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トップランカー殺人事件 第六話『罠』 -phase6-
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| 167 :トップランカー殺人事件(279) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/02/22(月) 00:59:20 ID:ct4IFmjQ0 |
日曜日の誰もいない捜査一課で一人、乙下は席に座っていた。
腕を組んで、足を組んで、目を閉じて、身じろぎ一つせず座っていた。
腕を組んで、足を組んで、目を閉じて、身じろぎ一つせず座っていた。
乙下は事件のことを振り返っている。
BOLCEのこととか、1046のこととか、杏子のこととか。
シルバーのこととか、そこの店長のこととか。
ABCのこととか、そこの店員のこととか。
何重にも張り巡らされた、複雑なトリックのこととか。
シルバーのこととか、そこの店長のこととか。
ABCのこととか、そこの店員のこととか。
何重にも張り巡らされた、複雑なトリックのこととか。
とりとめのない有形無形のイメージが洪水のように乙下の頭の中を駆け巡る。
だがしかし、それによって何が変わるというわけでもない。
BOLCEが殺された事実も、1046が犯人であったという真実も、
乙下の心にもたげる救いがたく陰鬱な感情も、何一つ変わらずそこにあった。
だがしかし、それによって何が変わるというわけでもない。
BOLCEが殺された事実も、1046が犯人であったという真実も、
乙下の心にもたげる救いがたく陰鬱な感情も、何一つ変わらずそこにあった。
そこで捜査一課のドアが開き、乙下の思考は分断された。
見ると、浮かない顔をした空気が立っている。
見ると、浮かない顔をした空気が立っている。
「どうだ?」
「全然ダメっす」
「全然ダメっす」
空気はお手上げのポーズをとって、かぶりを振った。
「だんまりっすよ、だんまり。
さっきは青筋浮かせてベラベラ喋ってたくせに、
今はスイッチが切れちゃったみたいに、何一つ喋ろうとしません」
「ケガの具合は?」
「鼻中隔骨折。要するに、鼻の骨が粉々に折れちゃったみたいっすね。
まぁとりあえずは耳鼻科の先生に手当てしてもらったから大丈夫だと思いますけど」
「ったく、まずいよなぁ」
さっきは青筋浮かせてベラベラ喋ってたくせに、
今はスイッチが切れちゃったみたいに、何一つ喋ろうとしません」
「ケガの具合は?」
「鼻中隔骨折。要するに、鼻の骨が粉々に折れちゃったみたいっすね。
まぁとりあえずは耳鼻科の先生に手当てしてもらったから大丈夫だと思いますけど」
「ったく、まずいよなぁ」
乙下は腹の底から溜め息をついた。
「気持ちは分かるけど、これじゃ傷害罪の現行犯だよ。
1046と一緒に杏子ちゃんも逮捕しなきゃいけないとこだったよ」
「実際のところ、逮捕しなくて問題ないんすかね?」
「別にいいんじゃねーの。状況が状況だし」
1046と一緒に杏子ちゃんも逮捕しなきゃいけないとこだったよ」
「実際のところ、逮捕しなくて問題ないんすかね?」
「別にいいんじゃねーの。状況が状況だし」
乙下は投げやりに答えてから、立ち上がった。
足が少しふらつく。
足が少しふらつく。
「疲れた。俺はもう帰る。お前も早く帰って休めよ」
「留置所の1046はどうするんすか?」
「ほっとけ。俺達の仕事はここまでだ。
明日になれば正式に1046の身柄を検察に引き渡して、それで終わりだ」
「了解っす。なんだか……終わってみれば、あっけなく終わりましたね」
「留置所の1046はどうするんすか?」
「ほっとけ。俺達の仕事はここまでだ。
明日になれば正式に1046の身柄を検察に引き渡して、それで終わりだ」
「了解っす。なんだか……終わってみれば、あっけなく終わりましたね」
おかしな日本語だが、言いたいことは伝わった。
そして、乙下も同感だった。
実にあっけない終わり方だった。
そして、乙下も同感だった。
実にあっけない終わり方だった。
だが、敢えて乙下は自分に言い聞かせるように
「まぁ事件なんてそんなもんだよ」
と告げ、すれ違いざまに空気の肩を叩き、捜査一課のオフィスを後にした。
| 168 :トップランカー殺人事件(280) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/02/22(月) 01:08:37 ID:ct4IFmjQ0 |
乙下は盛岡警察署を出て、帰路についた。
いつの間にか雨はすっかり上がり、雲間に陽がさしている。
いつの間にか雨はすっかり上がり、雲間に陽がさしている。
しかし、乙下の心の中には相変わらず暗雲が立ちこめていた。
紆余曲折あったが、1046は罪を認めた。
それにより事件は片が付いた。
そのはずなのに、どうも乙下は手放しで気分を晴らすことができずにいた。
小魚の骨がのどにつっかえた時のようで、
痛み自体は大したことないのに、ちょっとした違和感が気になって仕方がない。
水をいくら飲んでも、なかなか流れて去ってくれない。
それと同じで、乙下は胸に引っ掛かるわだかまりのようなものを取り払えずにいた。
紆余曲折あったが、1046は罪を認めた。
それにより事件は片が付いた。
そのはずなのに、どうも乙下は手放しで気分を晴らすことができずにいた。
小魚の骨がのどにつっかえた時のようで、
痛み自体は大したことないのに、ちょっとした違和感が気になって仕方がない。
水をいくら飲んでも、なかなか流れて去ってくれない。
それと同じで、乙下は胸に引っ掛かるわだかまりのようなものを取り払えずにいた。
乙下はアスファルトのあちこちにできた水たまりの間を縫って、ジグサグに歩く。
なかなか前に進まない足取りが、今の気分に重なった。
なかなか前に進まない足取りが、今の気分に重なった。
やがて行きつけのゲームセンターの前に差しかかったが、
寄り道をして遊んでいこうという気持ちには到底なれない。
ここ数日間、捜査のためにいやというほどIIDXのことばかり考えてきた。
例え丸っきり遊び目的だとしても、
半ば食傷気味のIIDXにあらためて接したいとは思わなかったのだ。
寄り道をして遊んでいこうという気持ちには到底なれない。
ここ数日間、捜査のためにいやというほどIIDXのことばかり考えてきた。
例え丸っきり遊び目的だとしても、
半ば食傷気味のIIDXにあらためて接したいとは思わなかったのだ。
そのまま迷わずゲームセンターを通り過ぎようとして、乙下はふと思い出す。
「今日の貴方のラッキーアイテムは『ルーレット』です」
今朝、いつものように乙下は杏子に占ってもらった。
その時の言葉を、今ふと思い出したのだ。
その時の言葉を、今ふと思い出したのだ。
ラッキーアイテムがルーレット?
朝の乙下は内心で吹き出した。
カジノに行く習慣などないし、普通に生活していて
ルーレットに触れる機会なんてあるわけないじゃないか。
そう思った。
朝の乙下は内心で吹き出した。
カジノに行く習慣などないし、普通に生活していて
ルーレットに触れる機会なんてあるわけないじゃないか。
そう思った。
だが、今は少し違う。
「ルーレットって、もしかして……」
乙下は踵を返し、ゲームセンターに入った。
| 169 :トップランカー殺人事件(281) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/02/22(月) 01:22:35 ID:ct4IFmjQ0 |
日曜日の日中だったが、幸いにしてIIDXの周辺に人はいなかった。
乙下は百円玉とイーパスを筐体に入れ、STANDARDモードを選ぶ。
続いて、記憶を頼りにLEVEL 5フォルダを開き、目的の曲を探してターンテーブルを回した。
乙下は百円玉とイーパスを筐体に入れ、STANDARDモードを選ぶ。
続いて、記憶を頼りにLEVEL 5フォルダを開き、目的の曲を探してターンテーブルを回した。
その曲はほどなく見つかった。
乙下は躊躇せずに白鍵を押し、曲を決定する。
乙下は躊躇せずに白鍵を押し、曲を決定する。
1ST STAGE
EUROBEAT
Roulette
Y&Co.
なんのことはない。
そのまんま「ルーレット」というタイトルの曲がIIDXにある。
それを思い付いただけの話だった。
そのまんま「ルーレット」というタイトルの曲がIIDXにある。
それを思い付いただけの話だった。
曲が始まり、乙下は華やかで心地良いユーロビートの音色へ身を委ねる。
その一方で、ただゲームを楽しむばかりでなく、
乙下は何か特別なことに気付かないかと、意識を尖らせながらプレイした。
その一方で、ただゲームを楽しむばかりでなく、
乙下は何か特別なことに気付かないかと、意識を尖らせながらプレイした。
乙下は占いなど信じていなかった。
少なくとも、杏子に出会うまでは。
しかし、杏子の占いをきっかけにアイデアが浮かんだり、
道が開けた場面を体験したのも事実だった。
少なくとも、杏子に出会うまでは。
しかし、杏子の占いをきっかけにアイデアが浮かんだり、
道が開けた場面を体験したのも事実だった。
別に期待を寄せていたわけではない。
お遊びでラッキーアイテムに触ってみるのも一興だろう。
そんな気まぐれで、乙下は「ルーレット」を選んだ。
お遊びでラッキーアイテムに触ってみるのも一興だろう。
そんな気まぐれで、乙下は「ルーレット」を選んだ。
だから、別に何事もなく曲が終わっても、期待を裏切られた気分にはならなかった。
「まぁ、こんなもんだよな」
何も起こらなかったものは仕方がない。
乙下は残りの曲を適当に消化して帰ることにした。
乙下は残りの曲を適当に消化して帰ることにした。
さて二曲目に何を選ぼうか。
選曲画面に戻り、ターンテーブルを回しかけたところで、
あるものが乙下の視界に入り、はたと手を止めた。
選曲画面に戻り、ターンテーブルを回しかけたところで、
あるものが乙下の視界に入り、はたと手を止めた。
| 170 :トップランカー殺人事件(282) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/02/22(月) 01:32:40 ID:ct4IFmjQ0 |
「????????????」。
そう表示されているのだ。
そう表示されているのだ。
LEVEL 5フォルダの先頭位置に、他のたくさんの楽曲達に混じって、
いくつもの疑問符が右から左へぐるぐると動いている項目がある。
もちろん「????????????」というタイトルの曲が存在しているわけではない。
いわゆるランダムセレクトだ。
カーソルを合わせると、物凄い勢いで様々な曲名が入れ替わり立ち替わり表示された。
いくつもの疑問符が右から左へぐるぐると動いている項目がある。
もちろん「????????????」というタイトルの曲が存在しているわけではない。
いわゆるランダムセレクトだ。
カーソルを合わせると、物凄い勢いで様々な曲名が入れ替わり立ち替わり表示された。
「まさかこれのこと?」
ある意味でこれもルーレットと呼べるような気はする。
やや強引な解釈なのかも知れないが、他に選びたい曲もないので、乙下はそのまま白鍵盤を押した。
やや強引な解釈なのかも知れないが、他に選びたい曲もないので、乙下はそのまま白鍵盤を押した。
2ND STAGE
HARD ROCK
FAKE TIME
dj REMO-CON
それまでは余興のつもりで、気軽に杏子の占いにつきあっていた乙下だったが、
その曲を見た途端、見てはいけない何かを見てしまったような、奇妙な胸騒ぎを感じた。
その曲を見た途端、見てはいけない何かを見てしまったような、奇妙な胸騒ぎを感じた。
気持ちの整理をつける暇もなく曲が始まった。
次々と降りかかるオブジェを叩きながら、乙下は考える。
次々と降りかかるオブジェを叩きながら、乙下は考える。
フェイク・タイム。
不吉な予感を感じさせる言葉だ。
不吉な予感を感じさせる言葉だ。
これは警告なのだろうか?
何かが『フェイク』であると、乙下に対して警告を発しているのだろうか?
だが、その意味するところははっきりと分からない。
直訳すると「いつわりの時間」といったところなのだろうが、
それは一体いつなのか、どんないつわりなのか。
何かが『フェイク』であると、乙下に対して警告を発しているのだろうか?
だが、その意味するところははっきりと分からない。
直訳すると「いつわりの時間」といったところなのだろうが、
それは一体いつなのか、どんないつわりなのか。
そしてもう一つ気に掛かるのが、『dj REMO-CON』というアーティスト名だった。
遠く離れた場所にいながら、BOLCEを意のままに操った1046。
乙下はその状況を、「まるでリモコンのようだ」と感じていた。
つまり、『dj REMO-CON』とは、まさに1046のことを意味する言葉だと考えられる。
乙下はその状況を、「まるでリモコンのようだ」と感じていた。
つまり、『dj REMO-CON』とは、まさに1046のことを意味する言葉だと考えられる。
なぜその言葉が今ここで出て来るのだろうか。
これは単なる偶然なのだろうか。
これは単なる偶然なのだろうか。
| 171 :トップランカー殺人事件(283) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/02/22(月) 01:50:50 ID:ct4IFmjQ0 |
そうこうしている内に曲は終わった。
HYPERやANOTHERは恐ろしく難しい譜面なのだと以前空気に聞かされたことがあったが、
幸い☆5のNORMAL譜面は乙下にとって難無くクリアできる難易度だ。
特に波乱もなく、最後までゲージを保つことができた。
もしANOTHERを引いていたら間違いなくゲームオーバーだったと思うと怖くなる。
HYPERやANOTHERは恐ろしく難しい譜面なのだと以前空気に聞かされたことがあったが、
幸い☆5のNORMAL譜面は乙下にとって難無くクリアできる難易度だ。
特に波乱もなく、最後までゲージを保つことができた。
もしANOTHERを引いていたら間違いなくゲームオーバーだったと思うと怖くなる。
だが、よく考えればANOTHERを引く可能性などなかったな、と思い直す。
乙下はLEVEL 5フォルダのランダムセレクトを選んだのだから、
☆5の簡単な曲を引いてくるのは当然の結果なのだ。
乙下はLEVEL 5フォルダのランダムセレクトを選んだのだから、
☆5の簡単な曲を引いてくるのは当然の結果なのだ。
「……でも、ちょっと待てよ?」
本当の意味で「占い」をするのであれば、それじゃ駄目なのではないだろうか。
三曲目の選曲画面。
乙下はそこで少し検討した後、意を決してLEVEL 5フォルダを閉じ、
代わりに「ALL DIFFICULTY」フォルダをオープンした。
☆1~☆12の全譜面がズラリと並ぶ。
合計1000譜面以上を擁する、特大ボリュームのフォルダだ。
乙下はそこで少し検討した後、意を決してLEVEL 5フォルダを閉じ、
代わりに「ALL DIFFICULTY」フォルダをオープンした。
☆1~☆12の全譜面がズラリと並ぶ。
合計1000譜面以上を擁する、特大ボリュームのフォルダだ。
もし本当の意味でこの「ルーレット」により運命を占うというのであれば、
このフォルダでランダムセレクトをするのが正しいやり方なのではないだろうか。
根拠はないが、乙下にはそんな風に思えて仕方がなかった。
このフォルダでランダムセレクトをするのが正しいやり方なのではないだろうか。
根拠はないが、乙下にはそんな風に思えて仕方がなかった。
とは言え、SP三段の初級者である乙下にとって、丸腰でこのフォルダに挑むのは少々心許ない。
そこで、気休めではあるが、オプションにEASYとAUTO SCRATCHを付けて三曲目に臨むことにする。
そこで、気休めではあるが、オプションにEASYとAUTO SCRATCHを付けて三曲目に臨むことにする。
乙下は何でも来いとの意志を込めて、叩きつけるように白鍵盤を押した。
FINAL STAGE
DRUM'N'ROCK
罠
good-cool
身震いがした。
それは、乙下にとって手厳しい難易度である☆8のHYPER譜面を引いてしまったから、ではない。
「罠」という、またしても不吉な曲名を見せつけられたからだ。
「罠」という、またしても不吉な曲名を見せつけられたからだ。
罠と言えば、思い当たる節がある。
昨日乙下は、1046を罠にはめると宣言した。
そして今日、実際に1046を罠にはめることで彼を追い詰めていき、結果として逮捕にまで漕ぎ着けることができた。
昨日乙下は、1046を罠にはめると宣言した。
そして今日、実際に1046を罠にはめることで彼を追い詰めていき、結果として逮捕にまで漕ぎ着けることができた。
だが、乙下はここであらためて「罠」という曲を引いた。
一体どんな意味を見出せば良いのだろうか。
一体どんな意味を見出せば良いのだろうか。
それを考え出した時、乙下の思考は恐ろしい想像を生み始めた。
| 172 :トップランカー殺人事件(284) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/02/22(月) 02:02:43 ID:ct4IFmjQ0 |
乙下は1046を罠にはめた。
てっきりそのつもりでいた。
てっきりそのつもりでいた。
けれど、本当にそうだったのだろうか?
例えば、『1046は別の誰かに、別の意味で罠にはめられていた』としたら?
それは『乙下が罠にはめられていた』ことをも意味するのではないか?
それは『乙下が罠にはめられていた』ことをも意味するのではないか?
これまで思いも寄らなかった悪い想像から逃げ惑うように、乙下は必死でオブジェを叩いた。
「罠」のHYPERは鍵盤とスクラッチが複雑に絡む譜面であり、
本来であれば乙下が太刀打ちできないほど難しいものであったが、
EASYとAUTO SCRATCHのオプションが功を奏し、
乙下にもギリギリで見切れて、かつギリギリでゲージを維持できるレベルにまで易しくなっていた。
「罠」のHYPERは鍵盤とスクラッチが複雑に絡む譜面であり、
本来であれば乙下が太刀打ちできないほど難しいものであったが、
EASYとAUTO SCRATCHのオプションが功を奏し、
乙下にもギリギリで見切れて、かつギリギリでゲージを維持できるレベルにまで易しくなっていた。
そしてラストの一小節。
スクラッチを回す必要がないとは言え、
2~3個の同時押しをbpm180の速さで連続的に処理する必要があり、
現段階の乙下にそれをこなす技術はなかった。
スクラッチを回す必要がないとは言え、
2~3個の同時押しをbpm180の速さで連続的に処理する必要があり、
現段階の乙下にそれをこなす技術はなかった。
だが、クリアはできた。
さっぱり見切れていなかったが、
何も押さないよりはマシだとばかりに、乙下はとにかく適当に鍵盤を叩いた。
結果、運良くゲージを80%残すことができたのだ。
何も押さないよりはマシだとばかりに、乙下はとにかく適当に鍵盤を叩いた。
結果、運良くゲージを80%残すことができたのだ。
乙下は肩で息をしながら小さくガッツポーズをした。
FINAL STAGEで☆8の曲をクリアした。
これでEXTRA STAGEを選べる。
占いの続きを見ることができるのだ。
運命の分岐点で、間一髪流れに乗ることができたような気がした。
FINAL STAGEで☆8の曲をクリアした。
これでEXTRA STAGEを選べる。
占いの続きを見ることができるのだ。
運命の分岐点で、間一髪流れに乗ることができたような気がした。
しかし。
「……はは。何やってんだ俺」
乙下は不意に冷めた目で自分自身を見つめた。
俺は何を必死になっているんだろう。
たかが女子高生の占いに意味を見出そうとして、
挙げ句の果てに自分を見失いそうになっただなんて。
冷静に考えれば滑稽極まりない光景だ。
たかが女子高生の占いに意味を見出そうとして、
挙げ句の果てに自分を見失いそうになっただなんて。
冷静に考えれば滑稽極まりない光景だ。
よほど疲れているのだろう。
今日はさっさと帰って休もう。
今日はさっさと帰って休もう。
乙下はほぐすように首を回しながら、気楽に四曲目をランダムセレクトで選んだ。
「――――――――――――え?」
| 173 :トップランカー殺人事件(285) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/02/22(月) 02:08:23 ID:ct4IFmjQ0 |
そこに現れたのは、見慣れた曲のANOTHER譜面だった。
EASYだろうがAUTO SCRATCHだろうが、乙下には逆立ちしてもクリアできないほど難しい曲だ。
だが、そんなことはどうでもよいことだった。
EASYだろうがAUTO SCRATCHだろうが、乙下には逆立ちしてもクリアできないほど難しい曲だ。
だが、そんなことはどうでもよいことだった。
「おい……何だこれ。何なんだよ、これは」
まず最初に"FAKE TIME"を引き、次に"罠"を引き、そして、最後にこの曲を引いた。
その意味するところは。
その意味するところは。
「……ウソだ。あり得ない。そんなこと絶対にあり得ない」
それは、これまで一度たりとも考えたことのない可能性だった。
同時に、考えたくもない可能性だった。
同時に、考えたくもない可能性だった。
そう。
こんなことあり得ない。
あってはならないんだ。
頼むよ。
頼むから、ウソであってくれよ。
こんなことあり得ない。
あってはならないんだ。
頼むよ。
頼むから、ウソであってくれよ。
その祈りとは裏腹に、乙下の頭の中で新しい推理が
これまでと全く違う角度から、急スピードで展開されていく。
胸にこびり付いていた違和感が一つまた一つと吹き飛び、
代わりにどす黒い何かが乙下の内側にむくむくと充満していく。
これまでと全く違う角度から、急スピードで展開されていく。
胸にこびり付いていた違和感が一つまた一つと吹き飛び、
代わりにどす黒い何かが乙下の内側にむくむくと充満していく。
目の前をとてつもない物量のオブジェが通り過ぎる。
だが、乙下はすでに鍵盤から手を離していた。
乙下は頭を抱え、震える奥歯が刻む不規則なリズムを聞いていた。
自分自身の推理が、自分自身の体をずたずたに引き裂いていく。
苦しくて身悶えする。
なのに、どう足掻いても自分自身の意志でその残酷な推理を止めることはできなかった。
だが、乙下はすでに鍵盤から手を離していた。
乙下は頭を抱え、震える奥歯が刻む不規則なリズムを聞いていた。
自分自身の推理が、自分自身の体をずたずたに引き裂いていく。
苦しくて身悶えする。
なのに、どう足掻いても自分自身の意志でその残酷な推理を止めることはできなかった。
数秒の後、50個連続の見逃しPOORにより、IIDXはGAME OVERとなった。
時を同じくして、乙下の思考もGAME OVERを迎えた。
どうあっても信じたくないその推理は、乙下の意に反して、一つの結論を導いた。
それが意味するのは、絶望以外の何物でもなかった。
時を同じくして、乙下の思考もGAME OVERを迎えた。
どうあっても信じたくないその推理は、乙下の意に反して、一つの結論を導いた。
それが意味するのは、絶望以外の何物でもなかった。
乙下は茫然自失としながらゲームセンターを出て、再び盛岡警察署の方向へ歩き出す。
「この事件について俺は……とんでもない勘違いをしていたのかも知れない……」
| 186 :トップランカー殺人事件(286) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/03(水) 23:37:16 ID:B18mejZi0 |
乙下は捜査一課のドアをそっと開けた。
どうやら空気はすでに帰宅をした後のようで、
事務所はしんと静まり返っている。
どうやら空気はすでに帰宅をした後のようで、
事務所はしんと静まり返っている。
テレビの方に向かって首を伸ばし、目を細めると、お目当ての物が見つかった。
「BEMANIトップランカー決定戦2008」のDVDパッケージ。
空気の私物だ。
期待した通り、まだテレビの横へ置かれたままになっていた。
「BEMANIトップランカー決定戦2008」のDVDパッケージ。
空気の私物だ。
期待した通り、まだテレビの横へ置かれたままになっていた。
乙下はテレビの電源を入れ、DVDプレイヤーの再生ボタンを押す。
『ご覧いただけましたか?予選第二位通過、DJ 1046の神業プレイング!
とにかく驚異的としか言えないこのJUST GREAT率。
見て下さい、この☆1から☆11までの全フォルダが
まばゆいフルコンボランプで埋め尽くされている様子は圧巻です!』
とにかく驚異的としか言えないこのJUST GREAT率。
見て下さい、この☆1から☆11までの全フォルダが
まばゆいフルコンボランプで埋め尽くされている様子は圧巻です!』
テンションの高いナレーションが大音量で流れ、慌ててボリュームを下げる。
DVDは昨日停止された場所の続きから再生されているようだ。
捜査一課の室内は薄暗かったが、乙下は電気もつけないまま映像に見入った。
DVDは昨日停止された場所の続きから再生されているようだ。
捜査一課の室内は薄暗かったが、乙下は電気もつけないまま映像に見入った。
| 187 :トップランカー殺人事件(287) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/03(水) 23:44:44 ID:B18mejZi0 |
『それでは、インタビューの方に移って参りたいと思います。
1046さん、よろしくお願いします』
『あ、よろしくお願いします』
1046さん、よろしくお願いします』
『あ、よろしくお願いします』
真っ白の壁をバックに1046が映し出された。
カメラのやや左側に視線を向けて、椅子に座っている。
おそらくカメラの左側にインタビュアーがいるのだろう。
カメラのやや左側に視線を向けて、椅子に座っている。
おそらくカメラの左側にインタビュアーがいるのだろう。
乙下の知っている1046よりも髪が短めで、春物の服装を着ている。
DVDのパッケージを手に取って裏返してみると、
DVDのパッケージを手に取って裏返してみると、
「2008年3月30日に東京都中野サンプラザで行われた
BEMANIトップランカー決定戦2008の一部始終を収録!」
BEMANIトップランカー決定戦2008の一部始終を収録!」
と書かれており、約四ヶ月前に撮影されたものであると推察できた。
『まずは予選通過おめでとうございます』
『どうもです』
『第二位での通過という結果については?』
『最近は若くて勢いのあるプレイヤーが増えてきてますから、
予選突破できただけでも満足ですよ』
『どうもです』
『第二位での通過という結果については?』
『最近は若くて勢いのあるプレイヤーが増えてきてますから、
予選突破できただけでも満足ですよ』
場慣れしているのか、カメラを向けられているにもかかわらず、1046は落ち着き払っていた。
甘いマスクとの相乗効果もあり、テレビの中に存在していることがちっとも不自然に見えない。
芸能人気質とでも言えばいいのか、なかなか大したものだ。
甘いマスクとの相乗効果もあり、テレビの中に存在していることがちっとも不自然に見えない。
芸能人気質とでも言えばいいのか、なかなか大したものだ。
『それでも、第三位を大きく突き放しての通過でした』
『一位の人にはもっと突き放されてますから、全然威張れないです。はは』
『一位のDJ BOLCEとは高校時代からの親友と聞いてます』
『もう嫌になりますよねー。
10年近くも一緒にこのゲームで競ってきましたけど、
一回もまともに勝てた試しないですもん。
BOLCE以外のほとんどの人には勝てるのになぁ。あははは』
『今回の大会、念願の初勝利は狙ってますか?』
『勝てるもんなら勝ちたいですけど、
その一方で誰よりも僕がBOLCEのファンであり、誰よりも僕が彼の優勝を望んでるんです。
矛盾してますか?矛盾してますよね。あはは』
『一位の人にはもっと突き放されてますから、全然威張れないです。はは』
『一位のDJ BOLCEとは高校時代からの親友と聞いてます』
『もう嫌になりますよねー。
10年近くも一緒にこのゲームで競ってきましたけど、
一回もまともに勝てた試しないですもん。
BOLCE以外のほとんどの人には勝てるのになぁ。あははは』
『今回の大会、念願の初勝利は狙ってますか?』
『勝てるもんなら勝ちたいですけど、
その一方で誰よりも僕がBOLCEのファンであり、誰よりも僕が彼の優勝を望んでるんです。
矛盾してますか?矛盾してますよね。あはは』
四ヶ月前の1046は、明るく饒舌に語った。
いちいち小粋なことを言っては笑う彼は、一見するとただの無邪気な男性だ。
BOLCEに勝てないことを全身ですっかり受け入れており、
嫉妬心や劣等感を胸の内に溜め込んでいるようにはとても見えない。
少なくとも、それを理由にBOLCEを殺そうとしていただなんて話は、絵空事としか思えなかった。
いちいち小粋なことを言っては笑う彼は、一見するとただの無邪気な男性だ。
BOLCEに勝てないことを全身ですっかり受け入れており、
嫉妬心や劣等感を胸の内に溜め込んでいるようにはとても見えない。
少なくとも、それを理由にBOLCEを殺そうとしていただなんて話は、絵空事としか思えなかった。
『でも、今日のために相当練習を積んできたんですよね?』
『できる限りの準備はしてきました。上達のための努力は欠かさなかったつもりです』
『それだけ上手くなるために最も必要なものは何だと考えますか?
全国の上達を望むプレイヤー達に教えてあげて下さい』
『……"出会い"ですかね。切磋琢磨できるライバルとの出会いが何よりも大切です。
自分がここまで来れたのも、BOLCEというライバルがいたからですし』
『これからそのBOLCE選手との決勝戦を迎えます。勝算はおありでしょうか?』
『ここは流れ的にあるって言うべきなんでしょうか?
はい、それじゃ、あるってことで。あははは』
『頑張って下さい。以上、1046さんへのインタビューでしたー!』
『できる限りの準備はしてきました。上達のための努力は欠かさなかったつもりです』
『それだけ上手くなるために最も必要なものは何だと考えますか?
全国の上達を望むプレイヤー達に教えてあげて下さい』
『……"出会い"ですかね。切磋琢磨できるライバルとの出会いが何よりも大切です。
自分がここまで来れたのも、BOLCEというライバルがいたからですし』
『これからそのBOLCE選手との決勝戦を迎えます。勝算はおありでしょうか?』
『ここは流れ的にあるって言うべきなんでしょうか?
はい、それじゃ、あるってことで。あははは』
『頑張って下さい。以上、1046さんへのインタビューでしたー!』
| 188 :トップランカー殺人事件(288) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/03(水) 23:56:42 ID:B18mejZi0 |
ここで映像と音楽は一度フェードアウトし、
新たに「予選第一位通過 DJ BOLCE」のテロップが右から左へと流れてきた。
新たに「予選第一位通過 DJ BOLCE」のテロップが右から左へと流れてきた。
『さぁ、続いてはいよいよ生ける伝説の登場!
予選第一位通過、D・J・BOLCEだあああ!!!
もはや説明不要のトップランカー・オブ・トップランカー。
まずはそのスーパープレイ、とくとご覧あれ!』
予選第一位通過、D・J・BOLCEだあああ!!!
もはや説明不要のトップランカー・オブ・トップランカー。
まずはそのスーパープレイ、とくとご覧あれ!』
画面がVTRに切り替わる。
映像は三つに区切られており、
それぞれIIDXのゲーム画面、BOLCEの手の動き、BOLCEの後ろ姿を録画したものだ。
映像は三つに区切られており、
それぞれIIDXのゲーム画面、BOLCEの手の動き、BOLCEの後ろ姿を録画したものだ。
始まったのは、「V」のANOTHER譜面。
カカカ、カカカ、カカカ、カカカ……と、
機械のように正確な打鍵音で、お馴染みのイントロが演奏されていく。
打鍵音は機械のようだというのに、
BOLCEの右手と左手はそれ自体が一つの意志を持った生き物のように
鍵盤とターンテーブルの上を高速で這いずり回っている。
カカカ、カカカ、カカカ、カカカ……と、
機械のように正確な打鍵音で、お馴染みのイントロが演奏されていく。
打鍵音は機械のようだというのに、
BOLCEの右手と左手はそれ自体が一つの意志を持った生き物のように
鍵盤とターンテーブルの上を高速で這いずり回っている。
なんて上手いんだろう、と乙下は思ったが、
BOLCEのプレイを「上手い」の一言で片付けるのは
むしろ失礼に当たるような気がして、別の言葉を探した。
そうして乙下が適切な言葉を探しているその間にも、
BOLCEは合計1519個のコンボをフルに積み上げ、デモプレイの映像は終了してしまった。
なんて上手いんだろう。
BOLCEのプレイを「上手い」の一言で片付けるのは
むしろ失礼に当たるような気がして、別の言葉を探した。
そうして乙下が適切な言葉を探しているその間にも、
BOLCEは合計1519個のコンボをフルに積み上げ、デモプレイの映像は終了してしまった。
なんて上手いんだろう。
『予選第一位通過、DJ BOLCEのプレイでした!
まさに圧巻。まさに圧倒的。
かつてこれほどまでに存在感のあるプレイヤーが存在したでしょうか?
今日この日までに彼が打ち立てた偉業は数知れずですが、
このトップランカー決定戦、果たして今度はどんな伝説を残してくれるのでしょう?
それでは、DJ BOLCEへのインタビューをご覧いただきます!』
まさに圧巻。まさに圧倒的。
かつてこれほどまでに存在感のあるプレイヤーが存在したでしょうか?
今日この日までに彼が打ち立てた偉業は数知れずですが、
このトップランカー決定戦、果たして今度はどんな伝説を残してくれるのでしょう?
それでは、DJ BOLCEへのインタビューをご覧いただきます!』
間もなく、先ほどの1046と同じ椅子に座った青年が、
先ほどの1046と同じアングルで映し出された。
先ほどの1046と同じアングルで映し出された。
『BOLCEさん、よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
正面から姿を映されたその青年は、小柄な体型と前に下ろした髪型が相まって、
少年のあどけなさが残る風貌をしていた。
24歳という年齢を考えると、童顔の部類に入る。
少年のあどけなさが残る風貌をしていた。
24歳という年齢を考えると、童顔の部類に入る。
「これが……生きてた時のBOLCE……」
乙下が生きているBOLCEを見るのは、本当の意味ではこれが初めてだった。
以前空気にこのDVDを半ば無理やり見せられたことはあったが、
その時の乙下はトップランカーに何の興味も抱いていなかったため、
映像の内容をほとんど覚えていなかった。
と言うより、真面目に見ていなかった。
かろうじて決勝戦の「冥」でAAAを叩き出して優勝したBOLCEの輝かしい笑顔と、
ピークに達した会場の熱気が印象に残っていたくらいだ。
その時の乙下はトップランカーに何の興味も抱いていなかったため、
映像の内容をほとんど覚えていなかった。
と言うより、真面目に見ていなかった。
かろうじて決勝戦の「冥」でAAAを叩き出して優勝したBOLCEの輝かしい笑顔と、
ピークに達した会場の熱気が印象に残っていたくらいだ。
だが今は違う。
「そうか、なるほど……。これがBOLCE、か」
BOLCEという人物が動き、喋り、生きているその様子を、乙下は注意深く観察した。
| 189 :トップランカー殺人事件(289) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/04(木) 00:07:17 ID:exwugHEb0 |
『トップでの予選通過、おめでとうございます』
『ありがとうございます』
『ダントツのスコアを稼いでの予選通過となりました。手応えはどうでしたか?』
『手応えはありませんでしたが、歯応えはありました』
『……えーと、あっはっは。それはつまりどういう感じなんですか?』
『こういう舞台はベースとなる自分の実力に加えて、
いかにプレッシャーに左右されずプレイできるかと、
そんな勝負になると思うんです。それが歯応えです』
『なるほど、歯応えですか。さすがBOLCEさん、目の付け所が違いますね』
『ありがとうございます』
『ダントツのスコアを稼いでの予選通過となりました。手応えはどうでしたか?』
『手応えはありませんでしたが、歯応えはありました』
『……えーと、あっはっは。それはつまりどういう感じなんですか?』
『こういう舞台はベースとなる自分の実力に加えて、
いかにプレッシャーに左右されずプレイできるかと、
そんな勝負になると思うんです。それが歯応えです』
『なるほど、歯応えですか。さすがBOLCEさん、目の付け所が違いますね』
ただ者じゃない。
この会話だけで、BOLCEという人物がただ者ではないことが伝わって来た。
この会話だけで、BOLCEという人物がただ者ではないことが伝わって来た。
喋っている内容が個性的なのもあるが、それ以上に雰囲気が堂に入っているのだ。
冗談混じりに軽く話す1046と違い、BOLCEの発言には重みや説得力が感じられた。
カリスマ性というかオーラというか、この小柄な青年のどこからそんな力が溢れてくるのか。
インタビュアーもすっかり及び腰だ。
冗談混じりに軽く話す1046と違い、BOLCEの発言には重みや説得力が感じられた。
カリスマ性というかオーラというか、この小柄な青年のどこからそんな力が溢れてくるのか。
インタビュアーもすっかり及び腰だ。
乙下はふと、BOLCEに心酔する杏子のことを思い出す。
なるほど、これを見た後ならBOLCEを「神様」と仰ぐ杏子の気持ちがちょっとだけ理解できる気がした。
なるほど、これを見た後ならBOLCEを「神様」と仰ぐ杏子の気持ちがちょっとだけ理解できる気がした。
そして、もう一つのことに気付く。
「やっぱりそういうことだったのか……」
乙下は映像を見ながら、「あること」を確信し始めていた。
『これから決勝を迎えますが、自信のほどは?』
『先ほども言いましたように、今回は気持ちの勝負だと考えてます。
けど、僕にとってこれほどの大舞台は初めての経験ですから。どう転ぶかは未知数です。
特に1046は肝が据わった男です。
精神的なバランスを整えて臨まないと、楽には勝たせてくれないでしょう』
『素晴らしい。まるでプロのスポーツ選手のような心構えに感服しました。
それでは最後の質問です!貴方の考える、IIDXの上達に最も必要なものとは?
全国の上達を望むプレイヤー達に教えてあげて下さい』
『……"覚悟"です』
『先ほども言いましたように、今回は気持ちの勝負だと考えてます。
けど、僕にとってこれほどの大舞台は初めての経験ですから。どう転ぶかは未知数です。
特に1046は肝が据わった男です。
精神的なバランスを整えて臨まないと、楽には勝たせてくれないでしょう』
『素晴らしい。まるでプロのスポーツ選手のような心構えに感服しました。
それでは最後の質問です!貴方の考える、IIDXの上達に最も必要なものとは?
全国の上達を望むプレイヤー達に教えてあげて下さい』
『……"覚悟"です』
BOLCEの目つきがさらに鋭くなった。
『覚悟があれば不可能はありません。
僕以上の覚悟でトップを目指すプレイヤーが現われた時こそ、僕の陥落する時です』
『BOLCEさんの立ち位置を脅かす、そんなプレイヤーの出現は、
観戦者である我々にとっても大変エキサイティングなことです。
はい!以上、BOLCEさんへのインタビューでしたー!』
僕以上の覚悟でトップを目指すプレイヤーが現われた時こそ、僕の陥落する時です』
『BOLCEさんの立ち位置を脅かす、そんなプレイヤーの出現は、
観戦者である我々にとっても大変エキサイティングなことです。
はい!以上、BOLCEさんへのインタビューでしたー!』
そこで映像と音楽は再びフェードアウトし、
新たに「beatmaniaIIDX トップランカー決定戦 決勝」のテロップが流れる。
新たに「beatmaniaIIDX トップランカー決定戦 決勝」のテロップが流れる。
『それでは、いよいよ予選を勝ち抜いた選手達による、待ったなしの決勝戦の模様を――』
乙下はDVDプレイヤーの停止ボタンを押した。
ボタンを押す指は震えていた。
ボタンを押す指は震えていた。
「間違いない」
乙下はうなだれて、顔を手で覆う。
「やっぱりだ。やっぱり、俺の思った通りだったんだ……」
| 190 :トップランカー殺人事件(290) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/04(木) 00:11:29 ID:exwugHEb0 |
乙下は空気に電話をかけた。
「もしもーし」
「おう、空気。帰って休めって言ったばかりなのに、電話しちまって悪いな」
「いや、全然大丈夫っすけど。どうかしたんすか?」
「うん。一つだけ聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「おう、空気。帰って休めって言ったばかりなのに、電話しちまって悪いな」
「いや、全然大丈夫っすけど。どうかしたんすか?」
「うん。一つだけ聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「実は、1046とBOLCEのイーパスに記録されてたタイムテーブルのことなんだけど――」
| 191 :トップランカー殺人事件(291) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/04(木) 00:13:12 ID:exwugHEb0 |
乙下は杏子に電話をかけた。
しかし、杏子は電話に出ない。
一分ほど待ってみたが、むなしく呼び出し音が繰り返されるばかりだった。
しかし、杏子は電話に出ない。
一分ほど待ってみたが、むなしく呼び出し音が繰り返されるばかりだった。
無理もない。
きっと今は誰とも喋りたくないのだろう。
諦めて電話を切ろうとしたところで、
きっと今は誰とも喋りたくないのだろう。
諦めて電話を切ろうとしたところで、
「……もしもし」
杏子が出た。
「……杏子ちゃん?」
「……」
「杏子ちゃんだね?」
「……はい」
「お疲れのところ電話に出てくれてありがとう。
長くは時間とらせないから、どうしても教えてほしいことがあるんだ」
「……なん……ですか……」
「……」
「杏子ちゃんだね?」
「……はい」
「お疲れのところ電話に出てくれてありがとう。
長くは時間とらせないから、どうしても教えてほしいことがあるんだ」
「……なん……ですか……」
「実は、昨日の占いのことなんだけど――――」
| 192 :トップランカー殺人事件(292) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/04(木) 00:19:16 ID:exwugHEb0 |
乙下はゲームセンター・ABCに電話をかけた。
「お世話になります、ゲームセンター・ABCです!」
いつもの店員の声だ。
「あ、どうもお世話様。盛岡警察署の乙下ですけど……」
「おおお、刑事さん!日曜だってのに、まさか今日もお仕事ですか?」
「まぁね。でもそれはアンタも一緒じゃないか」
「あはは、そう言えばそうでした。それで?また何か聞きたいことでも?」
「おおお、刑事さん!日曜だってのに、まさか今日もお仕事ですか?」
「まぁね。でもそれはアンタも一緒じゃないか」
「あはは、そう言えばそうでした。それで?また何か聞きたいことでも?」
「実は、この前言ってた『プレイヤーの腕前が音で聞こえる』って話についてなんだけど――――」
| 193 :トップランカー殺人事件(293) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/04(木) 00:23:52 ID:exwugHEb0 |
乙下は店長と面会をした。
盛岡警察署内の留置所に勾留されている店長を、面会室に連れ出したのだ。
盛岡警察署内の留置所に勾留されている店長を、面会室に連れ出したのだ。
「何か用かい、刑事さん。
またわけの分からん手紙を書けってのかい?」
またわけの分からん手紙を書けってのかい?」
店長は気丈に振る舞っていたが、この数日で目に見えて痩せてしまっていた。
その姿を見るのが不憫で、少しだけ目のやり場に困ってしまう。
その姿を見るのが不憫で、少しだけ目のやり場に困ってしまう。
「その節はお世話になりました。でも、手紙はもう結構ですよ」
「じゃぁ何の用だよ」
「店長さんに聞きたいことがいくつかあるんです」
「事件のことなら洗いざらい喋ったつもりなんだがな。
それとも、また一から話せってのか?もうそろそろ勘弁してくれよ」
「いえ。事件について聞くことは、もう何もありません」
「なら、一体何を聞きたい?」
「じゃぁ何の用だよ」
「店長さんに聞きたいことがいくつかあるんです」
「事件のことなら洗いざらい喋ったつもりなんだがな。
それとも、また一から話せってのか?もうそろそろ勘弁してくれよ」
「いえ。事件について聞くことは、もう何もありません」
「なら、一体何を聞きたい?」
「実は、シルバーというゲームセンターについてなんですけど――――」
| 194 :トップランカー殺人事件(294) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/04(木) 00:35:03 ID:exwugHEb0 |
店長との面会を終えた乙下は、続いて1046を面会室に連れ出した。
鼻に巻かれた包帯が痛々しいが、それ以上に、目が完全に死んでいた。
鼻に巻かれた包帯が痛々しいが、それ以上に、目が完全に死んでいた。
「1046さん。鼻は痛むか?」
「……」
「ま、そりゃ痛まないわけないよな」
「……」
「……このままずっと何も喋らないつもり?」
「……」
「……」
「ま、そりゃ痛まないわけないよな」
「……」
「……このままずっと何も喋らないつもり?」
「……」
とりつく島もない。
空気の言ってた通り、沈黙を貫いている。
空気の言ってた通り、沈黙を貫いている。
「喋りたくないなら喋らなくてもいいよ。そのまま聞いてくれ」
乙下は潔く本題に入った。
「お願いだ。本当のことを話してくれ」
1046の目が揺れた。
「だいぶ回り道をしちまったけど、この事件の真相がようやく分かってきた。
あと一歩で全てが明るみに出るんだ。
そのためにはアンタの証言が必要なんだ。分かるか?」
「……」
「もう一人で抱え込まないでくれ。アンタは十分に苦しんだ。
もういいじゃないか。もう終わりにしよう、1046さん」
「……」
あと一歩で全てが明るみに出るんだ。
そのためにはアンタの証言が必要なんだ。分かるか?」
「……」
「もう一人で抱え込まないでくれ。アンタは十分に苦しんだ。
もういいじゃないか。もう終わりにしよう、1046さん」
「……」
「俺の推理が正しければ、BOLCEが死ぬことになった本当の理由は――――」
乙下は乙下が辿り着いた推理を語った。
今日の午前中にデラ部屋で語った推理とは、似ても似つかぬ推理を。
今日の午前中にデラ部屋で語った推理とは、似ても似つかぬ推理を。
話を進めるにつれ、1046は涙ぐんでいった。
痛ましいほどに下唇へ歯を突き立て、嗚咽を噛み殺そうと必死になっていたが、
やがて1046の涙腺から堰を切ったように涙が溢れた。
痛ましいほどに下唇へ歯を突き立て、嗚咽を噛み殺そうと必死になっていたが、
やがて1046の涙腺から堰を切ったように涙が溢れた。
「……乙下さん……」
その涙一粒一粒が、乙下の推理が間違っていないことを示す、何よりもの証拠だった。
「乙下さん、俺……。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」
乙下は1046をなだめた。
いいんだ。
こっちこそ、もっと早く気付いてあげられなくて申し訳なかった。
こっちこそ、もっと早く気付いてあげられなくて申し訳なかった。
ごめんな、1046さん。
| 195 :トップランカー殺人事件(295) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/04(木) 01:01:02 ID:exwugHEb0 |
何年ぶりだろう。
乙下は煙草を吸った。
1046への取り調べが一段落し、面会室を出た乙下は、ただ何となく気を紛らすためだけに、
黄ばんだビニールで仕切られたこの喫煙所へやって来て、
置きっぱなしになっていた誰かの煙草に、勝手に火を点けて吸った。
乙下は煙草を吸った。
1046への取り調べが一段落し、面会室を出た乙下は、ただ何となく気を紛らすためだけに、
黄ばんだビニールで仕切られたこの喫煙所へやって来て、
置きっぱなしになっていた誰かの煙草に、勝手に火を点けて吸った。
衰弱した脳の隅々にニコチンが行き渡り、気を失いそうになる。
気を失いそうになりながらも、乙下は記憶を辿った。
気を失いそうになりながらも、乙下は記憶を辿った。
あの時、空気は言った。
『これでIIDXロボット、名付けて"DJ AUTO"の完成!』と。
『これでIIDXロボット、名付けて"DJ AUTO"の完成!』と。
あの時、杏子は言った。
『今日の貴方のラッキーアイテムはポスターです』と。
『今日の貴方のラッキーアイテムはポスターです』と。
あの時、ABCの店員は言った。
『何かあった時のために、監視カメラの画角は電波時計が映り込むように調整してあるんです』と。
『何かあった時のために、監視カメラの画角は電波時計が映り込むように調整してあるんです』と。
あの時、店長は言った。
『何でだろうな。なぜかすぐ近くにヤツがいるような気がしたんだよ』と。
『何でだろうな。なぜかすぐ近くにヤツがいるような気がしたんだよ』と。
あの時、1046は言った。
『とりあえず俺の好きな曲を選びますね』と。
『とりあえず俺の好きな曲を選びますね』と。
そしてあの時、奇しくも乙下自身が言った。
『この事件の犯人は中学生、あるいは高校生。もしかしたらそのくらいの年齢かも知れない』と。
『この事件の犯人は中学生、あるいは高校生。もしかしたらそのくらいの年齢かも知れない』と。
ただ何気なく聞いていたそれぞれの言葉。
その本当の意味に気付いた時、全てが一本に繋がり、真実という名の糸が紡がれた。
その本当の意味に気付いた時、全てが一本に繋がり、真実という名の糸が紡がれた。
今すぐにでも、バラバラに切り裂いてしまいたい真実。
だが、乙下は知ってしまった。
もう二度と抜け出すことのできないぬかるみに、足を踏み入れてしまった。
だが、乙下は知ってしまった。
もう二度と抜け出すことのできないぬかるみに、足を踏み入れてしまった。
「なぁ。どうしてだよ」
乙下は壁に背をもたれ、そのままずり落ちるようにしゃがみ込み、誰にともなく問いかける。
「なぁ。教えてくれよ。なんでこんな悲しい事件が起きちまったんだよ……」
煙草の煙が目にしみて、乙下は目頭を押さえた。
| 213 :トップランカー殺人事件(296) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/07(日) 22:22:06 ID:gFOT7n1/0 |
乙下と空気は夕焼けに染まる小高い丘の上にいた。
盛岡市街を一望できるこの場所で、二人はしばし語り合った。
盛岡市街を一望できるこの場所で、二人はしばし語り合った。
「いい眺めだな、ここ」
「いい眺めっすけど、なーんか薄気味悪い場所っすねー。こんなとこで何するつもりっすか?」
「実は人が来ることになってるんだ」
「誰」
「真犯人」
「……はい?」
「事件の真犯人だよ。BOLCEを殺した真犯人を、この場所へ呼び出したんだ」
「いきなり何を言い出すんすか。事件の犯人は1046でしょ」
「いや、違う。1046は犯人じゃない」
「はああああ!?」
「この事件には黒幕がいたんだ。
その黒幕によって、1046は罠にはめられていただけだったんだ」
「うそぉ!?だって、1046を犯人だって断定したのはオトゲ先輩じゃないっすか」
「残念ながらそれは間違いだった。つまり、悔しいけど俺も罠にはめられてたんだよ」
「いやいやいや、そんなわけないっすよ。1046自身も罪を認めてたじゃないっすか。
『BOLCEを殺したのは俺だ』って自白してたじゃないっすか」
「それも罠だった。罠罠罠。全部罠だ」
「……」
「……」
「……何が何だか分からないっすよ。ちゃんと分かるように説明して下さいよ」
「いい眺めっすけど、なーんか薄気味悪い場所っすねー。こんなとこで何するつもりっすか?」
「実は人が来ることになってるんだ」
「誰」
「真犯人」
「……はい?」
「事件の真犯人だよ。BOLCEを殺した真犯人を、この場所へ呼び出したんだ」
「いきなり何を言い出すんすか。事件の犯人は1046でしょ」
「いや、違う。1046は犯人じゃない」
「はああああ!?」
「この事件には黒幕がいたんだ。
その黒幕によって、1046は罠にはめられていただけだったんだ」
「うそぉ!?だって、1046を犯人だって断定したのはオトゲ先輩じゃないっすか」
「残念ながらそれは間違いだった。つまり、悔しいけど俺も罠にはめられてたんだよ」
「いやいやいや、そんなわけないっすよ。1046自身も罪を認めてたじゃないっすか。
『BOLCEを殺したのは俺だ』って自白してたじゃないっすか」
「それも罠だった。罠罠罠。全部罠だ」
「……」
「……」
「……何が何だか分からないっすよ。ちゃんと分かるように説明して下さいよ」
「うん。最初におかしいと思い始めたのは今日、デラ部屋で1046を追い詰めてる最中だった。
今日の1046を見てて、どうも様子が変だと思わなかったか?」
「ずっと変でしたよ」
「いや、まぁそうなんだけど。俺が言いたいのは、
俺の推理に対して1046はいちいち『驚き過ぎ』じゃなかったか?ってこと」
「そうっすねぇ……確かに思い当たる節はありますね。
ボクが彼のポケットからイーパスを『盗んだ』時も、
『イチ・ゼロ・ヨン・ロク』の暗証番号でBOLCEのイーパスが認証された時も、
1046は尋常じゃないほど驚いてましたもんね」
「そうなんだ。でも、それって妙だよな。
もし自分で考えたトリックなら最初から知ってる話なんだから、あそこまで驚くはずないだろ」
「驚いたフリしてただけじゃないんすか?」
「それにしては本気で驚いてるように俺には見えた。
まるで、『初めてそのトリックを見た』ようにね。
ってことは、もしかして1046がそのトリックを見たのは、本当に初めてだったんじゃないか?
言い換えれば、俺の推理は間違っていたんじゃないか?そんな疑念が浮かんだ」
「でも、たったそれだけのことで先輩の推理が間違ってたとは、とても言い切れないっすよ」
「まぁな。カードリーダーから1046の指紋が出たのは事実だし、
1046が事件で使われた道具をホームセンターで買ったのも事実。
少なくとも1046が今回の事件に何らかの形で関与していることだけは確信していた。
だから俺は強気で1046を責めたんだよ。
俺の推理が正しいにせよ、そうでないにせよ、
あれだけ追い詰めれば1046は真実を語ってくれるはず。俺はそんな風に期待してた」
今日の1046を見てて、どうも様子が変だと思わなかったか?」
「ずっと変でしたよ」
「いや、まぁそうなんだけど。俺が言いたいのは、
俺の推理に対して1046はいちいち『驚き過ぎ』じゃなかったか?ってこと」
「そうっすねぇ……確かに思い当たる節はありますね。
ボクが彼のポケットからイーパスを『盗んだ』時も、
『イチ・ゼロ・ヨン・ロク』の暗証番号でBOLCEのイーパスが認証された時も、
1046は尋常じゃないほど驚いてましたもんね」
「そうなんだ。でも、それって妙だよな。
もし自分で考えたトリックなら最初から知ってる話なんだから、あそこまで驚くはずないだろ」
「驚いたフリしてただけじゃないんすか?」
「それにしては本気で驚いてるように俺には見えた。
まるで、『初めてそのトリックを見た』ようにね。
ってことは、もしかして1046がそのトリックを見たのは、本当に初めてだったんじゃないか?
言い換えれば、俺の推理は間違っていたんじゃないか?そんな疑念が浮かんだ」
「でも、たったそれだけのことで先輩の推理が間違ってたとは、とても言い切れないっすよ」
「まぁな。カードリーダーから1046の指紋が出たのは事実だし、
1046が事件で使われた道具をホームセンターで買ったのも事実。
少なくとも1046が今回の事件に何らかの形で関与していることだけは確信していた。
だから俺は強気で1046を責めたんだよ。
俺の推理が正しいにせよ、そうでないにせよ、
あれだけ追い詰めれば1046は真実を語ってくれるはず。俺はそんな風に期待してた」
「……でも、1046は何も喋らなかった」
「そう。1046は何も喋らなかった。
無茶苦茶な動機で『俺が犯人だ』と自供して、そのまま口を閉ざしてしまった。
な?どうもすっきりしないだろ?」
「うーん、言われてみればそんな気がしないでもないっすけど」
「だから俺は1046を逮捕した後も、ずっと引っ掛かりを感じていた。
この事件にはまだ何か裏があるんじゃないかと、考えを巡らせていた」
「それ、先輩の思い過ごしってことない?」
「だったら良かったんだけど。
困ったことに、俺の推理が間違っている決定的な証拠を見つけてしまった」
「何すか、証拠って」
「お前の持ってきたDVDあるだろ」
「DVDって、トップランカー決定戦のDVD?」
「そう、それ。あの中に重要な手掛かりが隠されてたんだよ」
「そう。1046は何も喋らなかった。
無茶苦茶な動機で『俺が犯人だ』と自供して、そのまま口を閉ざしてしまった。
な?どうもすっきりしないだろ?」
「うーん、言われてみればそんな気がしないでもないっすけど」
「だから俺は1046を逮捕した後も、ずっと引っ掛かりを感じていた。
この事件にはまだ何か裏があるんじゃないかと、考えを巡らせていた」
「それ、先輩の思い過ごしってことない?」
「だったら良かったんだけど。
困ったことに、俺の推理が間違っている決定的な証拠を見つけてしまった」
「何すか、証拠って」
「お前の持ってきたDVDあるだろ」
「DVDって、トップランカー決定戦のDVD?」
「そう、それ。あの中に重要な手掛かりが隠されてたんだよ」
| 214 :トップランカー殺人事件(297) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/03/07(日) 22:29:54 ID:gFOT7n1/0 |
「手掛かりも何も、あのDVDの中身ってもう四ヶ月くらい前に撮影されたものっすよ。
それが今回の事件に関係してるとは到底思えないんすけど」
「そう思うだろ。ところがだ、俺の推理と完全に矛盾する、重大な事実が記録されてたんだ」
「んー……何のことやら、想像もつかないっす」
「1046のフルコンボランプだよ」
「フルコンボ……?ランプ?」
「1046はあのDVDが撮影された3月の時点で、
☆1から☆11の全フォルダがフルコンボランプで埋め尽くされていた。
これが何を意味するか分かるか?」
「全然」
「よく思い出せよ。俺の当初の推理では、
1046はイーパスのすり替えをBOLCEに気付かれないようにするため、
AKIRA YAMAOKAコースHYPERの課題曲を全て0点に維持しておく必要があった」
「……あ!!!」
「もう分かっただろ。
『0点でフルコンボ』なんて、矛盾もいいとこだ。
もちろん前作までにフルコンボを達成していた旧曲なら、
今作で手をつけずにおけば0点フルコンボは成立する。
けど、五曲の中で『マチ子の唄』だけは新曲なんだ。
新曲である以上、0点を保ったままフルコンボランプを点けるのは不可能だ」
「ってことは、オトゲ先輩の推理は……」
「あぁ。完全に見当違いだったってことになる」
「そんな!先輩の推理が間違ってただなんて、信じられないっすよ。
それじゃ、1046は完全に無実だったってことになるんすか?」
「いや、完全に無実ではない。
ある意味では1046も罪を犯した人物の一人だと言える。
つまり、事件の一部は1046にも責任があるんだよ」
「どういうことっすか?」
それが今回の事件に関係してるとは到底思えないんすけど」
「そう思うだろ。ところがだ、俺の推理と完全に矛盾する、重大な事実が記録されてたんだ」
「んー……何のことやら、想像もつかないっす」
「1046のフルコンボランプだよ」
「フルコンボ……?ランプ?」
「1046はあのDVDが撮影された3月の時点で、
☆1から☆11の全フォルダがフルコンボランプで埋め尽くされていた。
これが何を意味するか分かるか?」
「全然」
「よく思い出せよ。俺の当初の推理では、
1046はイーパスのすり替えをBOLCEに気付かれないようにするため、
AKIRA YAMAOKAコースHYPERの課題曲を全て0点に維持しておく必要があった」
「……あ!!!」
「もう分かっただろ。
『0点でフルコンボ』なんて、矛盾もいいとこだ。
もちろん前作までにフルコンボを達成していた旧曲なら、
今作で手をつけずにおけば0点フルコンボは成立する。
けど、五曲の中で『マチ子の唄』だけは新曲なんだ。
新曲である以上、0点を保ったままフルコンボランプを点けるのは不可能だ」
「ってことは、オトゲ先輩の推理は……」
「あぁ。完全に見当違いだったってことになる」
「そんな!先輩の推理が間違ってただなんて、信じられないっすよ。
それじゃ、1046は完全に無実だったってことになるんすか?」
「いや、完全に無実ではない。
ある意味では1046も罪を犯した人物の一人だと言える。
つまり、事件の一部は1046にも責任があるんだよ」
「どういうことっすか?」
「結論を言おう。
1046はあの日、店長の息子を誘拐して、さらにシルバーの金庫から現金200万円を盗んだ。
しかし、1046が犯した罪はそこまで。
BOLCEを殺した犯人は、1046ではない」
「……BOLCEを殺した真犯人が、他に存在するってこと?」
「そうなる」
「オトゲ先輩には、もう真犯人の正体が分かってるんすか?」
「あぁ」
「教えて下さい先輩。この事件の真犯人は、一体誰なんすか?」
「それは……」
「それは……?」
「いいか。俺は今から信じられないような話をするぞ。
頼むから落ち着いて聞いてくれよな」
「……はい。分かりました」
1046はあの日、店長の息子を誘拐して、さらにシルバーの金庫から現金200万円を盗んだ。
しかし、1046が犯した罪はそこまで。
BOLCEを殺した犯人は、1046ではない」
「……BOLCEを殺した真犯人が、他に存在するってこと?」
「そうなる」
「オトゲ先輩には、もう真犯人の正体が分かってるんすか?」
「あぁ」
「教えて下さい先輩。この事件の真犯人は、一体誰なんすか?」
「それは……」
「それは……?」
「いいか。俺は今から信じられないような話をするぞ。
頼むから落ち着いて聞いてくれよな」
「……はい。分かりました」
「BOLCEを殺した真犯人の正体は――――――――――――――――――――――――――――――