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carnival (re-construction ver) Last Phase -day break- St.2

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beatnovel

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137 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 11:10:07 ID:nQ3BkUwK0
 こうして、カーニバル事件の真相を知りたいと願う私に協力者が出来た。
あのオグレの血を継ぐ、名をアヤノと言う探偵だ。

 一応の調査は彼女がやってくれる。
だから私が頑張る必要などどこにもない。
しかし、何もしないで結果報告を聞く態度など取れはしない。
私も行動を起こさなくてはならない。何でもいいから、とにかく何かを。



 私が求めたその「何か」は、アヤノに調査を依頼した四日後に見つかった。
いつものように大学で時間学の講義を受けに行こうとした私に、
カーニバルへ行った際に私と行動を共にしていた例の友人がこんな事を言ったのだ。

「そういえば、お前こんな噂を知ってるか?」

 噂。この言葉に私の勘が反応した。
彼の言いたい噂が何かは知らないが、それを話題にしなければならないと感じた。

「いや……それは一体、どういう噂なんだ?」
「カーニバルが建造されてる東レイヴン海、分かるよな」
「あぁ、まぁ」
「あの海底には何かが埋まっているらしいぜ」

 何かが埋まっている……この言葉にも勘が反応する。

「何かって、一体それは何なんだ」
「分かってたら噂にならねぇじゃねぇか! 馬鹿だなぁ」

 そりゃそうだ、と私は返し、時間がないからと言って会話を切った。

138 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 11:16:10 ID:nQ3BkUwK0
「時間という概念はぁ、×××が○○○で▽□☆なので……こうなるっ!!」

 その後、私は四階にある第五講義室で時間学の講義を受けた。
しかし私の耳には、教壇に立って熱心に講義をする教授の話は全く入ってこない。


 カーニバルの噂。
海底に何かが埋まっているという、何らかの説得性を持たせる材料すらない噂だ。
 しかし、私の仮説で言う「ユールが見てしまったWOSにとって不都合なもの」
がどうしても分解、解体、隠蔽が普通では行えないものなら。
そんなものであれば海底に埋められた、というのも頷けなくはない。
 この噂の真偽を確かめ、そしてそれが真実であったとするなら、
その何かの正体を暴く事で真相に一歩近づくかもしれない。


「うぉおい! そこの居眠り君、やる気がないなら帰ってもらうぞぉ!」

 私は何者かの叫びによって眠りから覚めた、らしい。
考えを固めていく途中、いつの間にか睡眠していたようだ。

「すみません、寝不足なもので」
「昨日の復習か?」
「はい」

 嘘は言っていない。寝不足だったのも、復習に没頭していたのも本当の事だ。

「なら言えるな? 昨日の最重要項目は?」
「人工の時間の穴の完成には、オリジナルの時間の穴の解明が必須だという事です」
「次は?」
「そのプロセスは、オリジナルの時間の穴に実験機材を投入し、
 様々なデータを過去から持ち帰る、というものです。
 投入後、機材が過去のデータを保存し、
 プログラムされた指定の位置で1000年近く待機して……
 しかし、私達にとっての時間はすぐですが、投入と同時に現れます。
 とにかく、その場所を調べることによって過去のデータを得る事が出来ます」

139 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 11:23:23 ID:nQ3BkUwK0
 教授は私の発言を聞き、ふむと呟いてこう続けた。

「肝心な『人工の時間の穴の完成に必要な事』を言ってないぞ」

 そうだ。そこが重要で、先刻述べた事はそれを語る上で重要となる。

「過去のデータを集めない事には、過去を知ることができません。
 ひいては、時間の穴がどういった原理で対象物に
 過去を遡らせるように作用するのかが解明できないということです。
 何度も実験機材を過去に送り、送られる間に何が起きたのかを
 知る事が出来なければ人工の時間の穴を作ること自体が不可能です」

 私は一気に教授に言った。そういうことなのだ。
今のところ、時間の穴を通る間に何が起きているかを
モニターする以外に、人工の時間の穴を完成させる方法はない。
もっとも、モニターしたものを解析して作成に取り掛かる方が
はるかに難しい、という事らしいのだが……

「よくできたな。
 補足情報として、WOS本部にある時間学研究センターには
 一時間前の過去に遡れるという人工の時間の穴がある。皆、覚えておけよ!」

 この教授は本当にうるさい。ここまで熱血という言葉が似合う人間に出会った事はないと思う。
それに、熱血教師なんていうのは中等学校か高等学校にのみいるものだと思っていた。
大学にこんな人間は、言葉は悪いが、要らないのではないか。

 ふと、こんな光景が浮かんだ。
彼らが一生懸命に生徒たちに授業するが、生徒たちはそんなのに構わず、
友人たちと他愛のない世間話に花を咲かせる……そんな光景だった。
 しかし、ここで展開されている現実は少し違う。
あの教授は熱心にレーザーポインターを操作し、喋り、机を叩いて注意を向ける。
そんな講義を途中から抜け出していたのは、私以外に誰もいなかった。

140 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 11:29:54 ID:nQ3BkUwK0
 その日に受けるべき講義をすべて終わらせると、もう日が暮れかかっていた。
この時間であれば「彼」はあのゲーセンにいるはずだ。勘がそう告げている。

 ここでいきなり出てきた「彼」だが、私の友人の一人である。
先に噂を提供したくれた友人とは違う人物である。
 彼は機械を作る仕事を目指し、機械工学部に入学した。
技術はまだ未熟ながらも知識は相当持ち合わせていると自称する、
落ち着いて自分を見つめる事が出来る冷静な人間だ。



 彼がホームとしているゲーセンは
私の住む家から歩いて20分くらいの所にある。
大学からだと1時間はかかるので市電に乗る事にした。
 この時、17:52を私のMPDは指していた。
18時を少し過ぎたあたりで、私は目的地に着く事になる。
この間に私は脳内シュミレーションを繰り返していた。
彼にどのように相談を持ちかけようか、というものだ。

 だが、いくらシミュレーションを重ねて最良の行動を見つけ出しても
現実において上手くいくとは限らない。
限りなく客観的にシミュレートできるコンピュータに比べると、
僅かながら主観的にシミュレートしてしまう私の脳は、遥かに劣っている。

 私と彼のドラムマニア(以下dm)における腕前にも同じ事が言える。
彼はリズム、というものがとにかく好きだった。
恐らく、彼にとっての幸せとはそれを刻む事かもしれない。
難易度レベルは70代以上のもの以外をプレーする姿はあまり見た事がない。
二回ほど彼にとっては簡単で、私にとっては難しそうな曲をプレーしていたのを見たことがある。
彼曰く、「この曲が好きだからさ。たまにはまったり行こうと思ってね、それだけ」らしい。

 話はずれるが、彼がこんなようなことを言っていたのを、移動中に思い出した。

「俺たちは音楽が好きだ。嫌いだって奴もいるだろうけど。
 でも、音楽を構成するもの全て否定できるはずがない。
 俺たちの周りは常に音楽に満ちている。それら全てが嫌いならば、今頃そいつらは発狂しているはずだ。
 しかし現実には、音楽で発狂した奴なんていない。楽しすぎて狂ってしまった奴はいるかもしれないけど。
 そういうことだから、音楽を構成する要素の全ては否定できないんだ。
 リズム、メロディ、和声……色んなもので構成された音楽を、全て否定することなんて無理だ」

141 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 11:39:26 ID:nQ3BkUwK0
 私は彼がいるであろうゲーセンの前に立った。
何故か胸の動悸がおさまらない。誰かに好意を告白するわけでもないのに。
夕陽を背に、私はゲーセンに一歩踏み出した。


 いつもの場所――dm筐体前のベンチ――に彼はいた。
他にも数人の男女が座っていて、その位置関係から彼は最後尾にいるようだった。

「ルーク、調子はどうだ?」

 こんな風に私は声をかけた。

「あぁ……まだやってないんだ。今来たばかりで」

 ルークはそう返し、隣に座る外見は中学生くらいの少年に何か尋ねられた。

「オルトンさん、あの人は?」
「俺の友達さ。名前は――」 

「言うな!!」

 思わず私は叫んでしまった。同時に「しまった」と後悔の念がこみ上げてくる。
色んな音が混ざり合って一種のBGMを作り上げ、それで全体を満たす
ゲーセンの中とはいえ、私の上げた叫びはあまりにも大きすぎた。声が、響いた。
ルークに問いかけをした少年の瞳が震えていた。
怯えているのか、それとも違う感情が揺らしているのか、分からなかった。

「って言うとな、こうなんだよ。
 だから姓だけ教えよう。それなら文句ないだろ、クロイス」

 ルークが私の姓を口にした。
彼の言うとおり、私が気にしているのは名であって姓ではない。
私は少年の方に向き直り、謝罪の意味で頭を下げた。

「……すまない、自分の名前が嫌で嫌でたまらないのでな、怒鳴ってしまった」
「いいですよ、そんなこと。
 そうだ。クロイスさんも遊びに来たんでしょ? 一緒にセッションしません?」

142 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 11:54:02 ID:nQ3BkUwK0
「あぁ、よろしく」 

 その誘いに私は乗った。
たまにはいつも頭を満たしている疑念を払い、遊んでみるのもいいかもしれない。
そうする事で、ルークにあの話を切り出しやすくなるだろう。そう思った。


 ルークはdmを、私と少年はGFをそれぞれ1P側と2P側でプレーする事になった。
私はMPDを読み取り装置に認証して(※6)自分のデータを画面に表示させる。
隣に立つ少年も、私と同じようにMPDをかざした。
直後、右側の画面に少年のデータが表示される。

「『ジャック』って名前なのか?」
「いいえ、本名じゃないんです」

 少年のゲーム中の名前はジャックといった。
本名の方は教えてもらえなかったが、私も名を教えていないのでおあいこだ。
 ルークが選曲権をジャックに委ねる。
その後、ジャックが私のスキルポイントを見つつ
易しめの曲にカーソルを動かしていたのは覚えているが、
これは本筋とは関係のない事であるし、何より記憶が曖昧なので正確な描写が出来ない。よって割愛する。


(※6…1000年前は「イーアミューズメントパス」なるカードを使って
 ゲームデータの保存、読み出しを行っていた事が資料により判明した。
 もっとも、厳密に言えばそうではないらしいのだが、残念ながら私にはよく分からない。
 現代ではそのカードの代わりに、MPDを用いてのゲームデータのやり取りを行っている)

143 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 12:17:45 ID:nQ3BkUwK0
 それから数時間が過ぎた。
久しぶりに音楽ゲームに触れ、かなり舞い上がっていたのだろう。
ルークに、楽しすぎて狂ったようにニヤニヤしていると指摘されてしまった。

 そんな事は置いておこう。
少年も帰り、周りには私とルークと他数名の客しかいない。
ルークが用を足しに行く、と言って席を立った。私もそれに続く。
 それからしばらく歩いた。このゲーセンは広すぎるのだ。
トイレに入るまであと数歩、といった距離の所で私はルークの肩をつかんだ。

「なんだよ、どうした?」
「ちょっと話したい事がある。もう少し我慢できるか?」
「別に凄く漏れそうってわけでもないし。話したい事って何だ?」

 私はここで数秒の間をおいた。
この間に話したい事をまとめなければ、説明が出来なくなりそうだったからだ。
シミュレーションを振り返るのも良かったが、それは駄目だと直感した。

「こんな噂を知ってるか? カーニバルの海底には何かが埋まっているってやつだ」
「聞いたことあるな、それ」
「この海底に埋まっている何かをだな、調査する機械は作れるか?」

 ルークの目が点になった。
それは私の気のせいだと錯覚させられるほど、一瞬の間の出来事であったが。

「……個人レベルでは限界があるけど。
 限界はあるけど、とりあえず海底を自走できる機械なら作れそうだ。
 それにカメラを積めばどうにでもなるはずだとは思う」
「分かった。じゃあ頼まれてくれないか」

 今度は錯覚なんかではなく、確かにルークの目が点になっていた。
私の言っている事は、彼にとっては荒唐無稽であるに違いない。
そんな噂を鵜呑みにするような人間なのだと、もしかしたら蔑まれているのかもしれなかった。

144 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/08(月) 12:26:33 ID:nQ3BkUwK0
 そんな私の恐れは全くと言っていいほど無駄であるようだった。

「クロイス、お前、そんな事が言えるような面白い人間だとは思わなかった」

 笑いながらルークは言った。
心底から面白いと思っているのが目に見える、そんな明るい表情で笑っていた。

「面白い……だって?」
「だってよ、お前よ、いっつも『私は~』なんて
 レポートの一人称みたいな口調で話していてだ。
 そんな人間が面白そうだなんて思えるか?思えたら変態だと思うぜ」
「それは褒め言葉……として受け止めていいのか?」
「当たり前だろ? とりあえず一週間経ったらお前の家に行くからな。
 例の機械の試作品でも土産にしてさ。そんじゃ、楽しみに待ってろよ!」

 ルークはそう言ってベンチから立ち上がり、出口の方へ歩を進めた。
私もすぐに立ち上がり、去りゆく彼の背中に声をかけた。

「待ってくれ!」
「ん?」
「……ありがとう。
 それと……どうしてこんな噂のために協力しようと?」

 例の言葉以外は、私が意識していったようには思えない。
それほどまでにスムーズに言葉が流れていった。あの時の唇の滑らかさはまだ覚えている。

「簡単な事さ」

 ルークは少し時間を開けてから答えた。

「海底に埋まってる何かってのが財宝とかだったらさ、いいだろ?夢があって」

 そうだな、と私は返して右手を挙げ、左右に振る。
ルークも右手を挙げて左右に振った。
その後ろ姿は、彼がゲーセンから出てすぐ、夜の闇に消えていった。


「あ、トイレはどうしたんだ……?」

 どうでもいい事だが、なぜかそれが気になって仕方がなくて、GFをもう一度プレーした。
なぜそうしたかは聞かないでほしい。疑問に思ったところで、答えられるはずがないから。

157 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 00:22:11 ID:ajwBFFKs0
 ルークを仲間にし、一週間後に再会する約束をした。
その一週間という時間の間、私は色々な噂を収集し、それを出来る範囲で検証していった。
そういうのはアヤノの仕事なのだろうが、
彼女がどのようにして調査を進めているのかは知らない。
もしかしすると、こういった事はやっていないのでは……
そう決めつけた節もあったと思うが、私もやれる事はやっておきたかったのだ。

 そのやれる事をしている最中、アヤノから電話が入った。
丁度、その時PCの前で作業をしている途中だったと思う。
噂の整理とか、そんなようなものだったはずだが、作業の手を止め、腕をMPDに伸ばす。

「もしもし、先輩?」
「どうした?」
「レイヴン大陸のホテルを予約します。三日後に宿泊できるように」
「何?」
「もしかするとWOSが先輩の家をマークしているかもしれません」
「それは……足跡をつけてはいないとはいえ、あり得るかもしれないな」
「でしょ? だから、第五地区の『ジュデッカ』というですね、
 小さなホテルなんですけど。そこに予約を取るんですよ」

 なかなかいい案だと思った。場所を移動すれば何者かの監視から脱する事が出来る。
勿論あくまでその何者かという仮想敵を想定した場合の話だ。
しかしその仮想敵を想定するか否かによって、私達の命が消えるかどうかが左右されるかもしれなかった。
 ここで私はある事を思い出した。
ルークとの再会の日は、あと三日なのである。
彼も一緒に同行させる事を思いつき、私はアヤノに提言する事にした。

「ルークって覚えているか?」
「はい、あの……dmがメチャクチャ上手な先輩の友達ですよね」
「そうだ。彼も一緒に同行させてほしい。
 詳しい事情は伏せている。だから多分大丈夫だ」

 言っていて、何が大丈夫なのだろうと思った。
ルークが私の意志を知っていようが知らないでいようが、
私は彼を危険にさらそうとしている。無性に虚脱感というか、罪悪感というか。
それが私の身体を急速に重くしているように感じた。

158 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 00:30:38 ID:ajwBFFKs0
 そんな私の心を無視して、というよりは知る由もないのだが、
とにかくアヤノは色々な手配は自分がする、と言った。
私はその言葉に甘え、彼女に全てを託した。
そして、私に残された仕事はルークにこれを伝える事だけだった。

「は? いや、別にいいけど、どうしたんだよ」
「ちょっとした事情だ。それに、向こうで集まった方がいいと思った。
 お前の作ってくれている機械を早くテストしてみたくてな」
「別にかまわないさ。分かった、レイヴンのジュデッカだって?」
「全ての手配はある人に任せた。お前はお前のなすべき事をするだけだ」

 ここでアヤノの名前を口にしたら
ルークはきっとこの話に裏があるに違いないと気づくだろう。
彼は彼女が探偵だという事を知っている。二人の仲は良いのだが……
 しかし、それでは駄目だ。
 今はまだ言えないとして、いつかは話さなくてはならないだろう。
その時に彼が私の仲間であると言ってくれるだろうか。
そう考えると体の芯が冷える。私は酷く臆病な人間なのだな、と自覚した。

「そっか。それじゃ、後で連絡待ってるからな。またな!」

 ルークはそう言って電話を切った。
私はMPDをPCデスクの上に置き、噂の解析を続けた。
 これしか私に出来る事はない。
それが思い込みや勘違いだとしても、そう思わないとやっていられなかったのだ。

159 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 00:36:56 ID:ajwBFFKs0
 3000年 1月 16日

 この日、私はルークと共にレイヴン大陸へ渡った。
アヤノは現地の空港で待っていると連絡してきたので、
待ち合わせ場所を簡単に決めておいた。
巨大掲示板の前、のような気がするがどうでもいい。

 ルークは飛行機の何に魅力を覚えるかというと
雲の上の高度に達した時に窓から見る空の景色だと語った。
 あの日は、ファルコン大陸全域が大雨だった。
この飛行機だって飛ぶかどうか分からないというほどの程度のものである。
そんな天気でさえ、雲の上を飛べば全く関係がない。
光輝く太陽が雲の白い色を映えさせている。
少し目を細めなければ直視は難しかった。それほどまでに輝いていた。

 この時まで私はルークの言う魅力には触れないでいた。
触れないでいたというか、興味がなかったというか。
大体、外の景色なんて周囲の安全状況を確認するためのものであったし、
そんなものに芸術性なんてものを要求した事がない。

 しかし私は知ってしまった。
この天上の景色を。この素晴らしいまでに輝かしく、美しい世界を。
それを見るときの高揚した感情は、音ゲーをプレーする時とそっくりだ。
 あの時から、私は飛行機に乗る時は、なるべく窓側の席を取るようにしている。
こんな世界を見ないでいるのは、ちょっとした罪になりそうで。
しかし、それに背いても罪にはならないだろう。
あの美しい世界は、地上だろうと上空だろうと関係なく広がっているからだ。


 この時代、この美しい世界を全て支配しているのはWOSだ。
あの組織が全てを掌握している。どんな秘密も、何であっても、闇に包みこんでしまう。
その闇に、カーニバル事件とユールという少女は飲まれてしまった。
 私はアヤノに知りたい理由を話した。
あの時は単に「不安だから知りたい」というように言った。
しかしこの時、その理由は改められた。

「ユールをWOSの闇から救い出す。
 彼女が既に死んでいようとも、必ずこの美しい世界に連れ戻したい」

160 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 00:40:18 ID:ajwBFFKs0
 飛行機が着陸したのは17:23頃だったように思う。
もう時間の記憶なんてものは曖昧で、メモも取っていない。
だから確認のしようがないのだが、とにかく日が暮れていた事は覚えている。

 待ち合わせ場所だった巨大掲示板は屋外にあった。
この掲示板は宣伝を目的としたもので、色々なコピーが書かれている。
 多すぎる人の頭と立ち位置の関係による逆光でよく見えなかったが、
確かにその近くにはアヤノがいた。
印象的だったのが、彼女の頭の上に「散髪 ナカノ」という広告があった事だ。
まったく、どうでもいいことしか書いていない。

 それはそれとして、私とアヤノとルークは近くの公園のベンチに腰掛けた。
駅前では人が多い。話す事は出来ないし、それに危険だった。命が。

「お久しぶりです、ルークさん」
「おっ、アヤノちゃんか。元気だったか?」

 私を間に挟んで二人が楽しげに話す。
正直うるさい。が、この二人は前に探偵と依頼人の関係であったと聞く。
仲が良くなり始めたのは、恐らくその頃からだろう。

「はい。ルークさんも元気そうで」
「へへっ、俺は病気をしないんだ、馬鹿だからな。
 おいクロイス、お前も話す事あんだろ? 言えよ」

 私が飛行機の中で噂をまとめた資料を保存していた
ファイルを読んでいたのを見ていたからか、ルークは私に気を使ってくれた。

161 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 00:47:33 ID:ajwBFFKs0
 私は旅行バッグの中から一冊のファイルを取り出す。
無言で左に座るアヤノに渡し、反応をうかがった。
 アヤノは真剣な眼差しで資料を読む。
全部で10ページにも満たないものであったが、どうなのだろうか。

「これ、先輩が全部?」
「そうだ。MPDにデジタルデータを押しこむ事も出来たが
 そうすると検閲が怖くてな。だからこうした」

 そうですね、賢明です。そんな風に返事をしてアヤノは黙読を続ける。

「……先輩、私より仕事をしないで下さいよ」

 不意に、アヤノはぼそっとそう言った。
この頃になると、流石にルークも何かこの雰囲気を感じ取ったのだろうか、

「おいおい、一体何の話をしているんだよ?」

 寂しそうな声で話しかけてきた。
私は振り向いて人差し指を静かに口元に持っていく。
ルークは納得がいかない顔をしていたが、うなずいてくれた。
 それから数分が経ち、アヤノは私にファイルを返した。
その顔には笑みがあふれていた。嬉しいな、と顔が言っているような気がした。

「続きはホテルで話し合いましょう。ルークさんも一緒に行きますよね?」
「え? あぁ、そうだね。
 ……ホラ行くぞクロイス、ちゃんと立てよ」

 猫背でもなければエビのように反ってもいない。
直立という言葉が似合うほど私は直立している。

「分かってる。行こう、ジュデッカへ」

162 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 00:55:28 ID:ajwBFFKs0
 アヤノの手配により、私達は三つの部屋を割り当てられた。
私は310号室であったが、二人の部屋の番号は知らない。
ホテル「ジュデッカ」の朝食付きコース。
安い料金ではあったとは思うが、全てアヤノが負担していたので心配になった。

 作戦会議と称してアヤノは私の部屋にやってきた。彼女の後ろにはルークもいた。
とりあえず私は、アヤノに今考えていた事を話す。

「アヤノ、私の分は私が払う。そんなに無理をするな」
「報酬のためですよ」

 報酬……そうだ、私はまだアヤノにどう報酬を渡せばよいか、聞いていない。

「後々、ゆっくり払っていこう……駄目か?」

 私の口元は引き攣っていた。不自然な笑みを浮かべてしまう。
口の端から変な笑いのようなものが漏れる。やめろ、私はこんな人間ではない……

「その話は後で頼みます。
 それよりかはこっちの方が重要なので。ルークさん、命、惜しいですか?」

 アヤノはそう言った。
いきなり言葉の矛先を向けられたルークは、その内容を受けて呆けたように見えた。

「……え? 命って、どういうこと?」
「すみません、死にたくなかったらいますぐ帰ってください。
 命を落とす可能性は限りなく低いですが、絶対ではないんです」
「何を言っているのかが全然分からねぇ。
 ……おいクロイス、一体どういう事なんだ?」

 動揺を隠せないルーク。
ここで本当の事を話しておいた方がいいだろうと考え、私はゆっくり口を開いた。

163 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 01:01:41 ID:ajwBFFKs0
「去年、カーニバル事件が起きたことは……」
「知ってる、知ってるさそんなこと」
「その後、ユールと名付けられた身元不明の少女の葬式が挙げられた」
「で、それが何だって言うんだ」
「お前も知ってると思うが、私には絶対の『勘』がある。
 それが教えてくれたんだ。ユールは死んでなんかいないと」

 ルークは何も言わなかった。
前に彼が宝くじを買うから適当に数字を言ってくれよ、と私に頼んだ事がある。
そのくじは3等でそこそこの額で当選した。
それ以来、彼は私の勘は信頼できる情報を発信すると知っている。

「まさか。いくらクロイスの勘が凄いったってさ、無理があるだろ」
「ルークさん、ところがそうでもないんですよ」

 アヤノが会話に割り込んできた。
ここで報告も兼ねた発言でもするのだろう。

「WOSに関する噂の一つなんですけど、
 自分の子供をWOSが行う人体実験に提供してお金を得るっていう噂があるんです。知ってます?」
「……聞いた事はあるけど、それが本当に行われている訳がないじゃないか」
「他の噂は全部元がとれません。しかしこの噂だけは
 あながち間違いではないようなんです」
「証拠は?」
「まだ手に入れていません」
「証拠もないのに、アヤノちゃんは……」

 でもね、とアヤノは言った。

「ルークさん、前に私に仕事を依頼した時、そのお金の出所を覚えていますか?」
「……クロイスに、3等の宝くじを当ててもらった」
「そうです、それなんですよ。
 先輩が本気を出せば、1等のくじを当てられたかもしれませんよ?
 どうですか? この噂はもしかしたら本当かもですよね?」

 アヤノが私に言う。勘で考え、とりあえずうなずく。

「ほーら、先輩はこうだって言っていますよ。
 あたしもこの噂に関しては、探偵の勘が働いていますから……」

164 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/20(土) 01:06:57 ID:ajwBFFKs0
 ルークは黙り込んでいた。
手が震えている。頬の筋肉が震えている。全身が震えている。何故だ?

「そりゃあお前よ、あり得ねぇだろ」
「だから、何が?」
「お前はおかしい。お前の依頼を受けて仕事をしたアヤノちゃんもおかしい」
「だから何がって言ってるだろ。一体何が……」
「こんなのは目ぇ瞑ってりゃいいんだよ!
 こんな話に首を突っ込んでんじゃねぇよ、死ぬぞ!?」

 ルークは吠えた。その表情は私が今までに見た事のないものだ。
怒り、驚き、不安、どんな感情も、それを形容するにふさわしくないように思えた。

「だったら、ユールがどうなったのかは知りたくないのか」
「知りたかねぇな。あの子がどうして死んだかなんてな、
 自分の命と相談して決めてみろ。どうでもいいって答えが返る」
「知りたい、そしてユールをこの世界に連れ戻したい。
 そんな答えが出た私は、異常だとでも言うのか?」

 何となく、この時になってある考えが浮かんだ。
ここでまともな事を言っているのは誰なのだろう。
一人の少女とそれに関連する物事を考える私がまともなのか
自分の命が大事な友人がまともなのか、分からない。

「あぁ異常だよ異常! はっきり言って病気みてぇだぜ!」
「ちょっとルークさん、何を言って――」
「うるさい! もう俺は明日になったら帰る。お前らの事なんか知らねぇぞ!」

 彼はそう吐き捨て、勢いよくこの部屋から出ていった。
 この時私はやっと理解する事が出来た。
こんな状況において、世間一般で正解とする態度はどちらなのか、ようやく分かったのだ。

 彼は正常な存在だ。普通とされる側なのだ。何の危険もない一般市民だ。

 一方では。

 私は異常な存在だ。異端とされる側なのだ。異端因子と呼ばれる、危険人物なのだと。





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