「ゆっきゅりちていっちぇね!」
「「「「ゆっきゅりちていっちぇね!」」」」
「ちーんぴょ!」

広い広い森の中を満面の笑みを浮かべて駆け回るゆっくりの赤ちゃん達。
その姿からは外敵への恐れも、天候の変化への警戒心も全く感じられない。
当然だろう。この森の相当な数の木が彼女らを守ってくれるのだから。
しかもここには植物と、弱い虫と、ゆっくりでも勝てる小型の鳥獣しかいない。
だから赤ちゃん達は木々の合間を縫って駆け回って自由に遊ぶことが出来た。
談笑しているおとな達に見守られながら、すくすくと育つことが出来た。

幼いゆっくりまりさはぽよんぽよんと元気良く跳ねて、木の根を避けながら進んで行く。
その先ではゆっくりれいむとゆっくりありす、それからゆっくりみょんの3匹が同じように跳ねている。
彼女らは鬼ごっこの真っ最中。まりさが鬼さんで、他のゆっくり達は彼女から逃げていた。
みんな実に生き生きとした表情で跳ね回っていて、活発に動きながらも非常にゆっくりしている。


「れいむー、れいむー!まりさ、おはなみつけてきたんだぜ!」
「ゆゆっ!きれいなおはなだね!」
「すごくとかいはなおはなね!」
「きれいなおはななんだねー、わかるよー」

赤ちゃん達が鬼ごっこをしている場所からから少し離れた所では子ゆっくりが戯れていた。
そこにいる子ゆっくりはれいむにまりさ、それからありすとちぇんの4匹。
まりさが採ってきたらしい花を囲んで、声を合わせて「おはなさ~ん、きれ~だよ~♪」などと歌っていた。
その歌にあわせて時々ぽよんぽよんと跳ねてみせる4匹もまた活発にゆっくりしていた。

勿論、楽しく遊んでいる子ゆっくりは彼女達だけではない。
あるものは水位が2cmほどしかないゆっくりにはおあつらえ向きに川に入って仲間と水を掛け合って遊んでいる。
あるものは誰かが見つけてきたどんぐりをボール代わりにサッカーの真似事のようなことをして遊んでいる。
あるものは何もせずただじっと日向ぼっこをしながらのんびりと仲間達とお話しをしている。


しかし、何も皆が遊んでばかりいるわけではない。
子どもや赤ちゃんが楽しく遊んでいる場所から少し離れた洞窟の中で勉学にいそしむものもいる。

「むきゅ~、このきのこさんはゆっくりできないものよ」
「ゆゆっ!ゆっくりできないのはいやなんだぜ!」
「ゆっくりできないなんてとかいはじゃないわ!」
「むきゅ~、みんながゆっくりできるためにもちゃんとおぼえないとだめね!」

そこにいたのは1匹の成体のゆっくりぱちゅりーと子どもサイズのまりさ、ありす、ぱちゅりーの3匹。
成体ぱちゅりーの差し出した見るからに毒々しい色彩のキノコを取り囲む3匹はゆっくりにしては凛々しい表情をしている。
この3匹はこのゆっくりした森の群れを担う次世代のリーダー候補とでも言うべき3匹で、来る日も来る日も勉学に勤しんでいた。
しかし、1匹たりとも根を上げるものはいないし、皆それなりに勉強を楽しんでいる。

「むきゅ!みんな、きょうはこれでおしまいよ」
「きょうもゆっくりおべんきょーしたよ!」
「おうちにかえったらおかーさんほめてくれるかな?」
「むきゅ~、おかーさん。ぱちゅりーおともだちにきょうのおはなしをおしえてあげるわ!」

しばらくして勉強を終えた3匹は各々の仲良しグループの元へと元気に駆けていった。


そして、夜になると、親ゆっくり達は子ども達を連れて居住区になっている巣の密集地へと帰る。
この群れでは夜はただ巣の中でゆっくりするだけの時間じゃない。
可愛い子ども達が寝静まる頃、大人たちはこっそりと巣を抜け出して、巣から少し離れた場所へと集まる。
子ども達ではまだ登ることの出来ない切り立った高台の上、そこは大人たちだけの社交場だった。

「ゆゆっ!きょうもみつさんをいっぱいのむよ!」
「ちゅ~うちゅ~う、しあわせ~♪」
「あまあま~♪」

高台には蜜の量が多い花が咲き乱れていて、大人たちは夜な夜なそこに集まっては子ども達に内緒で甘い蜜を堪能していた。
高台の下ではこっそり親についてきた子ども達がうらやましそうに見上げているが、彼女達を引っ張り上げる大人は一匹もいない。
しかし、無事にその高台まで登って来た子どもを追い返すこともしなかった。

「ゆゆっ!まりさ、じぶんでここまでのぼってこれたんだね!」
「おかーしゃん、しゅごくあまいにおいがするよ!」
「まだちいさいのにすごいわ!とかいはなまりさにはあまあまをのませてあげるわ!」
「ゆっ!あまあま、ゆっくりのませてね!」

花を舐め、あるいは吸って蜜を飲んだまりさはにっこりと微笑んで満足げに飛び跳ねる。

「このみつさんゆっくりしてるよ!あまあまだよ!」
「でもほかのこにはないしょだよ!」
「とかいはなおとなだけのばしょよ!ゆっくりりかいしてね!」
「ゆゆっ!ゆっくりりかいしたよ!」

こうして、新しい蜜飲み仲間を迎え入れたゆっくり達は月が山に隠れるまでわいわいと騒ぎ続けた。


翌日、昼前に起床した大人たちは巣の近くで元気に跳ね回る子ども達の姿を確認すると、皆で食料集めに出かけるための準備に取り掛かった。
「ゆっきゅちー!」とか「ゆーゆーっ!」とか「ゆ~♪」などと元気良く鳴きながら遊んでいる子ども達の横をすり抜けて集落のはずれに集まる大人たち。
その数30匹以上にも及ぶ集団は、近場でもっとも餌の豊富な草原へと威勢よく跳ねて行った。

「ゆゆっ!おいしそうなむさんをみつけたよ!」
「ゆ~って♪だんごむしさんいっぱいいるよ!」
「ゆっ!きれいなおはなさんだよ!ゆっくりもってかえるよ!」

草原はいつも通り生気と自然の恵みに満ち溢れていた。
緑色がまぶしいほどに活力に満ちた草木が風に揺れ、その合間から綺麗な花が顔をのぞかせる。
そして、その下の土では虫たちが生きるための糧を集め、土の中でも小さな命が活発にうごめいていた。

「ゆゆっ!れいむ、おおきなかまきりさんをつかまえたよ!」
「まりさはむかでさんをやっつけたんだぜ!」
「「「ゆっふっふっふっふ・・・」」」
「ぱちゅりーにまりさにれいむ、へんんわらいかたしてどうしたの?」
「「「ぱちゅりーたちははちさんのすをとってきたよ!」」」

陽が傾き、空が朱に染まり始めた頃、大人のゆっくり達は集合してお互いの成果を見せ合っていた。
あるものは獰猛な蟷螂に打ち勝ち、あるものは大量の団子虫を捕まえ、またあるものは美味しい木の実を沢山抱えていた。
けれど、今回の狩りで一番頑張ったのは巣を丸ごと持ち帰ってきた3匹だろう。

「ゆーっ!ぱちゅりーたちすごいよ!」
「はちさんのすなんてどうやってとるのかもわからないよー!」
「さすがだね!すごくゆっくりしてるよ!」

他の仲間たちに讃えられ、少し照れながらも誇らしげな3匹は照れ隠しのように「ゆっくりかえるよ!」と言う。
その言葉を聞いた他のゆっくり達も集落で可愛い子ども達が待っていることを思い出し、口々に帰ろうと言い出した。
そして、大量の収穫を抱えてゆっくり達は疲労感以上の満足感を抱えて帰路に着いた。


「ゆゆっ!おきゃーしゃんたちがかえっちぇきたよ!」
「「「「「「ゆっくちちていっちぇね!」」」」」」
「「「「「「ゆっくりちていってね!」」」」」」
「「「「「「「ゆっくちちちぇっちぇね!」」」」」」」
「「「「ゆっくりしていってね!」」」」

大量の食料を抱えて帰ってきた大人たちをその言葉で出迎えるのはまだ狩りに行けない小さなゆっくり達。
皆、たくさんのご飯と大好きな家族の帰還が嬉しくてニコニコと微笑みながら遊び疲れも忘れて元気に飛び跳ねている。
大人たちは彼女らの挨拶に「ゆっくりしていってね!」と元気良く返事をすると集落の中心に食料を置いた。

「さあ、たくさんごはんがとれたからきょうはうたげだよ!」
「あかちゃんたちもきょうはよふかししてもいいよ!」
「みんな、ゆっくりしていってね!」
「「「「「「「ゆっきゅりちちぇいっちぇね!!!」」」」」」」

そうして、ゆっくりのゆっくりによるゆっくりのための楽しい宴会が始まった。
あるものは大好きな仲間を誘って楽しく踊り、またあるものは美味しい餌に夢中になっていた。
少しは慣れた場所はすりすりやちゅっちゅをするものや、行き過ぎてすっきりを始めてしまうものもいる。
初めての夜更かしに興奮気味の赤ちゃんたちは何をすればいいのかわからずおろおろしているものもいるが、おおむね楽しそうに駆け回っていた。

「むきゅ~・・・まりさ、みんなたのしそうね」
「ほんとうだぜ!みんなすごくゆっくりしてるぜ!」

そう言って、少し離れた高台でどんちゃん騒ぎを見守るのはリーダー教育係のぱちゅりーと群れの長のまりさ。
視線の先には大事な仲間の平和な日常が、ゆっくりプレイスでのゆっくりした生活が映し出されている。
皆がゆっくりしあわせそうに微笑んでいる。皆が楽しそうに駆け回っている。
ここは本当に信じられないほどのゆっくりプレイスだ。

「ねえ、ぱちゅりー!まりさ、ぱちゅりーとすっきりしたいよ!」
「むきゅ!?・・・ぱ、ぱちゅりーでいいの?」
「そうだよ!まりさはぱちゅりーがだいすきなんだよ!」
「む、むきゅぅ~・・・ぱ、ぱちゅりーもまりさがだいすきよ!」
「ゆゆっ!とってもうれしいよ!」

ぱちゅりーの返事を聞いたまりさは嬉しさのあまりに飛び跳ね、それからぱちゅりーに優しくちゅっちゅをした。
それに応じるようにお返しのちゅっちゅをするぱちゅりーの頬はほんのりと赤く染まっている。
それから、2匹はゆっくりと頬ずりをし始めた。

「まりしゃ~・・・だいすきよ・・・」
「まりさもだよ・・・ゆっ・・・ゆっ・・・」

徐々に高まって行く2匹の鼓動と快感。やがてそれが理性で押さえつけられないほどに大きくなった直後、2匹は絶頂に達した。

「「すっきりー!」」
「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ぱちゅりー・・・だいじょうぶ?」
「むきゅ・・・だ、だいじょうぶよ・・・」
「むりしないでね!つらいときはいってね!」
「むきゅう・・・あかちゃん、できたかしら?」
「ゆゆっ!きっとできるよ、ゆっくりしたかわいいあかちゃんだよ!」


翌日、目を覚ましたぱちゅりーはお腹の中のむずかゆい感覚に受胎を確信し、微笑みを浮かべた。
大好きなまりさの赤ちゃんを身ごもることが出来てとても嬉しかった。
この地は安全だから、出来れば母体の危険の少ない植物型で産みたかったけれど。
それでも、お腹を痛めてまりさの子どもを産めることがただただ嬉しかった。

「あかちゃん、ゆっくりうまれてね・・・」
「ぱちゅりー!まりさ、おいしいごはんをたくさんもってくるよ!」
「むきゅ~・・・まりさ、ありがと~」
「ゆっくりいってくるね!」

そうしてまりさは餌を集めに出かけていったけれど、ぱちゅりーは巣の中でひとりっきりになることは無い。
あるときは出産経験のある大きなれいむがにんっしん中の振舞い方を教えに来てくれた。
またあるときは集落の子ども達が頑張って集めた美味しそうな虫さん達を集めて持ってきてくれた。
またあるときは赤ちゃん達が「れいみゅたちもおねーしゃんになりゅんだね!」と嬉しそうに様子を見に来てくれた。
毎日毎日、入れ替わり立ち代り、皆がぱちゅりーや赤ちゃんのことを気遣ってくれている。
そうして、仲間たちに支えられながら1週間が過ぎたある日・・・

「むぎゅ!?う、うばれりゅ・・・!」
「ゆゆっ!ぱちゅりー、あかちゃんがうまれるんだね!」
「いぢゃい・・・いぢゃいいいいいいい!?」
「ぱちゅりー、ゆっくりがんばってね!あかちゃんはまりさがうけとめるよ!」

そう言って見るからに痛そうな表情を浮かべていきむぱちゅりーの前に立ったまりさは、注意深く産道の様子を見守る。
徐々にみち・・・みち・・・と皮を押し広げながら外へと出てくる赤ちゃんの顔が見えて来る。
とてもゆっくりした笑顔の可愛らしい赤ちゃんが、まりさの方を見て微笑みながらも必死に外に出ようと頑張っている。

「ぱちゅりーもあかちゃんもがんばってね!」
「む、むぎゅううううう・・・むぎゅう!!?」
「ゆーーーーーーっ!!」

数分後、1匹目の赤ちゃんが産声をあげ。それから1分間で更に3匹の赤ちゃんがこの世界に生を受けた。
3匹がゆっくりまりさで、最後に生まれた1匹だけがゆっくりぱちゅりー。全員とっても元気なゆっくりした赤ちゃんだ。
良い知らせはそれだけではない。病弱で生きたまま出産できるかどうか危うかったぱちゅりーも無事生きていた。
疲労困憊といった様子でぐったりとしているが、それでも仲間達がお祝いに持って来てくれた初蜜などの甘いもののおかげで元気を取り戻していた。
しばらくは食べやすくて栄養たっぷりの蜂蜜を食べさせてあげればじきに元気になるだろう。

「それじゃあ、あかちゃんたち・・・」
「「「「ゆぅ?」」」」
「ゆっくりしていってね!」
「「「「ゆっくちちちぇいっちぇね!」」」」

まりさと赤ちゃん達が元気良く初めての挨拶を交わすと、巣の外から無数の「ゆっくりしていってね!」が聞こえてきた。
群れの皆が新しい仲間の誕生を祝福していた。そして「さあ、みんなでゆっくりしよう」とお祝いのお歌を歌っていた。


それからも群れはゆっくりし続けた。
赤ちゃん達は友達と一緒に森や草原を駆け回ってゆっくりとは何かを学んでいた。
子ども達は友達と遊びながら、赤ちゃんの世話をしながら、大人の真似をしながら色んな生きるための知恵を身に付けていった。
大人たちは培った技を、知恵を、友情を・・・もてる全てを駆使して自分を、家族を、そして群れの皆をゆっくりさせるために頑張った。
ここでは誰もがゆっくりとした楽しい生活を過ごしている。
この場所以外の世界を知っている長老格の、ここまで流浪してきた世代の唯一の生き残りのれいむは思った。
きっとここがゆっくりにとって最高のゆっくりプレイスに違いない、と。

「まりさ・・・れいむ、いっぱいがんばったよ・・・」

自分の役目を終えたれいむはかつての伴侶だったまりさが一番気に入っていた場所で静かに目を閉じた。
まぶたの裏に映るのは金色の海とでも言うべき美しい髪をなびかせ、つややかな漆黒の帽子を被った在りし日のパートナーの姿。
一足先にこことはまた別のゆっくりプレイスに行ってしまった彼女を想い、静かに呟いた。

「そっちでもいっしょにゆっくりしようね、まりさ」

そう言って閉じられたれいむの瞳が開くことは2度と無かった。
このれいむは本当に最高の幸せものだった。













なぜなら、その幸福が悪意によって与えられたものであるということを知らずに死ねたのだから。











翌朝、群れのゆっくりれいむの一匹が目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
何故かいつもの巣ではなく、無機質な真っ白い部屋の中にいて、不思議なことに自分の上にも下にも群れの仲間がいる。
しかも、群れの仲間全員がそんな風にして部屋の壁にそってずらりと並んでいる。
この場所が何処なのかは非常に気になるが自分の頭で考えてもどうしようもないだろう。
そう判断したれいむは元気良く「ゆっくりしていってね!」と声を張り上げた。

「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」」
「「「「「「「「ゆっきゅりちちぇっちぇにぇ!」」」」」」」」
「「「「「「「「ゆっくちちてってね!」」」」」」」」
「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」」
「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」」
「「「「「「「「ゆっきゅりちちぇっちぇにぇ!」」」」」」」」

簡素なつくりの真っ白な部屋には群れ中のゆっくりがいた。
そして、れいむの挨拶につられた仲間達の返事がお世辞にも広いとは言いがたい部屋の中に反響する。
その直後、思いっきり飛び跳ねたゆっくり達の「ゆぎゅ!?」と言う悲鳴が聞こえてきた。

「ゆゆっ!みえないかべさんがあるよ!」
「おちびちゃん、ゆっくりおかーさんのところにきてね!」
「ゆえーん、いけにゃいよおおおおお!」
「みえないかべがあるんだねー、わかるよー!」
「みんなあぶないからうごいちゃだめだよ!」
「れいみゅたちはちーたいきゃらだいじゅーびゅ!?ゆぴぃぃぃぃいいい!いちゃいいいいい!?」
「かべさんはからだにあわせたおおきさなのね!とかいはじゃないわ!!」
「どほぢでごんなどごろにいるのおおおおおおおお!?」
「わがらないよー!!」

挨拶の直後までは見知らぬ場所でも、仲間がいれば何とかなるだろうと思っていたゆっくり達は想像だにしなかった事態にようやく恐怖を覚えた。
それも、今まであらゆる苦痛や恐怖と限りなく無縁だったこの群れのゆっくりにとっては恐らく感じたことの無いほどの恐怖。
あるものはそれでも何とかなると信じて群れの実力者の指示に従ってじっとしている。
しかし、気の弱いものやまだ幼いゆっくり達は未知の恐怖に耐え切れず泣き出してしまう。
更に恐怖を誤魔化すために泣き出したゆっくり達に「ないちゃだめっていってるでしょ!」と怒鳴り散らすものもいる。
そうして怒鳴り散らす仲間に怯えて泣いている者たちが更に大きな泣き声を上げ、つられて怒鳴っていたゆっくり達も泣き始める。

「ゆえーん、しぇみゃいよおおお!おきゃーしゃん、だちてー!」
「ゆわああああん、ごわいよおおおお!どほぢでごんなどごろにいるのおおお!?」
「ゆううう!うるさいよ!ゆっくりだまってね!」
「ゆうぅえ・・・っ!きょわいよおおおお!おねーしゃんがきょわいいいいい!!」
「ゆぎゅう!でいぶをおごらないでええええええ!?」
「ゆ、ゆぎいいいいいい!どほぢでぢおずがにでぎないのおおおおお!?」

そんな仲間を尻目に思いのほかゆっくりしているものもいれば、なんとか壁を壊そうとしているものもいる。

「ゆぅ~・・・でられないんじゃしかたないね!ゆっくりしようね!」
「「れいみゅゆっくちちゅるよ!」」
「まりしゃもゆっくちちゅるよ!」
「ゆっ・・・!ゆんっ!ゆりゃ!!」
「ゆゆっ!ありすもゆっくりしようね!」
「なにいってるの!?こんなとかいはじゃないばしょでゆっくりできないわ!」
「ゆ、ゆぅ・・・おねーしゃんもゆっくちちようよおおおお!」
「ゆっくりしてるばあいじゃないのよ!ゆっくりりかいしてね!」
「ゆぅ・・・ゆえーん・・・ゆっくちちたいよおおお!!」

恐怖が怒りを呼び、怒りが恐怖を増幅させてやがて恐怖に侵食される。
焦りが冷静さを奪い、ゆっくりを奪い、ゆっくりできない事がやがて怒りや恐怖へと姿を変える。
そうして徐々に、しかし確実にその部屋の中からゆっくりが奪われていく。
リーダー達が何とか事態を収めようとしてもパニックに陥った集団は簡単には止められない。
彼女達が何かを言おうとするたびに何処からか飛んで来る罵声にその言葉がかき消され、無力なリーダー達の姿が群れの恐怖を増幅させる。

「どほぢでみんないうごどをぎいでぐれないのおおおお!?」
「ゆえーん、おきゃーしゃんとしゅりしゅりちちゃいよー!!」
「わがらないよーーー!!?」
「ごんなのどがいはぢゃないわ!!?」
「でいぶぜまいのいやだよおおおおおお!!」
「まりぢゃのぼうじがへぢゃげでるんだぜええええ!!」
「ゆえーーーん、いぢゃいよおおおお!!」
「「「「「「「「「これぢゃゆっぐぢでぎないよ!!」」」」」」」」」

気がつけばリーダー達も泣いていた。ただただ無力感を噛み締めながら泣きじゃくっていた。


しばらく泣き続けていると、お腹が空いてきたのか徐々に泣き声が小さくなり、やがて泣き疲れて眠るものまで出てきた。
そんな時、部屋の壁と同様に真っ白な扉が開き、そこから一人の人間が姿を現す。
白い手袋を付けて黒いスーツを身に纏った上品そうな中年男はあくまで無表情だったが目は信じられないほどに鋭く、攻撃的で獰猛。
その目を見た瞬間、リーダー格のゆっくり達は彼が自分たちを閉じ込めたのだと確信した。

「ゆゆっ!おじさんがまりさたちをとじこめたんだね!」
「いなかものとはゆっくりできないわ!ゆっくりだしなさいよ!」
「むきゅ~・・・ぱちゅりーたちなにもわるいことしてないわ!」
「ゆっくりここからだしてね!」
「れいむたちにひどいことしないでね!」

その言葉につられて他のゆっくり達も騒ぎ出す。
しかし、男性は彼女らの言葉など全く意にも介さず、そよ風か何かのように聞き流し、部屋の外から大きな箱を運び込んでいた。
馬鹿でかい台車に乗ったその箱は底面が3m×5mの大きさで、側面が1mほどの高さを持っている。
箱というよりも小部屋に近いそれの天井部分だけは板が設置されておらず、そこから部屋にいる全員が中の様子をうかがうことが出来る。
男はその箱を床に置くと、とんでもないことを言い放った。

「お前たちにはここで殺し合いをしてもらう」

あまりにも馬鹿げた発言にしばしゆっくり達は呆然となり、沈黙するが、男は彼女達にかまわず手近な透明な小部屋の蓋を開ける。
そこから2匹の赤ちゃんをして、先ほど設置した箱の中に彼女らを放り込んだ。
当然、赤ちゃんたちは「れいみゅ、しょんにゃこちょちないよ!」「まりちゃもだよ!」と言って抗議するが、男性は平然としている。
そして、僅かに無表情な彼の口元が歪み、2匹の赤ちゃんに恐ろしい言葉を放った。

「戦わないならどっちも殺す。勝ったほうには餌をやろう」

傍目にはただのルール説明のようにも見える言葉。
しかし、そのルールを課せられるものにはこの世で最もおぞましい二択を迫る言葉。
その信じがたい残忍さに部屋にいる全てのゆっくりが押し黙ってしまう。
そして、恐怖心に負けた2匹の赤ちゃんだけがその場で火のついたように泣き出してしまった。

「ゆえーん、れいみゅ、しょんなのいやだよおおおおお!!」
「ゆえええええん、おうぢにかえりちゃいよおおおお!?」
「そうか」

2匹の言葉を聞き終えた男は台車においていた槍を掴むと容赦なく矛先を2匹に突き立てた。
あまりにも淡々と、あまりにも悠然と。2匹の赤ちゃんは悲鳴を上げる暇すら与えらずに絶命した。
そして、他のゆっくり達も男の所作のあまりのさり気なさに彼女らに何か言葉をかけてやることもできなかった。


「さあ、次だ」

静かに、しかし力強く呟いた男はいつの間にか近くの箱から成体のれいむと子どものれいむを取り出していた。
男は2匹を乱暴に箱の中に放り込むと、まだ赤ちゃんの死体が刺さったままの槍を掴み、「どうする?」とだけ囁く。
2匹が、箱の中にいる2匹が、殺し合えと命じられた2匹が母子だと知る群れの仲間達は絶句し、箱の中の2匹の決断を見守っていた。
中には男性に罵詈雑言を浴びせるものや「そんなことしちゃゆっくりできないよ!」と母子に向かって叫ぶものもいたが何の意味も無い。

母れいむはただ絶望することしか出来なかった。
何故、よりにもよって自分と自分の子どもなのか?
もちろん、ほかの子どもでも殺したくはないし、他の親子が殺しあうのだって決して見たくない。
けれど、何故・・・どうしていきなり自分たちが殺し合いの1番手を務めなければならないのか?
拒めばどっちも殺される、受け入れてもどちらかが死ぬ・・・どちらが?
そんなもの決まっている。
自分だ。可愛い子どもを殺してまで、どうして生き延びる必要があるのか?
意を決した母れいむは泣き笑いの表情で、叫んだ。

「があいいでいぶのおぢびぢゃん!でいぶのぶんまでゆっぐぢぢでね!!」

その言葉の直後、母れいむは壁に向かって激突し始めた。
何度も何度も、壁にぶつかっては弾き飛ばされ、起き上がってはまた壁にぶつかっていった。
その姿を見た赤ちゃんれいむは怯えていたが、可愛い赤ちゃんを守るためだから仕方ない。
何度も何度も何度も何度も壁にぶつかり続けているとやがて餡子が漏れ始める。
歯が折れ、舌に刺さる。痛い、もうやだ、おうちに帰りたい。でも、赤ちゃんを守らなくちゃ。
そんな思いに突き動かされて母れいむは何度も何度も立ち上がる。

「おきゃああああしゃああああん!やめちぇええええええええええええええ!!」
「ゆっぐり、がんばるよ・・・あがぢゃんのためだもん!」

泣き叫ぶ我が子を慰めてやりたい、出来れば隣に行って頬ずりをしてあげたい。
そんな衝動を必死に堪えながら母れいむは更に自傷行為を繰り返す。
ゆっくりにとって命も同然の餡子をぼたぼたと零しながら母れいむは何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も壁に体当たりを仕掛ける。
もうそろそろ限界だ、そう感じた母れいむはいまだに泣き続けている我がこの方に振り返ると微笑み、母として最後の言葉を送る。

「かあひいおひびひゃん・・・うっふひひへひっへへ!」
「おきゃああちゃあああああああん!!?いっちょにゆっくちちよーよおおおおおお!!」

可愛いおちびちゃん、ゆっくりしていってね!
歯も舌も使い物にならなくなってしあった口ではその言葉をちゃんとつむぎ出せない。
それでも賢いおちびちゃんならきっとお母さんの気持ちを理解してくれるはず。
壁にぶつかり続けた結果、ひしゃげて使い物にならなくなった双眸が赤ちゃんの姿を映し出すことは無い。
それでも脳裏には可愛い我が子の姿が浮かぶ。
泣き叫ぶ赤ちゃんれいむにに背を向けると、母れいむは残された力の全てを振り絞って壁に渾身の体当たりを仕掛けた。


「おきゃああちゃああああああああああああああああああああああん!!?」

狭い部屋に赤ちゃんれいむの絶叫がこだまする。
そして、それにつられるようにして恐怖と困惑で言葉を失っていた他のゆっくり達も騒ぎ始めた。

「どほぢでごんなごどずるのおおおおおおおお!?」
「もうやだ!おうぢがえる!」
「まりぢゃゆっぐぢじだいいいいいいいい!!」
「ゆっくりだぢでね!ごごがらゆっぐぢだぢでね!?」

部屋の中にいるゆっくり達が口々に騒ぎ立てる。
あるものはゆっくりしたいと、あるものはゆっくりできないと、あるものは男性が許せないと。
しかし、男が何の意味もなさないノイズに耳を貸すようなお人好しでないことは火を見るより明らか。
もはや身動き一つ取れないれいむが撒き散らした餡子を拾い集めると泣き喚く赤ちゃんの口に乱暴にねじ込んだ。
赤れいむは「ゆびっ!?」と短い悲鳴を上げ、それを吐き出そうとするが男の手がそれを許さない。
何も見えないなりにも音で赤ちゃんの危機を察知した瀕死の母れいむは「や、めてね・・・おちびちゃ、をいぢめないで・・・」と呻くが男の耳には届かない。
そうして、無理やり母親の餡子を食べさせられた赤ちゃんはぽろぽろと涙を零しながら「ちあわちぇ~♪」という言葉を口にした。
言うまでもないだろうが決してうれし泣きなどではないし、「しあわせ~」もただ本能に従って口にしているだけ。


それを見届けた男は母れいむを箱の外に放り投げると、手近な小部屋のふたを開け、赤ちゃんまりさを取り出す。
そして、再び囁いた・・・「さあ、殺し合え」 と。

「いやあああああ!まりぢゃおねーしゃんとゆっくちちちゃいいいいいい!?」
「どほちてぞしょんなこちょいうにょおおおおおおお!?」

もうやだ!大事な家族にそんな酷いことできない、と泣き喚く赤ちゃん達。
しかし、その言葉や表情が男の良心の呵責など呼び起こすはずもなく、彼は何も言わずに足元に置いた槍を手に取った。
周りでは相変わらず他のゆっくり達が「やめてね!」とか「あかちゃんにひどいことしないでね!」と喚いている。
その中心にいる赤ちゃん達も掲げられた槍の鋭利な先端を見て、戦わなければどうなるかを思い出し、一層激しく泣きじゃくる。
だが、男にとって大事なのゆっくり達が“戦うか戦わないか”ということだけ。
相変わらず戦意を見せない箱の中の2匹には男にとってはもはや何の価値もない。
ゆえに、速やかに処理を済ませた。

「ゆびぃ!?」
「ゆばっ!?」
「「「「「「「・・・・・・ゅっ!?」」」」」」」

その瞬間、部屋中のゆっくりが水を打ったように静まりかえる。
その沈黙は何も見えず、喧騒のせいで何も聞こえないまま静かに朽ちていた、不運にもまだ生きていた母れいむに我が子の死を伝えた。
母れいむは自分の無力を悔やみ、我が子の死に悲しみながら・・・物言わぬただの饅頭になった。
しかし、男はそんなことは知らない。いや、知ったことじゃない。

「もう一度言う。殺し合え、それが嫌ならどっちも殺す」

やはり静かに、しかし有無を言わさぬ力強さをも併せ持つその言葉はゆっくり達に何をしても無駄だと理解させるには十分だった。
勿論、それでも文句を言い続けるものは沢山いた。しかし、その誰もが内心はきっと無駄だろうと諦めている。
そして、大方の予想通りゆっくり達の言葉は男の心に響くことはなかった。

「次は、お前達だ」

男は手近な箱から成体のゆっくりありすと同じく成体のゆっくりまりさを取り出して、例の箱の中に放り込んだ。








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最終更新:2022年04月16日 23:11