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トップランカー殺人事件 第五話『dj Remo-con』 -phase4-
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| 167 :トップランカー殺人事件(195) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/09(日) 18:00:17 ID:1j3N1Q100 |
「BOLCEは知らず知らずの内に、1046に操られていた……」
空気は抑揚のない声で乙下の言葉をオウム返しにした。
明らかに事態を飲み込めていない。
明らかに事態を飲み込めていない。
しかし、それは乙下も似たようなものだった。
「……のかも知れない。俺もまだ確信は得ていないんだ」
「オトゲ先輩らしくないっすね、そんな弱気だなんて」
「俺自身もそう思うよ。なにせ、これはかなり無理がある推理なんだ。
けど逆にそれ以外の可能性も見当たらない以上、今はこの推理に賭けるしかない」
「オトゲ先輩らしくないっすね、そんな弱気だなんて」
「俺自身もそう思うよ。なにせ、これはかなり無理がある推理なんだ。
けど逆にそれ以外の可能性も見当たらない以上、今はこの推理に賭けるしかない」
そう言って乙下は財布からイーパスを取り出し、
一つの決意を示すようなつもりで、音を立ててデスクに叩きつけた。
空気はびくっと体を震わせて、乙下に不安げな目を向けてくる。
一つの決意を示すようなつもりで、音を立ててデスクに叩きつけた。
空気はびくっと体を震わせて、乙下に不安げな目を向けてくる。
「もう、びっくりさせないで下さいよ先輩。いきなりどうしたんすか」
「いいからお前のイーパスも出せ」
「いいからお前のイーパスも出せ」
突然の命令を受けた空気はおずおずとした様子で
イーパスを取り出し、そっとデスクに置いた。
イーパスを取り出し、そっとデスクに置いた。
デスクに並んだ二枚のイーパスを拾い上げた乙下は、
まるでトランプのようにシャッフルをし、
続いてババ抜きで遊んでいるかのように空気の目の前で二枚を広げてみせた。
まるでトランプのようにシャッフルをし、
続いてババ抜きで遊んでいるかのように空気の目の前で二枚を広げてみせた。
「質問。お前のイーパスはどっち?」
「こっちっす」
「こっちっす」
空気は片方のイーパスを引いた。
「どうしてお前はそっちのイーパスが自分のイーパスだと思った?」
「そんなの明らかじゃないっすか。汚れ方が全然違いますもん」
「そんなの明らかじゃないっすか。汚れ方が全然違いますもん」
空気の言う通りだった。
乙下のイーパスはまだ新しく、真っ赤な表面にはツヤが光っている。
かたや空気のイーパスはだいぶ使い古されており、赤い部分がほとんど残っていない。
今にも白が赤を覆い尽してしまいそうなほど、塗料の剥離が進行している。
かたや空気のイーパスはだいぶ使い古されており、赤い部分がほとんど残っていない。
今にも白が赤を覆い尽してしまいそうなほど、塗料の剥離が進行している。
「それでは次の質問」
乙下は死体検案書の添付資料に写っている
BOLCEの真っ白なイーパスを指差して問いかけた。
BOLCEの真っ白なイーパスを指差して問いかけた。
「BOLCEと1046のイーパスをシャッフルしたら、お前には見分けがつくか?」
「……!」
「……!」
空気の息を呑む音が聞こえた気がした。
「つかないだろ。
BOLCEのイーパスも1046のイーパスも、
使い込まれ過ぎたせいで表面が真っ白に削れちまってる。
ぱっと見た目では、とてもじゃないが見分けられやしない」
「先輩の言いたいことが段々分かってきました。
BOLCEは1046のイーパスを使うつもりなんて最初からなかった。
ただ単に、『BOLCEは知らず知らずの内に1046のイーパスを使わされていた』。
そういうことっすね?」
BOLCEのイーパスも1046のイーパスも、
使い込まれ過ぎたせいで表面が真っ白に削れちまってる。
ぱっと見た目では、とてもじゃないが見分けられやしない」
「先輩の言いたいことが段々分かってきました。
BOLCEは1046のイーパスを使うつもりなんて最初からなかった。
ただ単に、『BOLCEは知らず知らずの内に1046のイーパスを使わされていた』。
そういうことっすね?」
乙下はゆっくりと頷く。
| 168 :トップランカー殺人事件(196) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/09(日) 18:14:33 ID:HtCNuzY80 |
「7月16日の午前中、1046はアリバイ工作のため、
BOLCEに自分のイーパスで代行プレイをしてもらう必要があった。
しかしBOLCEが不正行為に手を貸すなんてことは絶対にないから、
普通に考えればこのトリックは成立し得ない……そこで1046は大胆不敵な作戦に出た」
BOLCEに自分のイーパスで代行プレイをしてもらう必要があった。
しかしBOLCEが不正行為に手を貸すなんてことは絶対にないから、
普通に考えればこのトリックは成立し得ない……そこで1046は大胆不敵な作戦に出た」
乙下は空気の持っていたイーパスを唐突に奪い、
代わりに自分の持っていたイーパスを空気の手の中にねじり込むようにして、強引に渡した。
代わりに自分の持っていたイーパスを空気の手の中にねじり込むようにして、強引に渡した。
「イーパスのすり替えだ」
思いついてしまえば、この上なくシンプルな解答である。
『二人のイーパスは見分けがつかない』。
それをいいことに、1046はBOLCEのイーパスと自分のイーパスを
そっくりそのまますり替えてしまったのだ。
それをいいことに、1046はBOLCEのイーパスと自分のイーパスを
そっくりそのまますり替えてしまったのだ。
1046がいつイーパスのすり替えを実行したのかは定かでない。
事件前日の夜か、あるいは事件当日の朝か、
いずれにせよ1046はどこか人目につかないタイミングを見計らって
BOLCEの財布からイーパスを盗み出し、
代わりに自分のイーパスをBOLCEの財布に入れておいたのだろう。
事件前日の夜か、あるいは事件当日の朝か、
いずれにせよ1046はどこか人目につかないタイミングを見計らって
BOLCEの財布からイーパスを盗み出し、
代わりに自分のイーパスをBOLCEの財布に入れておいたのだろう。
そうすれば事件当日の午前中、
1046はシルバーでBOLCEのイーパスを自由に使えるし、
何も知らないBOLCEはABCで1046のイーパスを使うことになる。
1046はシルバーでBOLCEのイーパスを自由に使えるし、
何も知らないBOLCEはABCで1046のイーパスを使うことになる。
まさに一石二鳥のトリックだ。
「その発想はなかったですわ。
でも、そんなに上手くいくもんっすかね?
イーパスそのものの見た目は誤魔化せたとしても、
ゲームを始めた瞬間に絶対バレると思うんすけど」
でも、そんなに上手くいくもんっすかね?
イーパスそのものの見た目は誤魔化せたとしても、
ゲームを始めた瞬間に絶対バレると思うんすけど」
「それをこれから検証するんだよ」
| 169 :トップランカー殺人事件(197) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/09(日) 18:31:44 ID:HtCNuzY80 |
乙下は空気のデスクの上でだらしなく山積みになっている書類の中から
不要そうな紙をピックアップして裏返し、余白にシャープペンを走らせた。
不要そうな紙をピックアップして裏返し、余白にシャープペンを走らせた。
「DJネーム、エリア、段位……と。
二人のIIDX IDはいくつだったっけ?」
「ちょっと待って下さいね」
二人のIIDX IDはいくつだったっけ?」
「ちょっと待って下さいね」
空気はメモ帳をパラパラと開き、データを読み上げた。
「1046が4649-5963。BOLCEが1192-2960っすね」
「それぞれのDJポイントは調べられるか?」
「はい。ライバル登録をすればすぐに分かります」
「頼む」
「それぞれのDJポイントは調べられるか?」
「はい。ライバル登録をすればすぐに分かります」
「頼む」
空気は携帯電話をカチカチと操作し、データを読み上げた。
「1046が11,560ポイント。BOLCEが10,829ポイント」
「サンキュ。ってことは、こういうことになるよな」
「サンキュ。ってことは、こういうことになるよな」
DJ NAME:1046 DJ NAME:BOLCE
IIDX ID:4649-5963 IIDX ID:1192-2960
所属エリア:岩手 所属エリア:岩手
段位認定:SP皆伝/DP ― 段位認定:SP皆伝/DP ―
DJ POINT:11560.PT DJ POINT:10829.PT
(プレイ回数:非表示) (プレイ回数:多分非表示)
IIDX ID:4649-5963 IIDX ID:1192-2960
所属エリア:岩手 所属エリア:岩手
段位認定:SP皆伝/DP ― 段位認定:SP皆伝/DP ―
DJ POINT:11560.PT DJ POINT:10829.PT
(プレイ回数:非表示) (プレイ回数:多分非表示)
「これ、イーパスを筐体に入れて最初に出てくるプレイデータ画面ですよね」
「ご名答。お前はこいつを見てどう思う?」
「なんだかえらく似てますよね。
二人とも岩手県で登録してるし、皆伝だし」
「そう、似ている。
この二人のデータは非常によく似ている。
けどな、実はここからが本番でさ」
「ご名答。お前はこいつを見てどう思う?」
「なんだかえらく似てますよね。
二人とも岩手県で登録してるし、皆伝だし」
「そう、似ている。
この二人のデータは非常によく似ている。
けどな、実はここからが本番でさ」
乙下は消しゴムで1046のDJネームとDJポイントを一旦消してしまい、
その上から新たな文字を書き起こした。
その上から新たな文字を書き起こした。
「こんな風にしちゃえばどうだ?」
DJ NAME:BOLCE DJ NAME:BOLCE
IIDX ID:4649-5963 IIDX ID:1192-2960
所属エリア:岩手 所属エリア:岩手
段位認定:SP皆伝/DP ― 段位認定:SP皆伝/DP ―
DJ POINT:10829.PT DJ POINT:10829.PT
(プレイ回数:非表示) (プレイ回数:多分非表示)
IIDX ID:4649-5963 IIDX ID:1192-2960
所属エリア:岩手 所属エリア:岩手
段位認定:SP皆伝/DP ― 段位認定:SP皆伝/DP ―
DJ POINT:10829.PT DJ POINT:10829.PT
(プレイ回数:非表示) (プレイ回数:多分非表示)
「ちょ、先輩!これどういう意味っすか?
似てるどころか、IDを除いて丸っきり同じじゃないっすか!」
「うん、だからさ、丸っきり同じにしちゃうんだよ」
似てるどころか、IDを除いて丸っきり同じじゃないっすか!」
「うん、だからさ、丸っきり同じにしちゃうんだよ」
| 170 :トップランカー殺人事件(198) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/09(日) 18:46:32 ID:lYiatNlT0 |
「はぁ!?」
「確かDJネームもDJポイントも割と簡単に変えられたよな。
これならさすがのBOLCEも、まさか1046のイーパスだなんて
簡単には気付かないと俺は思うんだけど、空気的にはどう思う?」
「こんなことできるわけ……うーん……できますね、確かに可能です」
「確かDJネームもDJポイントも割と簡単に変えられたよな。
これならさすがのBOLCEも、まさか1046のイーパスだなんて
簡単には気付かないと俺は思うんだけど、空気的にはどう思う?」
「こんなことできるわけ……うーん……できますね、確かに可能です」
空気の鼻息がやや荒くなった。
「DJネームは携帯サイトで簡単に変更できるし、
DJポイントにしたって計算式をきちんと把握していれば
細かく調整することも理論上はできるはずっす。
ましてや1046クラスなら、1ポイント単位で合わせ込むこともさして難しくはないでしょうね」
「やはりな。1046は綿密な調整をすることで、7月16日朝の時点で
DJポイントをBOLCEとぴったり同じ数字にしておいたんだ。
それが今現在11,560になっているのは、BOLCEと同じポイントになっている
不自然さを隠すために、事件の後である程度上げておいたからなんじゃないかな」
「話は分かりました。
でも、IIDX IDはどうするんすか?
この数字はどう頑張っても変えられないっすよ」
DJポイントにしたって計算式をきちんと把握していれば
細かく調整することも理論上はできるはずっす。
ましてや1046クラスなら、1ポイント単位で合わせ込むこともさして難しくはないでしょうね」
「やはりな。1046は綿密な調整をすることで、7月16日朝の時点で
DJポイントをBOLCEとぴったり同じ数字にしておいたんだ。
それが今現在11,560になっているのは、BOLCEと同じポイントになっている
不自然さを隠すために、事件の後である程度上げておいたからなんじゃないかな」
「話は分かりました。
でも、IIDX IDはどうするんすか?
この数字はどう頑張っても変えられないっすよ」
空気の指摘はもっともだが、乙下は動じずに、質問を質問で返した。
「逆に聞くが、お前のDJポイントはいくつよ?」
「えーと、ボクも10,000をちょっと超えるくらいですけど」
「じゃ、お前のIIDX IDはいくつ?カンニングすんなよ」
「IDなんていちいち覚えてないっすよ」
「そうだろ。つまりはそういうことなんだ。
IDってさ、他のデータと違って数字自体に意味はないでしょ。
だからプレイヤーが普段意識することはまずない。
つまり、画面をまじまじと見られでもしない限りは、まずバレやしないさ」
「まぁ普通はプレイデータ画面なんて、STARTボタン連打ですっ飛ばしますもんね。
先輩の言う通り、この方法ならBOLCEが1046のイーパスを
自分のものだと信じ込むのも無理ないかも知れません」
「えーと、ボクも10,000をちょっと超えるくらいですけど」
「じゃ、お前のIIDX IDはいくつ?カンニングすんなよ」
「IDなんていちいち覚えてないっすよ」
「そうだろ。つまりはそういうことなんだ。
IDってさ、他のデータと違って数字自体に意味はないでしょ。
だからプレイヤーが普段意識することはまずない。
つまり、画面をまじまじと見られでもしない限りは、まずバレやしないさ」
「まぁ普通はプレイデータ画面なんて、STARTボタン連打ですっ飛ばしますもんね。
先輩の言う通り、この方法ならBOLCEが1046のイーパスを
自分のものだと信じ込むのも無理ないかも知れません」
言いながら、空気は何度も何度も繰り返し頷いた。
しかし、空気の首肯はゼンマイ仕掛けの機械のように
少しずつその速度を落とし、やがてピタリと停止してしまった。
少しずつその速度を落とし、やがてピタリと停止してしまった。
「だけど……」
そのまま空気は、やけに神妙な面持ちで語った。
「ダメっす。やっぱり無理ありますよ先輩。
って言うより、そのトリックは実現不可能っす」
「なぜ」
「その方法を使えば、確かに最初のプレイデータ画面はバレずに済むかも知れません。
ゲームが始まった後も、やり方次第でBOLCEの目を誤魔化せると思います。
ですが、一つだけ欠点があるんすよ」
「どういうことかはっきり言えよ」
「問題は『ゲームを始める前』です」
って言うより、そのトリックは実現不可能っす」
「なぜ」
「その方法を使えば、確かに最初のプレイデータ画面はバレずに済むかも知れません。
ゲームが始まった後も、やり方次第でBOLCEの目を誤魔化せると思います。
ですが、一つだけ欠点があるんすよ」
「どういうことかはっきり言えよ」
「問題は『ゲームを始める前』です」
空気は次第に酸っぱいものを舐めたような顔つきに変わり、俯き加減になって言う。
「だって……イーパスを使うためには、四桁の暗証番号を打ち込まなきゃならないんすよ?
BOLCEが1046の暗証番号を打たなきゃダメってことなんすよ?
これじゃ、どう考えたってゲームを始められるわけないじゃないですか!」
BOLCEが1046の暗証番号を打たなきゃダメってことなんすよ?
これじゃ、どう考えたってゲームを始められるわけないじゃないですか!」
| 171 :トップランカー殺人事件(199) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/09(日) 18:57:56 ID:lYiatNlT0 |
空気は真剣だった。
「ははは」
空気がかつてないほど真剣に弁舌しているので、乙下はかえって面白可笑しくなってしまった。
「なに笑ってんすか」
「お前こそなに必死になってんだよ」
「だって、この謎が解けなきゃオトゲ先輩の推理は
破綻しちゃうんですよ……そりゃ必死にもなりますよ」
「バーカ。この俺がそんな初歩的な見落としをするとでも思ったのか?
暗証番号の謎については、すでにちょっとした考えがあるんだ」
「お前こそなに必死になってんだよ」
「だって、この謎が解けなきゃオトゲ先輩の推理は
破綻しちゃうんですよ……そりゃ必死にもなりますよ」
「バーカ。この俺がそんな初歩的な見落としをするとでも思ったのか?
暗証番号の謎については、すでにちょっとした考えがあるんだ」
空気が脊髄反射のような速さで顔を上げた。
乙下の言葉が簡単に信じられないのか、心なしか引きつった顔をしている。
乙下の言葉が簡単に信じられないのか、心なしか引きつった顔をしている。
「ちょっとした考え?」
「まぁね。上手くいくかどうかはやってみないと分からないけど、
ちょっとこれを試してみてほしいんだ」
「まぁね。上手くいくかどうかはやってみないと分からないけど、
ちょっとこれを試してみてほしいんだ」
乙下は書類の余白に再びペンを走らせ、空気への指令をさらりと書いてみせた。
それを読んだ空気の顔色が、みるみる内に青ざめていく。
それを読んだ空気の顔色が、みるみる内に青ざめていく。
「ええええええええええええ!?」
鼓膜に痛みを感じるほどの絶叫が捜査一課に響いた。
「オトゲ先輩、本気ですか?本気でこんなことができると思ってるんすか?」
「うるせーな、そんな驚くような話でもねーだろ」
「いや、だって、先輩。いくらなんだって、こんなの無理に決まってるじゃないっすか!」
「バカ野郎、何事もやってみないと分からないって言ってんだろ」
「でも」
「ガタガタ言うな。さっさと行ってこい」
「ウソでしょ……」
「うるせーな、そんな驚くような話でもねーだろ」
「いや、だって、先輩。いくらなんだって、こんなの無理に決まってるじゃないっすか!」
「バカ野郎、何事もやってみないと分からないって言ってんだろ」
「でも」
「ガタガタ言うな。さっさと行ってこい」
「ウソでしょ……」
茫然自失の空気を尻目に、乙下は椅子から立ち上がった。
「じゃ、頼んだからな」
「オトゲ先輩はどこへ?」
「俺の推理が本当に正しいかどうか、ご意見をちょうだいしようと思って」
「誰に」
「そんなの決まってるだろ。
この推理はBOLCEの性格を正しく把握している人間じゃなきゃ良し悪しを判断できない。
となれば、ここはやっぱBOLCE専門家の出番だろ」
「オトゲ先輩はどこへ?」
「俺の推理が本当に正しいかどうか、ご意見をちょうだいしようと思って」
「誰に」
「そんなの決まってるだろ。
この推理はBOLCEの性格を正しく把握している人間じゃなきゃ良し悪しを判断できない。
となれば、ここはやっぱBOLCE専門家の出番だろ」
乙下は携帯電話のアドレス帳に登録されている中で、
最も年齢の若いその人物を選び、迷わず発信した。
最も年齢の若いその人物を選び、迷わず発信した。
「あーもしもし、杏子ちゃん?
盛岡警察署の乙下だけど……いえいえ、こちらこそさっきはどうもね。
それでさ、ご足労かけて本当に悪いんだけど、今日これからもう一回だけ会えないかな?
うん。もしかしたらこの事件の真相にようやくありつけるも知れないんだ」
盛岡警察署の乙下だけど……いえいえ、こちらこそさっきはどうもね。
それでさ、ご足労かけて本当に悪いんだけど、今日これからもう一回だけ会えないかな?
うん。もしかしたらこの事件の真相にようやくありつけるも知れないんだ」
| 199 :トップランカー殺人事件(200) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/31(月) 20:49:21 ID:2qulnIae0 |
「あり得ますね」
杏子はただそれだけ言って、グラスに手を伸ばした。
「本当に?」
乙下は念を押してみた。
杏子はすぐには答えず、まずアイスティーを口に含み、
味わうようにゆっくりと飲み込み、グラスをテーブルに置いて、それからようやく答えた。
杏子はすぐには答えず、まずアイスティーを口に含み、
味わうようにゆっくりと飲み込み、グラスをテーブルに置いて、それからようやく答えた。
「あり得ます」
「また『理屈の上では』とか言い出さないよね?」
「言いません。純粋に、今の話はあり得ると思います」
「また『理屈の上では』とか言い出さないよね?」
「言いません。純粋に、今の話はあり得ると思います」
乙下は安堵のため息をついた。
「そいつは嬉しいね」
「今の話を裏付ける事実がいくつかあります。
例えば貴方の予想通り、BOLCEさんはプレイ回数を非表示に設定していました。
それに、BOLCEさんは早くゲームを始めたいから、
いつもプレイデータ画面なんてさっさと飛ばしてしまいます」
「てことは、IDが違っているくらいじゃ
イーパスをすり替えられていたとしても、簡単には気付かないってことだね?」
「もちろん絶対に気付かないとは言い切れません。
ですが、気付かない公算は大きいでしょう」
「今の話を裏付ける事実がいくつかあります。
例えば貴方の予想通り、BOLCEさんはプレイ回数を非表示に設定していました。
それに、BOLCEさんは早くゲームを始めたいから、
いつもプレイデータ画面なんてさっさと飛ばしてしまいます」
「てことは、IDが違っているくらいじゃ
イーパスをすり替えられていたとしても、簡単には気付かないってことだね?」
「もちろん絶対に気付かないとは言い切れません。
ですが、気付かない公算は大きいでしょう」
杏子が再びグラスを口に運ぶ。
反動で、汗のような大粒の結露がぽたりとコースターに垂れた。
反動で、汗のような大粒の結露がぽたりとコースターに垂れた。
ここのところ、毎日のようにこの喫茶店に来ている。
今日に至ってはこれで二回目。
それでなくとも午前にたった二杯のコーヒーで長時間粘ったばかりなのに、
今また乙下と杏子は店の一角に陣取っている。
すっかり店員に顔を覚えられてしまってるような気もしたが、
乙下はそんな肩身の狭さをはねのけ、杏子との会議に腰を入れることにした。
今日に至ってはこれで二回目。
それでなくとも午前にたった二杯のコーヒーで長時間粘ったばかりなのに、
今また乙下と杏子は店の一角に陣取っている。
すっかり店員に顔を覚えられてしまってるような気もしたが、
乙下はそんな肩身の狭さをはねのけ、杏子との会議に腰を入れることにした。
| 200 :トップランカー殺人事件(201) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/31(月) 20:53:39 ID:2qulnIae0 |
「トイレに行きます」
杏子が恥じらう様子もなくいきなり言うものだから、乙下は反応に困った。
「……どうぞ、ご自由に行ってらっしゃい」
「私ではなくて、BOLCEさんです。
BOLCEさんはいつもトイレに行ってました」
「そりゃトップランカーだってトイレくらい行くだろ」
「そういうことではなくて。
BOLCEさんはシルバーから帰る時、いつもトイレに寄ってから店を出るんです。
習慣として身についていたんです。
もし1046さんがイーパスをすり替えるチャンスを狙うとしたら、この時です」
「確かな話か?」
「ええ。BOLCEさんはシルバーの常連の皆さんから信頼されていましたし、
同時に常連の皆さんを信頼していました。
ですから、トイレに行く時はバッグをデラ部屋のベンチの上に置きっぱなしです。
イーパスの入った財布もそのバッグの中。
1046さんはその行動パターンを知っていて、上手く利用したのではないでしょうか」
「……ナイスだ。そういう情報を聞きたかったから君を呼んだんだ」
「私ではなくて、BOLCEさんです。
BOLCEさんはいつもトイレに行ってました」
「そりゃトップランカーだってトイレくらい行くだろ」
「そういうことではなくて。
BOLCEさんはシルバーから帰る時、いつもトイレに寄ってから店を出るんです。
習慣として身についていたんです。
もし1046さんがイーパスをすり替えるチャンスを狙うとしたら、この時です」
「確かな話か?」
「ええ。BOLCEさんはシルバーの常連の皆さんから信頼されていましたし、
同時に常連の皆さんを信頼していました。
ですから、トイレに行く時はバッグをデラ部屋のベンチの上に置きっぱなしです。
イーパスの入った財布もそのバッグの中。
1046さんはその行動パターンを知っていて、上手く利用したのではないでしょうか」
「……ナイスだ。そういう情報を聞きたかったから君を呼んだんだ」
これは本音だった。
乙下は今、杏子へ推理を披露しているつもりはない。
乙下は今、杏子と共に推理を組み立てていた。
乙下は今、杏子と共に推理を組み立てていた。
乙下が見つけ出した、今にも崩れ落ちてしまいそうな一本のか細い橋。
それを杏子が踏み固めながら、向こう岸を目指して少しずつ、少しずつ歩く。
そんな作業だった。
それを杏子が踏み固めながら、向こう岸を目指して少しずつ、少しずつ歩く。
そんな作業だった。
「ただし」
杏子は重たそうに口を開いた。
「ただしこれは、あくまでプレイデータ画面だけなら
BOLCEさんの目を誤魔化せるかも知れないという話です。
いざゲームが始まってしまったら、さすがにもう騙し通すことは無理だと思います」
「そうかな?意外と騙せるかもよ?」
BOLCEさんの目を誤魔化せるかも知れないという話です。
いざゲームが始まってしまったら、さすがにもう騙し通すことは無理だと思います」
「そうかな?意外と騙せるかもよ?」
乙下は試すように聞き返す。
しかし杏子も試すような口調で切り返した。
しかし杏子も試すような口調で切り返した。
「貴方はBOLCEさんのスコアに対する執念を知らないからそんなことを言えるんです。
知ってますか?
BOLCEさんは、あらゆる曲の自己ベストスコアを完全に記憶しているんです」
知ってますか?
BOLCEさんは、あらゆる曲の自己ベストスコアを完全に記憶しているんです」
| 201 :トップランカー殺人事件(202) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/31(月) 21:00:46 ID:2qulnIae0 |
驚くべき事実だった。
「何百曲もあるのに?」
「単純な曲数だけでは語れません。
中には今作になってからまだプレイしていない曲もありますし、
一つの曲でもNORMAL・HYPER・ANOTHERと三譜面あります。
ですけど、いずれにせよBOLCEさんは一度プレイしただけで
その譜面で何点取ったかを必ず覚えてしまうんです。
信じられないかも知れませんが、本当にそうなんです。
これが何を意味するか分かりますか?」
「単純な曲数だけでは語れません。
中には今作になってからまだプレイしていない曲もありますし、
一つの曲でもNORMAL・HYPER・ANOTHERと三譜面あります。
ですけど、いずれにせよBOLCEさんは一度プレイしただけで
その譜面で何点取ったかを必ず覚えてしまうんです。
信じられないかも知れませんが、本当にそうなんです。
これが何を意味するか分かりますか?」
分からないはずがない。
もしBOLCEが本当に全曲分のスコアを覚えていたとしたら……。
もしBOLCEが本当に全曲分のスコアを覚えていたとしたら……。
「貴方の推理は想像がつきます。
選曲BGM、レーンカバー、フレーム……そういう『見た目』の部分なら、
携帯サイトのカスタマイズを使えば、簡単にBOLCEさんと同じ設定に変えることができます。
1046さんはそれを利用して、BOLCEさんの目をかいくぐった、と」
「おっしゃる通り。俺はそう考えた」
「……ですが、話はそう単純ではありません。
選曲画面になった段階で、あらゆる曲のベストスコアとクリアランプがBOLCEさんの目に入ります。
その時たった1点でも記憶の中のスコアと違っていたら……その瞬間に間違いなく全部バレます。
ですからこのトリックを成立させるためには、
1046さんはあらかじめ全ての曲のベストスコアとクリアランプを
BOLCEさんと同じ状態にしておかなくてはならないのです。
そんなこと、現実的に可能ですか?」
選曲BGM、レーンカバー、フレーム……そういう『見た目』の部分なら、
携帯サイトのカスタマイズを使えば、簡単にBOLCEさんと同じ設定に変えることができます。
1046さんはそれを利用して、BOLCEさんの目をかいくぐった、と」
「おっしゃる通り。俺はそう考えた」
「……ですが、話はそう単純ではありません。
選曲画面になった段階で、あらゆる曲のベストスコアとクリアランプがBOLCEさんの目に入ります。
その時たった1点でも記憶の中のスコアと違っていたら……その瞬間に間違いなく全部バレます。
ですからこのトリックを成立させるためには、
1046さんはあらかじめ全ての曲のベストスコアとクリアランプを
BOLCEさんと同じ状態にしておかなくてはならないのです。
そんなこと、現実的に可能ですか?」
乙下は即答した。
「無理だね。絶対に不可能だ。
そもそもベストスコアを上げることはできても、下げることはできない。
元から1046がBOLCEに勝っていた曲は、偽装工作のしようがない」
「でしょう。
やっぱり、このトリックには無理があったんです」
そもそもベストスコアを上げることはできても、下げることはできない。
元から1046がBOLCEに勝っていた曲は、偽装工作のしようがない」
「でしょう。
やっぱり、このトリックには無理があったんです」
乙下は両手を首の後ろに回し、天井を見上げ、うなるように言った。
「驚いたな。BOLCEは全ての曲のスコアを覚えていたのか。
いや、本当に驚いたよ……ここまで俺の想像した通りだとはね」
「え?」
いや、本当に驚いたよ……ここまで俺の想像した通りだとはね」
「え?」
意外そうな声を発した杏子に向き直り、乙下は腕を組んだ。
「杏子ちゃんの言うように、もしベストスコアやクリアランプを
BOLCEに見られたら、1046の計画は一瞬でおじゃんだ。
だから1046は先手を打った。
見られてまずいものなら、見られないようにしておけばいい」
BOLCEに見られたら、1046の計画は一瞬でおじゃんだ。
だから1046は先手を打った。
見られてまずいものなら、見られないようにしておけばいい」
乙下の真意が掴めないのか、杏子は黙って次の言葉を待ち構えている。
「何を言いたいかってさ……ま、これを見れば一目瞭然さ」
| 202 :トップランカー殺人事件(203) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/31(月) 21:13:58 ID:2qulnIae0 |
乙下は例によって、使い古されたA4用紙をポケットから取り出し、テーブルの上に広げた。
START = 10:27, END = 10:39;(山岡コース MAX-17)
START = 10:40, END = 10:52;(山岡コース MAX-11)
START = 10:52, END = 11:03;(山岡コース MAX-8)
START = 11:04, END = 11:16;(山岡コース MAX-14)
START = 11:17, END = 11:29;(山岡コース MAX-8)
START = 11:30, END = 11:42;(山岡コース MAX-9)
START = 11:43, END = 11:55;(山岡コース MAX-6)
START = 10:40, END = 10:52;(山岡コース MAX-11)
START = 10:52, END = 11:03;(山岡コース MAX-8)
START = 11:04, END = 11:16;(山岡コース MAX-14)
START = 11:17, END = 11:29;(山岡コース MAX-8)
START = 11:30, END = 11:42;(山岡コース MAX-9)
START = 11:43, END = 11:55;(山岡コース MAX-6)
「あ……!」
まさに百聞は一見にしかず、だった。
言葉に頼らずとも、乙下の考えがすんなりと伝わったようだ。
言葉に頼らずとも、乙下の考えがすんなりと伝わったようだ。
「だから……だから、EXPERTコースだったんですね……」
乙下はそっと頷いた。
『EXPERTモードには選曲画面がない』。
選曲画面がない以上は、BOLCEがベストスコアやクリアランプを目にしてしまうおそれもない。
選曲画面がない以上は、BOLCEがベストスコアやクリアランプを目にしてしまうおそれもない。
1046がこれを利用しない手はなかった。
1046は極めて巧妙にBOLCEの心理を手玉に取り、
『BOLCEがEXPERTモードだけを選ぶよう仕向けた』のだ。
1046は極めて巧妙にBOLCEの心理を手玉に取り、
『BOLCEがEXPERTモードだけを選ぶよう仕向けた』のだ。
「もし俺の考えが正しければ、
BOLCEは極度の負けず嫌いだった……特に1046に対しては。そうだね?」
BOLCEは極度の負けず嫌いだった……特に1046に対しては。そうだね?」
杏子もそっと頷いた。
「おそらく1046は、山岡コースHYPERでBOLCEに勝負を挑んだんだ。
するとどうなるか……二人をそばで見てきた杏子ちゃんなら分かるだろう?」
するとどうなるか……二人をそばで見てきた杏子ちゃんなら分かるだろう?」
杏子の顔色をうかがうと、彼女はなにやら遠くを見る目をして語り出した。
「以前にも何度かあったんです。
1046さんが何かの曲で物凄い高スコアを取って、それをBOLCEさんに自慢すると、
決まってBOLCEさんは死に物狂いで抜き返そうとするんです。
それこそ、しばらくは他の曲を選ばなくなるほど集中していました」
「それだ。今回もそのパターンだ。
『山岡コースのHYPERで全一を取ったぞ』『お前には絶対に抜かせるわけがない』。
そんな風に挑発されたら、負けず嫌いのBOLCEは脇目も振らず山岡コースに粘着し続ける。
そうなることを1046は見越していたんだ」
1046さんが何かの曲で物凄い高スコアを取って、それをBOLCEさんに自慢すると、
決まってBOLCEさんは死に物狂いで抜き返そうとするんです。
それこそ、しばらくは他の曲を選ばなくなるほど集中していました」
「それだ。今回もそのパターンだ。
『山岡コースのHYPERで全一を取ったぞ』『お前には絶対に抜かせるわけがない』。
そんな風に挑発されたら、負けず嫌いのBOLCEは脇目も振らず山岡コースに粘着し続ける。
そうなることを1046は見越していたんだ」
杏子はテーブルに両肘をつき、頭を抱え込むようにして俯いてしまった。
「ひど過ぎます。最低です。
ただひたむきに努力してただけなのに、
そんなBOLCEさんの気持ちを利用して、踏みにじって、あんなひどい殺し方をして……」
ただひたむきに努力してただけなのに、
そんなBOLCEさんの気持ちを利用して、踏みにじって、あんなひどい殺し方をして……」
杏子は声を震わせもせず、淡々と言葉を漏らした。
かと思うと、その姿勢のまま何も言わず固まってしまった。
かと思うと、その姿勢のまま何も言わず固まってしまった。
一体どんな表情をしているのかちょっとだけ気になったが、
乙下は俯く杏子を覗き込むような真似はせず、ただそっとしておいた。
乙下は俯く杏子を覗き込むような真似はせず、ただそっとしておいた。
| 203 :トップランカー殺人事件(204) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/31(月) 21:20:32 ID:2qulnIae0 |
やがて杏子は顔を上げた。
「トイレに行きます」
けろりとした顔でけろりと言うものだから、乙下はまたまた戸惑ってしまう。
「BOLCEが?」
「いえ、私が」
「……どうぞ、ご自由に行ってらっしゃい」
「いえ、私が」
「……どうぞ、ご自由に行ってらっしゃい」
杏子は返事もせず席を立ち、喫茶店の奥まった場所にある小部屋へと消えた。
乙下は一度大きく体を伸ばし、
なんとなく体の疲れを押しのけたつもりになりつつ、空気に電話をかけてみた。
なんとなく体の疲れを押しのけたつもりになりつつ、空気に電話をかけてみた。
「もしもし、空気?」
『ももも、もしもし』
『ももも、もしもし』
またどっと疲れた。
「お前、俺をバカにしてんの?」
『してないしてない、してないっす』
「その割にはフザけた態度だな」
『違うんすよ。ホントなんて言えばいいんでしょうね、大変なことになりました』
『してないしてない、してないっす』
「その割にはフザけた態度だな」
『違うんすよ。ホントなんて言えばいいんでしょうね、大変なことになりました』
空気は変に動揺している。
「どうした?別に上手くいかなくたってそんなに気に病まなくても」
『いや、だから違うんすよ。予想より上手く行っちゃったんすよ』
「マジで?」
『先輩の言う通りになって調べてみたら、それらしい痕跡を発見したんです。
もしかして、1046が犯人であることを示す決定的な物的証拠になるかも知れません』
『いや、だから違うんすよ。予想より上手く行っちゃったんすよ』
「マジで?」
『先輩の言う通りになって調べてみたら、それらしい痕跡を発見したんです。
もしかして、1046が犯人であることを示す決定的な物的証拠になるかも知れません』
今度は乙下が動揺する番だった。
「ちょっと、それ本当だよな!?お前、それが本当だとしたらすごい手柄だぞ」
『ですよね……ど、どうすればいいですか?』
「どうすればって」
『ですよね……ど、どうすればいいですか?』
「どうすればって」
ちょうど杏子が戻って来るのが見えた。
「俺は俺でやることがあるから、この件はお前に任せるよ。
はっきりと分かったらまた連絡頼む」
『ちょっと、せんぱ……』
はっきりと分かったらまた連絡頼む」
『ちょっと、せんぱ……』
杏子が腰を下ろすと同時に、乙下は電話を切った。
「空気さんですか?」
「うん。なんで分かったの?」
「なんとなく」
「ふーん」
「うん。なんで分かったの?」
「なんとなく」
「ふーん」
杏子は椅子を引いて、姿勢を正してから言った。
「……ところで、さっきの話をよく考えてみたんですけど。
やっぱりなんだかおかしくないですか?」
やっぱりなんだかおかしくないですか?」
| 204 :トップランカー殺人事件(205) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/08/31(月) 21:26:11 ID:2qulnIae0 |
「どうして?」
まだ収まらない動揺を掻き分け、
なんとか気持ちを切り替えようと努めながら耳を傾ける。
なんとか気持ちを切り替えようと努めながら耳を傾ける。
「矛盾しているんです。
もしさっきの貴方の推理が本当だとすれば、
1046さんはBOLCEさんに勝負を挑む前に、下準備としてAKIRA YAMAOKAコースをやり込んで、
BOLCEさんでさえも簡単には抜けないようなスコアを出しておく必要があります」
「だね」
「でもそうすると今度は、そのスコアが原因で自分のカードではないことが
BOLCEさんにバレてしまいませんか?
だって、例え選曲画面を見られる心配がなくても、
プレイ中のグラフやリザルトには結局その曲のベストスコアが表示されるんです。
つまり、このトリックでBOLCEさんを騙すためには、
『AKIRA YAMAOKAコースの五曲だけはBOLCEさんと同じスコアにしておく』必要があるはずです。
これ、どう考えても矛盾しています」
もしさっきの貴方の推理が本当だとすれば、
1046さんはBOLCEさんに勝負を挑む前に、下準備としてAKIRA YAMAOKAコースをやり込んで、
BOLCEさんでさえも簡単には抜けないようなスコアを出しておく必要があります」
「だね」
「でもそうすると今度は、そのスコアが原因で自分のカードではないことが
BOLCEさんにバレてしまいませんか?
だって、例え選曲画面を見られる心配がなくても、
プレイ中のグラフやリザルトには結局その曲のベストスコアが表示されるんです。
つまり、このトリックでBOLCEさんを騙すためには、
『AKIRA YAMAOKAコースの五曲だけはBOLCEさんと同じスコアにしておく』必要があるはずです。
これ、どう考えても矛盾しています」
乙下はコーヒーをすすりながら、軽く肩を上げた。
「うん。一見すると不思議な話だよね。
1046はBOLCEより高いスコアを出しておかなければならないのに、
それと同時にBOLCEと同じスコアを出しておかなければならない。
確かに、この二つは矛盾しているように見える」
「矛盾しているように見えるって言いますか、明らかに矛盾しています」
1046はBOLCEより高いスコアを出しておかなければならないのに、
それと同時にBOLCEと同じスコアを出しておかなければならない。
確かに、この二つは矛盾しているように見える」
「矛盾しているように見えるって言いますか、明らかに矛盾しています」
気張って指摘する杏子に対し、乙下は事も無げに言ってみせた。
「矛盾はしない。
あるトリックを使えば、簡単にこの二つを同時に成立させてしまえるんだ」
「これにも何か仕掛けがあるんですか?」
「その前にちょっと考えてみてほしい。
『どうして1046は数あるEXPERTコースの中から山岡コースのHYPERを選んだのか』。
その理由が分かるかい?」
あるトリックを使えば、簡単にこの二つを同時に成立させてしまえるんだ」
「これにも何か仕掛けがあるんですか?」
「その前にちょっと考えてみてほしい。
『どうして1046は数あるEXPERTコースの中から山岡コースのHYPERを選んだのか』。
その理由が分かるかい?」
杏子は十秒ほどの間、目線を斜め上に向けて考える素振りを見せたが、
すぐに首を横に振って降参した。
すぐに首を横に振って降参した。
「分かりません……でもそれ、今の話に関係あるんですか?」
今度は乙下が間髪入れずに首を縦に振った。
「関係大ありさ。
1046がAKIRA YAMAOKAコースのHYPERを選んだのには『三つの理由』があった。
全てはこのトリックを作り上げるために、必要不可欠な理由だったんだ」
1046がAKIRA YAMAOKAコースのHYPERを選んだのには『三つの理由』があった。
全てはこのトリックを作り上げるために、必要不可欠な理由だったんだ」