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carnival (re-construction ver) Last Phase -day break- St.3

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177 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/27(土) 00:16:54 ID:i8crHEOl0
 夜が明けた。
緊張していたからか、私は五時頃に目を覚ましていた。
とりあえず着替え、窓のカーテンをさっと開ける。
 窓から見る景色は美しかった。
ゆっくり昇る太陽が、その光が建造物と光と影のコントラストを生む。
それがたまらなく美しかった。この世界は美しいと改めて感じて、なぜか涙した。

 それからしばらくして、アヤノが部屋の戸をノックした。
朝食のサービスを受ける事になっていたので、
私は二人で一階にあるレストランに足を運んだ。
 ルークにも声をかけようとしたが、一体どの部屋番号なのか分からない。
アヤノにそれを教えてもらい、二度声をかけるが、彼は返事を返さなかった。

 食事を終えて、私はアヤノから離れてフロントへと向かった。
ルークがこのホテルにいるかどうかの確認である。
ホテルマンは端末を操作して確認し、ルークがここにいない事を教えてくれた。

 10:00がチェックアウトの時間だった。
時間ぎりぎりまでにアヤノは一体何をしていたのだろう。
彼女のために時間が無為に流れていく。
 慌ただしく姿を現したアヤノと合流し、ホテルの玄関を出る。

「あ、そういえば先輩、ルークさんから例の機械をもらってない……」

 ホテルを出てから数歩、アヤノが小さく言った。
私がそれに気がついたのは彼女の発言があってこそだが、
探偵が今になって気付いてよいのだろうか?

「仕方がない、と言いたいところだが……
 帰りの飛行機はいつ出発するんだ?」
「昼の三時です」
「それだったら、一時まで遊べそうだ。
 折角だからカーニバルに遊びに行かないか?」
「いいですね、それ。いいですよ。行きましょう!」

 ルークの機械の件はどうでも良くなったのだろうか。
そんな風に思ってしまうほど、アヤノは嬉しそうに言った。

178 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/27(土) 00:23:35 ID:i8crHEOl0
 それからしばらく駅を目指して歩いていた。
道中ではアヤノと他愛のない話をしながら笑っていた、そんな時だった。

「おい、ちょっと待てよ!」

 後ろから誰かに呼び止められたのだ。
水を差されたような気分になり、顔色を険しくして振り返る。
そこには旅行バッグを持ったルークがいた。

「ルーク……」
「勘違いするなよな! これだからな!」

 そう言いながら彼はバッグの中から黄色い包みを取り出した。

「これの使い方を教えるだけだからな! 別にクロイスのやろうとしている事に
 賛同してじゃあ俺もやるって話じゃねぇからな!」
「わかった、ありがとう。それだけで十分だ。
 という訳でアヤノ、予定を元に戻そう。お前が私達を引っ張って行ってくれ」

 分かりました、と胸を張ってアヤノは答えた。
これで謎の真相に少しでも迫る事が出来る。
たったの一歩になるのだろうが、大きな一歩になるに違いない。

179 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/27(土) 00:35:07 ID:i8crHEOl0
 それから駅に行って第十地区まで行き、カーニバル立体駐車場にはバスに乗って行った。
道中の事は全くと言っていいほど記憶がないし、それに重要な事でもないので割愛する。

 立体駐車場前のバス停に降り立った私達は
カーニバルの中に行くわけではないので受付には行かなかった。
あまり人気のなさそうな場所を選び、そこで調査の準備をする。

「いいか、これはIIDXの専用コントローラを改造したものだ」

 ルークは例の黄色い包みから、見れば分かると返したくなるような物を見せた。
一見すると、ごく普通に見えるコントローラだが、アンテナが一本つけられていたように思う。

「クロイス、お前はIIDXをやった事はあるか?」
「下手の横好きってレベルだな」
「SPはどっち側でプレーしているんだ?」
「1P側だ。右利きだからな」
「分かった。これから簡単に説明をする。
 スクラッチを回してカメラの向きを変える。
 1鍵を押して前進、7鍵を押して後退だ」

 これを頭の中で復唱し、大体のイメージを掴む。

「ルークさん、カメラのズームって出来ますか?」

 アヤノが私の集中を乱す。邪魔をしないでほしい。

「あぁ、2鍵でズームイン、6鍵でズームアウトだ」
「んじゃ先輩、そういう事です。私が指示したらお願いします」

 分かったと言いながら私はアヤノに向き直り、
いつの間にか設置されていた簡易的なモニター設備に驚いてしまった。

180 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/27(土) 00:41:04 ID:i8crHEOl0
 ここで、今更ながらブリーフィングが始まった。
目標を目の前にして、このタイミングでしなければならなかったのは痛かった。

 これから始まる調査作戦は11:25が決行時間である。
 最初に私達はカーニバル受付から北西に300m離れた海辺の近くで作業をする。
近くには砂浜が広がっているが、私達は準備をした所から
もう使われなくなって久しいのであろう、元・海の家らしき建物にいるので安全だと思われた。
 その建物内にて遠隔操作により、ビデオカメラを積んだ
「小型海底走行車」でカーニバル近辺の海底を調査する。
操縦、カメラ操作は私が、カメラから送られる映像を
モニターし、記録するのをアヤノとルークが担当する。
後は映像を解析し、何らかの証拠が出てくればいい。
 十分間撮影して車は帰還、私達もそそくさと帰って家で寝るという寸法だ。

 早速、砂浜に車を置く。一見、スポーツカーをモデルにしたラジコンカーのようだ。
それにしては少し大きい感じがある。赤くペイントされ、黒い線が何本か引いてある。
ダサくはないが格好良くもない。この塗装をルークがやったとするなら
彼にこういった作業のセンスはないと断言できる。

 車の形をした機械を走らせ、海へと突っ込む。
水没しても車は潜って走る。これには純粋に驚いた。
普通、車は海上でも動けるようになっている設計(※7)なのだが、
そこまでは出来ていないようだ。出来ていても困るが。



※7……この時代の車は人工の反重力装置が標準装備で搭載されている。
     フェーズ3でユールとクーリーが乗った
     あの戦闘機のものよりは性能はかなり劣っているが、
     車の運転という使用方法ならば十分である。
     通常時はタイヤを使って走行するが、非常時にはタイヤをパージして
     一定時間だけ浮遊する事が出来る。よってこの時代に水没という事故はない。

181 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/27(土) 00:48:59 ID:i8crHEOl0
 例の機械は私が操縦しているが、実際は機械から送られてくる
映像をモニターする二人の指示に従っているだけだ。

「クロイス、ちょっと右に軽く曲がってくれ」
「違いますよルークさん、このまま直進ですよ」

 どちらの行動を取ればいいのか、誰か教えて欲しい。

「もうじきカーニバル第一ブロックの所に着くぞ」
「あと100mってとこですね。分速100mか……
 もう少しスピード出せなかったんですか?」
「まだあれはテスト段階だし、個人レベルじゃ限界があるし……」
「アレじゃないですか。10th八段並みに酷いじゃないですか」
「そこまで酷くはないだろ? っていうか少しは褒めてくれよアヤノちゃん」

 お前ら、今何をしているのか分かってるんだろうな。
特にルーク……昨日、お前はなんと言った? 



 私が軽くイラつきを覚え始めた頃、アヤノが声を張り上げた。

「ねぇ! あれ、アレ何?」
「……生き物? 魚ではないし、見た感じは陸上の動物っぽいな……」

182 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/27(土) 00:53:01 ID:i8crHEOl0
 その言葉を聞いて、私の勘が働いた。
直ぐに機械を後退する操作をする。それに気づいたルークが言った。

「クロイス、何してんだ?」
「アレは危険だ。ズームするからよく見ておけ」

 言いながら謎の生物の方へカメラを向けてズームイン。
綺麗な海の中で見えるシルエットは、四つの脚を持った動物だった。

「ルークさん、このビデオは録画しているんですか?」
「送られてきている映像は随時そうしているけど、どうした?」
「だってアレ、こっちに向かってきていません?」

 私もモニターを見る。
確かにシルエットはこちらに向かってゆっくり近づいている。
別に私が命を狙われている訳ではないが、言いようのない恐怖が襲ってきた。

「あれ、あれはライオンじゃ?」

 アヤノが変な事を言い出した。
ライオン? 海の中にライオンがいるというのかお前は。
いや……もしかしたらあり得ない事はないのかもしれない。分からない。

「た、鬣が光った!」

 タテガミ? じゃあそれライオンだろう獅子と呼ばれる生物だろうそうだろう。
しかもそれが光っただって? ファンタジーじゃないんだからやめてく――

183 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/02/27(土) 01:03:57 ID:i8crHEOl0
 いきなり操作が出来なくなった。何故かは分からない。
一体何が起きたのか、と聞いてみる。少々パニックになったアヤノが答えた。

「先輩、あのライオンに攻撃されたんです!
 レーザーみたいなものが照射されて、それで!」

 分かったから落ち着け、と返す。
そうなるともう機械は破壊されるしか道がない。
とりあえずここから離れようと思うのだが
ここにいないはずのライオンに射すくめられたような気がして動けない。

「先輩! また鬣が光って……やられました!」
「分かった、とりあえずここは危険かもしれない。
 逃げるぞ! ルーク、急いでここの片づけをしてくれ」
「わーったよ、で、どこに逃げる?」

 テキパキと片づけの手を動かし続けながらルークは言う。
どういう意味だと返すと、こういう意味さと答えを述べた。

「奴はWOSかWSFかは分からないけど
 俺たちを見つけるのは簡単だろうよって話だ。
 どこに隠れたって多分無駄じゃないか? どうなんだよ」
「どうなんだって、お前……無駄でも逃げて、隠れるしかない」

 だからそれだと見つかってお終いだ、とルークが言った。
それはそうだ。しかし諦めるのにはまだ早いだろう……どうしようもないかもしれないが。

「方法ならありますよ」

 混乱で停止しかかった思考が動き始めたような気がした。
この時だけは、アヤノのその一言が神の一言に思えた。何の宗教も信じていないくせに。

「アヤノ、それは一体どういう……」
「カーニバルの中に入ります」
「敵の中に飛び込むだと? それはあれだ、『飛んで火に入る夏の虫』ってやつだ」
「そうです。無謀かもしれないけど、こういう言葉を知ってますか?
『木を隠すなら森の中』です。私達を隠すなら、一体どこの中でしょうか」

 簡単なクイズだ。答えは明確で、外しようがない。
私達は虫でもあり、木でもあるのだ。だからどちらの言葉も当たってしまう。
とにかく、私達は急いでカーニバルへと走った。
どこからか狙われているような気がして、あの時はものすごく恐ろしかった。

201 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 08:00:01 ID:vS7GJjC60
 私達はカーニバル近辺から海底調査に乗り出した。
しかし、調査を行う機械がライオンのような生物(?)により発覚、破壊されてしまう。
身の危険を感じ取った私達は、アヤノの提案により、敢えてカーニバルへと隠れ潜みに行くのであった。



 3000年 1月 17日 11:51

 受付にはほとんど人はいない。
第一ブロックの城壁が未だに修復作業されているのを横目に
急いで受付で入園手続きを済ませる。
嫌々ながらも私はここで姓名を書き、料金を支払う。
受付の女性スタッフが、私の名前を見て苦笑いを浮かべていたのが腹立たしい。

 その後、私達は崩れてはいるが十分に安全である城壁の上で軽く打ち合わせをした。

「アヤノ、復唱するぞ。
 12:30にここに集合し、急いでバスに乗って駅へ行く。
 そして第五地区で潜伏してギリギリのタイミングで空港へ行って飛行機に搭乗する……だな?」
「はい。あたし達はバラバラに散って、捕まる確率を減らします。
 相手はプロですけど、多分大丈夫。こんなに人の多い所では大きな行動はとれません」

 確かにな、と返す。眼下には大勢の人々が楽しそうに過ごしているのが分かる。
12:30という時刻は、丁度パレードがこのブロックに進入する頃なので
今よりも更に人口密度は増大する。そうなれば、多分逃げやすいはずなのだ。

202 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 08:12:23 ID:vS7GJjC60
 アヤノはカーニバルタワーに、ルークは第二ブロックに逃げ込んだ。
私はどこに逃げようかと迷ったのだが、とりあえず第三ブロックへ
行ってみようと考えた。まぁ、勘が示すとおりに動いただけなのだが。

 第三ブロックに行くのにはメトロを使った。
ブロック間を結ぶ橋を使ってもよかったのだが
途中で大きな穴が開いていて使えなかったのだ。

 この時、初めてメトロの窓から綺麗な海底が見えた。
これだけクリアな視界があるのだから、
例のライオンも見えるだろうかと思って目を凝らしたが、何も見えなかった。
まさかあれが幻という訳ではあるまい。
幻影がどうして攻撃を仕掛ける事が出来ようか……

 カーニバルタワーを経由し、第三ブロックへ到着する。
駆け足で地下にあるメトロステーションの階段を駆け上がる。
このブロックの至る所にあるスピーカーから誰かの声が聞こえる。
声というよりは歌であった。歌がスピーカーから響いている。という事は……

「この思い あなたに 届くと信じて……」

 前に、第三ブロックではライブが催されていると書いたと思う。
一回のライブの時間が一時間程度で、それが一日に五回ほどもあるのだ。
 いつもは暴力的な(失礼)ロックサウンドが
響き渡っているライブ会場だが、この時は少し様子が違っていた。
 歌声に吸い寄せられるように、ライブステージである円卓に私の足は動いていた。
基本的なロックバンドの編成――ドラム、ギター、ベース、キーボード等――は変わらないのだが、
ヴォーカルの人が少し変わっていたように思われる。

 腰のあたりまで届いていそうな程に伸びている白にピンクが少し混ざった長髪の少女。
白の厚めのドレスを着て、優しい歌声をリズムとメロディーに乗せていた。

 上手いな……と不覚にも感心してしまっていた。
今はそれどころではないというのに。
早く、急いで何処かに隠れて時間を過ごさないと……

203 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 08:21:17 ID:vS7GJjC60
 どこか安全に時間を過ごせる場所はないものだろうか。
そう思ってあたりをきょろきょろと見渡していく。
くるくる回る景色の中に、一人の男の姿が目に入った。
この冬の季節に似つかわしい恰好、つまりはおしゃれな帽子やマフラー等を
身にまとったその男、外見上は18歳程度に見えるその男がどうも気になって仕方がない。

 白髪の少女の歌が終わると同時に大きな拍手が沸き起こる。
例の気になって仕方ない男も拍手をしている。していないのは私だけだ。

「みなさん、ありがとーっ!
 またこうして歌う時があれば、その時はよろしくねーっ!」

 元気な子なのだな、とどこか感心したように思ってしまう。
彼女の声は快活という言葉がぴたりと当てはまる。
 ライブの客が口笛を吹いたり歓声を挙げたりしている。
彼女はかなりの人気をもつ歌手のようだ。
しかし、歌の方にはあまり興味がない私にとって
彼女が一体どういった人間なのかを知るすべはない。
無事に帰れたら調べてみよう、と思った。

 ライブが終わり、例の男が動きを見せた。
別に誰かをストーキングする趣味は持ち合わせていない。
が、どうしても何かが引っかかる。
何かが一体どういうものかは分からないが、引っかかりを感じたのだ……

204 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 08:33:22 ID:vS7GJjC60
 男は北の方へと歩いていく。
私はMPDをちらっと見た。時間はまだ正午。
15分だけ尾行すれば約束の時間には戻れそうだった。
MPDを動画記録モードに設定、私の向く方向の撮影をさせる。
目立たないような所に持ち歩いて、早速尾行する事にした。

 男は第四ブロックへと足を進めていた。
私は近くの植え込みに隠れながら、男の行く先を見つめている。
時間はまだ12:03である。まだいける。
 ブロック間をつなぐ橋があり、この橋は確かに第四ブロックへと通じている。
あそこはまだ工事中で遊べる所ではないはずなのに、男はそこへ行こうとしていた。

 男が橋を渡り終わったのは12:05頃であった。
私は駆け足で橋を渡り、姿を見失った男を探し続けた。
 この辺りは摩天楼のような造りになっていたのだが
カーニバル事件で大半が壊れて瓦礫の山となってしまっている。
再建工事中で運営していたカーニバルだが、ここはまだ手がつけられていなかったのだ。
建造物の色のほとんどが灰色であったために
本当にここはカーニバルなのだろうか、という疑問が浮かび上がってきた。

「そこの人、止まって」

 背中に何かが当たった。
何が当たったかは分からない。ただ、丸くて冷たいものである事は確かだ。

「動いたら撃ちますよ、ストーカーさん」
「待ってくれ、違う、それは誤解だ……」

 誤解も何もないだろう、と自分に突っ込んでみる。
これまでに私がしてきた行為は、後ろで拳銃か何かで
私の命を脅かしている人物をストーキングしていた以外に何と言えるのだろうか。

205 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 08:47:47 ID:vS7GJjC60
「あなた……彼女の事を探っているのですよね」

 唐突に男はそう言った。
まだ背中には凶器が押し付けられている。
それをつたって、私の一際大きくなった鼓動を感じられてしまうのでは、と恐れた。

「彼女……?」
「とぼけても無駄です。あなたの事は知ってるんです」

 それを聞いた私は思わず舌打ちをしてしまった。
今ここで相手の機嫌を損ねる事があれば、そうでなくても殺されてしまうのだが
その時間を早めることになってしまう。時間があればチャンスは生まれるはず……

「でも、僕はWOSのでもWSFの人間でもありません。
 僕もあなたと同じく、彼女を……ユールの事について知りたいと願っています」
「だったら何故、私に銃を向ける?」
「僕とあなたは同じだからです」
「願っている事が?」
「それとは違う。違うんですよ。僕とあなたは『同じ』なんです」

 言っている意味が分からなかった。
ここで命を失う恐怖よりも、この男の意味不明の言葉の方が恐ろしさの面で勝っていた。

「まだ僕の言っている事は分からないと思います。
 でも、彼女について知る事が出来たら。
 そのゴールのテープを切った時、あなたは自分のアイデンティティを失う」
「……何だって?」
「どうか、それに打ち勝ってください。
 僕も今、戦っているんですが……そうだ、僕の仮の名を教えましょう」
「いらない。お前の名だなんて、それも仮のだと?」
「はい。とりあえず人物標識としての名前です。そうですね……『J』とでも名乗っておきます」
「『ジェイ』だって? ……おい!」

 銃口が押し付けられた圧が消えたのに気がついたのは数秒前だった。
その時間を生んでしまったのは、私の余計な思考のせいである。

 私がユールとカーニバル事件について全て知った時、
その時に私のアイデンティティを、私が私であるということを証明する何かを失う?
つまりそれは、私もあの二つの謎に関わりがある、という事を暗に示していることになってしまう。

 そしてMPDが既に12:15を示していた。
急がないと、約束の時間に間に合わない。

206 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 08:55:47 ID:vS7GJjC60
 二人と落ち合う場所は受付前、時間は12:30であった。
私はどうにか予定通りに時間を守ってそこへ到達した。
 10秒もしない内に二人が物陰からやってきて
数分後に出発するバスに乗ろう、という事になった。

 私達は辺りを警戒しながら先を進んでいった。
立体駐車場を降りながら、車の陰になっている所から
誰かが襲ってくるかもしれないと身構えたりしていた。

 立体駐車場を通過、あとはあまり人気のないバス停に駆け込むだけだった。
そのはずだったのだがここにきて私の勘が働いてしまう。
勘は、ここに留まっておいた方がよい、と私に告げる。

「すまない、私は一本遅れて駅へ行く」
「何言ってんだクロイス、早く帰ろうぜ」
「しかし、勘が……」
「カンでもガンでもいいから、行くぞ!」

 そう言って差しのべられた手は止まった。
どことなくルークの顔が青ざめているように見える。
その後ろではバスが停車して客を乗せる準備をしていた。

「先輩、絶対に帰ってきてくださいね!」
「クロイス、十分だけ待ってやる。必ず顔を見せてくれよ」

 二人はそう言ってそそくさとバスに乗り込んだ。
何か様子がおかしかったように思う。視線が私ではなく、私の後ろに……

「誰だ!?」

 右脚を軸にバックターン、反転して怒鳴る。
私の眼に映るのは、20代前半の外見をしているどちらかというと美しい女性であった。
しかし、その手には何かのグリップが握られていた。
アレが何かは分からない。しかし、それが命を脅かすものだとしたら……

207 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 09:07:13 ID:vS7GJjC60
「どうしてあなたは、彼女の事を知りたがるの?」

 対峙する女性の第一声はそれであった。

「彼女とは……ユールの事か」
「そう、どうして知りたいの?」
「その前に聞かせてくれ。お前はWOSの人間なのか?」
「正しくはWSF。階級は伏せるけど、それがどうしたの?」

 そのあとに返す言葉が浮かばない。
何と言えばいいのだろう、彼女の眼を見ていると、頭が動かなくなるのだ。
しかしそれを無理やりにでも抑え込み、口を開かなくてはならない。

「お前たちが何を隠しているのかは知らない。
 そんな事はどうでもいい。私の目的はそれを知ることじゃない」
「どういう意味?」
「お前たちが死亡を偽装したか、それとも本当に殺したかどうか分からない少女がいる。
 ……お前たちによってユールと名付けられた少女だ。私の目的は彼女を助け出すことだ」
「ちょっと待って、そんな事のために命を捨てようっていうの?」

 馬鹿なんじゃないの、と女性の目が語りかける。
それでも私の目的と意思は生半可なものではないと自負している。それを目で語り返す。

「……とんでもない馬鹿みたいね」
「そうか? そんな自覚はないが」
「自覚のある馬鹿なんて、そんなのは馬鹿って言わない。さて、そんな事より……」
「私を殺すのだろう? ユールの次は、一体どうやって殺すつもりだ?
 ここで気絶させて医務室に連れていき、医療ミスで殺すのか?
 いや、一気にここで殺すってのもありだろうな。人がいないんだから」

 確かに、この時はパレード中で殆どの来園客が外にいなかった。
そんな事を自分で言っているうちに、私は何を言っているんだと笑えてきた。

208 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 09:16:15 ID:vS7GJjC60
「いいえ、殺しはしないわ」

 女性はそう言った。ここで異端因子である私を殺しておけば、
何の心配の無いまま秘密を守れるはず……
そんな試行を巡らせる私だったが、女性はそれを見抜くように言った。

「自分が危険な存在だっていうのに、殺さないってのはおかしいって思ってるんでしょ?」
「……私なぞ、生かしても殺しても同じだと言いたいのか?」
「いいえ違うわ。あなたは異端因子だけど、危険因子ではないもの」

 何と言った? この女性は今、何と言ったんだ?

「ちょっと説明をするわ。聞けば分かると思うからよく聞きなさい。
 危険因子っていうのは、そう識別された人間が危ないってことね。
 まぁ文字通りなんだけども、そういう人間は積極的に排除するわ。
 それで、異端因子っていうのも、危険であることには変わりはないんだけど……」
「なら、どうして私を殺さない?」
「死にたいと言うのなら、そうしてあげてもいいわ。
 でもあなたが死ぬのは早い。説明も終わってないし。
 ……で、異端因子とされた人間の思想は危険であることには変わりないの。
 でも、その思想は単に『危険』とされるだけじゃない。
 もしかしたらそれが『正解』かもしれないとみなされる。だから放置されるの」

 女性の説明を聞いているうち、私の中で何か考えが固まっていく。
その中に大昔の人物の名が浮かんでいく。
人物の唱えた説は異端とされたが、のちに正解とされる……そんな説を唱えた人間は……

「地動説で有名な、ガリレオやコペルニクスのような……」
「そうねぇ、例としてはそんな感じね。
『これは違う、こんなのありえない』って当時は言われたでしょうね。
 でもね、実はこれが正解だった。そうでしょ?」
「そうだ……それがどうしたって?」
「これだけ言っているんだから分かりなさい。
 あなたが私達に楯突くその姿勢は危険極まりない。
 でももしかすると、それは正解なのかもしれない……ということね。
 もっとも、私が、ひいては私達があなたを殺さない理由はそれだけじゃない」

 ここで、私は何かが変だと感じた。
一体何が変だというのかは簡単に説明がつく。私を殺さない理由が複数あるという事だ。
 人が人を殺す時、カッとなって殺してしまった場合を除いて、
それ相応の動機と覚悟を要するものだ。私にはその経験がないので憶測で書いているのだが……
そしてそれは逆の事にも言える。人が殺されない理由、とでも言えばよいだろうか。
私はWOS並びにWSFにとっては危険な存在だ。
だから彼らにしてみれば、私は排除されなければならない存在なのだが、
それが出来ない理由は恐らく相当なものであろう。

209 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 09:29:38 ID:vS7GJjC60
「二つ目は」 女性が口を開いた。

「今はまだあなたを殺す時期じゃないということ」
「何だって?」
「それと三つ目。私達はあなたを殺してはならないという命令を受けた」
「……つまり、それは……」
「WSF、そしてそれを動かすWOSもあなたに手出しできない」

 意味が分からなかった。
私を殺したいはずのWOSとWSFの人間たちが、
それもその中で最も殺したくてうずうずしているはずの偉い立場にある人間が、私を殺すなと命じた?
 まだ一つ目の「異端因子」の理由の方がもっともらしい。弱い理由ではあると思うが。
二つ目の「時期ではない」というのは明らかに変だ。今がその時期ではないか。
しかしそんな事より、もっとおかしいのは三つ目の理由だ。
その理由……「私を殺してはならないという命令」を下したのは
一体どこの馬鹿なのだろうか。私がやろうとしている事を知っていて、何故手を出させない?

「……一つだけ教えて欲しい」
「いいわよ、言って」
「私を殺すなと命じた人間は誰だ?
 頭のねじが数本欠落した、そんなお偉いさんか?」

 それを聞いた女性は、確かにくすっと笑った。

「何がおかしいんだ?」
「いやね、それがね……
 とりあえずあなたのヒントになる事を言っておくわ。
 あなたが助け出すって言った少女は、ユールは今、生きている」
「本当か!?」
「ホントよ。こんなとこで嘘をついても仕方がないでしょ。
 それにあなたになら、私がホントの事を言ってるかどうか分かるはず。
 んで……三つ目の理由の命令を下したのは、ユールなの」

 そんな馬鹿な。ユールが、彼らに命令を下した? どう考えてもありえない。
ユールは生きていて、そして私を消したがってる彼らを彼女が抑え込んでいる?
 どう考えても、やはり理解を超えている。
このわけのわからない事態は、カーニバル事件の真相を知ることでしか理解する事は出来ない。

210 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/03/05(金) 09:41:16 ID:vS7GJjC60
「驚いたって感じね。顔に出てるわよ」

 気づけば、私の口は大きく開いていた。
それは私の意志に反していた。それだけ、衝撃が大きかったということなのか……?

「どうしてそうなったのかは、私が答えを見つけなければならないのか?」
「そうよ。でも、真相を知ると同時に
 あなたはあなたのアイデンティティを失う」

 まただ。あのジェイという少年の言った言葉と同じだ。
その言葉が指す内容――私があの事件と関係があるということ――も同じだ。

「……私が、カーニバル事件を引き起こした?」

 そんな事があるわけない。
そう思いながらも口からはそんな言葉が漏れる。そんな事があるわけないのに。

「そんな事があるわけないじゃない。あなたはあの事件に直接関わってはいない」
「なら、間接的に関わりがあるという事だな? そうだな?」
「……大ヒントになるんだけどね、そうなっちゃわね。
 さてと、話は終わったしバスは来たし。お互い自分の家に帰りましょ」

 後ろから大きなエンジン音が聞こえる。
振り返るとカーニバルのバスが見えた。
アレに乗って駅に行かなくては。だが、その前に。

「その前に、もう一つ聞かせてくれないか?」
「手短にね」
「お前の名前を教えて欲しい。
 私はもう受付に名前を書いた。変わった名前だからすぐに分かるはずだ
 そして私がお前の名前を知る事が出来ないというのはフェアじゃない。違うか?」
「そうねぇ、コードネームで良いなら」
「何でもいいさ、お前を識別できる名前なら」
「そう。私の名前はね、『ルセ』っていうの。覚えといてね」

 ルセと名乗った女性は踵を返し、カーニバルへと帰っていく。
その足を途中でとめて、彼女はこちらを振り返って言った。

「ユールはあなたを殺さないように頼んだ。私達も元からあなたを殺せない。
 でも、あまりやりすぎると、その戒は解かれる。私達は自由になってあなたを殺す」

 ルセははっきりそう言った。そりゃそうだ、お前たちは私を殺したくてうずうずしているのだから。





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