大地を蹴り上げ、風のように
サウザーは走っていった。その足取りは軽い。まるで空を飛ぶかのように地を素早く駆け抜ける姿は、雄々しき鳥だ。だけどその雄大な羽ばたきとは裏腹に、サウザーの顔に浮かぶのは、これ以上のない怒りだった。
サウザーが敬愛して止まない師であるオウガイの墓標――聖帝十字稜が、この島にあるというのだ。それだけならまだサウザーの心はここまで荒みはしないが、その聖帝十字稜にはオウガイの亡骸が収められているとなれば話は別。サウザーの生涯において唯一心を許した人こそ、師オウガイなのだ。聖帝十字稜が壊れたなら、また作り直せばいい。だが、オウガイの身体の作り直すことなど出来はしない。オウガイはこの世でたった一人の掛け替えのない人間なのだ。それは例え死したとしても、変わることないサウザーの思いだ。だからこそ、押さえ切ることができない怒りが湧いて出る。
「バーンよ、もし我が師オウガイの身体に手をつけたというのなら、その身を八つ裂きにするだけでは済まさんぞ!!」
言葉と共に大地を踏みつけ、サウザーは目の前に広がった川を飛び越えた。そして更なる力を足に注ぎ込み、聖帝十字稜へと急がんとする。だけど、その全てを置いて飛び去るかのような疾走を止める者が、サウザーの目の前に現れた。夜の中でも映える金色の髪を揺らし、殺し合いの場で何ら臆することなく歩を進めるナイブズであった。そして彼はサウザーと相対した途端、それだけで死が迫らんとする殺気を容赦なくサウザーにぶつけてきたのだ。
質量を伴ったように押し迫る苛烈な視線。無論、その程度でサウザーの足が竦む筈もない。また今はオウガイの亡骸の確認という火急の用事がある。目の前の愚劣な人間になど、かかずらっている暇などはサウザーにはない。だからサウザーはナイブズには構わず、その場を飛び立とうとした。しかしそんなサウザーの脳裏に、ふと先程会った少年のことが思い浮かんだのだ。
闘わない。バーンの言いなりにはならない。傷つきながらも、そう声だかに叫んだダイである。失笑を禁じえない。それほどまでに愚かしい姿であったが、今のサウザーにとって、それは同時に愛おしいものであった。ダイはこの禁呪に縛られた身体を救いたい、この命を大切にしたい、と言ってのけたのだ。かつての師オウガイのように、ダイは愛と情けをくれたのだ。
勿論、それによってサウザーがダイに完全に心を開いたとは言えない。年端もいかない少年が、いきなりオウガイの代わりになるはずもない。だけど、その他人の為に愛を振りまくダイの存在の尊さは分かる。またダイによって、ぬくもりを貰った者もいるということも。そんなダイが失われてしまっては、この世界に不要な哀しみを蔓延させてしまうだけだ。
かつてはサウザーは哀しみは耐え切れぬと愛を捨て去った。故にサウザーは哀しみを生み出す愛を忌み、それと関わらんとする人たちを亡き者にしてきた。それはまがうことなき非道の殺戮者だ。だが、愛のぬくもりを再び胸に収めた今のサウザーは違う。その温かさによって、人が救われることを知っているのだ。なればこそ、目の前の暴虐を体現したかのような人間は放っておけはしない。そのような輩を野放しにしては、温かな光を翳らしてしまうことは確実なのだから。
愛の為に闘う。かつての自分が聞いたなら、そんな輩など二の句も告げる暇も与えず極星十字拳で細切れにしていたであろう。しかし、今となっては不思議と力が湧いて出てくる。サウザーはその心地よさに身を委ねながらも、毅然と前を見据えた。
「お師さん、迎えに行くのを、もうしばらくお待ち下さい」
そう言ってサウザーはナイブズの前に足を進めた。その足取りは先程違って獰猛そのもの。王として君臨した威風を十分に放ちながらの前進だ。有象無象など、それだけで自然と道をあける。だが、その王と相対するのも、また玉となるもの。単なる石ころとは訳が違う。
「失せろ。そうすれば、今ではなく後で殺してやる」
ナイブズは傲岸に言い放った。サウザーを完全に見下した発言。その不遜な言い方は、数多の強者を押し退け、最強へと到達した南斗鳳凰拳伝承者の逆鱗に触れるものであった。
「帝王に後退などない!」
サウザーは瞬時にナイブズの懐に詰め寄り、必殺の極星十字拳を放った。それは南斗鳳凰拳と同じように最強を掲げる拳法、北斗神拳の伝承者をも敗北に追いやった恐るべき技だ。そこに含まれた威力、技量共に一点の曇りもない。だが、その拳はナイブズが無造作に掲げた手によって、いとも容易く掴まれた。そしてナイブズは、そのまま力まかせにサウザーの指を引き千切ったのだ。
「ぬうッ!?」
痛みと驚愕がサウザーの身体を駆け巡る。だけど、サウザーはそれを僅か刹那の間で己の内に押さえ込み、すぐさま反撃の脚をナイブズに見舞おうとした。その一瞬での動作の流れは、まさしくサウザーの実力を確かなものと裏打ちするもの。比類なき技と言っていい。しかしその攻撃がナイブズの顔に到達する寸前に、ナイブズの拳がサウザーの顔を貫いたのだった。
人を殴ったとは思えない爆発音が鳴り響く。その衝撃だけで空気は吹き飛び、サウザーの身体すらも地面を平行にして飛ばしていった。指の欠損を遥かに上回る激痛が、サウザーの身体を支配する。奥の歯は幾つも欠け、端正とも言えるサウザーの顔の骨にも損壊を与える。しかしサウザーが、それを確認できたのは、しばらく経ってのことだった。何故なら鬱蒼と生い茂る木々ですら、サウザーを受け止めるのに時間がかかり、その間彼は木々をなぎ倒しながら、ずっと空を舞っていたのだ。
「……まさか
ラオウ以上の剛拳の使い手がいたとはな。だが、極星は堕ちぬ!!」
自らの怪我を確認すると、サウザーは何事もなかったように立ち上がった。無論、ナイブズの一突きは、サウザーの身体を痛めつけたことは事実だし、それによる苦痛はいまだ脳を刺激して止まない。不敗たるサウザーにとっても、いまだかつてない痛撃だったのだ。だけど、それでもサウザーの身体を動かす帝王の誇りを傷つけるには至らない。サウザーには南斗聖拳108派の中で頂点に君臨する者として、南斗聖拳108派全ての看板を背負う者として、絶対の意地があるのだ。敗北など容易に許されない。だからこそ、帝王たる身体を傷つけた傲岸不遜なる者に対して、誰が最強であるかを示す必要がある。
「受けてみよ!! 南斗鳳凰拳奥義 天翔十字鳳!!」
それこそ天をも震わせる南斗鳳凰拳の奥義。そしてサウザーの帝王としての誇りをかけた不敗の拳。だけどその勝利の雄叫びを、ナイブズは一笑に付した。何やら大仰な言葉を並べ立てたと思ったなら、ただ跳んで向かってくるだけ。それはあまりに無防備で、馬鹿げた玉砕であった。それならば、望みどおり死をくれてやる。そう思ったナイブズはサウザーの頭を掴み、そのまま地面に叩き潰してやろうと手をかざした。
「な……にッ!?」
血しぶきと共に疑問の声を上げたのは、ナイブズであった。サウザーを死に招くナイブズの手は、あろうことかサウザーをすり抜けてしまったのだ。そしてその代わりにと、ナイブズの胸に深い十字の傷が浮かび上がる。それはナイブズにとって理解不能の出来事であった。間違いなく自分の手は、サウザーを掴んだはず。ただ跳ぶという緩やかな動作では、それを見失う訳がない。また空中での、移動などできるはずもない。攻撃はサウザーに当たって然るべきだ。それなのにナイブズの手は、サウザーの身体にかすりもしなかったのだ。
「今……何をした?」
人間如きに許した傷に屈辱を感じながら、ナイブズは声を発した。
「フフフ……何人にも我が鳳凰の羽ばたきは止められぬ」
疑問に答える必要はないとばかりに、サウザーは再び地を蹴り、宙を舞う。両の手を広げ、空に浮かび上がる姿は、まるで鳥のように軽やかに映る。そんなサウザーを前にして、ナイブズは再び手を掲げた。いまだナイブズにはサウザーの奥義の全容は分からない。だけど、ナイブズの顔に浮かぶのは悲嘆に暮れたものでも、諦観に染まったものでもない。そこにあるのは、ただ相手の死を知らせる酷薄で残酷な目だ。
「……消えうせろ」
言葉一緒にプラントの力を開放。「門」を開き、そこから「持って行く力」を引き出す。ナイブズが形成するのは、数百にもわたる万物を切り裂く刃。そしてそれをサウザーがかわせぬように、面にして隙間なく展開。それは絶対不可避の死の到来。これで決着はついた。
その筈だった。
「が、はッ……!!」
苦悶に塗れた声が、血の塊と一緒になってナイブズの口から吐き出された。サウザーは押し迫る死の運命を容易くかわしてのけ、ナイブズの背中に極十字を刻んだのだ。これこそ南斗鳳凰拳の奥義たる由縁である。天翔十字鳳は自らの体を空中に舞う羽根と化すことで、敵のあらゆる攻撃を受け流すことが可能なのだ。従って敵の攻めは意味を無くし、自らの技だけが敵に通ずる。そしてその拳に積み重ねられた歴史は不敗。故に南斗鳳凰拳は最強なのだ。
出血と共に力が抜けていく身体を、ナイブズは必死に支える。どう頭を巡らしても、サウザーが攻撃をかわせる理由が思い当たらない。それほどの驚異を秘めた奥義だったのだ。しかし、その発動条件はナイブズにも理解できた。サウザーが放った「羽ばたき」という言葉、そして跳躍という行為。そこから推察されるのは、空中でしか奥義を放てないということだ。実際、地面の上でそれを出来たのなら、既に勝負は終わっている。空中では、すれ違い様に僅か一回しか攻撃できないが、大地に立って奥義を発動していれば、その間何回も攻撃できるのだから。それを理解したナイブズはサウザーが地に降り立った瞬間、再びプラントの力を開放した。自らを傷つけられた激情のままに、千を優に超える次元の刃を展開。更に万が一にも回避できぬように、それを自らを中心に半径100メートルに解き放つ。
「消えろッ! 雑魚がああぁッッ!!!」
咆哮に伴って放たれた刃は、一瞬にしてサウザーの背中を飲み込んでいった。それを確認すると、息も絶え絶えになって、ナイブズは膝をついた。胸と背中に負った十字の傷は深く、出血が止まらないのだ。このままで自らも死に至る。その結論に達したナイブズは、細切れになったサウザーの死体を睨みつけながら、再度プラントの力を用いた。「門」を開き、今度は「持ってくる力」を引き出す。それは砂漠の星に緑と水を生み出す恵の力。ナイブズはそれを自らの傷に注ぎ、回復を図る。
勿論、そんな便利なことが、いつまでも続けられるというものではない。それは有限の力なのだ。その証拠にナイブズの金髪に徐々に黒色が広がっていく。ナイブズの髪が全て黒に染まった時、ナイブズのプラントとしての力は終わりを告げる。それを知っているだけに、ナイブズの苛立ちは収まらない。高々人間一人に、過剰とも言える力の行使を余儀なくされたのだ。これでは人類全てを殺す前に、こちらの力が尽きてしまう。早くにプラントの力を回復させる手段を見つけなければ、この先を立ち回れない。ようやく傷を治したナイブズは、忌々しげにサウザーの死体に一瞥くれると、その場を早々に立ち去っていった。
【サウザー@北斗の拳 死亡】
【一日目 黎明】
【現在地 C-6】
【
ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
【状態】健康、黒髪化(15%)
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 プラントの力を思う存分に使える方法を探す
1. 禁呪の解呪
2. ヴァッシュに人間の愚かさを理解させる
【備考】
※
参戦時期は黒髪化に気がついた後です
※サウザーの支給品は全て細切れになりました
最終更新:2012年05月25日 20:53