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トップランカー殺人事件 第六話『罠』 -phase2-
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| 40 :トップランカー殺人事件(233) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/06(日) 22:44:46 ID:3ekm5b2x0 |
プレイヤー不在のIIDXは二曲目もあっけなく終了し、ゲーム終了後のプレイデータ画面に移った。
プレイ回数だけは8回から9回に増えていたが、当然他の項目はさっきと何の変わりもない。
エントリー前と同じDJネーム、
エントリー前と同じ所属エリア、
そしてエントリー前と同じIIDX IDが表示されている。
エントリー前と同じDJネーム、
エントリー前と同じ所属エリア、
そしてエントリー前と同じIIDX IDが表示されている。
乙下は筐体の前に移動し、八桁のIIDX IDを指し示した。
「"2012-1221" 1046さんのサブカードのIDだ」
「見りゃ分かります」
「俺は見なくても分かった」
「理解できるように言ってくれません?」
「1046さんのサブカードのIDが"2012-1221"だってのは、昨日の段階で分かっていたよ。
山岡コースの曲のHYPER譜面で全一スコアをとっているIDを調べれば一発だからな。
そんなわけで、俺達は昨日のうちにこのサブカードのデータについて
コナミに問い合わせて調べてみたんだ。すると面白いことが判明した」
「なんですか、面白いことって」
「見りゃ分かります」
「俺は見なくても分かった」
「理解できるように言ってくれません?」
「1046さんのサブカードのIDが"2012-1221"だってのは、昨日の段階で分かっていたよ。
山岡コースの曲のHYPER譜面で全一スコアをとっているIDを調べれば一発だからな。
そんなわけで、俺達は昨日のうちにこのサブカードのデータについて
コナミに問い合わせて調べてみたんだ。すると面白いことが判明した」
「なんですか、面白いことって」
1046はちっとも面白くなさそうに言った。
「このサブカードね、最終プレイ時刻が『7月16日の23:46』で、
最終プレイ場所がABCだったんだわ。7月16日と言えば何の日だい?」
「事件当日に決まってるじゃないですか」
「そう、事件当日。
ということはだ、23:46と言えばアンタがBOLCEの死体の第一発見者として
警察に取り調べを受けた後の話だね。
アンタ、この日は昼の間ずっとデラをプレイしてたくせに、
取り調べが終わった後もわざわざABCに戻って、
なぜかこのサブカードを使ってデラをプレイしたということになる」
「だから何?そんなにおかしいことですか?」
「別におかしくはない。が、どうも引っ掛かった。
もしもさっきの俺の推理が正しいとすれば、
BOLCEを殺してさえしまえば、もうこのサブカードは不要のはずだ。
なのにアンタはサブカードを使ってプレイした。
なぜだろう?俺達はそれを考えてみた。
するとね、一つの可能性に辿り着いたんだ」
最終プレイ場所がABCだったんだわ。7月16日と言えば何の日だい?」
「事件当日に決まってるじゃないですか」
「そう、事件当日。
ということはだ、23:46と言えばアンタがBOLCEの死体の第一発見者として
警察に取り調べを受けた後の話だね。
アンタ、この日は昼の間ずっとデラをプレイしてたくせに、
取り調べが終わった後もわざわざABCに戻って、
なぜかこのサブカードを使ってデラをプレイしたということになる」
「だから何?そんなにおかしいことですか?」
「別におかしくはない。が、どうも引っ掛かった。
もしもさっきの俺の推理が正しいとすれば、
BOLCEを殺してさえしまえば、もうこのサブカードは不要のはずだ。
なのにアンタはサブカードを使ってプレイした。
なぜだろう?俺達はそれを考えてみた。
するとね、一つの可能性に辿り着いたんだ」
重々しい効果音と共に、画面に「GAME OVER」が大きく表示された。
その直後の静寂に乗じて、乙下は言った。
その直後の静寂に乗じて、乙下は言った。
「アンタはこのサブカードのDJネームを、
『1046』から別の名前に変えておきたかったんじゃないか?」
『1046』から別の名前に変えておきたかったんじゃないか?」
| 41 :トップランカー殺人事件(234) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/06(日) 22:52:55 ID:3ekm5b2x0 |
ぴくりと眉を上げた1046を横目に、乙下は1P側のカードリーダーから
今しがた排出されたばかりの赤いイーパスを抜き取った。
それをうちわで扇ぐように揺らしながら、乙下は1046の方にゆっくりと向き直る。
今しがた排出されたばかりの赤いイーパスを抜き取った。
それをうちわで扇ぐように揺らしながら、乙下は1046の方にゆっくりと向き直る。
「このサブカードのDJネームは、BOLCEが山岡コースをプレイしている最中、
ライバルグラフのオーナーとして常に画面に表示される名前だ。
だからBOLCEの目を欺くには、このサブカードにも
アンタのメインカードと同じく『1046』と名付けておく必要があった。
これはトリック実現のための絶対条件だ。
しかしだ。BOLCEを殺した後はもはや『1046』にしておく必要はなくなる。
と言うよりむしろ、トリックの痕跡を消し去るために、
アンタはできるだけ早く別の名前に変えてしまいたかったことだろう」
ライバルグラフのオーナーとして常に画面に表示される名前だ。
だからBOLCEの目を欺くには、このサブカードにも
アンタのメインカードと同じく『1046』と名付けておく必要があった。
これはトリック実現のための絶対条件だ。
しかしだ。BOLCEを殺した後はもはや『1046』にしておく必要はなくなる。
と言うよりむしろ、トリックの痕跡を消し去るために、
アンタはできるだけ早く別の名前に変えてしまいたかったことだろう」
そう言って乙下は再び1P側のカードリーダーへ1046のサブカードを挿入し、
イチ・ゼロ・ヨン・ロクの暗証番号を打ち込んだ。
イチ・ゼロ・ヨン・ロクの暗証番号を打ち込んだ。
「正直言って、ここから先は推測になるが……アンタは取り調べの後で
早速DJネームを変えようとして、一つ困ったことに気付く」
早速DJネームを変えようとして、一つ困ったことに気付く」
画面にはつい一分前に目にしたのと同じプレイデータが表示された。
DJ 1046。
IIDX IDは"2012-1221"。
所属エリアは岩手県。
IIDX IDは"2012-1221"。
所属エリアは岩手県。
そして――『プレイ回数9回』。
「DJネームを変更するには、最低10回プレイしなきゃいけない。(※注3)
アンタはたまたまそれを知らなかったか、
うっかり忘れていたのか……どちらにせよ、このサブカードのプレイ回数は一桁。
残念ながらまだ名前を変えることができない。
やむなくアンタは、プレイ回数を増やすためにサブカードを使うことにしたんだ」
アンタはたまたまそれを知らなかったか、
うっかり忘れていたのか……どちらにせよ、このサブカードのプレイ回数は一桁。
残念ながらまだ名前を変えることができない。
やむなくアンタは、プレイ回数を増やすためにサブカードを使うことにしたんだ」
※注3:
より正確に言うと、DJネームを変更するためには
「前回の変更から数えて」10回以上プレイした後でなければならない。
初めて変更をしようとする場合はイーパスを作成した時、
すなわち最初にDJネームをつけた時が『前回の変更』と見なされるため、
総プレイ回数が10回未満の時点ではまだDJネームを変更する権利が発生していないのである。
より正確に言うと、DJネームを変更するためには
「前回の変更から数えて」10回以上プレイした後でなければならない。
初めて変更をしようとする場合はイーパスを作成した時、
すなわち最初にDJネームをつけた時が『前回の変更』と見なされるため、
総プレイ回数が10回未満の時点ではまだDJネームを変更する権利が発生していないのである。
余談だが、IIDX17 SIRIUSからはプレイ回数にかかわらず、
DXポイントを消費することでいつでもDJネームを変えられるようになった。
DXポイントを消費することでいつでもDJネームを変えられるようになった。
| 42 :トップランカー殺人事件(235) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/06(日) 23:03:06 ID:3ekm5b2x0 |
1046はうんともすんとも言わない。
構わずに先を続けることにする。
構わずに先を続けることにする。
「だが、プレイ回数を増やせさえすれば何でも良いというわけでもない。
このサブカードの存在は、アリバイトリックのアキレス腱だ。
できれば使っているところは誰にも目撃されたくなかったはずだ。
そこで、打ってつけのゲーセンがある。ABCだ。
ABCの筐体はモニタへの照明の映り込みを防ぐため、
筐体を囲むようにカーテンを引くことができる。
これなら誰の目にもとまらずにデラのプレイ回数を増やすことができる。
アンタは急いでABCに向かうが、到着したのは閉店間際の23:46。
この日は一回しかプレイできず、続きはまた明日にすることを余儀なくされる。
まぁ名前の変更が一日くらい遅れたところでどうってことない。アンタはそう思っただろう。
が、翌日の7月17日……アンタにとって予想外の不運な出来事が起きてしまう」
このサブカードの存在は、アリバイトリックのアキレス腱だ。
できれば使っているところは誰にも目撃されたくなかったはずだ。
そこで、打ってつけのゲーセンがある。ABCだ。
ABCの筐体はモニタへの照明の映り込みを防ぐため、
筐体を囲むようにカーテンを引くことができる。
これなら誰の目にもとまらずにデラのプレイ回数を増やすことができる。
アンタは急いでABCに向かうが、到着したのは閉店間際の23:46。
この日は一回しかプレイできず、続きはまた明日にすることを余儀なくされる。
まぁ名前の変更が一日くらい遅れたところでどうってことない。アンタはそう思っただろう。
が、翌日の7月17日……アンタにとって予想外の不運な出来事が起きてしまう」
乙下は右手の人差し指を立てて、そっと自分の胸の中央あたりに触れた。
「俺と出会ったことだ」
1046は黙秘したまま、やれやれといった風に小さく首を振った。
「俺の目的がただの事情聴取だけなら特に問題はなかっただろう。
ところが、俺はアンタにデラのプレイを見せてくれとせがんだ。
さぁ、どこで見せよう?アンタは事情聴取の中で、
『普段出入りしているゲーセンはシルバーかABCのどちらか』と喋ってしまっていた。
シルバーが営業停止中とあっては、もうABCに行くしかない。
こうしてアンタは、不本意ながら俺をABCに連れて来るハメになった。
しかも、俺はちょっとだけアンタに疑いを持ってることをほのめかした。
こうなった以上、余計なものを見られるリスクは冒せない……そう考えたアンタは、
もうこの日はサブカードのプレイ回数を増やすことを諦めて、さっさと帰った。
だが残念なことに、俺は翌日の7月18日も朝一でABCに現われた。
仕方なくアンタはこの日も帰らざるを得なかった。
この調子じゃABCではおちおちサブカードを使えやしない。
かと言って、他のゲーセンのデラ筐体にはカーテンがないので、誰かに見られる危険がある。
遠征をしようにも、この状況で目立った行動はできない。
結局アンタは安全にプレイ回数を増やすチャンスをうかがいながら……」
ところが、俺はアンタにデラのプレイを見せてくれとせがんだ。
さぁ、どこで見せよう?アンタは事情聴取の中で、
『普段出入りしているゲーセンはシルバーかABCのどちらか』と喋ってしまっていた。
シルバーが営業停止中とあっては、もうABCに行くしかない。
こうしてアンタは、不本意ながら俺をABCに連れて来るハメになった。
しかも、俺はちょっとだけアンタに疑いを持ってることをほのめかした。
こうなった以上、余計なものを見られるリスクは冒せない……そう考えたアンタは、
もうこの日はサブカードのプレイ回数を増やすことを諦めて、さっさと帰った。
だが残念なことに、俺は翌日の7月18日も朝一でABCに現われた。
仕方なくアンタはこの日も帰らざるを得なかった。
この調子じゃABCではおちおちサブカードを使えやしない。
かと言って、他のゲーセンのデラ筐体にはカーテンがないので、誰かに見られる危険がある。
遠征をしようにも、この状況で目立った行動はできない。
結局アンタは安全にプレイ回数を増やすチャンスをうかがいながら……」
乙下は再びカードリーダーから排出されたサブカードを手に取った。
「このDJネーム『1046』のままのサブカードを持ち続けるしかなかったってわけだ。
……まぁさっきも言ったようにこれはほとんど推測なんで、どこまで合ってるかは知らないけどね。
あ、悪い悪い。これもう返すよ」
……まぁさっきも言ったようにこれはほとんど推測なんで、どこまで合ってるかは知らないけどね。
あ、悪い悪い。これもう返すよ」
乙下は用済みだと言わんばかりに1046へサブカードを差し出した。
つられて空気もポケットに隠し持っていた1046の財布を取り出す。
1046はひきつったような笑みを浮かべながら、それらを荒っぽく奪い返した。
つられて空気もポケットに隠し持っていた1046の財布を取り出す。
1046はひきつったような笑みを浮かべながら、それらを荒っぽく奪い返した。
「感動しました。本当に感動しましたよ。
実際に見たわけでも聞いたわけでもないのに、
少ない材料でよくもまぁそこまでぽんぽんと考えつきますね」
「誉めるんなら空気を誉めてやってくれ。
このストーリーを一から編み出したのは、実は彼なんだ」
実際に見たわけでも聞いたわけでもないのに、
少ない材料でよくもまぁそこまでぽんぽんと考えつきますね」
「誉めるんなら空気を誉めてやってくれ。
このストーリーを一から編み出したのは、実は彼なんだ」
1046はぐるりと首を曲げて空気を見た。
マリオネットみたいな、ぎこちない動きだった。
マリオネットみたいな、ぎこちない動きだった。
「見上げた想像力です。いや、妄想力って言った方がいいな。
こんな妄想たくましい人、俺は初めて見ました」
こんな妄想たくましい人、俺は初めて見ました」
| 43 :トップランカー殺人事件(236) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/06(日) 23:08:09 ID:3ekm5b2x0 |
さすがの空気も皮肉られていることを理解したのか、顔をしかめている。
そんな空気に1046は追い打ちをかけた。
そんな空気に1046は追い打ちをかけた。
「空気さん。0点です」
「はい?」
「0点ですよ0点。
あなたの推理に点数をつけるとしたら、0点です。
フィクションとしてはなかなか面白かったんですけど、推理としては0点です。
だって驚いたことにですよ、今の推理の中で正解している箇所はただの一つもありませんでした」
「……口では何とでも言えるっす」
「はい?」
「0点ですよ0点。
あなたの推理に点数をつけるとしたら、0点です。
フィクションとしてはなかなか面白かったんですけど、推理としては0点です。
だって驚いたことにですよ、今の推理の中で正解している箇所はただの一つもありませんでした」
「……口では何とでも言えるっす」
空気は眉をハの字に曲げつつも食い下がった。
「だいたいね、1046さん。
現にアンタの財布から山岡コースHYPERの全一スコアが収められている
サブカードが出てきたのは、揺るぎようのない事実じゃないっすか!」
「だから?だから何?」
現にアンタの財布から山岡コースHYPERの全一スコアが収められている
サブカードが出てきたのは、揺るぎようのない事実じゃないっすか!」
「だから?だから何?」
1046はジーンズのポケットに両手を入れて、
デラ部屋の壁に寄りかかり、トントンとつま先を揺すった。
デラ部屋の壁に寄りかかり、トントンとつま先を揺すった。
「皆さんも馬鹿じゃないんですから、何度も同じこと言わせないで下さいよ。
確かに俺は山岡コース専用のサブカードを所有していました。
でもそれが一体なんだっていうんですか?
何かの証拠になるんですか?なるわけないですよね」
「まぁね。アンタが不自然なサブカードを持ってたからと言って、
それはさすがに逮捕する理由にはなりゃしないさ」
「でしょう」
「けど俺の質問にはまだ答えてもらってないね。
アンタがこのサブカードを作った理由がアリバイ工作のためじゃないとすれば、
一体どんな理由があるんだい?納得のいく説明をしてもらおうか」
「大した理由はないですけど。
ちょっと山岡コースを集中的に練習したくてさ……これじゃダメ?」
「ダメだな」
確かに俺は山岡コース専用のサブカードを所有していました。
でもそれが一体なんだっていうんですか?
何かの証拠になるんですか?なるわけないですよね」
「まぁね。アンタが不自然なサブカードを持ってたからと言って、
それはさすがに逮捕する理由にはなりゃしないさ」
「でしょう」
「けど俺の質問にはまだ答えてもらってないね。
アンタがこのサブカードを作った理由がアリバイ工作のためじゃないとすれば、
一体どんな理由があるんだい?納得のいく説明をしてもらおうか」
「大した理由はないですけど。
ちょっと山岡コースを集中的に練習したくてさ……これじゃダメ?」
「ダメだな」
1046は小さく吐息を漏らした。
「いいでしょう、説明します。これはね、BOLCEとの賭けだったんです」
「賭け?」
「そう。賭けです」
「そう。賭けです」
1046は思い出に浸るように、遠い目をして語り出す。
| 46 :トップランカー殺人事件(237) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/12(土) 18:18:26 ID:WKnoUGc+0 |
「自分で言うのもなんですが、俺とBOLCEは
一昔前には不可能とされていたことを次々と覆してきました。
難曲のフルコンボだろうがAAAだろうが、何にでも手をつけて、そして結果を出してきました。
けどこのIIDXというゲームには終わりがない。前人未踏の目標なんていくらでもあるんです。
『HYPER以上のEXPERTコースで理論値を出す』ってのも、その一つでした」
一昔前には不可能とされていたことを次々と覆してきました。
難曲のフルコンボだろうがAAAだろうが、何にでも手をつけて、そして結果を出してきました。
けどこのIIDXというゲームには終わりがない。前人未踏の目標なんていくらでもあるんです。
『HYPER以上のEXPERTコースで理論値を出す』ってのも、その一つでした」
乙下は空気に目配せした。
「そうなのか?」
「……確かにそうっす。
っていうか、NORMAL譜面でさえコースで理論値を出したって話はこれまで聞いたこともありません。
IRの上位入賞者でもせいぜいグレ一桁ってレベルですし」
「簡単なコースのNORMAL譜面なら、俺もBOLCEもとっくに理論値を達成済みです。
IRへ登録するだなんて野暮な真似はしなかったんで、あまり知られてはいないのでしょうけど」
「……確かにそうっす。
っていうか、NORMAL譜面でさえコースで理論値を出したって話はこれまで聞いたこともありません。
IRの上位入賞者でもせいぜいグレ一桁ってレベルですし」
「簡単なコースのNORMAL譜面なら、俺もBOLCEもとっくに理論値を達成済みです。
IRへ登録するだなんて野暮な真似はしなかったんで、あまり知られてはいないのでしょうけど」
何がどう野暮なのか、乙下にはよく分からなかった。
トップランカークラスになると、ANOTHER以外でIRに登録するのは「弱い者いじめ」みたいに感じてしまうのだろうか。
トップランカークラスになると、ANOTHER以外でIRに登録するのは「弱い者いじめ」みたいに感じてしまうのだろうか。
「ただね、HYPER譜面となるとまるで勝手が違うわけですよ。
NORMAL譜面の場合、簡単なコースなら2000ノート未満のものもあります。
でもHYPERだとそうはいかない。ノート数が格段に増えるし、譜面も難解になる。
その状況で、五曲続けて全ノートJUST GREATで押さなきゃいけないんです」
「そりゃ並大抵のことじゃないね」
NORMAL譜面の場合、簡単なコースなら2000ノート未満のものもあります。
でもHYPERだとそうはいかない。ノート数が格段に増えるし、譜面も難解になる。
その状況で、五曲続けて全ノートJUST GREATで押さなきゃいけないんです」
「そりゃ並大抵のことじゃないね」
と言いつつ、乙下にはもはや現実離れし過ぎていて、
それがどれほど困難なことなのか想像のしようがなかった。
それがどれほど困難なことなのか想像のしようがなかった。
「ついこの間、俺はこの目標に挑戦することにしました。
BOLCEに『EXPERTのHYPER譜面で理論値を出す』と宣言したんです。
けれど、BOLCEは無理だと否定した。
だから俺は意地でも理論値を出してやろうと決めたんです。
コースは最初からAKIRA YAMAOKAコースに決めていました。
現行機種で選べるコースの中では圧倒的に簡単でしたから。
ただ必死に練習しているのをBOLCEに悟られたくなかったから、サブカードを作った。
俺がこんなイーパスを持ってた理由は、ただそれだけです」
BOLCEに『EXPERTのHYPER譜面で理論値を出す』と宣言したんです。
けれど、BOLCEは無理だと否定した。
だから俺は意地でも理論値を出してやろうと決めたんです。
コースは最初からAKIRA YAMAOKAコースに決めていました。
現行機種で選べるコースの中では圧倒的に簡単でしたから。
ただ必死に練習しているのをBOLCEに悟られたくなかったから、サブカードを作った。
俺がこんなイーパスを持ってた理由は、ただそれだけです」
1046は目を細めて、手に持った赤いイーパスを見つめていた。
「思ったよりも早くにそれなりの成果は出ました。
さっき見てもらった通り、課題曲単体でなら
五曲とも理論値を出すことができました。先週の話です。
もちろん一度に出たわけじゃないですから、
後はやり込んで、五曲連続で理論値が揃うのを忍耐強く待つことになります。
そこからは精神力の勝負ですよ。
俺は7月16日の午前中、いよいよメインカードを使ってその挑戦に踏み切りました。
けどあの日は全然ダメダメだったんです。
調子が悪かったのか、揃うどころか一向に良いスコアが出なかったんで、
山岡コースへの粘着は午前中で打ち切りました」
「なるほどねぇ」
「どうですか?乙下さん。
俺が山岡コース専用のサブカードを持っていた理由。
ついでに、俺が7月16日の午前中に山岡コースへ粘着していた理由。
あなたの望む通り、納得のいく説明をしたつもりです。これで満足していただけましたか?」
さっき見てもらった通り、課題曲単体でなら
五曲とも理論値を出すことができました。先週の話です。
もちろん一度に出たわけじゃないですから、
後はやり込んで、五曲連続で理論値が揃うのを忍耐強く待つことになります。
そこからは精神力の勝負ですよ。
俺は7月16日の午前中、いよいよメインカードを使ってその挑戦に踏み切りました。
けどあの日は全然ダメダメだったんです。
調子が悪かったのか、揃うどころか一向に良いスコアが出なかったんで、
山岡コースへの粘着は午前中で打ち切りました」
「なるほどねぇ」
「どうですか?乙下さん。
俺が山岡コース専用のサブカードを持っていた理由。
ついでに、俺が7月16日の午前中に山岡コースへ粘着していた理由。
あなたの望む通り、納得のいく説明をしたつもりです。これで満足していただけましたか?」
確かにスジは通っている。
だがしかし――。
そう切り出そうとした乙下に先んじて声を上げたのは、あろうことか杏子だった。
だがしかし――。
そう切り出そうとした乙下に先んじて声を上げたのは、あろうことか杏子だった。
「ウソです。1046さんはウソをついています」
| 47 :トップランカー殺人事件(238) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/12(土) 18:29:22 ID:WKnoUGc+0 |
「……杏子?」
戸惑う1046に対し、杏子はきっと正面を見据えて喋った。
「『BOLCEさんが無理だと否定した』?ウソです。
BOLCEさんはどんなことでも無理と決めつけることはしません。
ましてや1046さんの挑戦を頭ごなしに否定するなんて、考えられません。
それは1046さん自身が一番知っていることなのではないですか?」
「杏子、それは……」
BOLCEさんはどんなことでも無理と決めつけることはしません。
ましてや1046さんの挑戦を頭ごなしに否定するなんて、考えられません。
それは1046さん自身が一番知っていることなのではないですか?」
「杏子、それは……」
それは、に続く言葉はなかった。
唇を噛むようにして立ち尽くす1046には、わずかな動揺が見られた。
唇を噛むようにして立ち尽くす1046には、わずかな動揺が見られた。
「俺からも一つ言わせてもらおうかな」
乙下はポケットからひどく皺の寄った一枚の用紙を出して広げた。
思えばこの紙の皺が増えるにつれ、自分の顔や脳みそにも皺が刻まれていったような気がする。
だが、こいつを見て頭を抱える日々も今日で最後だ。
思えばこの紙の皺が増えるにつれ、自分の顔や脳みそにも皺が刻まれていったような気がする。
だが、こいつを見て頭を抱える日々も今日で最後だ。
そんな思いを胸に、乙下はたくさんの数字が印字されたその紙を、1046へ手渡した。
■DJ 1046 e-AMUSEMENT PASS使用履歴
(ID = 4649-5963; DATE = 08/07/16 の検索結果)
(ID = 4649-5963; DATE = 08/07/16 の検索結果)
START = 10:27, END = 10:39;(山岡コース MAX-17)
START = 10:40, END = 10:52;(山岡コース MAX-11)
START = 10:52, END = 11:03;(山岡コース MAX-8)
START = 11:04, END = 11:16;(山岡コース MAX-14)
START = 11:17, END = 11:29;(山岡コース MAX-8)
START = 11:30, END = 11:42;(山岡コース MAX-9)
START = 11:43, END = 11:55;(山岡コース MAX-6)
START = 12:00, END = 12:02;
START = 12:03, END = 12:09;
START = 12:09, END = 12:20;
< 1046がABCの監視カメラに映る(12:35)
START = 12:37, END = 12:48;
START = 12:49, END = 13:01;
START = 13:02, END = 13:13;
START = 13:14, END = 13:25;
……
START = 10:40, END = 10:52;(山岡コース MAX-11)
START = 10:52, END = 11:03;(山岡コース MAX-8)
START = 11:04, END = 11:16;(山岡コース MAX-14)
START = 11:17, END = 11:29;(山岡コース MAX-8)
START = 11:30, END = 11:42;(山岡コース MAX-9)
START = 11:43, END = 11:55;(山岡コース MAX-6)
START = 12:00, END = 12:02;
START = 12:03, END = 12:09;
START = 12:09, END = 12:20;
< 1046がABCの監視カメラに映る(12:35)
START = 12:37, END = 12:48;
START = 12:49, END = 13:01;
START = 13:02, END = 13:13;
START = 13:14, END = 13:25;
……
1046は自らのイーパス使用履歴をまじまじと眺めた。
近眼なのかと思わせるほど、やたらと目に近付けて見ている。
近眼なのかと思わせるほど、やたらと目に近付けて見ている。
「どうも納得がいかないね」
乙下は言った。
「最初のプレイでは黄グレ17個。次のプレイでは黄グレ11個。
確かに物凄いスコアではあるんだけど、1046さんにしては低くないか?」
確かに物凄いスコアではあるんだけど、1046さんにしては低くないか?」
| 48 :トップランカー殺人事件(239) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/12(土) 18:35:50 ID:WKnoUGc+0 |
「言ってくれますね。
総ノート数が4000個近い中で、たった17個しか黄グレを出してないんですよ?
これを『スコアが低い』だなんて言われたら、さすがの俺も虫の居所が悪い」
「そうは言うけどアンタさ、サブカードで練習を積んで、
五曲とも理論値出すつもりで挑んだんだろ?
それにしちゃ……と考えると、このスコアはやはり低いと言わざるを得ない。
となると、このスコアは本当に1046さんがプレイして出したものかどうか疑わしいのさ。
じゃぁ一体誰が出したスコアなんだろうか?
考えるまでもない。
アンタ以外にこのレベルのスコアを出せる人間は、BOLCEしかいない」
「だーかーらー!」
総ノート数が4000個近い中で、たった17個しか黄グレを出してないんですよ?
これを『スコアが低い』だなんて言われたら、さすがの俺も虫の居所が悪い」
「そうは言うけどアンタさ、サブカードで練習を積んで、
五曲とも理論値出すつもりで挑んだんだろ?
それにしちゃ……と考えると、このスコアはやはり低いと言わざるを得ない。
となると、このスコアは本当に1046さんがプレイして出したものかどうか疑わしいのさ。
じゃぁ一体誰が出したスコアなんだろうか?
考えるまでもない。
アンタ以外にこのレベルのスコアを出せる人間は、BOLCEしかいない」
「だーかーらー!」
1046は急に声を荒げた。
「この日は単に調子が悪かったんだって言ってるだろ!
それとも何か?このスコアを低いって言うんだったら、
乙下さんはこのスコアを出せるんですか!?」
「いや、そりゃもちろん無理だけど……」
それとも何か?このスコアを低いって言うんだったら、
乙下さんはこのスコアを出せるんですか!?」
「いや、そりゃもちろん無理だけど……」
小学生みたいな屁理屈を持ち出してきた。
追い詰められて焦っているのだろうか?
これまでの1046からは想像しにくい、冷静さを欠いた言動だった。
追い詰められて焦っているのだろうか?
これまでの1046からは想像しにくい、冷静さを欠いた言動だった。
「あなたが何と言おうと、俺はやってない。やってないんだ。
ここに記された時刻に俺はABCでデラをプレイしていた。
それ以上でもそれ以下でもない。俺は、本当に、殺してなんかいないんです!」
ここに記された時刻に俺はABCでデラをプレイしていた。
それ以上でもそれ以下でもない。俺は、本当に、殺してなんかいないんです!」
紙を持つ手を振るわせながら、1046は顔を赤くして叫んだ。
かと思うと、1046はふっと全身から力が抜けたかのようにうなだれた。
両腕がダラリと垂れ下がり、持っていたイーパス使用履歴はパサ、と小さな音を立てて床に落ちた。
かと思うと、1046はふっと全身から力が抜けたかのようにうなだれた。
両腕がダラリと垂れ下がり、持っていたイーパス使用履歴はパサ、と小さな音を立てて床に落ちた。
やはり様子がおかしい。
「……と言ったところで、どうせ信じてはくれないんでしょう。
だったらこっちにも考えがあります」
だったらこっちにも考えがあります」
1046はおぼつかない足取りでデラ部屋の出入口に向かった。
「おい、どこへ行く!?」
乙下の呼びかけに、1046はぞっとするほどの白眼で振り返った。
「逃げやしないよ。ちょっと待ってて下さい。
俺が犯人でないことを示す『証拠』を持ってきますから」
俺が犯人でないことを示す『証拠』を持ってきますから」
| 49 :トップランカー殺人事件(240) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/12(土) 18:41:39 ID:WKnoUGc+0 |
「証拠……?」
1046は足を踏み鳴らして部屋を出て行った。
乙下と空気、空気と杏子、杏子と乙下、それぞれの組み合わせで互いに顔を見合わせたが、
誰一人として1046の意図を掴めた様子はなかった。
乙下と空気、空気と杏子、杏子と乙下、それぞれの組み合わせで互いに顔を見合わせたが、
誰一人として1046の意図を掴めた様子はなかった。
1046はすぐに戻って来た。
本当にすぐだった。
時間にして10秒も経っていない。
本当にすぐだった。
時間にして10秒も経っていない。
1046の手には一冊のノートが握られていた。
表紙に「デラ部屋予約ノート」とマジックで記載されている。
表紙に「デラ部屋予約ノート」とマジックで記載されている。
乙下はすぐに思い出した。
シルバーでは平日の日中、デラ部屋のタイムレンタルサービスが実施されている。
その予約状況は、シルバーのカウンターにあるノートで閲覧できる。
他ならぬ1046から聞いた情報だった。
シルバーでは平日の日中、デラ部屋のタイムレンタルサービスが実施されている。
その予約状況は、シルバーのカウンターにあるノートで閲覧できる。
他ならぬ1046から聞いた情報だった。
1046はノートをパラパラとめくりながら乙下に接近した。
「このページを見て下さい」
1046が開いたのは、7月16日の予約状況が書かれたページだった。
「7月16日(水) 10:00~16:00 BOLCE」とある。
見た記憶のある字面だった。
一昨日、捜査のためにシルバーへやって来た時にもこのページを目にしたからだ。
「7月16日(水) 10:00~16:00 BOLCE」とある。
見た記憶のある字面だった。
一昨日、捜査のためにシルバーへやって来た時にもこのページを目にしたからだ。
「見ての通りです。
BOLCEは事件当日、シルバーのデラ部屋を前もって予約していたんです」
「そうみたいだな。それが?」
「乙下さんの推理だと、俺とBOLCEは実は入れ替わっていたことになります。
俺はABCにいるふりをして、実際はシルバーに。
BOLCEはシルバーにいるふりをして、実際はABCに……という具合ですね」
「おっしゃる通りで」
「でもね、ダメなんですよ乙下さん。その推理は通らない。
このノートがそれを物語っています」
BOLCEは事件当日、シルバーのデラ部屋を前もって予約していたんです」
「そうみたいだな。それが?」
「乙下さんの推理だと、俺とBOLCEは実は入れ替わっていたことになります。
俺はABCにいるふりをして、実際はシルバーに。
BOLCEはシルバーにいるふりをして、実際はABCに……という具合ですね」
「おっしゃる通りで」
「でもね、ダメなんですよ乙下さん。その推理は通らない。
このノートがそれを物語っています」
1046は勝ち誇ったような薄笑いを見せ、ピースをした。
とうとう気が触れたのかと肝を冷やしたが、そうではなかった。
とうとう気が触れたのかと肝を冷やしたが、そうではなかった。
「乙下さんの推理では、二つほど説明のつかないことがあるんですよ」
ピースではなく、数字の"2"だったらしい。
「一つ目。『俺はどうやってBOLCEをABCに行かせたんでしょう?』
二つ目。『俺はどうやってBOLCEをシルバーに戻って来させたんでしょう?』」
二つ目。『俺はどうやってBOLCEをシルバーに戻って来させたんでしょう?』」
| 50 :トップランカー殺人事件(241) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/12(土) 18:48:16 ID:WKnoUGc+0 |
1046はノートをメガホンのように丸めて、リズミカルに手を叩きながら言った。
「BOLCEって男はああ見えて、相当に頑固なヤツでさ。
自分で『こう』と決めたら人の意見なんか聞きゃしない。
とりわけデラのことになると、テコでも動かないんですよ。そうだろ?杏子」
自分で『こう』と決めたら人の意見なんか聞きゃしない。
とりわけデラのことになると、テコでも動かないんですよ。そうだろ?杏子」
杏子は素直に頷いた。
「だから、BOLCEが予約した時間帯に他人がしゃしゃり出て来て
デラ部屋を使わせてもらうなんて真似は、まかり通らないんです。
まして『人目を盗んでABCに行け』だとか、
『12時過ぎにシルバーへ戻って来い』だなんて命令は、BOLCEに通じるはずがない。
だから乙下さんの推理は無理。100%無理なんです。
10年ほどの付き合いになる俺でさえも、
親友のよしみだなんて無意味な理由じゃBOLCEを動かすなんてどうやったって……」
「あー、1046さん1046さん。それはもう知ってる」
デラ部屋を使わせてもらうなんて真似は、まかり通らないんです。
まして『人目を盗んでABCに行け』だとか、
『12時過ぎにシルバーへ戻って来い』だなんて命令は、BOLCEに通じるはずがない。
だから乙下さんの推理は無理。100%無理なんです。
10年ほどの付き合いになる俺でさえも、
親友のよしみだなんて無意味な理由じゃBOLCEを動かすなんてどうやったって……」
「あー、1046さん1046さん。それはもう知ってる」
1046の熱弁に、乙下は若干申し訳ない気持ちで割って入った。
なだめすかすように軽く両手を上げて、息を切らしかけた1046と向かい合う。
なだめすかすように軽く両手を上げて、息を切らしかけた1046と向かい合う。
「……なんですって?」
「俺はもう杏子ちゃんから聞いて知ってるんだ。
BOLCEは素直にアンタの言うことを聞くような性格じゃなかったらしいね」
「だったら説明するまでもない。乙下さんの推理は成り立ちません」
「いや」
「俺はもう杏子ちゃんから聞いて知ってるんだ。
BOLCEは素直にアンタの言うことを聞くような性格じゃなかったらしいね」
「だったら説明するまでもない。乙下さんの推理は成り立ちません」
「いや」
乙下はかぶりを振った。
「俺は見破っていたよ。
アンタはBOLCEの頑固な性格を逆手に取って、
思い通りにBOLCEを操るための心理的トリックを仕掛けていたんだ」
「心理的トリックって、今度は何を言い出すんですか!?」
アンタはBOLCEの頑固な性格を逆手に取って、
思い通りにBOLCEを操るための心理的トリックを仕掛けていたんだ」
「心理的トリックって、今度は何を言い出すんですか!?」
額に脂汗を浮かべる1046を差し置き、乙下は空気に指図した。
「おい空気。例のモノを」
「ほい、ただいま」
「ほい、ただいま」
空気は筐体の横に置いてあった工具箱を漁り、『例のモノ』を掴み上げた。
そのまま下手投げで乙下にパスをする。
キャッチすると、それは大きさの割にズシリと重量があった。
そのまま下手投げで乙下にパスをする。
キャッチすると、それは大きさの割にズシリと重量があった。
「1046さん。アンタは『これ』を使うことで、
BOLCEがABCに移動せざるを得ない状況を作り出すのに成功したんだ」
BOLCEがABCに移動せざるを得ない状況を作り出すのに成功したんだ」
| 55 :トップランカー殺人事件(242) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/20(日) 21:42:50 ID:hjSxajcg0 |
それは、黒光りする卵ほどの大きさの物体だった。
平べったい円筒形の形状をしており、表面はややザラザラしている。
持つと手にひんやりとした感触が伝わった。
平べったい円筒形の形状をしており、表面はややザラザラしている。
持つと手にひんやりとした感触が伝わった。
乙下はデラ部屋に備えつけられているベンチの前にかがみ、
ベンチの骨格を成しているスチール製のパイプへ、その物体を近付ける。
すると、「カチーン」と金属的な音を立てて、物体はパイプにへばり付いた。
ベンチの骨格を成しているスチール製のパイプへ、その物体を近付ける。
すると、「カチーン」と金属的な音を立てて、物体はパイプにへばり付いた。
「これは磁石だ」
乙下は1046を見上げた。
1046は肩で息をしながら、焦点のはっきりしない目つきで乙下を見下ろしていた。
1046は肩で息をしながら、焦点のはっきりしない目つきで乙下を見下ろしていた。
「見りゃ分かりますよ。それが?」
「いい加減白々しいな、1046さん。
アンタはこれを使って、BOLCEをABCに行かせたんだろ」
「何を言ってるんだか。
磁力でBOLCEを引っ張ったとでも言うんですか?
あぁそうか。IIDXの鉄人だから、磁石に反応するってこと?あはは」
「いい加減白々しいな、1046さん。
アンタはこれを使って、BOLCEをABCに行かせたんだろ」
「何を言ってるんだか。
磁力でBOLCEを引っ張ったとでも言うんですか?
あぁそうか。IIDXの鉄人だから、磁石に反応するってこと?あはは」
1046は苦しそうに乾いた笑いをこぼした。
「この期に及んでなかなか上手いことを言うのには感心させられる。
だが誤魔化しても無駄だ。アンタは、磁石をこんな風に使ったんだろ?」
だが誤魔化しても無駄だ。アンタは、磁石をこんな風に使ったんだろ?」
乙下は磁石をベンチから引き剥がして立ち上がり、
今度はIIDXの筐体へ磁石を持った手を向けた。
今度はIIDXの筐体へ磁石を持った手を向けた。
「ちょ、先輩!実際には試さない約束でしょ!?」
空気が両腕を大の字に広げて、乙下の行く手を阻んだ。
「せっかく用意したんだから、ちょっとだけやってみようって。
大丈夫大丈夫。ちゃんと元に戻してやるから」
「ダメですって、ああああ、ボクのテレビが……」
大丈夫大丈夫。ちゃんと元に戻してやるから」
「ダメですって、ああああ、ボクのテレビが……」
乙下は空気の制止を振り切って磁石をテレビにかざし、
画面の右上から右下へ向かってゆっくりと動かした。
画面の右上から右下へ向かってゆっくりと動かした。
まるで、目に見えない絵筆を持っているような感覚だった。
磁石をかざした軌跡に沿って、画面がじんわりと紫色に変色している。
もう一度同じ場所に磁石をなすりつけると、色合いの乱れはより顕著になった。
乙下はキャンバスに色を塗るようなその動きを、何度も何度も繰り返しながら言った。
もう一度同じ場所に磁石をなすりつけると、色合いの乱れはより顕著になった。
乙下はキャンバスに色を塗るようなその動きを、何度も何度も繰り返しながら言った。
「おお、すげー。どんどん色が壊れてくな」
「……何をしたいんですか、乙下さん」
「『ブラウン管モニタに磁石を近付けると、内部の陰極線が歪んで色ムラが発生する』。
まぁ、有名なお話だよな。
今日空気に持って来させたコイツはとびきり強力な磁石だから、効果てきめんだ」
「……何をしたいんですか、乙下さん」
「『ブラウン管モニタに磁石を近付けると、内部の陰極線が歪んで色ムラが発生する』。
まぁ、有名なお話だよな。
今日空気に持って来させたコイツはとびきり強力な磁石だから、効果てきめんだ」
| 56 :トップランカー殺人事件(243) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/20(日) 21:54:05 ID:hjSxajcg0 |
「んなこと小学生の頃から知ってるんですよ。で、一体なんの関係が……」
「先輩、そろそろ勘弁して下さいよぉ」
「先輩、そろそろ勘弁して下さいよぉ」
空気が涙ながらに訴えた頃には、すでに画面の右半分が壊滅的な状況に陥っていた。
「DJ TROOPERS」のオープニング画面が本来有しているはずの
緑を基調とした美しいデザインは見る影もなくなり、
今は暖色も寒色も関係なしにあらゆる部位がサイケデリックな濃い紫色に染まっていた。
「DJ TROOPERS」のオープニング画面が本来有しているはずの
緑を基調とした美しいデザインは見る影もなくなり、
今は暖色も寒色も関係なしにあらゆる部位がサイケデリックな濃い紫色に染まっていた。
続いてゲームのデモ画面が始まり、違和感はより一層強まる。
かろうじてオブジェらしきものが降ってくるのは見えるのだが、やはり色が問題だった。
白いオブジェも青いオブジェも、赤いスクラッチさえも、全て紫色で統一されてしまっているからだ。
画面中央には「白い音符の時は白い鍵盤、青い音符の時は黒い鍵盤を叩きます」という
親切な説明文が表示されていたが、この時ばかりは滑稽でしかなかった。
かろうじてオブジェらしきものが降ってくるのは見えるのだが、やはり色が問題だった。
白いオブジェも青いオブジェも、赤いスクラッチさえも、全て紫色で統一されてしまっているからだ。
画面中央には「白い音符の時は白い鍵盤、青い音符の時は黒い鍵盤を叩きます」という
親切な説明文が表示されていたが、この時ばかりは滑稽でしかなかった。
「どうだい、1046さん。アンタはこの状態でまともにプレイできるかい?」
「いくら俺だって、これは無理。
IIDXで白と青の区別がつかないのは致命的です」
「ごもっともな意見だ。が、しかし……アンタは『1Pサイドのプレイヤー』じゃなかったか?」
「いくら俺だって、これは無理。
IIDXで白と青の区別がつかないのは致命的です」
「ごもっともな意見だ。が、しかし……アンタは『1Pサイドのプレイヤー』じゃなかったか?」
1046の言うように、空気のテレビはIIDXのモニタとしてはもう使い物にならない。
ただしそれは画面の右半分に限った話であり、画面の左半分は健康的な色合いを保っていた。
世界の中央を境に天国と地獄がせめぎ合っているような、奇怪な光景だった。
ただしそれは画面の右半分に限った話であり、画面の左半分は健康的な色合いを保っていた。
世界の中央を境に天国と地獄がせめぎ合っているような、奇怪な光景だった。
「アンタがゲームで使うのは左半分だけだろ。
右半分の色が見えなくて、何が困る?
せいぜい曲を選びづらいだとか、グラフが見づらいだとか、そんな程度じゃないか。
この状態で本当に困る人間は、『2Pサイドのプレイヤー』……つまり」
右半分の色が見えなくて、何が困る?
せいぜい曲を選びづらいだとか、グラフが見づらいだとか、そんな程度じゃないか。
この状態で本当に困る人間は、『2Pサイドのプレイヤー』……つまり」
乙下は1046の目を射抜くように見据えながら言った。
「この筐体は1046さんにとっては普段通り遊べるものだが、
BOLCEにとってはゴミ同然のクソ筐体ってことになる。
これがBOLCEをABCに行かせたトリックの正体だ」
BOLCEにとってはゴミ同然のクソ筐体ってことになる。
これがBOLCEをABCに行かせたトリックの正体だ」
おそらくはこういうことだ。
7月16日の日中、BOLCEはデラ部屋のタイムレンタルサービスを予約していた。
それを知っていた1046は、朝BOLCEがやって来る前に、そっとデラ部屋へ忍び込む。
そして、乙下がそうしたように、強力な磁石を使ってモニタの右半分を使用不能にしてしまう。
作業が終わり次第、1046は一旦デラ部屋を離れ、BOLCEが来るのをこっそりと待つ。
それを知っていた1046は、朝BOLCEがやって来る前に、そっとデラ部屋へ忍び込む。
そして、乙下がそうしたように、強力な磁石を使ってモニタの右半分を使用不能にしてしまう。
作業が終わり次第、1046は一旦デラ部屋を離れ、BOLCEが来るのをこっそりと待つ。
BOLCEが来ると同時に、1046は何食わぬ顔でデラ部屋へ姿を現わす。
当然BOLCEはモニタの件で店長へクレームをつけようとするが、
1046はこれを止めて、BOLCEに提案を持ちかけたのだ。
当然BOLCEはモニタの件で店長へクレームをつけようとするが、
1046はこれを止めて、BOLCEに提案を持ちかけたのだ。
例えば、こんな風に。
| 57 :トップランカー殺人事件(244) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/20(日) 22:05:32 ID:hjSxajcg0 |
『おいBOLCE、これ店長に知らせるつもりなのか?』
『もちろん。これじゃまともにプレイできないし、一刻も早く直してもらわないと』
『でも今知らせたら、せっかくの今日の分の予約を放棄にすることになるぞ』
『んなこと言ったって、こんな状態じゃ仕方ないでしょ。せめてお金だけは返してもらわなきゃ』
『もちろん。これじゃまともにプレイできないし、一刻も早く直してもらわないと』
『でも今知らせたら、せっかくの今日の分の予約を放棄にすることになるぞ』
『んなこと言ったって、こんな状態じゃ仕方ないでしょ。せめてお金だけは返してもらわなきゃ』
『いい考えがある。店長に知らせるのは、夕方にしよう』
『どういうこと?』
『今日の日中は俺とこっそり入れ替わろうぜ。
モニタの左半分は無事だ。2PのBOLCEには無理でも、1Pの俺ならいつも通りプレイできる。
代わりに、明日の俺の予約はBOLCEに譲る。そうすりゃアイコだろ』
『明日までに直るかなぁ?』
『この症状は確か電気屋に持っていけば一時間くらいで直してもらえる。
夕方に店長に知らせれば、明日の朝までには復活するはずだ。
夕方以降だったら例えモニタが修理に出されても、
どうせ俺達はすぐバイトに行く時間になるから関係ない。
せっかくのタイムレンタルサービスだ、こんな時こそ有効活用しようじゃないか』
『1046頭いいね。その作戦、乗らせてもらうよ。それじゃ、僕は今日はABCに行く』
『なるべく人目につかないようにな。特に店長には見つかるなよ。
BOLCEは本当はここにいることになってるんだからな』
『OK。そっちも気をつけてね。また夕方に来るよ』
『今日の日中は俺とこっそり入れ替わろうぜ。
モニタの左半分は無事だ。2PのBOLCEには無理でも、1Pの俺ならいつも通りプレイできる。
代わりに、明日の俺の予約はBOLCEに譲る。そうすりゃアイコだろ』
『明日までに直るかなぁ?』
『この症状は確か電気屋に持っていけば一時間くらいで直してもらえる。
夕方に店長に知らせれば、明日の朝までには復活するはずだ。
夕方以降だったら例えモニタが修理に出されても、
どうせ俺達はすぐバイトに行く時間になるから関係ない。
せっかくのタイムレンタルサービスだ、こんな時こそ有効活用しようじゃないか』
『1046頭いいね。その作戦、乗らせてもらうよ。それじゃ、僕は今日はABCに行く』
『なるべく人目につかないようにな。特に店長には見つかるなよ。
BOLCEは本当はここにいることになってるんだからな』
『OK。そっちも気をつけてね。また夕方に来るよ』
――実際にこんなやり取りだったかどうかは分からないが、
BOLCEの性格を知り尽くしている1046だからこそ、
言葉巧みにBOLCEを誘導し、狙い通りABCへ行かせるのに成功したのだろう。
BOLCEの性格を知り尽くしている1046だからこそ、
言葉巧みにBOLCEを誘導し、狙い通りABCへ行かせるのに成功したのだろう。
これはモニタがブラウン管であるシルバーの筐体だからこそ成立したトリックだと言える。
ABCのような液晶モニタ筐体では、同じことはできなかったはずだ。
ABCのような液晶モニタ筐体では、同じことはできなかったはずだ。
「最初におかしいと思ったのは、BOLCEの死体検案書を見たときだったんだ。
医師によれば、犯人はBOLCEを殺した後で、
わざわざBOLCEの頭をデラのモニタに叩きつけたらしい。
なぜ犯人はそんなことをする必要があったのか?
答えは一つ。この変色したモニタを、誰にも見らないようにするためだ。
モニタそのものを粉々に壊してしまえば、画面は二度と映らないからな。
変色のことは誰にもバレないってわけだ」
医師によれば、犯人はBOLCEを殺した後で、
わざわざBOLCEの頭をデラのモニタに叩きつけたらしい。
なぜ犯人はそんなことをする必要があったのか?
答えは一つ。この変色したモニタを、誰にも見らないようにするためだ。
モニタそのものを粉々に壊してしまえば、画面は二度と映らないからな。
変色のことは誰にもバレないってわけだ」
狭いデラ部屋の中に四人。
外は大雨と言えども、蒸し暑くなってきた。
外は大雨と言えども、蒸し暑くなってきた。
しかし、1046の額を玉になってつたい落ちる汗は、暑さのせいだけではないはずだった。
「……磁石とは恐れ入りました。
本当に、よくあの手この手のこじつけを考えつくもんです」
「こじつけじゃない。事実だろ」
「仮に事実だとしても、まだ半分だ。
朝にBOLCEをABCに行かせた方法は分かりました。
問題はその後。昼に『どうやってBOLCEをシルバーに戻って来させたか?』です。
さぁ、今度はどんなこじつけを聞かせてくれるのやら」
本当に、よくあの手この手のこじつけを考えつくもんです」
「こじつけじゃない。事実だろ」
「仮に事実だとしても、まだ半分だ。
朝にBOLCEをABCに行かせた方法は分かりました。
問題はその後。昼に『どうやってBOLCEをシルバーに戻って来させたか?』です。
さぁ、今度はどんなこじつけを聞かせてくれるのやら」
明らかに動揺しているのに、1046はあくまで徹底抗戦の構えだ。
ならば、乙下は戦いに応じるしかない。
ならば、乙下は戦いに応じるしかない。
「ヒントはここにあった」
| 58 :トップランカー殺人事件(245) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/20(日) 22:11:25 ID:hjSxajcg0 |
乙下は床にしゃがみ込み、先ほど1046の手元から滑り落ちた
彼のイーパス使用履歴を拾い上げ、『ヒント』になった部分を指差した。
彼のイーパス使用履歴を拾い上げ、『ヒント』になった部分を指差した。
START = 11:43, END = 11:55;
START = 12:00, END = 12:02;
START = 12:03, END = 12:09;
START = 12:09, END = 12:20;
START = 12:00, END = 12:02;
START = 12:03, END = 12:09;
START = 12:09, END = 12:20;
それは、不自然さゆえにこれまで何度も議論の対象になった部分だった。
「ここなんだよここ。
やっぱりどう考えてもおかしいんだ。
それまでまったく休まずにデラをプレイしてたはずなのに、
11:55~12:00の間、突然5分のインターバルがある。
かと思えば、次のプレイはたった2分。次のプレイは6分。
なんでこんな不自然な動きになっているんだろう?」
やっぱりどう考えてもおかしいんだ。
それまでまったく休まずにデラをプレイしてたはずなのに、
11:55~12:00の間、突然5分のインターバルがある。
かと思えば、次のプレイはたった2分。次のプレイは6分。
なんでこんな不自然な動きになっているんだろう?」
1046は不快感を露わにして言った。
「それは前にも説明したはずでしょう?
5分間の隙間はただの休憩。
次に2分でゲームが終わってるのは、DUE TOMORROWで一曲目HARD落ちしたから。
次に6分でゲームが終わってるのは、FREEモードを選んだから。
何回言わせれば気が済むんですか」
「そんなデタラメな話、何回言ってもらっても気が済まないね」
5分間の隙間はただの休憩。
次に2分でゲームが終わってるのは、DUE TOMORROWで一曲目HARD落ちしたから。
次に6分でゲームが終わってるのは、FREEモードを選んだから。
何回言わせれば気が済むんですか」
「そんなデタラメな話、何回言ってもらっても気が済まないね」
乙下は挑戦的に反論する。
「この時刻、BOLCEとアンタは入れ替わっていたんだ。
だから、このプレイ記録は断じてアンタのプレイ記録じゃない。
知らず知らずの内にアンタのイーパスを使わされていた、BOLCEのプレイ記録なんだ」
「……だとしたら、乙下さんはこの不自然なタイムテーブルに、
一体どう説明をつけるって言うんですか?
そこまで言うんなら、スジの通った説明をしてくれるんでしょうね?」
「もちろんだ」
だから、このプレイ記録は断じてアンタのプレイ記録じゃない。
知らず知らずの内にアンタのイーパスを使わされていた、BOLCEのプレイ記録なんだ」
「……だとしたら、乙下さんはこの不自然なタイムテーブルに、
一体どう説明をつけるって言うんですか?
そこまで言うんなら、スジの通った説明をしてくれるんでしょうね?」
「もちろんだ」
乙下は自信を持って答えた。
「BOLCEはアンタが仕掛けた『ある大胆なトリック』に操られて、
まんまとシルバーへ戻ってくるはめになった。
まさか殺されることになるとは知らずにね。
この不自然なタイムテーブルは、まさにアンタが仕掛けたトリックの痕跡そのものだったんだ」
まんまとシルバーへ戻ってくるはめになった。
まさか殺されることになるとは知らずにね。
この不自然なタイムテーブルは、まさにアンタが仕掛けたトリックの痕跡そのものだったんだ」
| 69 :トップランカー殺人事件(246) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2009/12/29(火) 14:40:52 ID:1Nddxnyt0 |
「またトリックですか。もう聞き飽きました」
「俺も言い飽きたよ」
「俺も言い飽きたよ」
1046はひどい顔をしていた。
自信に満ち溢れた二枚目ランカーの顔はすっかり影をひそめ、
虚ろな目とにじんだ脂汗、不自然に半開きになった口から漏れ出る荒い吐息は
一人の男が窮地に立たされていることを如実に示していた。
自信に満ち溢れた二枚目ランカーの顔はすっかり影をひそめ、
虚ろな目とにじんだ脂汗、不自然に半開きになった口から漏れ出る荒い吐息は
一人の男が窮地に立たされていることを如実に示していた。
しかしそれでも1046は、果敢に乙下へ食ってかかった。
「聞かせて下さいよ。
俺は一体、BOLCEをシルバーへ連れ戻すために何をしたって言うんですか?」
「いや、何も。アンタは何もしちゃいない」
俺は一体、BOLCEをシルバーへ連れ戻すために何をしたって言うんですか?」
「いや、何も。アンタは何もしちゃいない」
1046の顔が般若のような形相になった。
「ふざけんのもたいがいに――」
「しいて言えば」
「しいて言えば」
1046が今にも掴みかかりそうな勢いで怒声を上げかけたが、
乙下はそれ以上の音量で、1046の声に重ねて言った。
乙下はそれ以上の音量で、1046の声に重ねて言った。
「『7月16日』。犯行にこの日付を選んだことが、アンタのしたことだ」
それを聞いた瞬間、1046の動きがポーズをかけたかのようにピタリと止まった。
「アンタはこの犯行を7月16日に実行した。
一見信じられないような話だが、たったそれだけで
BOLCEは昼の12:00を過ぎれば勝手にABCからシルバーへ戻って来る。
アンタはそれを見越していたんだ」
一見信じられないような話だが、たったそれだけで
BOLCEは昼の12:00を過ぎれば勝手にABCからシルバーへ戻って来る。
アンタはそれを見越していたんだ」
1046は視線を泳がせながら、左手を口に当てた。
「1046さん、俺の質問に答えてくれ。7月16日は何曜日だ?」
1046は消え入りそうに小さく、そして低い声で「水曜日」と答えた。
「そう、水曜日だ。では水曜日の昼12:00に何が起こる?
さすがに知らないとは言わせないよ」
「……知ってます。知らないはずがない。
普通のIIDXプレイヤーなら誰でも知ってる、常識中の常識だ」
さすがに知らないとは言わせないよ」
「……知ってます。知らないはずがない。
普通のIIDXプレイヤーなら誰でも知ってる、常識中の常識だ」
水曜日の昼12:00――それは、『WEEKLY RANKINGの更新時刻』。