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carnival (re-construction ver) Phase 3 -decisive battle- St.4

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beatnovel

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226 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23:40:26 ID:nvs7nVtF0
 カーニバル上空 ステルス空中管制機「フェニックス」 20:25

 スタッフ達に混じって自分の成すべきことを成し遂げているイロン。
観察役のスタッフから、ライオンの首がもげた事、
即ちユール達の勝利を聞き、それを伝えるためにルセコネクションで連絡した。

「勝った!あいつらだけでどうなる事かと思ったが、何とか倒せたな!」
「えぇ。やっぱり剣、いや彼、いや…彼女の言葉を借りるならマキナかしら?
 彼の思惑通りに展開は出来ているようね。スペードの怪我は予想外だったかもだけど」
「マキナ?…あの人惑いの剣の事か。そんな風に言っていたな」
「そうそれ。それで、そっちに戦力の用意は出来てる?」
「彼らといつでも交代できるよう、10人の精鋭を用意していたが、取り越し苦労だったな」
「総帥がどこにヘリを着けたか覚えてる?」

そう聞かれたイロンは直ぐに自分の端末を操作し、求めている情報を探し出す。

「あった。そこから方位189に10キロほど離れた所にある島だ」
「えっと……あった。ドラム缶みたいな形をした島ね?」
「ただの長方形だろ…そう、その島。で、それが?」
「作戦があるんだけど、次に総帥が仕掛けてきたら、まずこっちで迎撃するでしょ?」
「決まってんだろ。それが?」
「迎撃して巨大兵器の注意を引いている内に、総帥のいる島を襲撃する」

考えたな、とイロンはルセの作戦を評価した。
防戦一方ではなく、こちらから仕掛けてみようというのだ。クロスカウンターのようだ。
しかし、それには問題点がある。フェニックスに搭乗するWSFの精鋭兵士たちの事だ。

「しかしなぁ、こっちは空に浮かぶ空母じゃない。フェニックスごと島に行くのか?」
「いいえ、乗り物はこっちで用意しておく。タワー屋上にでも置いておくわ。
 とりあえずカーニバルタワーの上空へ移動してくれない?そうでないと」
「あぁ。兵士たちが降りられない。今そっちへ飛ぶように言うよ」

そう返して、イロンはスタッフ達に先の無線の事を伝えた。
スタッフ達は指示を受け、すぐさま自分たちの成す仕事にとりかかった。

227 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23:46:56 ID:nvs7nVtF0
  所変わって、舞台は第一ブロックへ移る。

 獅子型高機動制地兵器はバレンタイン姉弟が属する
地上迎撃部隊「ダブルエース」によって止めを刺された。
戦闘中に右足を負傷したアルベルトと、傷らしい傷をそれほど負っていないアリスは
航空迎撃部隊「ノエル」のクウことクーリーが搭乗する機体から伸びる
機械腕に抱えられ、アルベルトの治療のためにターミナルタワーの屋上を目指していた。
 アルベルトの負傷の進行状況は、深刻という程でもないが、
相当なダメージを与えるものとなっていた。戦いの緊張から解放されたアルベルトは
次の兵器と戦うまでの間、自分の右足を襲う激痛と戦わなければならなくなった。

 アルベルトの右足には、紛れも無く穴が開いている。
足に装着していた加速器が、本来の役割とは違う防具の役目を果たしていなければ
彼の右足はとうに吹き飛んで存在していなかったかもしれない。
 苦悶の表情を浮かべ、獣のような唸り声を上げる。
アリスがアルベルトに

「死なないで!死なないで!もう少しだから!!」

と声を送る。このダメージでショック死する事は無かったが、
もう時間が時間だ。一刻も早く処置を施さねば、アルベルトは出血多量で死んでしまう。
 そんな二人を自機から垂らしている機械腕で持って移動させるクーリーは
カーニバルタワー屋上である物を見つけた。仮設の手術室のようで、
よく医療を取り扱ったTVドラマで見る手術室にある器具や寝台が並べられている。
その近くには白衣を着た少し太り気味の男と、その助手たちであろう
若い男女七名が寝台を取り囲んでいた。準備は万端のようだ。

「スペード、ダイヤ、あともう少しだ。10秒もしないでそこに着く。すぐに治る。気をしっかり持って」
「クウ…か……もし…か…した……ら…俺は…」
「大丈夫死なない絶対死なない!見て、あそこの医者たち。あの人達がちゃんとやってくr」
「最期に……なる…かもしれ…ない、お前を、お前らを…普通の…名前で…呼びたかっ…た」
「死に真似なんてよしなさい!ほら、着いたからね!
 体を預けて!私がお姫様だっこしなきゃ動けないでしょ!?行くよ!!」

「あぁ…姉貴……」死人が話す言葉のように、アルベルトの返したそれは聞こえた。

228 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23:51:40 ID:nvs7nVtF0
(アイピーエス細胞と瞬間増血剤(※4)を用意しろ。いや待て、先に止血が先だろう!
 一体君たちは何をやっているんだ!――どうだ、そこの君、彼の傷口は?)

(銃創以外にダメージはありません。何かに感染した様子も見られません)

(そうか、よし、このまま処置を続けるぞ!
 この子供を死なせては、後々厄介になってしまうからな、気合いを入れてかかるぞ!)


 ユールは機体内蔵の指向性マイクを使い、ターミナルタワー屋上で処置を受けている
アルベルトの様子を窺っていた。指示をする医師とそれに従う医師のやり取りを聞きつつ、
イロンからの哨戒飛行命令を受け、アルベルトの身を案じながら周囲に注意を払った。
 クーリーはアリスをタワーに立たせ、哨戒飛行を続けるユールの横に機体を並べる。
彼はログコネクションでユールと無線で会話を始めた。

「初めて命をかけて戦ったけど、ログ、大丈夫かい?」
「それは…いいえ、あまり良くないわ」
「そうだね…彼も怪我、しちゃったし。
 次は何なんだろうな、蠍だとしたらちょっと不安だな…」
「何で?」
「そりゃ、奴が一撃必殺を繰り出す針をもっているからさ。
 スペードがやられて、一番頭に来ているのは誰だと思う?」
「ダイヤかしら」
「そうだよ。彼女がどんな行動を起こすか分かったもんじゃない。
 僕たちがもっと団結していかないと、次がどうなるか分からないよ」

ユールは無言を応答とし、クーリーの言葉を待った。

「ま、仲間ってのは信じ合うからこそ仲間って言うんだよね。
 お互いが信頼しあえば、大丈夫だ。絶対に」

ユールの首にかけられているマキナが言った。
クーリーは「剣の人?」と答え、ユールがそれに返す。

「彼の名前はマキナ」
「マキナって……あぁ、あの駅前の喫茶店のマスターが言っていた、アレ?」
「かもしれないし、違うと思う。私の前任者のような人だよ」
「表現としては大体合っているかな。アr…ダイヤだったかな。
 彼女が危なくなったら、僕がどうにかして彼女を守ってみせよう」


(※4 瞬間増血剤というのは、輸血効率を飛躍的に上昇させた輸血剤のような代物。
 人体の造血システムに作用するものと、増血剤の進化版としての二種があるが、
 アルベルトに投与されたのは両方だった)

229 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/20(日) 23:55:34 ID:nvs7nVtF0
「ちょっと待って、ネックレスがどうやってダイヤを?」

クーリーはマキナにそう訊ねた。
実際問題、そうなのだ。どうやってネックレスが一人間を守るというのか。

「それは、彼女のおかげだよ」

マキナはそれを言ったきり、再び喋る事は無かった。

「彼女って…君かい、ログ?」
「別に私は何も。マキナは人を乗っ取るって言うけど、そんな気配は無いし」
「まぁ、あまり期待しないで、哨戒飛行を続けよう」
「…スペード、助かるといいんだけど」
「大丈夫。彼はそう簡単には死なないから」



2999/12/25/ 20:30

 enemy huge offensive weapon 'hi-speed ground-to-ground attacker "SCORPION”’is approaching!



 ターミナルタワー内のWSF基地で、ルセが見ているの一つのモニターにそう表示された。
次の敵兵器が襲来したのだ。ブリーフィングで二番目に紹介した「蠍型高機動制地兵器」だ。
ルセはこれを受け、直ぐにタワー屋上に戦闘機を配備するよう通達したが、
未だにアルベルトの治療を続けているとの返答を受け、ため息をついた。
どこかに移動してからアルベルトの治療を続ければよいではないかと思われるだろうが、
彼の状態はそれが出来ないほど危険なものなのだった。

「おいルセ、東の海に異常が見られた。何だありゃ?」
「イロンね?蠍が来たわ。海面すれすれを高速飛行してこっちに近づくコンテナがある。
 あの中に入っているの……ノエル2、応答して!」
「え、あの海から物凄い勢いで飛沫が出ているのって…」
「そう、蠍!今の内に攻撃して沈めておけばだいぶ楽になる!」

「卑怯だけど、どうこう言ってられないよ!」そう言ってノエル2ことクーリーは
一気に機体を加速させて東へと向かった。ユールも慌ててその後に続く。

230 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00:07:10 ID:STG3w4xH0
「なぁルセ、お前の作戦、今は決まりそうにないぜ」
「……医師団に告ぎます。現在治療中の彼をどこかに移動させ、そこで治療して下さい」

イロンからのルセコネクションによる無線通信にルセは無言で応対し、
オールコネクションにしてタワー屋上の医師団の通信役に指示を出した。

「お言葉ですが、今の彼は大変危険な状態です。
 後三分で一通りの処置を終えますので、それまで待って下さい。お願いします」
「分かりました。三分後にそこから立ち退き、治療を続行してください」

そう言ってルセは無線を切り、そしてため息をついた。
何故こうも上手くいかないのだろうか。全ては私のミスなのだろうか……
 そう思考を巡らせていたルセの耳に、この司令部の部屋の自動扉がしゃっと開いた音が入る。
ルセが座ってた椅子を回転させて振り向くと、そこには汗だくになったキリーが立っていた。

「終わりましたよ…パワーゲージ、満タンです」
「御苦労さま。後であの部屋に戻っておいて。あなたのケアをするから。
 それで…一体どういうメニューを立てて、短時間でフルパワーに出来たの?」
「MAXシリーズで詰めようかなって思ったんですけど、天ヒーにしておきました」
「ごめん、略称って分からない。とりあえずすぐに戻って。
 指示があるまで休んでいいから。何か聞きたい事とかある?」
「話に聞いたんですけど、アルが右足を撃たれたって…」
「大丈夫。うちのプロがしっかり治療にあたっているから。心配しないで」

分かりました、とキリーは言って退室する。
その後ろ姿を見送り、ルセはパワーゲージをどのように使うかを考えていた。
 キリーの溜めた力はどこにでも展開する事が出来る。カーニバル全体がそういう構造を取っている。
だいぶ前に先述したが、パワーゲージが1/30で缶を粉々に粉砕できるほどの力を有している。
しかし破壊力は必ずしもパワーゲージの使用量に比例するとは限らない。
加速度的に使う分量だけの破壊力を発揮できる、と資料にはある。
 このゲージを5/30使うだけでも、ブロック間を繋ぐ橋を一本落とす事は十分に可能である。
蠍が橋の上に来た時、これによって橋を破壊し、海へと落としてフィニッシュを決める。
別のやり方もあろうが、ルセはこれが最良のような気がしてならなかった。

231 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00:14:11 ID:STG3w4xH0
 その頃、クーリーは海面に触れそうな高度で高速移動する巨大なコンテナに攻撃を加えていた。
操縦は積んでいるAIに任せ、コンテナと並走してカーニバル側に移動しつつ、
DPモードによるエネルギーライフル射撃を試みていた。
 ユールもクーリーと挟撃するようにコンテナと並走し、左右の速射砲を撃ち続ける。
しかし、両者の攻撃は当たらない。狙いは正確なのだが射線がずれてしまうのだ。
その為、コンテナの姿を隠すかのような大きな飛沫が連続的に飛ぶ。
ユールはイロンにオールコネクティングで無線連絡をした。彼女なら何かアドバイスをくれるかもしれない。

「イロン!コンテナに攻撃が当たらない!!」
「ノエル1、もしかしたらそのコンテナはアードを積んでいるのかもしれない」
「でも、この大きさじゃ、積もうにも詰めないんじゃ…」
「きっと改良が進んだんだ、僕はそうじゃないかと思うよ」
「ノエル2の言う通りかもしれない。技術は日進月歩するんだ、考えられなくは無い」

そう言ってイロンは無線を切った。
畜生、とクーリーの声が聞こえる。このコンテナを海に落とす手段が無い。
よってユールとクーリーは役目を果たす事が出来ない。

「じゃ、これならどうなのよ!?」

ユールは叫び、コンテナと並走する機動を止め、コンテナの上部に移動し、
そこで並走しつつ、かなり近い距離で密着するかのような高度を保ち、

「バインドアーム…発射!!」

その号令と同時にユールは左右の黄ボタンを同時に押し、
機体下部から巨大な黄色の腕を伸ばし、コンテナに突っ込ませる。
流石にアードを積んでいるとはいえ、これを回避する事は出来なかったようだ。
黄色の腕がコンテナの両側を持ち上げる。
ユールの機体の上にはコンテナが身動きとれない状態で固定されている。
今しか攻撃のチャンスは無い、とユールは考えてクーリーに叫ぶ。

「クーリー、決めてやって!」

オーケイ、とクーリーは返し、DPモードにして、一瞬にして距離を詰め、
両サイドのエネルギーライフルの装備でコンテナにラッシュを仕掛ける。
瞬く間にコンテナはダメージを受けてへこみ、中の蠍も無傷では済まない様子を見せつける。
 「決める!」とユールが呟き、黄色の腕を一旦下ろし、そして勢いよく振りあげる。
コンテナは天高く舞い上がり、それよりも少し高度の高い所にユールの機体が移動する。
ユールはすぐさま赤ボタンを連打し、レールガンを出現させ、それを連射した。
コンテナのアードは先のダメージで破壊されたようで、ユールの放った弾体は全段命中した。

232 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00:21:45 ID:STG3w4xH0
 レールガンの全ての弾体を浴びたコンテナは、空中で爆発し、中から巨大な蠍を吐き出した。
しかし蠍は第三ブロックには落ちず、そのまま東レイヴン海へと落ちていく。
蠍に潜航能力は無い。落ちれば最後、海中の資源ごみとなるだろう。

 落ちていく。落ちていく。落ちて―――


 予想される飛沫の音は上がらなかった。
蠍が海面に浮いている。いや、そういう風に見えるが、実際に「浮いて」いた。

「馬鹿な!!!」

そう叫んだのはキリーだ。続いてユールとクーリーも驚きの声を上げる。

「嘘でしょ!?」「やったと思ったのに!!」

しかし、これは現実なのだと言わんばかりに
蠍は海面すれすれの高度を保ち、遅いスピードで第三ブロックへと近づいていく。
 ノエル航空迎撃部隊ことユール達二人は蠍に追いつき、攻撃を加えていく。
しかし、蠍の超振動粉砕針が的確に二人を捉えて突いてくる。
これを回避しながら戦うのは難しい。針は秒間2回は連続攻撃できる連射性能を持つ。
それに、どんな敵も一撃で倒せるというチートじみた攻撃力だ。脅威と言わずして何と呼べるだろう。



この時、フェニックスとWSFカーニバル支部の間で、イロンとルセの通話が記録されている。

「おい、蠍にあんな能力があったか?」
「いえ、そんなデータは…ないわ。ないのよ」
「技術は日進月歩だ、それならデータを載せるだろう」
「えぇ、ユール達とブリーフィングをした時の敵兵器のデータは
 全てWSF本部にハッキングしてダウンロードした、正真正銘のデータなの。
 それに、取得日時は昨日よ?日進月歩の説が当てはまると思う?」
「いや…あんな巨体を浮かすだけの技術は、一日じゃ無理だ」
「それじゃ、私達は偽物のデータを掴んだってことにわけ?」
「そうかもしれない…大体、あのライオンだって
 最初にスペードが決めた時に勝負はついたはずなんだ。なのに、復活するなんて変だ」
「そうよね…もう、あのデータは信用ならないのかも」
「だが、敵の攻撃パターンを大体掴むことはできる。
 現にあの蠍、針であの二機を攻撃している。大丈夫だ、彼らなら」
「あら、いつからそんな信頼を寄せたの?」
「ライオンを倒した時からだ。まさかやってくれるとは思わなかったからな」

233 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00:27:17 ID:STG3w4xH0
 ユールとクーリーは必死で蠍の進路を食い止めようとしていた。
しかし、あの超振動粉砕針の前には手も足も出ない。
超高威力の近接武器が蠍を固めている。分厚い装甲も、同じ役目を果たしている。
二機の飛翔する箱がいくら攻撃しようと、簡単に壊せる相手ではなかった。

「ねぇ、蠍の視界は正面180°じゃなかった?」
「そうだ、そうだったよログ、ありがとう!」

短いやり取りを交わし、二人は蠍の前で迎撃するのを止め、
後ろに回り込んでから総攻撃をしかけ始める。
それでも蠍の固い装甲が鉄壁の守りを見せる。戦略も何もあったものではない。


   はっきり言って、二人の打つ手は無かった。


「これじゃあ、橋を落として…っていうのも出来ない。
 航空部隊の攻撃だって、全くって訳じゃないけどダメージは与えられないし…
 あ、脚を破壊したら水面フローティング機能も無くなるかもしれない!
 ……航空部隊じゃ、狙うのは難しいかなぁ…うーん……」

ルセは司令部で呟いていた。周りはスタッフがいて、皆が同じ難しい顔をしている。
ここまで蠍の防御能力が高いとは思っていなかったのだ。
 戦闘の経過を見ると、ハッキングして入手したデータに比較すると
それに比べて倍近くの防御能力を有していると推測してしまった。
知ってしまった大きな事実。勝ち目は今のところ見いだせないでいる。
 ルセはオールコネクションでユール達二人に叫ぶ。
無茶とは知りながらも、どうにかして頑張ってほしいと願っていた。

「どうにかして奴の脚を狙って!」
「無理でしょ!海面すれすれを飛んで、着水したらこっちがオジャンよ!」
「そうですよ、あなた達ならできるかもしれないが、こっちは素人…うぅ!!」
「クウ、大丈夫!?」
「今まで我慢してきたツケかな。凄く気分が悪い」
「どうにかして耐えて!少しかもしれないけど、ダメージは確実に与えられている!それじゃ頑張って!!」

無責任にも程がある!と憤慨したクーリーは意を決して180°回転して背面飛行に移行、
徐々に機体を海面に近づけ、手近な脚一本に狙いを絞って鍵盤を猛烈に連打していった。

234 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/21(月) 00:34:28 ID:STG3w4xH0
 クーリーの決死の攻撃によって蠍の右の一本の脚を破壊する事が出来た。
が、蠍はバランスを崩し、体の一部を着水させながらなおも突き進んでいく。
蠍のバランスの脆い所をユールがレールガンで徹底的に叩く。
次第に蠍の巨体が海に引きずり込まれるかのように沈んでいくが、
第三ブロックまで残り500メートルも無い。この調子では蠍が上陸してしまう。
ユールは食い止める事が出来なかったと悟り、ルセとイロンに向けて叫ぶ。

「ゴメン、海上での迎撃、撃墜は失敗した!」
「そうか…よくやった。いま、スペードの治療が終わった。
 これから総帥のいる島に総攻撃をかける。
 WSFの部隊が行くから、君たちは加勢しないで良い」
「私達だけじゃあの蠍は倒せそうもないですって!」
「えぇい、リーダーのお前がそんな弱気でどうする!
 いいかよく聞け、この世に絶対倒せない敵なんてものは存在しないんだ!分かったか!?」

イロンから短い説教を受け、ユールはすぐに心を取り戻し、
はい!と返事をして蠍への攻撃に移った。その時である。

 「いざとなったら、僕が君たちを助ける」

マキナの小さな、それでも確かに聞こえる声がユールの耳に届いた。


 ガシャアアアァァァ!!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオォォォ……ドーン!!バーン!!!


 色んな音が響いた。これらを採集すれば、きっと私好みの音楽が作れるだろう。
とうとう蠍が第三ブロックの港を破壊しながら上陸した。当然、港はぐしゃぐしゃだ。


 第三ブロックについてはだいぶ前に先述したが、ここでもう一回書いておこう。
私自身が確認したいし、忘れている人もいるかもしれないからだ。

 第一~第三ブロックは中世ヨーロッパの街並みである。
どのブロックでもひっきりなしに曲が流れているが、
流れている音楽のジャンルは、第一、第二ブロックのものと異なっていた。「ロック」である。
 GFdmで人気の曲が園内スピーカーに大音量で響き渡る。
円形の島の中心から、クモの巣を張り巡らすように通路をかたどる建築物に囲まれている
広大な中央広場のライブステージでは、ひっきりなしに誰か彼かがバンド演奏をしている。
しかし、今はターミナルタワーで開催されている「トプラン決定戦」のために誰もいない。


 そんな第三ブロックで、これから戦闘が開始されようとしている。
今度ばかりは誰かが死ぬかもしれない。誰もが少なからずそう思いながら、戦いのゴングが鳴らされる時を待つ。

237 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23:38:10 ID:M5Pu08Oh0
 2999/12/25 20:36

 ノエル航空迎撃部隊の抵抗を切り抜け、第三ブロックに蠍が上陸した。
ただ上陸し、ただ上品にそこでつっ立ってくれるのなら全く問題は無い。
しかし蠍は兵器だ。高機動な制地兵器だ。そんな要求がまかり通ると思ったら大間違いである。

 第三ブロックのライブステージとも言える中央広場の
巨大な円卓の上にアリスが臨戦態勢の構えを取っている。
ネックには手をかけず、ただひたすらにオルタし続けていく。
 こちらから向かって迎撃するような真似はしなかった。
蠍が素直に広場に通づる道を通る訳がなく、辺りを滅茶苦茶に破壊しながら進むのだから
アリスが自分から打って出る真似をしないというのは賢明な判断といえよう。

 蠍は対になっている鋏を用いて前方に立ちふさがる障害物を切断、
針で粉砕し、通り過ぎる体で跡形もなくしていく。
 そうしてようやくアリスの前に蠍が姿を現した。
キシャー!と奇声を上げ、口から炎を噴きながら体当たりしてくる。
アリスは加速器を使って右に走って避ける。
蠍の衝突の衝撃によって円卓が壊れていく音が辺り一面に響き渡る。
その音を聞いてからアリスが振り返り、

(あの蠍の全身はとても固い。装甲を攻撃で全部剥がすとなると相当な長期戦になる。
 次の敵の相手をする事も考えれば、15分程度でカタをつけたいのよ。
 でも、正攻法で行こうとしたらそれは無理。でも、脚を積極的に狙えば……
 この八本の脚は比較的に装甲が薄いの。ここを攻撃する。
 航空部隊がこれを狙うのは難しい。だから地上部隊がライオン戦と連戦になる。
 それは航空部隊も同じなんだけどね。負担は地上部隊の方が上になるわ)

ブリーフィングの時のルセの言葉を噛みしめながら、狙いやすい脚一本に狙いをつけて緑の弾を撃った。
爆音が響き、着弾とともに狙いをつけられた蠍の脚が吹っ飛ぶ。
アリスはそれを見届け、走って距離を取りながらチャージショットの準備をした。

238 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23:43:51 ID:M5Pu08Oh0
「始まったな」

そう呟いたのは、ターミナルタワーの上空で滞空するフェニックスのイロンである。
彼女は観察役のスタッフと共に、アリスと蠍の戦いを観戦する。
アリスが二本目の脚を破壊したのを見て、アリスは観察役に言う。

「残りの六本の脚をこの調子で壊せたら、倒せるかもしれないな」
「そうですね。でも、そんなに上手くいくのでしょうか」
「心配するな。彼らならきっとやってくれるさ。
 それより、島攻撃部隊の出撃準備は出来ているのか?」
「大体の準備は出来ているようです。
 兵士輸送用のヘリが一機、地表攻撃機が二機。
 これだけあれば、あの規模の島を制圧出来ます。
 それに、あの島には総帥と数名の護衛しかいないはずです。大丈夫です」

イロンはその言葉を聞いてニヤッと笑い、最終的な準備が出来次第、即出撃するよう通達した。



「始まったか…」

そう呟いたのは、一通りの治療を終えたアルベルトだった。
簡素な移動式ベッドから起き上がり、周りの制止を振り切って装備を整える。
ゴーグル、パワードスーツ、加速器、ジェットパック、そしてギター型の銃。
それらをすべて装着したアルベルトは、医療班の一人の男に話しかける。

「なぁ、あそこで戦ってるの、俺の姉貴なんだよ」
「そのように話は聞いております」
「頼む。姉貴一人じゃ心配だ。行かせてくれ」
「駄目です。無理をしたら足の傷が…」
「アンタらのお陰でこの傷は塞がったよ。
 だがな、姉貴を失ったら、その傷は一生塞がらない!
 悪いがな……俺は姉貴を助けに行くぜ!!」

そう言うとアルベルトは加速器を使って医師団から離れた。
一直線に東に向かって走り、タワー中央で出撃し始めのヘリ一機と攻撃機二機を追い越し、
追い越した三機が動き始めると同時にタワーを覆っていたシールドが解除され、
タワーの縁でジェットパックを使って飛び上がったアルベルトは
島攻撃部隊と共にターミナルタワーを後にした。

239 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23:48:49 ID:M5Pu08Oh0
 アリスと蠍の戦いは、アリスがアドバンテージを握っていた。
アリスにはノエル航空迎撃部隊の支援がついているし、
何より彼女には蠍にはないものを持っている。

 それは「心」だ。機械も同様に人工知能、即ちAIは持っている。
しかしそれを人の心と同じと考えるのは少し違ってくる。
あまり大きく踏み込んで書くと、あらゆる方面からのバッシングを浴びそうなので控え目に書くが、
人の心をもった機械なんて存在しない。そんなAIなどあり得ない。
 機械が人になりたいと思うのをおこがましいと思っているのではない。
ただ、それが「あり得ない」と思うだけ。それだけなのである。

 話がそれてしまった。本筋に戻そうと思う。
アリスの心が思う事は「大切なものを守る」ということだ。
それはユール達五人が全員一致で思っている事だが、大切なものの定義は五人ともバラバラだ。
彼女の場合、それは「アルベルトの命とカーニバル」になる。
前者は達成できるかどうかは分からないが、後者はこの頑張りでどうにか出来る。
 その思いがアリスを強くしている。
色んな装備で強化された身体能力+αのαが、その心の力なのだ。


 崩れ果てた円卓の瓦礫の中、ギターを構えるアリスと機械仕掛けの蠍が対峙している。
既に蠍は右の脚部を二本、左の脚部も二本やられている。圧倒的にアリスが有利だ。
コントロールバランスをどうにかして保っている蠍相手に
万全の状態のアリスがやられるはずがない。誰もがそう思っていた。

 その考えは甘かった。
油断をしていたわけではない。だが、甘かった。
 蠍の攻撃パターンは「突進→敵を追い回すように火炎放射→針の一刺し」であった。
しかし、そのパターンは六回目のシークエンスに突入してから変わった。

 アリスは次の突進に備えて身構えていた。
今までがずっと同じワンパターンな戦法で蠍が戦っていたのだから、
そうするのは必然と言えるかもしれない。
 しかしアリスの予想に反し、蠍は右の鋏をアリスに突き出した。
ジェットパックを併用して飛び下がるアリス。そこへ蠍の追撃が入る。
左の鋏が空を飛ぶアリスを叩き落としたのである。
 勢いを持って石畳に叩きつけられるアリス。
武道の経験も無いので、ろくな受け身が取れず、悶絶する。
そこに蠍が高速で接近し、火炎放射器を収納する口を開く。

 アリスが起き上がった頃には、既に蠍は炎を吐いていた。

240 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23:52:41 ID:M5Pu08Oh0
 炎が蠍の口から吹き出す。
それは勢いをつけてアリスを包み込もうとする。
そこに一つの影が割り込んだ。

「うおおおおぉっ!!あちちちちちちち!!!!!」

謎の影が出す声は、確かにアルベルトのものだった。
彼はアリスの盾になるような位置に立ち、結果として彼女の盾になり得ている。

「ちょっと涼しくしてやるぜ、そりゃ!!」

アルベルトが叫びながらネックの青ボタンを押さえ、思い切りピックする。
すると巨大な氷の塊のような弾体が炎の発生源、即ち蠍の火炎放射に向けて飛び、着弾する。
 ガキイィィンッッ!!!と辺りに物が凍てつく音が響く。
火炎放射も止み、石畳が焼け焦がされたのを見ながらアリスは弟の声を聞く。

「俺は大丈夫だ!さ、チャージショットで火炎放射器を粉々にしてくれ!」

見ると、蠍の口の中にある火炎放射器は氷漬けになっていた。
これに強烈な衝撃が加われば、ほぼ間違いなく粉々に砕けるだろう。
 アリスは迷わず緑ボタンを押さえ、ピック。
緑の弾体が爆音と同時に発射、飛翔、着弾する。
それと同時に、蠍の火炎放射器が氷漬けのまま粉々に砕け散っていく。

「よし!」「よし!」

珍しく二人の声が、セリフを一致させてハモった。

 蠍は攻撃手段の一つを失くし、稼働可能な脚を総動員して後方にジャンプ、二人と距離を取る。
勿論、この間にも蠍は上空からクーリーの攻撃を受けている。
しかし、攻撃の威力や蠍の防御力の関係上、有効なダメージソースになり得てはいない。

 蠍が攻撃パターンを変えてきた以上、蠍の動きに一層の注意を払わなければならない。
次に繰り出されるのは鋏か、突進か、それとも一撃必殺の針か。
 答えは突進だった。アルベルトが左、アリスが右に避ける。
この後は火炎放射が来るのだが、それが無い以上どんな攻撃が来るか分からない。
蠍はその場でジャンプをして反転しながら尻尾を横薙ぎに振り回した。
尻尾はアリスに当たり、吹き飛ばして蠍が着地、次にアルベルトを左の鋏で突いた。
ギターを盾にしてアルベルトが鋏を受け止め、しかしそれでも彼の体は後方に吹き飛ぶ。
この一連の動作、大型の機械の動きとは考えられない程の俊敏さを見せつけている。
ライオンの機動もかなり速いものであったが、蠍の機動はライオンを上回っていた。

241 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/23(水) 23:56:25 ID:M5Pu08Oh0
「あっ!」

ユールはアリス、アルベルトの攻撃を受けた場面を見、体をこわばらせた。

「マキナ、あの二人が…」
「大丈夫。僕がいる」
「あなたがいるからって…」
「すまないが、君の体を借りる」

「え?」とユールが返す。マキナが答える。

「僕は『魔剣』とか『人惑いの剣』とかって言われている。
 それがどういう意味か、分からないと思う。…これからする事は、その意味を成すって事だよ」

マキナが喋り終わると、マキナ自身が強烈な光を発した。
ユールはその光を見ていくうち、自分の意識が急速に薄れていくのを感じていった。


 それからしばらく、ユールは呆然としていた。
彼女は自分の意識を取り戻し、下の戦いぶりを見る。
蠍が本気を出してきたようだ。地上部隊の二人はどう見ても苦戦している。
それを見たユールは筐体をいじくり始めた。

「自動操縦にして…設定は滞空でいいか。…無線はこうか。
 コネクション設定はクウ…こちらノエル1。ノエル2、聞こえるかい?」
「聞こえる…誰だ?ログじゃないな、答えろ!!」
「何で分かったんだ…君の言うとおり、僕はノエル1じゃない。
 僕は彼女の体を借りている。外見は彼女だが、中身は僕だ」
「体を?…お前、マキナか?そうなんだな!?」
「察しが良い。いや、良すぎる…君は本当に一般人か?
 それにしては勘が研ぎ澄まされすぎてる感じがするが…
 まぁいい、ちょっと僕は地上部隊の手助けをしてくる」
「ちょっと待て。マキナ、ここから飛び降りる気か?」
「安心してほしい。もう既に、彼女の体は人間を超越している」
「なんだって?」
「そのまんまの意味さ。彼女は身体能力のレベルで言えば
 あの強化服を着た双子より少し上の程度まで進化している。『光』のお陰でね。
 だから、ここから飛び降りても彼女は死なない。
 もっとも、この時点で彼女の体が駄目になれば、僕も死んじゃうわけで。死ぬわけにはいかないんだ」
「機体はどうするんだ」
「自動操縦にしておいた。滞空させているから、護衛はよろしく。
 地上への攻撃は僕が代わって担当しよう。すぐに決着はつくと思うから」

そう言うとユール、いやマキナは「すっ」と体を機体から離れた。
何の抵抗も無しにユールの体が重力に沿って落ちていく。
それを見つめるクーリーが呟く。

「マキナ…ユールを頼んだぞ……」

242 :carnival (re-construction ver) Phase3 -decisive battle-:2009/09/24(木) 00:06:46 ID:CXjxjKMN0
 アリスが攻撃を受けた後、彼女は無線でアルベルトに蠍を挟撃する作戦を伝えた。
蠍の後ろに回った方が残った脚をチャージショットで破壊するというものだ。
 しかし、そう簡単に破壊させてくれそうに無かった。
アリスは自分と蠍が一対一で戦闘を始めていた時、
その時の蠍は本気ではなかったような印象を持ち始めていた。

後ろに回ったアルベルトが撃つ。
蠍が軽快なフットワークで回避する。
建造物に流れ弾が被弾、倒壊。
アリスが後ろに回るべく加速器を使って移動。
蠍が尻尾を振って接近を許さない。
不意に針が槍のようにアルベルトに向かって突き出される。
アルベルトが体を回転させて針を回避、攻撃を惹きつけるべく蠍の前へ出る。
鋏や針を使った攻撃がアルベルトに集中する。
その隙にアリスが五本目の脚を破壊。
蠍が自身の装甲をパージ(破棄)。バランスコントロールを管理する。

 そんな中、蠍の上に影が上から落ちた。
その衝撃で蠍が地に伏せる。アルベルトがその影を認めると、大声で叫んだ。

「おい!なんでお前がそこにいるんだ!!」

「お前」と呼ばれたのは紛れもなくユールだった。
だが、その様子はいつもの彼女とは違う。雰囲気が違う。
そしてそれとは別に、彼女がここにいる事自体が異常だった。
その異常性に気づいたアリスがユールに叫ぶ。

「ちょっと、飛行機はどうしたの!?」

「自動操縦」とそっけなくマキナは答え、右手を自分の首に持っていく。
そして剣を結んでいるネックレスに手をかけ、ブチッと音を立てて鎖を壊した。
すると同時に剣が巨大化、大剣として機能するようになる。

「ログ、お前どうする気なんだ?」
「決まってる。蠍をぶっ壊す」

話し方がユールのそれではなかった。
そんな事はアルベルトもアリスも感づいている。
だが、今は状況が状況。そんな事でどうこう言っていられない。

「元々この体に宿っていた心は眠っている。今の彼女はこの大剣の心が支配している。
 この蠍をぶっ壊したら元に戻すよ。全部ね」

ユールの体を借りるマキナは、双子にそれだけ言うと、宙返りをしながら蠍から飛び降りた。





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