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carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation- 前編

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349 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/18(土) 00:05:58 ID:Y+iEHG1c0
     それは人が生まれし時より存在していた

        それはある時をもって姿を現す

  それが現れた時 人の世は無限の円環を断ち切られる



 時は未来。世界は一度崩壊し、そして再生された。
2870年の事であるそれは、世界中の誰もが知っていた。
World Organization System (世界組織機構。通称WOS)と呼ばれる統治組織が、
九つに分かれてしまった大陸を統治していた。

 WOSは世界復興の為に活動した団体が前身であるが、
それはあまり重要な事ではない。少なくとも、この物語を語る上では。
これを読むのは一体、どれだけ時が過ぎた時代に生きる者なのだろうか。
それとも時の流れに逆らい、過去の人間の目によって読まれていくのだろうか。

 それすらも、この真実をレポートのような物語形式に変換して歪曲し、
それでも本質を継承していく事のみを第一に考える私にとっては重要な事ではない。
重要なのは、多くの人々にこの真実が伝えられていくかという事だ。

 物語が始まる時間は……そう、この世界において
第九大陸レイヴンと呼ばれる北方に位置する大陸を治めるWOSの支部が財政難に陥り、
その救済策としてWOS本部があるプロジェクトを立ち上げた瞬間、が正しいだろう。
 結果、それは順調に進んでいった。
レイヴンの経済は安定し、そこで暮らす人々の生活も豊かになった。
そして、プロジェクトはそれの最も大きな段階に移行していった。


   『BEMANI追体験プロジェクト #■■.』


 BEMANI追体験プロジェクトと呼ばれたそれの過去最大の段階は、
レイヴン大陸の最東端に巨大遊園地を建造する事であった。

350 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/18(土) 00:18:44 ID:rJD1y9Og0
 BEMANI追体験プロジェクトとはどういったものなのか、
これを読む人が知らないと仮定した上で説明しておこう。
私としても、これは物語の核の一つになる要素であるから、
物語が物語として始まる前に大雑把にでも説明したい思いはある。

 2987年、レイヴン大陸にある遺跡、
通称『平和』と呼ばれる場所で重大な発掘が行われた。
約千年もの前の機械が発掘され、そしてそれは電源を供給されると稼働したのだ。
今となっては古めかしいコンピューターによって動いているそれだったが、
この知らせを知ったWOSレイヴン支部の役人達は、これに可能性を感じた。
行き詰まって後退を始めたこの大陸の景気を回復させる可能性をである。

 役人達はこの事を、彼らが立案した計画を添えて報告した。
彼らが調べてみたところ、この機械は娯楽のために作られたものである事が分かった。
…ただの娯楽用機械では無い事は分かっていた。
この時代において、このジャンルのゲーム、即ち『音楽ゲーム』と呼ばれるものは
誰もが全く思いつかなかったものであるのだから。
 役人達はこの未知の娯楽がもたらす愉しみに景気回復の糸口をつかんだ。
このゲームはあまりに面白い。これでお金を取れば、かなりの収益が見込める……
彼らはそう考え、そのゲームの歴史について十分下調べをした上で、
この荒唐無稽な計画を立案したのだった。

 WOS本部は駄目元でこれを認可、直ぐにレイヴン支部は
このゲームの発売元である会社が呼称していたシリーズ総称『BEMANI』の名を冠して
『BEMANI追体験プロジェクト』を発足させた。
 残念な事に、民衆の認知度、注目度はプロジェクト発足当初は低かった。
だが、口コミなどでゲームやプロジェクトの人気はじわじわと広がっていき、
『beatmania』という名称のゲームは、第二段階である『beatmania IIDX』へとステップアップするなど
本当に音楽ゲームの歴史を辿るようにして新作を出していけるまでになったのである。

351 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/18(土) 00:23:33 ID:rJD1y9Og0
 2999年元日、WOSレイヴン支部は本部と共同で、
大きな公共事業をおこす事を全世界に向けて発表した。
もはや音楽ゲームは、いや、民衆の言葉を借りると音ゲーと呼ばれる娯楽は、
レイヴン大陸のものだけではなくなった。全世界が熱狂する娯楽へと発展していたのだ。
 2005年9月7日に稼働を開始したとされている
『ポップンミュージック』という名の音ゲーの新作「カーニバル」に因んで、
大規模な遊園地『carnival』を建造する事が公共事業の内容だった。
 これはポップンは勿論のこと、他のBEMANIシリーズから
『beatmania IIDX』『GuitarFreaks』『DrumMania』『Dance Dance Revolution』
の四つの作品がモチーフとされていくと発表した事は
全世界の音ゲーファン達を熱狂させた。

 実はこのカーニバル建造、『BEMANI EXPO』という、
DDRを除いた四作品で開催された一種のお祭りがあった事実を元にしているという事らしい。
どういう事かというと、これは実際にあった『BEMANI EXPO』をDDRも含めて再現し、
同時に「トップランカー決定戦」も再現、開催するという計画を統合した結果、
じゃあ遊園地とか造っちゃう?という感じのノリでカーニバル建造の話は進められたらしい。
しかし、この時代の歴史の表舞台に『BEMANI EXPO』という言葉は出ていない。

 開園は2999年12月19日を予定され、カーニバル建造は同年2月1日に工事が着工した。
レイヴン大陸第十地区という、同大陸最東端の地に位置する大きな四つの無人島が
カーニバルが造られる場所となったのだが、その理由ともう一つ解説をしなければならない。

 先に解説の方を始めよう。
世界中の大陸が九つになってしまった事は書いたつもりだ。
だが、大陸を区分けする『地区』については全く触れていなかった。
これより、それについて解説を始めようと思う。
 鳥の名を冠する九大陸は、それぞれ十の地区に区分けされる。
西から東へ、日付変更線のようなカクカクの九つの線が各大陸ごとに引かれている。
勿論、この線は目に見えるものではない。一応、念のため。

352 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/18(土) 00:33:21 ID:rJD1y9Og0
 さて、なぜレイヴン大陸第十地区がカーニバル建造予定地となったか。
その理由を説明しなければならないのだが、これには少しだけ変なところがあるかもしれない。
だが、私はこの世界の創造主でも何でもない。
文句があるならばそいつに言ってくれ、と前置きした所で説明しよう。
 そこの一部地域だけ、気温が氷点下より下がらない。
それどころか、北国だというのに冬の季節になっても気温は最高で15℃はマークする。
これはどういう事を意味するのかというと、北国らしくない気候だという事だ。
よって、南方に住む寒さに弱い人々でもそこで活動する事は容易だという事になる。
それは全世界から客を呼びやすい条件を揃えた、という事である。
 この時代において、音ゲー発祥の地であるレイヴン大陸は
音ゲーマーなら誰もが訪れたいと願う場所であるため、
そのブランド力のようなものも牽引力となって、客を呼び込み易くなるのだ。
 さらに、この気候は大きなプラスとなる。
一体どれだけの人々がこの地に殺到するのか。
それを考えると、レイヴン大陸に住む人々は頬を緩めるのだった。


 時は流れ、12月20日。
この物語の主人公は考えた。

「うぅ、寒い……」

その人物は古ぼけた『和』と呼ばれる様式の家に住んでいた。
その髪は漆黒にして腰に届くまでに長く、顔立ちは並より上と呼べるような少女が、
かなり古ぼけた薄い布団にうずくまっていた。
 時刻は朝の6時。外気温は氷点下を下回り、古い家屋の中も当然のことながら寒い。
少女が薄い布団に包まってうずくまっているのも道理だ。
 だが、時間は待ってくれない。
今日は冬休みが始まって間もないとはいえ、膨大なノルマを消化させなければならない。
でないと、五日後に行けるはずの所へ行けなくなるのだ。
そうは思っても、少女の体は寒さに震えるのみで何も行動を起こせなかった。
凍死はしないだろうが、結構危険な状態だった。

353 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/18(土) 00:42:49 ID:rJD1y9Og0
 しかし、そんな彼女を助けようとする者はいなかった。
そう、この家には少女一人のみが住んでいる。
両親はすでにこの世を去ってしまっているが、
少女は長年の思い出が詰まったこの古い家に住み続けている。
だが、そこで暮らす日々は非常に耐えがたいものであった。
 そんな彼女に救いの手は全く無いのか。
いや、無い訳が無いのだ。世の中には数が少ないながらも早死にする者がいる。
『善人』と呼ばれる種類の人間だ。
紺色のコートを着ていて、ニット帽で隠れて分からないものの、
金色の短い髪を持つ善人が彼女の家の戸を叩き、それから「上がるよー!」と断りを入れて家に入っていく。
 善人はこの家には何度も来ているのでこの家の見取り図は分かっていた。
直ぐに少女が震えている寝室にたどり着き、
カタツムリのように丸まっている布団に向け、湯気を立てている金属缶を差し出した。

「はい、あたたかいコーヒー。さ、これを飲んで起きて!」

その声に反応したカタツムリは、スッと手を伸ばしてスッとそれを引っ込めた。
そして缶が開けられる音が布団の中で響き、嚥下の音が続いた。そして、

「いっきかえったああぁぁ!!!!!!」

とカタツムリが大音声で叫び、布団を難なく撥ね飛ばし(当然だ。それは軽いのだから)、
そして善人に向き直って言った。

「クーリー、毎度毎度本当にありがとう!!」

クーリーと呼ばれた善人はいいや、と返し、
寝室を立ち去りながら少女に言った。

「それより、外出の準備をして。
 早く僕の家で宿題を終わらせなきゃ、カーニバルへ行けないからさ!」

354 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/18(土) 00:52:47 ID:rJD1y9Og0
 時はまき戻って一日前。12月19日。
少女はクーリーの家(正しくは豪邸だ)にいた。
それは彼女にとって珍しい事でも何でもなかった。
少女は幼い頃からクーリーと彼の両親にお世話になっていたのだから。
 少女の両親は死んでしまっていた、と書いた。
それは変えようがない事実である事だが、私には苦しく感じられる。
それはさておき、少女の父親がクーリーの父親と友人関係にあった事で、
少女はクーリーの家で養女として生活していくこととなった。


 その暮らしは良いものだった。
当時はまだBEMANI追体験プロジェクトによる景気回復が無かった
レイヴン暗黒時代と呼ばれる時期においても、クーリーの家は裕福そのものだった。
 そんな所で暮らすのだから、生活環境が悪いなんてことは無い。
だが、少女はそんな所で暮らしていく事に言いようのない申し訳なさを感じていたのだ。

 私の調べによると、約千年前にあった日本という島国が敷いていた教育体制と、
この時代の教育体制は全く同一のものであるという事が分かった。
 小学校と呼ばれる学校で6年間、そして中学校と呼ばれる学校で3年間学ぶ。
合わせて9年間に及ぶ義務教育は、日本でもこの世界でも同じなのだ。
 その後も同じである。
義務教育ではない高等学校で3年間学ぶか、そのまま就職するのか。
高等学校を卒業した後は進学するのか、それとも就職か。道は多様である。

 それがどうしたんだと思われるだろうが、
少女の話をする上で説明しておかねばならなかったのだという事をご理解いただきたい。
 少女は9年間の義務教育を終えた後、一人暮らしを始めた。
幼少期を過ごした古ぼけた家に住み、高等学校に通学するという少女の願いをクーリーの両親は認めた。
しかし、少女には生活する力が無かった。
アルバイトをして少々のお金を得ても、その時にはすっかり回復しきっていた景気は少女を助けなかった。
 そうして少女は、週に何度かクーリーの家で夕食を頂くという生活を送っていた。
悪く言えば半パラサイト状態という言葉が適切であろうが、
少女の来訪をクーリー達は心から喜んで迎え入れてくれたのだった。

355 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/18(土) 01:01:48 ID:rJD1y9Og0
 やっと12月19日の話をする事が出来る。
もう学校は冬季長期休暇期間、俗に言う冬休みに入っていた。
クーリーは少女に自分の家で宿題をこなそう、と誘っていて、
少女もそれを受け入れたため、二人はクーリーの自室でノルマをこなしていていたのだ。
 休憩時、クーリーが少女にあるものを見せた。

「そうだ、誕生日プレゼントを見せようと思っていたんだ」
「え?嬉しいなぁ。なになに?どんなの?」

クーリーが見せたものは、一台のPCのモニターが映し出すあるサイトである。
「カーニバル公式サイト」をクーリーは少女に見せたのだ。
 クーリーが本当に見せたかったのは、
そのトップページを下にスクロールしていくと現れる告知であった。


『12月25日、カーニバルで発生する料金、入園料などはすべて無料になります』


 そんな馬鹿な、と少女はその告知を見て思った。
だが、これはWOSが言っているのも同然の事であり、それが嘘をつくとは思えない。
少女はクーリーの家で音ゲーに触れ、そのファンとなっていたために
カーニバルへ行きたいとは常々思ってはいたのだが、
まさか全額無料キャンペーンというものが開催されるとは思ってもいなかった。
 クーリーは、これが昨日発表された事を言い、
そして一緒に行こうと誘ったのだ。少女はこれを断る理由は無かった。
というよりは少女が彼に一緒に行こうと誘おうとしていたのだが、

「って事で。ユール、一緒に行こうよ。カーニバルへ」

クーリーが先に誘いの言葉を述べたので、

「よし、決まりだね!じゃあそれまでに宿題を終わらせよう!」

ユールと呼ばれた少女はそう返した。

386 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/28(火) 23:44:59 ID:4lOzH6iy0
 2999年12月25日 08:00

黒のロングコートと暗めの色の服と動きやすい黒のズボンで自身をコーディネートしたユールは
最寄りの駅である第五地区駅前で(ユールの住む地区は第五地区。地区分けの関係上、レイヴン大陸の真ん中に近い)
友人、いや親友といっても差し支えのないほどに交友を深めた同年代の人物、クーリーを待っていた。
 彼とはこの時刻に駅前の水を噴かない噴水の近くで待ち合わせていたのだが、
駅前はかつてないほどに人であふれかえった。
いや、そんな表現では到底表現しきれないほどの人々で埋め尽くされていた。
 異常な人口密度の地帯の真っただ中でユールがクーリーを見つけられないのも当然のことだった。
そこで彼女は、クーリーからプレゼントされたある物をコートのポケットから取り出した。
マルチ・パーパース・デバイス、通称MPDと呼ばれる小型の携帯型端末である。
(余談だが、『携帯電話』という名前で約千年前から似たようなものは存在していた。
 MPDはそれを進化、発展させたものと言えるだろう)
 ちなみに、クーリーの家がユールのMPDの発生する料金を支払う事になっていた。
クーリーの家の両親が支払うと彼らが申し出たからだ。
彼女はそれを知っていたために長時間の通話は控える傾向にあった。
故に彼女は「駅前の『サイ』って喫茶店の前にいるから!」とクーリーに伝えるつもりだった。
が、すぐに彼女に起きた出会いが通話を許さなかった。

「あ、ユーじゃん!学校の終わりの日以来だね。久しぶりー」

そんな風にユールは話しかけられた。
しかしそこら中で発せられるざわめき声という大きなノイズでその声はかき消され、
ユールの耳には何も入らなかった。そして、すぐに彼女の左肩に誰かの小さな手がのった。

387 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/28(火) 23:49:57 ID:4lOzH6iy0
 それで初めてユールは誰かの接近に気づいた。
驚いて振り返り(その時見知らぬ数人の体に何度かぶつかった)、
そして接近したのは誰かを知った。

「何だ、キリーかぁ」

キリーと呼ばれたユールと同年代の少女―ベージュ色のコートを着込み
下は季節柄似合わない、緑の生地に白のラインが走ったスカートを履いている―が、

「何だ、ってなによ。失礼しちゃうわよね」

つん、と擬音が聞こえそうなほどあからさまに不機嫌な態度を取った。
ユールはそれを見てすぐさま言い訳を述べた。

「これだけ人が多いから、痴漢かな…って思ってびっくりしたのよ」
「ユーみたいな奴に近づく奴はいないって」

「それって酷い!」ユールはそう抗議した。
キリーは不平を洩らすユールに向かって後付けの言葉を入れた。

「ユーにちょっかい出してボコボコにされるって知ったら、
 どんな奴でも逃げ出すでしょうね。
 でも、黙ってればユーは可愛いんだから」
「なによ。黙ってればってなによ」
「そのまんまの意味じゃない。…ん?あぁ……」
「何?どうしたの?」

そこでキリーは間を置いた。何秒か二人の周りで人々が駅へ進んでいくと、
キリーが何かに気づいたような表情を浮かべ、そして、

「彼だけは特別。大事にしなさいよ」

それだけを言うと、キリーは人ごみの中に紛れていった。
もう後ろ姿も見えないキリーを見送っていると、また背後から伸びる、
今度は大きな手がユールの右肩を掴んだ。

388 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/28(火) 23:59:47 ID:4lOzH6iy0
 ユーリは今度こそ痴漢に違いないと
直感に近い思考で考え、すっと腰を落とすようにして頭を下げた。
肩に乗っていた手はするりと落ちるように外れ、
右足を軸にバックターン、風を後ろに感じながら
顔を見る事もなく痴漢と思しき人物の顎を見ないで狙って強烈なアッパーをお見舞いした。

「おぶわぁ!?」

この時、ユールの放ったアッパーは並みの女性が出すものに比べたら
その数段上の威力をもっていたと思われる。
痴漢(とユールは思っている)がこんな声を上げたのも無理は無い。
しかし、この声を聞いてユールの全身からさっと血が引いた。

「クーリー!?」

ユールは反射的にそう叫んでいた。彼女の渾身の一撃をもらったクーリーと思しき人物は、

「うぅ、痛い……痴漢だとかとか勘違いしたんじゃないよね?」

確かに顎をさすっているクーリーだった。
ユールはすぐに頭を下げつつ謝罪の言葉を述べ、
クーリーは仕方がない、と答えて彼女を許した。
 それから二人は、一旦数十分だけ間を置いてから次の電車に乗る事に決めた。
駅前でこれだけの混みようだ。圧死者がでてもおかしくはない。
それがどれだけ確率が低いものとしても、可能性があるならば避けよう。
二人は話し合った末にそこへ行き着き、
そして『サイ』で時間を潰すことにしたのだった。

389 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/29(水) 00:11:55 ID:iHNRvRFF0
 表にはあれだけ人がいるというのに、サイの店内は人が殆どいなかった。
この時代としては珍しい木造建築物で、大体のものが木で出来ている。
醸し出す雰囲気は古き良き時代の喫茶店と言った所だ。
 閑古鳥が鳴いている喫茶店としてとして有名なスポットなのだが、
まさかこんな時にも閑古鳥が鳴いているとはユールは思いもよらなかっただろう。
なにはともあれ、二人は出入り口を開けるとカランコロンとなる鈴の音を聞きながら
カウンター席に座り、年配のマスターにオーダーした。

「僕は…今日のおすすめのコーヒーで。ユールは?」
「私は、そうね………私も今日のおすすめで」

マスターはそれを聞いて静かに小さく頭を動かし、
承認の意を表してから奥へと消えていった。


 二人が店内で話をしながら注文したものを待っていると、
何か変な色の液体が、恐らくは何かの飲み物なのだろうがあまり口をつけたくない色をした
それが入っているグラスが二人に渡された。
まずクーリーが一口飲み、意外に美味い事を言うとユールも口をつけた。
しかし彼女は無言でクーリーに自分のグラスを渡した。
それからマスターに手を合わせて頭を深々と下げ、マスターはやっぱりといった表情を見せた。
 それから一分程度が過ぎたあたりの事だ。
二人の後ろでカランコロンと出入り口の戸が開くと同時に鈴が鳴った。
(余談だが、この時代において、戸に鈴をつけるというのは古い風習だった)
クーリーが後ろを振り返ると、彼の浮かべる表情は笑みへと変わっていった。

「よぅ、アルベルトにアリス。君たちもカーニバルへ行くのかい?」

ユールも後ろを振り返り、そして出入り口の前で立っている二人の人間を見た。
一人は赤いコートを、もう一人は生地の厚い赤いワンピースを着ていた。

「あぁ、そのつもりだったんだが…」
「表はあれだけ人がいたでしょ?だから時間を置こうと思ったんだ。
 あ、ユーじゃん。ユーもカーニバルに行くの?」

一人は背の高い少年。もう一人は背の低い少女。
だが、二人は長さに違いこそはあるものの、茶色の髪を持ち、そして同じ顔をしていた。

390 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/04/29(水) 00:20:39 ID:iHNRvRFF0
「そうだよアリス。クーリーと一緒に行くんだ」

ユールは背の低い茶髪の少女をアリスと呼んだ。
すると、アリスと同じ色の髪を持ち、同じ顔を持った少年が、
アリスとは一卵性双生児の弟にあたるアルベルトがユールに言った。

「クーリーと一緒か。よかったなクーリー。こんな美人ちゃんと一緒になれて」

ユールの事を「美人ちゃん」と呼んだアルベルトはクーリーの隣に座り、
クーリーとユールのコーヒーを出してきたマスターに

「ブラック。とことん苦いやつ。姉貴にはオレンジジュースを」

とだけ注文を述べた。
マスターはまた小さく頭を下げ、奥へと引っ込んでいった。

「カーニバル、楽しみだよね」

出し抜けにアリスがユールに言った。

「え?うん、そうだね」
「だよね。ユーは何の音ゲーやってたんだっけ?」
「一通りはやってたかな。一番得意なものとかも無いけど。
 アリスは弟さんと一緒にギタフリだったっけ?」
「うん。アルがベースで私がオープン。
 いやぁ、今から何があるのか楽しみでしょうがないわ」

アリスはそう言って会話を断ち、そして両手を組んで伸びをした。
その時、マスターがブラックコーヒーとオレンジジュースを持って奥から出てきた。
彼はまずアルベルトに、そしてアリスに注文されたものを渡し、そして、

「皆はカーニバルへ行かれるのかな?」

不意にマスターは四人の客にそう尋ねた。四人は一斉に顔を上げ、マスターの顔を見ながら頷いた。


10 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/05/05(火) 01:28:02 ID:f3bDj8kw0
 マスターは四人にある話をした。
マスターによれば、彼の家に古くから伝わる伝説めいた話なのだが。
マスターの述べた事をそっくりそのまま書き写すとなると、
約十分程度に渡って喋り続けた内容を書くことになる。
これは流石にスペースがもったいないと思う。
よって、以下はマスターの言葉を要約した文章である。


 レイヴン大陸第十地区の最東端、
レイヴン半島とその近くに位置する四つの無人島のあたり
(カーニバルが位置する所だ)にはあるモノが隠されているという。
 それは「マキナ」と呼ばれる何かだそうだ。
それが何かは一切不明であるのだが、「マキナ」がある事は確かのようだ。
(マスターの言葉をすべて信じるのならば、確かのようではなく確定事項になる)
「マキナ」は手にした者に多大なる「何か」を与えるのだが、
所有者となった者は彼(または彼女)に大きな代償を「マキナ」に支払わねばならない。


「っていうお話さ。嘘っぱちだとは思っているがね、
 人生を棒に振らないように気をつけて行っておいで」

マスターは長きに渡って(と言っても十分程度なのだが)
語り続けた後の最後にそう付け加えた。
四人は礼を述べてから代金を支払い、
それから急いで人口密度が少なくなった外へ飛び出していった。

11 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/05/05(火) 01:35:03 ID:f3bDj8kw0
 この時の時刻は08:18。
ダイヤによると、次の電車が来るのは四分後の08:22。
少しは人が減った感じのあるこの駅前だが、それでも大勢の人で埋め尽くされている事には違いなかった。
 四人は途中でバラバラになり、そして個別にプラットフォームを目指す。
人垣をかき分けながつつ、彼らは幾度か危険な目に遭いながらも
どうにかしてプラットフォームへとたどり着く事が出来た。
 この時、クーリーがMPDを上着のポケットから取り出し、時刻を確認すると「08:21:28」と表示された。
クーリーは後ろを振り返って三人の様子を確かめた。
長身の茶髪、ちっさい茶髪、そしてユールは………あれ?
そこでクーリーは重大な事実に気がついた。


「ねぇ、ユール?どこに行っちゃったんだー!?」


 ユールは三人に遅れていったわけでもない。
近くにアルベルトの赤髪が見えていたので、彼らから逸れてしまったわけでもない。
 もはや当然の行いのように感じてきた人垣のかき分けの最中、
ユールは一人の人間に右肩を掴まれた。
クーリーの時のように反射的に手を出そうとしたが、異様な雰囲気を感じ取ってやめた。
ユールは肩を掴む人間の方に向き直ってその姿を見た。
それは白いフード付きのパーカーを着こんだ背の小さい人間だった。

12 :carnival (re-construction ver) Phase 1 -preparation-:2009/05/05(火) 01:42:22 ID:f3bDj8kw0
「何の用ですか?今、急いでいるので離して下さい!」

ユールはパーカーのフードを被って素顔を見せまいとしている彼に
(性別不詳なのだが、この人物を『彼』と表記する事にする)思い切って言った。
彼はゆっくり頭を上げ、そしてぼそっと一言だけ言った。


「全てを回帰に導くもの。三度目の闇の顔。
 …おまえが封じろ。それがお前の役目だ」


そう言った彼は静かに人垣の中に紛れた。

 ユールには、彼のその言葉がはっきりと聞こえた。
そして同時に違和感を感じた。
考えてみれば、人が多い所(それもかなり五月蝿い所だ)では
小さい声など聞こえるわけがないのだ。
だが彼の発した声は本当に小さく、絶対に聞き分けられないのではないかと思うほどであったが、
どういう事かユールはそれをハッキリと聞き取る事が出来たのだ。

「全てを回帰に導く……?闇を封じる…?
 あぁそうか、多分きっとあの人は……」

そこまで言って、ユールは右手を頭に添え、人差し指でトントンと叩いて言った。


「…ココがおかしいんだね」




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