アットウィキロゴ
創作小説with音ゲー  臨時まとめWiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

創作小説with音ゲー  臨時まとめWiki

carnival (re-construction ver) Last Phase -day break- St.8

最終更新:

beatnovel

- view
管理者のみ編集可
4 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 15:57:35 ID:E7A4fxlJ0
 これから、まだ明かしていなかった謎を解き明かしていこう。
形式としては以前のように、ユールとの対話を通じて明かしていく。



 そういえば、カーニバル事件の後、ダロールはどうしたのだろう。
私は気になってユールにそれを尋ねてみた。

「ダロール? 彼なら……もうこの世にはいないよ」
「死んだのか」
「うん。もしクロイスが彼の事が好きだったのなら、ごめんね」
「いいや、悪い印象は抱いていないが……
 大丈夫だ。あの人が死んでも、私はどうもこうもしない。
 それで……彼はどのように死んだ? お前と戦ってか?」
「大体はそうね」
「ちょっと待て、お前『大体は』ってどういう意味だ」
「私が戦って殺したのは、ダロールにとりついていた闇なの。
『全てを回帰に導くもの』という名前が付いてる、そんなやつ」
「じゃあお前はダロールを殺していないと?」
「そう。だけど、間接的に私も関わっている。
 私の葬式が昨年末に行われたでしょ? その時に灰が投げられたけど……」
「そうか、その灰は……」
「うん。ダロールのものなんだ」

 これで、ダロールは今どうしているのかが分かった。
彼はもう死んでいるし、ユールの葬式の時に灰は撒かれた。昇天している事を願う。

5 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 16:09:21 ID:E7A4fxlJ0
 次に気になった事があった。
ユールと彼女の友人達は、ダロールが率いた四体の機動兵器と
戦ったことは知っているし、なぜ勝てたのかも分かった。
しかし、どうも釈然としない部分がある。今度はそれをユールに尋ねてみた。

「え? なんで私達がカーニバル事件の戦闘で勝てたかって?」
「データから推測する限り、お前たちに与えられた装備が
 かなりの高性能を発揮するものだったから……と思わざるを得ないのだが」
「あぁ、そうかもしれない。でも、その装備だけで戦ったわけじゃないわ」
「分かった。お前は心の光の力で戦ったんだな?」
「そうそう。蠍を相手にした時は、私の体は乗っ取られたんだけど……」
「乗っ取られた? どういう意味だ」
「あぁ、ごめん。分からないよね。
 その意味はね、ちょっと危ないから離れてて」

 ユールに言われた通り、私は立ち上がって数歩後ろに下がった。
何が起きるのだろうかと思いながら、ユールの動作を注視する。
 ユールは自分の右手を首の方へともっていった。
私はその時に初めて、ユールがネックレスを付けているのを見た。
少女にはふさわしくなさそうな、しかしユールだからこそ似合う、剣のネックレス。
それをユールは、思い切り引きちぎった。そして、目を疑う現象が……

「な、んな馬鹿な……」
「この剣の名前はマキナ。私に与えられた最初の武器ね」
「ネックレスが、大剣になっただと?」
「うん、まぁその……危ないって言ったのはこの事なんだ」
「それは十分分かった。でだ、乗っ取られたってどういう意味なんだ」
「マキナが私の体を乗っ取ったんだよ。この剣にはそんな力がある。ねぇ、マキナ?」

 ユールはまるで大剣に人格が存在するかのようにそう言った。
この発言はそう考えなければ、そうとしか思えないのである。
私は何か嫌な予感がした。もしかするとこの剣は喋るのではないか……?

6 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 16:28:28 ID:E7A4fxlJ0
『うん……あの時は状況が状況だった。すまない事をしたね』

 喋った。予感は的中してしまった。

「な、な……!?」
「驚くのは無理もないと思うけど、マキナは喋る事が出来るんだ」
「……もう、なんでもありだな、お前は……」
『すまないね、お客さん。僕の名前はマキナ。
 この名前はユールにつけてもらったものだ。
 本当の名前はゆう。松木ゆうだ。ところで、君の名前は?』

 私の耳は、剣が本当の名を告げた所で機能を失っていた。
マツキ。千年前から名が伝わっている有名人。
オグレの名を知らしめる手伝いをした名前。

「……マツキ、だって?」
『そうだよ。で、君の名前は?』
「おいおいおい、まさかそんな馬鹿な話があるわけないだろう……」
『馬鹿な話じゃないよ。で、君の名前は?』
「……私の名前? 名はまだ伝える事が出来ない。姓だけ教える。クロイスだ」
『クロイス君か。はじめまして……っても、握手は出来ないね、この姿じゃ』

 あはは、と笑ったマツキと名乗った大剣は、とても楽しそうであった。
その外見では判別する事はほぼ不可能だったのだが、声の調子はそうだった。

『僕の事はゆうって呼んで欲しい。マツキじゃあ……他人行儀っていうかね』
「そうか。なら、ゆう。もし仮に私の名前を知っていたとしてもだ。
 私の事はクロイスと呼んで欲しい。まだ、名前で呼ばれたくない」
『オーケイ。じゃあ早速、君の知りたいことを教えよう。
 どうしてユール達が勝利できたか。それは……ユールのおかげさ』
「そうなのか」
『うん。他の四人もかなり頑張ったんだよ。
 でも最後の敵にはユールが立ち向かわなくてはならなかった』
「闇にとりつかれた、ダロール・フェニルのことか」
『そうそう。勘が良いねぇ。
 それで……まぁ、例えとしてはだ。
 今のIIDXの最後のボス曲って知ってる?』
「現行のバージョンは 13 DISTORTED だよな。だから……嘆きの樹とか言ったか?」
『そうそう。それのアナザ―譜面、見たことある?』
「あぁ。前作の冥とは違った路線の難しさなのだなとは感じた」

7 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 16:37:44 ID:E7A4fxlJ0
『まぁ嘆きでも冥でも蠍火でもワンモアでも何でもいいんだけどさ。
 とにかくそれをAAAとってクリアーしろったら出来る?』
「何の難易度でだ。私の場合、それによるぞ」
『勿論、アナザ―譜面でだよ』
「……そんなの、ランカー並みの実力がないと出来るわけがないだろ」
『でしょ? つまりはそういう事なんだ』
「何が」
『最後の敵に立ち向かうのは、ユールでないと駄目なんだって話』
「……あぁ、そういう事なんだな? 分かった。よく分かった」
『流石音ゲーマー。こういう例え話はよく分かってくれる』
「いまやこの時代の殆どの人間が音ゲーマーだ。
 どれだけやりこんでるかの程度も表れるが……ゆうは良い時代だと思うか?」
『千年後がこんな世界だと知っていたら、体を冷凍保存しておきたかった。
 それで3000年のミレニアムを、体を解凍してここで過ごしたかった……』
「だけどそれは無理だった。千年前の戦いで死んでしまったからだ」
『そうだね……でも、ここで今を過ごせるというだけでも幸せさ』

 えへへ、とゆうは笑った。表情はないから読み取る事が出来ない。

『ところで』

 ゆうが話題を変えた。

『確か君の友達に、オグレの血筋の人がいなかったかい?』
「オグレ……?」
『あ、大丈夫だよ、言っても。その人には何の危害は無いから』
「そうか。なら喋ろう。
 オグレの血筋を継いでるっていう後輩がいる。
 アヤノっていう名前でな。多分もう、お前たちなら知っているとは思うのだが」
『アヤノっていうんだ。この時代に彼の子孫がいるらしいという事は聞いていたし
 なにより昨年の事件を調べている、ということは分かっていたからね。
 だけど名前だけは分からなかったんだ。
 彼は僕の友人だからね。その……アヤノちゃんにも、挨拶はしたかった』
「なら、私が向こうに帰ったら、お前がよろしくって言っていた、とでも言っておこうか?」
『ありがとう。で、やっぱり彼女も探偵なの?』
「そうだ。アヤノにあの事件の調査を依頼したのは私だからな……」
『そうかぁ、分かった。僕は色々考えたい事があるし、ちょっと黙ってるよ』

8 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 16:50:18 ID:E7A4fxlJ0
 それからは、ゆうは口を閉じた。
口なんてないのだが、表現する上ではそう書く事しか出来ない。

「ところでユール」
「なに?」
「一体お前はどうやって生活を成り立たせている?」

 ふっと思いついた質問がこれだった。
女の子を相手にこんな話をするのはこれが初めてだ。

「ここで色々やってるよ」

 ひどく曖昧な答えだった。

「……色々とは?」
「色々は色々だよ」
「例えば? 何が挙げられる?」
「……え? あぁそうか、そういうことね。
 カーニバル事件の後、WSFが私の光の力に目を付けたの。
 さっきも言ったけどこの力は、円環が生み出したと言い換えてみてもいいのね。
 天文学的な数の並行世界を支える、そんな存在が生み出した力……
 ねぇクロイス、そんなものがあれば使ってみたいと思わない?」
「思わないな。身の程に似合わない力なんて持ったら、自分が死ぬ」
「クロイスならそう言うと思った。
 ……あの事件の後、WSFは私にここに住むように言ったの」
「機密保持のためだろうな。それと、お前の持っている力の分析もしたいだろう」
「そうなんだよね。それで……私は彼らの指示に従った。
 とりあえずはここに住み続ける事になってる。
 この家には隠し通路があるんだ。そこを通ってターミナルタワーの深い所に行くの。
 んで私は、表向きはこの家を買ってカーニバルに住んでる人ってことになってる」
「賢明だとは思う。そういうことにしたのなら、
 私みたいに突っかかる人間がいない限りは大丈夫だろう」
「実際そうだから助かってる。そうだ、私の家の表札を見た?」
「表札? そんなのあったか?」
「あったあった。今の私の名前は『ナターレ』っていうの。
 知り合った人やその場で話をした人には、そのナターレって名前で呼ばせているの」
「そうなのか……待てよ、ちょっと待ってくれ」

 何かが変だった。ユールの発言のどこに違和感を感じたのだろうか……

9 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 17:01:50 ID:E7A4fxlJ0
 その答えは簡単に浮かんだ。
この子は本当に大丈夫なのかと心配になりそうな、そんな答えだ。

「知り合った人やその場で話をした人、か」
「うん」
「どうしてお前は外を自由に出歩ける?
 この家には秘密連絡通路があり、ターミナルタワー深部へのアクセスは容易だろう?
 何で外を歩く? 外を出歩かれちゃ、奴らが黙っちゃいないだろう」
「だから偽名を使うのよ。今の髪は白いし、誰も分からないって。
 んで……私の髪は、一年前は黒色だった。良い髪だねって、クーリーは言ってくれた」
「そうなのか?」
「黒色って言っても、なんか烏みたいな色なのね。
 だから小さい頃に『カラス』ってあだ名なんかつけられちゃって……
 でもクーリーは、それを気にしている私に言ったの」
「何を言ったんだ?」
「『すっごく良い髪だと思う。僕なんか見てよ、金髪だよ金髪。あり得ないよ、ホント』」
「……無い物ねだりってやつだな」
「クロイスはそう思うかもしれないけど……
 私はそうは思えないんだ。だって、クーリーは良い人だもん」
「根元から良い奴なんて、ファンタジーの世界にしかいないと言いきかされて育ったんだが」
「誰に?」
「母親に。もう死んだが」
「そうなの……でも、クロイスのお母さんは勘違いしてると思う」
「何を?」
「確かに、根元から良い人なんていないよ。クーリーだってそうなんだもん。
 でも、良い人であるために根元からそうでなくてもいいと思うの。
 その人が良い事をすれば、そして行動を受けた人が感謝して良い人だと思えばそれでいいのよ」
「それもそうだな……」

 私はユールの言葉を聞き、心からそう思った。
私の母は妙にシビアな人だった。何事をも疑ってかかり、確信を持つまで用心する……そんな人だった。
そんな母の背中を見て育ったのだ、私も何か、妙に凝り固まった所があったのかもしれない。
ちなみに、父の背中を見て育った覚えはない。毎日が出張だったような気がする。

10 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 17:10:13 ID:E7A4fxlJ0
 ユールとそんな話をして、その場は盛り下がることなく、上手く話が続いていた。
彼女と話をしていると、なにか落ち着くような気がするのだ。
それは光の力によるものなのか、
それともユール自身が持ち合わせている何かなのかは分からない。

「ところでクロイス」
「どうした」
「クロイスは人間の心の要素で、どれが重要だと思ってる?」
「心の要素というと、喜怒哀楽の事か?」
「そうそれ。どう思ってる?」

 変な質問だと思った。
流石にそれを口にするのはまずいから、ちゃんと答えを用意する。

「喜と、楽」
「どうして?」
「私は……人間は、ポジティブな思考をしていた方がいいと思っている。
 あぁ、ネガティブなそれが不必要だとは言わない。何事もバランスが大事だから」
「そうかもしれない。でも私は怒と哀を選ぶ」
「何故だ」
「怒りと哀しみがなければ、人は進歩しない。
 確かにポジティブな思考や感情も必要よ。でも、人は反省と後悔をすべきだと思うの」
「反省と後悔か。それって、あれに似ているな」
「あれって?」
「WOS設立者のモンド・スミスの言葉だ。
『成長は猛省と共に訪れる。人は罪を犯し、それを償おうとする過程でのみ成長する』ってやつだ」
「あぁ……それ、それは……」

 ユールの表情が暗くなっていく。
明るめのそれだったものが、どうしてそうなっていくのだろう。

「どうした?」
「ちょっと……一年前を思い出して……」
「一年前? カーニバル事件の事か」
「うん……だめだなぁ私」
「どうしたんだ、いきなり」
「クロイスとクーリーを重ねて見てしまうの。いくら否定しても、駄目なの」
「私と、ジェームズが似ていると?」
「うん。結構似ているとは思うよ」

 それに対して私はただ一言、そうか、としか返せなかった。
芸のない奴だと心の内で自嘲しつつ、私はある事を聞いてみた。

11 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 17:23:33 ID:E7A4fxlJ0
「成長は猛省と共に訪れるって言うが……
 私はジェームズのように、いつも他人の事を考えられるような人間じゃない。
 ここに来る前に彼と話をした事がある。
 その時の彼の印象も良かった。いつもお前の心配をしていた」
「そうなの?」
「あぁ。それで、ユール。
 彼から一つ興味深い話を聞いたんだ」
「え、なに?」
「一年前にジェームズは撃墜されている。
 正確に言うと機体のコントロールが取れなくなって
 ゆっくりと落下していったそうだ。
 地面に機体が触れたら、大爆発を起こして死ぬ……そんな状況だったらしい。
 ……って、お前はもう分かっているか」
「うん、まぁ……当事者だし」
「その時にジェームズはお前と二人で話をしたそうだな?
 この会話の内容を彼は教えてくれた」
「あの、あの話を?」

 ユールの表情に、少しだけ焦りの色が見て取れた。
私はそれをしっかり確認して、ユールの目を見つめて言う。

「実はジェームズ、幼い頃に大きな罪を犯した、と言っている。
 小学校の低学年だかの話で、クラスメイトにラブレターを代理で渡すよう頼まれたそうだ。
 だが、ジェームズは……今となっちゃ珍しい紙の手紙をだな、処分してしまった。
 別にそのクラスメイトが嫌いだったって話じゃない。
 そいつが好きだった女の子が問題だったんだ」
「……」
「その女の子こそが、ユール、お前だ……っていう話を教えてくれた。
 この時にジェームズは相当な後悔をしたらしい。
 クラスメートに『ダメだった』とウソの報告をして、
 その時に返された言葉が、彼が後悔する事のトリガーになったそうだ」
「……それって?」
「『分かった。じゃあ、一番彼女に近いのは君だから、君は彼女と仲良くしてくれ』だと。
 とても小学生が吐けるセリフとは思えないが、こんな感じの事を言ったらしい。
 この時にジェームズは、不確かながらもクラスメートは
 自分が何をやったのかを知ってたのではないかと思ったらしい。
 そこで強烈な自己嫌悪に陥り……猛省と共に成長が訪れたってわけだ」
「やっぱり、そのまんまだった。あの時、クーリーが話してくれた事と同じだ……」

 ユールはそう言って、少しだけ目に涙をためたように見えた。
しかしそれは、まるで見間違えたかのように姿を失せ、そしてユールは口を開いた。

12 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 17:47:13 ID:E7A4fxlJ0
「同じ事を、同じ状況で言われた事があるの。
 その時……私は怒らなかった。
 怒れなかったのか、そうしなかったのかは分からないけど
 問題はそれじゃない。そこが問題じゃないの」

 ユールはそこで言葉を切った。
何かを言いたそうに私の目を見つめる。
言いたい事は自分で分かってる。だけど、上手くまとめられない。
私を見つめる目を見た印象は、そんな感じだった。
同時に、ユールの眼は、見ていて悲しくなってくるものがあった。

「私は……何でこんな時にそんな事を言うの?って思ったの。
 もっと別の言葉があったはずなのに、なのに……
 そうはならなかったけど、私がそれを聞いて傷つくかもって、思わない?」
「考えられなくはないな」
「クーリーは人を傷つける事は言わないって思ってた。
 でもあれは、クーリーらしさがなかった。あれはクーリーじゃないと思った。
 けど……あれもクーリーなんだって、今は思う」
「……そうか」
「クーリーは良い人なの。私から見て、善を体現している人なの。
 けれど全てが良い人なんていない。
 あの時のクーリーの言葉をこの耳で聞いて、それを確信できた。
 だから……出来る事ならクーリーに一言だけ、言いたいんだ」
「何て?」
「うん……『今までありがとう』って。それだけを言いたいのに……」

 そこでユールの言葉は止まった。
ここから何と続けるかは彼女の口次第なのだが、
その先の言葉は容易に推測できる。恐らくは「どうして言えないの?」だろう。

 ジェームズが生きている事を何らかのルートで知ったユールは
一言のメッセージだけでも伝えたいのに、伝えられない。
その理由は、ユールが既に死亡扱いされていているために
外出に制限が掛けられているからだ。
ナターレなんて偽名を使っても、その効果は万能ではない。
 これはユールがジェームズに会いに行くという前提での話であり、
それが駄目ならジェームズがユールの住む所、
即ちカーニバルを訪れればよい話かと思われるが、それも実現は不可能に近い。
 私は一月に、ジェイと名乗ったジェームズと会った。
この時の彼の目的は、当時の私と同じだったと思われる。即ち『ユールの救出』である。
しかし残念なことに、彼の様子からして、彼はこの目的を達成できなかったものと思われる。

13 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 17:57:00 ID:E7A4fxlJ0
 それからジェームズは何度となくカーニバルに足を運んで
ユールに会おうとしたに違いない。だがそれは何度も失敗したはずだ。
 何故なら、彼の視界は今もモニタリングされているからだ。
ジェームズの視界を通じてWSFカーニバル支部の連中は彼の接近を悟り、
ユールに外出を禁止させたり、彼女に秘密通路を使わせて
自分達の基地に来るように言う事が出来る。
 これに対してユールは断る事が出来ない。
なぜなら彼女はカーニバル事件の真相を知っているどころか、
それの当事者の中の当事者というどころか、この世界の破滅を阻止した人物だからだ。
その人物の中に私も入るのだろうが、それは置いておこう。
 とにかくユールは知りすぎた。
よって彼女の存在はWOSやWSFの管理下に置かれなければならない。
そうでないと、世界中に真実がばらまかれるかもしれないからだ。
 それにユールがカーニバルにいることを条件に
WOSやWSFに絶大な圧力をかけることが出来るようになったのかもしれない。
殺されるべきユールの友人達の命がまだある事と
私が殺されずにいる事は、ユールがカーニバルに縛り付けられているおかげなのかもしれない。

「……すまない。そして、ありがとう」
「え、どうしたの?」
「考え事をしていたんだ。お前がここにいるおかげで
 私は殺される事はなかったんじゃなかったかと。
 そして、お前の友人達が生きてるのも、お前のおかげなんじゃないかと……」
「……うん、そうだね……」
「やはりそうか。なら、もう一度言わせてくれ……ありがとう」
「返事に困るような事、言わないで……」

 ユールはそう返し、そして少しだけ微笑んだような気がした。
私はその顔を見て、つられて笑ってしまった。

「そうだ、言う事を忘れていたよ、ごめんごめん」

 ユールは表情をそのままにして私に語りかけた。
何を? と尋ねる私に、彼女はこう言った。

14 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 18:09:10 ID:E7A4fxlJ0
「クロイスは、最近自分でやってることが
 自分でやっていないような気がしたり、 勘が外れたりしたってこと、無い?」

 そんな事だった。
確かに思い当たる節はいくらでもある。
例えば、アヤノとルークと共にジュデッカにいた時の事で
変な笑いを浮かべてしまった事がある。
そして、アヤノの身の危険を勘で感じて
カーニバルに行った時も、結局彼女に危害は加えられなかった。
 私はその事をユールに話した。
ユールはうーんと唸り、口を開きたくなさそうな表情を浮かべ、言った。

「ごめんクロイス。大事な事を言うのを忘れていた」
「だから、それは何だ?」
「クロイスの頭の中には『勘』が埋め込まれている。
 でもこれ、WSFが設計したそれは、もう一つ役割があったんだ」
「もう一つの、役割……?」
「……人を遠隔操作する技術の開発。
 WSFは極秘の中の極秘でその技術を、クロイスの『勘』に埋め込んだの」
「な、何だと?」
「被験者が自覚できるって事は、もうあの技術は失敗って事。
 でもクロイスだって無意識のうちに、何かやっていたかもしれない」
 自分の意思で動いていたのは、実は……ってことよ。
 ……なんてね。あれ、クロイス? おーい」

 私の頭は止まっていた。
今までやってきた事は自分の意志ではなく、
他人の意志で動かされたかもしれないと聞かされた。
言い換えるなら、何か……例えば、RPGの主人公を操作するのはプレイヤーだ。
主人公が私で、操作するのがWSFの連中。
そんな馬鹿な。あり得ない。あり得てたまるものか。

15 :carnival (re-construction ver) Last Phase -day break-:2010/05/29(土) 18:21:57 ID:E7A4fxlJ0
「まぁでも、実際に操られたのは三回までらしいよ」
「……三回?」
「うん。一つはクロイスが初めてルセに会った時。
 もう一つはあなたの協力者がカーニバルに潜入した時なんだって。
 そして最後は……クロイスが私を見て、何か変だと思わせた時らしいよ」
「……それは本当か」
「うん。だって、クロイスを操ってた人たちから聞いたんだもん、間違いないよ」

 それを聞いて、私はとてつもない不安から解放された。
いや、完全に解放された訳ではない。
カーニバル事件を調べるきっかけになったあの違和感が
操られて感じていただけだったとしても。
それから後の行動は、彼らに操られていたという訳ではない。
つまり、大体ながら私は私の意志で行動出来ていた、ということになる。

「よかった……」
「え?」
「棺桶に入っているお前を見て、違和感を感じたんだ。
 まぁ操られてっていうのはショックだがな。
 だけど、色々な協力があって、ここまでやれたんだ。
 それが全て偽物だった、何て言ったら……」
「……そうだね。よし、それじゃ遊びに行こう!」
「……そうだな。よし、それじゃ遊びに……って、どうしたんだ、いきなり」

 ユールの発言の意味が分からなかった。どうしてそこからこんな言葉が出る?

「こういう気分の時は遊びに行くのが一番だよ」
「それはそうかもしれないが、お前、いつもそんな感じなのか?」
「そうだよ。だって、誰も私を見て『君、死んだユールって子に似てるねぇ』何て言わないから。
 いつだったか同じような事を言ったと思うんだけど、聞いてた?」
「……責任はとれないぞ」
「大丈夫。いつも私も気づかない所で、なんか特殊部隊みたいな人が
 監視と私の正体に気づいた人を捕まえてから
 該当する記憶だけを消去するみたいだから。あれ、言わなかったっけ?」
「言ってないぞ……全く、恐ろしいな。お前を敵に回しても仕方がない、行くか」

 私はそう言い、ユールの後に続いて家を出た。
その頃の時刻は既に13:20を過ぎていた。時間を忘れて、誰かと語り明かしたのは久しぶりだった。





コメント

名前:
コメント:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー