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もののけフレンズ

紅葉に蹴り飛ばされた人面犬が、ジェット機の如きスピードで飛び込んで来た事により、室内は滅茶苦茶な有様になっていた。
家具は倒れて硝子は割れ、それらの残骸が彼方此方に飛び散っているので、床には足の踏場が殆どない。
しかし、そんな爆心地宛らの光景も、紅蓮の美女――紅葉が一歩でも立ち入れば、漂う埃臭さがたちまちに消え去り、桃源郷へと変化しているかのようであった。
存在するだけで場の雰囲気すらも変える美貌は、まさに魔性のそれである。
紅葉は、裸足同然の脚装備であるにも関わらず、家具の破片が散らばった室内を平然と歩いていた。
一方、音石明は、超常の存在である彼女とは違って、靴を履いていても破片を踏むのが痛いのか、随分と歩きにくそうな様子で進んでいる。
二人は破壊された部屋を強引に通り過ぎた。
そこからまた、古びた廊下を歩き進む。
暫くすると、襖によって封じられた部屋が見えてきた。
閉じられた襖の大きさと枚数から、中が大広間となっていることが窺い知れた。
襖の四メートル手前で、二人は立ち止まる。


「あの中に居ますわね」


と、紅葉。


「巨大な気配が一つと、それに助けを求めにやって来たヤツらの気配が幾つかですわ」


心なしか、声の調子が普段よりも低くなっている。
硝子細工のように美しい瞳に宿る眼光は、普段のおちゃらけたそれではなく、鏃の先端のような冷たい鋭さを持っていた。
屋敷に入った際に感じた閉塞感に対し、少しも表情を変えなかった彼女が、これほどまでの態度を見せるとは――成る程。
襖の向こうにいる巨大な何かは、そんな態度を取るのに相応しい相手だと言うわけか。


「助けを求めにやって来たヤツらはともかく、求められている方はちょっとばかし厄介な相手になるかもしれませんわね。全員が連携を組めば、尚更厄介です」


そんな事を言い出す紅葉に、音石は驚いた。
まさか彼女が、そんな弱気な判断を下すとは……。
普段の言動からは、予想もつかなかった発言である。
聖杯戦争の初陣が、紅葉のテンションに何らかの影響を与えているのだろうか?


「嗚呼、面倒ですわ。面倒ですわ。面倒ですわ。見覚えの無いもののけがうじゃうじゃと――実に面倒な相手ですわ」


溜息を吐きつつ、「やれやれです」とでも言いたげな顔で、紅葉は顔を左右に振った。
次いで、彼女はギターと琴のハーフのような珍妙なビジュアルをした楽器を、手元にアポートする。
それは紅葉の宝具の一つ――先ほど巨女を爆殺する為に使った物である。


「ですから」


白金を磨き上げて作ったかのような美しさを持つ指を、楽器の弦に添えた。


「襖を開けずに――相手の土俵に上がらずに、ここから攻撃を仕掛けますわッ!!」


白金が、弦を高速で横切る。
その瞬間。
ズガァーーンッ!!!――と、文字で表せばこんな風になる音が響いた。
まるで、二トントラック同士の衝突を、音で表現しているかのようである。
聴き心地が良いとは、お世辞にも言えない、聞く者の鼓膜を破壊する為だけに演奏されているかのような、暴力的な曲であった。
慎重さなんて微塵も見受けられない大雑把すぎる攻撃は、床板を剥がし、壁を崩しながら進んで行き、全ての襖をふっ飛ばして大広間へと飛び込んだ。
音の嵐は室内を蹂躙し、破壊する。
当然、紅葉は嵐の突撃を一度で終わらせるつもりは無い。
二度、三度、四度……弦を弾き鳴らし、室内に大音響を叩き込んだ。

十秒にも満たない演奏を終え、紅葉は楽器の弦から指を離した。
音の来襲を受けた大広間は、埃や煙がもうもうと上がっている。
やがて煙が晴れ始めると、室内の様子が見えるようになってきた。
畳は剥がれ、壁は穴まみれになっている。
部屋のあちこちには、気味の悪い日本人形や身体中に針が生えた蛞蝓と云った化物の類が幾つか転がっていた。
彼らはみな音の直撃を受けており、腕は外れ、体の内容物が溢れ出て、と大ダメージを負っている。
これでは、紅葉との戦闘はおろか、この場から逃げ出すことすら出来ないだろう。
この惨憺たる光景に、音石は驚愕すると同時に、敵が戦闘不能に陥ったことに安心していた。
しかし、埃煙が完全に晴れた途端、彼は更に大きく目を見開き、驚くこととなる。

大広間の中央に、山があった。
宇宙の闇を切り取って貼り付けているかのように真っ黒な山であった。
紅葉の演奏を受けても尚屹立しているそれは、まさに『動かざること山の如し』そのままである。
だが、暫くすると、それの正体が山ではないことを音石と紅葉は悟った。


「なんだありゃ。ヘビか?」

「そのようですわね」


それは正確に言えば、頭にあたる部分を覆い隠すようにしてとぐろを巻き、山のようになっている大蛇であった。
よく見てみると、表面が黒い鱗でびっしりと覆われている――これで、先ほど紅葉が放った音の嵐を防いだのだろう。
この大蛇が、紅葉の言う巨大な何かの正体であるのは明白である。
頭にあたる部分を隠すようにとぐろを巻いているのは、音の攻撃からそこを守る為なのだろうか?

その時、音の嵐が止んだことを悟ったのか、大蛇は動き出し、とぐろを解き始めた。
瞬間――残像が出来るほどの速度で、大蛇に向かって駆け出す紅葉。
どうやら、大蛇がとぐろを解こうとしている隙にさらなる攻撃を与え、完全に倒すつもりらしい。
走って近づくのは、遠距離からでは攻撃が効かなかったと見て、近距離からより強力な攻撃を行う為だろう。
敵の隙を突くとは卑怯に見える行為だが、それを言うならさっきの演奏攻撃からしてそもそも卑怯である。
けれども、紅葉のマスターである音石は、そういう卑怯だとか不意打ちだとか騙し討ちだとかを好む傾向にある男だったので、紅葉が取った行動に、そのような感想を抱くことはなかった。
強いて文句があるとすれば、『さっきから紅葉ばっかり活躍していて、オレは良いところを全然見せられてねーよなァ』ぐらいだ。
しかし、ここで変にでしゃばって紅葉の邪魔になり、後で痛い目を見るのも嫌なので、ここは静観しておくことにする。
聖杯戦争のマスターとしては、これ以上なく妥当な行動選択であった。

ゼロコンマ一秒で大蛇との距離を詰めた紅葉は、移動の勢いを乗せたパンチを放った。
キャスターらしからぬ肉体攻撃である。
そして、その攻撃は奏功した。
功を奏し、破壊音を奏でた。
紅葉のパンチを受けた大蛇の鱗は、空手の達人が拳を振り下ろした瓦のように罅割れ、砕けたのである。
当然の結果だ。
広範囲を対象とした演奏攻撃ならまだしも、第六天魔王の因子を受け継ぎし者から直々に叩き込まれた拳を防げるものなど、この世にそうそう居まい。
確かな手応えと共に、紅葉は鱗の奥の肉から腕を引き抜いた。
ずぶり――と、生々しい音が響く。
一方、大蛇のとぐろ山の内部からは、痛みに悶えるような声が上がった。
と同時に、紅葉の頰を空が叩く。
蛇の尾が真横から凄まじい勢いで、壁や床板を巻き込みながら迫って来ていたのである。


「痛みに任せての攻撃ですか。雑すぎでしょう」


感じた覚えの無い強大な気配を発していたから少し警戒しましたけど、実際は全然大した事ないですわね――と。
紅葉はひょいとバックステップする。
彼女の鼻先を、黒の風が通り過ぎていった。
攻撃が空ぶった勢いでとぐろが完全に解き終わったらしく、大蛇の頭は完全に姿を現した。
否――姿を現したのは大蛇の頭ではない。
本来蛇の大顎があるべき位置には、女の上半身があった。
ただの女の上半身ではない。
それには左右それぞれ三本、計六本の腕が生えていた。
仏教知識をほんの少しでも齧っている者がその姿を見れば、阿修羅を連想しただろう。
疑いようの無い化物である、
かつて妖怪や鬼の一団を率いていた紅葉であっても、その化物には見覚えがなかった。
外見の要所要所と雰囲気から、辛うじて、それが日本生まれのものであると見受けられる程度である。


(そう言えば、これまでに出会った化物達も、見覚えのないヤツらばかりでしたわね……)


彼女がそれらに見覚えが無いのも当たり前であった。
何せ、この屋敷を巣食う化物たちは、現代に噂される怪異なのである。
平安を生きた紅葉が、それらに見覚えがあるわけがない。
しかし、彼女はそれらに『見覚え』がなくとも、それらを『知って』はいた。
紅葉が聖杯から与えられた知識には、現代の怪異譚までちゃんと含まれていたのだから。


(最初に出会った頭デッカチは……特徴からして『巨頭オ』に出てくる奇形の人間でしょうね。人面犬は人面犬。巨女は……特徴的な鳴き声をあげていましたし、『八尺様』とかいうヤツでしょう。部屋の片隅に転がっている、毛虫と蛞蝓の合成獣みたいなのは――)


今更ながら、自分が倒したものたちが何だったかを復習する紅葉。
どれも皆、ほんのちょっぴりでもオカルト知識があれば、誰でもその名に辿り着けるもの――よく噂される、有名どころばかりであった。


(――そしてこの女蛇は……『姦姦蛇螺』ですかしら?)


姦姦蛇螺。
それは主にインターネット上の情報掲示板で語られ、噂される怪異。
蛇の下半身と、六本の腕を持つ女。
民を守る巫女であったが、民に裏切られ、憤怒と怨念の存在へと堕ちた者。
その悍ましい見た目から分かる通り、非常に邪悪な怪物である。
噂曰く、下半身の蛇の部分を見た者に、解除不能の呪いを与えるとか。


(それにしては、この真っ黒な下半身を見ても、私に何か呪いがかかっているようには思えませんがね)


閉塞感に似た違和感はあるが、それはこの屋敷に入ってからずっと感じていた雰囲気みたいなものであり、呪いとは言い難い。
続いてほんの一瞬、紅葉は音石がいる方向を振り向く。
スタンド使いであるものの、体は一般人のそれであり、魔術師のように魔術や呪術への耐性があるわけではない彼は、しかし、姦姦蛇螺の下半身を見ても、体や精神に何か不調が生じているようではなかった。
呪いを受けているようには見えない。
明らかになった女蛇の外見の醜悪さに、少しばかりビビっているだけである。


(超常の存在がサーヴァントとして召喚される際は、霊器という器に縛られる都合上、生前よりも低いスペックになるんでしたっけ? それと同じように、館の作成者に生み出されたであろうこの姦姦蛇螺は、スペックダウンを起こし、伝承にある呪いの力を失っているのでしょうか?)


紅葉の推測は大体当たっていた。
噂を司るバーサーカー――フォークロアによって生み出された姦姦蛇螺だが、噂の中でそれが登場するのは、こんな館の中ではなく、鬱蒼とした森や山の中である。
伝承とは異なるフィールドに配置された事により、大幅なスペックダウンを起こしているのだ。


【おいおい、紅葉。大丈夫なのか?】


念話で音石が語りかけてきた。
姦姦蛇螺の神々しくも恐ろしい外見には、怖いものなしのギタリストでも畏怖を感じるのだろうか。


【大丈夫大丈夫。こんな英霊(サーヴァント)未満の幻霊(アーバンレジェンド)、私が本気を出さずとも、十六進法の三十二ビートで瞬殺ですわよ】

【だけどよォ〜〜〜〜……】

【シャーラップ!】


野次に対し、紅葉は叫んだ。


【マスターは一々口出しせずに、私の後ろでコソコソしながら、『冷凍ちりめんじゃこ』で自分の身を必死に守っていればよろしいんですのよ!】

【『レッド・ホット・チリペッパー』って言ってんだろがッ!】

【それにですね――】


音石の文句に取り合わず、紅葉は半人半蛇の化物を指差す。


【既に決着は付いているようなものなんですのよ】


瞬間。
姦姦蛇螺の下半身の、先ほど紅葉が拳を突き刺した部分がボンッ! と、ポップコーンのように膨張し、破裂した。


「!?」


飛び散る己の下半身の一部分を眼にし、姦姦蛇螺は深淵へと繋がっているかのように禍々しき双眸に驚愕の色を浮かべた。
何が起きたか分からない――とでも言いたげな風である。
それは音石も同じらしく、最初は目を見開いて驚愕していたが、暫くすると、


「さっきのアレと同じじゃねぇか……」


と呟いた。
彼の言う『さっきのアレ』とは、前編で紅葉が行なった音の攻撃で、巨女の身に起きていた爆発である。


「その通り」


首の上だけ振り向いた紅葉は、音石の驚き顔が余程滑稽だったのか、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「外側から音を流してもあの鱗が邪魔でしたからね。だけど、鱗を突き破って内側から放った音なら、威力は百二十パーセント通じるはずでしょう?」


なので、先ほど拳を突っ込んだ時、ついでに『魔力放出』の破壊音波を流し込んでいたという訳だ。
音の爆弾による破壊はその一回だけに留まらず、紅葉が腕を突っ込んだポイントから、音波のように伝播して行く。
じわじわと破壊され、砂像のように崩れ落ち行く姦姦蛇螺の下半身に、紅葉と音石は勝利を確信した。
だがしかし。
破壊が蛇の下半身から女の上半身へと到達する直前――予想だにしない事態が起きた。
姦姦蛇螺の上半身と下半身が分かれたのだ。
破壊され行く蛇の下半身に別れを告げた女の上半身は、音の破壊から無事に逃れる。
六本の腕を駆使して行われた軽やかな着地に、紅葉たちは蜘蛛のイメージを見た。
そして一瞬後――上半身だけになった姦姦蛇螺は、F1マシンの如き高速で駆け出した。


「はぁ!? 高速で動く女の上半身って……そりゃもうテケテケじゃねぇですの!」


そんな突っ込みを叫ぶも、姦姦蛇螺が上半身だけになるのが全くおかしい話ではない事を、他ならぬ紅葉が理解していた。
そもそも、原典とも言える話の中では、姦姦蛇螺は女の上半身と蛇の下半身がセットで揃った姿で登場しておらず、女の上半身だけの姿でしか登場していないのだ。
その姿は『巫女』と呼ばれ、本来の姦姦蛇螺と同一でありながら異なるものとされており、姦姦蛇螺がこの姿を取るのは、遊戯感覚で出現する時だけなのだ。
けれども、遊戯感覚で出現する時の姿だからと言って、その力を甘く見るべきではない事は、今しがたそれが見せている機動力の高さを見れば、誰でも理解出来るだろう。
水の中に生きる魚が水の中で本領を発揮するように、サバンナに生息するチーターがサバンナの環境下で一番速く走れるように、噂の中の存在である姦姦蛇螺が噂に登場した際の姿を取り、その結果身体のパーツが欠けようと何ら支障がないのは、当然の理屈なのであった。

こちらに迫り来る巫女に宝具の楽器で対処しようとするも、弾いている暇がない事を悟った紅葉は、ノータイムで用意できる攻撃手段である拳を構えた。
姦姦蛇螺の鱗ですら殴り砕いた拳だ――何も身に纏っていない状態のものがその一撃を食らえば、いとも容易く絶命するに違いない。
石のように固く握り締められた鬼人の手が閃く。
しかし、その一撃が巫女を絶命させる事は無かった。
上半身だけになり、節足動物のように床を高速で疾駆しているそれは、紅葉の拳を回避したのだ。
どころか、カウンターのようにして、六つの拳で殴りかかってきたではないか!
六方向から飛んで来た攻撃には流石の紅葉も『マズい』と思ったらしく、みっともない転がり方であるものの、なんとか回避に成功する。
けれども、避けられたからと言ってそこで攻撃を止める巫女ではない。
それは一切速度を緩めずに、紅葉に向かってまた飛びかかってきた。
紅葉はまた避ける。
巫女がまたまた迫る。
紅葉はまたまた避ける。
巫女がまたまたまた迫る。
紅葉はまたまたまた避ける。
巫女がまたまたまたまた…………
一瞬の隙間もない攻撃と回避の連続だった。


(あっちは六本でこっちは二本――文字通り攻撃の手数が違いすぎますわ。オマケに、小さくなって小回りが効くようになった所為か、こちらの攻撃は回避される始末……せめて、楽器を取り出して弾ける暇があれば良いんですけど)


紅葉がそんな事を考えていると、彼女の視界の端に、何かが雷のような速度でやって来た。
新たな敵かと思った紅葉だが、そうでは無い。
雷のような速度でやって来たのは、雷であった。
雷のスタンド――『レッド・ホット・チリペッパー』だった。

(なっ!?)


紅葉は絶句した。
音石が『レッド・ホット・チリペッパー』を顕現させ、室内に入れたのは、回避に回ってばかりの紅葉の加勢をする為なのだろうが、紅葉でさえスピード戦で苦戦している巫女相手に、紅葉よりも弱い『レッド・ホット・チリペッパー』が立ち向かった所で、一蹴されるだけである――現在の巫女に、蹴りをする脚などないのだけれど。
そんな紅葉の考えを知ってか知らずか、音石はやけに自信満々な顔をしていた。


「オレはさっきから不思議に思ってたんだけどよォ〜〜、この化物はどうしてわざわざとぐろを解いてまで、いかにも弱点な丸裸の上半身を晒したんだ?」


『レッド・ホット・チリペッパー』のの本体は、歌うように語る。


「紅葉。お前とそいつのバトルを見て、その答えは分かったぜ。そいつは『視覚を確保する為』にとぐろを解いたんだ。とぐろを巻いた状態じゃあ、オレ達の姿が見えなくて、大雑把な攻撃しか出来ねえからよォ〜〜。そんな攻撃じゃあ、確実性に欠けるよなァ〜〜〜〜?」


彼が言葉を続ける間も、巫女は紅葉への何度目かの接近を行なっている。


「だから、下半身を失うも、とぐろから脱出し、視覚がはっきりとしている今、そいつは正確にお前へと向かい、攻撃を仕掛けているんだろうさ」
「だったらよォ」


「急に目が見えなくなったら、どうなるんだろうなァ〜〜〜〜ッ!?」


言って、音石はギターを荒々しく、しかし、整ったメロディが出るように弾き鳴らした。
それと同時に、彼のスタンドが爆発した。
いや、違う。
爆発しているかと見紛うほどに激しく発光したのだ!
赤き雷獣が持つスタンドパワーから変換された電光は、室内を埋め尽くす。
スタンドが成長する以前は搦め手頼りの戦法を多く使っていた音石にとって、このような目くらましは息をするように簡単にできる行為だった。


「███ █――!?」


突如発生した閃光を、六本の腕を壁にして防ごうとする巫女だが、それより光の方が速いのは物理法則的に絶対に覆しようのない事だった。
結果、網膜が光に貫かれ、巫女の視覚は一時的ではあるものの著しく低下した。
視界が突如真っ白に包まれた事に魂消た巫女は、動きを止め、軽い混乱状態に陥った。
一方、紅葉はというと、パートナーである音石が何をするかを完全に読んでおり、事前に瞼を閉じていたので視力減退を負わなかった――などという事はなく、普通に網膜を焼かれ、失明に近いレベルで目が見えなくなっていた。


「はあ〜……」


と、深い溜息を吐く紅葉。


「なに自信満々に語って、私の目を潰しちゃってくれてるんですの、マスター。やっぱり、貴方はトークに向いていませんわね」


しかし。
しかし、だ。
音を支配し、音を操る紅葉にとって。
音で相手の位置を把握でき、音で広範囲を大雑把に攻撃できる紅葉にとって。
視覚を失った事など、些細な事なのだ。

『ニヤリ』というオノマトペがこれ以上なく似合う笑みを口元に浮かべながら、紅葉はゆっくりと、実に余裕を持った動作で楽器を取り出した。
それは琴のようでありギターのようでもあるという実に不恰好な楽器だが、今の彼女が持つと、それは連続殺人鬼が持つ凶器のようにおどろおどろしいオーラを纏っているようにさえ見えた。
紅葉は、慣れた手つきで弦に指を添えた。
そして、未だに視力が回復せず、光が網膜を貫いた衝撃でのたうち回っている巫女に向かって一言。


「鬼さんこちら、手の鳴る方へ――って、あらあら……これは私が言っちゃ駄目な台詞ですわね」


手ではなく、弦楽器の鳴る音が部屋に響いた。


▲▼▲▼▲▼▲

閉塞感のような息苦しさがすっかり無くなった屋敷の玄関から出ると、紅葉たちが散らかした巨頭人間たちの遺体は、綺麗さっぱり消え失せていた。
霊的な召喚物であるのだから、絶命してしばらくすれば跡を残さずに消え去るのは当たり前である。


「うーん、まだ視界が少しボヤけてますわ……」

「寧ろ、こんな短時間で少しボヤける程度まで回復しているお前の視力にオレは驚きだぜ。話には聞いてたが、サーヴァントの回復能力ってかなり高いんだな」

「まあ、そもそも、マスターがあの時事前に注意の一つでもしていれば、視力の完全回復を待つ羽目にならなかったんですけどね。念話で伝えようとか思わなかったんですの?」

「あの時はそんな事をする暇がなかっただろうが」

「その割には、やけに長い前口上を喋っていた気がしますわね?」


『魅力』の『魅』の字に『鬼』を入れたのは誰だろうか。
その人物を探し出し、「なぜ『魅力』の『魅』の字に『鬼』を入れているのか?」と問えば、「紅玉の如き美しさを誇る紅葉が、鬼だったからだ」と答えるに違いない。
一つの字の起源に関わっているのではと思わざるを得ない程に魅力的な顔に、紅葉は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
折角の美貌が台無しである。
それを見て、これ以上この話題を続けるのは拙いと考えた音石は話題を変える事にした。


「ところで、この屋敷にB級ホラー映画に出て来そうな化物たちを放ったのは結局誰なんだろうな」

「……知りませんわよ。少なくとも妖精を放っているキャスターや、死霊の魂を集めているキャスターではないと思いますがね」


「ただ」――と、紅葉は台詞を付け加えた。


「これはほぼ当たっていると思われる予想ですけど、この館を作ったサーヴァント――おそらく、クラスはキャスターでしょうか――は、怪談や都市伝説の類を従える能力を持っていますわ」


屋敷の中で見た、都市伝説上の存在である化物達の姿を思い出しながら紅葉は語った。


「怪談や都市伝説を従えるだぁ? そんな奴がサーヴァントにいるのかよ」

「さあ。それはよく知りませんけど……怪談の噺家とかがサーヴァントになっていれば、あり得ない能力ではありませんわね」


実際には語り手ではなく、語られる話そのものがサーヴァントとなっているのだが、流石にそんな突飛な発想を思いつけるほど紅葉は人間離れしていないようである。


「そんな能力を持つ奴が居るってのは、まあ、分かった。けどよぉ――んじゃあ、そいつがこんな屋敷に化物達を詰め込んだのはどうしてなんだろうな」

「それこそ本当に分かりませんわよ。屋敷内に魔力をプールしていて、それの護衛を化物達にさせていたってわけでもありませんしね。――お化け屋敷でも作りたかったのかもしれませんわ」


最後に紅葉はそう冗談めかして言ったが、それはかなり真相に近い答えであった。
この館の作り主は、ただ訪れた者を怖がらせ、恐怖に陥れる為に化物を生み出し、館の各所に配置したのである。
勿論、そんな狂人の事情を知らない音石たちは、暫く頭を捻るも、納得のいく答えを見つけることは出来なかった。
結局は、噂を操るキャスターには今後も気をつけよう、という結論が出て、此度の議論は幕を閉じたのである。

音石は手首に巻いた高級そうな腕時計に視線を落とした。


「そういや、此処に入ってから出てくるまでで、三十分もかからなかったんだな」

「そんなに短かったんですの? てっきり、十三日くらいかかってたかと思いましたわ」

「それは大袈裟すぎねぇか?」

「そういえば、外にタクシーを待たせていませんけど、ここからマスターの自宅までどうやって向かうつもりですの?」

「あー……。いくら此処に入る場面を見られたくねーからって、待たせてなかったのは失敗だったかもな……。電話で新しく呼ぶか……」


そんな事を喋りつつ、音石達は門を開き、屋敷の敷地外へと出て行った。
彼らが去って、敷地内に残されたのは至る所が破壊された廃墟だけであった。

【深山町 武家屋敷前/1日目 午前】

【音石明@ジョジョの奇妙な冒険Part4 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]健康 、スタンドエネルギー消費(その辺から電力を吸収すればすぐに元に戻ります)
[令呪]残り3画
[装備]こだわりのギター
[道具]携帯電話、財布など
[所持金]盗んだ現金(そこそこ)&盗んだ貴金属類(たっぷり・ただし換金手段のアテなし)
[思考・状況]
基本行動方針:美味しいトコを掠め取りつつ聖杯戦争で勝利を。ついでに伝説開始
[備考]
1.討伐令には真面目に取り組まないが、チャンスがあれば美味しいとこだけ横取りを狙う
2.442プロのライブの時間に合わせて『路上ゲリラライブ』を決行する! そのための準備だ! まずは場所探し!
3.噂を操るキャスター(推定)には気を付ける。

※深山町の片隅にアパートがあります。
※バーサーカー(モードレッド)、セイバー(スルト)、アーチャー(ヴェルマ)の戦闘を途中から観戦していました。
 セイバー(スルト)とアーチャー(ヴェルマ)主従の同盟を確認しました。
※スタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は、バーサーカー(モードレッド)の赤雷の余波を少量吸収しました。
 スタンドの色が黄色から赤へと変化し、僅かに神秘の力と魔力を纏っています。
※噂を操るサーヴァントの存在(フォークロア)を把握しましたが、それの詳細にはいくつか誤解をしています。

【キャスター(紅葉)@史実(10世紀日本)】
[状態]健康、魔力消費(小)、視力低下(数分で治ります)
[装備]紅葉琴(ギター型)
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:美味しいトコを掠め取りつつ聖杯戦争で勝利を
[備考]
1.討伐令には真面目に取り組まないが、チャンスがあれば美味しいとこだけ横取りを狙う
2.442プロのライブの時間に合わせて『路上ゲリラライブ』を決行ですわ! そのための準備です!
3.噂を操るキャスター(推定)には気を付ける。

※バーサーカー(モードレッド)、セイバー(スルト)、アーチャー(ヴェルマ)の戦闘を途中から観戦していました。
※冬木市に死者の霊が居ないことに気付きました。何らかのキャスタークラスの干渉を疑っています。
※キャスター(パトリキウス)が斥候に放った妖精たちの存在に気付いています。
 1回に限り脅して支配権を強奪できると読んでいますが、実行すると確実にパトリキウスに察知され対策されます。
※噂を操るサーヴァントの存在(フォークロア)を把握しましたが、それの詳細にはいくつか誤解をしています。


時系列順


投下順


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:Freaky Styley 音石明 :硝子狩
キャスター(紅葉)

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最終更新:2017年03月26日 14:16