空から可愛い女の子が降ってきた。
なんてことは勿論なく、残念なことに、空から降ってきたのは不細工な男だった。
しかも、それは愛らしさを微塵も感じさせない老け顔だった。まだ少年と呼ばれる年齢にも関わらずに、だ。身長は180センチを優に超え、、髪形はリーゼントにトサカをかたどるというこれまた可愛いという言葉に真っ向から対立する姿勢を崩さない。それらを恥ずかしがってみせれば、少しは可愛げがあるのだが、寧ろ誇るかのように毅然と前を見て歩く。そんな少年としては失敗作のような人間が、空から降ってくれば、誰だって驚く。当の本人だって、やっぱり驚く。
「のわぁーーーーーーーー!! 何じゃこりゃーーーー!!!」
その男、
桑原和真は鼻水を垂らし、悲鳴を上げながら、地面へ急降下を続けた。普通なら、それは死への直行便。回避のしようのない話だ。だけど、彼はしぶといのである。それは比喩でも何でもない。一目見たら人の印象に深く残るように、本当にしぶといのだ。だから、彼は助かった。森に茂る大きな木の枝をクッションとして、ボロボロになりがらも、助かったのである。
「いててて。チクショー、あのバーンの野郎、人をいきなり空の上に放りやがって……。危うく戦わずに死ぬとこだったぜ」
愚痴をこぼしながら、左右を見渡す。これから暗黒武術大会の決勝に挑もうと、会場に入った瞬間にこれである。周りを見ても、さっぱり現状に見当がつかない。頭を右に捻っても、左に捻っても、出てくるの疑問符だけ。なので、桑原は早々そのことについて考えることをやめた。頭脳担当は、ちゃんと他にいるのである。だから、考えるのはその人に任せよう。それが桑原の出した結論だった。
「つーわけで、蔵馬だな。浦飯の野郎と飛影は、まー放っておいてもいいだろ。寧ろ、あいつらのことだ、この状況を嬉々として迎え入れているかもしれん」
そう言って、桑原は自らの頭を抱えた。浦飯と飛影が、そこら中に喧嘩を売って回っている姿が、ありありと想像できたのである。どちらにも、ろくなブレーキがないことは、既に承知済み。それならば、やっぱり彼らを制動できる蔵馬が必要なわけである。
早速、得意の霊感で桑原は蔵馬の気配を探る。桑原和真という人間を最も特徴付けるものとして、人並みはずれた霊感がある。それは人や霊、妖怪の気配を強く感じ取る能力。それはこの地獄のような場所でも、何ら翳ることなく力を発揮する。
「よし、向こうだな! 待ってろよ、蔵馬!」
そして程なく、蔵馬の気配を察知した桑原は、その方向に力強く歩き出していった。だけど、桑原が向かっていった先には、何も蔵馬だけがいたというわけではない。この場所には53人もいるのだ。人との出会いなど、幾らでも転がっている。
「よー、そこの失敗面! そんな慌てて、どこに行くんだ?」
「あー!? 誰が失敗面だ、コラーッ!?」
頭上から、音もなく男が舞い降りてきたのである。それは桑原と違って華麗な着地。そこに佇む男の顔も、でこぼことした桑原のと違ってキレイに整っている。また精悍な顔立ちの上には落ち着きもあり、一緒にいると安心できるほどの頼りがいがあった。
「おっ、怒ったか? すまんすまん。別に悪気があって言ったわけじゃないんだ。勘弁してくれ」
「この世紀の美男子 桑原様をつかまえて何を言いやがる! やるってんなら、相手になってやんぞ!」
「わははははっ、面白い奴だな。だが、やめとけ。貴様では、おれに勝てん!」
「何を~~~~!? 男 桑原! ここまで言われたら、イモなど引けんぜ!」
「ほー、このおれに手向かうか? ならば、容赦はせんぞ」
その言葉を言い放った途端、桑原に向けて遠慮のない殺気が放たれた。端正な顔にも冷たい色が塗られ、隙のない鋭い雰囲気を発している。その急な変容に、桑原は思わずたじろいだ。
「おいおい、てめぇーはまさかあのバーンって野郎の言いなりになって殺し合いに乗るつもりか?」
「フン、何を言うかと思えば……。おれはだれにもしばられねぇ だれの命令もきかねぇ!!
おれは喰いたい時に喰い、のみたい時にのむ!! おれは あの雲のように自由きままに生きる!!」
「じゃあ、てめぇーは、もしかして……」
「……当たり前だ! この雲のジュウザが、何故あのクソジジィの言いなりになるってんだ!」
「おいおい、ビックリさせんなよ。もう少しでケンカをおっぱじめるところだったぜ」
そう言って、桑原はホッと息を吐いた。自分と同じくいけすかないバーンに反旗を翻している人間だ。無駄に争う必要など、どこにもない。その結論に辿り着き、桑原は本当にマジで心底安心した。その様子に
ジュウザも思わず相好を崩す。
「ケンカ? このおれとケンカか! はっはっは、本当に面白い奴だな、貴様は」
「何がおかしいってんだ、コラっ!?」
「いや、すまんすまん。それで貴様は、これからどうするつもりだ」
「どうするもこうするもねえ! あのバーンって野郎のツラを思い切りぶん殴ってやるだけのことよ!」
「ほー、どうやってだ?」
「うっ! そ、それは、まあ、蔵馬が考えてくれるだろうよ! なはははははっ!!」
「蔵馬? ひょっとしてソイツは、貴様のコレか?」
ジュウザは桑原の肩に腕を回しながら、小指を立てる。初対面にしては、随分な馴れ馴れしさだ。こと、ここにおいては地獄と何ら変わらない場所。必要以上の接近など、それこそ血を見ることに繋がりかねない。だけど、そこにあるジュウザの満面の笑顔を見ると、桑原は肩の力が思わず抜けていくのを感じた。
「バッキャロー! 蔵馬は男だ! それにおれには雪菜さんという既に心に決めた人がいるんだよ!」
「何だ、つまらん。ソイツが貴様の女なら、見に行っても良かったんだがな」
「あ~ん? 何だよ、一緒に行かねーのかよ?」
「行かん。わざわざ男に会いに行くという気になれん」
「じゃあ、おめーはこれからどうすんだよ?」
「知らん」
「知らんって。浦飯みてーなことを平気で言いやがって。それなら……」
「……おれは雲だ。自由気ままに生きる」
「チッ、わーったよ!」
ジュウザが散々と言い募る雲という言葉。そこまで聞かされれば、誰だって何かしらの信念、こだわりがあると想像がつく。そしてそれは決して曲げられないものだろうということも。それを察した桑原は、素直にジュウザの勧誘をやめた。
「貴様は面白いから、一つ忠告しておいてやろう」
桑原が去り行く姿勢を見せると、ジュウザは再び桑原に声を掛けた。
「何だよ?」
「この場に
ラオウという男が呼ばれている。山のような大男だ。見れば、すぐに気がつくだろう。何があっても、そいつに手を出すな」
さっきまでの和気藹々といった空気は抜け、十分な警戒の色を含んだジュウザの言葉だった。
その様子に桑原は堪らずゴクリと唾を飲み込む。
「そ、そんなにやべー奴なのか?」
「ああ、力こそ全てという奴だ。死にたくなかったら、さっさと逃げることだ」
「おいおい、戸愚呂みてーな奴が他にもいるのかよ。末恐ろしい世の中になったもんだぜ」
「その戸愚呂とやらが何者かは知らんが、ラオウには絶対に手向かうなよ! いいか、絶対にだぞ!」
そう言うや否や、ジュウザは木の上に飛び退いた。
そして桑原にニヒルな笑みを浮かべると、すぐさま森の中に消えていった。
「チッ、ダチョウ倶楽部みてーなフリをしやがって。ラオウって奴に会ったら、一体どうすりゃいいんだよ」
愚痴をこぼしながらも、桑原もその場を立ち去ろうとする。
そして桑原は自分に支給されたバッグを新たに担ぎなおそうとして、再び驚きの声を上げた。
「なにぃーー!! バッグが、バッグがねえーーー!! んな、アホな!! さっきまで確かに……!!」
そこまで言って、思い至ったのがジュウザの存在だった。思えば、あの男はいきなり肩に腕を回して、盛んに接触してきた。きっとあの時に、盗んだのだろう。桑原は地面が憎いかのように何度も地団駄を踏んだ。
「チキショー! この桑原様を舐めくさりやがって! 吠え面かかせてやらなきゃ、こっちの気がすまねーぜ!」
怒り心頭の桑原は、すぐさまジュウザが消えていった方向に足を向けて、駆けて行った。
「おらー! ジュウザー! 出てきやがれー!」
得意の霊感の存在すらもすっかり忘れて、桑原はより一層茂る森の中に消えていった。
【一日目 深夜】
【現在地 B-8】
【桑原和真@】
【状態】健康、ジュウザに対する怒り
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
基本 バーンをぶちのめす
1. ジュウザに吠え面をかかせる
2. 蔵馬と合流
3. 浦飯、飛影、幻海を探す
「わはははははっ!! 大漁、大漁!!」
桑原が後にした場所の木の上で、ジュウザは彼に支給されたバッグの中身を見ながら大笑した。これで支給品は全部で4つ。中々に幸先の良いスタートだ。だけど、桑原のバッグの中にあった
参加者名簿を見て、ジュウザはピタリと笑うことを止めた。
「やはりおれのが印刷ミスだったということではないか……」
ジュウザの目に止まったのは、
ユリアという名前。それは自らの義理の妹であり、かつて愛した女性であり、そして自分の命よりもなお大切だと思える存在だ。
「いや、ユリアは死んだはずだ。南斗聖拳のシンに殺されたはず。このおれの想いは単なる未練だ」
ジュウザは自分の内から湧き上がる想いを無意味なものだと必死に否定した。冷静に考えれば、ユリアというのは同名の別人。それが当然のことだ。だが、どうしても縋ってしまう。もしかしたら、彼女は生きていて、この島のどこかにいるのではないか、と。
「ユリア……もしおまえが生きていたとしたら、おれは…………」
【現在地 B-8】
【ジュウザ@北斗の拳】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】武器支給品×2、ランダム支給品×2、支給品一式×2
【思考】
基本 雲のように自由気ままに生きる
1. ユリアという女を探してみるか
最終更新:2012年09月08日 02:49