火と鉄は人を統べ、支配し、服従させる。
そこには慈悲などない。
意思を持たぬ者はみな、地に伏せる。
――――『夕陽の荒野』
『アー……英語、わかります。少し。そちらの方が良い、ですか?』
「あ、すみませ――すまない。頼む」
――これで同い年とかマジかよ……。
電話越しに聞こえる蕩けそうな声に、ウェイバーは自室の天井を振り仰いだ。
何だかひどく泣きたくなった。
ニッタ・ミナミ――いや東洋では姓名の順が逆だから、ミナミ・ニッタか。
ウェイバーは先ほどエナジードリンクなどと一緒に、コンビニで買い込んだ品へと目を落とす。
先ほどまでアーチャーが読みふけり、ベッドの上に放り出された週刊のコミック雑誌だ。
(ウェイバーはその分厚さと、一冊に関係ないコミックが何十本も掲載されている事にも驚いたが)
冬場だというのに表紙のグラビアは季節感のない水着のアイドルで……つまりは電話の向こうの少女だった。
ぴたりと全身の柔らかな輪郭に張り付き、乳房の形に歪んだ赤いラインが胸元を強調する水着。
髪はしっとりと濡れて肩にかかりながら、水滴が光を反射してきらきらと輝きを放っている。
そして水の雫を全身にまとわせて、あどけない表情でプールから上がろうとする一枚。
露出度は低いし、淫靡なポーズを取っているわけでもない。媚びたところは一つもない。
だけれど、男をどきりとさせるセクシャルな雰囲気が漂っていた。
「それで、ええと……ライブ会場にサーヴァントが?」
『はい。ヘリオガバルスと名乗って、います。した。
魅力的? 魅了? 暗示……? 力、ある。あります。他、わからない。
マスター。女の子……高校生、くらい。
あと他。他にも、サーヴァント。近く。いる。みたいです。人食い、バーサーカー』
「むむむ……」
この報告はウェイバーにとってはショックだった。
セイバーのマスターから連絡があったのは、ウェイバーとアーチャーが一通りの「買い物」を終えて自宅へ戻った後の事だった。
あった方が便利かなと、アーチャーのお陰で旅費に余裕が出たため購入したプリペイド携帯。
新田美波と名乗った彼女との、拙い日本語と拙い英語を入り交えた会話は、つまりこのようなものだった。
・事務所にサーヴァントが現れた。キャスターのヘリオガバルスを名乗っており、暗示や魅了の能力があるらしい。
・事務所の近くには他にもサーヴァントがいるらしい。これは気配だけしか確認できず。
・さらに付近を人食いのバーサーカーが徘徊している。セイバーが確認した。
――案の定、ライブ会場は戦場ど真ん中になってきてるよなぁ……。
事実、彼女が自分から名乗った通り、アイドルがマスターなのだから無理もない。
加えて言えば、アーチャーや件のヘリオガバルスが乗り込もうとしたのも、原因の一つだろう。
しかしセイバーとアーチャーに加え、バーサーカー、他にも不確定のサーヴァントがいるとは。
"まとも"な聖杯戦争なら過半数以上が集結していることになる。ともすればそのまま決戦となりかねない。
そしてこの聖杯戦争は"まとも"なものではない。
何故なら明らかに"人食いのバーサーカー"と、初戦で遭遇した"赤雷のバーサーカー"は別人だ。
そしてさらに討伐令によれば、センタービルを爆破したのも"道化のバーサーカー"だという。
――セイバー、アーチャー、キャスター、バーサーカー、バーサーカー、バーサーカー、あと一騎で七騎の可能性はあるけど……。
希望的観測はよそう。
つまり、この聖杯戦争は七組七騎ではないという事だ。
――とはいえ流石に、アイドルマスターが五人六人もいるわけはないだろうな。
会話を続けながらウェイバーはぱらぱらと雑誌をめくり、プロフィール欄を見つけ出す。
新田美波(19) 女子大生
身長:165cm 体重:45kg
B-W-H:82-55-85
誕生日:7月27日(獅子座)
血液型:O型
趣味:ラクロス、資格取得
身長は彼より高く、口調は大人びていて、顔つきは東洋人らしくどこか幼い。
それでいてスタイルはプレイボーイのピンナップにも匹敵する、妙な色気がある。
直接会ったこともない相手、向こうは此方の顔も知らないだろうに、自分は相手のスリーサイズまで知っている。
その妙な背徳感に、ウェイバーは思わずごくりと唾を――
「えいっ」
「うひゃあっ!?」
『ど、しました?』
「あ、いや、なんでもない、なんでもない……!」
ふいに背中へのしかかった柔らかな重みに、ウェイバーは叫び声と共に唾を吹いた。
言うまでもない。アーチャーだ。
しかもこの柔らかさ――ぐにぐにと形を歪める感触は、明らかに、その。ええと……。
――おま、お前、お前なぁ……っ!
振り返ったウェイバーの肩越しに、キャミソール一枚のアーチャーがにんまりと笑っていた。
薄布一枚を透かして色々と見え隠れしている姿は、ウェイバーでなくとも赤面ものだろう。
帰ってくるなり服を脱ぎ散らかし、素裸はやめろと顔を赤くして怒鳴ったらこの通り。
下着姿で漫画を読みふけり、ガチャガチャ銃をいじくり回し、挙句の果てにご覧の有様。
ウェイバーが口をパクパクして抗議しても、アーチャーはいつも通りの猫めいた表情だ。
しかし、どうしてだろう、目が笑っていない気がする――……。
「と、とにかく……! こっちとしても気をつけるから……よろしく」
『はい。お願いします』
電話が切れて、ウェイバーはふぅっと息を吐いた。どっと疲れた気がする。
そもそも交渉なんてガラじゃあないのだ。ましてや、同年代の女子とだなんて――……。
「気をつけなよ、ウェイバー」
――そういえばこいつも、ほとんど同い年だったな。
主な疲労原因である21歳のアーチャーに、ウェイバーは「当たり前だろ」と刺々しい声で言い返す。
すると彼女は「違う違う」と、キャミソールの肩紐をだらしなくずらしたまま、白く華奢な手を左右に振った。
「セイバーのマスターだよ。ありゃあ、まるでメイブだ。
向こうが意識してるかどうかはともかく、男を手玉に取ることにかけては天下一品さ」
「メイブって……コナハトの妖精女王か。お前、妙なこと知ってるな」
「わたし"は"会ったこと無いけどね」
妙なことを言うアーチャーだが、それもまあいつもの事だ。
ウェイバーはいつかどこかの自分が関わる人理修復の旅など知る由もなく、あっさりとその言葉を聞き流した。
それよりも今は大事なことがある。
「っていうか、そういうのやめろって……!」
「えー?」
未だにしだれかかるように身を寄せている、彼女の重みと肉の感触だ。
ふわりと髪から薫るは、この家のシャンプーの香りとも違う、妙に甘い匂い。
汗だろうか。一瞬そんな考えが浮かび、ウェイバーは顔を真っ赤にして振り払った。
「きゃあ」などとふざけた声を上げながらベッドに転がったアーチャーは、くすくすと笑いながら身を起こした。
「ったく、童貞っぽい対応だなぁ。モテないだろ、ウェイバー」
「う、うううう、う、ううるさい! うるさいな! そっちはできたのか!?」
「もち。見なよ、ウェイバー」
ひょいっと適当にアーチャーが投げ渡したのは、奇妙な形の銃だった。
ライフル銃――ウィンチェスターM1873。しかし長銃身のはずが、それは半ばから断ち切られている。
ベッドの上にあぐらをかいてやっていたのは、どうやらこの作業だったらしい。
なぜ間近で行われていた作業の詳細をウェイバーが知らないのかと言えば……。
――わざとやってんだよなぁ……!
見えそうで見えない、組んだ彼女の太ももの付け根辺りに原因があったのだが、それはさておく。
「ランダルって賞金稼ぎが使ってた奴で、取り回しやすくしたのさ。
これでリボルヴァが6と6。ウィンチェスターが6と12。あわせて30発。
弾数はパンチと同じ。いざって時、撃てる数は多いほうが良いしね」
もう一丁、アーチャーはそのまま無改造のウィンチェスターライフルを取り上げ、構え、ばん! と子供が遊びでやるように撃ってみせる。
やっぱりウィンチェスターじゃなくちゃ! などと片目をつむってけらけらとはしゃぐ姿は、本当に子供だ。
「……ま、良いけどな」
ウェイバーが溜息を吐くと、アーチャーは「お?」と不思議そうな顔をした。
「なんだ、怒られると思ったのに。意外と素直なんだ?」
「そりゃまあ、怒りたいとこはあるさ。銃砲店行って暗示かけて銃買って、結構な手間だったし、他にも……」
「好みの下着を着ろとか? あ、脱いだほうが良いか。でもセイバーのマスターほど大きくないよ、わたしのは」
「違う!」
ひらひらと垂れ下がった肩紐をさらにずらすアーチャーの姿に、ウェイバーは声を荒げた。
そして「ああ、もう」と頭痛を堪えるように眉間を押さえる。本当に、頭が痛い。
「……お前の宝具は"宝具じゃない"だろ。なら、銃はあればあるだけ有利ってことだ」
アーチャー、ヴィルマ・ヘンリエッタ・アントリム、ビリー・ザ・キッド。
その宝具は――正確には宝具ではない。
それは笑ってしまう話、ただ単に「とてつもなく速い早撃ち」でしかないのだ。
つまり、極端な話「アーチャーが握った銃は全て宝具になる」と言い換えても良い。
しかし魔剣、聖剣が入り乱れ、人外の怪物が跳梁跋扈し、業火と雷電が激突する聖杯戦争において、鉄と鉛で挑もうというのだ。
これが笑い話でなく何だというのか――……。
「それにお前の魔力消費は極端に少ない。……僕でも問題なく維持できるんだからな。
なら、僕らの強みは継戦能力ってことだろ?
戦闘能力じゃ、この聖杯戦争でも下から数えた方が早いんだ。手数で勝負しなきゃ、押し負ける」
ウェイバーは子供っぽいと思いつつも、親指の爪をかじりと齧った。
「……あと多分、この聖杯戦争に他にアーチャーはいない。
いたら、ビルの爆破――あんな狙撃に適した建物を、あっさり放棄するわけがない」
そうウェイバーが結論を下したのは、聖杯戦争の開幕を告げたあの騒動が原因だった。
あの爆破が他のサーヴァントに見過ごされ、実際に行われたという一点。
もし仮に自分が神話時代の弓兵を伴っていたとすれば、間違いなくウェイバーはあのビルを拠点の一つとしていただろう。
結果的に「高いビルは何かふっ飛ばされそう」と考えて、一般の民家に潜伏したウェイバーの選択は功を奏したことになる。
ホテルになど泊まっていたら、今頃どうなっていたことか――……もちろん、金がなかったお陰だが。
「なら、長距離射撃ができるのは僕らだけ――多分だけどな。
セイバーの剣を見る限り、あの魔剣の炎は辺り一面を薙ぎ払えるわけだし……。
他にもクーフーリンの投槍術みたいなのが使える奴とか、いるかもだけど……。
この強みを活かさなきゃ、僕らは絶対に負ける」
だから銃に関して、アーチャーが戦力強化を図るのならウェイバーに文句はなかった。
この聖杯戦争における「射撃の専門家」はただ一人、他ならぬ彼女だけなのだから。
銃で勝ち抜かねばならない以上、アーチャーの意見を聞かねば待っているのは敗北のみだ。
「……へぇ」
そんなウェイバーの自己嫌悪の入り混じった評価の低さに対して、アーチャーは低い声で呟いた。
「ちゃんと考えてるんだね、ウェイバーはさ」
「当たり前だろ。……考えなきゃ負けるんだから」
ウェイバーは恐恐とアーチャーの顔を見て、彼女が笑顔を浮かべている事にほっと安心する。
「それで、どうするのさウェイバー。他のサーヴァントは動いてるわけだろ?」
「……バーサーカーは正体不明、そしてキャスターのヘリオガバルスか」
「本人だと思うかい? えっと、確か、ローマ皇帝だっけ。わたしみたいに偽名って可能性もあるぜ?」
「たぶんヘリオガバルスは――いや、お前の例もあるから、史実を当てにして良いかわからないけど――本人で良いと思う。
だって、ヘリオガバルスを騙るメリットが無い。良い逸話なんて一つもないんだ」
コンモドゥスがヘラクレスの名を騙る、あるいは逆にヘラクレスがコンモドゥスの名を騙る。
そういう偽装として十分機能するケースならばともかく、よりにもよってヘリオガバルスのふりをする。その意味がない。
太陽神が霊基の格を落として人の英霊としてやってきてるなんて可能性も考えたが、そんなケースが早々あってたまるものか。
「ヘリオガバルス、
マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥス、ローマ皇帝。
にも関わらず女装して男の奴隷の花嫁になろうとしたり、まあ酷い話が多い」
「わたしみたく、本当に女だったのかもよ? 皇帝ネロも"女装"してたんだろ、アレ」
「純潔を誓った巫女を手篭めにしたってんだから、どうしようもない事に違いは無いよ」
適当なちゃちゃ入れに顔をしかめながら、ウェイバーは「続けるぞ」と言った。
「派手好きだし、もし本人なら――アイドルになってライブに出たい! って考えるのはすごく自然だと思う。
それが目的なんだ。きっと、他に狙いなんて何も無い――世界の中心は自分、って事だよ」
「アーハン?」
アーチャーはそう言って、唇に人差し指をあてがって考え込む。
「つまり、魅了の力でライブを大成功させる。万々歳ってことか。なら放置したって良いんじゃないかな?」
バーサーカーハントも悪くない。アーチャーはそう言って、笑みを深めてライフルを手に取る。
「いや……」とウェイバーは首を横に振った。「いや、違うぞ、アーチャー」
そう、ヘリオガバルスがライブに出る。観客を魅了して、世界の中心に立とうと考える。
それは自然なことだ。ヘリオガバルスという英霊が史実通りなら、そうするに決まっている。
だが――……。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ヘリオガバルスは、誰も魅了できなかったんだ」
それは史実に記録された、純然たる事実だ。
暴君ネロは人を楽しませようとして失敗した。しかしヘリオガバルスは、それ以前の問題だ。
薔薇と太陽を奉じ、豪華絢爛に生き、被虐を好み残虐を愛し、己が欲望と感情に身を委ねた皇帝。
しかしやがては臣民の反乱にあって捕らわれ、処刑され、その身体はゴミ屑のように切り刻まれ、川へ捨てられた。
かの皇帝は最後の最後まで自分の愉しみを追求し、人が何を喜ぶのかを理解しなかった。
ヘリオガバルスが関わったショーなど、上手く行くわけがない。
最後には必ず、致命的な破綻が待ち受けている。
「別に、いーんじゃない?」
だが、アーチャーの答えは至極軽いものだった。
「ライブが上手くいかない。セイバーが苦労する。
セイバー狙いで赤い奴が来る。ピエロも突っ込んでくる。人食いの化物も来るんだろ?
他のサーヴァントどもも飛び回って、どったんばったん大騒ぎ。こいつはもう収集つかないぜ?
アイドルたちが生きるか死ぬかも、こっちが気にする義理はないしさ。
そこにわざわざ飛び込んでやる必要なんて、ないだろ」
漁夫の利を狙おうぜウェイバー。
アーチャーはそう囁く。目を細めて、チェシャ猫のようににやにや笑いながら。
「……」
ウェイバーは黙って、手の甲に浮かんだ令呪を眺めた。
自分は立派な――ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを見返せるような、魔術師だと証明するべく此処にいる。
そのために聖杯戦争を勝ち抜く。このアーチャーと共に。
なら、どうすれば良い?
何をすれば良い?
自分は――……。
「……ヘリオガバルスに対処しよう」
ウェイバーは、少しの深呼吸の後にそう言い切った。
「セイバーとの約束もある。協力関係を結んだのに、反故にはできない。
魔術師として、契約ってのは遵守しなきゃならないものだ。
だいいち、ライブで英霊が大暴れなんて、そんな神秘の漏洩は看過できないからな」
魔術師として……魔術師として! 彼はもう一度、言い訳がましくそう口にした。
アーチャーは「良いのかい?」と意地悪く口を開いた。
「討伐令の報酬――他の奴らに持ってかれちゃうかもよ」
「手に入るかどうかわかんないもの、期待したってしょうがないだろ。
……第一、この聖杯戦争は"まとも"じゃない。監督役だって、信用できないよ」
「ま、そう言うんなら仕方ないか」
アーチャーの表情は、あの笑顔から変わらない。
彼女はくるり、くるりと一人で遊ぶように白い指先で黒光りする銃を弄んだ。
「じゃあ、止めに行きましょうかね。
まったく、案の定あのミナミとかいう子にたぶらかされて――……」
ウェイバーは「む」と唇を尖らせた。それは違う。勘違いも良いところだ。
「けどだって、お前……ライブ出たいんだろ?」
「――――――」
不意の沈黙。ごとりと音を立てて、彼女の手から銃が零れ落ちた音。
――怒らせたか!?
思わずびくりと身を震わせて顔を上げたウェイバーの視界に飛び込んできたのは、
「……すごい」
予想に反して、目をまん丸に見開いて此方を見つめる、ヴィルマ・ヘンリエッタ・アントリムだった。
「な、なんだよ。文句あるのか……? だ、だいたい、僕の実力が低いのはともかく、そっちだって……」
「うん、いや。ごめん。ごめんね。謝る」
はたはたと手を振った彼女は、にこりと、柔らかく微笑んだ。――それこそ本当に、21歳の娘らしい表情だった。
「思ってた以上に紳士的だね、ウェイバー」
「な……」
ウェイバーが絶句した間に、彼女は「うん、うん」と何度か頷いて、あっさりといつも通りのにんまり顔に戻っている。
今の一瞬で見えた表情は、もしかすると見間違えか何かだったのだろうか?
「よっし、そうと決まれば……セイバーのマスター、ミナミのとこに行った方が良いね。
セイバーのかわりにヘリオガバルスやら他のサーヴァントどもからアイドルを守ってやるって言えば、向こうもこっちを無碍にできないよ」
「おい、アーチャー。わかってると思うけど……」
ウェイバーは悪辣なことを言うアーチャーに、溜息混じりに言った。
「決裂しても、関係ない人とかまで巻き込んだりはしないからな」
「その通り」
アーチャーは我が意を得たりというように、ウェイバーへ向けて人差し指を向けた。
「――だからこそ、『信用』ってものが手に入るのさ」
そしてBANG!と指鉄砲が弾かれる。片目を閉じて、コケティッシュな薄笑い。
「さて! ぶっつけ本番でステージに飛び込むのも悪くはないけど、せっかくだもんな。練習も必要、服も決めないと――……」
「ステージ衣装なら向こうで用意するんじゃないのか? ……わかんないけど」
「ばっかだな、ウェイバー! いくらわたしの生写真が500万ドルだからって、第一印象ってのは大事なんだよ!」
颯爽とベッドから飛び降りたアーチャーが、嬉々とした様子でクローゼットの中の服を漁りだす。
色とりどりの服が飛び交い、自分の頭にガーターストッキングが飛んできて、ウェイバーは「お前なあ!」と声を張り上げかけ、やめた。
――まあ、良いさ。
令呪は欲しいが、他の組がバーサーカーを追っかけて消耗してくれるなら、継戦能力の高いこちらが有利というもの。
――それに多分……"人食い"も、"道化"も、もしかしたら"赤雷"だって、ライブへやってくる。
――いや、バーサーカー達だけじゃない。
探し回らなくても向こうから飛び込んでくるのなら、そこを狙い撃ってやれば良い。
ならなおのことセイバーと良き同盟関係が維持できれば、戦力に乏しい此方としても願ったり叶ったりだ。
アイドルを純真無垢に信じられるほどウェイバーは子供でも大人でもないが、少なくともセイバーたちは主従揃って善性であるように思えたし……。
それに何より、アーチャーの機嫌も悪くはなさそうだ。
「なあ、ウェイバー? どれが良いかな? ちょっと見てくれよ」
アーチャーが胸元に服を宛てがいながら、くるりとターンして此方を振り返る。
――そう言えば、大きさどのぐらいだったろう。
ウェイバーはふと先ほどまで背中に感じていた重みを考え、慌ててばたばたとその思考を追い払った。
はい、はい、と数度会話を繰り返した後、美波は携帯の通話をそっと切った。
442プロの事務所はライブ直前ということもあって、スタッフが慌ただしく走り回っている。
なにしろ連続殺人、ビルの爆破、ライブ会場での小火、そしてTV番組への殺人鬼乱入……。
――とても、まともだなんて思えない。
そんな中、美波は目を伏せて、思わず物憂げな吐息を唇から漏らしてしまった。
セイバーは「協調関係維持のための保険だろう」と言っていたが、どうもそうは行かなくなってきた。
聖杯戦争、暗躍する英霊たち、狙われたアイドル……。
思い描いていたライブは、刻一刻と変化する状況によって随分といびつに形を変えられてしまっている。
――でも、守らないと。
この世界のアイドルたちは、誰ひとりとしてライブが失敗となる事を望んでいない。
それは"彼女の世界"のアイドルたちと同じで――442プロに身を置く新田美波もそうだったろう。
仮初とはいえ、今は"この世界"の新田美波となった以上、美波としてもライブを成功させたいと思うのは当然だった。
そういう意味では、これは幸運だったのに違いない。
少なくともベル・スタアを名乗るあのアーチャーは、ライブを成功させるために協力してくれるのだから。
電話越しだがマスターの少年――セイバーの話では、だが――も語り口は穏やかで、此方が聞き取りやすいようゆっくりと喋ってくれ、好ましく思えた。
「どうだって?」
「あ、はい。アーチャ……スタアさん、じきに到着するそうです。
あと、えっと……一人、マス……えっと、友だちも一緒に来てくれるとかで、手伝ってくれるみたいです。」
「そっか、良かった。飛び入りだけど……これなら何とか、練習や調整もできそうだ」
ライブ前の慌ただしさ、忙しさの中でばたばたと走り回っていたプロデューサーが、ほっと息を吐く。
ちょっとスタジオで練習するにせよ、衣装を調整するにせよ、ライブ一つを成功させるには膨大な下準備と手続きと調整が必要なものだ。
その全てをプロデューサーが行っていてくれたことを、美波はよく知っていた。
いつも目で追いかけていれば、そんなことくらいすぐにわかる。覚えてしまう。
――この世界のプロデューサーさんは別人だけれど。
そんなところは"あの人"と変わらないなと思い、美波は心から「お疲れ様です」と「ありがとうございます」と伝えた。
「いや、良いよ。仕事だからね。それにしても留学生の子だっけ? 飛び入りだからな……。
ヘリオガバルスさんみたいにとは言わないけど、ボーカル、ダンス、ビジュアルがある程度高くないと厳しいな……」
「あ、あははは……」
美波はプロデューサーの懸念に「大丈夫だと思いますよ?」と引きつった笑みで答えた。
結局、ベル・スタアは「同じ大学の留学生」という形で紹介せざるを得なかったのだ。
――うん、でも……。
セイバーが表立って皆の傍にいられない以上、ヘリオガバルスや"人食いのバーサーカー"に対処できる人が、すぐ傍にいてくれるというのは安心だ。
もちろんアーチャーたちが無条件に信頼できるというわけではないが、いざという時の味方がいるのは心強い。
それはつまり、セイバーがある程度心置きなく活動できるという事でもあるからだ。
――もっとも、私が人質みたいなものでもあるのよね。
アーチャーが自分とアイドルの皆を守ってくれるということは、「もしも自分たちを裏切ればどうなるかわかっているな」という意思表示でもあろう。
それは何を考えているかわからない存在が跳梁跋扈する中で、ひどく単純明快で、落ち着くものだった。
『無償の善意』などと言われていたら、きっと美波はアーチャー主従の協力を拒否していたに違いない。
やがてノックノック、無遠慮で無作法、でも軽快な調子でドアが叩かれ、その人物が現れた。
バンと両手でドアを押し開き、ふわりと風を吹かせて、不敵な笑顔と共に。
「ほら、ウェイバー。ついた、ついた! やっぱこっちの道であってたんだよね!」
「おまッ お前なぁ……! 人に荷物持ちさせて、道案内までさせて、そのくせ勝手に行くから……!」
一人の少年――あれがマスターの「
ウェイバー・ベルベット」だろう――を伴って現れた、金髪の少女。
口からまくし立てられるのは、とても綺麗な響きのクイーンズイングリッシュ。
ベル・スタアはアメリカ人ではなかったかしら――と美波が考えたのも、ほんの一瞬のこと。
颯爽――と表現すべきなのだろうか。
すらりと伸びた足を包むのは、ピタリとした黒のレザーパンツ。
股上は危険なほど短くて、裾の短いTシャツとの隙間からは引き締まった腹筋と臍がちらりと覗いている。
履きこなしているブーツはやや大きいのか、歩く度にガツガツと音を立てていた。
あとはジャケットを羽織り、首元にはマフラーを巻いた……ラフな格好。
特筆すべき点は無い。無い、のだが――……。
「――」
けれど、どうしてだろう。目が離せなかった。
あの皇帝が身にまとうような、魔的なものではない。
ただただ鮮烈。一挙手一投足が、眩く目に焼き付けられる。
「Hey,Minami! How you doing?」
それはまるで、ただ一瞬、煌々と輝いて消えてしまう、流れ星のような――――……。
んー、でも今までなんとかなってきたし!
これからだって何とかなるし!
だからキミも大丈夫!
――――『夕陽の荒野』
【新都 442プロダクション /1日目 午後】
【ウェイバー・ベルベット@Fate/ZERO】
[状態] 健康
[装備] 栄養ドリンク数本
[道具] 魔術的実験器具類一式
[令呪] 残り三画
[所持金] それなり(旅費+マッケンジー夫妻からの小遣い+アーチャーの稼ぎ)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜いて自分の実力を認めさせる
セイバー(スキールニル)とはなるべく協調関係を維持する
[備考]
1.現在はマッケンジー夫妻宅に「孫」として潜伏しています。
2.討伐令より、ライブの成功を優先させます。
3.セイバー(スキールニル)、バーサーカー(
モードレッド)、キャスター(ヘリオガバルス)を認識しました。
4.バーサーカー(モードレッド)を撃退しましたが、詳細識別に失敗しました。
5.キャスター(ヘリオガバルス)、バーサーカー(ジェヴォーダンの獣)について、新田美波と情報共有を行いました。
6.キャスター(ヘリオガバルス)を警戒し、442プロへ合流します。
【
ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム@アーチャー】
[状態] 健康
[装備] コルト・サンダラーx2 ランダル銃x1 ウィンチェスター銃x1
[道具] ガンベルト 予備弾多数 現代衣装多数
[所持金] それなり(ウェイバーからの小遣い+マッケンジー夫妻からの小遣い+自分の稼ぎ)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しむ。
[備考]
1.現在はマッケンジー夫妻宅に「孫の恋人」として潜伏しています。
2.セイバー(スキールニル)、バーサーカー(モードレッド)を認識しました。
3.バーサーカー(モードレッド)を撃退し、セイバー(スキールニル)に報酬を要求しました。
4.「ベル・スタア」を名乗り、ライブ出演のため442プロへ合流します。
【新田美波@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 健康
[装備] 無し
[道具] 無し
[所持金] アイドルとしての平均的
[思考・状況]
基本行動方針:ライブを成功させる
[備考]
1.討伐令については保留し、対象の情報をアイドル達に周知、警告しました。
2.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)を「ベル・スタア」と誤認しています。
3.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリウム)にライブ出演の件(実現の可能性は低いと考えている)とキャスター(ヘリオガバルス)の情報について伝えました。
4.キャスター(ヘリオガバルス)の名前とパラメーターを把握しました。スキルについてはまだ上手く把握出来ていません。
5.『他者を魅了する魂』と『他人への強い恋慕』によって魅了に耐性を持っています。ただし無効化は出来ず、多少効きづらい程度です。
6.バーサーカー(ジェヴォーダンの獣)を警戒しました。
7.少なくとも『思いを寄せていたプロデューサー』は442プロダクションに存在しないようです。
.
時系列順
投下順
| ←Back |
Character name |
Next→ |
| :Belley Star |
ウェイバー・ベルベット |
:[[]] |
| ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム |
| 新田美波 |
:[[]] |
最終更新:2017年05月27日 16:06