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魅惑の髪形(澪視点)

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魅惑の髪形(澪視点)


 >>899の続き、というか澪視点。
唯澪というよりは、かっこ唯-澪ルート-な気がしなくもないけれど
かっこ唯澪が好きなので気にしない

とある月曜日に事件は起きた。

いつものように登校して。
教室で和やムギや律におはようと挨拶をして。
それからしばらくして少し高めの声で「おはよう」という声が聞き慣れた声がして振り返る。が。


―そこには見慣れない、大人っぽい雰囲気を纏った綺麗な女の子がいた。


クラスの誰もが「この子、誰?」という疑問を掲げたけれど、その子が唯の席に着いたことで時が止まった。


―え、あれって唯なの?


クラス皆の心の声が1つになったような気がした。
失礼な様だけどそう思わずにはいられない程、普段の唯とは全く違って見えた。

いつもはふわふわでたまに寝癖がついているのがデフォだった髪はアイロンをかけたかのように真っ直ぐで。
ぽわぽわした雰囲気は一切無く、ちょっと近寄りがたいような雰囲気で。
優しさや純真だと思わせる瞳は、ミステリアスで穢れの無い澄んだ瞳へと。

唯の印象がいつもと異なるものに変わっていた。
一体唯の身に何が起こったのか理解出来なくて、クラスの皆は勿論軽音部のメンバーでさえ戸惑いを覚えた。

それなのに、当の本人は周りの事などお構いなしで接してくるのだ。
けれど、唯の変化が理解できない私達はどう対応していいのか分からない。
普通にしていれば問題はないんだろうけど。

その、傍から見たらすごく唯が格好よくて、凛としていて、見惚れてしまうほど綺麗すぎて。
唯を直視することなんてできなくて、つい目を逸らして。
唯と目を合わせることができなかった。


…その行為が唯を傷つけているなんて知らずに。



その日の部活は律もムギも梓もいなくて、私と唯の二人だけだということに物凄く緊張していた。
いっそのことメンバーが揃っていないから休みでもいいんじゃないかと思ったけれど、文化祭も近づいているし練習を疎かになんてできるわけもなく。
意を決して部室のドアを開けると、ティータイムをする机に腰掛けてぼんやりと窓の外を眺める唯がいた。

その姿が今にも消えてしまいそうな程儚げで。
私はそんな唯の姿に吸い込まれるようにして魅入った。

と、不意に唯がこちらに気付いて視線を向け、静かに微笑む。

「あ、今日は私が一番だよ。澪ちゃんは二番目ね」
「きょ、今日は来るの早いんだな」

私は魅入っていたことを悟られまいと背を向けながら慌ててベースの調整を始めた。

「私はいつも通りに来たんだけど、なかなか皆が来ないから」
「あ、ああ、なんかムギは来れないらしくて、律は部長の集まりだってさ。梓も用事で休むって連絡きてた」

落ちつけ、私。いつもどおりでいいんだ。
心臓はまだドキドキしているけれど呼吸だけでも落ちつけておかないと。
練習さえ始めたら余計なことは考えなくて済むんだ。
セッティングやらチューニングやらをさっさと終えて練習しなければ。

「あれ、そうだったんだ。じゃあお茶会はなしかぁ」
「その前に練習が出来ないって事実の方が問題なんだぞ。今日は合わせられないけど個人練習だけでもやらないとな」

うん、会話はちゃんとできてる。
この流れで練習さえ始められたらあとはどうにでもなる。

「うん、そだね。私も忘れそうになってるコードとかあるし」
「ちゃんと覚えておかないと駄目だぞ。梓に教えてもらうだけじゃなくて覚える努力もしろよ」
「うん、だから今日は今までの復習をしようと思うんだ」

焦りがあるせいかなかなかチューニングがうまくいかない。
急ぐ必要はないのに、気持ちが急いている。
だから、気がつかなかった。

「ああ、それがいいな。じゃあ私も」
「だからさ、澪ちゃん」

いつの間にか耳元で聞こえる唯の声。
何事かと思って振り返ると、

「え…」

視界いっぱいに、唯の顔。そして吐息のような囁き。
つかまえた、と嬉しげな声が聞こえた気がした。

「練習、付き合ってほしいな」

ぎゅっと抱きつかれ、多方面からの不意打ちに私は驚いてしまった。

「ひゃわあああっ!?」
「あ、ごめんね驚かして。それともこそばゆかった?」
「い、いや…だ、大丈夫、大丈夫だ…」

大丈夫じゃない。全然、大丈夫じゃない。
こんなの、無理だ。練習なんて無理だ。
いつもと雰囲気の違う唯に抱きつかれて、耳元で囁かれて、引き込まれるような瞳に見つめられて正常でなんかいられない。

「澪ちゃん、耳が真っ赤だよ。風邪?」
「いっ、いやいや!私は元気だから!全っ然元気だから!だから離れてくれ!」
「それは駄目。放したら澪ちゃん逃げちゃうでしょ?だから離さないよ」

なんとか距離を取ろうともがいても、唯は全然離れてくれない。
なんて慌てていると項のあたりに顔を埋められて。
こそばゆさと恥ずかしさでどうにかなりそうだ。
このままじゃまずい。本当に私は死ぬかもしれない。

「あぅ…ゆ、唯…」
「んー…澪ちゃんいい匂い。髪もサラサラだし、羨ましいなぁ」
「ぅ…。ゆ、唯だって」
「ん?」
「唯だっていつもと違うだろ…」
「へ?」

なんとか抵抗しなきゃと沸騰した頭でなんとか言葉を絞りだす。

「私はいつもと同じだよ。それよりも皆が私に対してよそよそしいのはどうして?」
「いや、それは…」

唯の声色が悲しさを帯びている。
唯は気付いていないんだろうか。自分がいつもと違うってことに。
何て言ったらいいものか、言葉がまとまらない。

「私の事、嫌いになった…とか?」
「ば…っ!そんなわけない!唯を嫌いになんかなるわけないだろっ!?」

私は即座に叫んだ。
そんなことあるわけがない。冗談でもそんな事を言ってほしくなかった。

それが唯に伝わったようで、抱きしめる力が少しだけ強くなる。
…ってそういえば唯に抱きつかれたままだった。

「そっか。私も澪ちゃんの事、皆の事が大好きだから安心したよ」

唯の声が耳をくすぐる。
優しげな声色が耳に心地良い。

「ぅあ…、あの、唯。…一つ、聞いていいか?」
「ん、なぁに?澪ちゃん」
「あの、さ。髪型、いつもと違うだろ?何か、あったのか?」
「…髪型?ああ、うん。あまりに暑かったから美容室でちょっとすいて貰ったんだよ」
「え、すいただけ?」
「うん…あ。そういえば間違ってへんなヘルメットみたいなの被せられて熱くなったりもしたけど」
「ヘルメット…熱く…?」

髪をすいただけではああも真っ直ぐになるはずがない。
元々唯は癖っ毛なのだからすいたところで髪の毛のボリュームが若干なくなる程度だと思う。
アイロンで整えただけかと思っていたのだけれど「ヘルメット」と「熱い」というキーワードが引っかかる。
唯が美容室での出来事を聞いて、導き出される一つの答え。

「唯。それは縮毛強制…じゃないか?」
「しゅくもう…?」
「まさか、唯は気が付いてなかったのか…?」
「ん?うん。なんか美容師さんにいっぱい謝られちゃったけど、私自身はそんなに気にしてなかったよ。というか、そこまで変わったように見えなかったから澪ちゃんに言われるまで気がつかなかったし」
「いや、傍から見ると結構違って見えるぞ。教室入ってきたときは一瞬誰かと思ったくらいだし、何よりいつもと雰囲気が違うから皆がちょっと驚いて敬遠してたんだ」

唯がいまいちピンと来ていないようだったけれど何かを思い出したように納得していた。

それにしても間違って縮毛かける美容室とかあるんだろうか。
いや、実際唯が被害にあってるんだけど。
縮毛をかけられて気が付かない唯も相当だ。いつもの唯とこんなにも違うっていうのに。
…等ととぼんやりと考えていたら少しだけ悲しさを含んだ唯の声が聞こえてくる。

「そんなに違うのかなぁ…?皆がびっくりしちゃう程おかしい、かな…」
「唯…」

後ろから抱きつかれているせいで唯の顔は見れない。
振りむこうとしたけれど、唯は私の項に顔を埋めていてどんな表情をしているか確認できなかった。

「…ごめんね。皆がよそよそしいのが不安で、嫌われちゃったのかなって、心配だったから…」
「ち…違う、違うんだ唯。唯は全然おかしくない。…その、あまりに唯が綺麗だから…皆直視できなかったんだ」

唯が泣いているように感じて、胸がきゅうと締め付けられる。

ごめん、唯。
何も悪くない。唯は何も悪くないんだよ。

「そ、なの?」
「…ああ。いつもの唯は可愛いって感じなのに、今日はなんていうか、凛としてるんだ。

すごく綺麗で格好良く見えて、私も律もムギも戸惑って…。どう、接していいのか分からなかったんだよ……ごめんな、唯」
「…いいよ、私が髪の事について皆に説明してたら良かったんだよね。こっちこそ、ごめんね」

謝罪の言葉とと共にさらに密着度が増す。

「ひゃあ…っ!?ゆっ、唯!?」
「えへへー…嬉しいなぁ…」

…って近い近い!
唯が項に顔を擦り付けてくる度にこそばゆくてぞわぞわする。
所為服越しとはいえ、長い事身体をくっつけていたら温もりだって伝わってくるし、心なしかまた心臓がドキドキし始める。

なんだ、これ。なんで、こんなに。

唯が抱きつくたびに早くなる鼓動。熱くなる顔。
自分の身体の変化にうろたえていると、唯は相変わらず私の項に顔を埋めたままくんかくんかと匂いを嗅ぎだした。

「ちょ…っ!何嗅いで…!?」
「澪ちゃんの髪、いーにおいだね?もちろん、髪だけじゃないけど」

無理だって、ヤバいって。
なんで、今日はこんなに積極的なんだ。
確かに唯はいつもこんなんだけど、大抵餌食になるのは梓で私の役目じゃないはずだ。
あくまで私は止める側であって…!

「あ、ぅ…」
「こんなにいい匂いなら澪ちゃんのこともぎゅーってしないとなぁ」

身近で響く唯の声が私の中に溶けていく。
その度に身体が火照ったように熱くて震える。
2人きりで誰にも見られていないというのに恥ずかしくてどうにかなりそうだ。

「や、唯ぃ……も、やめて…」
「あ、ごめんね。澪ちゃんの髪、本当にいいなぁって思ってつい、ね」
「ほんと…?」

もう息も絶え絶えで。熱に浮かされた頭は何も考えられない。
それでも、唯にこんな風にされるのを嫌だとは全然思わなくて。むしろ―

「うん。いじめるつもりは全然なかったんだけど。ごめんね、澪ちゃん」
「ぁ…」

不意に唯が顔に手を伸ばす。
いつの間にか目尻に溜まった涙を人差し指を掬い―そして、口に含んだ。
其の一連の流れがあまりにも自然で、自分の身に起きた事を理解出来なかった。

「…甘い」
「――っ!!」

顔が沸騰した。

じゃなくて、顔が沸騰したんじゃないかというくらい熱い。
唯が発した言葉でようやく何をされたかを理解して、更に熱くなる。
甘いってなんだ。涙はしょっぱいものであって甘い訳がないんだ。
だから、きっと聞き間違いだ。うん、きっとそうだ。
なんとか自分自身を落ちつけようとしていたらまた唯の手が伸びてきて驚いた私はとっさにそれを防ぐ。
二度も同じ羞恥プレイにあうのは精神的に耐えられそうもない。

「…な、なななななにするんだ!」
「何…って、澪ちゃんの涙を拭っただけだよ?」
「拭っただけ、って…」

人差指で涙を拭うって行為自体気障なのにそれを違和感なくやってのけられる唯が怖い。
天然って怖い。

「ふふっ。澪ちゃんの顔、真っ赤だよ」
「ゃ…ぁ、ぅ…」

唯が私の頬に触れる。
それだけで顔が熱くなって、動けなくなって。
いつの間に向かい合わせになっていたけれど、そんなことはもう気にしていられない。

唯の視線に絡められて、囚われて。
もう、逸らせない、逃げられないんだ。

何かの儀式をするかのように、私の髪を一房掬いあげて軽く唇を落とす。

「りっちゃん達は来れないみたいだし、今日は澪ちゃん分をめいっぱい堪能しちゃうよ?」
「―…っ!」


―ああ、つかまった。


楽しさと嬉しさを湛えた唯の瞳が私を捉えた瞬間だった。


第01話 唯視点
第02話「二人だけのふわふわ時間」(唯視点)/(澪視点

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