 その日も地道に情報を集めていたのだが、ふと、かかりが裏山の方を向いて足を止めた。
「どうしたんだ、かかり?」
 真田が足を止めかかりが向いている裏山の方向を見る。
「え、いや、うまく説明できないんですけど……妖魔の発する……嫌な感じがするんです」
 妖魔の発するという言葉は小さく、真田にしか聞き取れないほどのボリュームで言う。
 コスプレ娘扱いを避けるため、かかりは極力この数日間妖魔だの、魔法退魔士だのという言葉を諏訪たちがいる前では控えてきた。
「んーめぼしい情報もないし、ちょっと見に行くか?」
 真田のかかりに対する対応は確実に縁日の日から変わり、その変わりようははっきりと諏訪たちには解っていた。諏訪たちは縁日の日に何があったのかを真田から聞き出そうとするが、のらりくらりとかわされている状態だ。
「じゃぁ俺ちょっと裏山見てくるからお前らは収集よろしく」
「兄弟一人じゃ何かあったとき危ないだろ? 俺も付いて行くよ」
「わ、私も!」
 嫌な感じがすると言っていた割には真田が向かうと分かった瞬間かかりも即座にその場に向かうと言い始める。
 どこかただ付いて来ているという感じが強かったかかりも縁日の後は人が変わったかのようにジャスティスマンの捜索に手を貸している。その間も文句など一言も言わずに頑張っている姿は初めてレストランに現れた人間と同じには思えないほどの変わりっぷりだ。
「何か変わったことあったらすぐに連絡する。そうしたら警備隊に知らせてくれ」
 そう言い残して真田達は裏山へと向かう。

「しっかし、かかりちゃんもバッチ変わったなぁ」
 裏山へと向かっている時大介がそう声を上げる。
「へ? そうですか?」
「うん、なんつーか前まで自信なさげだったのに今はなんか落ち着いているっているかさ。はじめっからこんな対応ならコスプレ娘なんて言われなかったな。いやー愛の力?」
 大介が冗談めかして言うとかかりは真っ赤になり、
「ちち、違いますよ!」
 必死にその事を否定する。真田は少し離れた場所で周囲に気を配りながら歩いている。
「大介……」
 真田が手に持っている包みの紐を解きながらある場所を指す。
「妖魔……」
 大介が懐から刃の付いていないナイフを取り出し、妖魔を倒そうとするが、それを真田が引き留める。
「仲間を呼ばれちゃ厄介だ。とりあえず見つからないようにもう少し裏山の様子を見よう」
「了解。なら……」
 大介は妖魔へ向かい札を投げる。その札から何やら怪しい煙が立ち上ると、妖魔はその場で丸くなり動かなくなった。
「何やったんだ?」
「ちょっと眠らせただけだって」
 三人は息を殺しながら更に裏山の奥へと進んでいった。

「ッ!」
 かかりの靴が小枝を踏み抜いてしまい、ぺきりと小さな音を立てる。
 裏山の奥に進むにつれて増えていた妖魔が一斉に音のした方向へと集まり始める。
「ごっ、ごめんなさい!」
「……やっちまったもんはしょうがない迎え撃つぞ。大介準備は?」
「バッチオッケー。こいつらは下級妖魔だ。動きにさえ気を付けていれば大丈夫だ」
 大介と真田はかかりをかばうように立ち、妖魔を迎え撃つ。
「さぁ来い、三条の退魔術バッチその身に刻んでやる」
「来るってんなら相手になる。けど、手加減なんてできやしないぞ!」
 真田はそう言うと包みの中から日本刀を取り出す。
「うっそ、本物のポン刀? なんでそんなもん持ってんだよ、兄弟!?」
「ちょっとな……俺にも俺の事情があるのよ。先手必勝!」
 そう言うと真田は妖魔の群れに飛び込んでゆく。あまりにも素早い身のこなしに大介は真田に付いていくことが出来ず、かかりを守るためにその場に留まる事にした。
「真田さんっ!」
 心配そうに真田の背中を見つめるかかり。
「俺の流れ……止められやしねぇ!」
「す、すごい……」
 目の前の光景を目にし、思わずかかりが呟いた。
 舞うように戦う言葉があるが、今の真田の戦い方がまさにそれであった。
 妖魔の大ぶりの攻撃を避けると隙を突いてそのまま斬りかかり、その勢いを持ったまま次の敵へと向かう。
「兄弟……いったいお前は何なんだ? 退魔術を用いて妖魔と戦う人間は多く見てきたが、純粋な力のみで妖魔と戦うなんて。先日までの俺とは違うと言っていたがバッチその通りじゃないか」
「こんなもんじゃ俺は止められやしねぇ!」
 一人で妖魔を打ち倒すと真田は静かに刀を鞘にしまった。
「すごい、すごいです真田さん!」
 大きく息を吐き上った息遣いを整えている真田にかかりが駆け寄る。
「ちょっと待てっ!」
 周囲の気配に気がついた大介がかかりを止めようと手を伸ばすが、大介の手はもう一歩のところでかかりの腕を掴み損ねる。
「おう、なんとか片付いた……かかりっ!」
 振り向いた真田の視界の隅に隠れていた妖魔の姿が映る。妖魔はかかりへと飛びかかろうとしていた。
「えっ……きゃぁっ!」
 かかりが妖魔の方を向いたのと、妖魔がかかりに飛びかかるのはほぼ同時だった。
 驚き、横に跳ぶかかり。ぬかるんだ山の斜面がかかりの靴底を滑らし、かかりは斜面を転がるように落ちて行った。
「クソッ!」
 大介が懐から札を取り出して妖魔に投げつけ、妖魔を塵に還すと、慌てて真田と大介はかかりが滑り落ちた地点に急ぐ。
 斜面にはかかりが滑り落ちた跡しか残っていなく、その先には枝が茂っており先がよく見えない。
「すまん、討ち残りが居るとは……」
 申し訳なさそうに言う真田に大介は首を振る。
「いや、俺がもう少し注意していれば……」
 二人が急ぎかかりの元へ向かおうとしたとき、周囲の異変を察知してか、また妖魔が集まりつつあった。
「くそ、これじゃ斜面を下りながら妖魔と戦うことになる……兄弟! ここは俺が食い止める、早くかかりりゃんの元へ向かえ、俺もすぐに追いつく!」
 大介は一歩妖魔たちの方へ歩くと左手に五枚の札を取り出し、刃の付いていないナイフを取り出した。
「おう、幸いここは携帯もつながる、何とかかかりと合流したら連絡をする!」
 真田はそのまま斜面を滑り降りて行った。
「さて、バッチ来い! 一体残らず灰塵へと還してやる!」
 大介が左手に持った札を全部ばら撒くと、札は大介の形を取り始める。
「起きろ、俺の中に眠る獅子!」
 そう叫ぶと大介と札五枚は妖魔に向かって駆け出した。

「ちょっと、何回コールさせる気なのよ、馬鹿!」
 十回目のコールでようやく電話に出た真田に諏訪が声を荒げる。
 電話越しに真田の激しい息遣いが聞こえてくる。
「ちょっと、どうしたの、息上がってるじゃない!」
 携帯電話から緊急事態発生だとの真田の声。
 裏山で何かあっているというのは明白だ。
「とりあえずこっちの事なんだけど、なんか変な機械見つけちゃったのよね、場所は町外れの廃工場の中」
 了解、少ししたら合流する、安全な場所に隠れてろと真田はそれだけを言うと電話を切った。
「ちょっと! まだッ……」
 諏訪が慌てて言葉を繋げようとするが、携帯電話からは通話終了を知らせる電子音しか聞こえてこない。
「蕎麦は何だって?」
 電話を終えた諏訪に中留御が詰め寄ると、諏訪は首を横に振る。
「なんかあっちでも何か起こってるみたい。ちょっと焦っている感じがしたわ」
「全く、この街には何が起ころうとしているのよ。見るからに怪しい機械はあるし、裏山でも何かあるなんて」
 中留御は目の前の廃工場に設置されている機械に目をやる。
 大きな円形のガスタンクのように見える機械に工場のいたるところから伸ばされたチューブが繋がれている。
 電機は既に通っていないはずなのに、目の前の装置のいろんな場所から電気蛍光の光が見える。
「ちょっと中に入ってあれが何なのか調べる?」
 中留御の提案に諏訪は眉間にしわを寄せる。
「絶対駄目。これ明らかに変よ。私達で手を出せる問題じゃないわ。警備隊にも連絡しましょう」
 そう言うと諏訪は携帯のカメラで謎の装置を作成、画像をメールに添付し警備隊へと送った。
「これで少し様子を見ましょう……そうね、あの倉庫とかいい感じに身を隠せそうだわ。廃工場もはっきりと見えそうな位置にあるし」
 中留御は不服そうな表情を浮かべるが、下手に動くものではないと理解はしているのか、おとなしく諏訪の提案に従った。

シルフィーナさん、画像付きのメール来たのです。差出人は諏訪加奈。レストランで見かけるあの人なのです」
「件名とか書いてある? そう、たとえば私の恥ずかしい姿とか」
 シルフィーナがパソコン画面を眺めてるジーニアの背後に回り込むと、肩越しに画面を覗き込んだ。
「あらあら、これはやばいわねぇ。同じやばいなら、せめて顔をかくして胸のトップを隠したいやらしい画像の方が見たかったわぁー」
 諏訪から送られてきたメールの内容を見て、ただ事じゃないと思いつつも、シルフィーナはいつものコードに触れそうな下ネタを言う。
「これは明らかに何らかの関係がある機械なのです。警備隊にこのメールを転送しておくのです」
「諏訪様達の安否も気遣われます、私たちは先行してこの写真の場所へと向かいましょう!」
 シルフィーナ達はパソコンが使える部下を置いて、諏訪たちが居る廃工場へと向かった。

「何なんだよ、あれは……」
「なんだかお化け屋敷みたいだねぇー」
 熱源が多数集まっているとされたポイントに到着した警備隊とルネイヴ軍の兵士たち。
 目の前に広がる光景を見てエルセカンドとファーストが口を開いた。
 開かれた漁港には先日目にした異形たちが集まっていた。
 額に角の生えた者や手が足先までの長さのあるもの、足が妙に長いもの達と絵巻物に書かれた妖怪を集めたような光景が広がっている。
「相手が何だろうと関係ねえ」
「我ら一丸となって打ち崩す」
 アリシャとカコウが武器を構える。
「とりあえずこいつ等を外に出しちゃ街が大混乱に陥る。一匹も外に出すわけにはいかないぞ。アヴィーナ!」
「ハイ!」
 レオロナがアヴィーナに目配せをすると、アヴィーナは右足から筒のようなものを取り出し組み立ててゆく。
 アヴィーナは列車の脱線事故により右手足を失い、救出を担当した警備隊により義手義足を作ってもらっている。一般人にすぎないアヴィーナの身体にとりつけられた義手義足は警備隊の技術を取り入られた特殊な義手義足で、それを付けられたが為に隊員として警備隊に組み入れられている。
「領域セット。包囲フラッグ射出!」
 アヴィーナが空に向かって組み立てた銃を放つと空中には四本の棒が打ち出される。
 棒は敷地の四隅に飛んで行きその場で停止した。
「……何をやったの?」
 飛んで行く棒を目にしてレイラが問いかけると、アヴィーナの代わりにティナが答える。
「この敷地から出ようとすると電流が流れその行動を阻止します。私たちにも電流は流れるのであの棒よりも外に出ないようにしてください」
「なるほど。まぁ、俺たちは敵を前に背を見せる気はない。行くぞカコウ、レイラ! 遅れるなよ!」
 アリシャは妖魔たちに向かって飛び出した。

「っと、いたいた、かかり……大丈夫か?」
 斜面を降りた真田は足を押えてうずくまるかかりを発見し、声をかけた。
「さ、真田さんですかぁ?」
 なるべく迅速にかかりを探した真田だったが、途中でかかりが滑り落ちた跡が見え辛くなっており発見に時間がかかった。その間、妖魔達が出るかもしれないという恐怖と闘いながらかかりはその場に留まっていたのだ。
「おいおい、そんな泣きそうな顔すんなって。そもそも退魔士だろ? 妖魔ぐらいなんとかできるんじゃないか?」
「わ、私は土地の思念を払う術の方専門なんです! それなのに上の家の人は私を討伐に向かわせるなんて……本家と対立しているから人手不足なのは解りますけど適材ってもんがあると思うのに……」
 今にも泣き出しそうなかかりの頭にぽんぽんと二度手を置くと真田は周囲を見渡した。
 周囲には妖魔の姿もなく、何かが蠢いているという気配も感じられない。
「とりあえず動けるか? 何とか大介に合流しないと……」
「は、はい……すいません動けま……いたっ!」
 立ち上がろうとしてかかりの身体がふらつく。
「足やったな? その様子からじゃ歩くのは辛そうだし、俺が背負ってあの傾斜を登るのはちょっと厳しいな。どーするかな?」
 真田は腕組みをして考え始める。
 そんな時、真田のポケットから電子音が鳴る。
「携帯鳴ってますね、電話ですか?」
 電子音は三秒で止まった。
 真田は携帯を取り出しながらメールだと呟いて、届いたばかりのメールを確認する。
「なんか町外れの廃工場で変な機械見つけたんだとよ。さっき電話もあった。で、それがこの画像」
 携帯の画面には丸い円形にたくさんのチューブが付けられたSFみたいな装置が映されていた。
 かかりはその画像よりもFROM諏訪加奈と真田の携帯に登録されている諏訪加奈という文字の方がきになっていた。
「な、なんか危なそうな画像ですよね……早く向かった方が」
「そうしたい所だが、まずは此処を動かないことにはね」
 真田はなだらかな斜面を踏みしめて、人を背負って登れそうか確かめているが、ぬかるんだ地面は人を背負って登るには少し水分を含みすぎている。
 これでは体力も無駄に使うし、危ないと真田は首を振る。
 そんな真田を見てかかりは自分は役立たずじゃないかと思い始めていた。
 諏訪たちは何やら大いに事件に関係してそうな装置を見つけた。自分は真田達に付いてきたが、妖魔を倒すこともできず、しまいには斜面を滑り落ちてしまい真田達の足を引っ張ってしまっている。
「はぁ、やはり私は役立たずです……」
 退魔士の仕事も方も、かかりは素質があるからとスカウトされた形で正式な退魔術の継承者ではない。
 かかりに退魔術を教えた九条家の使用人は自分を信じていれば今よりももっと退魔術は伸びます、血など関係ないとは言ってくれてはいるが、本物の条家の血を引く大介の退魔術のセンスを目にした今、かかりは絶対にあぁはなれないと思っている。
 幸い大介はかかりが失われた九条家の退魔術を習得していることや、九条家との係わりを知らないために、ただのコスプレ娘としか見ていないため、同じ同業者とは思ってないのが唯一の救いだ。
「人には得意不得手があるさ。かかりは自分の得意なことで実力を出せばいいって。焦ることないさ」
 真田はかかりの置かれている状況を知らないため、大介などとは比較せず、ただそう言って励ましてくれる。
「でも……」
「テストで国語とか数学のテストがいい点取れる奴が、体育の実技テストでいい点とる奴よりも偉いか? 逆もまたそうだ。戦いで活躍できる奴だけが偉いわけじゃない。何か一つでもできる事があればいいんじゃないか」
 真田はかかりの前にしゃがみこむ。
「俺は見た目どおりって言うのは癪だが、あまり数学や英語の点数がよろしくない。いつも赤いラインギリギリを彷徨っている。だからと言って俺は学生としては駄目駄目だとは思わない。ほかに得意な教科あるからな。まぁ、一つでも人に誇れるもんがあるなら、それで充分。人と比べ始めたらきりがねーよ」
 そう言う真田の顔は自信にあふれ、本当にそう心から思っているのだろうということはかかりにも理解できた。
「一つでも誇れるもの……ですか?」
「おう、かかりの事はよくわからんが、退魔だってそうだ。さっきの口ぶりならかかりにも人に誇れる退魔術とかあるんだろ、それがあるなら、役立たずなんかじゃないさいつかそれが必要になる事もある」
 そう言い聞かせる真田は本当に高校生なのかと思ってしまう。まるで教師とかをやったことがあるとすら思える。
「なんだか、真田さんって不思議な人ですよね……その場の勢いで話してそうなのに、その内容は考えさせられるところがあるなんて」
「ふっふっふ、有限将真田槍助なめんなよ?」
「ゆうげん……しょう?」
 聞きなれない言葉に首を傾げるかかり。またも真田のポケットから電子音が流れ、結局かかりは有限将について聞く機会を見失った。
「っと、警備隊からメールだ」
 真田がメールを開くと、写真付きで廃工場にジャスティスマン出現と書かれていた。
「また現れたんですか?」
「おう……」

 内容をかかりに見せると眉を寄せてかかりが呟く。
 真田が急に腰に手を当て、茂みを睨む。
「ど、どうしたんですか?」
「気配がする」
 まさか妖魔? とかかりが身を強張らせると、茂みから人影が倒れこんできた。
「え? なんで!?」
「この人……」
 倒れこんできた人を見て真田とかかりは目を丸くする。
「一体どうなってるんだよ?」
 真田が頭を抱える。かかりは短く考えると、
「この人は私に任せてください!」
「でも……」
「私はこの状態です、もう少しすれば一人でも斜面を登れるようになると思いますし、私の出来る事が今あるんです! 廃工場にジャスティスマンが現れたのは信じられませんが、確かめる必要もあるはずです、彼がいったい何なのかを」
 しっかりと真田の目を見て言うかかり。そんなかかりの様子に真田は頷く。
「おう、確かに不思議な事が多すぎる。とりあえずそいつは任せる」
 倒れた人物をかかりに任せ、真田は大介へメールを打ち、廃工場へと急いだ。

「ようやく終わりか」
 アリシャが妖魔に槍を突き立てながらぼやく。
「案外時間がかかった」
 大剣で三体まとめて妖魔を吹き飛ばすと、レイラは肩を回しながら答えた。
「しかし、なぜこうも妖魔の姿があったというのに、ジャスティスマンは姿を見せないのでござるか?」
 この漁港に集まっているのは妖魔だけで、ジャスティスマンの姿は見られなかった。
「あいつらほんとすげぇな……」
 レオロナが感心した面持ちでつぶやく。
「ちょっと皆さん、緊急事態ですわ!」
 なんとか漁港に集まっていた妖魔を退治し終わると、エルフォースが声を荒げた。
「どうしたんだよ、お嬢?」
 エルセカンドがエルフォースを問い詰めると、エルフォースは送られてきた映像を空中に移した。
『私は正義の使者ジャスティスマン。今日、この夜から正義の世界が目覚める。百鬼夜行の夜が終われば、世界は正義の世界へと生まれ変わるのだ』
 全く訳のわからない内容であるが、夜に確実に何かがあるということだけは理解できる。
「ひゃっきやこーってなに?」
 エルファーストが首を傾げると、サードが答える。
「百鬼夜行とは妖怪などが群れをなして夜歩き回ることを言います」
 レオロナが顎に手を当てる。
「もしかして妖怪っつうのは今倒したあれか? それだったら倒したから問題は……」
「此処だけに居るとは限りませんわ。まだほかの場所にも潜んでいるかもしれません。それに、本部からこのような画像が……」
 更にフォースがある画像を映す。
「なんだこりゃ?」
 アリシャが画像を見つめ首を傾げる。
「何かの装置であることは間違いないですね」
 サードがそう言うとサードの持つ端末が鳴る。
『廃工場にジャスティスマンが出現したわよ。これが証拠の映像よん』
 シルフィーナからの通信で、映像にはきちんとジャスティスマンが映されていた。
「解りました。こちらも片付きましたし、そちらに向かいます」
 そう言ってサードは通信を終わらせる。
「こっちはいいのかよ?」
 アリシャが問いかけると、サードは先ほどの装置を映し、
「これがあるのも廃工場みたいですし、なにか廃工場で重大な事が起こるのは明白です」
「ふぅ、次から次に……いそがしいな」

「ちょっとちょっと、なんでこんなに妖魔が集まってきてんのよ!?」
 諏訪が集まってきた妖魔を見て声を荒げる。
 倉庫から外をうかがっていた諏訪たちだったが、数分前から沢山の妖魔が廃工場に集まってきていた。
「ちょっとあれ!」
 中留御がある一点を指さすと、その先には黒と紺色が主体のスーツを着たジャスティスマンが居た。
「ジャスティスマンがなんでここに?」
「あの装置が目当てなんじゃないか?」
 春日と夕日が口を開く。ジャスティスマンは周囲を見渡すとまっすぐ倉庫へ向けて歩き始めた。
「ちょっとちょっと、こっちに来てるわよ!?」
 中留御が慌てながら言う。
「どうやらネズミが紛れ込んでいるようだな」
 倉庫の中に居てもジャスティスマンの声が聞こえる。
 どうやら扉の前に立っているようだ。
 倉庫の入り口にはかぎを掛け、誰も中に入ってこれないようにしていたのだが、
「ハァンドガン!」
 レーザー銃のような音が聞こえると、倉庫の鍵が吹きとんだ。
「誰かと思えば君たちか」
 倉庫の扉を明け、中にいた諏訪たちを見るてジャスティスマンが口を開いた。
「少し足を踏み入れすぎたようだな、君たちはこの件に首を突っ込むべきではなかった」
 右腕の銃を諏訪たちに向けてジャスティスマンは言う。
 誰もがジャスティスマンは本気で撃つ気なのだと理解できた。
「ちょっと、女の子に向けていいのは自身の主砲だけよん。そんな物騒なもの向けちゃだめよぅ」
 ジャスティスマンが咄嗟にその場から飛ぶ。
 少し遅れてその場に斬激が走る。
「ちょっと遅れちゃってごめんね。っと、あらあら、倉庫で3Pでもしてた?」
 ナチュラルに下ネタを言うシルフィーナ。いつもは下ネタばかり言う可哀そうな人に見えるシルフィーナも登場のタイミングが良すぎたのか、下ネタを口にしているというのに、その姿が格好良く見える。
「そのような正義の品性のかけらもない言葉をよくも口に出して言えるものだな、シルフィーナ君。君のその言動は人を間違った道へと進ませかねない」
 戦闘能力のない諏訪たちを始末するのは簡単で、ジャスティスマンはそれを後回しにし、シルフィーナに向き合う。 
「皆様、大丈夫でしょうか?」
 ジャスティスマンの注意が諏訪たちから外れた隙にエリファが兵士を連れて諏訪たちを助け出す。
「全く、無茶なことばかりやるのですあなた達は。まぁ、でも今回ばかりはその無茶な行動によってジャスティスマンを探し出すことができたので、まぁいいでしょう」
 ジーニアはそう言って諏訪たちの守りに入る。
「ちょっと、ジャスティスマン相手にあのピンク脳一人でいいの!?」
 全てのルネイヴ軍の兵は諏訪たちを守るように展開されており、シルフィーナは単身ジャスティスマンと向き合っている形になっている。
「あなた達が居なければみんなで戦っていたのですけどね。まぁ、多人数でかかってもこちらが不利になるだけなのです。日頃は真面目な事を言わないシルフィーナさんですが、誰よりも強いのです」
 シルフィーナとジャスティスマンはお互いに間合いを計っている。
「待つのは嫌いなのよね。焦らされるのは好きだけど!」
 そう言ってシルフィーナは手にした槍の先に鉈を付けたような武器を構え、ジャスティスマンに飛びかかる。
「まだそのような事を言う余裕があるのか」
 ジャスティスマンはシルフィーナの一撃を避ける。
「余裕のある人の方が何にでも優位に立てるのよ」
 避けられることを予想していたシルフィーナはそのまま刃の部分を地面に突き立て。ポールダンスをするようにジャスティスマンに蹴りを浴びせた。
「ぬぅっ!」
 左手でシルフィーナの蹴りをガードしたジャスティスマンだったが、視界から既にシルフィーナは消えている。
「一つ一つの動きが大きいのよ、あなた。大きければいいってもんじゃないわ。テクニックがないとただ痛いだけよ」
 ジャスティスマンが声のした方を見ると、シルフィーナがスライディングをするようにジャスティスマンの足もとに滑り込んでいた。
 武器でジャスティスマンの足を払い、バランスを崩させると地面に手をつき、ジャスティスマンの太ももに蹴りを入れると武器を地面に付いてそれを起点に立ち上がるとすかさず三段突き。
 武器を使った攻撃と腕や足を使った重心崩しで攻めてくるシルフィーナのトリッキーな動きにジャスティスマンは翻弄されつつある。
「なによあのピンク脳……滅茶苦茶強いじゃない」
 素人の目に見てもわかる隙のない動きに中留御たちは目を丸くする。
 下ネタさえなければ非常に完璧な人間であるシルフィーナ。いつも真面目に喋っていれば誰もが頼る知的なお姉さんになれただけに、シルフィーナのアイデンティティである下ネタの存在は非常に残念である。
「これ以上好きにはさせん。ハァンドガン!」
「行動の前にその行動を予測させるあなたのスタイルも無駄よ」
 右手のハンドガンの射線に入らないようにシルフィーナは身体をジャスティスマンに近接させると武器の柄でジャスティスマンの腹を叩く。
「いちいち何をするって宣言されても、興奮しないわ。無言で責めるのもテクニックの一つよん」
 攻めるが責めるに聞こえたのは諏訪たちの聞き間違いではないと思う。
「ちょっと、そう言うあなたももう少し寡黙にならない!? 行動はカッコいいけど、セリフで台無しよ!?」
 ジャスティスマンとの戦闘を優位に進めるシルフィーナを見て諏訪にも突っ込む余裕が出てきた。
「いやん、ツッコミ上手ね、諏訪ちゃんは。私にはツッコミはツッコミでも夜の方の突っ込みをお願いしたいわぁ」
 どんなに強くともシルフィーナはシルフィーナなのだ。魚が違う環境の水で生きられないようにシルフィーナは下ネタを言わないと生きてゆけないのだ。
 しかし、その下ネタそのものがシルフィーナの作戦でもあるのだ。
 それだけの事をいう余裕があると相手に錯覚させ、冷静な判断力を削いでゆくことこそが戦いの中でも下ネタを口にする理由なのだ。実際シルフィーナに下ネタを言う余裕は本来はない。
 癖のある戦い方とはいえ、ジャスティスマンの実力は凄まじく、シルフィーナはこれまでずっと集中力を極限状態にまで高めている。
 その集中力が続くのもあとひと時。その間に相手の判断力を鈍らせなければならないのだ。
「余裕がある事を装うのも大変だな、シルフィーナ君。君の強さの秘訣はその装う力なのだ」
「何のことかしらね?」
 のらりくらりとジャスティスマンの質問を受け流すが、シルフィーナは内心見破られたことを焦っていた。
 敵と戦う事に特化したジャスティスマンはシルフィーナの動きを見て、その動きが実は自身の精一杯である動きであるという事を見抜いていた。
「私に小細工など通用しない。すべては正義の名のもとに」
 ジャスティスマンはそう言うと手にジャスティスブレードを取り出した。実剣部分とレーザーブレードを分離させ、二刀流で闘うことにしたようだ。
「私の正義の刃、受けるがいい!」
 実剣による攻撃、シルフィーナがそれを受けるとレーザーブレードでの攻撃に切り替わる。レーザーブレードを武器で受けるのは得策ではないと見たシルフィーナはそれを避ける。
 避ければ実剣がシルフィーナを襲う。
 決定的な一撃は貰うことはないものの、シルフィーナは防戦一方となり、次第にジャスティスマンに押され始めいた。

「浄化の力よ、かのものの力を引き出して!」
 かかりは魔女っ子の杖のようなステッキを取り出したかかりは倒れた人物の頭上でそれを掲げる。
 周囲の草木がざわめき、その人物周辺の植物の成長が早まる。
「うぅ……誓いを、正義を果たすまでは……」
 傷つき倒れた人物はうわ言のようにそう呟く。苦しげに呻いていた声も次第に治まっていく。
「自分には使えないんですよねぇこれ……」
 かかりはそう言って呟く。
 かかりは確かにコスプレ娘ではなく、正真正銘、魔法退魔士なのだ。しかし、その退魔術の術はすべて人を傷つけるものではなく、癒す力なのだ。
 魔を払うときも力による退魔ではなく、浄化の力による負の感情を払う退魔に特化している。少し変わった退魔方法であるがゆえに、すべての状況に対応できるわけではない。
 浄化も負の感情の強い魔には逆効果で、感情を増幅させてしまったりもする。本来かかりの習得している九条家の退魔術はほかの退魔士のサポートをする退魔術なのだ。レストランに妖魔が現れた時は術で大介をサポートしようと思ったが、大介が元々持つ潜在的な身体能力強化術と、かかりのサポート術が競合し、効果を打ち消してしまう可能性があったためレストランに現れた妖魔の時も動く事が出来なかったのだ。
 サポートという点ではかなり便利なかかりの術だが、かかり本人にはその効果を使えないのだ。サポート術は他人をサポートするだけで、自身のサポートは出来ないようになっている。
「まだ力が足りません、もっと……」
 目の前の人物の状態を見てさらにかかりは力を強める。
 かかりの額には珠のような汗が浮かんでおり、行使している術によりかかりが疲労していることは明らかだ。
「ぐ……こ、ここは?」
 倒れていた人物が意識を取り戻す。
「き、気がつきましたか? 今身体の方が正常な状態へ戻ろうとしていますから、もうしばらくは動けないのですが、時間がたてば……」
 かかりの説明を聞いてもその人物は立ち上がろうと身体を動かす。
「駄目ですって、まだ大人しくしていなければ!」
「そうかもしれないが、私はこんなところで寝ているわけにはいかないのだ。このままでは間違った正義が……」
 そう強がる人物だったが、その人物が目的としている場所までは到底自力では行けそうにもない。かかり自身もかなり疲れており、身体を支えながらその場所へ向かうことは厳しい。
『俺達が居るぜ!』
 茂みの中からそんな声が聞こえてきた。

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