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carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth- 中編

最終更新:

beatnovel

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90 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/01(月) 23:51:33 ID:Hb6RZDS50
 さて、ここで物語を整理しておきたい。
読み手側は何の苦労も無く読んでいるだろうが、
書き手である私の中では少しだけ混乱している所があるのだ。そのまとめの意味も込めて、整理だ。

 ユールはトルセの導きによって
人格を宿す「剣」と出会い、そしてそれを抜いた。
「剣」が言うには、ユールが戦う相手は、
「剣」の人格が生前に破れた敵、闇の塊のような存在だった。さらに「剣」はこうも言った。


「奴は仲間を従えた。だから、僕たちも仲間を揃えなきゃいけない」


 ユールが「剣」と対話をしていた頃、トルセは第三ブロックへと歩を進めていた。
どこも変わらず中世ヨーロッパの街並みであるのだが、
このブロックで流れている音楽のジャンルは、他の二つのものと異なっていた。
「ロック」である。GFdmをフューチャーしているのだから、それは当然といえるのだが。
 同作品で人気の曲が園内スピーカーに響き渡り、
円形の島の中心からクモの巣を張り巡らすように通路をかたどる建築物に囲まれた
広大な中央広場のライブステージでは、ひっきりなしに誰か彼かがバンド演奏をしている。
しかし、GFdmの筐体を用いてセッション機能で…というものではない。本物の楽器を演奏している。
 一般客やプロの人々などその演奏者の層は幅広い。そこで演奏される曲も、音ゲー曲やそうでない曲など幅広い。
受付に届けと少々のお金を出せば、大勢の人の前で演奏が出来た。
 そして面白い事に、楽器の演奏が出来なくても、
楽譜を受付等しかるべき所に届け出さえすれば、演奏者たちが演奏してくれるのだ。
 全くの素人が演奏しなくても、どんなに酷い楽譜を書いたとしても、
最高の演奏者たちが一般客から寄せられた曲をアレンジし、それが物凄い人気曲になる事が何度かあった。

 これより数か月先の未来での話の事なのだが、
カーニバルのこのシステムを利用した「一般楽曲収録」がGFdmシリーズの企画で行われた。
これまでの一般募集された楽曲でアンケートを行い、もっとも獲得票の多い楽曲が本製品で収録されるというものだ。
勿論、新規も受け付けていた。
調べてみると、約千年前、他機種でも同様の事が行われたという事が分かったが、
恐らく規模としては、そして、この時代…「音ゲー熱狂時代」においては全く敵わなかったかもしれない。

91 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/01(月) 23:53:18 ID:Hb6RZDS50
 トルセはユール達がカーニバルへ到着する数週間前から「剣」の命令を受けていた。
ユールや彼女と交流の深い友人たちの情報を探る命令を受けていたのだ。
トルセがユールの名前を知っていたのも当然のことというわけだ。
惜しい点は、彼女の調査上のミスで、ユールの名前を微妙に間違ってしまっていたのだが…
 そして、ユールの友人たちに発信機を付けることにも成功していた。
カーニバルピエロとして、パレードの練習の合間を縫っては第五地区へと赴き、
ユール達の情報をもとに彼女自身や彼女の友人へ接近し、
ユールらターゲット5人に発信機の取り付けが出来たのだ。


カーニバル第三ブロック中央広場 11:20


 資料によると、この時刻の第三ブロック中央広場では
先述のライヴが行われていたらしい。
時間から推測すると、この時演奏されていた曲は「DAY DREAM」であるようだ。
……本当に演奏できるのか、あの曲は?
タイムマシンでもあれば、確かな情報を手に入れる事が出来るのだが……
 演奏者は広場の中央にある大きな円卓の形をしたステージでパフォーマンスをする。
ギター、ベース、ドラム、キーボード。
それら四つの楽器とその演奏者が奏でる音楽、そして円卓を囲む大勢の人々の歓声。
この音達が円卓を中心に第三ブロック全体に広がってゆく。
その時、そこには上座も下座も無く、音楽を愛する人々が平等にその時を楽しむのだ。

 演奏が終わると、次のライヴは13:00からという告知がなされ、
円卓を囲んでいた人々は広場から離散した。
 それでも、まだ円卓の前で立っている人々はいた。
離れた場所からライヴを楽しみ、そして監視していた人物…トルセはその中に標的を見つけ出した。
赤いコートを着た背の高い赤毛の少年。ついでに、赤いワンピースを着た背の低い赤毛の少女。

「バレンタイン兄妹……背の高い方がアルベルト、背の低い方がアリスだったわね……」

92 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/01(月) 23:56:27 ID:Hb6RZDS50
「ねぇ、そこのお兄さんとお姉さん!」

ライヴの余韻に浸っていたバレンタイン姉弟は
後ろから聞こえた少女の声を聞いて振り返った。

「俺達の事?」「私達の事?」

アルベルトとアリスは同時に振り返ってハモった。
二人が見たのは、やはり一人の少女だった。
白い肌と薄い青のセミロングの髪と赤がかかった綺麗な黒眼を持つ少女だった。
「私、トルセっていうの」と少女は言った。
そのまま少女、いや、トルセは言葉を続けようとしたが――

「可愛いねぇ。これからどこかお茶しない?」

アルベルトが時代に取り残された口説き文句を駆使してトルセをナンパした。
そこへ間髪入れずにアリスが空高く舞い上がり、
大振りの平手打ちでアルベルトの頭を強打、パシーン!と良い音が辺りに響き渡った。

「痛ってぇなぁああ!?」
「この馬鹿アル!!すみません、私の愚弟が……」

トルセは一連のこの流れに圧倒されていた。
え、あれ?アルベルトの方が兄じゃないの……?

「あれ、君、もしかして俺が兄だとか思った?」
「え、何で?」
「ほら、顔に書いてあるからさ。誰だって分かるぜ」

アルベルトは右手で姉に叩かれた箇所をさすりながら言った。
トルセは携帯していた手鏡で自分の顔を見ようと一瞬思ったが、言葉のあやだ。
それは無駄な行為なのだと思い直し、自分が伝えなければいけない事を二人に告げる。

「ユールって知ってる?」
「え?知ってるけど、何であいつの名前を知ってんの?」
「色々事情があったの。それで、あなた達に用があるんだけど……」
「トルセって言ったよね?」
「え?えぇ、言ったわ」
「あなた一体何者なの?彼女のストーカー?止めときなさい、あなた死ぬわよ」
「そんなのじゃないわ。これは彼女について重要な意味を持つの。
 あなた達、ユールの友達でしょう?話だけでも聞いていってよ!」

93 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/01(月) 23:58:15 ID:Hb6RZDS50
 そういう訳でトルセと、アルベルト、アリスの三人は
近くの喫茶店へと入っていったのであった。
当然、アルベルトとアリスはトルセに不信感を抱いてはいるが、
トルセが見せる真剣な表情に少しばかり心を動かしたのである。
 いらっしゃいませー、と三人が店内へ入り、カウンター席に座った時、
近くのテーブルで片づけをしていた店員がマニュアル通りの応対をした。
ヘヴィロックが響き渡る、とても喫茶店に似つかわしくない店内BGMが流れる喫茶店で
アルベルトはサイでオーダーしたものと同じものをオーダーした。
「とことん苦いブラックコーヒー」である。アリスもオレンジジュースをオーダーした。
双子だからなのかそうでないのか分からないが、彼女もサイでオーダーしたものと同じものを
オーダーしていたのだが、二人はそれを自覚してはいなかった。
「で、ユールにとって大事な話って何なんだよ」とアルベルトは不機嫌そうにトルセに聞いた。

「彼女は今日死ぬかもしれない」

きっぱりと、そしてあっさりにトルセは言った。

「死ぬかもしれないって、一体どういう事だよ(なの)!?」

双子の姉弟はハモりながらトルセに怒鳴るようにして訊ねた。

「千年に一度、世界は終わりに瀕する。人の心の闇によって」
「おい、新手の新興宗教の宣伝かよ。なぁ、姉ちゃん」「それで一体何なのよ」

双子は呆れたように言ったが、トルセの目が真剣なのを見て口ごもってしまった。

「この世が終わりを迎える時、この世を持たせようとするものがいる。
 心の光。千年前も二千年前も、心の闇に対抗する心の光があった。
 それを強く持つ者の手によってこの世は存続している。ありがたい事よね」
「へっ、おとぎ話はそこまでにしてくれよ」「何かのファンタジー?下らない」
「くだるもくだらないも、あなた達次第よ。
 …ユールは千年前に心の光を強く持った人間の血を受け継いでいるの。
 その証拠に剣を抜く事が出来る」
「はぁ?剣?」「この子、何を言っているのよ…頭、イッちゃってるんじゃない?」
「後でユールと会ったら『剣を見せて』って、
 私から聞いてと言われたとでも言って見せてもらえばいいわ。
 それじゃ、13:00にターミナル最上階、コンサートホール前の広場で待っているから」

トルセはそう言うと席を立ち、無言で喫茶店を出た。
その後、アルベルトとアリスはオーダーしたものが渡され、
それに口をつけていくが、二人の顔には今まで浮かべていた楽しげな笑みは無かった。

94 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/01(月) 23:59:40 ID:Hb6RZDS50
カーニバル第二ブロック大ホール前 11:47


 午前中のパレードが終了し、落ち着きを見せ始めたカーニバル。
その中で一番人口密度が大きい所は第二ブロックだと推測できる。
作中、クーリーがトルセに語っていたように、
この日はIIDXの15作目「DJ TROOPERS」の超先行体験会が
第二ブロック大ホールにて開かれていたのだ。
 クーリーは二時間ほど前にホールに入場し、その約二時間後にプレーを終えてこの時刻で外に出た。
クーリーの目には晴れ渡る青空が広がっていた。
今まで少し暗い所にいたからか、光が目に刺激を与えているらしく、両眼には涙が浮かんでいた。
 ユールに連絡を入れてみよう、とクーリーは思い立ち、
ホール前の小さな広場にある小さなベンチに腰掛け、MPDを手に持った。
画面を開くと、それはアルベルトからのメールが届いている事を知らせていた。

「ん?アルからメールだ。どうしたんだろうなぁ」

独り言をつぶやきながらクーリーはメールを閲覧する。

『ちょっとヤバい奴に出くわした。
 ユールの命に関わる話とか言って訳のわかんねー事を聞かされた。
 心の闇がこの世を終わらせるとか、心の光がこの世を救うとかさ、意味がわからねぇ。
 アイツ、俺達に会った事も無いのに俺達の事を知ってやがった。
 もしかしたら、クーリー、お前もアイツに訳わかんねー事言われるかも知れねぇぞ』

アルベルトの言う「アイツ」の言う事が狂言であれ何であれ、
ユールが死ぬなどとあり得ない話を是非とも聞いてみたい。
あの少女が誰かに殺されたり、自分から死のうとするはずがない。
十七年にも及ぶ付き合いだ。その年月からくる確信をクーリーは持っていた。

 だが――だがしかし、だ。
何だろう、この腹の底から湧き上がってくる中身のない感情は。
クーリーはしばし思考を巡らせ、そしてそれの正体を悟った。
彼が抱いていた感情は「不安」だ。言いかえるなら、それは「嫌な予感」とも言いかえられる。

95 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/02(火) 00:01:12 ID:Hb6RZDS50
 同時刻、トルセは自分のMPDの画面を注視していた。
画面上部には「発信機情報 キリー・トーレン」とある。
赤く発光する点は青い画面上に描写されたカーニバルの南方の島、つまりは第一ブロックにあった。

「ここって言うとあのレストランね……急ごう」


カーニバル第一ブロック「レストラン 歩伏」 12:03


 久しく出番のなかったユールの友人、キリー・トーレンは
第一ブロックの中で比較的人気のない歩伏(ぽぷ)でカレーライスを食べていた。
ブロックのレイヴン海の岸に近い場所にある歩伏の屋外席で
キリーは海を見ながらスプーンを動かす手を止める事をやめない。
 トルセが歩伏に入店、屋外席に座り、店員にメロンソーダを頼んで
キリーの座る席の向こう側の席に座った。

「あ、今日は」

キリーは目の前に座ったトルセに挨拶をする。
ちゃんと挨拶が出来るという事は、いい人なのだなとトルセは思い、そして言った。

「今日は。あなた、キリー・トーレンよね?」

驚いた顔を見せるキリー。
初対面の人間にいきなりフルネームを呼ばれるのだ。無理は無い。

「え、えぇ。そうですけど……」
「大事な話があるの」
「大事な話…ですか?」
「えぇ。あなたのお友達に、ユール・クーリーって子がいるでしょ?
「ユーの事ですか?はい、いますけど」

96 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/02(火) 00:20:27 ID:2MrfRm4g0
ここでトルセは喋る口を止めてしまった。
もし、キリーにもバレンタイン姉弟のような反応をされ、
協力を拒まれたら……という不安がよぎった。
だが、それでも言わねばならなかった。それが自分に与えられた役目の一つなのだから。

「そのユールの事なんだけど」
「はい」
「あの子、今日の夜に死んでしまうかもしれない」

はい?とキリーが返す。当然だ。いきなりお友達の誰それさんが今日死んでしまいます、
などと言われるのだ。それは良かったです、と返す人間は相当頭がイッちまった奴に違いない。

「信じてくれないかもしれないけど」
「いや、ユールは誰かに襲われて殺されるような人じゃないですよ
 殺そうと思って近づいても、あのボーイフレンドがいるし、
 それに、彼女はケンカが滅茶苦茶強いんですよ。
 殺されるなんて考えられないし、あっさり死んじゃうような子だって思えない」
「いや、そういう事じゃなくて。
 ファンタジーめいた事を口走るようで悪いんだけど、ちょっといいかな」
「えぇ」
「千年に一度、この世界は存亡の危機に瀕するの。
 人間、誰もが持つ負の感情、心の闇によって」
「続きを」
「そうやって危機に瀕すると、善い感情、心の光が現れる。
 これも、誰もが持つ感情よ。心の光を強く持った人間が心の闇に立ち向かうの」
「それで?」
「ユールの体には、千年前に心の光を強く持った人間の血が流れている。
 だから三度目の世界の危機を救うのはユールなの」

しばし沈黙が流れた。いや、厳密に言うば、東レイヴン海がもたらす
かすかに聞こえる潮騒がこの場の空気を満たしていた。ざぁ、ざぁと小さく。
その消音に限りなく近い空気は、キリーの口から洩れた何とも形容しがたい音によって壊された。

「ぐっ…ぷふっ…え?今何て言いました?…ぐふふっ」
「三度目の世界の危機を救うのはユールだって言ったんだけど」
「あっははははは!!それはユールらしいわね!
 確かにそんな事が出来そうなのはユールくらいよねぇ!!!」

キリーは爆笑しながら、しかしそれでいてトルセの話を真剣に聞いているようだった。
ここでトルセはキリーに対して抱き始めた疑問を投げかける。

97 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/02(火) 00:29:10 ID:2MrfRm4g0
「ところでキリー、一つ訊ねたい事があるの」
「あら、私もあなたに聞きたい事があるの。でも、あなたからでいいわ」
「それじゃお言葉に甘えて。
 ……どうしてそこまでユールの事を買っているの?」

買う?とキリーがオウム返しし、トルセが無言で頷く。
そうね、とキリーは言葉を口の中でまとめてから口を開く。

「あの子が……とてもいい子だから。
 曲がった事とか、道徳から外れている事って、ユールにとっては許しがたい事なの。
 だから、心の闇だか何だか知らないけど、ユールが世界を救うって聞いても
 それは決しておかしかったりあり得ない事ではないって分かっているつもりよ。それに…」
「それに?」
「それに、ユールにはとてもいいパートナーがついている」
「パートナー?」
「そう呼ぶよりは、親友って言った方がいいのかも。
 ジェームズ・クーリー。ユールに最も近い人よ。
 ユールの家庭事情のおかげで、二人は近づいていったんだけど。
 それで、二人ともお互いを必要としながら生きているのよ」
「じゃあ、二人はそういう関係なんだ」
「いいえ。あの二人の間に恋愛感情なんて存在しない。
 何も知らない人が見たら『仲の良いカップル』って思うかもしれないけど。
 ただあるのは絶対的な信頼による絆ってところかしら」

これをトルセは馬鹿馬鹿しく、そして羨ましいと思った。
互いを必要とする。しかしそこに恋愛感情は無いだって?
ただの絆が互いを必要とさせるものだろうか?いや、ここでそれを考えても仕方がない。
ユールには良い仲間がいる、そんな大事なことが分かった。
自分には決して手に入らないような、そんな最高の仲間が彼女にはいる。それで充分。

「次は私の番ね。あなた、いったい何者なの?」

トルセが感慨にふけっていると、キリーがそう問うていた。
慌ててトルセは言葉を探すが、中々上手い言葉が見つからない。
これからユールと共闘してもらう以上、自分の正体を言わなくてはならないのは分かってはいるが、
それでも上手く説明できる言葉は見つからなかった。
 やむを得ず、トルセは「耳を貸して」と言ってキリーに耳を突き出させた。
トルセはひそひそ話をするように口を近づけ、それから長い時間キリーに語り聞かせていた。
 トルセの声はあまりにも微かなものであった。
先にこの空間を支配していた潮騒と同じ程度の音量。
そんな声が乗せる事実は、キリーの顔を驚きで丸くさせた。

98 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/02(火) 00:39:01 ID:2MrfRm4g0
ターミナルタワー屋上 12:08


 十分前、クーリーはユールにターミナルへ来て欲しいと
MPDのメールで伝えられた。そんな用事なら電話で事は足りるはずなのに、
まさか、何か口では言えないような大変な事があったんじゃないか……
 ふと、先のアルベルトからのメールの一文を思い出すクーリー。
ユールが死んでしまうかもしれない。そんな馬鹿げたそれと
何か関係があるのではないのだろうか。不安は的中したのだろうか。
 そして時刻は12:08、場所はターミナルタワーの屋上の
西側の縁の近くにある小さな休憩所にクーリーは立っていた。
ゼーハーと全速力で走ってきたために、クーリーは荒い息を吸っては吐いていた。
気温10℃の天候の下、それでもクーリーにとっては少々熱いと感じる
この空気の中で、彼は本気になって走り、そして大粒の汗をかいていた。
クーリーはそれの処理をするため、外界からの視線をシャットアウトする
休憩所に入ったのだが、もう彼に動くだけの体力がなかった。

「畜生、日ごろの運動不足がここで響くなんて……」

小さな小屋のような一面コンクリートの休憩所の中は、そこ全体が大きな日陰を内包していた。
クーリーはベンチに座り、そして汗を拭いつつこれからの事を考えた。
 ユールは今どうしているのだろうか?
何かよからぬ事が起きてしまったのだろうか?
アルがメールで言っていた「ヤバい奴」に関係しているのだろうか?
…僕のせいだ。僕が、僕がユールと離れてしまったから……あぁ、畜生!

99 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/02(火) 00:48:59 ID:2MrfRm4g0
「クーリー、ありがとう、来てくれたんだね」

クーリーは聞き覚えのある声を耳にしていた。
ゆっくりと顔を上げ、そして予感が確信へと変わっていくのを感じた。

「ユール!一体何があった?変な奴に襲われたりとかは?」
「いいや、そんなの全然ないよ。大丈夫だよ」
「それじゃ、どうして電話で喋ってくれなかったんだい?」
「それは、ちょっと電話じゃ言えないような事だから」

ユールはそう言うとクーリーの隣に座った。
クーリーは息を整えながら「運動不足が祟ってね」と自嘲気味に笑い、
「キリーにDDRを教えてもらおうかな」と言って間を開け、そしてユールに話しかける。

「電話じゃ言えない事って、一体何なんだい?」
「二人きりで、そして周りに人がいないとクーリーに話せない。
 まぁ、あの・・・・・・これを見てよ」

ユールはそう言うと、いつの間にか首にかけていたネックレスを指で示した。
次に、それに繋がれている剣の柄を指で挟み、そしてそれを思い切り引きちぎった。

「ユール、何をって……うわぁ!?」

クーリーは驚いて思わず後ずさった。
引きちぎられた装飾用の小さな剣が、次の瞬間には人を切り殺すための剣へとサイズを変えていたからだ。

「ユール、それ、一体何なのさ!?」
「驚かせてごめん。でも、この事について話すのにどうしても必要だと思ったから」

ユールはそう言って少し頭を下げると、
この時までトルセがやっていたようにクーリーに自分が体験した出来事を話したのだった。

100 :carnival (re-construction ver) Phase 2 -covered truth-:2009/06/02(火) 00:59:36 ID:2MrfRm4g0
 ユールがクーリーに話したその内容は
トルセがクーリーを除くユールと親交の深かった人物に
語って聞かせたような話とその内容を共有していた。
 クーリーは千年に一度訪れる人の負の感情による世界を揺るがす災厄のこと。
それを防ぐために人の善い感情、心の光がアトランダムに人間を選び、彼(又は彼女)が歴史の裏で活躍したこと。
ユールの祖先が千年前に選ばれた人間の血を間接的に継いでいること。
当然、その血がユールにも流れていること。
そして今日、負の感情による災厄が起きてしまうであろうということ。
負の感情が顕現したものを倒すため、クーリーに協力をお願いすること。
ユールの口からそれらを聞いたクーリーは反応に困っていた。

「ユール」
「うん」
「それは本当のこと?」
「うん」
「マジで?」
「マジで」

頭を抱え、小さく「うーん」悩むような声を上げるクーリー。
ユールはそれを見て声をかける事が出来なかった。
こんな話は現実にあってはならない類のものだ。
どちらかというと現実主義に近い考え方をするクーリーがこんな話を信じるかは疑問だった。
クーリーはもしかしたら協力してくれないかもしれない。
ユールが不安に駆られる中、やがてクーリーの口が開いた。

「じゃ、エクストラ・バースデープレゼントだ」
「え?」
「ユールはその、何かヤバい奴と戦うんでしょ?」
「そうみたい。そうみたいって言うのもなんか変だけど」
「そいつを倒すのに僕の協力が必要だって?」
「うん。アル達にも協力をお願いするって、さっき知り合った私の仲間が出向いていった」
「そうか……よし、僕はユールの戦いに協力するよ。
 それがエクストラ・バースデープレゼントだ。どうだい?」

ユールはその言葉を聞いた途端、両眼から涙をこぼした。
彼女もトルセと同じように、不安を感じていた。
それの支配から解放されたのだから、涙を流しても不思議ではない。
どうしたの、とクーリーが声をかける間もなく、ユールはクーリーの体に抱きついていた。

104 :carnival (re-construction) Phase 2 -covered truth-:2009/06/11(木) 23:43:39 ID:VPSD71aI0
 ターミナルタワー屋上コンサートホール前 12:56

 この時間、資料によればこのホールにてちょっとしたコンサートがあった。
その内容は、一時間程度の音ゲー曲コンサート。この時代、この場所に合っている。
 私は音楽の形式には詳しくないので、言葉を間違えている危険性を感じてはいるが、一応これについて書く。
オーケストラと言われる演奏形態でこのコンサートは進められたようだ。
前に一度、オーケストラの演奏によるコンサートに行った事があるのだが、
あの迫力たるや凄まじいものだったことは、これからもずっと忘れられないだろう。
 ちなみに、このコンサートの最終曲目はピアノの独奏による「ピアノ交響曲第一番 蠍火」だったようだ。
交響曲なのに独奏でやってしまうとは。オーケストラでやっていたはずなのだが、
独奏の方が良い味が出るとでも思っていたのだろう。よく分からないが。


 クーリーはユールから色々とカミングアウトされ、
ショックを受けながらもユールに協力する意思を示した。
その後二人はターミナルタワー地下一階にあるレストランに入り、
適当に何かを注文して仲良く食べていた。
 その時、ユールはトルセからMPDによる連絡を受け、
13:00までにターミナルタワー屋上のコンサートホール前の小広場にて集合するよう指示された。
この時、ユールがトルセに尋ねた。

「ねぇ」
「ん?」
「アルとアリス、それにキリーに話をしていったんだよね?」
「そう。キリーは協力を申し出てくれたけど、バレンタイン姉弟がね…」
「あの二人がどうしたの?」
「やっぱこんな話でしょ?普通は信じる気になれないって。
 あの二人は馬鹿馬鹿しいって言って、協力してくれる気配は無かった」
「うーん、やっぱりそうだよね」
「とりあえずホール前の広場で13時まで待ってるとは言ったんだけど」
「多分、きっと来てくれると思うわ。
 来なかったら来なかったで、トルセは別の案を考えてるんでしょ?」

プランBは一応あるんだけどね、とトルセは返し、時間を忘れないようにと念を押すと通話を切った。
ユールは集合とその場所、時間をクーリーに教え、二人は十分前に集合場所で待機することにした。

105 :carnival (re-construction) Phase 2 -covered truth-:2009/06/11(木) 23:48:09 ID:VPSD71aI0
 13時丁度をコンサートホール前の小広場にある大きな時計塔の
歯車仕掛けの時計が示した。
 ユールはクーリーと共に適当なベンチに腰掛けていて、
そして何を考えるでもなくぼぉっと空を見上げていた。
 雲の数は少なく、太陽の光が眩しい空だった。
だが、ユールはまたしても一羽の烏が遥か上空の頭上を旋回していたのを見た。

「悪魔の烏…」
「え?」
「昔話であったよ、悪魔の烏が自分を殺そうとする存在の全てを返り討ちにする話」
「あー、あった、あったねぇそんな話」
「今一瞬、あの烏がその悪魔に見えたの」

まぁ同じ鳥だしね、とクーリーが返し、遅いなぁと呟きながら辺りを見渡した。
とうにパレードは終了しているので、カーニバル全体に大勢の人々が散らばっている。
それによる人込みの発生で視界が悪くなっているのでクーリーがそんな事をして
意味があったのかと言えばそれはどうだろうと思うのだが、
偶然にもクーリーはこちらに向かって歩いてくる二人の女性の影を見つけた。

「あれは…キリーさんじゃないか?」
「……そうね、キリーと…トルセよ」
「なに、あの子がトルセって言うんだ、へぇ…」

クーリーが感心した様子で言うと、程なくして二人はユール達の前にやってきた。

「ごめんユール、遅れちゃった」
「いやいや、いいよ。これだけ人がいるんだもん、仕方がないよ」

定刻に遅れたことを謝るトルセとそれを許すユールのやり取りが行われていたのと同じタイミングで、

「あらー、クーちゃんじゃない。どう、ユールとはうまくいってんの?」
「いや、うまくいくとかそういう関係じゃないから」
「いやいや、照れちゃって。ハッキリさせちゃいなさいよ」
「いや、ホント、そういう関係じゃないから。友人だから。ね?」

クーリーとキリーの間にはこんな感じの会話が低音量で展開されていた。




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