ぱちゅりーの朝は、早い。
お日様も昇っていない時間、ぱちゅりーは、ゴミ捨て場を漁っていた。
目的は、本を発見し、持ち帰る事である。
お日様が出てくるような時間に漁っていては、すぐに人間に見つかってしまう。
そうなっては、ぱちゅりー程度では逃げる事は適わず、すぐ潰されてしまうだろう。だからこんな時間に活動するのだ。
「むきゅ~~~。きょうは、ごほんさんがおちてないわね……。」
がっくりと肩を落とす。ご本(新聞やチラシ)が今日は全く見当たらない。
ぱちゅりーは知らないが、今日は燃えないゴミの日である。
本当にご本を狙うならば、資源回収日か、燃えるゴミの日を狙うべきなのだ。
しょうがない、こんな日もある。ならば代わりに何か持って帰ろう。
2時間かけて、山にある群から、人のいる町まで跳ねてきたのだ。ただで帰るわけにはいかなかった。
辺りを見回していると、少し後を振り向いた辺りに、キラリ、と光る物が落ちているのを見つけた。
「これは、にんげんさんがたまにかけている、めがねというものね。」
正確には、安物の伊達眼鏡、おもちゃ眼鏡である。だが、ぱちゅりーは普通の眼鏡だと思い込んだ。
そしてぱちゅりーは、眼鏡は、ごほんを読んでいる人間さんがよく掛けている、というちょっと曲がった情報を持っていた。
自分も本を読むのだし、掛けるべきでは?という結論に辿り着いたようで、眼鏡を装着し始めた。
「むきゅきゅ。にあうかしら?」
初めて、アクセサリー(花輪)を着けた時のような高揚感が湧き上がる。鏡さんは………、残念ながら無い様だ。
早く自分のおうちに帰って、自分のおうちにある鏡で確認しよう。そんな事を思い、ぱちゅりーは踵を返す。
ガラスの反射で姿を確認しても良さそうだが、ワクワクソワソワしているようで、考えに至らなかったようだ。
ゴミ捨て場を後にし、しばらく跳ねていると、景色が全く違う事に気づいた。
「にんげんさんのもじが、よめる!?」
さっきまで、人間さんの文字の半分も読めなかったぱちゅりーだが、今は全て読む事が出来た。
これは、まれ、ではなく、とまれ。というよみかただったのね………。あれは、たこき、じゃなくて、たこやきやさん、ね。
全ての文字が読めるようになって、世界がガラリと色を変えたかのように見える。
なんでだろう?もしかして………この眼鏡のせい?
人間さんは、賢い。だが、本を読んだりする人間さんはもっと賢いはず。
ならば、本を読む人間さんが掛けているこの眼鏡は、知能をアップする為の道具ではないのか?
そして、その眼鏡を今、自分が掛けている。だから今では人間さんの文字を読めるんだ!
強引な展開式だが、ぱちゅりーはそう結論付けた。
「ほかにもめがねがおちてないかしら?」
まだ、日の出までは時間がある。人間さんが活動を開始するまで余裕がある。
他にも、眼鏡を何個か見つけようと、ぱちゅりーは町を跳ね回る。
「ゆゆ?ぱちゅりーが、にんげんさんのめがねをかけてるよ?」
「なかなかとかかいはなこーでぃねーとね!」
「かっこいいんだぜ。それになんだか、かしこくなったようなかおつきだぜ!!」
「わかるよー。ぱちゅりーはすごくあたまがいいみたいにみえるんだよー。」
友達が自分を出迎えてくれた。とりあえず、挨拶しようと息を吸う。
「みんな、おはよう。ゆっくりしていってね!」
「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」
ん、今日は気合が入っている。普段は自分の挨拶にここまで大きな声で呼応してはくれない。これもメガネ効果だろうか?
「きょうのぱちゅりーは、なんだかきれいなんだぜ?」
「!!…もう、まりさったら、いきなりほめないでよ……!」
まりさにストレートに誉められて照れる。
「ほんとにきょうのぱちゅりーはすごいんだよー?わかってねー?」
「ふん!メガネをかけたくらいで、ありすよりとかいはだなんておもわいことね!
……まあ、でもちょっとは、とかいはにちかづいたわよ!?」
「ゆぅー・・・。れいむもうらやましいよ。れいむもメガネさんをつけたいよ!!」
「でも、ぱちゅりーのめがねはぱちゅりーのなんだぜ!!まりさもほしいけど、ゆっくりがまんするんだぜ!!」
れいむが眼鏡を欲しがっている。ふぅ・・・沢山眼鏡を拾ってこれてよかった………。
友達だからいきなり眼鏡をちょうだい、なんてことは言ってこなかったけど、欲しくて堪らないようだ。
帽子の中に隠している眼鏡を、どのタイミングで出そうか見極める。会話が終わりそうな気配で切り出したい所だが。
「でもがまんできないよ!!!!れいむは、いまからめがねをさがしにいくよ!!!」
「わ、わたしもついていくわ!!べつにありすはいまでもじゅうぶんとかいはだけど!しょうがなくよ?」
「ちぇんもいくんだよー。つれていってねー?」
「じゃあみんなでいくんだぜ!!!」
「ちょ!ちょっとまって!!!みんなのぶんもあるのよ!!!?」
危なかった。会話の流れが急すぎてついていけなかった。今にも駆け出しそうな勢いの友人達を慌てて止める。
最初から帽子の中の眼鏡を出しておけばよかった。やれやれ、と頭を振って眼鏡を帽子から落とし、友人達に渡す事にした。
ぼとぼと、と眼鏡が帽子から大量に落ちる。いろんな色や、大きさの眼鏡を見て、友人達は目を輝かせる。
「ゆ!れいむはあかいろのがいいよ!!」
「まりさはくろがいいぜ!!」
「ちぇんはちっちゃいのがいいよー?」
「ありすはとかいはなかたちのがいいわね!」
持てるだけ持ってきて良かった。20本ある眼鏡の中から好きなものを選ぶ友人達。
さすがに群全員の分は持って来れなかったが、友人達の分としては十分だろう。
「れいむは、ちょっとかがみさんでおめかししてくるよ!!」
そういってれいむが眼鏡をくわえて駆けて行った。れいむはああ見えて乙女チックだ。
まりさが目の前にいるからか、それとも淑女の嗜みか、アクセサリーを付ける時には気を使うらしい。
「ぱちゅりー、つけてみたぜ!にあうかおしえてほしいんだぜ?」
「よくにあってるとおもうわ!まりさ、すてきよ!」
ゆゆーん、と照れるまりさ。実際、本当に素敵だった。やんちゃな感じが無くなり、大人びた格好よさを醸し出している。
子供みたいな無邪気なまりさも好きだけど、紳士さを帯びた格好いいまりさも良いな、と思った。
「まりさは、ちょっとじまんしてくるんだぜ!!」
物凄い勢いで跳ねていった。なんだか物凄く気に入ってくれたようだ。ぱちゅりーも嬉しくなる。
さて、ありすはどうかしら、と顔を向ける、……とそこにありすの姿は無かった。
「『ありすは、おねーちゃんにもめがねをもっていってあげるわ!』、っていってとんでいったよー。わかるねー?」
都会派を自称しているありすは、お姉ちゃん子だ。年が離れている姉に憧れて、いつも背伸びをした発言や行動を取っている。
そして、何をするにも、お姉ちゃんがした行動を真似したがっている節がある。
眼鏡をつけるのも、まずお姉ちゃんが着けてから。お姉ちゃんを真似しないと気がすまないのかもしれない。
数本眼鏡が無くなっている。似合いそうなのを持っていって、お姉ちゃんに選んでもらうのだろうな、とぱちゅりーは思った。
眼鏡に対する収集癖もないので、特に気にしない。それより、ちぇんがまだ眼鏡を付けていない。迷っているのだろうか?
「ちぇんは、まだめがねをえらべてないの?」
「どれがにあうか、わからないよーーー。たすけてねー?」
「むきゅ……、わかったわ。いっしょにえらびましょ。」
ちっちゃい眼鏡の中からちぇんに似合いそうなのは……、やはりこのオレンジのかしら?
一番小さくて、オレンジの縁がよく映える眼鏡をちぇんの目の前に持っていく。
元々、このオレンジのが気になっていたのか、あっさりと、ちぇんはこれでいい、と頷いてくれた。
「わかるよー。なんだか、すごくゆっくりしてるよー。」
「よかったわ。………ねぇ、ちぇん?ちょっとこのおはなさんのかずをかぞえてもらえるかしら?」
そういって、十数本の花を目の前に置く。ちぇんは、というかゆっくりは、4以上の数を数えられない事が多い。
10以上数えられるのは、ぱちゅりーのような極極少数の存在だけである。
友人であるちぇんは、確か昨日までは、3までしか数えられなかったはずだ。
「いーち、にぃー・・・」
素直に数え始めるちぇん。自分は、昨日まで、10までしか数えられなかった。
だが、今日は少なくとも20までは数えられるようになっている。ちぇんはどうだ?
「さーん、しぃー、……ごー、ろーく・・・しぃーち、はーち、きゅーう、じゅー…………いっぱいだよー?わからないよー?」
「!!ちぇん!?あなたいま、じゅうまでかぞえれたのよ!?」
「わかるよー?ぱちゅりー、じゅうまでのかずがわからないんだねー?」
「ちがうわよ!!あなたは、きのうまでさん、しかかぞえれなかったのに、いまはじゅうまでかぞえれるようになってるのよ!?」
「……そういえば、そうだよーー。ちぇんはかしこくなったんだねー!?」
かしこくなった、と嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるちぇん。呑気なものだ。そう頭の片隅で思う。
ぱちゅりーはこれで確信が持てた。眼鏡をかければ、みんな賢くなれるのだ。
「どう、おかーさん。かわいくみえる?」
「きょうのれいむは、すごくゆっくりしてるよ!おかーさんのじまんのむすめだよ!」
「おにぇーちぇん、しゅごくきゃわいいよ!!」
「れーみゅも、めがにぇほしいよ!!」
「ゆふふ、わかったよ!ぱちゅりーにたのんで、めがねをどこでひろったかおしえてもらうよ!!」
「ゆっへっへ。めがねをかけてかりのちょうしもぜっこうちょうだぜ!!!」
「きょうのまりさはすごいみょん!!そのめがねのおかげかみょん!?」
「うらやましいのぜ!まりさおねーちゃんみたいなめがねを、まりさもほしいのぜ!!!」
「ちーーんぽ!!(まりさおねーちゃん、すごーい)」
「まかせるんだぜ!!みんなのぶんのめがねも、ゆっくりとってきてやるんだぜ!!!」
「ゆっゆゆー♪おねーちゃんのせんすでえらばれた、このさんかくっぽいめがねは、すっごくとかいはだわー!!」
「おにぇーちゃん、しゅっぎょくときゃいはだにぇ!!」
「ありがと!………ってあれ?おねーちゃんは?」
「おっきぃありちゅおねーちゃんは、しびゃりゃくたびにでりゅっていっちぇ、どっきゃいっちゃったよ?」
「そんな!!おねーちゃーーん!?…………うう、おいてかれちゃった。………でも、とかいはのたましいはうけとったわ……!!
おねーちゃんがいなくても、むれじゅうにめがねをくばって、みんなをりっぱなとかいはにしてみせるわ!!!!」
「おにぇーちゃん!しゅぎょーい!!!」
2週間後には、群のほぼ全てのゆっくりが、眼鏡をかけるようになった。眼鏡ブームという訳ではない。
眼鏡をかけると、知能が上がるという事が解り、眼鏡装着はもはや当たり前の事になっていたのだ。
当然、群全体の生活レベルが上がった。狩りの効率が良くなった。無計画な食事もしなくなった。
外敵への対処にしても、今では数匹のゆっくりがチームを組み、武器を使う事で野犬も追い払える程レベルが上がっていた。
恐らく、これからは、冬も難なく越せるだろう。群はめがねゆっくりぷれいすと化した。
―――その後。
ちぇんとぱちゅりーは、ミレニアム問題に挑んでいた。
実は、眼鏡をかけたゆっくりの中で一番知能の成長が良いのはちぇんだった。
ちぇんが、『わからないよー』発言をした際、ぱちゅりーが必死に何故解らないのか、どうしたら解るのかを模索し、
教え込んでいった成果である。
今では、フェルマーの最終定理も、『わかるよー。』と答える程であった。
「むきゅ、きょうも、ぽあんかれよそうにいどみましょ。」
「わからないよー………。もうむりだよー、ぱちゅりー、あきらめてねー?」
「だめよ、ひゃくまんどるをいただいて、わたしたちはゆっくりぷれいすをつくるのよ。」
ちぇんは、もうウンザリしていた。もう解らないままでいい。わかるよー。はすごくゆっくりできるけど、今の問題を
わかるよー。になるには、どうしていいかサッパリ解らないのだ。出口が見えないのなら、解らないほうが幸せではないか。
だが、何度説得しても、ぱちゅりーの教育熱は冷めない。実は、フェルマーを解く際には、体罰を使い始めていた。
鞭(のようなもの)で、叩かれるのが嫌で必死で頭を回転させ、脳味噌が沸騰するくらいになって、ようやく
ちぇんは、世界最高峰の頭脳レベルに達し、フェルマーを解いたのだった。
だが、それがまずかった。味を占めたぱちゅりーは、どんどん体罰の数を増やし、今では無数の体罰をすぐに使ってくる。
「ほら!!さっさと!ときなさい!!!あなたみたいなゆっくりは!これがいいんでしょう!!!」
「わがらない゛よお゛お゛お゛お゛!!!きもちいい゛い゛い゛よおお゛お゛お゛お゛!!」
問題を解くのはウンザリしてきたが、最近は鞭で叩かれるのが気持ちよくなってきたちぇんだった。
お尻の辺りを叩かれると、何故か気持ちがいい事に気づいたのは何時だったか?
体罰を使ううちに、いつの間にかサド属性のついたぱちゅりー。そして、叩かれるのが嬉しいちぇん。
最悪な組み合わせであったが、実は、この方法は効率が良く、ポアンカレ予想を1年後に解くのであった。
れいむは、ご機嫌だった。
眼鏡をかけて初めて街を歩いてみた所、数人のおねーさんに呼び止められた。
そして、眼鏡のれいむは凄く可愛いと誉められ、お菓子をたくさん貰ったのだった。
今度は誰に誉めて貰おうか?と満面な笑みで街中を闊歩していく。
「お、眼鏡を掛けたゆっくりれいむがいる。」
横から声を掛けられた。背の高いおにーさんだ。そうだ、この人に誉めてもらって、高い高いしてもらおう。
お空を飛んでるみたいで凄くゆっくりできそうだ。れいむはそう思った。
「なーに?おにーさん。ゆっくりしていってね。」
「お前は、目が悪いのか?眼鏡をかけるゆっくりなんて始めて見たよ。」
「おしゃれだよ!おにーさん、とってもよくにあっててかわいいでしょ!!?」
「んーー・・・。」
おにーさんが高い高いをしてくれた。目の前で眼鏡を良く見ているだけなのだが、れいむはたかいたかいだと喜んだ。
「度が入ってない……、な。当然か……。全く……、何も解ってないド素人が!!」
お兄さんが吼えた。れいむは何が起きたか解らずにびくっと震えた。
「ゆゆゆ!!?おにーさんどうしたの!!?」
「いいか、れいむ?眼鏡というのは、簡単に言えば屈折を変えるレンズ、そしてフレーム、その他から構成されている。
一般的には、このフレームが外見のイメージを変える訳だ。だが、まあおにーさんは、レンズこそが大事だと思っている。
こう、多少斜めに顔を向けるとレンズの屈折で、顔の輪郭が歪んで見えるんだ。それこそが眼鏡の眼鏡たる所以でね。
真正面から見ても、常に歪みが認識できるようになるには、おにーさんも時間が掛かったが………、まあいい。
つまり………、こんな伊達眼鏡は偽者だってこと。」
ぱっと、れいむから眼鏡を取り上げるおにーさん。
「ゆあああ!!れいむのめがねをかえしてね!!!!!」
「駄目だ!!こんなものは眼鏡では無い!!」
「ぞんなあ゛あ゛!めがねがないとゆっくりできないよお゛お゛お゛!!」
泣きながら、その場でぴょんぴょんと跳ねるれいむ。だが、跳ねた所で、おにーさんに取られた眼鏡は帰ってこない。
「安心しろ。俺がお前にあった眼鏡を用意してやる!!」
「いらないよお!!いまのめがねでいいよおお!!れいむのめがね、かえしてねえええ!!!」
れいむは、ぽすん、ぽすんと、おにーさんの足に体当りを開始した。
「む、教育が必要だな………。しばらくおにーさんと暮らして、眼鏡の良さをゆっくり知ろうね。」
そう言って、れいむを抱え上げ、おにーさんは自宅に向かった。
「半年一緒に暮らせば、れいむは立派な眼鏡れいむになれるよ!」
「いやあ゛あ゛あ゛!!!でいぶはもう゛おうちにかえるう゛う゛う゛う゛!!!めがねをがえじでねえ゛え゛え゛え゛!!」
まりさは、ありすから逃げていた。
「やめてね!すっきりはゆっくりできないよ!!」
「うふふふ、そんなことないわぁ!しそんをのこすことは、せいぶつにとってあたりまえのことなのよぉおおお!!」
「れいぷはやめてね!!ゆっくりできないよ!!まりさはすっきりしたくないよ!!」
「いやだわ、れいぷじゃないわよ!!あいよ!あい!このよはあいこそすべてなの!!」
こんな台詞を吐きながら、まりさはあらゆる体術を使い、ありすを避けていく。
先日など、れみりゃを単体で倒すに至ったまりさだ。身体の鍛え方、動かし方の基礎が並ではない。
一方、ありすは運動能力では多少まりさに劣っていたものの、持ち前の精神力でくらいついていた。
ありすの自慢は、組み付いた瞬間にすっきりさせる事が出来るテクニックだ。
故に、まりさは、運動能力では勝っているものの、自慢の体当りを封印され、防戦一方の状態である。
今まで数回襲われた時は、完全に逃げ切って、おうちを変えてきた。
しかし、ありすの追跡技術は突き抜けていた。匂いを辿り、足跡を辿り、勘を駆使し、探り当てるのである。
ここで倒しておかなければ、永遠に付き纏われ、いずれすっきりされてしまう。
今日は、防戦でありながらも、逃げない。ここでありすを倒す決意をもって戦う。
まりさは、戦いの未来を読める。ありすがどちらに飛ぶかを、体重移動、視線などを観察し、当てる事が出来た。
そして、今までの経験から、自分の攻撃で、相手がどう反応し、どう動くかを何となく知っている。
だから、数手先の見えるまりさは、絶対に捕まる事は無い。逃げながらチャンスを待ち、ありすを仕留めれる状況を待つ。
「まりさったら、ほんとつんでれねぇ!!こうやってつかず、はなれずのきょりをとるなんて!!じらしのてんさいだわあ!!!」
「ふん、そんなせりふはききあきたぜ!きょうこそは、そのうすぎたないくちをひらけなくさせるんだぜ!!!」
数合、ありすの攻撃を回避していると、ありすが、ガクンと体勢を崩した。
完全に地形を把握しながら戦っていたまりさは、地面の凹凸を常に考慮していたが、ありすは違う。
まりさの通った道を続いてきただけだ。凹凸にかかり、体勢をくずすのを、まりさはずっと待っていたのだ。
「いまが、ちゃんすなんだぜえ!!おちろおおおおおお!!!」
尖った枝をくわえ、跳躍する。れみりゃを一撃で倒した必殺の攻撃。狙いは、身体の中心!!
だが、その時、見てしまった。―――ありすが薄く笑っているのを。ありすは体勢をくずしたフリをしていただけだった。
罠。気づいた時には遅い。何もない空間に枝を突き刺してしまう。自身も跳躍の反動で数瞬硬直してしまう。
そして、その隙をありすは逃さない。すっきりするのは一瞬。
何手か先を読めるが故に、まりさは空中で、敗北を悟った。
「ふぅ・・・。ありすのあかちゃん、ちゃんとそだててね、まりさ。ありすは、せかいじゅうにあいをひろめてくるわ・・・。
にんげんさんにかわれているゆっくりを、あいですくいだしてあげたいの。だから、ありすはいくわね。」
そう言って、ありすは、去っていった。
まりさの頭上からは茎が伸びている。知能が上がってしまった今は、自分の子供を殺す事が残酷すぎて、出来ない。
レイプされて出来た子供を、自分一人で育てなくてはいけない絶望感を抱いて、泣く事しか出来なかった。
果たして、自分は子供達を愛する事が出来るだろうか。解らない。駄目かも知れない。
群に戻って、事情を説明し、子供達を群に預けて育てようか……。だが、群に戻ったとしたら、誰の子供か聞き出されてしまう。
そしたら、レイプされたと、話さなくてはならない。
レイプされて生まれた子供達は、群の皆に受け入れられるだろうか。わからない。……駄目だ。
もう、何もかもが、解らない。そして、まりさは、眼鏡をはずした。
賢くなっても解らないというのなら、考えない分だけ、馬鹿なままの方がマシだ。
嗚呼、最初から、眼鏡なんてしなければ、良かったのか。まりさはそう、思い至った。
「みとめたくないものね。わかさゆえのあやまちというのは。」
「ゆ・・・。だれ?まりさにはなしかけてるのは、だれなの?」
見ると、黒い眼鏡を掛けたゆっくりがいた。レンズの透明度がないので表情が読めない。
「いもうとのしまつは、わたしがつけるわ。ごめんなさいね。いもうとがあんなふうになったのは、
わたしがしっかりしていなかったからだわ。ちゅうとはんぱなことだけをおしえてしまったようね。
ちゃんと、きょういくしてないままで、わたしがたびにでたりしたから・・・こんなことになってしまったのね。」
「ありすの、………おねーさん?」
「わたしは、かこをすてたおんなよ。…けど、あなたをすくうことはできるわ。あなたをゆっくりぷれいすにつれていってあげる。
ドスにかんりされてて、たべものがたくさんあるわ。こどもたちのせわも、むれのみんながみてくれるわよ。
………こんなことしか、できないけど。あかちゃんをなかったことには、できないの。ごめんなさい。」
「……ありがとう。……ありがどう゛!!!!」
まりさは、感謝した。絶望の中から救ってくれたこの姉ありすに感謝した。
そして、安堵感から、気絶するように眠りに落ちた。
目を覚ますと、そこはすごくゆっくりできそうな場所に居た。けど、姉まりさの姿は無かった。
おうちと、たべものを用意してくれたぱちゅりーに、姉ありすについて聞いてみたが、
妹に会いに行く、の一言だけ残して行ってしまったらしい。
姉ありすは、妹を、あのありすを殺す気で、行ってしまった。
残されたまりさは、せめて姉ありすが無事で帰ってきますようにと、祈った。
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前に書いたの
まりさとの平日
ぱちゅりーとおにーさん
お野菜が勝手に生えてくるゆっくりぷれいす
最終更新:2022年04月16日 23:46