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carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth- 前編

最終更新:

beatnovel

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52 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 14:33:29 ID:OJQSp64T0
 さて、これから「Phase2」に移行するわけだが、
ここでサブタイトルをつけてしまうとこの先の面白味が無いのでは、と不安に思う。
が、ここでサブタイトルをつけねば先には進めない。
そんな一種のジレンマを抱えつつ、私は嫌々サブタイトルをつける事にする。


 2999/12/25 22:21

カーニバルと呼ばれた遊園地で何かがあった。
普通では考えられない事が起きた。現実として確かに起きた。

私は、この事実を元にこの時代の背景を解説しつつ物語を構成するだけだ。
あり得ない展開だとか、これは一体何なのだ、ふざけるなと思われても仕方がない。


        何故なら、これはあくまで物語だからだ。

53 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 14:40:30 ID:OJQSp64T0
       人間には二つの面が存在する

   それの内の一つが具現化し人々に害をなす時

         もう一つの面が反旗を翻す

      それは人に勇気と希望という幻想を与える


 ユールが見たのは、心惹かれた人形と同じ容姿をした少女だった。
心惹かれた、という表現では誤解を招きかねないが、まぁいい。
 ユールはその少女に声をかけられ、
「へぁ?」と間の抜けた声を出してしまった。
クスッと少女が笑い、「ごめんなさいね」と言いながら続きを言った。

「あなた、『ユーレ』でしょ?」

ユールは、あぁこの子は何処かの地方の生まれで
言葉が訛っているのだと考えた。私の名前は「ユーレ」じゃないわ、とユールが言ってから続ける。

「私の名前はユール。分かる?『ユール』よ。
 っていうかあなたは何者?何で私の名前を?」

その言葉を受けた少女は、次第にその顔が歪んでいった。
誰が見ても、その歪み方は怒りや憎しみによる歪みではなく、
愉悦を感じてゆっくりと歪んでいったように見えただろう。
そして、数秒後に少女は噴いた。続けて「あは、あははは!」と少女は笑った。

「何、私何か変な事を言った?」
「いいえ。ねぇ、ちょっとついてきて」

少女はユールの手をとって土産屋の出入り口へと歩き出そうとした。
だがユールは足を踏ん張り、そこでブレーキをかけ、しかしそれでも足を止めない少女に言う。

「ちょっと、やめてよ!あなた一体何なの!?」
「あ、ごめんごめん。私の名前はトルセ。
 あなたに…ユールに用があってね。やってきたんだ」
「私に用?だったら今ここで話してよ」
「ゴメン、ちょっとここでは話せないんだ」

その言葉を聞いたユールはトルセと名乗った少女に警戒心を持った。
一体、何だってここでは話せないような用が私にあるというのだろう。
トルセはそんなユールのめくるめく思考を無視して言った。


「この建物の屋上は屋外カフェなの。
 そこでなら話せるわ。料金も今日なら無料だし、ね?」

54 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 14:51:27 ID:OJQSp64T0
 さて、私はここで解説が足らなかった事に気がついた。
本当に申し訳ないと思う。ここでお詫びを入れる。
 何の解説が足らなかったというと、カーニバルについてだ。
あの遊園地にある建物は全て、2000年頃に中世ヨーロッパと呼ばれていた
時代に建てられていた古めかしくも美しい建物をイメージとしているのだ。
古めかしいとかどうとかとは書いたが、そこまでは言及していなかった…はずだ。
 イメージできないという人は適当に画像検索でもかけて
一体どういうものであるのか、というのを是非調べてみて欲しい。
私がこういった建物に心惹かれる理由が少しながらでも分かると思う。

 話が逸れた。さて、ユールが謎の少女トルセに屋上に連れていかれたところから話を再開させよう。


 ユールの長い黒髪が西から吹く風に靡いていた。
そう、いま彼女とトルセは土産屋の屋上にある小さな喫茶店にいた。
 マスターを四方で囲むカウンターに二人が座って、
トルセがコーヒー、ユールも同じものをオーダーした。
それを聞いたトルセがユールに言う。

「ねぇ、他の物は注文しないの?ここ、今日限りのキャンペーン対象店なんだけど」
「それでも、欲は張っちゃいけないと思うんだ。
 それよりトルセ、いったい私に何の用なの?
 初対面なのに名前を知ってるって事は、下調べをしているって事なんだろうけど」
「えへへ……実はね」

後半部分から口調が変わった。快活なトルセの表情は真剣なものに変わった。
声の調子も、軽い感じのそれから重い感じのものになった。

「実はね、お願いがあるの」
「何、お金を出せって言うんなら、渡さないよ。
 正確に言えば、お金を持ってないから渡せないんだけど」
「そんなのじゃないわ」

トルセはそう言い、そして大きく間を開けてから言った。


「………あなたに殺してほしい奴がいるの」

55 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 14:56:20 ID:OJQSp64T0
 はい、アンタ逮捕ね。
もし自分が警官だったら…とユールは考えた。
もし自分が本当にそうだったら、トルセを即拘束、逮捕してやるのではないのだろうか。

「聞こえなかった。もう一回言って」
「あなたに殺してほしい奴がいるの」

自分の耳がおかしくなったのではないのだな、
とユールは思いながらトルセの顔を見た。
彼女の顔は狂人のものでは無かった。
ただ、そこには強い意志が秘められているとユールは感じた。

「あなたに殺してほしいのは、全てを無に帰す万物の敵」
「ちょっと待って、言っている意味が分からない。
 私、あなたとはここでさよならね。じゃ」

わけの分からない事を言いだしたトルセに
ユールはそう言ってその場を去ろうとした。が…


「じゃ、この世の終わりが来て、皆死んじゃえって事なのね?」


トルセはまたもわけの分からない事を話した。
しかし、ユールの意識にその言葉が強く留まった。
無意識の内にユールはトルセに向かって聞いていた。


「この世の終わりって、どういう意味?」

56 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 15:03:31 ID:OJQSp64T0
「約千年おきに起こる災厄。
 ミレニアムは、いつも世界の存亡のギリギリで過ごされていた」
「すべてを無に帰す万物の敵、だったっけ。
 そいつはいったい何者なの?万物の敵ってどういう事?」
「すべてが消されてしまう。
 私たち人間が、誰もが持っている感情によって。
 心の闇、それがすべてを無に帰してしまう……
 人間が世界を破滅させてしまう」

荒唐無稽にも程がある、とユールは思った。
あまりにも馬鹿馬鹿しい。心の闇、人の暗い感情が世界を滅ぼす?
勝手に言ってろイカレた電波女が………とはユールには思えなかったのだ。
そう思う一方で、クーリーなら「冗談いっちゃってー!」と笑い飛ばせただろうとユールは考えた。

「もう奴らはアレらを手にしている」
「アレって何?感情が顕現でもして何かを奪ったって言うの?」

トルセは驚いた顔をした。「何で私が言おうとした事を言ったの?」と言ってから、

「ま、察しがいいのね」

それだけを言って、マスターから差し出されたコーヒーに口をつけていた。
ユールも差し出されたコーヒーに口をつけ、それから言う。

「…それは何なの?」
「ここじゃ言えないのよ」
「また?」
「ま、飲み終わったら私の家に行きましょ」

私の家?とユールは耳を疑ったが、
トルセの話に興味を持ってしまった彼女のコーヒーを飲むペースは、誰が見ても明らかに早くなっていた。

57 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 15:14:09 ID:OJQSp64T0
 まぁ、話の展開に無理があると思うのは作者である私も同じだ。
だが、現実に起きたあの何かと仮想のこの物語を結びつけるための必要悪であった、と言い訳しよう。


    私は、本当は多分、現実に起きた話では、これより凄い展開であったかもしれない。と思う。


 確かにカーニバルの全てのブロックには沢山の建物が立ち並んでいた。
中には住宅街もあり、後々そこの家々が売られ、
希望する者はカーニバルに在住出来るという夢のような話もあった。
自分には関係のない事だとユールは思ったが、ここで彼女が気づいた事があった。

「まだ物件が売られていない」という事実だ。

ユールの前に立って歩いて先導するトルセが
まるでユールの心を読み取ったかのように言った。

「いろいろ事情があってね。先に私が……
 ホラ、あの白い屋根の家、分かる?」
「あぁ…っと……うん、アレかな?」

トルセが指さした先には、確かに白い屋根の1LDKの家があった。
一人暮らしするには十分な広さで、外見も清潔感に溢れていた。
現段階では展示物なのだから、当然と言えば当然なのだが……

58 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 15:24:28 ID:OJQSp64T0
 ユールはトルセの家(あくまでも彼女の自称だ)に入った。
家の広さ等は世間一般で言う所の「普通の家」であったのだが、
自分が住む家とこの家を比べて見ると、何と羨ましいことかとユールは思った。
 居間に案内されたユールはベージュの柔らかいソファーに腰掛け、
その座り心地に感嘆した。

「はぁ~、極楽だわ…」
「極楽って、いつもの生活はそんなに悪いの?」
「うん。まぁクーリーのおかげで生きてこられているけど」

へぇ、とトルセは返し、それから何かを持ってくるためか
キッチンへと向かい、そしてユールの視界から姿を消して言う。

「ユールの予想通り、私はあなたについて下調べしたわ。
 だからあなたの事は大体は分かっているつもり」
「それで私の名前が分かったのね。クーリーの事も
 知っているっぽい答え方をしたし。それじゃ、私のIIDXのSPの段位は?」
「そうね、六段でしょ?」

トルセの答えは見事に正解していた。
ユールは「あれ、冗談じゃなかったの?」とトルセに聞こえないように呟いた。

「聞こえてるわ。冗談じゃなく、本当にあなたの事については調べたの」

トルセが姿を消したまま言った。
本当に微かな声だったのだ。それが、どうして彼女に聞こえていたのだろう?
このやり取りを経て、ふとユールは思い出した。
白い……白い、何だっただろう。思い出せない。思い出したはずなのに思い出せない。
確かなのはそれとの接触の記憶。そして今抱いているのは、自分がそれになったような感覚だった。

59 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 15:33:06 ID:OJQSp64T0
「千年に一度、私たちの負の感情が
 私たちに害をなす……はい、二人でクッキー食べましょ」

トルセはクッキーの載った皿を持ってユールの所へ戻り、
そしてテーブルの上に置いた。ユールは礼を言ってクッキーを一つつまみ、そして口を開いた。

「美味しいね、これ」
「ここで売ってる安物だけどね」
「それでも美味しい事に変わりは無いよ。で、さっきの話なんだけど。
 千年に一度、どうして千年に一度なの?一体負の感情は何をしでかすの?
 そして、一体何を奪ったの?ねぇ、それは何なの?」

ユールの問いにトルセはクッキーを一つかじりながら答える。

「最後の問いにはまだ答えられないわ」
「どうして」
「ごめん、まだ時間が来ていない。今はその時じゃない」

そう言ってトルセはもう一枚クッキーをつまんだ。それを食べ終えてから話を続ける。

「人を操る。その人は自分の意思で動いているような自覚はあるけど、
 実際のところその人の思考は負の感情にコントロールされている」
「それで…何?」
「それで、例えば、第三次世界大戦が起きた。
 開戦したのは約三百年くらい前なんだけど、負の感情がそれを起こしたと言ってもいいわ」
「第三次世界大戦…人類は一度滅びるくらい、
 酷い規模の戦争だったって聞いてるわ。それを、負の感情が?」

トルセは無言で頷いてから言った。

「戦争の開戦時期を大きくずらした人がいるわ」
「それは誰?歴史上の人物?」
「いいえ。全く歴史には上がってない。
 でも、千年前では一部で有名だったみたい。
 それくらいしか知らないけど、そういう人がいるって事は確か」
「その人、どのくらいまで生きたの?
 まさか仙人みたいなアレで不老不死なんですっと事じゃないわよね」
「当然よ。そんな事は全く無い。
 彼が死んだのは2065年かしら。
 で、第三次世界大戦開戦が…確か2680年、終戦が2700年、そしてWOS結成が2870年。
 よく彼が長い間光を引っ張ってきたと考えると、凄いと思う」

光…とユールはつい反応して呟いてしまった。

「そう。人間が持っている負の感情とは正反対の感情。闇と光。
 ……彼は光り輝いていた。だから、広い場所に光が満ちていった」

60 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 15:44:56 ID:OJQSp64T0
「彼…ってさっき言った
 第三次世界大戦の開戦を遅らせた人?」
「そう。名前、性別などは不詳なのよね。彼って言っていいのかも分からない。
 でも便宜上彼で通すわね。…彼は心の闇に対抗する心の光の塊のような人だった」

それを言って、トルセはユールの目を覗き込みながら言った。

「ある強大な力が生まれる時、それに対抗する力が生まれる」
「え?」
「昔から残っている言葉を意訳すると、こんな訳になる文があるの。
 心の闇に対抗できるのは彼しかいなかった。
 彼は二度世界を救った。
 一度は限られた世界を、もう一度は文字通りの世界を」
「それは…一体なんなの?」

「聞きたい?」とトルセが問い、ユールは答えた。「是非」と。
分かったわ、とトルセが言って続ける。

「一度目の限られた世界とは……いや、世界っていうか、対象?
 そうね、音楽ゲームのファンを皆殺しにしようとした奴らがいたの」
「そんな昔に音ゲーがあったの?」
「今の音楽ゲームは遺跡から発掘されたものでしょ?
 昔にあってもおかしくも何ともないわよね」
「あ、そう言えばそうだ。というより、クーリーから聞いたんだったんだよその話」
「………それで彼が奴らを、闇を光で消し去ったの」
「でも、どうして皆殺しなんて考えたんだろう」
「途轍もない恨みなんかがあったんじゃないかしら。
 それで、二度目の危機。その対象は全世界の人々。
 ある人物の途轍もない全ての人間への絶望と怒りが全てを殺そうとしていた」
「例によって操られていた、と」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
 自分の意思で奴は人類を絶滅しようとしていたらしいのだけれど。
 でも、彼によって奴は倒された」
「殺した、の間違いじゃないの?」
「まぁそうなんだけど、ソフトな表現っていうか、ねぇ?」

トルセはそう言ってクッキーを一つ取った。
ユールはこの非現実性が溢れる話を一度整理し、再構成する。


  彼っていう正義の味方みたいな人がいて、
  その人は世界の危機を二回、それも未然に防いだ。
  …その彼、一体どんな人だったんだろう?

61 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 15:53:01 ID:OJQSp64T0
「でもね」トルセが唐突に言った。

「何?」
「彼がどんな人だったかは知らないんだけど、
 彼の子孫が誰かっていうのと、彼の遺したものは知っているんだ」

ユールはそれを無言で聞いていた。
彼の子孫は誰か。そいつは今でも生きているのだろうか。
彼の遺したもの。それは一体何なのだろうか。

  今までの話を総合すれば馬鹿馬鹿しいと一蹴する事が出来る。
  何が心の闇だ。千年に一度だの災厄だ。人を操って世界大戦を起こす?ふざけないで。
  何が彼だ。光の塊だ。心の闇に対抗して世界を守る?妄想も大概にしておいてよ。
  夢を見るのも大概にしておきなさいよ。ホント、超展開もいい加減にしなさい。

 ユールは言おうと思えば言えるだろうと思った。が、言えなかった。
彼女の心には何か確信に近い感情があったからだ。
その確信は何に対しての確信なのか、彼女は何となく分かっていたのかもしれない。
 クッキーがかじられる音でユールの意識は現実に引き戻された。
クッキーを食べ終わったトルセが「吃驚するよ?」と言ってからユールに告げた。


   「彼の子孫、彼の血を継いでいるのは……………ユール、あなたよ」

65 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 23:47:14 ID:OJQSp64T0
 ここまでの話の流れを整理してみよう。

 主人公ユールは友人のクーリーと共に
BEMANI追体験プロジェクトで建造された巨大遊園地「カーニバル」に遊びに行く。
 レイヴン大陸の経済がこのプロジェクトで潤ったという事もあって
予算がかなり大きく取れたからか、カーニバルは本当に広い遊園地となった。
その規模は、一日で全部を歩き回るとなると厳しい広さになったほどである。

 カーニバルへ向かう途中、ユールはキリー、アルベルト、アリスといった
それぞれ違う音楽ゲームのプレーヤーであり友人と出会う。
 彼らとは別にユールとクーリーはカーニバルへ向かい、
そして二人はお互いの目当てのものに行くため一度別れる。
 ユールがポップンをフューチャリングしている第一ブロックの
土産屋に入って物色していると、そこにある人形そっくりの少女、トルセが現れた。

 トルセの家(と彼女が勝手に称している)に上がるユール。
そこでユールはもてなしを受けつつ、電波風味たっぷりの事を聞かされる。
世界を一度壊滅まで追いやった第三次世界大戦の開戦のキッカケが、
その他多くの争いの原因が、千年に一度活性化する人々のネガティブな感情、
トルセが言うには「心の闇」によって引き起こされたというのだ。
 だが、ユールにはこれが電波や妄言には聞こえなかった。
何故か真実味を帯びているように聞こえたからだ。そんなユールにトルセは衝撃的な事実を告げた。


「約千年前に生きていた心の闇に対抗する事が出来た人間の子孫、それがユールなのだ」と。

66 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 23:54:40 ID:OJQSp64T0
 ユールはあまりにも予想外の事を突き付けられたからか、
それとも密かに予想していた事が当たっていたからか、
どちらかは分からないが、とにかく押し黙っていた。
 沈黙の中、ユールがクッキーを食べる音のみが居間に響く。
彼女には何かを食べたりして意識をそちらへ持っていこうとする
一種のパニック状態からなる突飛なな行動を起こしていた。と私は分析する。
 ユールが三枚目のクッキーを食べ終え、
そして幾許か正気を取り戻して彼女が言った事は、

「それ、マジで言ってんの?」

それだけだった。
本当に、たったそれだけ。

「マジで言っているんだけど」
「マッジッで?」
「マッジッで」
「いや、嘘でしょ?」
「いやいや、ホントなんだよねこれが」

信じられなかった。ユールはこれが現実であるとは思えなかった。
そんなまさか、(トルセの話を鵜呑みにすれば)英雄的存在の子孫であるとは
全く信じられない事であった。
 そんなユールの様子を無視するかのようにトルセが続ける。

「ユール、あなたには彼が遺したものを見て、
 それ継がねばならない義務がある。一緒に来て」
「ねぇ、そんな事を言う証拠はどこにあるの?」
「これから見せるものが証拠になる。
 ちょっとまた外に出て歩かなきゃいけないけど、ほんのちょっとだから」

67 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/23(土) 23:59:46 ID:OJQSp64T0
 あぁ、私とした事がとんでもない間違いを犯してしまった。
カーニバルが一体どのような作りなのか、まだまだ書き足していなかった。
 第一から第四までのブロック(を繋げて菱形をかたどっている)と、
半島に作られた駐車場の他に、もう一つ重要な施設があった事を書き記していなかった。
 その施設はターミナルタワーという名称(略称はターミナル)で、カーニバルの名物ともいえる。
これもまた書き記していなかったが、メトロという地下鉄の中継地点の役割を果たしている。
他にも半径1.5km、高さ3kmの巨大な円塔の形をしたそれは
高所からの絶景を見る展望台としても機能する。
 根元は海底でしっかり固定されているため、ターミナルにどれだけの人が来ようが何しようが絶対に倒れないようになっている。
そしてターミナルからの落下などを防ぐ為に不可視のバリアーが、
ターミナルの頂点をドーム状で覆っている。これによって来園客が落下死する危険性は無い。


 さて、トルセはユールとメトロを使ってターミナルへ行く事を表明、
ユールは「そんな所に彼が遺したものなんてあるのか」と反抗、そして、

「っていうか、ターミナルなんてないじゃん」

四つの島でかたどられた菱形の中に、トルセが説明したような塔は何も見えなかった。
見えると言えば、何故か一羽の烏が海の上を飛んでいるくらいのものだった。

68 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/24(日) 00:05:30 ID:i38kar0c0
「いや、まぁ、それはね?」

トルセが言った。その口調にはちょっとした動揺が見て取れる。
外へでて、第一ブロックの北の方へ移動していた二人の間に沈黙が流れる。
 ユールの視界には東レイヴン海が見えていた。
先に書いたように、ターミナルは全く見えていない。
一羽の烏がカー、カー、と鳴き声を上げて海上を飛びまわっているだけだ。
 不意にトルセが歩く足を止め、そして思い出したように口を開いた。

「それは、あの、時間が来ていないんだ!まだ時間じゃないんだよ」
「時間?」
「そう、時間だよ。今は…そうか、まだ10:00じゃないのか。
 まぁ待って待って待って。もうすぐ塔が出てくるから」

ユールがMPDで現在時刻を確認する。
確かに09:58をMPDは示していた。
あと一分と少し………まだ?ターミナルとやらは出てこないの?

「彼の遺したものって…」

唐突にトルセが言った。
その言葉でユールの興奮した意識が現実に引き戻される。

「ユールは一体何だと思う?」
「……財宝、とか。
 もしそうだったら、私は彼の血を引いているんでしょ?」
「そうよ」
「だったらそれを少しだけでももらう権利が私にはあるはず。
 ・・・・・・って思ったんだけどね、夢を見すぎたかなぁ」
「全ッ然違う。彼はそんなものを残さなかった」
「ケチね」
「何を言っているのよ…
 あれは、彼が最後に闇と戦った時に使っていたものなのよ」
「戦いの道具?銃とかそんなの?」

トルセは首を横にを振った。どうやらユールの予想は違うらしい。

「じゃあ一体何なのよ、その彼の遺したものは」
「それは…」

トルセが口を濁らせ、そしてためてから言った。

      「彼が遺したものは………ひと振りの剣よ」

69 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/24(日) 00:09:57 ID:i38kar0c0
「はぁ?」とユールの頭の中にテキストが浮かんで消えた。
どうやら彼とやらは遺すものを間違えたらしい。
 普通なら財産だとかそういうものだ。
そうでないというのなら、自分が大切にしていたものとかを遺すだろう。
だが彼はたったひと振りの剣をのみ遺して死んでいったのだ。
 とんでもない笑い話だ、とユールは思った。

「じゃあなに、その剣でもって闇をやっつけろって事?
 殺してほしい奴がいるって、それは心の闇の事よね?」
「そう。そして、ユールにはもう一つだけやって欲しい事があるの」

トルセはそう言って北の方へと歩き出した。
今の時代、誰かを殺す際に剣を使うなんて…とユールは変な笑いを浮かべながら
トルセについていき、そして第一ブロックメトロステーションの入口前に立った。
 ここは東レイヴン海が良く見渡せ、先の一羽の烏がより鮮明に見える場所である。
ユールがトルセに「それって何?」と問い、トルセが答えた。

「それは…剣との対話よ」
「え、対話?」
「そう、対話よ」
「待って、剣に人格がない限り、対話や意思疎通なんて」

出来る訳がない、とユールが言おうとしたまさにその時、
彼女の視界の中に巨大な水柱が上がった。

「約千年前」

ごおおおぉぉぉ!!!!ともの凄い水しぶきが轟音を伴い、
激しく波打つ海面から現れた巨大な塔を見ながらトルセが呟くように言った。

「彼は人格を宿した剣を創り上げた」
「え?水の音が凄くてよく聞こえない!」
「…名の無き剣。ユール、名前はあなたが決めて」

トルセはそう言うと、空高く舞い上がった水が霧状になって落ちてくるのも気にせずに
メトロステーションへと降りていった。

「名の無き剣?名無しの剣って事?」

ユールは呟き、頭に霧状になって降り注ぐ水を浴びながら、駆け足でトルセの後を追った。

72 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/24(日) 23:55:26 ID:i38kar0c0
 さて、ここにカーニバルについての資料が私の手元にある。
と書いても、その資料は園内で無料配布されているパンフレットであるし、
読んでくれている人の目に触れさせる事は出来ない。残念ではあるが。
 資料によると、地下鉄、いや、そこではメトロと呼ばれる地下鉄は
ブロック間移動の為にあるものである、とされている。
ブロック内移動ならば無料運行バスなどを利用すれば良いようだ。
 メトロを使う上で面白いと思った事が一つある。
海底トンネルを走り、必ずターミナルを経由し、
一度そこで停車し、乗客の乗降車を行い、そして目的のブロックへと移動する事だ。
その程度の事か、と思われるだろうが、これも解説の内とさせて頂こう。


 メトロもこの日は無料運行であった。
だが、第一ブロックの客の殆どがパレードの追っかけに走った為か、
第一ブロックステーション発第三ブロック行きのメトロに
乗車しようとする客はユールとトルセと他数人だった。
プラットフォーム中にPCMのアレンジされた楽曲のみがこの場を満たしていた。
 待つこと数分、メトロが第一ブロックの中心の方角から
キイイィィィとブレーキを軋ませる音を立てながらプラットフォームで横の腹を開けた。
数少ない乗客を乗せたメトロは海底の世界に旅立っていく。

「うわぁ、綺麗!」

ユールは適当な席に座りながら窓から海底の風景を見つめ、そう感想を流した。
数年前、クーリーの家で旅行番組を見た時の綺麗なな海底の映像とそっくりだったのだ。


(ここで補足。
 カーニバル建造のような大規模な工事を行えば
 多大な汚染などが懸念される、と思われるだろうが
 この時代の技術を以ってすれば汚染被害を極最小限に抑える事が出来る。
 ユールが海底を綺麗だと言ったのもそのためである)

73 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/24(日) 23:57:12 ID:i38kar0c0
 高速で流れる海底の景色は30秒も経たない内に終わった。
暗い鋼鉄の壁や床、天井で構成されるターミナルメトロステーションの
プラットフォームにユール達は降り立った。
 外とは違い、地下のプラットフォームは少々冷えていた。
それも、息を吐けば口から白い煙が上がるほどに。
何かが変だ、とユールは感じた。
第一ブロックの方はそれほど寒くも無かったのに、
どうしてターミナルの方はこれほど寒く感じるのだろうか……

「ねぇ、寒くない?」

ユールは耐えかねたかのようにトルセに同意を求めた。

「当然よ、寒いに決まっているじゃない」

トルセは同意はしたが、その返す言葉に違和感を孕ませていた。

「まぁ、海底だし?」

ユールはそう言い、トルセは首を縦に振って続ける。

「剣が保存されるには大体この位の温度が適切なの」
「じゃ、その剣とやらがここにあるって言うのは本当なのね?」
「疑っていたの?」
「いいえ、ちょっと信じられなかっただけ」

同じじゃない、とトルセが返し、ついてきてと言ってユールを誘導した。
乗客たちが目指すターミナル屋外とは正反対のほうにプラットフォームを歩く。
 数十歩歩き、トルセが周りに人がいないのを確認してからしゃがみ込んだ。
ユールもそれに倣って膝を曲げる。
 トルセが床に手をかざし、何か呪文めいた言葉をボソッと呟くと、
何の変哲のないコンクリートの床が光を発してから左右に開いた。

「嘘…こんな、こんなことが。こんな所に音声認識チェックシステム?」

ユールは信じられないといったようにそう漏らした。

「これは嘘じゃない。現実よ」

トルセがなにか冷やかに感じるような語調で返し、床に出来た穴に飛び込んでいった。
 しばらくして「ユール!こっちに来てー!」とトルセの声が反響しながら穴から響いた。
「南無三…!」とユールは呟き、トルセの声に従った。


 誰もいなくなったプラットフォームにぽっかりと開く穴は、静かに閉じていった。

74 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/24(日) 23:59:13 ID:i38kar0c0
 落下時間は一秒と少し位の程度のものだった。
何の着地の備えをしていなければ、着地時に相当な衝撃が来ても
全く不思議では無い高さであるという事を時間は物語っている。
 だが、ユールを襲うであろう両足への衝撃は全くと言っていいほどなかった。
何か柔らかいものを踏んで、それに全身を包まれるかのような感触。
 そんな不可思議な感覚は直ぐに過ぎ去り、残されたのはユールが怪我をしなかったという事実だけだ。

 ユールが立っている場所は暗闇で満ちていた。
自分の体すら見る事も出来ないほどの暗闇が、彼女のいた空間を支配していた。
 暗闇は人の心に不安を生じさせる。
人外の恐怖心を煽る存在が現れるのではないか、
それともどこからか誰かが現れ、何かしらあれこれされるのではないか……
 ユールも例外なく不安に襲われていた。
不安で心が一杯になり、たまらずトルセの名を呼ぶ。
しかしユールは自分の声が暗闇の中に吸い込まれていくかのような錯覚を覚えた。

                   「大丈夫」

 聞き覚えのない誰かの声が聞こえた。
「誰!?」とユールが反射的に問う。すると、

    「『僕』はここにいるよ」

 声はそう答え、そして暗闇の空間に一筋の光が差し込んだ。
そのおかげで、ユールは自分がどこかの通路にいる事に気がついた。
ユールは光が差し込む方角へ歩を進め、そして見た。

「一体これは……これは何なの?」

ユールの目には円形に広がる、白一面の大広間が見えた。
その中央には絢爛たる台座が、そしてそれに突き刺さっている物が一つ。


        明らかに「剣」だと分かる武器だった。

75 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/25(月) 00:01:04 ID:zOR7Q4XE0
 剣の種類として、西洋の剣と東洋の剣というものがある。
前者は両刃で真っ直ぐの形をしたもので、切れ味が悪く、
後者は片刃で曲がった形をし、切れ味が良いという。
 ユールが見た「剣」は丸みを帯びた刃渡りが短めの西洋の剣だった。
ユールはその剣が突き立てられている台座に歩み寄り、そして口を開いた。

「私に呼び掛けているのは、あなたなの?」

ユールの声はこの白く広い空間に響き渡った。
残響が全て響き終わると、剣が身震いを始めた。

「そう。君の意識の中に語りかけている。
 やはり、君は僕と近しい…」
「ねぇ、一体これはどういう事なの?
 あなたは一体何なの?私、あなたの何なの?
 先祖がどうこう言っていたけど、私の先祖はあなたなの?
 どうやってあなたは闇を払う事が出来るの?」

ユールは矢継ぎ早に剣を質問攻めにした。
剣は「ちょっと待ってよ」とユールを落ち着かせてから答える。

「正確に言うと、君は僕の直接の子孫じゃない。
 多分、とうに僕の血筋は途絶えていると思う」
「じゃあ、どうしてトルセは……」
「あぁ、彼女にはあとできつく言っておくよ。
 どうして誤解を与えるように説明したんだ、ってね。
 僕は生前、献血とかそういうのに積極的になっていた。
 だから、僕の血を継いでいる人がいてもおかしくないって訳だね」
「つまり、私は無作為に選ばれた人ってこと?」
「そうかもしれないし、もしかしたら君の先祖が僕の血を継いだのかもしれない。
 でも、彼らは僕の血がどうこうというのは関係なしに誰かを選んでいる」
「彼らって?」
「僕を選んだ光。彼らは僕に闇を払う力を与えた。
 その力は僕の血に依存してはいるけどね、でも、血を継げば闇を払えるって思ってやしないかい?」

ユールはそこで返答に困った。
「彼」、いや「剣」の力があれば心の闇を払う事が出来ると言ったのは、
いや、言ったのも同然の事を言ったのはトルセだ。そう勝手に解釈したのは私なのだけれども。
彼女が嘘をついていた、とも考えられない。全く、訳が分からない。
ユールの思考回路はオーバーヒートを起こしかけていた。

76 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/25(月) 00:06:48 ID:zOR7Q4XE0
「大事なのはね」と剣がユールに語りかけた。

「人を思いやる心の強さだ。
 大切なものを守りぬく意志の強さだ。そう、心の光の強さだ」
「それが無ければ、奴らには勝てない?」
「そういう訳じゃないけど、奴らに止めを刺す事は出来ない」
「じゃあ、どうしてあなたがいないと闇を祓えないの?私の脳を洗脳でもするの?」
「闇は祓うものじゃない。光に当てて仲間にするものだ。
 僕は生前、そうやって人を更生させてきた経験がたくさんある。
 でも、手の施しようがない闇とは、光をもって戦うしかない」
「だから、光の塊のようと言われるあなたが必要なの?」
「そう。君には僕の一部が血として流れている。
 …僕の意識が寄生しているこの剣は、ちょっと普通の人が使うには荷が重すぎてね。
 だから、僕の一部を持っていなければこの剣は使えないんだ」

ユールはこの言葉を聞いて一歩後ろに足を下げた。
普通の人が使うには荷が重すぎる?一体何を言っているんだろう…
不安になったユールはもう一歩退いた。そんなユールに剣が語りかける。

「いやいや、何も怯える事は無いよ。
 普通の人が僕の柄を持つと精神崩壊するってだけ。
 何て言うか、僕の寄生している剣って普通じゃないんだ。
 ちょっとフィクション物のね、ほら、何かのゲームとかに出てきそうな
 そんな感じの剣なんだ。クソったれとは思うけどね」

しれっと恐ろしい言葉を言った剣は「ほら」とユールに優しく語りかけた。
ユールは恐る恐る剣の柄に右手を伸ばし、触れる寸前で小さな奇声を上げて引っ込め、
「何でこんな事に!!!」と叫びながら、今度は勢いよく手を伸ばして柄を握った。

77 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/25(月) 00:10:39 ID:zOR7Q4XE0
 その時、ユールの脳内に莫大な情報が流入した。
誰かの記憶のようなそれは、とても温かみあるものだった。
 だが、この記憶が持つイメージのベクトルはある時を境に変わっていく。


秋の日、この記憶はある人物と出会った。


それを境に今まで見たことのない人物と出会い、

得体の知れない何者かと戦い、

その記憶に近い記憶で言いようのない危機感を覚えたり、

ユールが手に握った剣のような形をした剣を記憶の中で見て、

それを振るって大勢の何者かと戦い、そして一つの黒い影と対峙した。


そしてしばらくの記憶の流出の後、一人称のカメラは静かに下に崩れ落ちていき、
記憶が映し出す映像が徐々に黒ずんでいき、やがて真っ暗になった。

78 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/05/25(月) 00:15:32 ID:zOR7Q4XE0
「これが…」剣が言った。
その声はユールの意識に語りかけてはおらず、確かに空気を震わせていた。

「これが、君の相手になる存在だ。
 正確に言えば、君が見たのはひとつ前の闇だから今回の奴ではないけど」

嘘だ、とユールは思った。
あれ程に強そうな、恐らく剣が負けてしまった存在に
私のような戦いのド素人が勝てるのだろうか?
ユールは無理だ、と答えた。それに剣が時間を置いてから返す。

「なに、戦うのは君だけじゃない」
「え?」
「君の友人たちにも手伝ってもらう。奴は仲間を従えてやってくるからね」
「ちょっと待って、一体どういうこと?」
「もうトルセが…アルベルト君だったかな?」
「え?…私の友達だけど、アルがどうかしたの?」
「そのアルベルト君の所に向かっているはずだよ」
「待って。彼は、彼らは関係ないわ」
「だったら君は、奴の他にいる四体の敵を自分一人で倒せると思っているのかい?」
「四体の…敵?」
「奴はちょっとしたシャレが通用する奴みたいでね。
 アレら四体の敵を知った時、思わず体が弾んだよ。体なんてないけどね。
 けど、今ここで奴の仲間達をばらしてしまうと面白くない。
 まぁ、君の友人たちも事情を話せば分かってくれるさ」

そう剣が言って「さぁ行こう」と続けた。
ユールがどこへ行くのかと尋ねると、剣は明るく答えた。

「決まっているじゃないか。僕も外に出たいんだ。
 まずはここからずっと上に行ってみようじゃないか!」

剣はそう言って、ユールの手の中でネックレスへと姿を変えた。
驚くユールを無視して自分を首にかけるように言い、次に酷くシリアスな声で続けた。

「君の選択は成された。ちょっとなし崩し的だったかもしれないけど。
 だから、僕と一緒に奴を倒してほしい。命の危険もあるけど…すまないね、こうなってしまって」

ユールは消え入りそうな剣の声に優しく答える。恐らく、彼女の人生の中で一番優しさに満ちた声で。

「大丈夫。ちょっと現実離れしている話だなって思うけど、
 私はあなたと一緒に戦うよ。私には大切なものがあるの。だから、一緒に戦おう!」

ユールは答え、そしてもと来た道を戻り、前から設置されていたと思われる梯子を昇り、
プラットフォームに出て、そしてターミナルタワー屋上を目指した。
数少ない通行人の誰かの目に、彼女の双眸と首にかかる剣が一瞬この薄暗がりの中で輝くように見えた。





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