男には、常々考えている疑問があった。

 男の住んでいる付近では、ゆっくりはほとんど姿を見せない。

 しかし男の住んでいる村では、なぜか定期的にゆっくりによって畑を荒らされていた

 被害がさほどでもなく、荒らされるのも大きく間が空いている為、村人達は駆除の手間を考えて気にせず放置しているのだが、男は1人帰って行くゆっくり達の後をつけ、巣を特定していた。

 しかし後日、巣を訪れた時、そこはもぬけの殻となっていた。

 しばらくしてまた畑を荒らされた際、改めてゆっくり達をつけていったが、結局たどり着いたのは以前と同じ住処だった。

 ならばその後、ゆっくり達はどこへ消えてしまうのか。

 今日はその疑問を解決させるため、男はゆっくり達の住処をじっと観察していた。

「むきゅーっ!」
「ゆっくりしていってね!」

 最初に外へ飛び出してきたのはゆっくりぱちゅりー、そしてゆっくりまりさ、れいむ、ありす等、7匹のゆっくり達が後へ続くように外へ飛び出して来た。

「それじゃみんな、ゆっくり帰ろうね!」
「早く子供達とゆっくりしようね!」
「むきゅー」

 リーダーなのか、そのままゆちゅりーは合計8匹の先頭に立ち、そのまま森の奥へ進ん
でいく。

 音を立てないように後をつけながら男は考えた。

 ゆちゅりー達が向かう先は川がある。

 人なら太もも辺りまで濡らせば渡れる深さだが、ゆっくり達が無事に渡るには深すぎる川だ。渡っているうちに皮が破れ、中身が溶け出してしまうだろう。

 ゆっくり達でも下っていけば渡れるほどの浅瀬な所もあるものの、ゆっくり達の速度でそこまで移動するなら丸1日はかかる。

 普通のゆっくりならともかく、ゆっくりの中でも頭のいいゆちゅりーが無謀に、ただ目的地へ向かっているだけとは思えない。

 新たな疑問と尽きない好奇心に、男の足は自然と速まっていった。

 ゆっくり達が、川の前へたどり着く。

「ゆゆ? まだ来てないよぱちゅりー」
「とかい派をまたせるなんてしつれいきわまりないわね!」
「むきゅー。わるくいったらだめ」

 問題が起きたのか、たどり着いてからすぐにゆっくり達は騒ぎ始めた。端から見ていると、突然の出来事に戸惑っているように見える。

 やはり間抜けなゆちゅりーだったのだろうか……男が落胆しかけたその時、どこからともなく羽音が聞こえ始めた。

 男は空を見た。

 太陽を背に、四角い影が空に浮かぶ。

「むきゅー」
「ゆゆっ! ゆっくりしていってね!」
「うー♪」

 自慢の羽根を大きく羽ばたかせ、何匹ものうーパックが、空からゆっくり達の元へやって来た。

 ようやく男の中で疑問が氷解した。

 うーパックはゆっくりの一種だと言われている生き物だが、その体は下膨れの饅頭型ではなく正方形で、背中に生えた羽根で空を自由に飛び回っている。

 特徴的なその体は、形の通り箱なのか、中が空洞になっており、その中に何かしらの荷物を入れて運ぶのがうーパック達の習性だ。

 あのゆちゅりーはそれを知っていたから、うーパック達に頼み、自分たちを荷物として運んでもらったのだろう。

「ゆっくりさせてね!」
「とかい派のわたしにぴったりな旅をたいけんさせてね♪」
「うー♪」

 ゆっくり達が全員入ったのを確認すると、うーパックは空へと飛び去っていく。

 ゆっくりの一種だと言われる理由はそこなのか、飛行速度はかなり遅い。見失わなければそのまま追っていける。

 男は追いかけようと、濡れるのも構わず川へと入っていった。




「むきゅー、ありがとう。今回のお礼よ」
「う、う~♪」

 本来の住処まで送ってもらったゆっくり達は、うーパックの中へ花や幼虫などをたくさん入れていく。

 喜びの声を上げて飛び去っていくうーパック。ゆっくり達もその場で散り散りに別れていく。

 男は立ち止まって悩んだが、しばらくしてうーパックの方へ歩き始めた。

 うーパック達は上機嫌な様子でそれぞれ木の枝へ立ち止まっていく。呆然と男は、その様子を見つづけていた。困惑している。

 うーパックの生態に詳しくない男は、しばらくすれば地面に降り立つと思っていたのだ。しかし木に降りられると、地面からでは細かな様子を観察出来ない。

 それでも男は諦める事を知らず、うーパックが止まった1本の木を必死によじ登り始めた。

 うーパックが比較的低い枝に止まっており、さらにその木の枝が多いのが、男にとって幸いだった。

 離れていき、小さくなっていく地面を見ようとせず、男はうーパックのいる枝までやって来た。

 そこには枝の根元に作られた巣の中で楽しげに鳴くうーパックの姿と。

「うー♪」
「うー♪」
「うぅー♪」

 サイコロのような大きさの子供達が、母親であるうーパックの周りを飛んでいた。

 全部で14匹の子供達は、全員が蚊か蠅のように母親の周りに集まっている。

 元気そうな子供の様子に満足げなうーパックは、今日の成果を子供達に伝えた。

「う~♪」
「うぅー?」
「うー!」
「うぅー♪」

 餌があると聞いて、一斉に母親の箱の中へ入っていく子供達。慌てて入って来たのがくすぐったいのか、うーパックの鳴き声が頻繁に続く。

「うー♪」
「うぅー♪」

 美味しい餌にありつけてご機嫌な声が中から聞こえ、その声へ合わせるようにうーパックも続けて鳴く。

 その枝の上にあったのは、どこよりも暖かな一家の団欒だった。




 その暖かな様子に感動した男は、愛を込めてうーパックに火を放った。

「うっ!? うぅうぅうぅっ!!」

 燃える体に慌てて狼狽えるうーパック。何が起こっているのかわからない子供達のうー?
 うー? 鳴く声が、体の中から聞こえていく。

「うぅっ、うぅうううああああああああっ!!」

 火は完全に体を覆い、うーパックは燃えたぎる美しい火の玉にその身を変えた。

「うっ!?」
「うぅーっ!」
「うぅううううううぅうぅうっ!!」

 中にも火が出始めたのだろう、母親の鳴く声と重なった悲鳴の合唱が火の玉パックから聞こえていく。

 きっと母親に助けを求めて叫んでいるのだろう。
 しかしその母親は、白玉楼に出てきそうな人魂のようになっている。

 その愛らしい子供達の様子を想像して、男は体を痙攣させて喜んでいた。

「うううぅうぅううううううぅうううううっ!!」

 今まで以上に甲高い鳴き声が響く。

 断末魔だったのだろう、それからうーパックは枝に降り、まるで動かなくなってしまった。

 木が燃えないよう、必死に男は火を消し止める。

 枝に残ったのは正方形の炭の固まり。中を覗けば、小さな正方形の炭が14つほど転がり出てくるだろう。

 愛らしかったうーパックの無惨な姿に、男は涙し、地面に降りて埋葬してやった。

 合唱していた男は、しばらくするとまた別の木へ向かって歩いていく。

 恋しい恋しいうーパックの姿を求め、木を登り始めた。




「ゆゆっ? ぱちゅりー、あの子たちがこないよ?」
「これいじょう、またされるなんてとかい派としてくつじょくよ!」
「むきゅー……」

 ゆちゅりーが不安げに鳴く。他のゆっくり達はゆちゅりーに頼りきりだが、今までなかった出来事にゆちゅりー自身も困っている。

 また野菜を盗りにいこうと、ゆっくり達は川の近くまでやって来ていた。うーパックは普段から辺りを飛んでいるので、こうして待っていたらすぐに気づいてやって来るのだ。

 しかしうーパック達は、待っても待ってもやって来なかった。

「どうしよう……このままだとゆっくりできないよぅ……」
「ぱちゅりー……」
「むきゅぅ……」

 困り果てた様子のゆっくり達に、男は静かに近づいていった。

「どうしたんだい、君たち?」
「ゆっ!?」

 突然聞こえた人間の声に、ゆっくり達は慌てて飛び跳ねて人との距離を作った。

 みんながみんなゆちゅりーを囲うように動き、いざという時は必死に守ろうと動いている。

 リーダーであり、体の弱いゆちゅりーを死なせないように自分たちが守らないといけない、そういう気持ちがそこから伝わってきた。

「なにか困っているみたいだけど、私で良かったら相談にのるよ」
「……むきゅ」

 ゆっくり達の囲いからゆちゅりーが出て行く。藁をも掴む気持ちだったのか、自分たちの状況をその人間に相談してみた。

「なるほど……確かに今日はうーパック達の姿が見えないね……。私も飛び回る姿が見た
くてここに来たから、ちょっと残念だよ」
「むきゅ? そうなの?」
「ああ。だって可愛いじゃないか、あの鳴き声や飛んでいる姿。そう思わないか?」
「むきゅ!」

 ゆちゅりーは思わず声を上げていた。

 うーパックの事が大好きなゆちゅりーにとって、自分と同じ気持ちの人間がいるのは、まさに世紀の発見だった。

「それで、川を渡る方法だったね。色々私に案があるよ」
「ゆっ! おじさんほんとうに?」
「そのあん、とかい派のありすにふさわしくおしえてね!」

 ゆちゅりーの信頼した様子に、他のゆっくり達も自然と男への警戒を緩めていった。




「いいかい? 流されないようにしっかり棒で支えるんだよ」
「ゆっ! わかったよ」

 男の声に、元気よくまりさが応える。

 自分の帽子を川に浮かべ、その上に乗ることでまりさは川に浮いていた。

「ゆゆっ! おじさんもぱちゅりーをよろしくね!」
「とかい派らしくえすこーとしてあげて!」
「むきゅぅ……」

 他のゆっくり達も、その辺りで拾ってきた木の板や大きな葉っぱに乗って川に浮いている。

 唯一ゆちゅりーだけは、体が弱いからとおじさんの腕の中にいた。

「それじゃみんな、ゆっくりすすんでいこうね!」
「ゆっくりがんばろうね!」

 帽子に乗ったまりさを先頭に進んでいくゆっくり達。男はゆっくり達とは少し離れた所をゆちゅりーを抱えて進んでいった。

「ゆゆっ! ゆれるよ! すごくゆれるよ!」
「れいむ、ぼうでゆっくりそうさしてね!」

 危なげなゆっくりもいる中で、確かにゆっくり達は川を渡っていく。

 しかし真ん中まで来たところで、先頭のまりさに異変が起きた。

「ゆゆっ!?」
「ど、どうしたのまりさ?」
「ぼ、ぼうし、わたしのぼうしの中にみずが……!」
「ゆっ!?」

 まりさの帽子は、厚みは違うもののまりさと同じ皮で出来ている。

 短い間なら水につけても平気だが、この川を渡り切るには脆すぎる乗り物だった。

「ゆぐぅううううぅうううぅううぅうっ!!」

 沈む帽子に連れられて、まりさも川の底へと沈んでいく。

「まり゛ざぁあ゛あ゛ぁあ゛あ゛ぁあ゛あ゛あ゛ぁあぁぁあっ!!」
「れいむあぶないわ! そんなにあばれてたら! とかい派はどんなときでもえれがんとに──あ゛ぎゃぁあ゛ぁあ゛あ゛ぁあぁあぁあっ!!」

 先頭を進んでいたまりさの沈没に連鎖して、ゆっくり達は川の中に落ちていく。

 男に連れられて先に川を渡りきったゆちゅりーは、目の前の悲惨な光景に思わず涙した。

「むきゅううぅうううぅうううぅううっ!! みんながぁあぁああぁあっ!!」
「駄目だ! もうみんな助からない!」

 ゆっくりが乗っていた板や葉っぱが、重りを失い、流されていく。

「ぱ、ぱちゅりーたずげ……」
「ゆ、ゆぐぐぐぐぐぐっ!! 水が、みずがからだのなかががががががががっ!!」
「やべで! おざがな゛ざん! でいぶのがらだだべないげぎぇびぎゃっ!!」
「ゆ……ゆっぐりじだがっだ……」

 川に散った餡子が流されていき。
 後には何も残らなかった。

「むきゅぅうううぅうううぅううぅううううぅううぅううっ!!」
「……」

 泣き叫ぶゆちゅりーを抱きかかえながら男は震える。

 ゆっくり達の綺麗な散りざまに、軽く絶頂を感じていた。




「ほら、顔をみせてみなさい」
「むきゅ……」

 涙の染みたゆちゅりーの顔を男は軽く拭いてやる。

 仲間達を全員失った悲しみから、ゆちゅりーはまだ元気を取り戻せないでいた。

「……君に1つ頼みたい事があるんだが」
「……」
「うちにいるうーパックの子供達を育ててくれないかね?」
「……むきゅ?」

 予想外の言葉に顔を上げたゆちゅりーに、男は続けて説明していった。

「以前、親を失ったうーパックを拾ってね。育てていたんだが……やはり同じゆっくりの親が必要かと思っていたのだよ」
「……むきゅ」
「だから君に親代わりになって欲しいのだが……駄目かね?」

 ゆちゅりーは深く考え始めた。

 男が自分に気を遣って言ってくれているのは、ゆちゅりーも理解している。

 そんな男の気持ちを無碍にしたくないと、ゆちゅりーは思う。

 なにより、うーパックの子供というのが、ゆちゅりーの心を突き動かした。

「むきゅっ! やるわおじさん!」
「おおそうかい! そう言ってもらえると私も嬉しいよ!」
「むきゅ! 私がその子をりっぱにそだててみせるわ!」
「ああその意気だ!」

 元気を取り戻したゆちゅりーに男は笑顔を見せながら、自分の家へと戻っていく。




 男の住んでいる付近では、ゆっくりはほとんど姿を見せない。

 それは付近のゆっくりのほとんどが、男の愛によって土に還ったからだった。




 End








 ぶっちゃけ、燃えるうーパックが書きたかっただけの話。





by 762





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最終更新:2022年04月11日 00:20