判決結果
積極的にこれを公表する等の措置をとらなかったことについて役員の責任が認められたが、当該食品が販売されたこと等に関して株主から主張された内部統制システム構築義務違反については否定された。
事件概要
本件は株式会社ダスキンの株主である原告が、ダスキンの取締役件代表取締役、取締役又は監査役であった被告らに対して①ダスキンが食品衛生法6条に違反して人の健康を損なうおそれのない場合として厚生大臣が定めていない添加物であるtーブチルヒドロキノン(以下TBHQ)を含む大肉まんを販売したことについて、被告らは食品衛生法上販売の許されていない添加物がダスキンの販売する食品にしようされることがないようなリスク管理体制を構築する善管注意義務があったのにこれを怠り、食品衛生法上販売が許されていない添加物の使用を発見した場合に取締役等がどのように報告し行動しなければならないのかとうについてマニュアルを作成し周知徹底させ、違法行為等があれば即座にコンプライアンス部門等を通して取締役会に報告される体制を構築する善管注意義務があったのにこれを怠り、その結果、ダスキンにミスタードーナツ加盟店営業補償、キャンペーン関連費用等の出損や支払いを余儀なくさせ、合計106億2400万円の損害を与えた、また、②ダスキンが「大肉まん」がTBHQをふくんでいることを知らせたZに対して6300万を支払った事について、被告らは取締役等が恐喝等違法行為の疑いがある事実を認識した場合には、田立にコンプライアンス部門に報告し、同部門は必要な調査をした上、取締役会に報告する体制を構築する善管注意義務があったのにこれを怠り、ダスキンに上記支払額と同額の損害を与えた、さらに③被告らがTBHQを含んだ肉まんが販売を認識した後、上記事実を公表しするなどしなかったことについて、被告らは上記事実を公表し上記肉まんを回収し、謝罪等の被害回収措置を取るべき善管注意義務があったのにこれを怠り、その結果、ダスキンに上記損害を与えたとして、上記損害額及びこれに対する請求の趣旨拡張申立書送達の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金を賠償するように求めた株主代表訴訟である。
判決に至った経緯(否定に至った理由)
健全な会社経営を行うためにはリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制を整備することを要する。もっとも整備すべきリスク管理体制の内容は、リスクが現実化して躍起する様々な事件事故の経験の蓄積とリスク管理に関する研究の進展により充実していくものである。したがって現時点(裁判時)で求められるリスク管理体制の水準をもって本件の判断基準とするのは相当でなく、取締役の善管注意義務違反の有無の判断は当時求められている内部統制システムの水準を基準にすべきである。また、どのような内容のリスク管理体制を整備するべきかは基本的には経営判断の問題であり、会社経営の専門家である取締役に広い裁量が与えられているというべきである、つまりどのような内容、程度の内部統制システムを構築すべきかは経営判断の問題である。
ダスキンは当時担当取締役は経営上重要な事項を取締役会に報告するように定め、従業に対してもミスや突発的な問題は速やかに報告するように周知徹底しており、違法行為が発覚した場合の対応体制においても定めていた。注意を促すセミナーも開催されていた。これらを総合的に判断してみるとダスキンにおける違法行為を未然に防止するための法律遵守体制は本件販売当時、整備されていなかったとまではいえないものというべき。判決では、「事業部門の最高責任者であった者が稟議規定に違反して上記事実を取締役会に報告せず秘密裏にあえて違法行為を行うという意思決定をしたという事案であり、本件販売当時、そのような場合をも想定して、従業員に対し、自己の属する事業に事業部門の指揮命令系統にしたがって情報を伝達するのみならず、当該事業部門の外にある機関にも同じ情報を伝達することを義務づける体制を構築しておかなければならなかったとまではいうことができない」と指摘された。「巧妙に偽装するという、通常容易に想定しがたい方法であったということができる」点において日本システム技術事件と共通。
最終更新:2010年07月03日 16:28