音を立てないように戸を引く。僅かな隙間から覗こうとしたものの、覗く前から何となく状況は
読めた。
「う゛――――――! あがぢゃん、れみりゃのあがぢゃん! げんぎだずんだどー!」
 ホントに喚いていた。
 簡単な想像をすれば、騒いでから誰も居ないことに気づいて、何故自分が怒鳴っていたのかを思
い出した、というところだろう。単純な思考をめぐらせるだけでこのおぜうさまの行動には理由が
付けられる。犬とか猫よりも格段に行動理念が明確で助かる。
 さきほどれいむが騒いでいたのにも気づいていなかったのなら、と俺はガラリと大きく扉を開放
し玄関に侵入する。すぐさま閉めたのは、れいむがこちらに興味を持たないようにするためだ。
「あがぢゃんんん!」
 ピクリとも動かないチビれみりゃ。その顔の近くに身体を寄せて、必死に呼びかけている。格好
は差し詰め腕立て伏せをするようなものだ。人間ならば涙を誘う悲愴感に満ちた《御涙頂戴》的な
シーンだが、生憎残念なことに主人公はおぜうさま。あっという間に喜劇へと変貌する。
 醜いケツと、餓鬼臭く婆婆臭く乳臭くニラ臭い、ともかく臭うようなカボチャパンツを惜しげも
なくこちらへ見せ付けている。今にも毒ガスを放出しそうな体勢だ。出来れば惜しんで欲しいもの
だが、そんな高尚な行動を取ることは到底出来ないだろう。
 ――蹴りたいケツ。
 しようと思ったことは直ぐ実行に移す性質(タチ)なのだ。だがおぜうさまはこれから先も諸々
甚振られねばならないので、ひっそりと後ろによって助走なしに蹴り飛ばす。
「うぢゃっ、ぶぶびっ!!」
 先ほど外からぶつかった玄関扉に、今度は中からぶつかった。おぜうさま、完全制覇ですよ。お
めでとうございます。しかし、『ぶぶびっ』て。そんな叫び声があるとは知らなかった。流石、豚
まんらしい叫びだ。
 人間で言えば、確実にムチ打ちになる勢いで顔面から衝突していったおぜうさま。外の世界で、
安全性の実験で自動車を壁にぶつけるというものがあったと記憶しているが、まさにその様に類似
している。ぐしゃんとぶつかって、ばねのように全身が縮み上がり、反発するように跳ねながら、
再び地面とキスをした。そんなに地面が好きなのか。結婚して《にんっしん》でもすればよい。
 おぜうさまは地面にキスしたまま起き上がる気配はない。だが、耳をすませば、居間から聞こえ
つづけているれいむの《御食事》の音――つまり『うっめ、めっちゃうっめこれ!!』であるが―
―に挟まれて、頻りにうう、ううと唸っている声が聞こえる。半気絶状態なのだろう。それなら都
合がよい。
 先ほどおぜうさまを引き摺ってきたときに使った縄を、そこでのたれ死んでいるように横たわっ
ているチビれみりゃの首に回す。何とか生きているようだが、おぜうさまと違ってまだ子供だった
所為で、虫の息といってもいい状態だった。あれだけ耳元で汚い豚の鳴き声のような声で騒ぎ立て
られても反応が無かったのも納得できる。
 だが、この作業は意外にも苦労した。動くはずのない者を縛り上げるのに、どうして苦労するの
だと思うかもしれない。
 考えてもらいたい。れみりゃの首って何処なんだ?
 結局、人間の首のように際どく括れている顔の下あたりに縄を回した。間違っていたら、ぜひと
も御教授願いたいところだ、次回以降の教訓にしたいと思う。
 チビれみりゃは目も当てられない状態だった。顔の皮は再生過程のままで、じわりと肉汁が垂れ
ていた。俺にあれだけ伸ばされて千切られたのだ、仕方ない部分だろう。足と腕に力の欠片も無く
、持ち上げども重力に逆らうことも出来ず垂れ下がるのみだ。表情は苦悶に満ちたものだったが、
ぐずるようにえぐえぐと泣いているようだったので、このあたりは流石《くされみりゃ》と言った
ところだ。本物の紅魔館のバカ御嬢も身体だけは丈夫で、頭がよろしくない雰囲気を漂わせている
乳臭い幼女なので、これは大きな共通点なのだろう。だが、瀕死状態であるのは間違いなかった。
 さて、猶も気絶しているようなおぜうさまの、ケツの穴あたりをもう一度蹴った。
「んぎゃん!?」
「起きろ、ボケ豚まん」
「ううう……、いだい、いだいど……」
「黙れ。さっさと起きろ」また一蹴り。
「うう……、な、なにずるんだどぉ」
 家に連れ込まれた直後には欠片も無かった、弱気な態度で俺に言う。《こーまかんのあるじ》は
影を潜めた。――といっても、ハナからこいつは《あるじ》では無いので、虚構の高腰であったの
だが。
「ほら、お前のあかちゃん。元気になったみたいだぞ」
 俺はおぜうさまに極上の笑顔(自称)を輝かせて、縄を持った手を高々と掲げる。飛んでいるよ
うに周期的に上下させるのも忘れない。
「う? う、うっ、うーー! れみりゃのぷりぢーなあがぢゃんだどー! おにーさん、はやくれ
みりゃにわたすんだどー!」
「いいのかい?」
「わたすんだどー! はやくしないど、さぐやにいいづげるどー!」
 赤ん坊を自分の腕に抱きたいのはゆっくりも同じなのは良くわかる。だが、首をだらしなく下に
垂らし、動く気配のないチビれみりゃである。先ほどまで、自分が叫んでも反応を見せなかったチ
ビれみりゃが、そんな短時間で元気になるはずがないではないか。
「ホラ」
 薄笑いを浮かべながら、おぜうさまの足元へチビれみりゃを投げやる。もちろん、首の縄の端は
俺の手の内だ。
「う?」
 チビれみりゃが力なく床に転がる。叩きつけられた格好だが、呻き声ひとつ上がらなかった。
「う――――――――――――! あがぢゃん、さっぎはげんぎだっだど――――――!」
 あれの何処を見れば元気なのだろうか。もっとも、これは実に予想通りの反応であり、俺は満足
である。
 では、次のプランへと移ろうではないか。
 おぜうさまがチビれみりゃにすがり付こうとする瞬間に、持っている縄を強く引く。
「うぎゃおお!」
 飛び込むような体勢だったおぜうさまは、今日何度目かわからない床への接吻をした。もし俺が
チビれみりゃを引っ張らなかったらどうなっていたものか。おそらくおぜうさまは自分の赤ん坊を
自分のキスで潰し殺すところだった。感謝して欲しい。
 床に突っ伏しているままだと諸々不都合が生じるので、嫌悪感を我慢しておぜうさまの身体を引
き起こし、服の後ろ側に刀を通し先端を床に突き刺す。身動きをとらせないようにしながらもこれ
から起こる事態から目を逸らさせないようにするという、一石二鳥の戦略だ。れみりゃのぜぐぢー
なおべべがああと叫んだが、無視、無視。おべべの時点でセクシーさの欠片も無いのではないだろ
うか。手と足を前方に放り出して奇妙なまでに正筋を伸ばし、肉汁の涙をだらだらと垂れ流す様は
、見ていても気持ちがいいものだ。
 おぜうさまの視線がこちらに向いていることを確認して、縄を揺すり始める。ぐらん、ぐらん。
揺れるチビれみりゃ。
「なにずんだどー!! ぷりぢーなれみりゃのあがぢゃんをはだずんだどーー!!」
 はいはい、ぷりちーぷりちー。薄笑いを浮かべて言ってやる。瀕死の肉まんのどこが可愛いのだ
ろう。
 言葉でおぜうさまをからかっている間に、チビれみりゃは豪快に回転し始める。最初のうちは、
外界の遊園地とかいう一大遊戯施設に備わっている《バイキング》なる乗り物のように、振り子の
動きをしている。徐々にぐるんぐるんと力を込めながら円を描くようにまわす。《観覧車》とかい
う乗り物の動きだが、その回転速度は《観覧車》の比ではない。
「う゛っ、ううううううううううううう!!!」
 遠心力が(人間で言うところの)首の付け根あたりに負荷されているせいで、気絶していて今ま
で何にも反応を示さなかったチビれみりゃが苦悶の表情だ。こいつがどういう仕組みで息をしてい
るのかは分からないが、とりあえず息は苦しいと見える。それだけでこの作戦はある程度の成功で
ある。これで何の反応も無いのであれば、こいつは呼吸をしていないとも言え、俺の《首探し》の
努力は水泡に帰すのだ。
 否、もしかすると、首が千切れてしまう痛みに悶絶しているのかもしれない。だが、そんなこと
はどうでもいい。苦しみさえすれば無問題。
「やべでえええええええええ!! あがぢゃんをはだぶびでびえぇええ!!」
 五月蝿いので、チビれみりゃの回転中心を少しおぜうさまの方にずらしてやる。勢いをつけて廻
っているチビれみりゃと感動の御対面を果たした。高速で、だが。
 チビれみりゃの身体はその衝撃でぐらつき始める。見ればおぜうさまの足元に肉塊が転がってい
た。じっくりと視線を其処にあててみると、それはチビれみりゃの足だった。どちらの足か不明で
はあるが、足がもげたことだけは明らかだ。脆いものだ。
「ああああああああああああああ゛!! はやぐっ、はやぐやびぇどぅんだどおおおおおおおお!
!」
 回転は秒速一回転を越しそうになったそのときだった。
『ぶぢん』聴いたこともないような鈍い音。
『びしゃああ』何かが弾けるような音。
 そして、縄の先端が軽くなった気がした。
「あれまぁ」
 時代がかったような呟きは御愛嬌。何せ、縄の結び目には何の影もなかったのだから。
 想像通りの結果で恐縮だが、チビれみりゃは退化してしまったのだ。簡単に言えば、《くびもげ
》。遠心力に耐えられなくなったれみりゃの身体は、その力の集結点である縄の結び目、すなわち
首の付け根に集まり崩壊してしまったのだ。
 頭の部分を探そうとしたが、此れはあっさりと見つかった。
 俺の足元に黒い影があった。持ち上げてみると、頭部だけのゆっくりでいうところの《足》が餡
でぐずぐずになっている。胴体が離れたのだからこうなるのは仕方が無い。
 今度は表情を確認する。口はへの字に歪み、目からはチビれみりゃの脳みそである餡が吹き出て
いた。眼球はどこかへ吹き飛んだらしい(翌日明るくなってから、天井にへばりついている小さな
油脂の塊をふたつ見つけた)。
 最早ゆ、とも、う、とも言わなくなった肉まんである。
 反応を示さなくなった肉の塊には興味はない。親であるおぜうさまの許に放り投げてやった。
 ぐしゃり、と言って床に臥したチビれみりゃだった物は、衝撃に耐え切れず形を変えた。
「う? う、うう……」
 騒ぎ始める前に後ろの支え棒を取り外す。切っ先で後頭部に切れ込みが入ったのだが、目の前に
転がった肉の塊に視線を取られて痛みを感じなかったようだ。
「う゛あ゛――――――――――――!! う゛あ゛――――――――――――!! う゛あ゛―
―――――――――――!! でびりゃど、ぶりっぢーなあがぢゃんがあああああああ!!」
 おぜうさまは豆大福のような手で持ち上げようとするが、チビれみりゃの頭は既に形を維持する
ことすら出来なくなっていたようで、おぜうさまの指の隙間から餡がぼたぼた零れていった。これ
では再組成は不可能だ。
「どうぢでええええええええええ!!」
 それでも諦めきれないのか、おぜうさまは何度も何度も我が子を抱きとめようとする。必死な姿
は人間であれば涙を誘う。しかし、これで二回目になるが、ゆっくりが必死になったところで生み
出されるものは喜劇の台本でしかない。おぜうさまの叫びはファンファーレのようだ。
 どれくらいの間そうしていただろうか。辛うじて残っていた皮は餡と一体化しており、その餡も
バラバラになっている。山の形に盛ることすら出来ないほどに解れてしまった餡は、チビれみりゃ
の絶命を如実に示していた。
「ううううああああああああ!! あがぢゃん、どうぢでぢんだんだどおおおおおお!! どうぢ
でだんだどおおおおおおおお!!」
 慟哭。そう称するに相応しい絶叫。最も、何度も言うことだが、主人公がおぜうさまなので、喜
劇なのには変わりが無い。
「あがぢゃああああああああああああああああ!!」
 止まらない肉汁の涙。口からも零れているが、そんなことも気にする素振りがない。仰向けにな
ってじたばたと動きながら、俺の足元で駄々を捏ねるように喚いている。おぜうさまの品格の欠片
もなく、ただ喚くだけの肉饅頭。ただ、我が子の死を嘆いている。
「あがぢゃああん……。ううううううあああああああああ……」
 うつ伏せに向きを変え、しゃくり上げるように泣くおぜうさま。慟哭は弱まってきたが、肉汁の
涙を止まるところを知らない。
「うう…、あああ……。……」
 大人しくなってきた気がする。おぜうさまの顔の近くに耳を持っていく。
「ぅぅ……。zzz….」
 寝やがった。
 身体を丸く屈めて、何かから自らを防御するような格好を取ったまま動かない。泣き疲れたにし
ても、寝てしまうのは早すぎやしないだろうか。
 もう少し様子を見ようと思って眺めてみたが、全く動く素振りもない。動いているのはおぜうさ
まの背中くらいのもので、穏やかな上下動を繰り返している。
 これは安眠状態に入り込んでいるとみても問題は無さそうだ。
 一分もしないくらいで、自分の子供が死んだことも忘れて、穏やかな眠りの世界に飛び込んでい
けるとは、流石餡子脳。その他のゆっくりと違って小豆の餡ではなく肉まんであるゆっくりれみり
ゃ種だが、この肉餡は小豆餡よりもバカらしい。『うあー、うあー』とか『たべちゃうどー』が会
話の大半を占めていることでも大方の予想は付いていたが、ここまで来ると呆れる。呆れ果てる。
開いた口が塞がらないとは、当にこのことだ。
「zzz」
 餡子脳には解からないだろうと思う速度で体勢を仰向けに変えてやる。
「zzz」
 思わず、噴出すかと思った。
 おぜうさまの寝顔は、よくゆっくりが《すっきり》している真只中で見せるという《アヘ顔》で
あった。肉汁を口の端からだらだらと零して、目はすっかりへの字になり、蛙がへばりついている
状態を裏側からみたような体勢だ。気の緩みは全身から溢れんばかりで、油断も隙も全く無い。
 黒い感情が頭を擡げてくるのは、時間の問題だった。
 深呼吸をひとつ。右足を高く上げて――。
「うぎゃおおおおおおおお!!」
 腹のど真ん中を踏みつけてあげる。
 おぜうさまは嬌声をあげてもんどりうちながら玄関を這い回る。その姿はさながらスリッパのよ
うなもので潰されながらも致命傷には至らなかったリグル――もとい、御器齧(ごきぶり)のよう
だった。
 悶え狂っている状態のおぜうさまは、先ほどまで必死に蘇生させようとしていた(といっても気
休めにもならない状態だったが)チビれみりゃの上を何往復もしていたことは気づかなかった。そ
もそもおぜうさまの《処置》を受けた段階で絶命していたので、当のチビれみりゃは痛くもかゆく
もなかっただろう。せめてもの救いだった。
「う゛―――――――――――――――――――!!! 嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!」
 十分にビブラートを利かせた絶叫は喧しいことこの上ない。黙れの意味を込めて後頭部を蹴飛ば
したが、火に油を注ぎこむどころか、火に油をぶちまけることになった。想定内なので問題ないが
、このおぜうさまは本当に俺の期待を裏切らない躍進を遂げてくれる。
「ホラ、立て。この糞肉饅頭」
「うううう!! うぞづぎ!! うぞづぐやづはざぐやにごろざれどぅんだどーーー!!」
 鼻水をだらだら零しながら(おぜうさまはあらゆる場所から汁を零すんだなあ、と感心する)俺
に殴りかかろうとする。
 ――はて。
「俺、何か嘘吐いたっけ?」
「れびじゃどあがぢゃ、がえぢでくでどぅんぢゃーーー!!」
 文章として成立している雰囲気が全くない。おぜうさまの態度で辛うじて、俺がチビれみりゃを
美辞におぜうさまの許に返す約束をしていたのだが、その約束を破ったから《ざぐや》とやらに殺
られるらしい。
 それは敵わないということで、俺はややも、反省タイム。
 一秒。
 二秒。
 ――。
 ――――。
 ――――――――。
 ポクポクポクポク――――。


 チーン。
「んな約束してねーだろーが!!」
 間違いない。遡っても、俺の口から『返してあげるよ』なーんてことは一言も言っていない。
「れびりゃどあがぢゃ!! ゆっぐりじねえええええええ!!」
《ん》の発音は鼻づまりのせいで全く聞き取れなくなった。それでもおぜうさまはゆっくりふらん
の真似事をするように、俺に体当たりを仕掛けようと駆け出した。
 どて、どて、どて……。
 何とも重たい足音を響かせて近づいてくるおぜうさま。《亀よーりぃ、おーそーい、おぜうーさ
ぁまー♪》と童謡『こいのぼり』の音階に替え歌をつけて歌いたくなる。
 だが。
「そーれい!」
 俺の手には得物があるということを失念されては困るのだ。
「うう゛!?」
 おぜうさまはくぐもった声を上げた途端、急に身長が縮んだ。およそ、先ほどの半分になった。
「あああああああああああああ!! れみりゃのがもじがどよーだあじど、くびでだうえずどがあ
ああああああ!!!」
 自分の身体と顔を鏡で凝視したことがないということは、酷くかわいそうなことなのだ、と此処
にきて俺は痛感した。おぜうさまの腰の何処がくびれていて、おぜうさまの足の何処がほっそりと
しているのだろうか。
 俺は走ってくるおぜうさまの脇に素早く(一歩分しか動いていないが、それでも充分だった)寄
ると、支い棒代わりだった刀を横にして構えた。ただ構えていたところに、予想通りの動きでどて
どておぜうさまがゴールテープを切る要領で突っ込んできた。
 その結果がこれだよ。
 おぜうさまは(人間で言うところの)臍のあたりから身体がぱっかりと分かれてしまった。外の
世界では超高性能の医療器具としてMRIというものがあるが、そのようになった。つまりはおぜうさまの肉体断面図を作ったようになっているのだ。
 MRIは俺も幻想郷で一度だけお目にかかったことがある。何でも香霖堂に流れ着いたところを永遠亭の女医が河童のサポートの下医療器具として設置したそうだ。河童のにとりがMRIを知っていたことにも驚いたが、今MRI技師として活躍しているのは輝夜姫その人だそうだ。あのニートがよく働き口を見出したと思う。
 まあ、そんなことはどうでも良い。
 おぜうさまは、まだ自分の身に何が起こったのか理解できていないようだ。腰の切り口で床に起
立し、きょとんと正面を見据えている。下半身は肉汁を零しながら無残に倒れている。
 五秒ほど経過しただろうか。
「う、うううう、うううううううううううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう
うううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!
??????」
 超絶的大絶叫。
 腰の切り口が只ならぬ安定感を維持しているため、おぜうさまが手をばたばた振ってもなかなか
倒れない。この様は、さながら《太陽の塔》のようだった。
「うううあああああああ!! いだいいいい゛!! だずげでえええええええええええ!!」
 コツを掴んだのか、周期的な腕の振り方を初めて五秒ほど経って、おぜうさまは顔面から倒れた
。必死すぎた腕の振りを止められなかったが、右腕は辛うじて床に付く事ができた。それでも頭が
重すぎるがゆえに、おぜうさまの右腕はひしゃげてしまった。人間で言えば複雑骨折をしてしまっ
たようにくしゃくしゃになった。
「うぎゃああああああああ!! いだあああいいどおお、いだいどおおおおおおおお!!」
 今更ながら、よくぞ餡子と皮だけの構造で痛覚神経を構成しているものだと感動を覚える。右腕
を抱え、かつ下半身に断続する痛みに耐えている。口からは相変わらず肉汁を垂らしているが、此
処にきてついに頭部に込められている餡が零れ始めた。どうやら、先は長くなさそうだ。
「いだいどお……」
 声が小さくなってきた。この体勢では(表情が見えなくて面白くないから)まずいので
仰向けになおす。
「だず、げでええ。いだいんだどおおぉぉぉ……」
 そりゃあ、痛いだろう。腕がぐちゃぐちゃになって、胴から下を失っている。だが、切り口から
餡が零れ出ている気配がない。俺の一刀両断が良かったのだろう。
 俺はひとついいことを思いついたので、暫し玄関を離れる。背後からは声量をだいぶ落としたお
ぜうさまの叫びが聞こえているが、餡子が漏れてこない限り、失餡子死はありえない。ゆっくりふ
らんではないため、自殺することもないだろう。
 向かった先は前の物置。香霖堂から大量の食器を買ったときに、運搬用にと使ったダンボールが
あったはずだ。
 探すと、折りたたんだ状態の大きなものが四つあった。これなら巧くいく。
「だずげでぇ……」
 ぐじゃぐじゃになった顔をこちらに向けて、激痛に喘いでいる。やはり餡子は出てこない。これ
くらいなら、後で水溶き片栗粉か何かで応急処置をして、それが馴染んでくれば痛みは感じなくな
るだろう。しかし、腕は切断処理しかないだろう。あんなにぐちゃぐちゃの腕を再生させる術は無
い。
 いや、違う。おぜうさまには再生能力があるはずだ。このままでは腕はおろか、下半身まで再生
されかねない。これは予定を変更すべきだろう。
 思い立ったが吉日である。
 ダンボールは片隅に放り捨て、俺は台所方面に向かった。

     ○

 台所に行く前に、俺は黙祷をせねばなるまい。
 その理由は、今話していられるほどの時間がない。おぜうさまの再生を阻止せねばならないのだ
。とりあえず、気持ちの全くこもらない黙祷を捧げた。

     ○

 材料は辛うじて揃えられた。今から治療されるおぜうさまのガキのせいで台所がぐちゃぐちゃに
なっていたことを失念していたのだ。
 硝子鉢も小さなものは全て割れていた。饅頭の体当たりごときで扉が開いてしまうとは全く思っ
ていなかった。食器と共に台所のセット一式も仕入れねばならなくなってしまったのは、かなり腹
立たしいことである。
 粉も撒き散らされていたので、床に散らばっているものをかき集めて、どうにか使用できるほど
の分量になった。

 さて、おぜうさまの様子は。玄関扉を完全に開け放した。
 風雲急を告げる、とまではいかないものの、それでもゆっくりしてはいけない状況である。
 腕は再生が始まっており、既に二の腕の半分が形成されていた。腰より下は全く再生されていなかったのには安堵した。
「うううああああ……」
 泣きは収まりかけていた。耳栓の代わりに鼻紙を耳に詰め込んだが、然程意味は無かった。大き
な身体の痙攣も見られない。身体は脆いわりに生命は丈夫である。下半身はただの肉の塊になって
いる。てっきり此方側も上半身が再生して二人になるものかと思っていたが、そうではなく頭の残
っている方のみが再生するようだ。蜥蜴の尻尾と同じらしい。
 泣き続けているおぜうさまの腕をとり、水で溶かした粉に《隠し味》を合わせたものを塗りたく
って包帯をきつく巻いた。麻酔剤のようなものを持っていればより項が得られそうなものだが、生
憎ここは永遠亭ではない。そこの辺りは我慢だ。
「うう……。う、うう?」
 胴体で直立して、きょとんと俺を見つめるおぜうさま。その(本人曰く)つぶらな瞳は潰してや
るか抉り取ってやりたいものだ。
「うう!! いだぐなぐなっだどー!! もうへーきだどー!!」
 それは良かったな、と俺は青筋を立てる。その視線に気づくわけもないおぜうさまはさらに続け
て、
「うーうー! はやぐぶっでぃーんもっでぐるんだどー!」
 また!?
「お前、もう忘れたのか? ウチにプリンはな」
「ぶっでぃーんだどー! ぶっでぃーんをはやぐよごずんだどー!!」
「話を聞きやがれ!!」
「ぶぎゃっ!?」
 折角半殺しで止めてやったが、もう飽きた。このバカに付き合うのは。チルノの話に付き合って
いるよりも面倒だ。
 今蹴飛ばしたのは、顔面。丁度(人間で言えば)鼻の辺り。後頭部を床にぶつけ、すぐさま背中
を打ちつけて飛んでいく。地獄車になったおぜうさまは、逆立ちの状態で玄関扉に直撃した。
 しかし、倒れてこない。
 不思議に思った俺は近づいてみる。
 もう、おぜうさまは絶命していた。
 身体の幅が二倍になっている。扉にへばりつくようになったおぜうさまは、くっついたまま落ち
てこない。完全に床と同化してしまったように見える。
 腰の部分を指で掬うが、ねっとりと脂っぽいおぜうさまの身体は、平面的にこびりついている。
 床に近い、頭の方を見てみる。こちらはさらに惨劇だ。頭はえびせんべいのように薄く広がって
いる。やはり中身の詰まっていない頭であったのだろう、餡子は漏れ出ていなかったが、顔面が顔
面の体裁をたしていない。
 完全に絶命し、家には静寂が訪れた。
 本当は、傷口の処理に使った粉の《つなぎ》として、チビれみりゃを使ったことを教えてから殺
したかったのだが、こうなっては仕方が無い。

     ○

 おぜうさまとチビれみりゃの残骸を処理して居間を通過し台所に戻った。
 瓦斯台(これもにとりちゃんの御蔭)の下からは濛々とした湯気が立っている。火は先ほど消し
てある。
 まさかこんなことになるとは思っていなかった。扉を完全に閉めていればよかったのかもしれな
いが、後の祭りとはまさにこのこと。
 おぜうさま関係の作業に余裕があると踏んでいた俺は、熱いお茶を飲もうと湯を沸かしていた。
その間にでもれいむはまりさを食べ終わって、それこそゆっくりしていると思っていた。それは先
ほどおれにおぜうさまがどうしていたのか教えてくれたことから、ほぼ改心していたと思い込んで
いた。
 しかし違った。所詮ゆっくりはゆっくりであり、人間の家はすべて見つけたゆっくりのもの、と
言う考えは捨てていなかった。

 ここからは俺の予想である。
 まりさをすべて食べつくしたれいむは、俺がスキマを作っていた扉の隙間をすり抜けて台所へ突
入した。そこはおぜうさまの暴虐の残骸が充分のこっていたが、然して気にしていなかったのだろ
う。最初はゆっくりとしていたらしい。床の一箇所に食べ残した餡子が零れていた。
 その後、れいむは興味をそそられるものを見つけた。見つけてしまった。
 それは、俺が瓦斯台に掛けていた薬缶である。これはかなりの大柄なもので、作り置きの茶をつ
くるのには最適なものだった。
 たまたまおぜうさまが遊んでいた踏み台を使って、俺は吊棚から薬缶を取り出し、その踏み台を
放たらかしにしていたのだ。それを使ってれいむは瓦斯台の手前に攀じ登った。
 この薬缶は、湯が沸いたことを報せる汽笛のような装置が付いていた。れいむはこの音に驚いた
のだろう。我が家の玄関扉は防音性に優れており、この音を聞くことは無かった。
 れいむは必死になってこの音の正体を見破ろうとして、バカなことをした。薬缶へ体当たりを繰
り出した。
 金属製の薬缶は、饅頭のれいむの皮膚をくっつけた。
 あつい、あっつい!!
 れいむの叫びは俺には聞こえるわけもない。
 顔をくっつけたまま暴れてしまったのだろう、れいむはバランスを崩した薬缶ごと床に落ちてい
く。お湯はその衝撃で少し漏れてしまった。お湯はれいむの川を薬缶から剥がした。それはれいむ
を薬缶の熱さから解放するに充分だったが、その所為で確実にれいむの寿命は縮まった。
 れいむは床に背中から落ちた。衝撃が大きかったのだ。身動きは取れなかった。
 その上から、蓋の開き落ちた薬缶がれいむに蓋をした。
 熱湯を浴び、その上からもうもうとした熱風を込めた薬缶が体を覆う。

 俺が薬缶を持ち上げたその中で、れいむは蒸し餡饅の出来損ないになっていた。
 皮はぐずぐず。餡子も溶け出しており、手で持つことは出来なかった。
 俺は包丁二本でかき集め、まりさの帽子を入れておいたコンポストに投げ入れた。
 本当は数年間の範囲で苛め倒すつもりだったが、そう巧くはいかない。だが、蒸し煮されるとい
う貴重な経験をして死んでいったれいむの苦しみは、俺の気持ちを晴らすに充分だった。
 これから、どんなゆっくりがここに来るか、今から考えるだけでも楽しみだ。










※あとがき
 この「ゆっくりいじめスレ」には初めての投稿になります。
 PNは決めておりませんでしたが、とりあえず『春巻』と名乗ります。
 元々は「幻想郷のキャラをいじめるスレ」に投稿しておりました。
 作品は後で下に記しますが、ゆっくりいじめ自体はこれが2作品目です。ほとんどの作品がゆっ
くりいじめではないので、ゆっくりのWikiには、1作品しかないでしょうけど。
 ですが、これ以降ゆっくりいじめ、幻想郷キャラいじめ小説は書きません。もう時間が取れない
ので、残念ですが引退いたします。後はROM専で失礼します。
 これからも、ゆっくりがいじめられ、虐待され、虐殺される世界でありつづけることを祈って、
最後の挨拶といたします。
 ここまで拝読まことにありがとうございました。
                 春巻



※過去の作品(ゆっくりいじめ以外も含む)
  • 春巻リリーホワイト 2作品
  • すわこちゃんの歯磨き
  • 放置プレイ(因幡てゐいじめ)
  • 豊穣を祈れ ~傲岸不遜たる秋姉妹へのディリジョン~
  • 迷子の迷子のかえるちゃん(すわこたんいじめ)
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最終更新:2022年05月23日 21:46