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トップランカー殺人事件 第三話『☆12のトリック』 -phase5-
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| 93 :トップランカー殺人事件(113) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/02(金) 23:17:44 ID:ODK0/lBU0 |
「DJオート?」
「はい。彼が世界最強のデラプレイヤーっす」
「はい。彼が世界最強のデラプレイヤーっす」
そいつは何者だ。
どこに住んでいるんだ。
どれくらい上手いんだ。
いや、でもおかしいじゃないか、
世界一デラが上手いのはBOLCEじゃなかったのか。
どこに住んでいるんだ。
どれくらい上手いんだ。
いや、でもおかしいじゃないか、
世界一デラが上手いのはBOLCEじゃなかったのか。
とりとめのない疑問が乙下の口から続け様に溢れ出す。
対する空気は、乙下をいさめるかのように左右の手の平を胸の前に突き出して言った。
対する空気は、乙下をいさめるかのように左右の手の平を胸の前に突き出して言った。
「この動画を見てもらえれば分かります」
空気は有名な動画サイトをブラウザで開き、
検索フォームへ「DJ AUTO VS DJ BOLCE」と打ち込んだ。
そして検索結果の中から
検索フォームへ「DJ AUTO VS DJ BOLCE」と打ち込んだ。
そして検索結果の中から
「beatmaniaIIDX13 DistorteD - 嘆きの樹 "DJ AUTO vs DJ BOLCE" 」
と名前がついた動画へのリンクをクリックすると、
画面が切り替わり、データのバッファリングが始まった。
画面が切り替わり、データのバッファリングが始まった。
「仕事中に動画サイトかよ、いい度胸だな」
「すぐ終わりますって」
「すぐ終わりますって」
背中に荒山課長をはじめとする捜査一課員の冷ややかな視線が
突き刺さっているように感じ、心が痛まないでもない。
しかし空気と行動を共にすると一事が万事この調子なので、
乙下はいちいち気にしていられない。
そんな自分の免疫力に半ば呆れつつ、乙下は質問した。
突き刺さっているように感じ、心が痛まないでもない。
しかし空気と行動を共にすると一事が万事この調子なので、
乙下はいちいち気にしていられない。
そんな自分の免疫力に半ば呆れつつ、乙下は質問した。
「『AUTOバーサスBOLCE』か。
そのAUTOってヤツがBOLCEと二人プレイで
スコアを競ってる動画ってとこか?」
「少し違います。
これは、DJ AUTOがライバル表示をDJ BOLCEにして
プレイしているところの動画なんすよ」
「え。それじゃ、AUTOはBOLCEの自己ベストと戦うってことだろ?
本当に勝てるのかよ」
「勝てる勝てないなんてレベルの話じゃないっす。
見てて下さい、DJ AUTOはBOLCEを完膚無きまでに叩きのめします」
そのAUTOってヤツがBOLCEと二人プレイで
スコアを競ってる動画ってとこか?」
「少し違います。
これは、DJ AUTOがライバル表示をDJ BOLCEにして
プレイしているところの動画なんすよ」
「え。それじゃ、AUTOはBOLCEの自己ベストと戦うってことだろ?
本当に勝てるのかよ」
「勝てる勝てないなんてレベルの話じゃないっす。
見てて下さい、DJ AUTOはBOLCEを完膚無きまでに叩きのめします」
そこでバッファリングが終了し、動画がスタートした。
| 94 :トップランカー殺人事件(114) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/02(金) 23:28:26 ID:ODK0/lBU0 |
オブジェレーン、「EXTRA STAGE 嘆きの樹」のタイトル、スコアグラフ。
見慣れたIIDXのゲーム画面だ。
筐体やプレイヤーの姿が見えず、純粋なゲーム画面のみが映し出されているところを見ると、
どうやらライン出力の映像を録画したものらしいことが分かる。
グラフィックの雰囲気が乙下の知っているものといささか異なっているが、
動画の名称にある「beatmaniaIIDX13 DistorteD」を見て、
これは前々回のバージョンの画面なのだなと一人で納得をする。
見慣れたIIDXのゲーム画面だ。
筐体やプレイヤーの姿が見えず、純粋なゲーム画面のみが映し出されているところを見ると、
どうやらライン出力の映像を録画したものらしいことが分かる。
グラフィックの雰囲気が乙下の知っているものといささか異なっているが、
動画の名称にある「beatmaniaIIDX13 DistorteD」を見て、
これは前々回のバージョンの画面なのだなと一人で納得をする。
画面右にはDJ BOLCEの自己ベストを示す棒グラフが高々と隆起している。
グラフはMAXとAAAのおおよそ中間地点まで伸びており、
そのスコアがいかに規格外であるかは、乙下にも想像することができた。
しかしそれよりも乙下が気になったのは、中央のグラフが表示されておらず、
代わりに「FIRST TRY」のレイヤーが点滅していることだった。
グラフはMAXとAAAのおおよそ中間地点まで伸びており、
そのスコアがいかに規格外であるかは、乙下にも想像することができた。
しかしそれよりも乙下が気になったのは、中央のグラフが表示されておらず、
代わりに「FIRST TRY」のレイヤーが点滅していることだった。
「ちょっと待てよ。まさかこいつ、初見でBOLCEの自己ベに挑むつもりなのか?」
「まぁそんなとこっすね」
「まぁそんなとこっすね」
すでにイントロの不気味な鐘の音が流れ始めている。
嵐の前の静けさ、と言うべき六小節を挟み、
満を持して登場した青と白のオブジェが判定ラインと重なって爆ぜる。
次から次へと爆ぜる。
嵐の前の静けさ、と言うべき六小節を挟み、
満を持して登場した青と白のオブジェが判定ラインと重なって爆ぜる。
次から次へと爆ぜる。
パーフェクトな演奏だった。
もしこれが本物の楽器の演奏であれば、
軽々しく「パーフェクト」などという評価はできないだろう。
芸術に正解や百点満点などないのだから。
もしこれが本物の楽器の演奏であれば、
軽々しく「パーフェクト」などという評価はできないだろう。
芸術に正解や百点満点などないのだから。
だがこれは音楽ゲームだ。
定められたボタンを定められたタイミングで叩くことが
唯一の正義であるこの世界で、
彼は定められたボタンを定められたタイミングで叩き続けている以上、
パーフェクトいう評価は過大でも過小でもない、DJ AUTOに対する最も適正な評価だった。
すなわち、DJ AUTOはJUST GREAT以外の判定を一切出していないのだ。
唯一の正義であるこの世界で、
彼は定められたボタンを定められたタイミングで叩き続けている以上、
パーフェクトいう評価は過大でも過小でもない、DJ AUTOに対する最も適正な評価だった。
すなわち、DJ AUTOはJUST GREAT以外の判定を一切出していないのだ。
最初はBOLCEも負けていなかった。
事実、イントロを抜けるまではたった2点のリードを許しただけであった。
ところがそのしぶとい食らいつきも空しく、
楽曲のメインフレーズに入った辺りから差が開き始めた。
BOLCEとのスコア差を示す数字はただの一度も減少に転じることなく、
ひたすら素直に上方向へ累積していく。
事実、イントロを抜けるまではたった2点のリードを許しただけであった。
ところがそのしぶとい食らいつきも空しく、
楽曲のメインフレーズに入った辺りから差が開き始めた。
BOLCEとのスコア差を示す数字はただの一度も減少に転じることなく、
ひたすら素直に上方向へ累積していく。
1000コンボを超え、その勝敗がもはや決定的になった頃、乙下はようやく気付いた。
「おい、空気」
「なんすか?」
「これさすがにおかしいだろ」
「何が?」
「何がじゃなくてさ。
これ、ピカグレ以外の判定が一回も出てねーぞ。
本当にプレイしてるの人間か?」
「なんすか?」
「これさすがにおかしいだろ」
「何が?」
「何がじゃなくてさ。
これ、ピカグレ以外の判定が一回も出てねーぞ。
本当にプレイしてるの人間か?」
空気は耐えかねたように、盛大に吹き出した。
「あははは、こんなの人間にできるわけないじゃないっすか、あははははは」
「……」
「DJ AUTOってのは、家庭用でのオートプレイ機能の擬人化なんすよ。
それを先輩ったら真に受けちゃって、あっははは」
「……」
「DJ AUTOってのは、家庭用でのオートプレイ機能の擬人化なんすよ。
それを先輩ったら真に受けちゃって、あっははは」
| 95 :トップランカー殺人事件(115) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/02(金) 23:50:36 ID:ODK0/lBU0 |
画面では4000点対3787点でDJ AUTOに軍配が上がったところだった。
何のことはない。
つまりこれは理論値を出して勝利したDJ AUTOの活躍ではなく、
理論値マイナス213点にまで迫ったBOLCEの健闘を称えるための動画だったわけだ。
何のことはない。
つまりこれは理論値を出して勝利したDJ AUTOの活躍ではなく、
理論値マイナス213点にまで迫ったBOLCEの健闘を称えるための動画だったわけだ。
乙下はその大きい右手で、空気の額をハンドボールのように掴んだ。
力の限り握力をかける。
こめかみの奥にある骨が軋む。
力の限り握力をかける。
こめかみの奥にある骨が軋む。
「いてててててて、オトゲ先輩タイムタイム、いてててててて」
「空気君はそんなに死にたいんだね。今、楽にしてあげるからね」
「あいてててて、すんません、冗談が過ぎました!」
「こんの野郎、人が真面目に聞いてれば。
バカだった、お前の話を真面目に聞いた俺がバカだった。
死ね。血反吐を吐いて死んでしまえ」
「聞いて下さい、ボクも半分は真面目に話してるんすよ!
もしかしたら1046はDJ AUTOを人為的に作り出したんじゃないかって言いたかったんす!」
「空気君はそんなに死にたいんだね。今、楽にしてあげるからね」
「あいてててて、すんません、冗談が過ぎました!」
「こんの野郎、人が真面目に聞いてれば。
バカだった、お前の話を真面目に聞いた俺がバカだった。
死ね。血反吐を吐いて死んでしまえ」
「聞いて下さい、ボクも半分は真面目に話してるんすよ!
もしかしたら1046はDJ AUTOを人為的に作り出したんじゃないかって言いたかったんす!」
乙下は手の力を緩めた。
「何だって?」
「だから、1046は作ったんすよ。『DJ AUTOを機械的に作った』んです」
「だから、1046は作ったんすよ。『DJ AUTOを機械的に作った』んです」
乙下は一度緩めた握力を、わずかにだが再び強めた。
「空気お前、今度は真面目な話だろうな?」
「誓います」
「誓います」
乙下が手を放すと、空気は摩擦熱で火傷するのではないかと
心配になるほどの勢いでこめかみをさすりながら言った。
心配になるほどの勢いでこめかみをさすりながら言った。
「オトゲ先輩、RPGのゲームってやったことあります?」
「RPGって、ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーとかだよな。
古いのなら学生の頃にやったけど」
「ズルしてレベルを上げる方法とか流行ったでしょ。
セロハンテープでコントローラーのボタンを固定して、自動的に経験値を稼いだり」
「あぁ、そんなことやってる友達もいたな」
「基本的な考え方はそれですよ。
要するに、似たような原理で筐体の前にいなくても
ゲームを高スコアで進行させることができればアリバイになるわけでしょ」
「似たような原理っつってもさ、
Aボタン押しっぱなしにしてスライム倒すのとはわけが違うだろ」
「ええ。ですので、少しは込み入った仕掛けにする必要があります。
でもロボット工学的に考えれば、そこまで難しい仕掛けは要らないんすよ」
「RPGって、ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーとかだよな。
古いのなら学生の頃にやったけど」
「ズルしてレベルを上げる方法とか流行ったでしょ。
セロハンテープでコントローラーのボタンを固定して、自動的に経験値を稼いだり」
「あぁ、そんなことやってる友達もいたな」
「基本的な考え方はそれですよ。
要するに、似たような原理で筐体の前にいなくても
ゲームを高スコアで進行させることができればアリバイになるわけでしょ」
「似たような原理っつってもさ、
Aボタン押しっぱなしにしてスライム倒すのとはわけが違うだろ」
「ええ。ですので、少しは込み入った仕掛けにする必要があります。
でもロボット工学的に考えれば、そこまで難しい仕掛けは要らないんすよ」
ロボット工学という畑違いの言葉が飛び出した。
乙下はどうもイメージが湧かない。
乙下はどうもイメージが湧かない。
「ロボットって、本田のASIMOみたいな?」
「普通の人はロボットっていうと発想がそっちに行っちゃいそうですけど、
本来は決められた通りに自動で動いて人の代わりに仕事をする装置のことを指す場合が多いです。
まぁ自動車を組み立てる機械とかっすね」
「へぇ、詳しいな」
「だってボク学生の頃は電子工作が趣味でしたもん」
「普通の人はロボットっていうと発想がそっちに行っちゃいそうですけど、
本来は決められた通りに自動で動いて人の代わりに仕事をする装置のことを指す場合が多いです。
まぁ自動車を組み立てる機械とかっすね」
「へぇ、詳しいな」
「だってボク学生の頃は電子工作が趣味でしたもん」
空気の意外な一面だった。
「それで考えたんです。
1046の共犯者は、もしかしてIIDXロボットだったんじゃないか、って」
1046の共犯者は、もしかしてIIDXロボットだったんじゃないか、って」
| 96 :トップランカー殺人事件(116) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/03(土) 00:11:31 ID:tx1Y4pfS0 |
「またバカなことを言い出す」
「いや、あり得ますって。
普通に考えれば理論値マイナス6点だなんて
常識外れのスコアを出せる人間は1046以外にいません。
でも機械なら出せる」
「いや、あり得ますって。
普通に考えれば理論値マイナス6点だなんて
常識外れのスコアを出せる人間は1046以外にいません。
でも機械なら出せる」
乙下は半信半疑だ。
「まぁ現代の科学技術をもってすれば
そんなバカみたいな目的のロボットだって作れないこともないんだろうけどさ。
でも1046みたいな一般人に簡単に作れるもんかね」
「作れるっすよ」
そんなバカみたいな目的のロボットだって作れないこともないんだろうけどさ。
でも1046みたいな一般人に簡単に作れるもんかね」
「作れるっすよ」
乙下の反論に怯むどころか、空気はしれっと言ってのけた。
「逆に、IIDXロボットなんて簡単に作れる部類っすよ。
ロボットは仕事内容が複雑になればなるほど設計も複雑で難解になるんすけど、
じゃぁ『IIDXをプレイする』って仕事は複雑ですか?」
「……いや、すごく単純だ」
ロボットは仕事内容が複雑になればなるほど設計も複雑で難解になるんすけど、
じゃぁ『IIDXをプレイする』って仕事は複雑ですか?」
「……いや、すごく単純だ」
乙下は今の質問で少し理解できた気がした。
画面に現れたオブジェに従って、ボタンを叩く。
もしくはスクラッチを回す。
やるべきことはそれだけなのだ。
むしろこうした単純作業は、人間よりも機械が得意とする分野だろう。
他のあらゆるゲームと比較しても、IIDXはロボット向きのゲームと言えるのかも知れない。
画面に現れたオブジェに従って、ボタンを叩く。
もしくはスクラッチを回す。
やるべきことはそれだけなのだ。
むしろこうした単純作業は、人間よりも機械が得意とする分野だろう。
他のあらゆるゲームと比較しても、IIDXはロボット向きのゲームと言えるのかも知れない。
「簡単に説明します」
空気は急に生き生きとした目つきになり、
デスク上に散らばった書類の一枚を裏返して、
顔に似合わず小綺麗にまとまった図を描きながら解説を始めた。
デスク上に散らばった書類の一枚を裏返して、
顔に似合わず小綺麗にまとまった図を描きながら解説を始めた。
「いいですか。
あらゆる動きは『水平運動』と『回転運動』の組み合わせで再現できるんです。
水平運動は例えばシリンダを、回転運動は例えばモーターを使えば実現できます。
IIDXに当てはめれば、鍵盤を叩く動きが水平運動でスクラッチを回す動きが回転運動ってことっすよね。
どちらも大きな出力は要らないんで、小型・低電圧で動くアクチュエータの部品を探してくればOKっす。
次に、オブジェの認識は光学センサを使います。
オブジェの色に反応してトランジスタのスイッチがONになるようなセンサを画面に8個取り付けるわけっすね。
んで、それぞれのセンサ出力に合わせて
鍵盤やスクラッチを動かすための機構部へ電圧をかけるための電子回路を組みます。
まぁ、秋葉原で売ってる汎用のICとかコンデンサを組み合わせれば十分。
ちなみに、スクラッチを回すモーターだけはちょっとだけ制御に工夫が要ると思います。
押し押しで反応しない速さの連皿が来るとコンボが切れちゃうので、
モーターをリバーシブル仕様にしておいて正転と逆転を交互に繰り返す制御にすべきっすよね。
これでIIDXロボット、名付けて『DJ AUTO』の完成!」
あらゆる動きは『水平運動』と『回転運動』の組み合わせで再現できるんです。
水平運動は例えばシリンダを、回転運動は例えばモーターを使えば実現できます。
IIDXに当てはめれば、鍵盤を叩く動きが水平運動でスクラッチを回す動きが回転運動ってことっすよね。
どちらも大きな出力は要らないんで、小型・低電圧で動くアクチュエータの部品を探してくればOKっす。
次に、オブジェの認識は光学センサを使います。
オブジェの色に反応してトランジスタのスイッチがONになるようなセンサを画面に8個取り付けるわけっすね。
んで、それぞれのセンサ出力に合わせて
鍵盤やスクラッチを動かすための機構部へ電圧をかけるための電子回路を組みます。
まぁ、秋葉原で売ってる汎用のICとかコンデンサを組み合わせれば十分。
ちなみに、スクラッチを回すモーターだけはちょっとだけ制御に工夫が要ると思います。
押し押しで反応しない速さの連皿が来るとコンボが切れちゃうので、
モーターをリバーシブル仕様にしておいて正転と逆転を交互に繰り返す制御にすべきっすよね。
これでIIDXロボット、名付けて『DJ AUTO』の完成!」
| 97 :トップランカー殺人事件(117) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/03(土) 00:24:25 ID:tx1Y4pfS0 |
空気が流暢な説明を終えてペンを机に置くと、
そこには「DJ AUTO」の設計図が見事に出来上がっていた。
乙下は説明のほとんどを左の耳から右の耳へ垂れ流してはいたが、
空気の無駄に詳しい工学的な知識に敬意を表して言った。
そこには「DJ AUTO」の設計図が見事に出来上がっていた。
乙下は説明のほとんどを左の耳から右の耳へ垂れ流してはいたが、
空気の無駄に詳しい工学的な知識に敬意を表して言った。
「……さっぱり分かんないけど、分かった。
お前みたいなバカでも作れろうと思えば作れるってことなんだな」
「バカは余計っすよ!
でも、本当にこの程度のロボットなら、ヤル気さえあれば誰でも作れます」
お前みたいなバカでも作れろうと思えば作れるってことなんだな」
「バカは余計っすよ!
でも、本当にこの程度のロボットなら、ヤル気さえあれば誰でも作れます」
乙下は設計図を手にして、まじまじと見入った。
様々な記号と線が織りなす幾何学模様。
見ようによって乱雑にも系統立っているようにも感じる。
これらが筋肉と神経、あるいは脳細胞とシナプスの繋がりのような役目を果たし、
人間の代わりにIIDXをプレイするのだろうか。
乙下はそんなDJ AUTOの姿が未だ上手く想像できないことにやきもきしながらも、
空気のアイデアを踏まえて事件を考察した。
様々な記号と線が織りなす幾何学模様。
見ようによって乱雑にも系統立っているようにも感じる。
これらが筋肉と神経、あるいは脳細胞とシナプスの繋がりのような役目を果たし、
人間の代わりにIIDXをプレイするのだろうか。
乙下はそんなDJ AUTOの姿が未だ上手く想像できないことにやきもきしながらも、
空気のアイデアを踏まえて事件を考察した。
「つまり1046のアリバイトリックの正体はこのロボットで、
自分の身代わりにABCでデラをプレイさせてたって言いたいわけだな」
「そうそう、そういうことっす。
このロボットなら1046クラスのスコアを出すのも楽勝だから、
別にランカーの共犯者を連れて来なくたって済むんです」
「……いや、でもさ。さすがにバレるだろ?」
自分の身代わりにABCでデラをプレイさせてたって言いたいわけだな」
「そうそう、そういうことっす。
このロボットなら1046クラスのスコアを出すのも楽勝だから、
別にランカーの共犯者を連れて来なくたって済むんです」
「……いや、でもさ。さすがにバレるだろ?」
綻びの数が多過ぎて、どこから指摘してやれば良いのか乙下は迷ってしまう。
「店員に見られたら?」
「筐体はカーテンに囲まれてるから大丈夫っす」
「足がないのにプレイ音だけ聞こえたら不自然だろ。幽霊じゃあるまいし」
「マネキンでも置いとけば大丈夫っす」
「もし他の客が来たらどうすんの?」
「他の客が来ないように、ABCの入り口に『準備中』の札をかければ大丈夫っす」
「お前の頭、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫っす」
「筐体はカーテンに囲まれてるから大丈夫っす」
「足がないのにプレイ音だけ聞こえたら不自然だろ。幽霊じゃあるまいし」
「マネキンでも置いとけば大丈夫っす」
「もし他の客が来たらどうすんの?」
「他の客が来ないように、ABCの入り口に『準備中』の札をかければ大丈夫っす」
「お前の頭、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫っす」
乙下はもう言葉が出なかった。
果たしてこの男は頭が良いのか、それとも悪いのか。
そんな審議が乙下の頭の中で執り行われたが、
後者が真であるという判決に傾かざるを得ないほどに
空気はまたもずれたことを口走り始めた。
果たしてこの男は頭が良いのか、それとも悪いのか。
そんな審議が乙下の頭の中で執り行われたが、
後者が真であるという判決に傾かざるを得ないほどに
空気はまたもずれたことを口走り始めた。
「しかしですね。二、三点ほど問題もあるんすよ」
| 98 :トップランカー殺人事件(118) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/03(土) 00:31:59 ID:tx1Y4pfS0 |
「二、三点ね。あくまで二、三点なのね」
「さっきの仕組みだけだと、
選曲画面とかカード出し入れの動きには対応してないんすよ。
これも実装しようとするとロボット自体がかなり大掛かりになっちゃうんすよねぇ」
「はいはい、そうだね」
「さっきの仕組みだけだと、
選曲画面とかカード出し入れの動きには対応してないんすよ。
これも実装しようとするとロボット自体がかなり大掛かりになっちゃうんすよねぇ」
「はいはい、そうだね」
乙下はいらいらしながら空返事をする。
「あとですね、このやり方だと困ったことに
トップランカークラスを超えて、あらゆる曲で理論値が出ちゃうんすよね。
だから人間らしさを演出するために、
たまに黄グレを出すように乱数処理してやらないといけないんすよ」
「あっそう」
「最後にこれが一番の問題点なんすけど、
ほら、デラってギタドラと違ってBPMによってオブジェの速さが変わるじゃないっすか。
だから曲が変わる度にセンサの位置を人間が調整するか、
BPMの表示を読み込んで出力のタイミングを精密に制御する仕掛けが必要なんすよ。
『DJ AUTOソフラン対応版』ってとこっすね。
でも、これ実現しようとしたら半端じゃなく大変」
「へぇー」
「うーん、これらを総合的に考えると、
やっぱりロボットをアリバイトリックに使うのは無理があるっすね」
トップランカークラスを超えて、あらゆる曲で理論値が出ちゃうんすよね。
だから人間らしさを演出するために、
たまに黄グレを出すように乱数処理してやらないといけないんすよ」
「あっそう」
「最後にこれが一番の問題点なんすけど、
ほら、デラってギタドラと違ってBPMによってオブジェの速さが変わるじゃないっすか。
だから曲が変わる度にセンサの位置を人間が調整するか、
BPMの表示を読み込んで出力のタイミングを精密に制御する仕掛けが必要なんすよ。
『DJ AUTOソフラン対応版』ってとこっすね。
でも、これ実現しようとしたら半端じゃなく大変」
「へぇー」
「うーん、これらを総合的に考えると、
やっぱりロボットをアリバイトリックに使うのは無理があるっすね」
乙下は全身の関節を使って、力の限り空気の頭頂を引っぱたいた。
中身が空っぽだからなのか、パァン、と抜けるように爽快な音が捜査一課に響き渡る。
中身が空っぽだからなのか、パァン、と抜けるように爽快な音が捜査一課に響き渡る。
「最初に気付けバカ。
あー損した。真面目に聞いてホント損した。
もうお前いいよ、もう来なくていいよ。
喜べ。明日からずっと日曜日だぞ」
「いやしかしですね、DJ AUTOは」
「うるさい黙れ」
あー損した。真面目に聞いてホント損した。
もうお前いいよ、もう来なくていいよ。
喜べ。明日からずっと日曜日だぞ」
「いやしかしですね、DJ AUTOは」
「うるさい黙れ」
乙下は倒れ込むように自分の椅子へ座った。
背もたれの上辺に後頭部を乗せて、部屋の天井と向き合う。
その体勢は酷使した体に心地良く、
疲労が椅子に染み出して地面に流し込まれていくかのような感覚だった。
ただ蛍光灯の眩しさだけが目に負担を感じさせるので、乙下は右手をかざして光を遮ろうとする。
そうして、右手にはDJ AUTOの設計図を持ったままであることに気付く。
背もたれの上辺に後頭部を乗せて、部屋の天井と向き合う。
その体勢は酷使した体に心地良く、
疲労が椅子に染み出して地面に流し込まれていくかのような感覚だった。
ただ蛍光灯の眩しさだけが目に負担を感じさせるので、乙下は右手をかざして光を遮ろうとする。
そうして、右手にはDJ AUTOの設計図を持ったままであることに気付く。
「ったく、何がDJ AUTOだよ」
乙下は蛍光灯の光を透かして設計図を眺めた。
つい先ほどよりも模様が複雑になっているように思えて一瞬目を見張ったが、
すぐに設計図の裏面、つまりは書類本来の表面の文字が透けて見えているだけだと察した。
つい先ほどよりも模様が複雑になっているように思えて一瞬目を見張ったが、
すぐに設計図の裏面、つまりは書類本来の表面の文字が透けて見えているだけだと察した。
迂闊な空気のことだ。
大事な書類の裏に落書きをしたのではあるまいかと心配になりめくってみる。
すると、それは見覚えのある報告書だった。
大事な書類の裏に落書きをしたのではあるまいかと心配になりめくってみる。
すると、それは見覚えのある報告書だった。
| 99 :トップランカー殺人事件(119) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/03(土) 00:37:11 ID:tx1Y4pfS0 |
「DJ BOLCE e-AMUSEMENT PASS使用履歴」
昨日空気が作った丸秘ファイルの一ページだ。
昨日空気が作った丸秘ファイルの一ページだ。
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:10, END = 10:20;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:21, END = 10:32;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:33, END = 10:44;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:44, END = 10:56;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:57, END = 11:08;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:09, END = 11:20;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:21, END = 11:31;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:32, END = 11:43;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:43, END = 11:54;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:55, END = 12:06;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:19, END = 12:30;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:30, END = 12:40;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:21, END = 10:32;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:33, END = 10:44;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:44, END = 10:56;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:57, END = 11:08;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:09, END = 11:20;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:21, END = 11:31;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:32, END = 11:43;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:43, END = 11:54;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:55, END = 12:06;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:19, END = 12:30;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:30, END = 12:40;
乙下の胸が急激にざわつく。
「……見落としてた」
「何がっすか」
「何がっすか」
さすがの空気も乙下に容赦なくこき下ろされたのが応えたのか、
虫の居所が悪そうな様子の返事を寄越してくる。
だが、空気のご機嫌を窺っている場合ではなかった。
虫の居所が悪そうな様子の返事を寄越してくる。
だが、空気のご機嫌を窺っている場合ではなかった。
「大変なことを見落としてた。
俺は一昨日の1046の行動にばかり気を取られて、肝心なことを見落としてた」
「肝心なことって?」
「殺される前のBOLCEの行動だよ」
俺は一昨日の1046の行動にばかり気を取られて、肝心なことを見落としてた」
「肝心なことって?」
「殺される前のBOLCEの行動だよ」
乙下は書類をデスクに叩きつけ、ある一箇所をボールペンで囲った。
思わず筆圧が強くなってしまい、インクが太い曲線を形成して紙面に滲む。
思わず筆圧が強くなってしまい、インクが太い曲線を形成して紙面に滲む。
START = 11:55, END = 12:06;
START = 12:19, END = 12:30;
START = 12:19, END = 12:30;
「ここだ」
「12:06~12:19の間、BOLCEはデラをプレイしていない……?」
「あぁ。この時間、不自然な行動を取っていたのは1046だけじゃなかった。
BOLCEもだったんだ。
それまで一分以上の間隔を空けないでプレイしていたはずのBOLCEが、
ここで突然13分の休憩を挟んでいる。
これはどういうことだ?」
「12:06~12:19の間、BOLCEはデラをプレイしていない……?」
「あぁ。この時間、不自然な行動を取っていたのは1046だけじゃなかった。
BOLCEもだったんだ。
それまで一分以上の間隔を空けないでプレイしていたはずのBOLCEが、
ここで突然13分の休憩を挟んでいる。
これはどういうことだ?」
何か。
重要な何かをこの手に掴んだ、乙下はそんな気になった。
重要な何かをこの手に掴んだ、乙下はそんな気になった。
| 100 :トップランカー殺人事件(120) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/03(土) 00:41:32 ID:tx1Y4pfS0 |
乙下は掴んだ何かの正体を懸命に探る。
しかし、その何かは煙のように形が崩れ、
するりと乙下の手を離れて、もう届かない場所へと逃げていく。
しかし、その何かは煙のように形が崩れ、
するりと乙下の手を離れて、もう届かない場所へと逃げていく。
待ってくれ。
後一歩なんだ、待ってくれ。
後一歩なんだ、待ってくれ。
その時、すっかり聞き馴染んだメロディが
署内のスピーカーからゆるやかに流れてきた。
交響曲第9番ニ短調OP.125。
通称「第九」。
午後五時の知らせ。
署内のスピーカーからゆるやかに流れてきた。
交響曲第9番ニ短調OP.125。
通称「第九」。
午後五時の知らせ。
このメロディが踏み台となった。
踏み台は乙下の背を一段だけ高くし、
乙下が掴み損ねかけた何かへ再び手を届かせる手助けをした。
踏み台は乙下の背を一段だけ高くし、
乙下が掴み損ねかけた何かへ再び手を届かせる手助けをした。
乙下はそれをがっちりと捕まえた。
もう手放すものかと誓った。
もう手放すものかと誓った。
「……そういうことだったのか」
乙下の中で、1046によって築かれた鉄壁の一部が崩れる。
その隙間から、堰き止められていた真実という名の水が、怒涛の勢いで流れ出す。
そして真実の分子は真実の分子同士で有機的に繋がり合い、
ジグゾーパズルのように一枚の絵を作り出そうとしていた。
その隙間から、堰き止められていた真実という名の水が、怒涛の勢いで流れ出す。
そして真実の分子は真実の分子同士で有機的に繋がり合い、
ジグゾーパズルのように一枚の絵を作り出そうとしていた。
その絵はまだ全容を見せない。
必要なピースはまだ揃わない。
だが、確かに絵の一部は姿を見せた。
描かれたモチーフが何なのかを判別できるくらいには。
必要なピースはまだ揃わない。
だが、確かに絵の一部は姿を見せた。
描かれたモチーフが何なのかを判別できるくらいには。
乙下はその絵を見て、背筋を凍らせた。
真実を探り当てた興奮と歓びは立ち所に消え失せた。
真実を探り当てた興奮と歓びは立ち所に消え失せた。
「1046のヤツ、とんでもないことを考えやがる」
空気が恐る恐る口を挟んだ。
「先輩。もしかして、分かったんすか……?」
その言葉を受けた乙下は、確信を持ってはっきりと告げた。
「あぁ。まだ全部じゃないが、分かった。
やはりこの事件は1046単独による犯行だ。
共犯者なんていなかった。
1046は1046にしか成し得ない悪魔めいたトリックを使って、
たった一人でこの犯罪を仕立て上げたんだ」
やはりこの事件は1046単独による犯行だ。
共犯者なんていなかった。
1046は1046にしか成し得ない悪魔めいたトリックを使って、
たった一人でこの犯罪を仕立て上げたんだ」
| 136 :トップランカー殺人事件(121) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/11(日) 16:43:06 ID:Sq5EGcE20 |
シルバーの店内は夕暮れ時独特の赤黒さで塗り潰されていた。
乙下が蛍光灯のスイッチを入れると、空間は一斉に本来の色を取り戻したが、
その中でゲームのディスプレイだけが墨汁を流し込んだかのように暗いままである。
乙下が蛍光灯のスイッチを入れると、空間は一斉に本来の色を取り戻したが、
その中でゲームのディスプレイだけが墨汁を流し込んだかのように暗いままである。
「ゲームが動いてないゲーセンって、こんなにも印象が違うんすねぇ」
静まり返った店内に、空気の感慨深げな声がほんの少しこだまする。
それは空気の発言が現実に即していることを裏付けているようでもあった。
平常通りであればゲームが奏でる音楽と客のざわめきで賑わっていたはずのこの空間が、
今はまるでNEMESISの中間地点のような静謐さを湛えているのだ。
それは空気の発言が現実に即していることを裏付けているようでもあった。
平常通りであればゲームが奏でる音楽と客のざわめきで賑わっていたはずのこの空間が、
今はまるでNEMESISの中間地点のような静謐さを湛えているのだ。
乙下はその中をゆっくりと移動し、店のカウンターの内側入る。
カウンターの上には帳簿や筆記用具、
そして電話機等が雑然と散らばっていたが、
それらに紛れて置かれている一冊のノートに乙下は注目した。
カウンターの上には帳簿や筆記用具、
そして電話機等が雑然と散らばっていたが、
それらに紛れて置かれている一冊のノートに乙下は注目した。
「デラ部屋予約ノート」と表紙にマジックで書いてある。
乙下は1046から聞いたデラ部屋にまつわるルールを思い出した。
シルバーではIIDXのタイムレンタルサービスが実施されていること。
平日の開店から夕方16:00までの間だけだが、
一人一時間400円を支払えばフリープレイモードで遊べること。
そして、予約状況はカウンターにあるノートで閲覧できること。
シルバーではIIDXのタイムレンタルサービスが実施されていること。
平日の開店から夕方16:00までの間だけだが、
一人一時間400円を支払えばフリープレイモードで遊べること。
そして、予約状況はカウンターにあるノートで閲覧できること。
乙下はノートを開いてみた。
中には様々な名前が様々な筆跡で並んでいるのかと予想したが、
ほとんどがBOLCEと1046の名前で占められていた。
そりゃそうだよな、乙下は思い直す。
平日の昼間、普通の人間はゲームに興じるほど暇ではない。
中には様々な名前が様々な筆跡で並んでいるのかと予想したが、
ほとんどがBOLCEと1046の名前で占められていた。
そりゃそうだよな、乙下は思い直す。
平日の昼間、普通の人間はゲームに興じるほど暇ではない。
ページをめくっていくと、7月16日に行き当たった。
「7月16日(水)10:00~16:00 BOLCE」と小綺麗な筆跡で書いてある。
1046や店長の証言通り、BOLCEは事件のあった日中、デラ部屋を予約していた。
17日以降も数日間はBOLCEと1046の予約が入っていたが、
残念ながらこのスケジュールが守られることはもうないだろう。
その後にひたすら続く白紙のページ達は、
さながら突然奪われたBOLCEの未来を彷彿とさせた。
「7月16日(水)10:00~16:00 BOLCE」と小綺麗な筆跡で書いてある。
1046や店長の証言通り、BOLCEは事件のあった日中、デラ部屋を予約していた。
17日以降も数日間はBOLCEと1046の予約が入っていたが、
残念ながらこのスケジュールが守られることはもうないだろう。
その後にひたすら続く白紙のページ達は、
さながら突然奪われたBOLCEの未来を彷彿とさせた。
乙下はちょっぴり気がふさがってしまい、ため息をつきながらノートを閉じた。
BOLCEの無念をぼんやりと想像していると、
ふと壁に貼られた何枚ものポスターの内の、ある一枚が目に入った。
BOLCEの無念をぼんやりと想像していると、
ふと壁に貼られた何枚ものポスターの内の、ある一枚が目に入った。
「ビデオゲームのように熱く。
メダルゲームのように大きく。
プライズゲームのように明るく。
アミューズメント・シルバー 店長 神崎誠一」
メダルゲームのように大きく。
プライズゲームのように明るく。
アミューズメント・シルバー 店長 神崎誠一」
少し黄ばんだポスターには、そう書かれていた。
どうやら店長の直筆らしく、毛筆による荒々しい字体には
彼の猪突猛進的な性格が滲み出ているように見える。
書かれている言葉はシルバーの経営方針なのか、
それとも店長の人生におけるモットーなのか。
どちらにせよゲームを喩えにしてそれを語る辺りに
彼の遊び心が見え隠れしており、とても微笑ましい。
どうやら店長の直筆らしく、毛筆による荒々しい字体には
彼の猪突猛進的な性格が滲み出ているように見える。
書かれている言葉はシルバーの経営方針なのか、
それとも店長の人生におけるモットーなのか。
どちらにせよゲームを喩えにしてそれを語る辺りに
彼の遊び心が見え隠れしており、とても微笑ましい。
だが乙下は、そのポスターに対して一箇所だけ違和感を覚えた。
「空気。あのポスター、どこかおかしくない?」
| 137 :トップランカー殺人事件(122) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/11(日) 16:54:35 ID:Sq5EGcE20 |
「明らかにおかしいっすね。
今時音ゲーを仲間外れにするなんて」
「バカ、そんなことどうだっていいんだよ。
上手く言えないんだけど、何かが不自然な気がするんだよな……。
他に気付くことないか?」
「うーん。しいて言うなら、貼ってある高さが他と違いますね」
「高さか」
今時音ゲーを仲間外れにするなんて」
「バカ、そんなことどうだっていいんだよ。
上手く言えないんだけど、何かが不自然な気がするんだよな……。
他に気付くことないか?」
「うーん。しいて言うなら、貼ってある高さが他と違いますね」
「高さか」
空気の言うことは間違っていなかった。
他のポスター達は、内容についてはゲームの宣伝や飲酒運転撲滅の啓蒙、
そして未成年の入店時刻に関する条例告知などバラエティーに富んでいたが、
皆一様に人間の目線の高さに合わせて壁に貼られている。
他のポスター達は、内容についてはゲームの宣伝や飲酒運転撲滅の啓蒙、
そして未成年の入店時刻に関する条例告知などバラエティーに富んでいたが、
皆一様に人間の目線の高さに合わせて壁に貼られている。
ところが、店長の格言だけは目線より数段高い場所へ貼り付けられていた。
そのため他のポスターとの差別化がなされており、
見上げると少々首が疲れる高さに配置されているにも関わらず、なかなかに目立っている。
だからこそ、他のポスターより先駆けて乙下の目に入ったとも言える。
そのため他のポスターとの差別化がなされており、
見上げると少々首が疲れる高さに配置されているにも関わらず、なかなかに目立っている。
だからこそ、他のポスターより先駆けて乙下の目に入ったとも言える。
なぜ店長はわざわざあの高さにポスターを貼ったのか。
乙下がその答えに辿り着くのに、時間は要らなかった。
それどころかその答えは瞬間接着剤のように、
外へ飛び出した途端にある二つの事実をピタリと繋ぎ合わせた。
乙下がその答えに辿り着くのに、時間は要らなかった。
それどころかその答えは瞬間接着剤のように、
外へ飛び出した途端にある二つの事実をピタリと繋ぎ合わせた。
「はは、なるほどね。
やっぱり俺の推理に間違いはなかったようだ」
「ちょ、オトゲ先輩ってば、早くその推理ってのを聞かせて下さいよ!
もうさっきから気になってしょうがないじゃないっすか」
「すまんすまん、どうしても現場で確認したいことがあったんだ。
これから順を追って説明してやる」
やっぱり俺の推理に間違いはなかったようだ」
「ちょ、オトゲ先輩ってば、早くその推理ってのを聞かせて下さいよ!
もうさっきから気になってしょうがないじゃないっすか」
「すまんすまん、どうしても現場で確認したいことがあったんだ。
これから順を追って説明してやる」
乙下はせわしない空気をカウンターの中へ手招きした。
カウンターの片隅に置かれた、何の変哲もない古い電話機。
店長を追い詰めるきっかけとなった、曰く付きの電話機。
その電話機の前に空気を立たせてから、乙下は口を開いた。
カウンターの片隅に置かれた、何の変哲もない古い電話機。
店長を追い詰めるきっかけとなった、曰く付きの電話機。
その電話機の前に空気を立たせてから、乙下は口を開いた。
「まず最初に、『1046はどこから脅迫電話をかけたのか』だ。
1046は今お前の立っている場所にいた店長の姿を監視していた。
逆に言えば、理屈の上ではお前の立っている場所からも
1046のいた場所を見ることができるはずだろ?」
「まぁそのはずですよね」
1046は今お前の立っている場所にいた店長の姿を監視していた。
逆に言えば、理屈の上ではお前の立っている場所からも
1046のいた場所を見ることができるはずだろ?」
「まぁそのはずですよね」
空気はきょろきょろと周囲を見回していたが、
やがて窓の外のある一点を、目を凝らして見つめ始めた。
やがて窓の外のある一点を、目を凝らして見つめ始めた。
「通りの向かい側のビル。
あのビルの二階からなら、何とかこっちを見られそうっすよ。
他にここを監視できそう場所は……うん、見当たらないっすね」
「と思うだろ。
店長もそう思って、向かいのビルへ忍び込んで犯人の姿を探したらしいが、
残念ながら犯人の影も形もなかった」
「それじゃ、監視カメラみたいなものを仕掛けて、
どこか遠くの場所からここを監視してたとか?」
「バカ、どうしてお前はいちいちそっちに発想が行くんだよ。
そんなことをしなくたって、打って付けの場所がある」
あのビルの二階からなら、何とかこっちを見られそうっすよ。
他にここを監視できそう場所は……うん、見当たらないっすね」
「と思うだろ。
店長もそう思って、向かいのビルへ忍び込んで犯人の姿を探したらしいが、
残念ながら犯人の影も形もなかった」
「それじゃ、監視カメラみたいなものを仕掛けて、
どこか遠くの場所からここを監視してたとか?」
「バカ、どうしてお前はいちいちそっちに発想が行くんだよ。
そんなことをしなくたって、打って付けの場所がある」
| 138 :トップランカー殺人事件(123) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/11(日) 17:05:50 ID:Sq5EGcE20 |
言いながら乙下は懐から携帯電話を取り出し、空気へコールした。
突然の出来事に、空気はおろおろとした様子で電話に出る。
突然の出来事に、空気はおろおろとした様子で電話に出る。
「もしもし。オトゲ先輩、何の真似っすか?」
『もしもし。オトゲ先輩、何の真似っすか?』
『もしもし。オトゲ先輩、何の真似っすか?』
左の耳が空気の肉声を拾い、
僅かな時間差を経て、今度は右の耳が携帯電話からの声をそれぞれ拾った。
僅かな時間差を経て、今度は右の耳が携帯電話からの声をそれぞれ拾った。
「今、お前には俺の声が二重になって聞こえるだろ」
「そりゃそうっすよ」
『そりゃそうっすよ』
「昨日の夕方、これと同じようなことが起こった。
思い出せるか?」
「そう言えば……午後五時、ボクが署に戻って来た時?」
『そう言えば……午後五時、ボクが署に戻って来た時?』
「そりゃそうっすよ」
『そりゃそうっすよ』
「昨日の夕方、これと同じようなことが起こった。
思い出せるか?」
「そう言えば……午後五時、ボクが署に戻って来た時?」
『そう言えば……午後五時、ボクが署に戻って来た時?』
乙下は携帯電話を切り、懐に仕舞いながら頷いた。
昨日の夕方、空気に電話をかけた乙下の耳には、
第九のメロディが輪唱となって聞こえた。
片方は、捜査一課のスピーカーが奏でる第九。
もう片方は、空気との電話の向こう側から聞こえる第九。
第九のメロディが輪唱となって聞こえた。
片方は、捜査一課のスピーカーが奏でる第九。
もう片方は、空気との電話の向こう側から聞こえる第九。
「だから俺は、お前がすぐ近くにいるって分かったんだ。
今日そのことを思い出した時、一気に謎が解けた。
店長のあの不可解な証言の謎が解けたんだ」
「不可解な証言?」
「店長は言ったんだ。
脅迫電話の最中、『犯人の存在を近くに感じた』ってね。
最初は彼が何を言ってるのかよく分からなかったが、
つまりはこれと同じ現象だったんじゃないか?」
今日そのことを思い出した時、一気に謎が解けた。
店長のあの不可解な証言の謎が解けたんだ」
「不可解な証言?」
「店長は言ったんだ。
脅迫電話の最中、『犯人の存在を近くに感じた』ってね。
最初は彼が何を言ってるのかよく分からなかったが、
つまりはこれと同じ現象だったんじゃないか?」
店長には電話の向こう側から、1046の声以外の音も聞こえていたとしたら。
その音が、店長の周囲でなっている音と同じものだったとしたら。
つまり、シルバーというゲームセンターが生み出す独特の喧騒が、
周囲の空間と受話器の両方から重なって聞こえてきていたのだとしたら。
その音が、店長の周囲でなっている音と同じものだったとしたら。
つまり、シルバーというゲームセンターが生み出す独特の喧騒が、
周囲の空間と受話器の両方から重なって聞こえてきていたのだとしたら。
例えば、これが静かな署内に流れる第九のような
耳に明瞭なメロディであれば、
店長も「犯人は近くにいる」とすぐに気付くことができただろう。
耳に明瞭なメロディであれば、
店長も「犯人は近くにいる」とすぐに気付くことができただろう。
しかし、喧騒はあくまで喧騒でしかない。
ゲームのBGMと客のざわめきが組み合わさった、混沌としたノイズだ。
ゆえに店長は、そのノイズが輪唱を奏でていることを
はっきりと意識することができなかった。
ましてや、1046はボイスチェンジャーを用いて声の高さを変えていた。
当然背景の音の高さも変わってしまうので、
輪唱に気付くことはますます困難になる。
ゲームのBGMと客のざわめきが組み合わさった、混沌としたノイズだ。
ゆえに店長は、そのノイズが輪唱を奏でていることを
はっきりと意識することができなかった。
ましてや、1046はボイスチェンジャーを用いて声の高さを変えていた。
当然背景の音の高さも変わってしまうので、
輪唱に気付くことはますます困難になる。
だが店長の無意識下では、感覚の奥底では、それに気付いていた。
その結果として、「犯人の存在を近くに感じた」というあやふやな印象だけが
店長の意識に残ったのではないだろうか。
その結果として、「犯人の存在を近くに感じた」というあやふやな印象だけが
店長の意識に残ったのではないだろうか。
この仮定が正しいとすると。
「それじゃ、店長と1046は同じ場所にいたってことになっちゃうじゃないっすか!」
「そう。1046はシルバーの店内から電話をかけたんだ」
「そう。1046はシルバーの店内から電話をかけたんだ」
| 139 :トップランカー殺人事件(124) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/11(日) 17:18:38 ID:Sq5EGcE20 |
「まさか。店内だったらすぐ見つかっちゃうに決まってるじゃないっすか」
「ところがそうでもない。灯台もと暗し、ってヤツだな」
「ところがそうでもない。灯台もと暗し、ってヤツだな」
乙下は同じフロアの、ある一室の前まで移動した。
同時に、空気が背後から声を上げる。
同時に、空気が背後から声を上げる。
「デラ部屋?」
乙下がドアを開けると、血生臭さが鼻をついた。ように感じた。
それはおそらく気のせいで、BOLCEの死体はもうここにはない。
あるのはモニタのガラスが粉々に砕けたIIDX筐体と、
順番待ち用のベンチ、そして、IIDXのポスターが一枚だけ。
四方に飛び散ったガラスの破片の一部には
BOLCEの血痕がこびり付いてはいたが、もちろんすでに乾ききっている。
それはおそらく気のせいで、BOLCEの死体はもうここにはない。
あるのはモニタのガラスが粉々に砕けたIIDX筐体と、
順番待ち用のベンチ、そして、IIDXのポスターが一枚だけ。
四方に飛び散ったガラスの破片の一部には
BOLCEの血痕がこびり付いてはいたが、もちろんすでに乾ききっている。
ポスターはデラ部屋の壁の高い位置に貼られている。
乙下はおもむろにベンチの端に手をかけ、ポスターの真下へと移動させた。
そして土足でベンチを踏み台にし、
DJ TROOPERSのポスターに描かれたバンダナ男と至近距離で向き合う格好となった。
乙下はおもむろにベンチの端に手をかけ、ポスターの真下へと移動させた。
そして土足でベンチを踏み台にし、
DJ TROOPERSのポスターに描かれたバンダナ男と至近距離で向き合う格好となった。
「そう言えば昔、こんな映画があったっけなぁ」
乙下は半分独り言のつもりで呟きながら、豪快にポスターを剥がす。
ビッと音を立て、画鋲で打ち付けられた四隅が勢い良く破れた。
ビッと音を立て、画鋲で打ち付けられた四隅が勢い良く破れた。
「あああ!」
背後の空気は、先ほどとは比べ物にならないほどの音量で
たまげたような叫び声を上げた。
たまげたような叫び声を上げた。
ポスターの裏側の壁に、五百円玉ほどの径の小さな「穴」が空いていた。
きちんとした工具で空けられた様子はなく、
子供がイタズラで指を突っ込んだ障子紙のように、不揃いの輪郭を持った穴だった。
見たところ、デラ部屋の壁は薄い石膏ボードで
梁と防音材を挟み込む構造となっており、厚さは5cm程度。
その薄い壁を、小さな穴が貫通しているのだ。
ただし壁の向こう側にも何かが貼られているらしく、
穴を覗き込んでもそこには暗闇しかない。
きちんとした工具で空けられた様子はなく、
子供がイタズラで指を突っ込んだ障子紙のように、不揃いの輪郭を持った穴だった。
見たところ、デラ部屋の壁は薄い石膏ボードで
梁と防音材を挟み込む構造となっており、厚さは5cm程度。
その薄い壁を、小さな穴が貫通しているのだ。
ただし壁の向こう側にも何かが貼られているらしく、
穴を覗き込んでもそこには暗闇しかない。
「もしかして、もしかしてこの位置って」
空気はバタバタと足音を立ててデラ部屋を出て行った。
足音はデラ部屋の外周に沿って移動し、壁を通して乙下のいる場所の反対側で立ち止まった。
それから空気はゆっくりと時間をかけて、
それこそ乙下が勝手にシルバーのポスターを破ってしまったことに対し
反省を促しているのかと思わせるほど丁寧に、壁の向こう側に貼られた何かをどかす。
足音はデラ部屋の外周に沿って移動し、壁を通して乙下のいる場所の反対側で立ち止まった。
それから空気はゆっくりと時間をかけて、
それこそ乙下が勝手にシルバーのポスターを破ってしまったことに対し
反省を促しているのかと思わせるほど丁寧に、壁の向こう側に貼られた何かをどかす。
すると暗闇は一気に明るくなり、「景色」がひらけた。
カウンターの内部。
ギターフリークスの筐体。
店舗の出入り口。
全てが鮮明だった。
一般的な視力の人間が店内を監視するには、十分過ぎるほど。
カウンターの内部。
ギターフリークスの筐体。
店舗の出入り口。
全てが鮮明だった。
一般的な視力の人間が店内を監視するには、十分過ぎるほど。
| 140 :トップランカー殺人事件(125) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/11(日) 17:25:48 ID:Sq5EGcE20 |
かと思うと、一転して穴が黒と白の同心円状の物体に覆われた。
よく見るとそれは空気の目である。
薄い壁の小さな穴を通し、乙下と空気は互いに片目で見つめ合った。
よく見るとそれは空気の目である。
薄い壁の小さな穴を通し、乙下と空気は互いに片目で見つめ合った。
「オトゲ先輩、これ、さっきのポスターっす!
穴のこちら側は、さっきの店長の直筆ポスターで塞がれていました」
穴のこちら側は、さっきの店長の直筆ポスターで塞がれていました」
空気の声は穴を通し、ほとんどくぐもることなく乙下のいるデラ部屋へと流れ込んでくる。
「やっぱりな」
「こ、これ、一体どういうことなんすか?」
「1046がシルバーの店内から電話をかけたとすると、
身を隠せる場所として真っ先に思いつくのがデラ部屋だった。
物陰に隠れるのは限度ってもんがあるし、トイレには誰かが入って来るかも知れない。
けど、デラ部屋ならレンタル中は誰も中に入って来ないからな。
で、もし本当に1046がデラ部屋から脅迫電話をかけていたとしたら、
店内を監視するための『隙間』が絶対にあるはずだと俺は考えた。
それを確かめたかったからわざわざここまで来たんだが、どうやらその甲斐があったようだ」
「こ、これ、一体どういうことなんすか?」
「1046がシルバーの店内から電話をかけたとすると、
身を隠せる場所として真っ先に思いつくのがデラ部屋だった。
物陰に隠れるのは限度ってもんがあるし、トイレには誰かが入って来るかも知れない。
けど、デラ部屋ならレンタル中は誰も中に入って来ないからな。
で、もし本当に1046がデラ部屋から脅迫電話をかけていたとしたら、
店内を監視するための『隙間』が絶対にあるはずだと俺は考えた。
それを確かめたかったからわざわざここまで来たんだが、どうやらその甲斐があったようだ」
どんな理由があったのかは知らないが、元々デラ部屋の壁には穴が空いていた。
店長はその穴をポスターを使って隠していた。
カウンター側の壁からは店長の直筆ポスターを貼って、
デラ部屋側の壁からはIIDXのポスターを貼って。
店長はその穴をポスターを使って隠していた。
カウンター側の壁からは店長の直筆ポスターを貼って、
デラ部屋側の壁からはIIDXのポスターを貼って。
穴の存在に気付いていた1046は、これを今回の犯行に利用することを決めた。
おそらくは事件の前日、もしくは当日の朝、
1046は店長や他の客の目を盗んでカウンター側のポスターの配置を横へずらした。
穴がポスターに隠されないギリギリの位置までずらしたのだ。
穴の大きさは五百円玉程度の小さなもの。
長期間そのままならいずれ見つかってしまうだろうが、
一日の間だけなら誰にも気付かれずにやり過ごせる可能性は高い。
おそらくは事件の前日、もしくは当日の朝、
1046は店長や他の客の目を盗んでカウンター側のポスターの配置を横へずらした。
穴がポスターに隠されないギリギリの位置までずらしたのだ。
穴の大きさは五百円玉程度の小さなもの。
長期間そのままならいずれ見つかってしまうだろうが、
一日の間だけなら誰にも気付かれずにやり過ごせる可能性は高い。
そして7月16日の午前、1046は今さっき乙下がそうしたように、
ベンチを踏み台にしてポスターを剥がす。
かくしてデラ部屋は、シルバーの中にありながらシルバーとは隔絶された、
それでいて店長のいるカウンター付近を自由に監視できる絶好の隠れ家となる。
1046はデラ部屋に身を潜め、そこから僅か十メートルも離れていない
シルバーのカウンターにある電話機へと、脅迫電話をかけたのだ。
ベンチを踏み台にしてポスターを剥がす。
かくしてデラ部屋は、シルバーの中にありながらシルバーとは隔絶された、
それでいて店長のいるカウンター付近を自由に監視できる絶好の隠れ家となる。
1046はデラ部屋に身を潜め、そこから僅か十メートルも離れていない
シルバーのカウンターにある電話機へと、脅迫電話をかけたのだ。
「んなバカな……あり得ないっすよ!」
| 141 :トップランカー殺人事件(126) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/11(日) 17:32:27 ID:Sq5EGcE20 |
空気が壁の向こう側で声を張り上げた。
穴からは片目しか見えないものの、
すっかり動転した空気の表情が乙下の目に浮かぶ。
穴からは片目しか見えないものの、
すっかり動転した空気の表情が乙下の目に浮かぶ。
「だって、デラ部屋をレンタルしてたのは1046じゃなくてBOLCEっすよ?
午前中の間はBOLCEがずっといたんすよ?
BOLCEの目の前で脅迫電話なんかかけたら、
いくら親友とは言え不審がられるに決まってるじゃないっすか。
それにアリバイは?アリバイはどうなるんすか!?
脅迫電話のあった時間のいずれも、1046はABCでデラをプレイしてたんすよ。
しかも、午前中はAKIRA YAMAOKAコースで人間離れした超高スコアを残してたじゃないっすか。
だからオトゲ先輩も認めてたんですよね、
『1046が午前中の間ずっとABCでデラをプレイしていたことは、
動かしようのない事実だ』って」
午前中の間はBOLCEがずっといたんすよ?
BOLCEの目の前で脅迫電話なんかかけたら、
いくら親友とは言え不審がられるに決まってるじゃないっすか。
それにアリバイは?アリバイはどうなるんすか!?
脅迫電話のあった時間のいずれも、1046はABCでデラをプレイしてたんすよ。
しかも、午前中はAKIRA YAMAOKAコースで人間離れした超高スコアを残してたじゃないっすか。
だからオトゲ先輩も認めてたんですよね、
『1046が午前中の間ずっとABCでデラをプレイしていたことは、
動かしようのない事実だ』って」
空気は勢い込んで喋り、それから建屋内の酸素を
全部使い切ってしまいそうなほど、ぜぇぜぇと呼吸を荒げた。
対する乙下は落ち着き払って言った。
全部使い切ってしまいそうなほど、ぜぇぜぇと呼吸を荒げた。
対する乙下は落ち着き払って言った。
「それは間違いだった」
「え?」
「奇しくもさっきお前自身が言っただろう。
『よく考えたら、このスコアを出すことができるのは1046だけじゃない』って」
「それはDJ AUTOの例え話で、現実にそんな人は存在しないっすよ」
「いや、一人だけ。たった一人だけいるだろ」
「……あ」
「え?」
「奇しくもさっきお前自身が言っただろう。
『よく考えたら、このスコアを出すことができるのは1046だけじゃない』って」
「それはDJ AUTOの例え話で、現実にそんな人は存在しないっすよ」
「いや、一人だけ。たった一人だけいるだろ」
「……あ」
空気の片目が真円に近いくらいに、丸く大きく見開いた。
「あぁぁ、まさか、そういうことなんすか……!?」
「そう。AKIRA YAMAOKAコースで理論値マイナス一桁にまで迫る
あの超人的なスコアを出せる人物が、1046以外にいるとすれば」
「そう。AKIRA YAMAOKAコースで理論値マイナス一桁にまで迫る
あの超人的なスコアを出せる人物が、1046以外にいるとすれば」
乙下と空気の声が重なり合い、一人の人物の名前を呼んだ。
「BOLCEだ」
7月16日水曜日の午前中。
イーパスの履歴上、BOLCEはシルバーに、1046はABCにいたことになっている。
しかしそれは全くの「逆」だった。
イーパスの履歴上、BOLCEはシルバーに、1046はABCにいたことになっている。
しかしそれは全くの「逆」だった。
「あの日、1046はシルバーにいた。そしてABCにいたのはBOLCEだったんだ」
それが乙下の辿り着いた真実だった。
| 181 :トップランカー殺人事件(127) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/27(火) 00:52:35 ID:ciZRLigI0 |
いよいよ外が暗くなってきた。
少なくとも、シルバーへ足を踏み入れた時に
店内を染め上げていた赤黒さは、もう行方をくらましてしまった。
もしかすると乙下が少しだけ目を離した隙に、赤は黒に飲み込まれてしまったのかも知れない。
絶滅危惧種のように心許ない量の赤を孕んで、盛岡市は今、夜を迎えようとしている。
少なくとも、シルバーへ足を踏み入れた時に
店内を染め上げていた赤黒さは、もう行方をくらましてしまった。
もしかすると乙下が少しだけ目を離した隙に、赤は黒に飲み込まれてしまったのかも知れない。
絶滅危惧種のように心許ない量の赤を孕んで、盛岡市は今、夜を迎えようとしている。
一方で事件は今、夜明けを迎えつつあった。
空が真実の光で白んでくる気配を肌で感じながら、
乙下はシルバーのカウンターに肘をついている。
少し離れて空気はドラムマニアの椅子に座っていた。
乙下はシルバーのカウンターに肘をついている。
少し離れて空気はドラムマニアの椅子に座っていた。
空気は子供のように、足で地面を蹴って椅子ごと回転している。
動きだけをみればのろのろとしたろくろのようだが、
空気は顔に険しさを浮かべており、その造形は風流な工芸品の持つ高尚さから遠くかけ離れていた。
動きだけをみればのろのろとしたろくろのようだが、
空気は顔に険しさを浮かべており、その造形は風流な工芸品の持つ高尚さから遠くかけ離れていた。
「そろそろ理解できたかー?」
乙下の呼びかけに対し、空気は回転したままの状態でたどたどしく応答する。
「えーと、だから、つまり、一昨日の午前中にABCで山岡コースをプレイしていたのは
1046じゃなくて、『1046のカードを使ったBOLCE』だった、ってことっすね」
「そ。逆にシルバーにいたのは、『BOLCEのカードを使った1046』だった」
1046じゃなくて、『1046のカードを使ったBOLCE』だった、ってことっすね」
「そ。逆にシルバーにいたのは、『BOLCEのカードを使った1046』だった」
空気の口調は腫れ物に触るかのように覚束なく、
乙下に向かって喋っていると言うよりかは、自分自身の情報整理が主たる目的のようだった。
乙下に向かって喋っていると言うよりかは、自分自身の情報整理が主たる目的のようだった。
そんな空気のために、乙下は補足してやる。
「BOLCEはもちろんこの事件の被害者だ。
だがある意味では、『BOLCEがこの事件の共犯者だった』。
そう考えれば分かりやすい」
「BOLCEが共犯者!?」
「だってそうだろ。
BOLCEは1046の身代わりにIIDXをプレイした。
結果だけを見れば、BOLCEは1046のアリバイを作る手助けをしていたことになる」
だがある意味では、『BOLCEがこの事件の共犯者だった』。
そう考えれば分かりやすい」
「BOLCEが共犯者!?」
「だってそうだろ。
BOLCEは1046の身代わりにIIDXをプレイした。
結果だけを見れば、BOLCEは1046のアリバイを作る手助けをしていたことになる」
| 182 :トップランカー殺人事件(128) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/01/27(火) 01:02:00 ID:ciZRLigI0 |
乙下は元々この事件に共犯者がいるとは考えていなかった。
大まかに言えば理由は二つ。
犯人にとって、事件の真相を知る人物が自分以外に存在することは大変にリスキーなことである。
なので犯人は共犯者を雇いたがらないはずだった。
大まかに言えば理由は二つ。
犯人にとって、事件の真相を知る人物が自分以外に存在することは大変にリスキーなことである。
なので犯人は共犯者を雇いたがらないはずだった。
もう一つの理由が、共犯者がいるとすればその人物は
ランカークラスの腕前を持つIIDXプレイヤーであるのが第一条件だったこと。
そうでなければAKIRA YAMAOKAコースで理論値マイナス一桁などという
驚愕のスコアを出すことはできなかったはずだし、
耳でプレイヤーの腕前を判別できるABC店員の証言とも矛盾する。
しかし、それほどの腕前を持つ人間は絶対的に希少であり、
都合良く共犯者として雇える可能性は非常に低い。
ランカークラスの腕前を持つIIDXプレイヤーであるのが第一条件だったこと。
そうでなければAKIRA YAMAOKAコースで理論値マイナス一桁などという
驚愕のスコアを出すことはできなかったはずだし、
耳でプレイヤーの腕前を判別できるABC店員の証言とも矛盾する。
しかし、それほどの腕前を持つ人間は絶対的に希少であり、
都合良く共犯者として雇える可能性は非常に低い。
だが1046は、『BOLCEを共犯者として利用する』という
奇想天外なトリックを使うことで、これらの問題をクリアした。
どうせこれから殺してしまう人間なのだから、今後口を割らないことは100%保証される。
そして1046と同等の腕前を持つBOLCEは、
身代わりにIIDXをプレイさせる人材としてはこれ以上ないほどに適任だった。
何せ黙っていても圧倒的なスコアを叩き出して、1046のアリバイを勝手に確保してくれるのだから。
奇想天外なトリックを使うことで、これらの問題をクリアした。
どうせこれから殺してしまう人間なのだから、今後口を割らないことは100%保証される。
そして1046と同等の腕前を持つBOLCEは、
身代わりにIIDXをプレイさせる人材としてはこれ以上ないほどに適任だった。
何せ黙っていても圧倒的なスコアを叩き出して、1046のアリバイを勝手に確保してくれるのだから。
こうして1046は「被害者=共犯者」という盲点を巧みに突くことで、
完全犯罪を成立させようとしたのだ。
完全犯罪を成立させようとしたのだ。
「ここに来て、ようやく脅迫・誘拐事件の動機がはっきりしたな。
1046はBOLCEによって捏造されたアリバイを有効活用するために、
『前もって別の事件を起こす必要性』があったんだ」
1046はBOLCEによって捏造されたアリバイを有効活用するために、
『前もって別の事件を起こす必要性』があったんだ」
1046が店長の息子を誘拐し、店長に対して脅迫電話をかけた理由。
それは、BOLCE殺害の下準備だったのだ。
それは、BOLCE殺害の下準備だったのだ。
1046はBOLCEのIIDXプレイを利用して、「午前の間はABCにいたはず」というアリバイを捏造する。
そしてその時間帯に脅迫事件を起こせば、アリバイに守られた1046は容疑から外れることができる。
その上で本当の目的であるBOLCE殺害を実行すれば、
「状況的に脅迫犯と殺人犯は同一人物」かつ「1046は脅迫犯ではない」の二つの前提から、
三段論法的に「1046は殺人犯ではない」の誤答を誘引できる。
実際、この誤答が鉄壁のアリバイの一枚として乙下の前に長らく立ち塞がっていたことは否定できない。
そしてその時間帯に脅迫事件を起こせば、アリバイに守られた1046は容疑から外れることができる。
その上で本当の目的であるBOLCE殺害を実行すれば、
「状況的に脅迫犯と殺人犯は同一人物」かつ「1046は脅迫犯ではない」の二つの前提から、
三段論法的に「1046は殺人犯ではない」の誤答を誘引できる。
実際、この誤答が鉄壁のアリバイの一枚として乙下の前に長らく立ち塞がっていたことは否定できない。
また、1046は「本来自分がいるはずの空間にBOLCEを置いた」だけでなく、
「本来BOLCEがいるはずの空間に自分を置いた」点も計算の内だった。
大胆にも同じ店内の、しかもBOLCEがいたはずのデラ部屋を拠点として
事件を起こすことで、警察を真相から巧妙に遠ざけていたのだろう。
「本来BOLCEがいるはずの空間に自分を置いた」点も計算の内だった。
大胆にも同じ店内の、しかもBOLCEがいたはずのデラ部屋を拠点として
事件を起こすことで、警察を真相から巧妙に遠ざけていたのだろう。
シルバー脅迫事件には、こうした何重もの意味合いが織り込まれていたのだ。
乙下はそこまでを空気に説明してから、
屈伏するようにカウンターに両手をつき、俯き加減にぼやいた。
屈伏するようにカウンターに両手をつき、俯き加減にぼやいた。
「ったく、1046には恐れ入ったよ。
まさか殺す目的とする人間さえ殺しの手段として利用するなんて。
悪魔の所業としか思えない」
まさか殺す目的とする人間さえ殺しの手段として利用するなんて。
悪魔の所業としか思えない」