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トップランカー殺人事件 第五話『dj Remo-con』 -phase5-
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| 251 :トップランカー殺人事件(206) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/09/27(日) 03:42:52 ID:jk+LOc+40 |
「三つの理由って何なんですか?」
「未プレイだったから。ほどよく簡単だったから。裏コースだったから。以上」
「未プレイだったから。ほどよく簡単だったから。裏コースだったから。以上」
なぜ1046はAKIRA YAMAOKAコースのHYPERを選んだのか。
乙下はその答えを、あっさり過ぎるほどあっさりと言ってみせた。
乙下はその答えを、あっさり過ぎるほどあっさりと言ってみせた。
「未プレイ?」
「うん」
「ほどよく簡単?」
「うん」
「裏コース?」
「うん」
「うん」
「ほどよく簡単?」
「うん」
「裏コース?」
「うん」
五秒くらいの沈黙を挟み、杏子は全然理解できないといった感じの口調で
「全然理解できないんですけど」とクレームをつけてきた。
「全然理解できないんですけど」とクレームをつけてきた。
そんな杏子に、乙下は何も言わず自分の携帯電話を差し出した。
杏子はそれを素直に受け取り、すかさず画面の中身を読み上げる。
杏子はそれを素直に受け取り、すかさず画面の中身を読み上げる。
「『ライバル情報 DJ BOLCE』……これは?」
「IIDXの携帯サイト」
「それは分かりますけど。BOLCEさんをライバル登録してどうするつもりなんですか?」
「IIDXの携帯サイト」
「それは分かりますけど。BOLCEさんをライバル登録してどうするつもりなんですか?」
貴方にBOLCEさんをライバル登録する資格があるとでも思ってるんですか?
と、言われたわけではもちろんないのだが、
なんだかそんな意味にも取れてしまい、ちょっとだけ罪悪感のようなものを感じてしまう。
が、乙下は気を取り直しつつ話を進めることにする。
なんだかそんな意味にも取れてしまい、ちょっとだけ罪悪感のようなものを感じてしまう。
が、乙下は気を取り直しつつ話を進めることにする。
「いいかい。そのライバル情報のページで、
これから言う曲のBOLCEのベストスコアを調べてみてほしいんだ。
一曲目『昭和企業戦士荒山課長』。譜面はHYPER」
「その曲って……」
これから言う曲のBOLCEのベストスコアを調べてみてほしいんだ。
一曲目『昭和企業戦士荒山課長』。譜面はHYPER」
「その曲って……」
杏子は、それがAKIRA YAMAOKAコースの一曲目だとすぐに察したようだった。
「ちょっと待ってて下さいね……えーと……出ました」
「何点?」
「……0点です。『NoPlay』と書いてあります」
「何点?」
「……0点です。『NoPlay』と書いてあります」
乙下は手元にあったしわくちゃのA4用紙を裏返して、白々しく「荒山課長:0点」と書き込んだ。
「二曲目『ライオン好き』HYPER」
「……NoPlay。これも0点です」
「三曲目『システムロマンス』HYPER」
「……NoPlay」
「……NoPlay。これも0点です」
「三曲目『システムロマンス』HYPER」
「……NoPlay」
杏子は乙下の指示通りに携帯電話を操作し、BOLCEの「ベストスコア」をどんどん調べ上げていく。
「四曲目『マチ子の唄』HYPER」
「……NoPlay」
「五曲目『ヨシダさん』HYPER」
「……NoPlay。全曲0点です」
「……NoPlay」
「五曲目『ヨシダさん』HYPER」
「……NoPlay。全曲0点です」
乙下の右手の下で、美しい記録表が完成した。
0点、0点、0点、0点、0点、合計スコア0点。
0点、0点、0点、0点、0点、合計スコア0点。
乙下はその記録表を杏子の方へ向け、とんとんと軽く指で叩いた。
「山岡コースの課題曲が全て未プレイの0点。こいつをどう思う?」
| 252 :トップランカー殺人事件(207) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/09/27(日) 03:54:20 ID:jk+LOc+40 |
「どうって、別に不自然なことではありません。
BOLCEさんは基本的に高難易度曲ばかりを選んでプレイする傾向がありました。
☆7以下のHYPERやNORMAL譜面を選ぶところはほとんど見た記憶がないです」
「そういう見方もできることはできる。
しかし、これが偶然ではないとしたら?
つまり1046は、『BOLCEが0点のコースを意図的に選んでいた』のだとしたら?」
BOLCEさんは基本的に高難易度曲ばかりを選んでプレイする傾向がありました。
☆7以下のHYPERやNORMAL譜面を選ぶところはほとんど見た記憶がないです」
「そういう見方もできることはできる。
しかし、これが偶然ではないとしたら?
つまり1046は、『BOLCEが0点のコースを意図的に選んでいた』のだとしたら?」
そこまで言ったところで、杏子は口に手をあてる仕草をした。
ようやく乙下が言わんとしていることの見当がついてきたらしい。
ようやく乙下が言わんとしていることの見当がついてきたらしい。
「もう分かっただろ?
1000点対1000点も同点。
777点対777点だって同点。
そして『0点対0点』……バカみたいな話だが、これも立派な同点ってことさ。
同点である以上は、BOLCEにイーパスのすり替えがバレることもない」
「やっと理解出来ました。
1046さんは『AKIRA YAMAOKAコースの曲を同点に調整した』のではなく、
『0点同士で同点だったからAKIRA YAMAOKAコースを選んだ』。
これがBOLCEさんの目を誤魔化すための、最も手っ取り早い方法だったんですね」
1000点対1000点も同点。
777点対777点だって同点。
そして『0点対0点』……バカみたいな話だが、これも立派な同点ってことさ。
同点である以上は、BOLCEにイーパスのすり替えがバレることもない」
「やっと理解出来ました。
1046さんは『AKIRA YAMAOKAコースの曲を同点に調整した』のではなく、
『0点同士で同点だったからAKIRA YAMAOKAコースを選んだ』。
これがBOLCEさんの目を誤魔化すための、最も手っ取り早い方法だったんですね」
乙下は大きく頷いた。
理論上の話をすれば、必ずしも0点のコースを選ぶ必要はなかったのかも知れない。
杏子の言うように、1046がBOLCEのスコアに合わせて
各曲とも同点になるよう調整しておくという手もあるからだ。
杏子の言うように、1046がBOLCEのスコアに合わせて
各曲とも同点になるよう調整しておくという手もあるからだ。
だが現実的には、いくら1046と言えども
この「同点に調整する」という作業はそう生易しい話ではないはずだ。
この「同点に調整する」という作業はそう生易しい話ではないはずだ。
仮に失敗してBOLCEより低い点数を出す分には構わない。
再チャレンジすればそれで済む。
だがしかし、仮にBOLCEのスコアを僅か1点でも上回ってしまったら?
当然ながら『一度出してしまったベストスコアは二度と撤回できない』。
やり直しはきかないのだ。
一曲だけならまだしも、EXPERTの五曲を全てBOLCEと同点に合わせ込むなど、正気の沙汰ではない。
再チャレンジすればそれで済む。
だがしかし、仮にBOLCEのスコアを僅か1点でも上回ってしまったら?
当然ながら『一度出してしまったベストスコアは二度と撤回できない』。
やり直しはきかないのだ。
一曲だけならまだしも、EXPERTの五曲を全てBOLCEと同点に合わせ込むなど、正気の沙汰ではない。
だからこそ1046はそんな非現実的な方法に頼らず、
はなから「オール0点コース」をチョイスしてBOLCEに勝負を挑んだ。
はなから「オール0点コース」をチョイスしてBOLCEに勝負を挑んだ。
これが乙下の推理だった。
「三つの理由の一つは分かりました。
では、次の『ほどよく簡単だったから』というのは?」
「これは読んで字のごとくだよ。
1046からすれば、BOLCEにはアリバイ工作のために
同じコースを何度も繰り返しプレイしててもらう必要があるわけだろ。
ということは、スコアがBOLCEにあっさり追いつかれてしまうようなコースじゃ
トリック自体が成立しないってことになるんだ。
だから1046は『最もBOLCEに差をつけやすいコース』で勝負を挑まなければならない。
じゃ、1046が最も差をつけやすいコースってどんなコースだと思う?」
では、次の『ほどよく簡単だったから』というのは?」
「これは読んで字のごとくだよ。
1046からすれば、BOLCEにはアリバイ工作のために
同じコースを何度も繰り返しプレイしててもらう必要があるわけだろ。
ということは、スコアがBOLCEにあっさり追いつかれてしまうようなコースじゃ
トリック自体が成立しないってことになるんだ。
だから1046は『最もBOLCEに差をつけやすいコース』で勝負を挑まなければならない。
じゃ、1046が最も差をつけやすいコースってどんなコースだと思う?」
杏子ははっとした様子で答えた。
「それがつまり、『ほどよく簡単なコース』ってことなんですか?」
| 253 :トップランカー殺人事件(208) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/09/27(日) 04:16:43 ID:jk+LOc+40 |
「そういうことだね。BOLCEが得意なのは発狂譜面で、逆に1046が得意なのは簡易譜面。
だから難しいコースにすると1046のスコアはあっさり抜かされて、勝負が終わってしまう。
かと言って簡単過ぎるコースにすると、
二人とも理論値を出してしまい、そのまま引き分けで勝負が終わってしまう可能性が高い。
となれば、1046が選ぶべきはその中間にある『ほどよく簡単なコース』に他ならない。
そういう観点でEXPERTコースを調べたら、ちょっと面白いことが分かった」
だから難しいコースにすると1046のスコアはあっさり抜かされて、勝負が終わってしまう。
かと言って簡単過ぎるコースにすると、
二人とも理論値を出してしまい、そのまま引き分けで勝負が終わってしまう可能性が高い。
となれば、1046が選ぶべきはその中間にある『ほどよく簡単なコース』に他ならない。
そういう観点でEXPERTコースを調べたら、ちょっと面白いことが分かった」
乙下は小さく折り畳まれたカラーの印刷物をポケットから取り出し、杏子の前に広げて見せた。
ブラウザをそのままプリントアウトしたもので、
表題に「beatmaniaIIDX情報Wiki DJ TROOPERS EXPERTコース一覧」と書かれている。
空気のノートPCのブックマークに登録されていたサイトだった。
ブラウザをそのままプリントアウトしたもので、
表題に「beatmaniaIIDX情報Wiki DJ TROOPERS EXPERTコース一覧」と書かれている。
空気のノートPCのブックマークに登録されていたサイトだった。
「現在DJ TROOPERSで遊ぶことのできるEXPERTコースは
表コースが12個、裏コースが12個で、合計で24コース。
それぞれにNORMAL・HYPER・ANOTHERの三譜面が用意されてるから、実質72コースある」
「結構いっぱいあるんですね」
「さて杏子ちゃん、君は朝にこう言ってたよな。
『1046は簡易譜面に滅法強い』。
『☆7くらいまでなら、BOLCEでさえ相手にもならなかった』」
「言いました」
「この言葉を信じれば、1046がBOLCEに最も差をつけやすい譜面とは
『☆7以下でなるべく簡単過ぎない譜面』ということになる。
ということで、☆7以下の曲だけで構成されたコースを抽出すると……」
表コースが12個、裏コースが12個で、合計で24コース。
それぞれにNORMAL・HYPER・ANOTHERの三譜面が用意されてるから、実質72コースある」
「結構いっぱいあるんですね」
「さて杏子ちゃん、君は朝にこう言ってたよな。
『1046は簡易譜面に滅法強い』。
『☆7くらいまでなら、BOLCEでさえ相手にもならなかった』」
「言いました」
「この言葉を信じれば、1046がBOLCEに最も差をつけやすい譜面とは
『☆7以下でなるべく簡単過ぎない譜面』ということになる。
ということで、☆7以下の曲だけで構成されたコースを抽出すると……」
乙下はボールペンを握り、次々とコース名に丸をつけていった。
・FEELINGSコース(NORMAL、HYPER) ・UPLIFTコース(NORMAL) ・GLAREコース(NORMAL) ・TROOPERSコース(NORMAL) ・SELECTIONコース(NORMAL) ・ETRANGERコース(NORMAL) ・TECHNOコース(NORMAL) ・DIVERSITYコース(NORMAL) ・AMBUSHコース(NORMAL) ・DISCHARGEコース(NORMAL) ・BATTALIONコース(NORMAL) ・MILITARY SPLASHコース(NORMAL) ・SLOW LIFEコース(NORMAL) ・RAM RAVEコース(NORMAL) ・PIANOコース(NORMAL) ・REMO-CONコース(NORMAL) ・L.E.D.コース(NORMAL) ・SUMMITコース(NORMAL) ・FLOWERコース(NORMAL) ・STARコース(NORMAL) ・AKIRA YAMAOKAコース(NORMAL、HYPER)
「この23コースに絞られる。単純に、この中で最も難易度が高いコースを選ぶと……」
・FEELINGSコース(HYPER) →☆4・☆6・☆7・☆7・☆7 合計☆31 ・MILITARY SPLASHコース(NORMAL) →☆5・☆6・☆7・☆7・☆6 合計☆31 ・L.E.D.コース(NORMAL) →☆5・☆6・☆6・☆7・☆7 合計☆31 ・AKIRA YAMAOKAコース(HYPER) →☆6・☆5・☆7・☆6・☆7 合計☆31
「この4つのコースが同率一位になるんだ」
| 254 :トップランカー殺人事件(209) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/09/27(日) 04:26:16 ID:jk+LOc+40 |
「なるほど。これが1046さんにとって最も有利な『ほどよく簡単なコース』なんですね」
「ま、もちろん実際のところはこんな厳密な計算をしたわけじゃないんだろう。
けど、今説明したような理由でAKIRA YAMAOKAコースのHYPERが
BOLCEとの勝負に打ってつけだったことは間違いないと思う」
「ま、もちろん実際のところはこんな厳密な計算をしたわけじゃないんだろう。
けど、今説明したような理由でAKIRA YAMAOKAコースのHYPERが
BOLCEとの勝負に打ってつけだったことは間違いないと思う」
杏子は頷きながらもいぶかしげに首を傾げるという妙な動作をした。
「二つ目の理由もよく分かりました」
「じゃぁどうしてそんな顔するんだよ」
「だって、おかしいじゃないですか。
事件当日の朝の時点で、1046さんのAKIRA YAMAOKAコースのスコアは0点だったはずでしょう?
ついさっきそういう結論になったばかりですよね」
「なったばかりだね」
「それなのに今の話からすれば、1046さんは事件当日の朝の時点ですでに
AKIRA YAMAOKAコースで高記録を出していることになります。
やっぱりこれ、どう考えても矛盾してます。
1046さんは一体どのタイミングでAKIRA YAMAOKAコースをプレイしたんですか?」
「じゃぁどうしてそんな顔するんだよ」
「だって、おかしいじゃないですか。
事件当日の朝の時点で、1046さんのAKIRA YAMAOKAコースのスコアは0点だったはずでしょう?
ついさっきそういう結論になったばかりですよね」
「なったばかりだね」
「それなのに今の話からすれば、1046さんは事件当日の朝の時点ですでに
AKIRA YAMAOKAコースで高記録を出していることになります。
やっぱりこれ、どう考えても矛盾してます。
1046さんは一体どのタイミングでAKIRA YAMAOKAコースをプレイしたんですか?」
納得のいかない杏子に向かって、乙下は微笑みかけた。
「そこで三つ目の理由が大切な役割を果たすんだ」
「三つ目の理由って確か……『裏コース』ですか?」
「そう、裏コース。
意外に思うだろうけど、1046がAKIRA YAMAOKAコースを選んだ最後の、
そして最大の理由は、『裏コースだったから』だと俺は踏んでる」
「意外も何も、裏コースであることにどんな意味があるのか想像もつきません」
「三つ目の理由って確か……『裏コース』ですか?」
「そう、裏コース。
意外に思うだろうけど、1046がAKIRA YAMAOKAコースを選んだ最後の、
そして最大の理由は、『裏コースだったから』だと俺は踏んでる」
「意外も何も、裏コースであることにどんな意味があるのか想像もつきません」
そこで乙下は杏子に向かって少しだけ身を乗り出し、ひそひそ話をするかのように言った。
「ところがだ、表コースと裏コースの間にはたった一つだけ物凄く大きな違いがある。
そして、その違いこそがこの『イーパスすり替えトリック』を
成立させるための最重要ポイントなんじゃないかと俺は考えてるんだ」
そして、その違いこそがこの『イーパスすり替えトリック』を
成立させるための最重要ポイントなんじゃないかと俺は考えてるんだ」
| 272 :トップランカー殺人事件(191) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 02:01:51 ID:jyRg35SM0 |
杏子はEXPERTコースの一覧表をまじまじと眺めながら言った。
「表コースと裏コースに違いなんて、本当にあるんでしょうか?
私、これまで意識したこともありませんでした」
「普通のプレイヤーは知らなくても無理ないよ。
俺だって空気に教えられて、昨日初めて知ったことなんだ」
「ちっとも分かりません……。ヒントを下さい」
「ヒントならその中にある」
私、これまで意識したこともありませんでした」
「普通のプレイヤーは知らなくても無理ないよ。
俺だって空気に教えられて、昨日初めて知ったことなんだ」
「ちっとも分かりません……。ヒントを下さい」
「ヒントならその中にある」
乙下は杏子の右手を指差した。
杏子の右手には、乙下の携帯電話が握られたままであった。
杏子の右手には、乙下の携帯電話が握られたままであった。
「あ、ごめんなさい。返すの忘れてました」
「いやいやお気になさらず。
そんなことより、BOLCEのライバル情報のページはまだ開いたままになってるな?」
「ええ、なってます」
「それじゃ、最後にもう一個だけ調べてみてほしいものがあるんだ」
「どの曲のスコアですか?」
「曲じゃない。コースだ。山岡コースのスコア」
「え」
「いやいやお気になさらず。
そんなことより、BOLCEのライバル情報のページはまだ開いたままになってるな?」
「ええ、なってます」
「それじゃ、最後にもう一個だけ調べてみてほしいものがあるんだ」
「どの曲のスコアですか?」
「曲じゃない。コースだ。山岡コースのスコア」
「え」
杏子は聞き直した。
「何て言いました?」
「山岡コースだよ。
BOLCEのAKIRA YAMAOKAコースHYPERのスコアを調べてほしいんだ」
「そ、それは構いませんけど……」
「山岡コースだよ。
BOLCEのAKIRA YAMAOKAコースHYPERのスコアを調べてほしいんだ」
「そ、それは構いませんけど……」
杏子はさも不思議そうに、歯切れの悪い声で意見した。
「AKIRA YAMAOKAコースのスコアなら、さっき調べたばかりじゃないですか。
五曲とも0点だったでしょう?」
「それはただ単に、山岡コースに入ってる五曲のスコアを個別に調べただけでしょ。
俺が今調べてほしいのは、山岡コースそのもののスコアだよ」
「そんなの調べなくたって、五曲とも0点なら0点に決まってます」
「果たしてそうかな?」
五曲とも0点だったでしょう?」
「それはただ単に、山岡コースに入ってる五曲のスコアを個別に調べただけでしょ。
俺が今調べてほしいのは、山岡コースそのもののスコアだよ」
「そんなの調べなくたって、五曲とも0点なら0点に決まってます」
「果たしてそうかな?」
乙下の不敵な物言いに動かされ、ようやく杏子は携帯電話を操作し始めた。
静かな喫茶店の店内に、カチカチとボタンを押す音が、奇妙なほど鮮明に響く。
静かな喫茶店の店内に、カチカチとボタンを押す音が、奇妙なほど鮮明に響く。
「……え?」
そして杏子のつぶやき。
もともと丸くて可愛らしい目が、ますます丸くなった。
もともと丸くて可愛らしい目が、ますます丸くなった。
「どうして?」
杏子はまごつきながら、携帯電話と乙下を交互に見ている。
「どうだい?何点か分かったかい?」
「……分かりました」
「……分かりました」
杏子は大きく肩を揺らして一度ため息をつき、
それから悟ったように携帯電話の操作をピタリとやめ、乙下に電話を突っ返した。
それから悟ったように携帯電話の操作をピタリとやめ、乙下に電話を突っ返した。
「やっと分かりました。『何点なのか分からない』ことが分かりました」
| 273 :トップランカー殺人事件(191) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 02:10:02 ID:jyRg35SM0 |
「おめでとう、大正解。
それが表コースと裏コースの大きな違いってわけだ」
それが表コースと裏コースの大きな違いってわけだ」
携帯電話を受け取った乙下は、おもむろに画面を一瞥した。
スコア比較(EXPERT) ―――――――――――――――― ■ SP HYPER ■ OTOGE BOLCE ―――――――――――――――― ■ FEELINGS ■ NoPlay NoPlay ■ UPLIFT ■ NoPlay NoPlay ■ GLARE ■ NoPlay NoPlay ■ TROOPERS ■ NoPlay NoPlay ■ SELECTION ■ NoPlay NoPlay ■ ETRANGER ■ NoPlay NoPlay ■ TECHNO ■ NoPlay NoPlay ■ DIVERSITY ■ NoPlay 10914 ■ AMBUSH ■ NoPlay NoPlay ■ DISCHARGE ■ NoPlay NoPlay ■ BATTALION ■ NoPlay 9851 ■ MILITARY SPLASH ■ NoPlay 10116 ――――――――――――――――
ライバル機能の一つ、EXPERTスコアの比較。
そこには、どこをどう探しても"AKIRA YAMAOKA"の名前は見つからなかった。
そこには、どこをどう探しても"AKIRA YAMAOKA"の名前は見つからなかった。
FEELINGSからMILITARY SPLASHまでの、合計12コースのスコアしか掲載されていないのだ。
「知りませんでした。
ライバル情報のページに掲載されるのは表コースの結果だけで、
裏コースのスコアを調べることはできなかったんですね」
「それだけじゃないよ。
裏コースは『InternetRanking』のメニューでランキングを見ることもできなければ、
『各種データ閲覧』のメニューで自分のスコアを確認することさえできない。
これが何を意味するかと言うと」
ライバル情報のページに掲載されるのは表コースの結果だけで、
裏コースのスコアを調べることはできなかったんですね」
「それだけじゃないよ。
裏コースは『InternetRanking』のメニューでランキングを見ることもできなければ、
『各種データ閲覧』のメニューで自分のスコアを確認することさえできない。
これが何を意味するかと言うと」
乙下は携帯電話をテーブルに放り投げるような、乱暴な置き方をしてから言った。
「『裏コースは誰が何点出したかが全く分からない仕組みになってる』ってこと。
1046はこの性質を最大限に利用してみせたんだ」
1046はこの性質を最大限に利用してみせたんだ」
| 274 :トップランカー殺人事件(212) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 02:19:06 ID:jyRg35SM0 |
杏子は胸の前でパチンと小さく手を叩いた。
「合点がいきました。
1046さんはAKIRA YAMAOKAコースなんて最初からプレイしていなかったんですね?
そして、システム上に記録が残らないのをいいことに、
BOLCEさんにデタラメなスコアを自己申告したんです。
それこそ、BOLCEさんでさえ絶対出せないようなインチキスコアを……」
「待て待て」
1046さんはAKIRA YAMAOKAコースなんて最初からプレイしていなかったんですね?
そして、システム上に記録が残らないのをいいことに、
BOLCEさんにデタラメなスコアを自己申告したんです。
それこそ、BOLCEさんでさえ絶対出せないようなインチキスコアを……」
「待て待て」
乙下は杏子の発言を慌てて遮った。
「杏子ちゃん、それは早合点だ。
確かに俺は『誰が何点出しか分からない仕組みになってる』とは言ったが、
『システム上に記録が残らない』とまでは言ってないぞ」
「同じことじゃないですか。
誰が何点出したか分からなかったら、実質的には記録がないのと一緒です」
「ところが厳密には一緒じゃないんだ。
誰が何点出したかは分からないけど、唯一『順位』だけは分かるようになってるからね」
「順位?」
「そう、順位だ。
ちょっとEXPERTコースをプレイした時のことを思い出してみてくれ。
プレイ後、画面に『今回のスコアを登録しますか?』って出るだろ」
「出ますね」
「そこで『はい』を選ぶと?」
「えっと、思い出しました。
そう言えば順位が出ますね。
表コースでも裏コースでも関係なしに、『何人中何位だったか』が表示されます」
「でしょ」
確かに俺は『誰が何点出しか分からない仕組みになってる』とは言ったが、
『システム上に記録が残らない』とまでは言ってないぞ」
「同じことじゃないですか。
誰が何点出したか分からなかったら、実質的には記録がないのと一緒です」
「ところが厳密には一緒じゃないんだ。
誰が何点出したかは分からないけど、唯一『順位』だけは分かるようになってるからね」
「順位?」
「そう、順位だ。
ちょっとEXPERTコースをプレイした時のことを思い出してみてくれ。
プレイ後、画面に『今回のスコアを登録しますか?』って出るだろ」
「出ますね」
「そこで『はい』を選ぶと?」
「えっと、思い出しました。
そう言えば順位が出ますね。
表コースでも裏コースでも関係なしに、『何人中何位だったか』が表示されます」
「でしょ」
乙下は、昨日空気がABCでAKIRA YAMAOKAコースをプレイした時のことを思い返した。
バンダナ男のイラストをバックに、間違いなく
「あなたの順位」と「コース登録者数」の二つの数字が表示されていたはずだ。
バンダナ男のイラストをバックに、間違いなく
「あなたの順位」と「コース登録者数」の二つの数字が表示されていたはずだ。
「それでね……順位が表示されるとなると、
1046は『インチキスコアの自己申告』をするわけにいかない。
BOLCEが一位をとった瞬間にインチキがバレてしまうし、
インチキがバレた時点でBOLCEは山岡コースへの粘着をやめてしまうからね。
しかし逆に言えば、二位以下である限りBOLCEはひたすら山岡コースを粘着することになる」
「と言うことは、やっぱり1046さんは事件当日の朝までにAKIRA YAMAOKAコースをプレイして、
あらかじめ高スコアを出しておく必要があるように思えます」
「そうなんだけどさ。
ここでのポイントはね、裏コースなんだから
BOLCEの目から見えるのは『自分が何位だったか』だけであって、
『一位がどこの誰か』なんて絶対に分からないってことだよ。
だから、1046は別に自分のイーパスでプレイする必要なんて全然ないんだ」
「……あ!」
1046は『インチキスコアの自己申告』をするわけにいかない。
BOLCEが一位をとった瞬間にインチキがバレてしまうし、
インチキがバレた時点でBOLCEは山岡コースへの粘着をやめてしまうからね。
しかし逆に言えば、二位以下である限りBOLCEはひたすら山岡コースを粘着することになる」
「と言うことは、やっぱり1046さんは事件当日の朝までにAKIRA YAMAOKAコースをプレイして、
あらかじめ高スコアを出しておく必要があるように思えます」
「そうなんだけどさ。
ここでのポイントはね、裏コースなんだから
BOLCEの目から見えるのは『自分が何位だったか』だけであって、
『一位がどこの誰か』なんて絶対に分からないってことだよ。
だから、1046は別に自分のイーパスでプレイする必要なんて全然ないんだ」
「……あ!」
またしても杏子は胸の前で勢いよく手を叩いた。
さっきよりも数段大きなクラップ音が軽快に響く。
さっきよりも数段大きなクラップ音が軽快に響く。
「今度こそ分かりました!
1046さんはきっと、元々持っていた自分のイーパスの他に、
『もう一枚新しいイーパスを作っておいた』……これが正解ですね?」
1046さんはきっと、元々持っていた自分のイーパスの他に、
『もう一枚新しいイーパスを作っておいた』……これが正解ですね?」
「よくできました」
| 275 :トップランカー殺人事件(213) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 02:27:09 ID:jyRg35SM0 |
おそらく1046は、二枚のイーパスを用意しておいたのだろう。
一枚は1046が元から持っている、使い古されたイーパス。
もう一枚はこのトリックのために用意した、新しいイーパス。
一枚は1046が元から持っている、使い古されたイーパス。
もう一枚はこのトリックのために用意した、新しいイーパス。
前者はAKIRA YAMAOKAコースHYPERを未プレイのままにしておき、
後者はAKIRA YAMAOKAコースHYPERで全一スコアを出しておく。
後者はAKIRA YAMAOKAコースHYPERで全一スコアを出しておく。
1046はこの正反対とも言える二枚のイーパスを準備することで、
『BOLCEにすり替えを気付かせないために、BOLCEと同点にしておく』ことと、
『BOLCEを一つのコースに粘着させるために、BOLCEより高いスコアを出しておく』ことを、見事に両立させたのだ。
『BOLCEにすり替えを気付かせないために、BOLCEと同点にしておく』ことと、
『BOLCEを一つのコースに粘着させるために、BOLCEより高いスコアを出しておく』ことを、見事に両立させたのだ。
「さて、ここからがこのトリックの凄いところだ」
そう言って乙下は、手元にあったボールペンとEXPERTコース一覧の印刷用紙を杏子に差し出した。
「突然だけど、BOLCEがアクティブにしてたライバルの名前を思い出せる?」
「BOLCEさんの……ライバル?ですか?」
「BOLCEさんの……ライバル?ですか?」
杏子は解せない様子を見せつつも、ボールペンを受け取り、
用紙の余白へ縦一列に五人の名前を書いてみせた。
用紙の余白へ縦一列に五人の名前を書いてみせた。
①1046 ②HOLI-Z ③SOUMEN ④NATSU ⑤QUASER
「この五人です、けど」
杏子がもどかしそうに聞いた。
「BOLCEさんのライバルがどうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたも……ま、一から説明するより、まずはこれを見てくれ」
「どうしたもこうしたも……ま、一から説明するより、まずはこれを見てくれ」
杏子が記した五名のDJネーム。
乙下はその周囲に次々と新たな情報を書き足し、瞬く間に一枚の「図」を作り上げてみせた。
乙下はその周囲に次々と新たな情報を書き足し、瞬く間に一枚の「図」を作り上げてみせた。
◎BOLCEのイーパス ◎1046のイーパス(※古い方) DJ NAME:BOLCE DJ NAME:BOLCE(※本当の名前は『1046』) ライバル: ライバル: ①1046 すり替え ①1046(※新しい方) ②HOLI-Z → ②HOLI-Z ③SOUMEN ③SOUMEN ④NATSU ④NATSU ⑤QUASER ⑤QUASER
「これが1046のイーパスすり替えトリックにおける最重要ポイント、『ライバル偽装』だ」
| 276 :トップランカー殺人事件(214) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 02:39:14 ID:jyRg35SM0 |
1046はBOLCEのイーパスを自分のものとすり替えるにあたり、
あらゆる設定をBOLCEと同じ状態にしておく必要がある。
当然、ライバル設定も例外ではない。
あらゆる設定をBOLCEと同じ状態にしておく必要がある。
当然、ライバル設定も例外ではない。
ところが、同じ設定にしようにも、一つ問題が発生する。
②~⑤の四人については普通にBOLCEの真似をして登録すればそれで済むのだが、
①の人間――すなわち、『1046が1046自身をライバル登録することはできない』。
①の人間――すなわち、『1046が1046自身をライバル登録することはできない』。
そこで1046は、極めて単純かつ有効な妙策を考え出した。
1046がした事はたった二つ。
一つ目は、『新しいイーパスのDJネームも"1046"と名付けること』。
二つ目は、『この"ニセ1046"を自分自身の代理としてライバル登録すること』。
ただそれだけだった。
一つ目は、『新しいイーパスのDJネームも"1046"と名付けること』。
二つ目は、『この"ニセ1046"を自分自身の代理としてライバル登録すること』。
ただそれだけだった。
この行為にどんな意味があるのか。
まず、プレイ中にBOLCEがターゲット一覧を見ても、
そこにはいつもと変わらない五人の名前が並んでいるようにしか見えない。
『本物の1046』と『ニセ1046』の区別など、名前だけではつくはずがないからだ。
そこにはいつもと変わらない五人の名前が並んでいるようにしか見えない。
『本物の1046』と『ニセ1046』の区別など、名前だけではつくはずがないからだ。
さらに、BOLCEがこのターゲット一覧から何を選ぼうとも、
AKIRA YAMAOKAコースに粘着している最中に限り、不自然に見える状況は一切発生しないのである。
AKIRA YAMAOKAコースに粘着している最中に限り、不自然に見える状況は一切発生しないのである。
(1)『1046』をターゲットに選んだ場合
→『ニセ1046』のスコアが表示される。
しかし、BOLCEからは『本物の1046』のスコアにしか見えない。
→『ニセ1046』のスコアが表示される。
しかし、BOLCEからは『本物の1046』のスコアにしか見えない。
(2)『全国TOP』もしくは『ライバルTOP』をターゲットに選んだ場合
→やはり『ニセ1046』のスコアが表示されるが、
これもBOLCEからは『本物の1046』のスコアにしか見えない。
→やはり『ニセ1046』のスコアが表示されるが、
これもBOLCEからは『本物の1046』のスコアにしか見えない。
(3)それ以外をターゲットに選んだ場合
→選択したターゲットに応じたスコアが表示される。
→選択したターゲットに応じたスコアが表示される。
いずれにせよ、不都合な情報がBOLCEの目に入り込む余地は一切ない。
BOLCEはそれが自分のイーパスだと信じて、何の違和感も感じることなくIIDXをプレイすることしかできなかったであろう。
BOLCEはそれが自分のイーパスだと信じて、何の違和感も感じることなくIIDXをプレイすることしかできなかったであろう。
しかし、もしこの推理が真実なら、BOLCEは完全に1046の手の平の上で踊らされていたことになる。
――それはまるで、ロボットがリモコンで操られるがごとく。
| 277 :トップランカー殺人事件(215) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 02:49:33 ID:jyRg35SM0 |
「これが一応俺の推理した『イーパスすり替えトリック』の全容なんだけど……」
杏子ちゃんはどう思う?
そんな風に聞こうとして、乙下は口をつぐんだ。
杏子の様子がおかしかったからだ。
そんな風に聞こうとして、乙下は口をつぐんだ。
杏子の様子がおかしかったからだ。
説明に夢中ですぐには気付かなかったが、
彼女はいつの間にか顔面蒼白になり、額にはうっすら脂汗をかいていた。
苦しそうな表情こそ見せていなかったが、
杏子という人間に限り、そんなことは安心する材料になど決してならない。
彼女はいつの間にか顔面蒼白になり、額にはうっすら脂汗をかいていた。
苦しそうな表情こそ見せていなかったが、
杏子という人間に限り、そんなことは安心する材料になど決してならない。
「杏子ちゃん?大丈夫か?」
「『大丈夫』って不思議な言葉です。
痛みが和らぐでもなく、苦しさが紛れるでもないのに、
みんなどうして二言目には大丈夫かって聞くんでしょう」
「何を言ってるんだ?」
「全然大丈夫じゃないって言ってるんです」
「『大丈夫』って不思議な言葉です。
痛みが和らぐでもなく、苦しさが紛れるでもないのに、
みんなどうして二言目には大丈夫かって聞くんでしょう」
「何を言ってるんだ?」
「全然大丈夫じゃないって言ってるんです」
杏子はとうとうテーブルに突っ伏して、両腕に頭をうずめてしまった。
「信じられません」
杏子はかすかに鼻を鳴らした。
泣いているのかどうかは分からない。
泣いているのかどうかは分からない。
「そんな推理、聞きたくありませんでした。
BOLCEさんは命を賭けて1046さんやIIDXと戦っていたのに、
本当の意味で命を取られるだなんて、出来の悪い冗談にもほどがあります。
今からでも良いので、そんな推理はウソだと言って下さい」
BOLCEさんは命を賭けて1046さんやIIDXと戦っていたのに、
本当の意味で命を取られるだなんて、出来の悪い冗談にもほどがあります。
今からでも良いので、そんな推理はウソだと言って下さい」
乙下は返答に窮し、頭を掻きむしった。
「まぁなんだ……まだ俺の推理が正しいと決まったわけじゃないのは確かだ。
断定口調で喋っておいてなんだけど、結局これはあくまで俺の憶測に過ぎないんだ。
細かいことを言い出せばまだ分からないことや腑に落ちないことはたくさんあるし、それに」
「だ、か、ら、な、に?」
断定口調で喋っておいてなんだけど、結局これはあくまで俺の憶測に過ぎないんだ。
細かいことを言い出せばまだ分からないことや腑に落ちないことはたくさんあるし、それに」
「だ、か、ら、な、に?」
耐え難いほど冷たい声。
乙下は思わず背筋を伸ばした。
乙下は思わず背筋を伸ばした。
「それは慰めてるんですか?
それが何の慰めになるんですか?
貴方が何を言っても、BOLCEさんがもうこの世にいないという現実は変わりません」
「……そうだね。ごめん」
「BOLCEさん……会いたいよぉ……」
それが何の慰めになるんですか?
貴方が何を言っても、BOLCEさんがもうこの世にいないという現実は変わりません」
「……そうだね。ごめん」
「BOLCEさん……会いたいよぉ……」
それきり杏子は机に突っ伏したまま、口までをも貝のように閉じてしまった。
それはまるで自分を世界と切り離そうとするかのような行為であり、
どうすることもできない乙下は、ただぼうっとそんな杏子の様子を見ていた。
それはまるで自分を世界と切り離そうとするかのような行為であり、
どうすることもできない乙下は、ただぼうっとそんな杏子の様子を見ていた。
| 278 :トップランカー殺人事件(216) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 02:55:50 ID:jyRg35SM0 |
どれくらいの時間そうしていただろうか。
ふと遠くで雷鳴が聞こえて、乙下は窓の外を見た。
ふと遠くで雷鳴が聞こえて、乙下は窓の外を見た。
いつの間にか辺りは薄暗くなり、アスファルトが点々と湿っている。
幾つもの点は互いに重なり合い、少しずつ面となっていき、
やがてアスファルトがすっかり水分で覆い尽されてしまった頃、
喫茶店の屋根を雨粒がさかんに叩きつける音が聞こえてきた。
雨粒は強風に煽られ、斜め45度の線分が数え切れないほど空気中に描かれている。
幾つもの点は互いに重なり合い、少しずつ面となっていき、
やがてアスファルトがすっかり水分で覆い尽されてしまった頃、
喫茶店の屋根を雨粒がさかんに叩きつける音が聞こえてきた。
雨粒は強風に煽られ、斜め45度の線分が数え切れないほど空気中に描かれている。
「メールが来ました」
杏子がぽつり呟いた。
テーブルに置いてある携帯電話を見ると、本当にメールが来ていた。
雨音がうるさくて通知音を聞き取れなかったらしい。
テーブルに置いてある携帯電話を見ると、本当にメールが来ていた。
雨音がうるさくて通知音を聞き取れなかったらしい。
「きっと大事なメールです」
言いながら杏子はむくりと顔を上げ、姿勢を正した。
その動きがとても緩やかだったので、まるでインターバル撮影した朝顔の開花を思わせたが、
表情自体は朝顔というより雛菊のようなしっとりとしたものであり、
つまりそれは見慣れた無表情な杏子の姿そのものであった。
瞼が腫れぼったくなってたりだとか、目が充血していたりだとか、そんな痕跡は特になく、
乙下は予想通りと予想外がまぜこぜになったような、おかしな気分になった。
その動きがとても緩やかだったので、まるでインターバル撮影した朝顔の開花を思わせたが、
表情自体は朝顔というより雛菊のようなしっとりとしたものであり、
つまりそれは見慣れた無表情な杏子の姿そのものであった。
瞼が腫れぼったくなってたりだとか、目が充血していたりだとか、そんな痕跡は特になく、
乙下は予想通りと予想外がまぜこぜになったような、おかしな気分になった。
「もう大丈夫なの?」
「また大丈夫って言いましたね」
「……大丈夫そうだね」
「さっきはごめんなさい。
気にしないで下さいね、ちょっと死にたくなっただけですから」
「気にするっつーの」
「また大丈夫って言いましたね」
「……大丈夫そうだね」
「さっきはごめんなさい。
気にしないで下さいね、ちょっと死にたくなっただけですから」
「気にするっつーの」
気持ちを切り替えてメールを開くと、差出人は空気だった。
拙い文章と一枚の添付画像からなるそのメールには、思いがけない内容が書かれていた。
読み進めるほどに、乙下の手の平がじんわりと汗ばんでいく。
読み進めるほどに、乙下の手の平がじんわりと汗ばんでいく。
「やりやがった……アイツ、やりやがった!」
「空気さんから何か良い知らせがあったんですか?」
「良いなんてもんじゃない」
「空気さんから何か良い知らせがあったんですか?」
「良いなんてもんじゃない」
乙下は唾を飲み込み、もう一度メールを読み返しながら叫んだ。
「証拠だよ証拠。この事件の犯人を示す有力な物的証拠が、ついに発見された!」
| 279 :トップランカー殺人事件(217) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 03:03:43 ID:jyRg35SM0 |
乙下はテーブルの下で固く拳を握った。
一時は暗礁に乗り上げかけたこの事件にも、いよいよ終止符を打てる時がやって来たのだ。
一時は暗礁に乗り上げかけたこの事件にも、いよいよ終止符を打てる時がやって来たのだ。
「俺は間違っていなかった。
やはりこの事件の犯人は1046ただ一人だ。やっと尻尾を掴んだぞ」
「教えて下さい。空気さんは何を見つけたんですか?」
「んーとね。何から説明すればいいかなぁ。
要するにさ、杏子ちゃんにはまだ説明してなかったんだけど、
イーパスを使うためには四桁の暗証番号ってもんが必要でさ」
「はい」
「そこで俺は空気に……」
「はい」
「……ん?」
やはりこの事件の犯人は1046ただ一人だ。やっと尻尾を掴んだぞ」
「教えて下さい。空気さんは何を見つけたんですか?」
「んーとね。何から説明すればいいかなぁ。
要するにさ、杏子ちゃんにはまだ説明してなかったんだけど、
イーパスを使うためには四桁の暗証番号ってもんが必要でさ」
「はい」
「そこで俺は空気に……」
「はい」
「……ん?」
ちょっとした疑問が、浮かれ気味になっていた乙下を、不意に現実へ引き戻した。
「あのさ、杏子ちゃん。どうして空気からのメールだって分かったの?」
「見れば分かります。
貴方、空気さんと連絡を取り合っている時は表情がにこやかに緩むんです」
「うそぉ!?」
「本当です」
「うそだよ」
「見れば分かります。
貴方、空気さんと連絡を取り合っている時は表情がにこやかに緩むんです」
「うそぉ!?」
「本当です」
「うそだよ」
反論しつつも、乙下はついさっき電話をかけた時のことを思い出した。
あの時も杏子は相手が空気であることを、当然のごとく看破していた。
認めざるを得ない。
あの時も杏子は相手が空気であることを、当然のごとく看破していた。
認めざるを得ない。
「うあああ、一生の不覚だ。ちっとも自覚してなかったわ」
乙下は体中が火照っていくのを感じた。
恥ずかしさの余り、顔を隠すようにして片肘をつき、窓の外に顔を向けた。
恥ずかしさの余り、顔を隠すようにして片肘をつき、窓の外に顔を向けた。
「あの。さっきから三つの理由がどうのこうの話してて、ふと思い出したんですけど」
杏子の言葉に乙下はぎくりとした。
そのまま窓の外を眺めながら耳をそばだてる。
そのまま窓の外を眺めながら耳をそばだてる。
「貴方が空気さんを『空気』と呼ぶ三つ目の理由が分かりました。
『それでも生きていくのに必要だから』でしょう?」
『それでも生きていくのに必要だから』でしょう?」
| 280 :トップランカー殺人事件(218) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 03:08:46 ID:jyRg35SM0 |
「いや……まぁ、それも、ある意味では間違ってないかも知れないね」
「やりました。正解ですね」
「正解とは言ってない」
「じゃぁ不正解ですか?」
「不正解とも言ってない」
「どっちですか」
「やりました。正解ですね」
「正解とは言ってない」
「じゃぁ不正解ですか?」
「不正解とも言ってない」
「どっちですか」
ほんの少し声のトーンが下がったのにつられて、杏子の方を振り向く。
「私は貴方が羨ましいです。
だって、私にとっての生きていくのに必要な人は、もういないんです」
だって、私にとっての生きていくのに必要な人は、もういないんです」
杏子は目を閉じてそう言った。そう言って、僅かに歯を食い縛った。
「……杏子ちゃん」
乙下は立ち上がった。
「勝負に出よう」
「え?」
「え?」
杏子はびっくりして乙下を見上げた。
「まだ判明していないことは幾つかある。
1046がBOLCEを殺した動機もはっきりしてないし、俺の推理だって腑に落ちない点がある。
けど、もういい。
空気のおかげで状況は大きく変わった。
こうなったら、分からないことは1046本人の口から語ってもらうことにしよう」
「1046さん本人の口から……って、一体どうやって?」
1046がBOLCEを殺した動機もはっきりしてないし、俺の推理だって腑に落ちない点がある。
けど、もういい。
空気のおかげで状況は大きく変わった。
こうなったら、分からないことは1046本人の口から語ってもらうことにしよう」
「1046さん本人の口から……って、一体どうやって?」
乙下はテーブルに両手をつき、杏子の透き通った瞳を真っ直ぐに見据えて言った。
「1046を罠にはめる」
杏子は動じなかった。
動じないどころか、乙下と目を合わせたまま、こう返した。
動じないどころか、乙下と目を合わせたまま、こう返した。
「協力します。私にもできることありますか?」
「そうだな……」
「そうだな……」
乙下はすっかり大荒れの天候となった外の景色を眺めながら、一つ質問した。
「1046のメアド知ってる?」
| 281 :トップランカー殺人事件(219) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/10/15(木) 03:16:02 ID:jyRg35SM0 |
こんばんは。
例の事件から三日経ちましたが、
1046さんは無事にしてますでしょうか。
例の事件から三日経ちましたが、
1046さんは無事にしてますでしょうか。
私はあまり無事とは言えません。
と言いますのも、私は今、大体二時間に一回くらいの割合で
BOLCEさんの後を追いたくなる衝動に駆られています。
そのくせ、誰かがBOLCEさんのことで
自暴自棄になったりしないよう、心の底から祈っているのです。
段々自分が何を考えているのかよく分からなくなってきましたが、
とにかくそういう訳で、私よりBOLCEさんの近くにいた貴方が
無事に過ごしているか、私なりに心配していたところです。
と言いますのも、私は今、大体二時間に一回くらいの割合で
BOLCEさんの後を追いたくなる衝動に駆られています。
そのくせ、誰かがBOLCEさんのことで
自暴自棄になったりしないよう、心の底から祈っているのです。
段々自分が何を考えているのかよく分からなくなってきましたが、
とにかくそういう訳で、私よりBOLCEさんの近くにいた貴方が
無事に過ごしているか、私なりに心配していたところです。
ごめんなさい。
こんな話をするためにメールを書いているのではありませんでした。
こんな話をするためにメールを書いているのではありませんでした。
実は今日、店長さんに会って来ました。
すでにご存知だと思いますが、店長さんは今回の事件に巻き込まれて、
警察にその身柄を拘束されています。
今日は運良く面会という形で会うことができました。
落ち込んでいないか大変心配でしたが、
何とか気持ちを立て直してきているようではありました。
すでにご存知だと思いますが、店長さんは今回の事件に巻き込まれて、
警察にその身柄を拘束されています。
今日は運良く面会という形で会うことができました。
落ち込んでいないか大変心配でしたが、
何とか気持ちを立て直してきているようではありました。
本題です。
店長さんから手紙を預かりました。
シルバーのことに関して、1046さんに折り入って頼みたいことがあるとのことです。
直接お渡ししたいので、できれば明日の朝、少しだけ時間をいただけませんか?
店長さんから手紙を預かりました。
シルバーのことに関して、1046さんに折り入って頼みたいことがあるとのことです。
直接お渡ししたいので、できれば明日の朝、少しだけ時間をいただけませんか?
突然のメールで無理なお願いをしてしまい申し訳ありません。
もしOKなら返事下さい。
よろしくお願いします。
もしOKなら返事下さい。
よろしくお願いします。
それでは。
追伸:明日の1046さんのラッキーアイテムはビニール傘です。