みおつくし
「はぁっ……着いたっ」
家から自転車を飛ばして数十分。現在時刻、午後9時少し前。
いくら通い慣れたからといっても夜道は暗い。
何度か犬に吠えられたけど、なんとか着いた。
何度か犬に吠えられたけど、なんとか着いた。
現在位置、澪ちゃんの家の玄関先。
1月の寒さにかじかんだ指先で、インターホンのボタンを押してから気づいた。
……あれ、こんな時間に迷惑じゃない?玄関の灯り消えてるし。
考えるが遅し、プツッと通信が繋がった。
『……はい、秋山です。どちら様ですか?』
良かった、愛しい彼女の声だ。
これが両親のどちらかだったら、なんて説明すればいいのやら。
これが両親のどちらかだったら、なんて説明すればいいのやら。
「あ、私っ。唯だよ!」
『は、……ええ、唯!?なんでこんな時間に……ちょ、待っててすぐ開ける!』
プツンと通信が切れて、家の中からドタバタと忙しい音が聞こえてきた。
澪ちゃんが慌てることないのに。
澪ちゃんが慌てることないのに。
カチャリと鍵が開き、澪ちゃんが顔を出した。
「どうしたんだよ、急に。来るなら来るって連絡してよ!」
「ごめんね、驚かそうと思って。……あの、泊めてくれない?」
急に来ておこがましいかな?
「……とにかく入って。寒いでしょ?」
手を引かれて招き入れられた。外の寒さとは段違いだねぇ。あったかあったか。
そして澪ちゃんの家独特のいい匂いが私を包んでくれる。
そして澪ちゃんの家独特のいい匂いが私を包んでくれる。
「私の部屋に行ってて。一応話つけてくるから」
そう言い残してリビングに向かっていった。私は階段を昇り、すぐ脇の部屋へ突入。
「……澪ちゃんのおっ部屋♪」
幾度となくお邪魔した彼女の部屋。机の上には勉強道具が所狭しと並んでる。
部屋の隅っこには一緒に行ったゲーセンで獲得した、大きなぬいぐるみが鎮座していた。
部屋の隅っこには一緒に行ったゲーセンで獲得した、大きなぬいぐるみが鎮座していた。
そして……。
「とうっ!」
ベッドにダイブ。ボフッと音を立てて柔らかな布団に沈み込む。
「澪ちゃんの匂い……」
まるで澪ちゃんに抱き締められて包まれているよう。
ひとしきり匂いを堪能して、枕を抱き寄せてゴロゴロと転がってみる。
「♪~」
あぁ、幸せってこういうことなんだね……。
「……人のベッドで何してるの」
「あいたっ」
流石に脳天チョップは響くよ澪ちゃん。というかいつの間に。
「唯が枕抱いてゴロゴロしだしてから。……泊まってっていいってさ」
「ほんと?良かったぁ」
「ダメだったらどうするつもりだったんだ?」
「……野宿?」
今度はおでこを小突かれた。冗談なのに。
ベッドの端に座り直す。澪ちゃんも隣に密着するように座った。
二人分の体重がかかってギシリと軋む。
二人分の体重がかかってギシリと軋む。
「……で、どうしたの?いつもならメールくらいしてくれるじゃないか」
「さっき言った通り、驚かそうと思ったんだ。二人っきりで澪ちゃんの誕生日、祝いたかったから」
学校で皆でお祝いしたけど、やっぱり二人きりがいい。
「……ごめん、唯。学校であんなことしちゃって」
真っ赤に染まった顔を手で覆い隠してる。耳まで赤くてなんだか可愛い。
「気にしてないよぉ。暴走した澪ちゃんも可愛かったよ♪」
どんな暴走だったかは割愛。
「それでね、もう一つプレゼントがあるの」
バッグをごそごそとまさぐり、お泊まりセットを掻き分けてお目当ての物を取り出す。小さな紙袋。
「はい、これ。ちょこっとお値段張ったけど」
未だに顔を隠してる手を引っ張り、紙袋を手渡した。
「……開けていい?」
こくんと頷き、促す。
「……。!……これ、ペンダント?」
出てきたのは、小豆色の宝石が埋め込まれたペンダント。
「インドスタールビーって言うの。澪ちゃんの誕生日の、1月15日の誕生石なんだよ!」
澪ちゃんは聞いてるのか聞いてないのか、ポーッと宝石を見つめてる。
「それ、光にかざしてみて?」
「……こう?」
言われるがまま、部屋の灯りに宝石をかざす澪ちゃん。
「う、わぁ……!」
「ね?すごいでしょ」
真ん丸の宝石の中心から、5つの光の線が走る。まるで星のように。
「アステリズム、って言ってね。色の濃いスタールビーほど綺麗な星形ができるの!
インドスタールビーって色が深いからとっても綺麗でしょ?」
インドスタールビーって色が深いからとっても綺麗でしょ?」
「……っていう店員からの触れ込みなんだな?」
「……もう!」
せっかくかっこつけたかったのに。
「つけてあげる。貸して?」
「ん……」
澪ちゃんは顎を少し上げて目を閉じた。なんだかキスする直前みたいな感じ。
ぷるっとした唇に目が行き、ゴクリと喉が鳴る。……我慢我慢。
ぷるっとした唇に目が行き、ゴクリと喉が鳴る。……我慢我慢。
「……はい。すごく似合ってるよ澪ちゃん」
「ありがとう……大事にするよ」
ニッコリと微笑んでくれる。これまで何度、この笑顔に救われたことか。
「……唯っ」
「え、きゃぁっ」
ドサリ、と。ベッドに引き倒された。コツリと額同士がぶつかる。
「本当にありがとう。一生大事にする」
「み、澪ちゃん近い、よ……」
至近距離で見つめられる。黒い瞳に吸い込まれそうになる。
澪ちゃんの甘い吐息が鼻腔をくすぐる。
「唯。……あいしてる」
あぁ。この雰囲気に酔っていく。澪ちゃんの妖艶な瞳に縛られる。
私にはもう、どうすることもできない。
私にはもう、どうすることもできない。
「唯は?私のこと、どう思ってる?」
知ってるくせに。口角を上げ、私から言葉を奪おうとしてるんだ。
こんな澪ちゃんは、私以外の誰も知らない。
こんな澪ちゃんは、私以外の誰も知らない。
幼馴染のりっちゃんでさえ、この魅惑的で積極的な彼女を知らないんだ。
私だけの、澪ちゃん。
「ねぇ、唯」
鼻を擦り付けられる。緊張で乾いた唇を赤い赤い舌で舐められる。
観念するしかなかった。
観念するしかなかった。
「わ、たしも。あいしてるよ……澪ちゃん」
魔法の言葉だ。発するだけで体が疼く。顔が熱くなる。
「唯……んっ」
「ん、んんっ!」
言葉の次に、唇を奪われた。油断していたせいで、一気に口腔まで舌の侵入を許してしまった。
「んちゅぅ……ゆい……」
「んむぅ……ぐちゅ……み、お……!」
歯列を舐められ、頬の裏の粘液を削がれ。
せめてもの抵抗に、と舌を押し付けたら、瞬く間に絡め取られてしまう。
せめてもの抵抗に、と舌を押し付けたら、瞬く間に絡め取られてしまう。
「ぢゅぅぅぅ……!」
「ぅぅっ、んんんぅ……!」
思考が薄らいでいく。身も心も吸い尽くされ、私の中に残るのは、狂おしいほどの多幸感。
「……ふはぁぁ……ゆい……」
「ぁ、……あはぁ……」
体がいうことをきかない。弛緩しきって、澪ちゃんに身を任せることしかできない。
ついに、私は陥落した。
「みおちゃん……もっとぉ……すきにして……」
「ゆい……わかった」
今度は首筋を啄まれる。澪ちゃんに触れられている全てが熱い。
足を絡め合い、このまま一つになってしまえばいい、とさえ考えた。
足を絡め合い、このまま一つになってしまえばいい、とさえ考えた。
「あ……あぁ……」
わたし、なにしにきたんだっけ。
あぁ、そうだ。インドスタールビーの宝石言葉、まだ伝えてないや。
それは、『人生の水先案内』。
私たちの行く先を照らす、小さいけど確かな光。
桃色に染まっていく思考の隅で、こう願った。
桃色に染まっていく思考の隅で、こう願った。
―――どうか。どうか、私たちの未来に、澪標を―――
生まれてきてくれて、ありがとう。
私に出会ってくれて、ありがとう。
私に出会ってくれて、ありがとう。
夜は、長い。
澪標……みおつくし。水尾つ串とも。
航行する船が座礁しないよう、河川や海に突き刺しておく目印となるもの。
転じて、世の中を渡るための指標となるものを指す。
航行する船が座礁しないよう、河川や海に突き刺しておく目印となるもの。
転じて、世の中を渡るための指標となるものを指す。
初出:3->>686
- ヤバい、澪唯ヤバい。ヤバすぎる。 -- (名無しさん) 2011-02-07 20:48:01
- 宝石言葉いいねぇ... -- (名無しさん) 2011-08-04 20:14:20
- なんかしらんがヤバい
唯澪最高 -- (名無しさん) 2011-09-25 12:37:19 - ひぐらし思い出した -- (名無しさん) 2011-12-17 14:34:35
- (o゚▽゚)o -- (KYな俺) 2012-03-23 08:37:29
- これは良作すぎた -- (名無しさん) 2012-04-16 00:57:35
- 割愛…だと…? -- (名無しさん) 2012-11-06 22:50:57
- 暴走についてkwsk -- (名無しさん) 2014-08-30 10:23:46