記録09_
―― Time Code : i
歩き、歩いて、歩いた、果て。
時は終わって、歩みは止まる。
それはきっと、冒険の終わり。
見知らぬ道を、歩き続けて。
見知らぬ空に、見下ろされて。
伏した地からは、見上げることも出来ないまま。
ゆっくりと、終わる。
後悔は、無かった。
渇望も、無かった。
人形にとっては、この冒険が。
この冒険だけが、自分達の存在の証だったから。
だから、その終わりを、静かに受け入れる。
ゆっくりと、静寂とひとつになる。
― ― ―
― ―
―
歩いていた。
何時か歩いた、その道を。
それは、思い出と呼べる程のものでも無い。
過去となった人達の、記憶。
道すがらに、それを見る。
地に転がる、それを。
何をやと、近付き、拾い上げる。
「――…ベラ?」
己が口から洩れた言葉に、驚く。
その名を声にしたのは、一体何時以来であったか。
そして、その名を発した事自体に、困惑していた。
「…人形、か。」
山吹の服に包まれたそれは、瞳を閉じたまま。
けれどそれが、自律人形(オートマタ)であることを、理解する。
お誂え向きに、その鍵たるネジ巻きも添えられている。
だが、勿論の事。
道に落ちていた、正体のわからないものを起動するなど、在り得ない。
その程度の用心は、持っていた。
いや、その用心こそが、自身を生き永らえさせていた。
だが、不可解にも。
それを動かすべきだと、そう感じていた。
何か、理由を見繕うならば。
「君は、好奇心の塊の様なひとだったね、イザベラ。」
きっと、漏れ出たその名前(かこ)なのだろう。
きりきりと。
きりきりと、ねじが巻かれる。
やがて山吹の人形は、その瞳を開く。
開かれるのは、何時以来か。
細い、細い、幼い声で。
ネジ撒く腕から、その顔を見上げながら。
「――…似合わないのだわ。」
困った様に。
或いは、何処か嬉しそうに。
男は、被った帽子に、手を掛けた。
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