雨の降る中、
陽ノ本アカリは怯えていた。
見たこともない大きな古い城の敷地内で、孤独と恐怖に一人、雨粒の齎す寒さ以外の要因でその身を震わせていた。
「どうしよう……どうしよう……どうしよう……っ」
大樹の影で雨宿りする身体のどこか壊れてしまったかのように、歯の根が噛み合わない。
火打石を鳴らすような音を響かせながら、アカリはその口から恐ろしさから茫然としていることを示す言葉を、何度も何度も繰り返し唱えていた。
脳裏には、惨劇の様子が張り付いて離れない。
爆発で頭を失い、崩折れる亡骸。
それを成したのと同じ凶器が、アカリの首元でも輝いているという事実は、彼女の未成熟な心を容赦なく圧迫していた。
腹の底から押し上げられるような不快感まで覚えながら、大樹の影に隠れたアカリは現状に適応できていないという弱音を、ただひたすらに口から漏らし続ける。
「お、怒らせちゃったんだ……本気にさせちゃったんだ……本気であたし達のこと、苦しめて、怖がらせて……こ、こ、ころ、殺す、つもり……なんだ……っ!」
チーム・クロスハートと、チーム・ブルーフレア。
戦乱のデジタルワールドにおいて、全土に覇を唱えんと侵略を続ける新帝国バグラに対し、中心的な反抗軍となった二大勢力。
それを率いているのは……デジモンではなく、人間の子供達だった。
古来よりデジタルワールドは、存亡の危機に人間の子供達を招き、彼らの力を借りることでそれを脱して来たと言う。
だが、それは決して異世界での冒険が優しいものであるという意味ではない。
確かに協力的なデジモンは大勢居る。バグラ軍を許さず、また自分達のために力を尽くしてくれている人間の子供を快く受け入れてくれている者が多いのは当然の話だろう。
だが敵対する相手は、そんな良心など持ち合わせているわけではない。
同じくバグラ軍に敵対する者でありながら、人間の子供も無関係のデジモンも己の欲のため好き勝手に弄んだダークナイトモンには、アカリ自身人質に取られ、仲間を危険に晒すことになった。ダークナイトモンに最も利用された天野ネネは、その体の自由を奪われ、望まぬ罪に手を染めることを強いられ続けている。
悪の帝国であるバグラ軍が本気になれば、そんなダークナイトモンを超えるほどの悪辣さを見せても何もおかしいことはなかった。今日までの戦争を、苦しいながらも笑顔を捨てず戦い抜いて来ることができたのは、まだ相手が本気ではなかったからだったのだ。
そんな事実を、アカリは泣き出してしまいそうなほどに痛感していた。
ついに彼らは、調子に乗った目障りな子供達を始末することにしたのだ。
それも自分達に逆らったことを心から悔やむよう、ただ殺すのではなく地獄を見せてやろうと。
心胆を寒からしめるよう、こんな凄惨な殺し合いに首輪をつけて放り込んだのだ。
「いや……いやだよ……」
死にたくない。死ぬのは怖い。
アカリはまだ小学生だ。人生はこれからなのに。あの世話が焼ける奴の面倒を、これからもずっとずっと見ていきたいのに……
「怖いよ……会いたいよ……っ
タイキ……っ!」
いつも無茶ばかりして、いつもアカリに世話を焼かせて。それでも皆から、誰より彼女自身から頼りにされているあの少年の姿を思い描いて、アカリは愛しい彼に縋る。
こんな恐ろしい事態に巻き込まれても、彼なら。伝説の救世主と言われるジェネラル、工藤タイキなら。この殺し合いに巻き込まれた人達のことを、「放っとけない!」といつものように助けるため、東奔西走するはずだ。
もちろん、アカリのことだってタイキは助けようとするに決まっている。そのことを疑う気持ちは、これっぽっちもない。
だけど、タイキが間に合うのだろうか……そのことに確信が持てない。だから怖い。
これまで皆の力を合わせて、ようよう一人ずつ追い払ってきた三元士が、今度は三人全員で、アカリ達を殺すために同じ場所にいるというのだ。
彼らの内二人以上を一度に相手にしていては、分断されている今のチーム・クロスハートに勝機は万に一つもない。ひょっとしたらアカリを助けに来る前に、タイキ自身が彼らによって殺されてしまうかもしれない――
(――そんなの、ダメッ!)
そんなのダメだ。絶対嫌だ。タイキが死んでしまうなんて。自分が死ぬのと同じだけ、嫌だ。
だけれど、それに駄々をこねたところで、アカリに何ができるのだろう。タイキ達と違ってジェネラルでもない、デジモンの力を借りられるわけでもない、ただ男の子よりしっかりしているというだけの小学生が……
《――おい! アカリ! おいっ! おい、アカリッ!》
そんな聞き覚えのある声が、さっきから何度も自分を呼んでいることにようやく気づいて、アカリはハッとしてその出処を探した。
ズボンのポケットに手を突っ込んだアカリは、二つの驚きに襲われた。
「ピンクのクロスローダー……に、ドルルモン!?」
《――やっと気づいてくれたか。まったく……何度も声かけたんだぞ》
やれやれと言った様子で溜息を吐いたのは、額にドリル上の角を生やした、白の体毛と橙の鬣(たてがみ)を持つ狼――チーム・クロスハートの主要メンバーの一人、ドルルモン。
その顔を画面に映した、レトロマイク状の機械の名はクロスローダー――ジェネラルの証とも言うべき、タイキ達の持つ伝説のアイテムだった。
「えっ、何で!? どうしてドルルモンがここに!? ってゆーかこのクロスローダーは何なの!?」
それを持っている人間は四人――工藤タイキ、蒼沼キリハ、そして天野ネネとコトネの姉妹だけのはずだった。
クロスローダーを扱うには、交わりの旋律(クロスコード)と呼ばれる特殊な因子を持っている必要があり――これまで何度、皆を救うための力を求めても、アカリには決して手にすることのできなかった武器そのものだった。
それが、しかも見たことない色のものがアカリの手の中にある……この事実を前にしては、それまでの恐慌も忘れて驚愕するしかアカリにはできなかった。
《落ち着け。俺だって訳わからんが……あのマリーチって女の説明通りなら、俺とこのクロスローダーはおまえの支給品ってことになるんだろうな》
そんなドルルモンの説明も、アカリにはよくわからなかった。
「マリーチの説明通り……って、こんなこと、何か言ってた?」
始まりの場所で金髪の女性が頭部を失った時点で、アカリは既に正気を失いつつはあった。
その上で、かつて見た強大なデジモン、オニスモンにも匹敵する力を揮った銀髪の美女の大立ち回りと――そんな彼女も、バグラモンを前に理解も及ばぬ殺され方をしたという時点で、アカリの思考は限界を迎えていたのだから、その後の殺し合いについての説明についても正確には理解できていない。
だから聞き逃したのかと思ったが、ドルルモンは首を振った。
《いや……おまえ達には説明されていないだろうな。ただ俺はされていた》
「どういう……こと?」
《マリーチの言う
オープニング……このバトルロワイアルとやらの、皇帝バグラモンが行った最初の説明や、そこで起こった出来事の顛末を、あの時あそこにいなかった俺の頭に、あの女が直接映像を“視せて”来たんだ……》
「頭の……中に?」
《ああ》
そのまま繰り返したアカリの確認に、ドルルモンは小さく頷いた。
《妙な感覚だったが、そう表現するしかなかった。気づいたらこのクロスローダーの中にいた俺に、バグラモンが殺し合いをしろって何十人も相手に言い出したのから始まって、デジモンじゃない二人の女が殺されるところも……マヒロとかいう兄ちゃんがバグラモン相手に色々と言っていたところも、全部、その場にいるみたいに見ることができた……いや、視せられた》
アカリに淡々と、ドルルモンは己の体験した奇妙な出来事を語る。
《だが俺はそこにいなかった……その後、マリーチって女が俺に直接話しかけてきた。誰かの……俺の場合は、アカリの殺し合いのための道具として会場に送られると。力のないアカリのために頑張れとまで、誰のせいでこんなことになってるんだってなことまで言ってきやがった》
声音に怒りを滲ませながら、ドルルモンはそう吐き捨てる。
アカリもその声に賛同しておいた。
「そうじゃん! そもそも、あたしにクロスローダーなんか支給しても使えないし!」
《いや、それがなアカリ……》
半信半疑、と言った様子でドルルモンは画面の中からアカリを見上げてきた。
《どうやらマリーチが言うには、今はアカリにも使えるようになっているらしい》
「へっ?」
思わぬ言葉に、既知の顔との語らいで緊張の解け始めていたアカリには、そんな風に固まる余裕が既に戻り始めていた。
《何でもこのクロスローダーを支給して、満足に扱って貰うために、アカリにクロス・コードを移植したらしいんだが……》
ドルルモンが確信を持てずにいうのも仕方ないと、アカリは感じていた。
何しろ、バグラモン達はアカリ達を心の底まで苦しませ、始末するためにこんな催しをしたと思っていたのに……むしろ身を守るための力を与えてきているのだと聞かされても、とても納得することなどできない。
《……まぁ、もしこの話が本当なら、確かに俺が外に居た方がアカリも安全だろう。
嘘かどうかを確かめるためにも、少し試してみないか?》
「あ……うん」
結局はまだ、判断力が鈍っているのだろうか。そんなことしても意味ないんじゃないか、と頭の片隅で思いながらも、アカリは普段、タイキがやっていることのモノマネをしてみる。
「リロード……ドルルモン!」
胸の前になるよう、まっすぐ伸ばした両手に構えたクロスローダー。
その真価を発揮する言葉を紡いだ瞬間、光の粒が画面部分から吐き出された。
「ヴォオオオオオオオオッ!?」
その光は一瞬もせずに束ねられ、躊躇いがちの咆哮を返す、獅子のようなしなやかで巨大なドルルモンの体を形作った。
「……でき、た?」
「どうやら……嘘じゃなかったらしいな」
呆然としたアカリに、ドルルモンはどこかニヒルに微笑み返す。
頼れる仲間が実体を得たことにもう堪えきれず、アカリは喉の奥から垂れて来そうになった鼻水を吸い上げ、目尻を濡らしながら彼の体毛に覆われた体に飛びついた。
「うわぁああああん、ドルルモーン!」
「うわっ……おいアカリ、何すんだ!」
「――怖かったよぉおおおおおおっ!」
限界を訴えるアカリのみっともない泣き声に、ドルルモンはハッとしたように抗議の声を潜めた。
しゃくり上げながら、まるで涙を拭くようにごしごしと、まだ雨で濡れていない自分の体へ顔を押し付けるアカリの様子をドルルモンが伺っただろうことが、気配で伝わって来た。
その直後の諦念を含んだ吐息の後、ドルルモンはアカリに小さく告げた。
「……タイキ達には、黙っといてやるよ」
「……ありがとう」
ずずっ……と鼻を鳴らしながら、気恥かしさに彼から視線を逸らしたアカリは、そう短い礼を述べた。
一通り泣いて、やがてアカリが落ち着いた頃、改めて二人は話し合いを始めた。
「どうして、バグラモンはあたしにクロスローダーを使えるようにしたの?」
「わからん。単純にクロスハートを壊滅させたいだけなら、タイキの元から切り離したからとは言っても、俺をおまえのところに渡すのは不自然過ぎる」
ドルルモンがそう答えたところで、アカリは重要な事実を見落としていたことに気づいた。
「あっ、そうだよ! ドルルモンがここにいるってことは、シャウトモンがX3から先のデジクロスできないじゃん!」
クロスハートの主力は、タイキとも特に強い絆で結ばれ、デジモン達の中心的存在でもあるシャウトモンというデジモンだ。
シャウトモン自身はそこまで強力なデジモンではない。だが彼はデジクロスという、端的に言えばデジモン同士の合体においての主軸となるのだ。
シャウトモンのデジクロスの力は驚異的なもので、合体するデジモンが増えるごとに形態名を表す数字が大きくなり、その力も乗数的に増加する。進化したシャウトモン達の合体形態であるDX(ディークロス)や、これまで紡いで来た絆の総決算であるX7ともなれば、一対一の戦いなら三元士にだって負けはしないだろう。
だが、デジクロス体になるには合体相手が欠かせない。特にドルルモンは上位形態になるには重要なポジションを占めるデジモンだ。チームから彼を欠いているとなれば、シャウトモンやそのパートナーであるタイキの著しい戦力ダウンが予想されるだろう。
「どうしよう……ねえドルルモンどうしよう!? タイキを早く見つけないと……!」
「落ち着けアカリ! おそらく、タイキにはシャウトモンは付いているはずだ。“進化”の力が使えるあいつなら、一人だけでもX5相当の力を出すことができる」
ドルルモンの言う通り、デジクロスと並ぶもう一つの大いなる力――“進化”は、バグラ軍最強の将と謳われるタクティモンでも高く評価していたものだ。仮に三元士が相手でも、無理をせず逃げ切るだけなら容易い能力があるはずだ。
「おまえに俺を渡しているなら、意図は読めないが、少なくともシャウトモンとタイキを引き離しはしないだろう……むしろ、おまえは自分の身を心配した方が良い。シャウトモン達ならともかく、俺だけじゃ三元士にでも襲われたら一溜まりもないぞ」
自嘲とも取れる発言だが、元はバグラ軍の一員だったドルルモンの思考は単に合理的なだけだろう。彼の警告は、正しく現状を認識しているに過ぎない。
確かに、タイキ達と切り離されているこの状況で、三元士に襲われたらと思うとゾッとする。
ドルルモンも強いが、彼が一人だけで立ち向かうには次元の違い過ぎる化物達だ。
「そっか……うん、そうだよね。シャウトモンが居てくれるなら……大丈夫だよね」
「ああ、心配するな。もちろん早く合流した方が、互いにとって良いだろうがな……しかし、普段はタイキの影に隠れているだけで、アカリもやっぱりほっとけない! なんだな」
「あたしは……タイキみたいに、誰でも彼でもってわけじゃないから」
他の相手になら、アカリも自身がネタにされたこういう話題を好みはしなかっただろう。
しかし、クロスハートのメンバーでも特に親しく、また年長者として分別のあるドルルモン相手だからこそ、この危険な状況で本音を語り、偽らずに安心することができていた。
「……それにしても、バグラモン達の目的って本当に何なんだろう?」
落ち着けば、改めて浮かび上がって見えてくるものがある。
此度の狂気の催し、主催者である因縁の魔王は、何を企んでいるのかということについての疑問だ。
「私達を始末したいだけなんだったら、この爆弾をつけれるならもう終わってるじゃない……ジェネラルがいなくなったら、シャウトモン達だって勝てっこないし」
「その首輪がある以上勝利は確実だからこその、今は余興ということなのかもしれないが……前々からタイキ達の考えていた、バグラモンの別の目的に関わっているのかもしれないな」
「別の、目的……」
ドルルモンの言葉を、アカリも小さく復唱する。
前々からタイキやキリハは、バグラモンの目的が単純な地位や権力を得る物ではないと予想していた。アルフォースブイドラモンから“予言”に纏わる話を聞いてからは、なおさらその考えを強くしていた。
「それこそ、赤黒の双頭竜に関わる“何か”なのかもしれないが……何にせよ、まずはタイキとの合流を目指そう。アカリ、もう俺に乗れるだけ回復したか?」
「あっ、うん。大丈夫……」
「――どうやらおまえ達は、俺以上にはバグラモン達のことを知っているらしいな」
突然、そんな声が聞こえた。
聞いた瞬間アカリの肌が泡立ち、ドルルモンの体毛が全て逆立つほどの、怖気に満ちた声が。
「それなら教えて貰うとするか……この機械(からくり)の扱い方とともにな」
「……何者だっ!?」
声のする方へと威嚇しながら、アカリを庇うように移動したドルルモンが吠える。
言葉の内容故ではない。その気配から漂う禍々しさに、全身に緊張と闘志を張り巡らせて。
対して声の主は、降り注ぐ激しい雨が作ったヴェールの奥から現れた。
その男は、とても仰々しい外見をしていた。
戦国時代の武将のような鎧に、硬質で量の多い黒の長髪。何故か土気色をした肌には、土器に走るような亀裂が入っていた。
だが何よりアカリ達の視線が引き込まれたのは、その瞳。
白い部分が黒ずんだ眼球の中心で輝く、真紅の瞳。
その光彩部分に存在する、三つ巴の勾玉模様だった。
「俺はうちは……」
ドルルモンの誰何に、腕組みした男はそう名乗りを上げ始めた。
同時、その勾玉模様が、猛烈な勢いで回転を始めた。
「――マダラだ」
男は告げると同時、その視線をドルルモンへと向けた。
ビクン、と。ドルルモンの獣の巨躯が震えた。
続いて両目が虚空を向いたまま、全身が小さく痙攣し始めたことに気づき、アカリは彼に声をかけようとした。
「ドルルモ……ッ!?」
ほんの一歩駆け寄って、その身体を揺さぶろうと手を伸ばした瞬間。どちらかの手が濡れた毛並みに届く前に、アカリは強い衝撃を受けていた。
いつの間にか二人の間に割って入っていた男に、強い勢いで突き倒されていたのだ。
「きゃっ!?」
濡れた泥で体を服越しに濡らしながら、溜まっていた水をばしゃりと跳ね上げる。尻を起点に全身に伝播した衝撃に震えていると、顎の下を男に掴まれ、グイと上を向けさせられた。
その力が強すぎて、顎に痛みを覚えると同時に、アカリの軽い身体が浮き上がる。結果的には、意思に沿わずに両の足で立ち上がることとなってしまう。
痛みに苛まれていると、赤く怪しい励起光を放つ男の目が、アカリの瞳の、そのさらに奥底までを覗き込んで来た。
「幻術・写輪眼」
男の、その声を合図に。
――! タイ、キ……
アカリの意識は、深い闇の底へと引きずり込まれ、呑まれて行った。
◆
輪廻眼の力――操作した雨粒による感知能力、雨虎自在の術で、
うちはマダラには最も自身の近くにいた参加者の居所が、瞬く間に探知できていた。
ちょうど中心部である、巨大な城の敷地内に存在しているその反応を目指したマダラが発見したのは、齢十を超えたばかりだろう少女だった。
赤みを帯びた褐色の髪をしているが、うずまき一族ではないらしいということは、マダラの瞳力を以てすれば即座に把握できた。
この少女はあまりに内包するチャクラが少ない。横の獣を口寄せしていたが、もしかすると忍ではないのかもしれない。
まるで幻術対策を知らなかったことを見ると、一層その確信を強くした――マダラは茫洋とした目つきの少女を見下しながら、少女とその口寄せ動物の会話を思い出す。
当初はただの参加者かと思い、目視してからも身を隠して様子を伺うに止めていたが、彼女らの口からバグラモン――このバトルロワイアルの主催者を、前々から知っているような言葉が飛び出したことから、早急な接触を決意させられた。
大した忍ではないという予想通り、今ではあっさり幻術の中――マダラの意のままの世界に囚われている。聞きたい情報を引き出すことは、最早造作もないだろう。
(……魔像と繋がっていれば、幻術の体感時間も広く細かく操れたのだがな)
そう生前を懐かしみながら、マダラは雨に打たれるのも構わず少女に語りかける。
「アカリ……と言ったか。いくつか俺の質問に答えて貰う」
こくりと、操り人形の少女は頷いた。
その少女に、マダラは自身に左手を翳してみせる。
「まずはこの……びーあーるでばいすとかいう、奇っ怪な機械の扱い方を教えろ」
自らの手首に巻き付いた、バグラモンから全参加者へ送られた支給品……その根幹を成す、BRデバイス。これ自体の扱い方を、マダラは把握できていなかった。
吸収力・学習力・発想力の全てに優れていた子孫のオビトならともかく、いくらマダラでも手本もなしでは類似品もない、最近の機械の使い方はわからない。
だからこそ、単純に情報を引き出すだけなら輪廻眼の人間道の能力の方が早かったが、彼女にそれを使った記憶がなかった場合に備え、実演させられるように写輪眼の力を用いたのだ。
「…………」
命じられたまま、アカリはマダラに向けていた名に反し光の灯らぬ目で、自身のBRデバイスを示し、起動方法を実演して見せた。相手の動きを完全に見切り、我が物として再現してする写輪眼の性能を活用して、マダラも寸分違わず同じ操作を行い、起動することに成功する。
その後も、試行錯誤を続けるアカリに倣ってデバイスの操作を続け、マダラは会場の構造や細かなルールを把握して行く。
「なるほど……ここと同じような造りの紛い物の世界を九つ、巨大な時空間忍術で取り囲み、遮断と内包を行っている、というわけか」
それほどのことができる忍がいたとは聞いたことがない。しかし、マダラの瞳力を以てして、今の状況は幻術ではないということを確かに見破っている以上、事実それほどの手練がいたのだと受け止める他ない。
続いて名簿の欄に移れば、早速意識する必要のある名前を発見することができた。
「……準備が良いな、バグラモン」
思わずほくそ笑みながら、マダラはそう呟いた。
うずまきナルト。マダラの悲願、月の目計画に必要不可欠の、九尾の人柱力である少年。
彼もまた、このバトルロワイアルに参加させられているようだった。
五影を退け、今まさに彼を捕えるべく移動を開始しようとしたところ、気がつけばこのような遊びに巻き込まれていたわけだが……その分の埋め合わせは、しっかりと行ってくれているようだった。
「オビトもいる……この分だと他に未捕獲の人柱力が居ても、ここに連れて来られていそうだな」
サスケといううちは一族の者は知らない。オビトがマダラの代理として復讐を果たしていたのなら、敢えて見逃されたということになるはずだ。そう考えると、“暁”の協力者だろうか。
(……まぁ)
面倒であれば、改めて始末すれば良いだけであると判断したマダラは、アカリに続けて質問をすることとした。
「次はバグラモンについて、知っていることを教えろ。おまえもだ」
すっと視線を移せば、それまで項垂れているだけだった口寄せ動物がマダラの言葉に頷いていた。
「まず、奴は何者だ? 貴様らとの関係は?」
返って来た答えは、マダラでさえも容易くは受け入れ難い内容だった。
アカリの住んでいた人間の世界とは別の異世界、デジタルワールド。その全土を支配せんとするバグラ軍と、アカリ達人間の子供が、デジモン達と力を合わせて戦っているのだなどと。
すぐ横に、そのデジモンの実物である口寄せ動物――ドルルモンがいなければ、この年頃の少女にありがちな妄想を聞かされているのかと疑ったほどだろう。
何しろ彼女は、伝説の忍である、このうちはマダラを知らないとのたまったのだ。
それどころか、里や忍についても――シノビゾーンだのモニタモンやシュリモン、イガモンだのと、聞いたことのない名前を話されただけだ。
マダラが穢土転生で復活させられるまでの間にそれだけ忍の世が様変わりしたのかといえば……少なくともあの戦争の最中では、そんな手応えは得られなかった。
(デジタルワールドがこの娘にとって異世界だと言っていたが……俺達の世界とこの娘の世界が同じものとは決まっていない、ということか?)
そんな突拍子もない仮説が思い浮かぶが、今考えても詮無きことと一旦思考から切り捨てる。
その他、デジクロスや進化の力に、ゾーンというこの時空間のさらなる詳細。さらに参加者達――特にジョーカーである三元士について、彼女達が戦って来た中で得られただけの情報を絞り出すことができた。
「デジクロスか……面白そうだな」
話を聞く限りでは、三元士の力はアカリの知る限りではデジモン達の中でも絶大だという。それに対し、弱小のデジモンが真っ向から太刀打ちできるようになるというデジクロスの力、戦闘という行為そのものを心から好むマダラの関心を惹かぬわけがなかった。
「今の俺は穢土転生体だ。殺し合いなどで死ぬわけはない……が、バグラモンは警戒しておく必要がある」
あの時バグラモンが
エルシアという女から引き抜いたのは、同様の能力を持つマダラには、あれがあの女の魂魄だということを見抜くことができていた。
しかし、肉体から霊体を引き剥がし、殺害するだけならともかく。バグラモンはさらにその魂を、粉微塵に砕いてみせた。
――ありえないことだ。マダラはそんな思いを禁じえない。
全ての術を生み出した忍の開祖、六道仙人の力を、今のマダラは有している。
だがそのマダラをしても――つまりは六道仙人をしても、魂の在処を移すことはできても、魂そのものを壊すような真似をすることはできない。
つまりバグラモンは、少なくとも特定分野においては、六道仙人すら超えた力を有している可能性が高いのだ。
今のマダラは、口寄せ・穢土転生で黄泉より呼び出され、生贄の肉体に霊魂を宿した半死人だ。生贄はあくまで霊的な媒体の意味に過ぎず、それ故いくら借り物の肉体を破壊されようと、今度は宿った魂を基点に無限再生を可能とする。有り体に言えば今のマダラは、ある種不死の存在と化しているのだ。
だがバグラモンのようにその寄り代から魂を引き離す能力を持った相手には、そのまま殺害されてしまう可能性は高い。もしエルシアと同じ末路を辿ってしまえば、輪廻天生の術により完全に蘇生し、十尾の人柱力になるというマダラの宿願は永劫成就できなくなってしまう。
そうでなくとも、このうちはマダラに認識を許さず拉致してみせたという一点だけで、十分以上に警戒に値する。今の時点ではこの先の展望は見通せていないが、仮にバグラモンと事を構えることになるとすれば、戦力を整えておいて損はない。
「そのために……期待しているぞ、ドルルモン」
マダラの瞳力に操られた電脳獣は、正気をなくした目つきのまま、躊躇いなく首肯した。
「さて……おまえを連れて歩くのも面倒だ。特にジェネラルとして素質があるというコトネか、そのタイキとやらを俺の写輪眼で操った方が良いだろうしな」
「……っ! ふざ……!」
「……?」
「……ふざ、けんなっ!」
何の術の試し打ちにするのが良いかなどと考えていたマダラに、そう叫び声を浴びせて来たのは――すっかり意志の光を無くした瞳をしていたはずの、アカリだった。
「そんなこと、許してやるもんか! ネネさんが自分を犠牲にしてまで守ったコトネちゃんや、タイキをネネさんみたいに操ろうだなんて……!」
「これは……驚いたな」
再び明白な感情の炎をその双眸に灯し、自身に敵意の篭った視線を向けてくる小娘の姿を、マダラはそう素直に賞賛していた。
幻術は、五感を通して対象者の脳内チャクラの流れを術者が操ることで成立する忍術だ。
それ故に、第三者によりチャクラの流れを乱される、あるいは術者の支配を上回るほどの力で幻術に陥った状態を解除することができる。
では、その根底であるチャクラがそもそも何かというと、身体エネルギーと精神エネルギーを練り合わせたもののことを指している。
そのため、忍ではないもの――上手くチャクラを練ることができない者でも、どんな生き物でもチャクラを内包してはいる。だからこそアカリにもドルルモンにも、マダラは写輪眼での幻術をかけることができた。
そしてアカリは――写輪眼で見抜いたところによると、感情による精神エネルギーの急激な増大のみで、マダラの支配から脱していたのだ。
無論、おそらくはバグラモンが何かマダラの能力を制限していた可能性が高いが……それでもうちはが誇る瞳術を、こんな民草の小娘に解除されたという事実は衝撃的であった。
「しっかりして、ドルルモン!」
「――ッ!」
アカリに呼びかけられ、強く揺さぶられた途端、ドルルモンもまたその目に正気を取り戻す。
「アカリ、俺は……それにおまえ、その格好……」
「いいから! この人をどうにかしないと――!」
アカリの指示を受けたドルルモンが、急激に意識をはっきりとさせながらマダラを睨もうとする。
「目を見ちゃダメ!」
アカリの助言で視線を合わせる前に留まったドルルモンが、マダラの重心へと注視する先を変更し――そのまま、牙を剥いて飛び掛かって来た。
「アカリに何をしたぁ!?」
「――舐められたものだな」
ドルルモンが牙を届かせるまでの、僅かな時間に。マダラはそう吐き捨てた。
「確かに、貴様らの力に興味があるとは言ったが……この俺が、貴様ら如きに劣るはずがないだろう?」
マダラの胴をドルルモンが捉える寸前――その鋭い牙を、マダラの周囲に生じた巨大な肋骨が阻んだ。
「須佐能乎(スサノオ)」
マダラを守護したのは、骸骨が剥き出しになった有角の巨人。
伝説の瞳術である万華鏡写輪眼に開眼したうちは一族の中でも、さらに限られた者だけが瞳に宿すことを許される、強大無比なチャクラの衣だ。
自身とぶつかり跳ね返されていたドルルモンを、チャクラの巨人はその巨大な腕で鷲掴みにする。
「さすがに、この程度では死なんのだろう?」
マダラの冷たい問いかけと同時、ドルルモンは須佐能乎により玩具のように投げ棄てられていた。
投擲された白と橙の巨獣は、弓弩の如き勢いで石造りの城壁に内側から突き刺さり、想定外だろう方向からの衝撃で瓦礫を爆ぜさせる。
「きゃああっ!?」
その塵煙に姿を飲まれたアカリが、飛来する礫から我が身を庇いながら悲鳴を上げていた。
堅牢な城壁に大穴を開けた大破壊の中、舞い踊った粉塵を腕の一振りで引き裂いて、マダラの須佐能乎が進撃する。
その剥き出しの骨格を生成された外皮で装甲し、多面多腕の鬼と化しながら。
「一度破られた術を何度も使うのは少しみっともないが……ドルルモンは、俺が貰っておいてやろう」
吸い込んだ埃にげほげほとむせ返っていたアカリが、須佐能乎を背負い近づいたマダラの姿に気づき、大きく身を竦ませた。
許しを請うような色を孕んだ、怯えきった目で見上げてくる娘を哀れに思い、マダラは慈悲の言葉をかけてやることとした。
「心配するな。俺もおまえのような、巻き込まれただけの町娘をただ犠牲にしたままでは気分が悪い……」
「え……っ?」
マダラの発声にまた身を固くしていたアカリは、続く言葉に一転、掠れた声音で疑念の声を零しながらもその身の力を抜く。
「写輪眼の制限について、ヒントをくれた礼もある……おまえとタイキとやらが、俺のような理不尽に晒されることもなく、末永く添い遂げられる世界を創ってやると約束しよう」
その言葉が、今この場での救いを確約するものではないということを察したのだろうか。息を飲みながら、恐怖に目を見開いたアカリは一歩後退する。
対しマダラの須佐能乎は、静かにその腕を一本持ち上げた。
「だから心配せず、先にこの……現実などという、地獄から解放されると良い」
別離を告げると共に、須佐能乎の手にチャクラ製の曲刀が出現し――
――閃いた黒線によって、握る腕ごと断ち切られた。
「――!?」
それを成した者がいつ間合いに入っていたのか、マダラにも感知できていなかった。
視界に映ったのは逆光の影。辛うじて認識できたのは、人型をしているという事実のみ。
迅雷の如き動きで、まず天から降ってきたそいつは、その動作の延長のまま、手にした黒の長剣で無音の打ち込みを放っていた。その結果が今、引かれた線を境界に分離する須佐能乎の腕と武器。
斬撃は神業の如く速い。洞察眼と名高い写輪眼でも、完全にはその動きを写しきれないほどに。
驚愕するマダラの前で、着地した影はさらに鋒を返して踏み込んで来る。
二度目の斬撃でも、切り裂く音すら生じなかった。
その一閃はまた、信じられないほど鋭い。絶対防御と謳いし須佐能乎の鎧を、まるで薄い水の膜を切るかの如く、鮮やかに分断する。
そうして解体された須佐能乎の体内に飛び込んで来たのは、若い男だった。
引き締まった眉と真っ直ぐな鼻筋は、正義に燃えているだろう彼の性格をそのまま表したかのようだった。深い黒の瞳には、清廉な怒りと強い意志に満ちていた。
マダラへの距離を詰めながら、青年は鋒から柄まで一体の黒の剣の刃を寝かし、腹を見せて振り被る。
「うぉおおおおおおおおおおっ!!」
(――間に合わないな)
マダラがそれに対処するための、能力を発動する前に。
振り抜かれた黒の剣は、打撃武器としてガード越しにマダラの側頭部を捉えていた。
常人であれば脳漿を飛び散らせていただろう一撃を受け、マダラの視界は真っ赤に染まる。
先のドルルモンを遥かに超える勢いで吹き飛ばされたマダラの身体は、やはり想定外の衝撃に脆いのか、内側から須佐能乎を突き破って投げ出されていた。
飛んだ先にあった大樹を弾丸の如く貫きながら、その際に姿勢を整えたマダラは足の裏で芝を抉り、摩擦熱で瞬間的に焼き切りながら踏み止まる。
「――何者だ」
左腕に残る痺れを意識しながら、マダラは襲撃者を問い質した。
対峙する男の姿は、崩れる大樹の影になって一瞬、視界から隠れていた。
「――勇者。
長谷部翔希」
大樹の向こうで、アカリを庇って立っていた青年は、そう名乗りを上げていた。
「俺は、こんな殺し合いなんて許さない……もう二度と、悲しいことなんて起こさせないって、名護屋河達とそう決めたんだからな!」
アカリの窮地に駆けつけ、そう啖呵を切ったその人は、再会を熱望するタイキではなかった。
タイキと違って、デジモンを連れてもいない……映画に出てくる特殊部隊員みたいな格好をしている以外は、ごく普通の、大学生ぐらいの男の人。
「あんたはどうなんだ。この子を襲っていたのに、何か理由はあるのか!?」
彼から黒の剣を向けられたマダラは、コキコキと首を鳴らしながら応答した。
「……別に。俺はただ、俺の目的さえ叶うなら、バグラモンに付き合って踊ってやっても良いと思っただけだ」
そんなマダラの返答に、翔希の怒気が膨れ上がる。
「ふざけるな……っ!」
「ついでに言えば……殺し合いだのといった事情を抜きに、おまえと踊ってみるのは面白そうだな。長谷部翔希」
その言葉とともに組んでいた腕を解くマダラと、長剣を構え直す翔希が対峙する。その様子を見て、アカリは言い知れぬ危機感に身を焦がされる。
ドルルモンを一瞬で倒した巨人を呼び出すマダラを相手にするには、つい先刻の映画のようなアクションを見ていても――むしろ、デジモンに近い怪物を使うマダラはともかく、見掛けは本当にただの人間で、そんなフィクションのような動きだからこそ現実感に乏しかったために。アカリは目の前の青年に、不安を抱かずにはいられなかったのだ。
「あっ、あの……!」
ありがとうございます、と。礼を言わなければ。
その男は危険だから逃げましょう、と。忠告をしなければ。
そんな二つの思考と、未だ体を支配する恐怖に舌を絡めさせていたアカリを、翔希が微かに振り返った。
「心配するなって。もう大丈夫だから」
それだけを告げると、彼は再びマダラを向き直り、対峙する。
「その子を頼むぞ、ニア!」
「はいっ!」
続いた翔希の言葉に応じて、こんな状況だというのに天真爛漫な、少女の返事が聞こえた。
「わっ!?」
物陰からひょこっと現れたのは、アカリと同年代か、少し年上の女の子だった。
こんな時だというのに、花のような笑顔を浮かべた上品で可愛らしい顔立ちはアカリや翔希、マダラと違い、白人と思しき形をしている。
華奢ながらも、アカリやネネよりも大人に近い体つきをした本物の美少女だが、それでも気にかかる点が二つあった。
一つはそのショートカットヘア。プラチナブロンド……というのが一番近いだろうが、一つに留まらず、無数の色彩をした不思議な巻き髪。
もう一つは、まるでクローバーのような紋章が浮かび上がった、くりくりとした空色の瞳。それが瞬いて、アカリと目が合うとにっこりと笑みを浮かべる。
「ごきげんよう。私、ニアです。
ニア・テッペリン」
「えっ、あ……は、初めまして?」
ニアと名乗る少女のペースに乗せられてそう応対したアカリだったが、その背後では翔希が地を蹴ってマダラとの激突を開始していた。
「あなたのお名前は?」
「ひ、陽ノ本アカリです……って、今はそれどころじゃないでしょ!?」
二度目もペースに乗せられたアカリが思わず叫ぶと、「?」とニアは可愛らしく小首を傾げる。
「どうしてですか?」
「だ、だって今翔希さんがあいつと……!」
アカリが喋っているその後ろで、庭園の芝生を掘り返し、噴水を吹き飛ばし、雨粒を弾いて巨大な城をも揺るがせる、強力なデジモン同士の繰り広げるような戦いが今も展開されていた。
「それは心配無用です、アカリさん。翔希さんが大丈夫、って言いましたから」
だがそんな事実などないかのように、ニアは自然な笑顔の後、同性のアカリでも陶然とするほど凛とした、真摯な表情で宣言した。
「私は翔希さんを信じます」
――二人がどんな関係にあるのかは、出会ったばかりのアカリにはわからない。
だが、翔希を信じると躊躇いなく言い放ったニアの眩しさに、アカリはここに来てずっと、怯えてばかりだった自分を恥ずかしく思った。
仲間をとことん信じるその心意気は、本来チーム・クロスハートの持ち味だったというのに。
それを忘れ、立ち止まって泣くばかりだった自分を、アカリは許容しなかった。
(こんなんじゃ……タイキの傍にいるのに、相応しくないもん)
キリハに――女の子相手にそんな言い方はどうかと今でも思っているが――肝が座っていると称された自分が情けない。
あまつさえ、タイキが自分を助けに来てくれるのかどうかを、疑ってしまう始末だ。
人間界でブラストモンに応戦した時のように――自分が誰より、タイキを信じていなければならないのに。
きっとタイキも、アカリのことを信じてくれているのだから。
「……わかりました」
そこまで考えたところで、アカリはニアの言葉に頷いた。
「私も、私を助けてくれたあの人を信じます」
アカリの言葉に嬉しそうに、ぱぁあっと音が聞こえてきそうなほど、ニアは表情を明るくする。
「良かった……! それじゃ一緒に、翔希さんを応援しましょう、アカリさん!」
「はい! ……あっ!」
元気良く頷いた後、アカリは頭からごっそり抜け落ちていたことを思い出してブンブンと首を振った。
「そ、その前にドルルモンを手当しなきゃ……!」
わたわたとしながら、アカリはドルルモンが下敷きになっている瓦礫の下へと急いだ。
【一日目/朝/ミスマルカ城下町 E-4 北西・ミスマルカ城敷地内】
【陽ノ本アカリ@デジモンクロスウォーズ(漫画版)】
[参戦時期]第十五話終了後~第十六話開始前
[状態]びしょ濡れ、臀部に鈍痛
[装備]BRデバイス@オリジナル、{クロスローダー(桃)&ドルルモン}@デジモンクロスウォーズ (漫画版)
[道具]基本支給品一式、不明支給品×2(確認済み:ただし幻術で操られていたため、正確には覚えていない)
[思考]基本行動方針:タイキを信じる。
0:ドルルモンを手当する。
1:タイキとまた会いたい。
2:翔希を応援する。
3:マダラ、三元士を警戒。
[備考]
※ クロスローダーを扱えるように、一時的にクロス・コードを移植されています。
【ニア・テッペリン@天元突破グレンラガン】
[参戦時期]原作第十五話終了後
[状態]健康、びしょ濡れ
[装備]BRデバイス@オリジナル
[道具]基本支給品一式、不明支給品×3(確認済み)
[思考]基本行動方針:殺し合いなんていけません
1:シモン達と合流したい
2:翔希、アカリと一緒に行動する
[備考]
※テッペリン攻略戦後、少なくとも「苗字」が発明された後からの参戦ですが、七年後の青年編からの参戦ではありません。
【長谷部翔希@お・り・が・み】
[参戦時期]原作終了後~『戦闘城塞マスラヲ』開始前
[状態]健康、疲労(微小)、びしょ濡れ
[装備]BRデバイス@オリジナル、神器“黒の剣”@お・り・が・み 、第七装具@お・り・が・み
[道具]基本支給品一式、不明支給品×1(確認済み)
[思考]基本行動方針:勇者として殺し合いを止める
1:ニアとアカリを守る
2:マダラを止める
3:魔殺商会の面々やエリーゼと合流したい
[備考]
【うちはマダラ@NARUTO-ナルト-】
[参戦時期]五影撃破後~第600話でオビトと合流する前
[状態]穢土転生体(契約解除済み)
[装備]BRデバイス@オリジナル
[道具]基本支給品一式、不明支給品×3(確認済み)
[思考]基本行動方針: 情報を集め適当に動きつつ、月の目計画を遂行する。
1:翔希と戦う。その中で自分の性能を確かめる。
2:オビトと合流する。うちはサスケとやらは会ってから判断。
3:ナルト、及び他に人柱力がいるなら捕らえる。
4:バグラモンを警戒。また、デジクロスの力に興味。
[備考]
※穢土転生体のため、魂を肉体から引き離されない限り死にません。
※穢土転生による薬師カブトとの契約は既に解除されています。
※柱間細胞を移植されているままのため、木遁を使用できます。また「永遠の」万華鏡写輪眼、及び輪廻眼に開眼しています。
※幻術については、通常の写輪眼は幻術についての知識がない参加者でも、強い感情の変動で解除できる程度に制限されています。ただし万華鏡写輪眼については制限されていません。
※輪廻天生の術は制限により使用できません。
※首輪を外すことについてはバグラモンを警戒し、保留にしています。
◆
城全体を震わせる激しい戦いの余波が、ビリビリと足の裏から上って来る。
玉座の間にて他の参加者の到着を待っていたその鎧武者は、他の参加者達がここに至る前に出会い、潰し合いを始めていることを悟った。
(――長谷部翔希と、うちはマダラか)
位置関係と戦いの規模から判断すれば、該当するだろう参加者は自然と絞られる。
その事実を認識した上で、さてどうするか、と彼はほんの少し頭を捻った。
自発的に戦いを開始している参加者の間に割って入るのは、殺し合いの進行を助けるという役割において、本来あまり意味のある行為ではない。
しかし、このゾーンにいる残りの参加者については、おそらく自分が刃を向ければ一溜りもなく、また彼らがそのようにして一瞬で潰えることを主は望んでいないだろう面々だ。
であれば――と、彼は床を鳴らして足を運び始める。
この場は敢えて戦いに介入し、バトルロワイアル全体において、後々に主催陣の思惑に沿い易くなるよう調整すべきだと、彼は考えた。
最強の忍と、最強の勇者。どちらも譲らぬ強者である以上、凌ぎを削り合う結果、その場に長くその足を止めてしまうことだろう。それは下手をすれば、バトルロワイアルの停滞を招く可能性すら存在する。それは阻止しなければならない。
それに何より――どちらも武勇によって名を馳せた英傑達。無念に倒れた“我ら”が猛りを受け止めて貰うには、このミスマルカゾーンにいる参加者の中で、これ以上ない適役であるのだから。
コツコツと。大理石の床を踏み鳴らし、静かに闘志を蓄えながら。彼は最強同士の激突する戦場へと、その身を運んで行く。
彼こと、バグラ軍最強の将、三元士タクティモンの――三人目の最強が参戦することにより、戦いはさらに激化する――
【一日目/朝/ミスマルカ城下町 E-5 ミスマルカ城内】
【タクティモン@デジモンクロスウォーズ(漫画版)】
[参戦時期]第十五話終了後~第十六話開始前
[状態]健康
[装備]BRデバイス@オリジナル、蛇鉄封神丸@デジモンクロスウォーズ
[道具]基本支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
[思考]基本行動方針:我が君(バグラモン)の意志に従う。
1:ジョーカーとしてバトルロワイアルの進行を助ける。
2:E-4の戦闘に介入する。
[備考]
【支給品解説】
•クロスローダー(桃)@デジモンクロスウォーズ (漫画版)
陽ノ本アカリに支給。
クロスローダーは、ジェネラルの証であり力の要でもある携帯アイテム。デジモンの収納/実体化、ゾーン移動のゲート開放、デジメモリの起動など数多くの機能をもつが、最大の特徴はデジクロスと超進化を発動できることにある。 デジモンを召喚する際は「リロード」と呼称を行うことで出現させることが出来る。またデジモンはクロスローダーの中にいることである程度傷を癒やすことができるが、致命傷の場合は効果が追いつかない程度の回復力でしかない。
本来、使用するにはクロス・コードと呼ばれる特殊な因子が必要で、その所有者のによってクロスローダーの色も変化する。
アニメの陽ノ本アカリが手にしたクロスローダーは橙色だったが、クロスロワは漫画版準拠であるため、漫画版第17話の描写に基づき桃色をアカリのクロスローダーの色とした。
ドルルモンは、チーム・クロスハートの一員の獣型デジモン。単独でも他のメンバーに比べ高い戦闘力(従来のシリーズで言うところの成熟期~完全体相当)を持つが、シャウトモン達とのデジクロスによりさらに高い戦闘力を発揮する。
性格はクールな皮肉屋だが、面倒見がよく、かつてバグラ軍でタクティモンの副官を務めた経験から戦術眼にも優れており、デジモン達の中ではある意味シャウトモンに次ぐ兄貴分とも言える。
長谷部翔希に本人支給。刀身から柄まで全て黒一色で造られた長剣。
神同士の争いに用いられたとされる神器の一振りで、この剣に選ばれた使い手が真価を発揮すれば他の神器すら容易く切断せしめる、同世界観でも最強の剣の一つ。
並び称される日本刀型の神器“今月今夜”に比べると、剣気を纏って飛ぶ斬撃を放つなどといった派手な芸当はできないが、一点への切れ味においては勝るとも劣らない代物である。
『ミスマルカ興国物語』ではレイナー・ラングバルトが所持しているが、翔希とは異なりまだ選ばれてはいない様子である。
長谷部翔希に本人支給。現代戦車の徹甲弾でも貫通できないプロテクターに、複合多層魔導皮膜を施されたアンダーウェアの防弾、防刃、耐火、耐震、耐爆、耐雷、耐冷、さらに放射線遮断性を持つ高性能万能防護服。外見はBDUをモデルとしている。
ただし、作中世界の平均火力に防御性能がまるで追いつけていないため、これらの防御性を忘れさせる勢いでよく穴が開くし炭化している。ちなみに時価八百億円以上だとか。
006:凄い銀色の二人 |
投下順 |
008:出会うべくして |
GAME START |
陽ノ本アカリ |
???: |
000:オープニング |
タクティモン |
???: |
GAME START |
長谷部翔希 |
???: |
GAME START |
ニア・テッペリン |
???: |
GAME START |
うちはマダラ |
???: |
最終更新:2013年03月12日 23:46