―――邂逅する。
何と、邂逅するのだ。
―――ああ、どうして。
どうして、ここにいるのだ。
―――神様、どうして。
何が、起こったのだ。
―――見タクモナイ現実ガ、ソコニハ在ッタ。
『う―――ううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
叫んだ。
最悪は最悪ではなかった。
更なる最悪は、泰然自若としてドスの眼前に立っていた。
どうして。
ただそれだけが、よく回らない思考回路で反復される。
原形を留めた子供は、ただの一人としていなかった。
ある者は餡子の染みと化し、ある者は圧縮された饅頭と化していた。
非常に広範囲に漂う死臭から、爆砕し、撒き散らされた子供もいると推測出来る。
ドスは、その場で嘔吐した。
彼女自身は、これ程までに凄惨な殺害現場を体験したことが無い。
昔体験したあの虐殺も、その死体の大半を人間が片付けてしまったため、「凄惨な殺害現場」を見ることはなかった。
だからこそ、耐えられなかった。
「―――よゥ、ド饅頭。汚ェ加工所へようこそ」
悪夢が声をかけてくる。
居る筈の無い訪問者。
ゆっくりにとっての、絶対的な殺害者。
「原始的な殺害者」を語るには持って来いだった。
『どぼじでえええええええええええええええ!!!!!!!! どぼじで人間ざんがいるのおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!』
「―――さァな」
踏み込む。
ド饅頭の問いに答える必要はない。
すぐに懐に潜り込む。
人間の動体視力ですら捉えられない程高速で放たれた右中段回し蹴りが、ドスの下顎の部分に突き刺さった。
『ゆぶえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!』
ドスが絶叫を上げる。
今まで体感したことの無い猛烈な激痛。
理解出来ない思考回路に、更なる理解不能が詰め込まれる。
人間では持ち上げることすら叶わぬ筈の重量が、こともあろうに三尺程浮き上がり、木々を薙ぎ倒しながら地面と平衡に飛行する。
そのままドスは五秒程平行移動を続け、重々しい音と共に落下した。
『ぎっ!!!!!!!!! ああああああああががっがっがあああああああああああっがあああああああああああああ!!!!!!!!!!! イダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
絶叫に次ぐ絶叫。
ある筈もない痛覚が襲いかかる。
そんなドスの痛みなど全く意に介せず、男は悠然たる歩調でドスの前に立ち塞がった。
「いやァ、気持ちいいもんだなァおい。あんなチビた饅頭なんかよりは楽しめるだろうな」
軽薄な嗤い。
ドスにとっての大切な未来は、男にとっての生ゴミである。
痛みも悲しみも全て忘れ、ドスは激昂した。
『ゆ・・・あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! おあぢゅりいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!! おぢびぢゃんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!
―――皆を殺じだ人間ざんは死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええ』
ドスは何とか身を起こし、嗤い続ける男に体当たりを仕掛ける。
油断し切っている男にならば、当てられる一撃だ。
しかし―――
「まあ待て。ちったァ落ち着けや」
その攻撃は、片手で受け止められた。
無論、相当な重量を誇るドスの体当たりは、人間を容易く吹き飛ばすことが可能だ。
ドスの身体能力そのものは他のゆっくりと大差ないが、その重量と体長は十分な凶器なのだ。
ドスも、この体当たりで打ち破れなかった獣がいないことを思い出していた。
―――だが。
目の前の人間の剛力は、ドスが知る「人間」を遥かに超えていた。
人間は、何の道具も無しに木々を素手でへし折るという所業は為せない筈だ。
万が一為せたとしても、ドスまりさに攻撃されて平然と立ち続けるなどということは絶対に不可能である筈なのだ。
・・・・
「すまあとじゃねェんだな、手前ェはよ」
人間は愉悦に顔を歪めたまま良く分からない言葉を呟き、ドスの巨大なまむまむに鬼の様な腕を突っ込んだ。
何が起きたのかさえ理解出来ないドスに対し、男はやはりその呟く様な、嘲る様な口調を変えず、言った。
「すまあとってのは、こういうことじゃねェけど―――なッ!!!!!」
まむまむに入れられた腕が、ドスの表皮を内側から掴んだ。
体内を掻き回され、挙句岩をも握り潰しかねない強靭な握力で普通ならば痛みを与えられない様な弱い部分を掴まれたドスは、半狂乱になった。
『あぎっ!!!!!!!!!!!! があああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!! 離ぜええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!! 離ぜえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!』
痛みに喘ぐその体を無理矢理に動かす。
しかし、男の腕は抜けるどころか微動だにしない。
ドスは無我夢中で、その口腔内で栽培している茸を噛み砕いた。
ドスまりさの有する最大の兵装―――ドスパークを放出するために用いられる茸だ。
憎悪に塗り潰された瞳を男の方に向ける。
自分の死期など知らない。
不悟と罵られても構わない
ただ―――ただこの人間が、ぱちゅりーやおちびちゃんをゆっくり出来なくしたことだけが事実。
―――この一瞬だけ、ドスまりさは「正しき断罪者」としての価値観を得ることが出来た。
『ゆっがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
凶暴な咆哮。
目の前の人間など瞬時に蒸発させられるだけの熱量を誇る極大の閃光が撃たれた。
男とドスとの距離は、全く離れていない。
零距離射撃。
避けられる筈がない。
「―――瞬動術っつってな。予備動作無しに極限の速度を出せる業だ。無論、進める距離は大したことはねェがな」
避けられる筈がない。
『―――ゆああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・?』
―――あれ?
―――刹那、背面部に猛烈な打撃が加えられた。
方向が整い過ぎていた。
男が放った右正拳突きは、ドスの咆哮を聞いて駆けつけていた成体ゆっくり達の方を向いていた。
当然撃たれたドスは、口から吐き出すドスパークもそのままに成体ゆっくり達の方へと飛んでいく。
その飛行を止める術は誰にも無い。
「ドスうううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!! ドスうううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!」
「こっちからドスのこえがするんだよー!!!!!」
「こっちはひろばのほうなんだぜ!!! でもぱちゅりーのこえもおちびちゃんのこえもきこえないんだぜ?!!!!」
「すあなにもいなかったわ!!! なにかあったとしかおもえないわよおおお!!!!!!!!」
成体ゆっくり達は、皆一心不乱にドスを追う。
ドスの声は、ぱちゅりーや子供達を呼んでいた。
そして、憎悪と絶望に塗れた絶叫を挙げていた。
―――ああ、と生体ゆっくり達は理解していた。
賢いが故に、ぱちゅりーも子供達も、誰もかもがゆっくり出来なくなってしまったことを理解していた。
―――そして、善良であり過ぎた。
普通のゆっくりならば、ドスの絶叫を聞いた時点で方向を真逆に変えて逃亡しているだろう。
―――賢く、善良で、他のゆっくりとは一線を画した存在であったこと。
これから始まる結末は、ゆっくりとしてあるまじきその素晴らしさが生みだしたものに他ならない。
―――唐突で、一瞬だった。
巨大なドスの体が、生体ゆっくり達の上空を通過した。
高速で飛行するドスを見つけたのは、先頭を走っていたまりさ種だった。
ただ、その鈍重過ぎる動体視力では何かが飛んでいるということを認識出来ただけで、そもそも認識した次の瞬間には灰と化していたが。
魔理沙が焼き尽くされるほんの一瞬前には、その隣を走っていたちぇんが気付いた。
ちぇん種は視力こそ悪いが、動体視力には優れる。
そのため、魔理沙が焼き尽くされるその刹那を捉えることは出来た。
無論、結末は同じであったが。
ドスまりさは飛び続けた。
その下で、彼女を慕って追いかけてきた群れのゆっくり達が皆死んだ。
―――全ての成体ゆっくりが、断末魔を挙げることすら許されずに灰塵となった。
「―――大体よ、おかしいんじゃねぇか? 饅頭如きが生きてるなんてな」
男は目の前に誰かがいるのではないかと思う程大きな独り言を呟きつつ、ドスが飛行していった方向へと歩いていた。
ドスが吐き出す熱線は大凡摂氏千度程度の温度を誇るため、今歩いている道もその表面が硝子のように溶けている。
地面を溶かす程の熱線を吐き出す以上、ドスの耐熱性能は生半可なものではない筈である。
しかし、実際には他のゆっくりと耐熱性能も耐火性能も変わらない。
出鱈目である。
「生かしちゃおけねェよなァ・・・ああ、駄目だ。絶対に、ブッ殺す」
狂乱の猛毒が全身を駆け巡る。
・・・・・・・・・・・
―――ゆっくりを殺さなければ。
思考はそれのみで満たされる。
―――殺人者にならなくて良かった。
足元の灰を踏み締める。
原形を留めるどころか、その存在すら消し飛ばされてしまっているゆっくり達は、恐らく無念ですら感じることはなかっただろう。
動いているものは一匹としていない。
鏖。
この状況下では、最も正しい言葉だ。
一方のドスは、強烈な一撃によって五十間という俄かには信じ難い距離を飛び、挙句崖にぶつかって墜落していた。
如何程の力で殴ったのだろうか。
人間であれば、確実に死んでいる。
背面部には、男の拳の型がくっきりと残されている。
ドスの表皮はその部分だけが完全に潰れてしまったようで、元に戻ることが無い。
口からは大量の餡子が漏れ出している。
即座に致死量に達することはないだろうが、それでも動きを止めざるを得ない程には餡子を流出させていた。
崖に激突した衝撃により、左の眼球が潰れてしまった。
右目にも石の破片が突き刺さり、もう殆ど見えていない。
死を待つしかなかった。
『ゆ・・・ぁああ・・・』
―――どうして。
自問。
『ゆぐぅ・・・う・・・』
―――分からない。
自答。
繰り返す。
何故こうなったのか。
ドスには理解出来ない。
餡子脳が火花を散らす。
絶対的に理解不能なその事態を目の当たりにして。
―――神様なんて信じてはいなかった。
人間は、神様を祀ってその恩恵を受ける。
しかし、ただの饅頭にそこまでの恩恵を授ける神様はいない。
神様も、自分を信仰しない饅頭に恩恵を授ける筋合いはない。
だからドスは、神様なんて信じていなかった。
でも、今なら言える。
信じない筈の神様を信じて―――最大限の呪いの言葉を。
―――嗚呼神様、どうしてドス達がこんな目に逢わなければいけなかったの?
―――どうしてドス達をゆっくりさせてくれなかったの?
―――悪いことをしたのなら謝りましょう。
―――目障りになるのなら何処へも消えましょう。
―――でも。
―――でも。
―――どうして死ななくちゃいけないの?
誰も答えない。
答える必要が無い。
ただ―――
「まだ生きてるよな。死んでもらっちゃ困るんだがよ」
―――悪魔は応えてくれるようだった。
―――流石ドス個体といったところか。
痙攣を起こしながらも、ドスまりさは生存していた。
しかしその傷を見る限り、生命活動を停止する前に再生することは不可能だろう。
幾ら生命力旺盛なゆっくりであるとはいえ、死からの逆行は許されない。
「よォ、ド饅頭。くたばっちゃいねェよな」
軽く下段蹴りを入れながら問うてみる。
返事こそ無いが、痙攣しているところを見ればまだもう暫く生きていられるだろう。
「中々楽しめなかったな。あのチビ饅頭共も一分持たなかったし、ちっとはデカい饅頭共も手前ェが消し炭にしちまったからな」
悪魔は淡々と事実だけを述べる。
どうやらゆっくり百匹分の命を費やした遊戯は、悪魔の眼鏡に敵うものではなかったようだ。
ドスは途方もない虚脱感に襲われた。
悪魔の言葉は、憎悪や悔しさ、絶望を全てドスから奪い去った。
―――お父さん、お母さん。
―――ドスは、二人の言いつけを守れなかったよ。
―――群れを護れなかったし、ドスもここで死んじゃうよ。
嗚呼―――どうしてゆっくりはゆっくりしちゃいけないんだろう―――
「極彩色の魂よりも、黒一色の餡子ってわけか―――ま、生きてていいシロモンじゃねェわな」
一人ごちる。
もうドスにも興味はない。
放っておいても直にくたばるだろうが、一応完全に殺害しておこう。
そう考えた男は、今し方ドスを撃ち飛ばした一撃よりも更に重い打撃を繰り出すために、大きく上体を捻りながら、自分の拳を限界まで握り締めた。
これを始めから使っていれば、ドスと言えどもその衝撃に耐えられることは出来なかっただろう。
しかし、敢えて使わなかった。
使えなかったのだ。
力を溜める時間が長過ぎたのだ。
最早声すら上げられぬほど衰弱したドスと、その身を引き絞り続ける男との間には、ゆっくりがこの地に辿り着いて以来久しく訪れなかった静寂が満ち満ちていた。
最期を悟った。
もう自分は死ぬ。
悟りながら死ぬ。
ゆっくりは、ゆっくりさせてもらえない。
何処に居ても、結局待つのは全てのゆっくりの死のみ。
もしかしたら、この世界にはゆっくりが存在出来ないように抑止力が働いているのかもしれない。
だとすれば、ゆっくりはゆっくりを名乗ってはいけない。
ゆっくりを想像する概念には、「ゆっくりすること」が含まれていないのだろう。
『お・・・お兄・・・さん・・・』
未だ極限の力を引き出し続けている男に向かって、ドスは命を燃やし尽くす覚悟で話しかけた。
「―――・・・」
だが、男から返事が返ってくることはない。
それでもドスは、ただ死に逝く者として、自己満足的な独白を続けることにした。
『・・・ド・・・ドスは・・・ね、やっと・・・悟った・・・よ・・・。ゆっく・・・りは・・・ゆっくり、しちゃ・・・駄目、なんだね・・・』
「・・・」
『人間さ・・・んも、妖・・・怪さんも・・・、誰も・・・ゆっくりのこ・・・となんて・・・どうでも・・・いいん・・・だよ・・・ね』
「・・・」
『ドス・・・は・・・、・・・もしも・・・もう・・・一度・・・ゆっくりとし・・・て・・・生まれ・・・変わった、ら・・・もう二度・・・と、ゆっくり・・・しない・・・よ』
「・・・」
『嗚呼―――ドス・・・は、問うよ・・・―――どうして・・・ゆっくりは・・・生まれて・・・きた・・・の・・・?』
「―――飢えず餓えず、無に還れ」
ドスの最期の言葉にも、誰も何も答えることはなく。
ただ、暴虐なる剛拳が一閃、ドスを魂の根源へと誘う言葉と同時に放たれた―――
「―――という話だな」
男は、酷く愉快そうに、そして且つ不愉快そうに、話を締め括った。
目の前の、赤と蒼を基調とする不思議な洋装をした銀髪の女性は、額に手を当て、疲れたような溜息を吐き出した。
「あのねぇ・・・一応あの群れは、私が生体観察用に整えておいたものなんだけれど」
「んあ? 素兎はんなこたァ言ってなかったぞ」
「貴方ね、あれは精神疾患も疑われる程の嘘吐きなんだから、信じないで頂戴」
女性は、手の中で万年筆を転がしながら言った。
「まあ、そろそろ観察も潮時だと思っていたし、特に咎めることも無いのだけれどね」
「だったらいいじゃねェか。アンタはあのド饅頭の始末の手間が省けて良かった。俺ァあいつらをブッ殺せて良かった」
「ふぅ・・・そういうことにしておきましょうか。ゆっくりのことで気を滅入らせても仕方ないし」
そう言って、手元のファイルを確認する。
―――群れのゆっくりは全滅。
―――それ以外に特筆すべき事項は無し。
女性が付けていた観察記録の最後の行には、その二言しか書かれていなかった。
全ては、この女性―――八意永琳の実験の一環として行われたことだった。
ドスの両親であるまりさとぱちゅりーは、永琳が人工的に生み出した強化ゆっくりだった。
強化した生物は基本的に生殖能力や寿命といった観点で平常の個体に劣るが、この二匹に関して言えばそのようなことは全く無く、後にドスとなる個体を生みだすことに成功した。
そこで実験を終わらせても良かったのだが、二匹が所属していた群れが人里に被害を与えていたゆっくりであったため、少し実験内容を変更することにしたのだ。
先ず、その群れを攻撃する。
その群れの駆除を目的とした攻撃だ。
ただ、その中で永琳が放した二匹のゆっくりのみはすぐに攻撃しないように指示しておいた。
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子供が巣穴に隠れていることを確認し、演技力のある虐待鬼井山が、同情するふりをして二匹の命と引き換えにドスとなるまりさを逃がしたのだ。
後は、高い身体能力と知的能力を併せ持ったまりさがドスとなって新たに群れを構築し、それがどのように発展し、どのように衰退していくのかを観察するつもりだった。
ドスが群れを構えた森も、実際にはあれだけの数のゆっくりを賄える程実りがあったわけではない。
永琳が、話の通じる妖怪に植物の成長を促進させる薬品を散布させていたからこそ、食料の供給量が安定していたのだ。
―――全ては仕組まれていた。
釈迦の掌の上から逃げられなかった孫悟空のように、ドスまりさは永琳という月の頭脳の掌の上から逃れることは出来なかった。
「全く・・・弟分も、恐ろしい女に教えを請うてるもんだな」
「あら。あの子は中々優秀よ? 少なくとも、薬学という範囲においては姉弟子よりも呑み込みが早くて助かるわ」
「話を逸らすな」
「逸らしている気は無いわよ。それとも、挑発として受け止めても構わないのかしら?」
「ハッ、手前ェにカマすハッタリはねェよ」
苦い笑いを浮かべながら、男は酒天の娘のように腰から下げた酒の瓢箪を口に運んだ。
永琳も、最近人里で作り始めたという葡萄酒を口にした。
ゆっくりはゆっくり出来ない―――してはならない。
ドスまりさが最期に呟いたその言葉は、限りなく正しい。
全ては他の生物の為すがまま。
全ての行動を害悪としてしか受け止めてもらえない。
増えれば滅ぶだけ。
減っても滅ぶだけ。
彼らが、生物として僅かな安らぎだけでも手に入れられる可能性はない。
ドスまりさを徒手空拳で叩き潰した男は、そういった意味では一種の救世主なのかもしれない。
今日も、ゆっくりの悲鳴が聞こえる。
あるものは加工され、あるものは制裁され、あるものは無意味に殺される。
男は、素兎から新たなドスの群れの存在を聞き、それを潰しに行く。
強さを誇る者の為に、ただその力を誇りたいという我儘の為に、幸せを得られない彼らは滅んでいく。
「―――飢えず餓えず、無に還れ」
剛拳を誇る、とある人間の言葉と共に。
後書き
超絶的な遅筆ですね。
前回の投稿からどれだけ経っているんでしょう。
えー、今回は本当にネタだらけです。
オーガと輝く八面体が書きたかっただけです。
分からなかったらごめんなさい。
この男はまた後の文章にも出てくると思います。
チート過ぎるキャラって、使い勝手がいいですよね。
言い訳も終えましたので、失礼させて頂きます。
お読み下さった方には、感謝御礼申し上げます。
最終更新:2011年07月29日 02:41