じっとりと肌に浮かんでいた脂汗が降り注ぐシャワーの温水で流されていく。
鍛えられ均整の取れた裸体を包む程よい温度の水流の感覚は心地よいものの筈だが、シャワーを浴びている男性、ウェカピポの妹の夫の表情は不快と形容するのがぴったりな程に歪んでいた。
「……ふざけやがって、あの駄犬が」
吐き捨てる様に吐いた言葉がシャワーの水音にかき消される事なく浴室に響く。
何故ここまで怒りを露にしてるかと言えば、今朝方の一件で令呪を用いずにバーサーカーを従えたと思った矢先に、再び彼の身を魔力消費による苦痛と消耗が襲ったからだ。
帰還中のバーサーカーがシールダーの放ったワタリガラスに反応し魔力を放出した事によるものだが、彼にとっては理由などどうでもいい。
彼の怒りは命令を聞き入れたと思った従僕がすぐに同じ過ちを起こした事に集約されている。プライドの高いウェカピポの妹の夫にとって、故意か事故かに関係なく自分の命令が無下にされた事こそが許しがたいものであり、そこに正当性や理由の有無は関係ないのだ。
「クソカスが……思い知らせてやるぞ……。誰が主で誰が僕なのかを……徹底的に……その体に刻み付けてやる……!」
ぶつぶつとうわ言の様に怒りを言葉に乗せて吐き出しながら、シャワーの栓を閉る。
何事もなければバーサーカーはそろそろ戻ってくる時間だ。朝食を済ませてから先は聞き分けのない狂犬の調教に時間を使うことは彼の中で確定事項である。
討伐令に乗るかどうかについては、それからでも遅くはない筈として、今後の計画を練っていく。
バーサーカーを運用するにあたり、著しい消耗を身をもって経験した以上、うかつにバーサーカーを伴い戦場に出るという自殺行為は極力避けねばならない。
また、他のサーヴァントを見れば即座に戦闘を仕掛けるような狂犬は偵察などの斥候任務と極めて相性が悪いという事を理解できたのも、ある意味では収穫といえるだろう。
先の戦闘の教訓を踏まえて、サーヴァントを用いずに周囲の状況を把握する手段を講じなければならなくなった事に頭を痛める。
全21騎によるバトル・ロワイアルを生き抜くには効果的にバーサーカーを運用せねばならない。
その為にもバーサーカーには命令に忠実であることが求められる。
ではどうするか? 暴力によってバーサーカーを心身ともに屈服させ、歴史上に名を残す英雄とはいえど所詮は主人に絶対服従の従僕にすぎぬ自身の身の程を、イカれた脳みそに刻み込んでやるのが手っ取り早い。
サーヴァントに忠誠を誓わせ、一族に伝わる技術がサーヴァントに対してどの程度の効力を及ぼすのかを測り、そして今朝から今までの憂さを晴らせる。一石三鳥の一手に思いを馳せるウェカピポの妹の夫の顔に暗い笑みが浮かんだ。
鉄球の実験台をはじめ、どのようにいたぶってやろうかと胸の裡に嗜虐の炎を燃え盛らせながら彼は浴室を出る。
バスタオルで体を乾かしていると、背後に気配を感じた。
「……朝食を摂ったらお前には話がある。部屋で待機していろ」
怒気を孕んだ堅い声に応える様に、気配の主――彼のサーヴァントであるバーサーカー――がその気配を遠ざけていく。
無音の空間に、舌打ちが1つ響いた。
朝食を摂り終え、ウェカピポの妹の夫が自室に戻ると、それを待っていたかの様にバーサーカーが霊体化を解き姿を現す。
彼女は先の暴走について謝るでも弁解するでもなく、ただ平然と棒立ちのままでウェカピポの妹の夫を見ていた。
バーサーカーの鎧は銃弾によって一部破損している。霊体化による治癒によって傷口はなかったが、破損箇所の鎧は塗料とは異なる赤で染められており、また今朝にバーサーカーを送り出した時にはなかったものであったことから、これが戦闘の跡であることはウェカピポの妹の夫にも十分に想像できた。
「大方、偵察がバレて戦闘になり負傷した結果、俺の魔力を搾り取ってまで相手を倒そうとしたと言ったところか……、お前の様なやつには偵察も難しい仕事だという事を身をもって判らされたよ」
そもそも理性の大半を奪われているバーサーカーを単身で偵察任務に就かせた自身の失策を棚に上げながら、ウェカピポの妹の夫が批難がましい声をあげる。
暴走したバーサーカーを糾弾する調子のままバーサーカーを睨め付けつつ歩み寄っていくが、それでもバーサーカーは身動ぎひとつしない。
その様が、ウェカピポの妹の夫の神経を逆撫でする。
「今日の行いはお前が泣いて許しを乞えば大目に見てやろうと思っていたが、イカレ野郎には無理な話だったな。なら、こちらにも考えがある」
ふん、と鼻を鳴らしながら高圧的な言葉を吐き捨て、令呪の刻まれた右手を翳した。
自然と口角がつり上がっていくのをウェカピポの妹の夫は感じる。
これ以上、自分をナメた態度はとらせるものかと、傷つけられた自尊心の望むままに彼は口を開けた。
「令呪をもって命ずる。これよりお前は俺の行う暴力に対して決して抗わずに受け入れろ」
朗々と告げられた命令に呼応する様に右手に刻まれた刻印の内1画が光を放ちながら消えていく。
ピクリとバーサーカーが反応を示したが、だからといってどうなるというものでもない事は、この場で得た聖杯戦争についての知識で理解している。
ウェカピポの妹の夫はここから起こるであろう調教を思い浮かべ、その顔を喜悦に歪ませ――、
左頬に衝撃を受けて宙を舞った。
ここでウェカピポの妹の夫が過ちを犯している事について語らねばならない。
まず、彼がバーサーカーが自分の意のままに操れる駒であると誤解していた事だ。
サーヴァントは拡大解釈をすれば使い魔の類に分類されるが、それでも自由意思と自我を持った一個の知性体である。当然、マスターの方針と主義主張が異なれば抵抗の意思は見せるし抗議の声もあげる、酷い場合にはマスターを殺害することすらあり得るのだ。
しかし、一定以上の狂化スキルを得て現界したバーサーカーは、自らの意思を主張する様な事は殆んどなく、このクラスの英霊は指示に従うだけの文字通りの従僕(サーヴァント)であるかのような錯覚をマスターに与えてしまう。
故にバーサーカーは自発的にマスターに反抗しないものとの認識されがちなのだが、だからといって自己主張に乏しい事と反抗されない事は=(イコール)にはなりえない。
例えば、圧政を憎み反逆という名の狂気に身を染めた剣闘士は、仮に己の主が圧政者たらんとすれば令呪による戒めすら断ち切って笑顔を浮かべながら主を切り捨てるだろう。
例えば、裏切りを重ねた飛将軍に対してその逸話を防ぐために理性の大半を喪失させたところで、反骨の相という有り様までを奪う事は叶わず、居丈高に振る舞えばその鋭利な矛先は容易く主へと向けられるだろう。
狂気にその思考を支配させたところで理性と関係なく本人に根付いた在り方、気性までは奪えないのだ。
自身に宛がわれた英霊について調べることすらしなかったウェカピポの妹の夫にとっては知りようもない事実ではあるが、彼が呼び出したサーヴァントは"叛逆の騎士"として名高い
モードレッドである。
忠義・礼節の象徴である騎士という存在でありながら相反する"叛逆"の二つ名をつけられた英雄は、已むに已まれぬ事情もなく自身の激情の命じるままに騎士王に対しての叛逆の狼煙を上げた騎士は、理不尽な命令であっても粛々と受け入れる様な物分かりの良さと寛容さを持ち合わせてなどいない。
そこにバーサーカーの狂化ランクがCであった事も響いてくる。
Cランクと呼ばれる基準の狂化の度合いがどの程度のものかといえば、言語能力を失い複雑な思考ができなくなる程度。裏を返せば単純な思考であれば行える。
つまり理性がないように見えても自身がどの様な意図の元でこの命令が与えられたのか程度の理解はできるし、理解した上で自発的に行動できるのだ。
最後にウェカピポの妹の夫の「暴力に対して決して抗わずに受け入れろ」という命令もよくなかった。
これならば彼が暴力を加えようとした場合、令呪の戒めによってバーサーカーは甘んじて暴力を受け入れねばならず報復も行えない。「俺の言うことに従え」などという曖昧な命令に比べれば対象が明確なぶん拘束力も高い。この観点だけで見れば決して間違った手とは言えないだろう。
だが、この命令には穴がある。彼が振るう暴力以外が理由であればバーサーカーが抵抗・反抗する事に関してはなんら制約は発生しないのだ。
例えば彼からの不本意な命令に対してはこの令呪はなんの効力も発さない。バーサーカーは抵抗も反抗も可能なのである。
ここまで長々と語ってしまったが、何が起きたのか結論を告げよう。
ウェカピポの妹の弟の下した悪意に満ちた命令は、当然の様にバーサーカーの逆鱗に触れたのだ。
「ブゲッ!」
浮遊感は一瞬。横っ面を殴り飛ばされたウェカピポの妹の夫が部屋の壁に衝突しする。
盛大な衝撃音と共に潰されたヒキガエルの様な声をあげて彼はそのまま重力に従ってドサリと床の上に転がった。
何が起こったのか、突然の出来事で混乱する思考の中で、痛みに悲鳴をあげる体を無理矢理動かし上半身だけをどうにか起こす。
視界にバーサーカーを捉え、彼は息を詰まらせた。
鉄仮面越しであるにも関わらず心臓を鷲掴みにされたかと錯覚する様な鋭い視線がバーサーカーから向けられている。
右腕を振り抜いた姿勢のバーサーカーの姿から、自分が彼女に殴られたのだという事を認識したが、ウェカピポの妹の夫に込み上げてきた感情は怒りではない。
低く唸り声をあげながら見ただけで言葉を失うほどの怒気を露にする超常の存在と直面した事によって沸き上がった恐怖が、彼のちっぽけな自尊心を容易く凌駕してしまったのだ。
「Rrrrrrrrrrr!!」
「ヒィッ!」
怒声を張り上げたバーサーカーに対し反射的に上擦った短い悲鳴をあげ、みっともなく肩を竦めて後ずさる。
その情けない姿に一切の反応を見せず、バーサーカーは一歩、ウェカピポの妹の夫に向けて足を踏み出した。握った拳がギシギシと音をあげながら、より強く握りしめられる。
バーサーカーの目に灯る怒りの炎はまだ消えていない。牙を向いた従僕が迫り来る姿に、ウェカピポの妹の夫は"死"の一文字を連想した。
「う、うおああああぁぁぁあぁあぁッ!!!」
反射的に体が動き出す。目の前の存在を何とかしなければ死ぬのは自分なのだと生存本能が告げていた。
今の自分に何が出来る? 迫り来る狂戦士に対して行える自分の最も効果的な反撃手段は何か?
当然、鉄球だ。
祖先から受け継ぐ「鉄球」、それこそが彼の中に残された唯一の活路だと彼の体は本能で理解している。
ウェカピポの妹の夫は調教の為いつでも取り出せるよう懐に忍ばせていた鉄球を取り出し投擲のモーションに入る。
すると、バーサーカーの動きが急停止した。バーサーカーに対して攻撃をしようとしたウェカピポの妹の夫の行動によって、今しがたかけた令呪が効果を発揮したのだ。
鉄球がウェカピポの妹の夫の手から放たれる。その向かう先は鎧の銅部、召喚された時から元々壊れていた箇所だ。
鉄球は狙いを過たず吸い込まれるように鎧の破損箇所へ突き進む。
腐っても鯛という事だろう。ウェカピポから受けた傷による視界の不安定さと予想外の反撃による混乱という悪条件の中にあって、先祖から受け継いだ技術の染み込んだ彼の肉体は鉄球の投擲を完璧に決めて見せたのだ。ウェカピポの妹の夫は勝利を確信する。
回転しながら食らいつくようにめり込む鉄球と、それによって吐血し倒れ込むバーサーカーの姿が脳裏に描かれる。英霊と呼ばれるものがどんな存在であれ、祖先から受け継ぎし鉄球の技術をその身に受ければ無事ではすまないのだ。そう彼は信じて疑わない。脈々と受け継がれてきた誇り高き伝統に対する絶対的な自信と自負が彼の心に希望の灯を灯す。
「……へ?」
故に彼は投擲した鉄球がバーサーカーへ接触後に勢いを失って床に落ちる光景と、彼女が負傷らしい負傷もなく二本の足でしっかりと立っている姿を見て間抜けな声をあげて呆然とする外なかったのだった。
投擲が失敗していたのか? 否、ウェカピポの妹の夫の鉄球の技術は本物である。
彼の技量は王族護衛官のウェカピポと公正な決闘が成り立つ程のものであり、そこに疑問が挟まる余地はない。
では、何故バーサーカーに傷ひとつないのかと問われれば答えは1つ。
彼が恃みとしていた祖先から受け継がれた誇りある技術そのものが神秘の塊である英霊を傷つける域にまで達していなかった。ただそれだけの話である。
同じ国の異なる一族の技術ではあるが『無限の回転』と呼ばれる域にまで達する技量を彼が持っていたとしならば結果は違っていたかもしれない。
しかし、それはあり得もしない"もしも"の話であり、今この状況においては何の意味もない仮定に過ぎない話であった。
自信を完膚なきまでにブチ壊されたウェカピポの妹の夫の顔がみるみる内に蒼白になっていく。一度希望を見出だしてしまった分だけ絶望の感情もひとしおだ。
そんなウェカピポの妹の夫に対し、バーサーカーは床に転がっていた鉄球を徐に拾い上げ、しげしげと見つめる。
何をするつもりだと震える声でウェカピポの妹の夫が問うよりも速く、彼目掛けてバーサーカーが無造作に鉄球を投げつけた。
バーサーカーは先の投擲に対しての報復は行えない。だが、理不尽な命令に対しての叛逆は未だ続行中なのだ。
「おげええぇえぇえぇぇぇぇえええ!!」
左腕に鉄球が当たると骨が砕ける鈍い音が響き、ウェカピポの妹の夫の口から汚ならしい悲鳴があがる。
ひしゃげた腕先を抑えながら蹲るウェカピポの妹の夫の耳に無慈悲な足音が響く。しかし、抵抗も逃げる事ももはや彼は満足に行えない。
蹲った事で床しか映さなくなったウェカピポの視界に金属製の具足に包まれた足が現れた。
恐る恐る顔を上げるとこちらを見下ろすバーサーカーの鉄仮面越しに光る目と視線が重なる。
パクパクと口を無意味に開くことしか出来ないウェカピポの妹の夫の襟首が掴まれ、グイッと持ち上げられた。
低く小さい唸り声をあげながら鉄仮面越しに睨み付けてくるバーサーカーを前にし、ウェカピポの妹の夫の中に当初はあった『バーサーカーを痛めつけて服従させる』などという考えはとっくのとうに雲散霧消してしまっている。
バーサーカー手甲を嵌めた拳が強く握りしめられるのを見て、ポキリと何かが折れる様な幻聴が彼自身の中で響いた気がした。
「や、やめて……やめてくれ……」
弱弱しい呟きが、ウェカピポの妹の夫の口から零れる。
折れていない右腕を、バーサーカーに掌を見せるようにしながら上に伸ばす。そのポーズが意味するものは興参。
怯えの感情に染まった視線が、狂気と怒りに染まった視線と交差する。
「謝罪だ、謝罪をする………。理不尽な命令でお前を侮辱した……怒って当然の行いだった……。非礼を詫びる……すまなかった……。もう、今回のような真似はしない……。だ、だから、殺さないで……」
恥も外聞もなく、掠れた情けない声でウェカピポの妹の夫が懇願する。
バーサーカーから放たれる怒気にあてられた以上に、彼の誇りでもあった鉄球がサーヴァントには通じなかった事で、彼の心は完全に折れてしまった。
暴力によってバーサーカーに主と従僕の力関係を叩き込もうとしていた彼が、逆にサーヴァントとマスターの物理的な力関係を叩き込まれる結果になったのは何とも皮肉な結果であることか。
泣き出しそうな顔をした己が主をしばらく無言で見つめた後、不愉快そうにバーサーカーは彼を床に向かって投げつける。
バウンドした拍子に折れた左腕が床に接触し、ウェカピポの妹の夫から再び悲鳴が上がった。
その無様な姿を気に留める素振りすらなく、バーサーカーはウェカピポの妹の夫に背を向け、その姿を霊体へと変えていく。
謝罪の意思を見せたことで手打ちにすると判断するだけの思考能力が残っているかは定かではないが、少なくともウェカピポの妹の夫を害するつもりはもうないのだろう。
後には痛みに呻き不様に転がる一人の男だけが残された。
痛みに悶えながら、ウェカピポの妹の夫は仰向けに寝転がる。立ち上がる気力は今の彼には残っていない。
誇りと自信は打ち砕かれ、慢心と増長の代償は左腕一本と令呪一画。
得たものは何もない、ただ喪っただけの紛うことなき悪手。
(畜生ォォ~! 何で俺がこんな目に合わなきゃならない!? )
自身のあまりの情けなさから目に涙を滲ませる。
何が悪かったのか。どこで間違えたのか。
令呪による命令? いいや、とウェカピポの妹の夫は否定する。
勝手にサーヴァントと戦闘を行い、死にかけるような目にあった以上は縛りつけようとするのは当然だ。
悪いのはバーサーカーでありそうせざるを得なかった自分は悪くないのだと自身の行いを正当化する。
しかし、力ずくで押さえつけようとして逆に痛い目にあった恐怖心から、バーサーカーを責め立てるという方向に彼の思考は遷移しなかった。
(恨むべきはあんな危険なサーヴァントであることをロクに説明もしないで俺に割り振ってくれた、この戦争の主催者!自分が呼びつけた参加者の尻拭いを他の参加者に任せるような無能どもだ!)
身勝手な怒りの捌け口はこの戦争の仕掛人であるルーラー達。
何とも身勝手な理屈ではあるが、そのようにして明確に悪意を向ける対象を作らなければ、心の均衡を保てなくなる程度には彼の精神は追いやられていた。
(ここまでずっと俺はケチのつき通しだ! あの決闘に敗れてから、俺はずっと……)
記憶がフラッシュバックしていく。
胸を締め付けられる様な感覚と消耗に襲われて目を覚まさせれた朝。
聖杯戦争に参加させられたのだと自覚した日。
そして、最後に過ったのは故郷ネアポリス王国の風景。
対峙するは一人の男。
友人だった男。
自分に恥をかかせた男。
自分を殺した男。
そもそものここに来る事になった発端。その理由たる男、ウェカピポ。
(ウェカピポ。そうだ……、主催者どもは勿論だが一番の元凶はあのクソ野郎だ。あいつがいなければこんな所には来なかった!こんな無様を晒すことも、こんな怪我を負うこともなかった! あいつが素直に大人しく、あの決闘で敗れていれば……!)
こうやってウェカピポに憎悪と怒りの炎を燃やすのは何度目になるかなど、ウェカピポの妹の夫は覚えていない。
だが、今回に関してはいつも以上にウェカピポの妹の夫は怒りを燃やす。
それだけ、今日の出来事は彼の心に、彼の自尊心に深い傷をつけたのだ。
(この聖杯戦争から生きて帰った暁にはウェカピポ! お前にはここで味わった苦痛と屈辱の報いを受けてもらうぞ! お前だけじあゃないっ! 殴ってヤらなきゃ全然気持ちよくもねぇメソメソ泣いてばかりの貴様の妹もだ! 兄妹揃ってだ……必ず兄妹揃って報復してやる……!その方がお前は堪えるだろうからな……! )
ウェカピポへの呪詛を思い浮かべている内に、次第に荒くなっていた呼吸が落ち着いたものへと変わっていく。
腫れた左頬と折れた左腕から未だ発せられる痛みに顔をしかめつつもゆっくりと体を起こす。
殴られ壁に激突した衝撃で散らばった調度品や血痕が付着した絨毯を見て、どう言い繕うべきか眉間に皺を寄せる。
『調教』の音を聞きつけられて騒ぎになるのを疎み、適当な理由をつけて使用人を全て帰らせていた判断は結果的には正解だったと言えるだろう。
「使用人どもに適当な理由をつけて部屋の掃除をさせるとして、後はこの腕をどうにかしないとな……」
だらんと下がった左腕を見ると表情が自然と苦いものに変わっていく。
処刑と医術の為に回転を発展させた一族の技術であれば鉄球による治療の目処も立っただろうが、ウェカピポの妹の夫が扱う鉄球の技術では骨折の治療となると難しいだろう。
かといって、これから戦いが激化していくであろう状態で弱点になりそうな負傷を放置しておく様な愚かな真似をするつもりもない。
「病院に行って俺の鉄球でも治療が出来る程度には応急処置をして貰うしかないか。たしか新都の病院は今日もやっていたな……」
元から負傷した状態で呼ばれた事もあり、万が一の時の為に頭に入れていた病院の情報を掘り起こす。
新都にあるこの家からもそう遠くはない。いつ、外の主従に遭遇するのか分からない以上、可能な限り不安要素は早期に解消しておくに越した事はないだろうと思考する。
財布類をポケットにしまうと折れた左腕を抑えながらウェカピポの妹の夫は部屋の扉へと歩いていく。
「……ついてきてくれバーサーカー、俺はこれから病院に行く。何かあった時にはお前の力が必要だ。俺が脱落すればお前も一緒に脱落することまで分からない訳じゃないだろう。だからお前には俺の護衛を頼みたい」
今しがたの経験から極力高圧的な物言いにならない様に心がけつつバーサーカーに同行を要請する。
微かに唸る声が響く。それが了承を意味していたのか、拒絶を意味していたのかをウェカピポの妹の夫が理解することはできなかったが、部屋を出てからもバーサーカーの声が彼の後ろから追従する様に聞こえ続けていた事から命令を聞き入れてはくれたのだと判断し、内心で安堵の溜息を吐いた。
サーヴァントという存在の恐ろしさをその身に刻み付けられ、今後どのような方針を取るべきかも分からぬまま、ウェカピポの妹の夫は自らが招き寄せた災いに振り回された形で安全な根城から戦場へと放り出される羽目となってしまった。
これで彼の災難は終わるのだろうか? いいや、それはまずあり得ないだろう。
彼は知らない。知りようもない。
彼が向かおうとしている病院に何が待っているのかを。
彼にとっての全ての元凶である男とそのサーヴァント――ウェカピポとシールダー。
病院にいるアイドルを狙い地を駆けるサーヴァント――獣のバーサーカー。
友を守るために病院へと向かう少女とそのサーヴァント――
神谷奈緒と死線のセイバー。
因縁が、想いが、当事者たちの与り知らぬところで交差する。
まるで元々そうなる運命であったかの様に、聖杯戦争の参加者たちは人知れず引かれあう。
どこかで魔女の笑い声が響いた。
【新都/12月23日 午前】
【ウェカピポの妹の夫@ジョジョの奇妙な冒険第七部】
[状態] 疲労(中)、精神的疲労(大)、左頬強打、左腕骨折
[装備] 剣・鉄球
[道具] 無し
[令呪] 残り2画
[所持金] 5万円(財布の中身)
[思考・状況]
基本行動方針:自陣営の戦力を把握する
1.病院に向かい折れた左腕を治療する
2.バーサーカーに二度と理不尽な命令はしない
3.ウェカピポと聖杯戦争の開催者に強い(逆)恨み
[備考]
1.討伐令についての参加は保留し、状況の把握を優先します。
2.バーサーカー(モードレッド)による『調教』の結果、サーヴァントに鉄球は効果がない事を分からされました。
【バーサーカー(モードレッド)】
[状態] 軽傷
[装備] 王剣 不貞隠しの兜 騎士甲冑
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:Faaaaatthhhhhheeeeeeeerrrrrrrrrrr!!!!
[備考]
1.ウェカピポの妹の夫の指示で病院に行くウェカピポの妹の夫に同行します。
2.アーチャー(
ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)を認識しました。
3.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)と交戦し、撤収しました。
4.シールダー(
ベンディゲイドブラン)の使い魔であるワタリガラス『ブラン』を認識しました。しかし、それの捕獲や殺害にまでは至れませんでした
時系列順
投下順
最終更新:2017年06月05日 10:56