男は『休憩室』と書かれた文字が剥げかかったプレートの下がってる部屋に入る
そして手近な緩衝材が飛び出しかかっているボロいソファに腰を静めると座煙草に火をともし大きくため息をつく

『久しぶり、どうしたんだ?今日は何時もより疲れた顔をしてるぜ』

声の主を男が振り返ると力のない笑顔を帰した

「やぁ、久しぶりちょっと色々あってね」

大きく息を吐くと煙草の煙が雲のように広がると霞のように消えてゆく
しばらくの間男はそれを何度も繰り返す

『自分と会う前は何してんだ?』

男はこの加工場の開業時から勤続している
当初は工員で飼育所からつれて来られたゆっくりから餡子を抜き取る作業を行う工員だった
加工場の規模が拡大するにつれ販路開拓の為の要員が必要となり営業員の募集が告知された
彼は実家が元は小さい呉服屋のだった事もあり親について飛び入りの販売を手伝った事もあるのでそれなりに自信はある
何より機械化が進み製造ラインから他の工員が徐々に減っているのを目の当たりにしている、何時までもここに居られる保証はない
学歴も家柄も大して良くないが商売に関しては経験ならある
男は募集が告知されるや直に志願した....


「あん頃は生活するのにも必死だった...仕送りなんて期待できやしないし、それ以前に俺は実家をの跡を継ぐのがいやで飛び出してだったけな」

煙草を燻らすと男はかつての思い出に浸る様に目を閉じる

『今やアンタは泣く子も黙る人事課長様だぜ』
「よせや…たいした物じゃねぇ」

軽く咳き込むと大きく溜息をつく

『何か嫌なことあったのか?話してみな、相談にのるぜ』
「…実は今日こんな事があってな…」






時を少しさかのぼる事数時間
空は快晴なれど春には未だ遠く街路の木にも疎らに枯葉が、冷たい風に呷られ舞う
加工場の正門には手書きの大きな字で『ゆっくりカンパニー採用試験会場』と書かれた紙が張られている
その横を数十人ほどの真新しいスーツを着た男女が入ってゆく
男は机一つと椅子が2つだけ置かれた殺風景部屋の中からその様子を黙って見ていた
コンコンと扉をノックする音がすると男は机が置かれた方の机にそそくさと座ると外の人物に中に入るように促した

「失礼いたします!」

やや緊張気味に紺のスーツを着た若い青年が部屋へ入ってきた
男は青年の方を見ると近くに置いてある書類ケースを探ると一枚の紙を取り出す

「○○君か…掛けてください」
「はいっ!失礼します!」

男は紙に張られている小さな写真と青年の顔を見比べると書類の全体に目を落としてゆく
そしてある一点を見ると眉を一瞬わずかにしかめた
(…またハズレ臭いな…一応使えるかどうか話だけでも聞くしかない)
「どうして君が我社に入社を希望したか答えてもらえますか?」
「はっ…はい!自分は以前にゆっくりブリーダーとしてゆっくりに関わる仕事をしていました
 その経験と知識にブリーダーと言う仕事を通して培ったを忍耐力を御社で活かせると思い応募しました」

青年の返事を聞くともう一度男は紙に目を落とす
(ゆっくりブリーダー暦2年か……微妙だが、もしかしたら…)

「なるほど…それで君はもし入社できるとしたら先の質問で答えたくれた事から当社でどんな事が実現できるかと思いますか?」
「そ…それはゆっくりに関わる事でじ…自分が、いえ社会に…ぎゃ…こ…貢献できる物と思っています」
「なるほど…」

男は青年の様相を平成を装って見つめるとポケットから何かを取り出して机の上に置いた

「突然ですがこれを使って自己表現してください」


机の上に置かれたもの…それは一匹の赤ゆっくりだった
「ゆ?きょきょはどこ?おにーしゃんだぁれ?ゆっきゅりちていってね!」
青年は机の上に置かれた赤ゆっくりを目を見開いて凝視して固まった
室内は数十秒の間の間まるで無人のごとく静まり返る

「どうされましたか?時間はありませんよ」
「は…はいっ!その…こい…この赤ゆっくりを使うんですよね?」

我に帰った青年は席を立ち赤ゆっくりに近づくと荒い息を吐きながら僅かに痙攣させながら手を伸ばす
その妙なオーラを出している青年の様子にに赤ゆっくりは気圧されずるずるとこちらの方へ下がる

「おにーしゃんきょわいよ…こっちこないでね!」

青年は震える手で赤ゆっくりに触れる





「ひゃあっ!たまんねぇ!虐待だあぁッ!!」

しわがれた声で叫ぶなり赤ゆっくりを乱暴に引っつかむと血走った目で口の端を大きく広げて笑いながら奇声を上げた

「いぢゃぁぁぁぁぁぁああああい!」

鷲づかみにされた赤ゆっくりが甲高い声を上げて痛みをうったえる

「おれのやりてぇことはこういうことなんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」

青年はそう叫ぶと赤ゆっくりを握る手に力を込めるとブチュッ!と言う音と共に赤褐色の物体が飛び散った
男はその狂態に眉一つ動かさず、近くにおいてある白い台座に据え付けられた赤いスイッチを押すと部屋の外から
制服を着た警備員が飛び出して髪を振り乱し、仕立てたばかりのスーツをくしゃくしゃにしながら手の中にある
瀕死の赤ゆっくりを甚振る青年を取り押さえた

しばらくのもみ合い末、青年が正気に戻ると数刻前に自分のやった行動を思い返して動揺したのか
警備員に押さえ込まれながら男の方に仕切りに叫んだv

「ち、違うんです!自分は…そのこんな事するつもりではなく!い…今のはパフォーマンスです!
 これ位の覚悟があるぞという…」

「君ブリーダー暦2年って言ったね?通常は普遍種のゆっくりの育て方をマスターするだけでも4年位かかる
 ウチには元ゆっくり関係の仕事やってた人間が来る事も多い、だけどそういうのに限って大抵君みたいに途中で挫折した人間が多い訳だ
 厳しいこと言うけど君の言う半端な経験や知識や根性が役立つとは思えないんだなぁ」
「お…お願いです、ライン工でもいいです!ここが第一志望なんです!!ここへ入社する以外なんて考えられないんです!!!」
「さて話が変わるがウチは製菓業な訳で…原材料の品質に非常に気を使っている。
 以前は人の手を使って製造したわけだが今じゃ機械化が進んでるだ。それにさぁ…商品に手を付けちゃ駄目じゃない」

青年はそこまで聞くとがっくりと肩をうなだれて無言のまま警備員に引きずられて出て行った
男は散らばった書類を拾い集めると溜息を一つつき何もなかったかのように元の椅子に座りなおした






「後から来た奴も酷かったよ……」

先の騒動の後男の元にやってきた就職希望者もキワモノぞろいであった
一見清楚で可愛らしい女性は趣味について聞かれた際ににカバンからゆっくりの死体から剥いだ皮を撮影した物を取り出しそれについて延々と語りだすわ
何をしに着たのか、ゆっくりを加工する事を非人道的行為と言い滔々と会社の批判演説を語りだす者、
仕舞いには、きめぇ丸が受験にやってくると言うと言う有様だった
何でゆっくりがゆっくりを加工する場所を就職希望しに来たのか不明ではあるが、
他の受験者に比べて質問受け答えも完璧で履歴書の書き方も手本になる位であるが流石にゆっくりは雇えない

先の受験者と言い他の人事部員がトチ狂って選んだとしか思えない
きめぇ丸を除けば会ってみないと書類選考の段階でハジけないのが居るからその為に男が居るんだろうが…


『ふーん、あんたも大変だねぇ』
「ここはお前らの虐待ルームじゃねぇっつの……」
『でも昔ゆっくりを潰してたんでだろ?』
「人聞きの悪い事聞くな……もうあんな仕事やりたいと思わねぇよ毎日毎日悲鳴と恨みがましい目を向けられるんだ
 普通の奴じゃ耐えられねぇよ…昔の同僚何人かは当てられちまって未だ病院に居る奴も居る…だから俺は今の道を選んだんだ」

短くなった煙草を灰皿に押し付けると男は胸ポケットにある煙草のカートンに手を伸ばす

『もうやめろよ、4本目だよそろそろと年だし健康気をつけないと駄目だぜ』
「いっそ肺がんで死んだ方がマシだよ」
『家でもなんかあったの?』
「最近カミさんが冷たいんだよ。まぁそれだけならいいさ、ウチに息子居るの知ってるだろ?
 受験失敗した後浪人になってさあいつナイーブだからショックで引きこもりになったんだよ
 慰めるつもりでペット用のまりさ飼ったんだが、ある日息子が受験勉強のストレスの余り笑いながらズタズタにしちまった」
『……』
「ああ…すまん、気分悪くさせちまったな」

男の隣でバスケットボールほどの大きさの黒い帽子をかぶった生首のような物体が左右に頭を振るゆっくりまりさである

『ううん気にしてないぜ、もう自分はゆっくりって気もしないから』
「そうか……営業だった頃は楽しかったな」

まりさは営業で働いていた頃以来の仲である営業マンになったばかりの頃
不良品だったのまりさを男にプロモ用と称して押し付けられた物だった

『うん……』
「一緒に街中で一日中ビラ配りやったり、シクッた時に取引先に頭下げて回ったり、その帰りに一杯やったり…
 んで今じゃお前は一躍人気者の宣伝部長様ってか」

ある時に加工場のCMが作られる事になった際に広告代理店に男と一緒に来ていたまりさが見初められた
目を細めて口の端を吊り上げて半笑いを浮かべたまりさが「おお、こわいこわい」と言う意味不明の内容のTVCMが放映されると大ヒットし
加工場の製品CMにはその映像が必ずといっていいほど出てくるようになった
今現在はその功績により特別宣伝営業部長という名前の肩書きを貰い加工場で飼われている
しかし、他の社員は面白くないのかまりさに構おうとはしない…話せる相手は苦楽を共にした男だけである

「偉くなったのに増えるのは溜息だけだな」
『だぜ』

2人は室内をたゆたう煙を眺めながらしばし沈黙する

『ねぇ?』
「ん?」
『ひさしぶりに一杯やらないか?』
「いいね…じゃあゆ民で」
『意地悪、それに甘党じゃないくせに』
「はは…じゃ久しぶりにあの店で行くか」

男は小脇にまりさを抱えると部屋の外に出ていった







なにをかきたかったのやら



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最終更新:2022年05月18日 21:33