雨の降らない夏に
10月も下旬なのに夏休み中のいちゃいちゃ話を書いてみた。
『雨の降らない夏に』
「雨、降らないかなあ」
不意にそんな事を唯が呟いたのは、唯の家での勉強会の休憩中だった。
「雨?」
「そう、雨。なんか今年の夏って雨が全然降ってないよね」
「そう、雨。なんか今年の夏って雨が全然降ってないよね」
そう続けて、これから出かけるという憂ちゃんが出してくれたケーキの最後の一切れを
名残惜しげに口に入れる。
名残惜しげに口に入れる。
「言われてみればそうだけど、どうしたんだよ急に」
「こう暑くて晴れた日ばっかり続いてたんじゃ、私もう干からびちゃうよ~」
「こう暑くて晴れた日ばっかり続いてたんじゃ、私もう干からびちゃうよ~」
唯の言うとおり、今年の夏は連日晴れ続きの猛暑だ。
暑いのが苦手な唯には一層きついに違いない。
暑いのが苦手な唯には一層きついに違いない。
「確かに今年の夏は暑すぎるな。でも天気予報ではしばらくずーっと晴れが続くってさ」
「そんなぁ……」
「そんなぁ……」
がっくりとうなだれる唯をどう慰めたものかと思っていたら、
唯は急にがばっと起き上がって私の方に身を乗り出してきた。
唯は急にがばっと起き上がって私の方に身を乗り出してきた。
「そうだ! 澪ちゃんの力で雨を降らせることなんてできない!?」
「はあ?」
「はあ?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。
「澪ちゃん、名前に雨の字が入ってるでしょ?
だから雨を降らせる超能力とか持ってないかなあって思ったんだけど」
「……あのなあ」
だから雨を降らせる超能力とか持ってないかなあって思ったんだけど」
「……あのなあ」
そんな事できるわけないだろ、と言おうとしたその時、ふっとある企みが頭に浮かんだ。
こういうのを魔が差すというのだろうか。
折り良く憂ちゃんも出かけているし、この二人っきりの機会を逃すのはもったいない、
という事で、私は脳内の小悪魔の企みに乗ることにした。
こういうのを魔が差すというのだろうか。
折り良く憂ちゃんも出かけているし、この二人っきりの機会を逃すのはもったいない、
という事で、私は脳内の小悪魔の企みに乗ることにした。
「そんな超能力は無いけど、雨を降らせるおまじないなら知ってるよ」
「ほんとっ!? さすが澪ちゃん!」
「ほんとっ!? さすが澪ちゃん!」
眼を輝かせる唯に心の中で苦笑する。
将来、怪しい宗教に引っかかったりしないよう気をつけてやらないと。
将来、怪しい宗教に引っかかったりしないよう気をつけてやらないと。
「もちろん本当だぞ。じゃあまず目を閉じて」
「了解であります、澪ちゃん隊長!」
「んー、ちょっと硬い感じだな。もっと肩の力を抜いてリラックスしないと」
「了解であります、澪ちゃん隊長!」
「んー、ちょっと硬い感じだな。もっと肩の力を抜いてリラックスしないと」
言いながら、さりげなく唯の側による。
「リラックス、リラックス……。ふわぁ……何だか眠くなってきちゃった」
「こら、それはリラックスしすぎだ」
「ごめんごめん」
「それじゃあ次に、海とか川とか、水に関係あるものをできるだけイメージして」
「えーっと、水に関係あるもの、水に関係あるもの……」
「こら、それはリラックスしすぎだ」
「ごめんごめん」
「それじゃあ次に、海とか川とか、水に関係あるものをできるだけイメージして」
「えーっと、水に関係あるもの、水に関係あるもの……」
じっと考え込む唯の少し汗ばんだ頬を、そっと手のひらで包み込む。
「ふえっ? み、澪ちゃ――」
律儀に目を閉じたままの唯の戸惑いの声は、私の唇で封じられた。
唯の柔らかい唇の感触をしばし味わった後、まぶたに、額に、鼻の頭に……とにかく
顔中についばむようなキスを繰り返す。
どのくらいそうしていたのだろう。
ようやくキスを止めてからちろりと舐めた唇は、唯の汗の味がした。
唯の柔らかい唇の感触をしばし味わった後、まぶたに、額に、鼻の頭に……とにかく
顔中についばむようなキスを繰り返す。
どのくらいそうしていたのだろう。
ようやくキスを止めてからちろりと舐めた唇は、唯の汗の味がした。
「みお……ちゃん……?」
「降らせてやったぞ、雨」
「え……?」
「こういう風にキスする事を『キスの雨を降らせる』って言うだろ?」
「あ…うん…」
「降らせてやったぞ、雨」
「え……?」
「こういう風にキスする事を『キスの雨を降らせる』って言うだろ?」
「あ…うん…」
くてん、と脱力した唯の身体を、優しく抱きとめてやる。
「唯の身体、凄く熱くなってる」
「澪ちゃんの身体の方が熱いよ」
「このままだと二人とも熱中症になっちゃうかもな」
「大丈夫だよ。私が澪ちゃんの身体を雨で冷ましてあげるもん」
「雨で?」
「実は私、雨を降らせる超能力を持っているんだ」
「じゃあ何で今まで使わなかったんだよ」
「たった今、その力が覚醒しましたっ!」
「澪ちゃんの身体の方が熱いよ」
「このままだと二人とも熱中症になっちゃうかもな」
「大丈夫だよ。私が澪ちゃんの身体を雨で冷ましてあげるもん」
「雨で?」
「実は私、雨を降らせる超能力を持っているんだ」
「じゃあ何で今まで使わなかったんだよ」
「たった今、その力が覚醒しましたっ!」
唯の大真面目な顔がおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「ぷっ…ははは…なんだよその御都合主義」
「澪ちゃん、御都合主義は嫌い?」
「……嫌いじゃないよ」
「澪ちゃん、御都合主義は嫌い?」
「……嫌いじゃないよ」
静かに目を閉じて、唯の降らせる雨を浴びる。
……憂ちゃんが帰ってくるまでに止むかなあ、この雨。
浴びれば浴びるほど、身体が冷めるどころか熱くなる雨を浴びながら、
私はぼんやりとそんな事を思った。
……憂ちゃんが帰ってくるまでに止むかなあ、この雨。
浴びれば浴びるほど、身体が冷めるどころか熱くなる雨を浴びながら、
私はぼんやりとそんな事を思った。
おわり
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